此処はホテル・アグスタから少し離れた森の中、其処で一人の不死者が消滅した。
 名はカシェル、かつて管理局陸士部隊に所属していた局員でありスバルとティアナの同期でもある。
 その同期を討ったのはヴィータ、スバル達が所属しているスターズ部隊の副隊長である。

 今現場は静まり返っていた、カシェルは討つ事でしか助ける方法が無かった。
 しかし…だからといって許される事では無い、スバルはきっと自分に対し憎しみに満ちた瞳で睨んでいるだろう…
 ヴィータはそう思いつつもスバルの身を案じ様子を伺おうとスバルに目を向けた。
 …スバルは一点を見据え茫然自失と化していた、そんなスバルに対し肩に優しく手を当てているティアナの姿もあった。
 二人の様子を見たヴィータは目をそらすとグラーフアイゼンを堅く握りしめ苦い顔を醸し出す、すると其処にザフィーラが姿を現した。

 ザフィーラは先程までエリオ達の護衛を行っていた。
 すると其処にエリオ達のもとへ向かっていたシャマルが現れ、シャマルは早速二人の治療を開始、
 それを見届けたザフィーラはこの場をシャマルに任せ、自分はヴィータとともにレザードのもとへ向かおうと此処へ来たと話す。
 その話を聞いたヴィータは一つ頷くと、ティアナにスバルの事を任せ二人はアグスタへと向かったのであった。


                    リリカルプロファイル
                     第十六話 狂騒劇


 此処はホテル・アグスタの上空、レザードのモニターには各隊員達がレザードのもとへ向かっている姿が映し出されていた。

 「やはり…あの程度の不死者では足止めにはならないか……」

 予め予測は出来ていた、元々あの不死者は足止めに使うのには力不足である、むしろ不死者の“存在”こそが足止めに重要であった。
 だが…まさかあの様な“演出”が生まれるとは…レザードは眼鏡に手を当て笑みを浮かべていると、左前方からシグナムが姿を現した。
 次に右前方からヴィータが、そして後方からいつの間にか回り込んでいたザフィーラが地上から浮かび上がるように現れ、
 少し間を置いて、なのはとフェイトが前方正面より姿を現した。
 なのはは依然として俯いたままで、その光景を見たレザードは眼鏡に手を当て笑みを浮かべるとモニターを閉じ話し始めた。

 「フフッ…どうでしたか?私の考えた“劇”は……」
 「“劇”ですって!?」

 フェイトの言葉にレザードは「えぇ」と一言口にし頷くと“劇”の説明を始める。
 本来であればもっと強力な不死者による足止めを行うことが出来たのだが、それでは面白く無いと考えた。
 其処でレザードは最近造った不死者の中に管理局員を材料にした不死者がいた事を思い出し、それを使った足止めを考案したと語る。

 何故彼等を起用したかと言うと、一度不死者化した人間は二度と戻ることは出来ない、そして救う為にはその者を消滅させなければならない。
 それはつまり不死者化した管理局員を、同じ管理局員の手によって殺す事を指し示す。
 そうなればその時に醸し出されるであろう悲痛な表情も見られる為、彼等を起用し足止めを“劇”と称したと語った。

 「結末は知っての通り……とても素晴らしい“劇”となったでしょう?」

 そう言うと眼鏡に手を当て笑みを浮かべるレザード、その言葉にフェイトは一歩前に出ようとするが、なのはに肩を掴まれ止められる。
 するとなのはは今まで俯いていた顔を上げると、その瞳には悲しみの色が滲んでいた。
 そして今まで沈黙を守っていたなのはの口が開き、静かに囁くようにレザードに問いかけた。

 「アナタは……」
 「ん?」
 「アナタはこんな“劇”を私達に見せる為に、彼らにあんな惨い事をしたの?」
 「そうだ」
 「私達の悲痛な表情が見れる…それだけの為に何人もの一般人や管理局員を犠牲にしたというの?」
 「その通りだ」
 「くっ!アナタって人は!!」

 なのはの問いかけに笑みを浮かべ即答するレザード、その態度にフェイトが一言悪態をつく。
 フェイトは産まれが“特殊”な為、人一倍命に対し強い想いを持っている。
 それ故に命を冒涜するレザードの言動や行動に対し怒り心頭の想いであった。
 だがレザードはフェイトの悪態をさらりと受け流すと更に話を続ける。

 「もっとも…今回の“劇”は演者の“アドリブ”があってこその完成度とも言えますがね……」

 その言葉に周りが疑問を感じていると、レザードは話の説明を始める。
 本来の“劇”の内容とは不死者化した“ただ”の管理局員と六課の対決であったのだが、
 材料にした管理局員の中に六課と関わりがある人物が存在していたというのは、レザードにとっても予想外の出来事であったと。
 つまり今回の“劇”はレザードが考えたシナリオとは異なる内容、つまりは“アドリブ”が含まれていたと語る。

 「まぁ、良い“劇”というのは“アドリブ”が栄えてこそ…とも言えますがね」

 そう言うと高笑いを上げるレザード、するとなのはは目を瞑り大きく息を吐く。
 そして目を開くと、そこにはいつも笑顔が絶えないなのはの顔からは想像も出来ない、怒りの表情を現していた。
 そしてその瞳には静かに…だが激しい怒りを宿しレザードを睨みつけこう告げた。

 「レザード・ヴァレス…アナタを逮捕します!!」

 その言葉とともになのははデバイスをレザードに向け構えると、次々と構えるメンバー達。
 するとレザードの腰につけたナイフが輝き出し魔導書へと変化すると左手に収まる。
 そして辺りを見渡すと、こう述べた。

 「やはりこうなりましたか…まぁ予測していた事ですし、第一幕を開始しましょう……」

 そう言って眼鏡に手を当て対峙するレザード、その中まず最初に動いたのはシグナム。
 シグナムは一気に間合いを詰めるとカートリッジを一つ消費し紫電一閃を放つが、
 右手に五亡星を中心とした円陣で構成されたシールド型ガードレインフォースを展開され一撃を防がれる。

 「どうしました?まさかこの程度ではないでしょう」
 「なにを!!」

 レザードに挑発され更に力を込めるも、一向に砕ける様子のないシールド、むしろシールドを介してレザードは魔力による衝撃波を撃ち出すとシグナムは吹き飛ばされた。
 そしてレザードはシールドを解除するとクールダンセルを唱え、レザードの前には精霊を模した氷の人形が現れる。
 氷の人形の手には氷の刃が握られておりシグナムに切りかかるが、
 未だ刀身が燃え続けているレヴァンティンによって切り払われた。

 一方レザードの後方ではフェイトが見上げる形で位置に付くとハーケンセイバーを撃ち出す。
 ハーケンセイバーは弧を描きながら標的であるレザードに向かっていった。
 だがレザードはリフレクトソーサリーを展開させ、ハーケンセイバーをフェイトに向け跳ね返した。

 「そんなっ!何故!」
 「甘いですね、私が使えないとでも?」

 そう言って目だけを向け見下ろす形で応えるレザード、その表情に苛つくもフェイトは跳ね返されたハーケンセイバーを迎撃した。

 その間にレザードの頭上で待機していたヴィータがラテーケンハンマーの推進力を利用した振り下ろしが襲いかかる、だがそれすらもシールドで防がれてしまった。

 「野郎!砕けやがれ!!」
 「その割には一歩も動いていませんね」

 レザードはヴィータを挑発するとヴィータは歯を噛み絞めカートリッジを消費する。
 それを見たレザードは足元に五亡星を描くとその場から消え去る。
 場にはヴィータの一撃が虚しく空を切る音が響いた。

 「転送魔法だと!?野郎!何処に!!」
 「……っ!ヴィータ!上だ!!」

 シグナムの呼びかけにヴィータは上を見上げるとレザードが右手をかざしている姿があった。
 レザードはファイアランスを唱えると二つの炎がヴィータに向かって襲いかかる。
 だが、ヴィータの前にザフィーラが立ちふさがると障壁を展開させ、ファイアランスを弾いた。

 「ほう……ならばこれはどうでしょう?イグニートジャベリン」

 そう唱えるとレザードの周りに光の槍が五つ姿を現れ、一本ずつ撃ち出した。
 まずは一本目、イグニートジャベリンは容易くザフィーラの障壁に突き刺さると亀裂が生じた。
 続いて二本目、これも同様に突き刺さり亀裂が生じると先程の亀裂と繋がり障壁全体的に走る。
 このままではマズいとザフィーラが考えていると、なのはから念話が届きヴィータと目を合わせ頷く。
 そして三本目を撃ち出すとザフィーラの障壁を容易く打ち砕いた。
 だが障壁が砕けた瞬間、ヴィータとザフィーラは左右に展開し中央からなのはのディバインバスターがレザードに向かって延びていった。
 レザードは残りのイグニートジャベリンを撃ち出すがディバインバスターの勢いにより弾かれてしまう。
 すると今度はシールドを展開させ、ディバインバスターを受け止めたのであった。

 「なのはのディバインバスターを受け止めやがった!?」
 「やるな…あの男」

 ヴィータは驚きザフィーラはレザードの実力を認める中、なのはは今までの戦況を見るやロングアーチと連絡を取った。

 「どないした?なのは」
 「はやてちゃんお願い!能力リミッターの解除を承認して!!」
 「なんやて!?」

 なのはの言葉に思わず椅子から飛び上がるはやて。
 なのはの見立てではレザードはSランクの実力者、リミッターがかかっている自分達では歯が立たないと語る。
 しかしはやては顎に手を当て考え込んでいた、そんなはやての態度になのははダメ押しとも言える言葉を放つ。

 「今!この場でアイツを捕まえなきゃもっと被害者が増える!私や…スバルみたいな思いを受ける人が大勢出てくる!!
  それだけは……なんとしても防がなくっちゃ!!!」

 なのはが放ったその言葉は、はやての心に深く響き頷くと意を決した。

 「わかった、せやけど120分や、それ以上はアカン!えぇな」
 「はやてちゃん!……120分もあれば十分だよ!!」

 そう言って連絡を切るなのは、はやては椅子に座るなり一つ溜め息を吐くと机に肘を置き手を組むと考え込んでいた。

 これは危険な賭である、何故ならこの先起きるであろう“未曾有の災厄”の事を考えれば、今此処で切り札である能力リミッターを解除するのは得策ではない。
 だがその“未曾有の災厄”がレザードの手によって行われるものだとしたら、此処で逮捕する事によって未然に防ぐ事が出来るのかもしれない。
 しかし的が外れれば切り札の無駄使い、更に此方の戦力を把握される可能性がある。
 そんなハイリスクを背負ってでも、なのはの要望に答えたのは、はやてもまたなのはと同じ思いを感じていたからだ。
 それにリミッターを解除したなのは達に適う者などいない……例え相手がSランクの実力者であっても…
 そう言い聞かせるかの如く自分の判断を信じ、はやてはモニターを見つめていた。  

 「みんな!はやてちゃんからリミッター解除の承認が下りたよ!!」

 なのはのその一言に頷くと一斉にリミッターを解除するメンバー達。
 リミッターの外れたリンカーコアは活性化し、魔力を作成していく。
 そして体内は本来の魔力数値で満たされると一斉にレザードを睨むメンバーであった。

 「成る程……今まではリミッターが掛かっていたのですか…ならばその本来の実力を見せて―――」
 「随分と良く喋る男だ」

 レザードの後方から声が響きレザードは振り向くと、其処にはシグナムがいつの間にか回り込んでおり、紫電一閃を放つ寸前であった。
 レザードはとっさにシールドを展開するが、先程とは異なり呆気なく切り崩された。
 シールドを崩されたレザードは後方へ飛びながらアイシクルエッジをシグナムの正面に向け撃ち出す、だがアイシクルエッジは次々と撃ち落とされていった。
 その間にヴィータはレザードを見下ろす位置に立つと、自分の目の前に鉄球を8つ並べ次々と魔力が覆っていく。
 そして魔力に覆われた鉄球は次々とグラーフアイゼンで撃ち抜いた、シュワルベフリーゲンと呼ばれる誘導弾である。
 シュワルベフリーゲンがレザードに迫る中、ヴィータの攻撃を跳ね返そうとリフレクトソーサリーを展開させ攻撃を受け止める。

 「くっ!重い!」

 だがシュワルベフリーゲンは一つ一つが重く威力が高い為、的確にヴィータへ跳ね返す事が出来なかった。
 レザードは仕方なくシュワルベフリーゲンを周囲に跳ね返している最中、上空からヴィータがラテーケンハンマーを振り下ろす。
 レザードは先程と同様シールドを展開させるが、先程とは異なり容易く打ち砕かれた。

 「まだまだぁ!!」

 すると今度は先程の一撃の勢いを利用してその場でカートリッジを消費させるとヴィータは回転し、ラテーケンハンマーを連続で撃ち出そうとする。
 だがレザードはヴィータが回転している隙をついて移送方陣でヴィータの後方上空へと移送した。
 移送後レザードはヴィータに向けファイアランスを撃ち出すが、
 ヴィータは回転を止め左手をかざすと三角形の盾パンツァーシルトを展開させて攻撃を防いだ。

 「ザフィーラ!!」
 「承知!!」

 ヴィータの掛け声に呼応する様にザフィーラはレザードに迫っていく。
 するとレザードはザフィーラに向けイグニートジャベリンを撃ち出す。
 だがザフィーラは左手に障壁を展開させると先程とは異なりイグニートジャベリンを弾き飛ばしながらレザードの目の前まで向かう。
 そして右手に魔力を乗せ突き抜けるように振り抜くが、レザードは半球体型のバリア型ガードレインフォースを展開させ攻撃を防いだ。
 しかしザフィーラは気にも止めずバリアの上から何度も左右の拳を叩き付ける。
 その衝撃はレザードにも伝わっており、更にバリアにヒビが生じ始めると、それを見たザフィーラは勝機とばかりに右手で左拳を包み込むように握り絞め振り上げた。

 「小賢しい…」

 レザードは一言呟くと振り下ろしに合わせてバックステップで回避、更に右手をザフィーラにかざした。
 その瞬間ザフィーラの口の端がつり上がると、レザードは手足だけではなくで体中をバインドで縛られた。


 「んっ!?これは…」
 「掛かったな」

 先程のザフィーラの攻撃は囮で本命はこのバインドによる拘束が目的であった。
 まんまと掛かったレザードであったが、バインドを外そうと魔力を高める。
 その間に目の前にいたザフィーラが退散すると、上空に光を感じレザードは目を向けた。
 レザードから見て左側上空にエクシードを起動させたなのはと、右側上空でザンバーフォームを構えるフェイトの姿があった。
 二人はカートリッジを二発消費すると、レイジングハートの前に流星のように魔力が収束し、バルティッシュの刀身には強烈な雷が蓄積していった。
 そして―――

 「スターライト……」
 「プラズマザンバー……」
 『ブレイカァァァー!!』

 二人が声を上げた瞬間、魔力砲は解き放たれ桜色の魔力砲と金色の魔力砲は真っ直ぐレザードに向かい直撃した。

 だが二人の攻撃はまだ終わってはいなかった。
 二人は間を徐々に詰めて行き二人の背中が重なり合うほどまで詰め寄ると、デバイスを重ねこう叫んだ。

 『ダブルブレイカァァァー!!』

 次の瞬間、デバイスから撃ち出されていた魔力砲が混ざり合い、螺旋を描きながらレザードが縛られた場所を飲み込みそのまま大地に突き刺さる。
 そして螺旋を描いた魔力砲が消えると、キノコ雲のような土煙を高々と立ち上らせたのであった。
 その様子を二人は上空で見つめており、その二人を囲むようにシグナム、ヴィータ、ザフィーラが集まっていた。

 「………凄い…これがリミッターを外したフェイトさん達の実力……」

 一方地上ではスバル達と合流したエリオ達が隊長達の戦いを見守っていた。
 そしてシャマルは先程はティアナの、今はスバルの疲労を回復させていた。
 スバルは依然として呆然自失としており、みんなの呼びかけにすら反応しなかった。
 ティアナはシャマルに事情を説明すると、シャマルはスバルを見つめ落ち込む表情を見せる。
 すると今度は顔を背け苦い顔を醸し出していた。
 シャマルは自分の無力さを噛み絞めていた、生まれて幾年月、風の癒し手と称され様々な怪我に携わってきた。
 だが心の傷を癒やす事は出来ない、つまりスバルの痛みを癒せないのだ。
 それでもせめてスバルの疲れた体を癒やす位はしようと静かなる癒しをかけていたのだ。

 一方ティアナはシャマルにスバルの身を任せエリオ達と共に隊長達の戦いを見守っていた。
 エリオは一言漏し目を輝かせて見守っており、キャロもまたフリードリヒを抱きかかえながら見守っていた。
 二人の心には安堵感に満ち溢れていたが、その中でティアナは一人冷静に戦況を見据えていた。

 おかしい、何かがおかしい…確かにリミッターを外した隊長達の力は凄まじくティアナの想像を超えていた。
 加えてフェイトはザンバーフォームを起動させ、なのはに至っては短期決戦用のエクシードを使用している。
 まさに“無敵を通り越して異常”な戦力、その異常な戦力を“たった一人”の魔導師に向けられている。

 …寧ろ今の状況こそ異常では無いのかと考えるティアナ。
 幾らあのレザードが強者であってもSランクオーバーもしくはそれに準する魔導師五人で相手にする程なのだろうか?
 もしそうならレザードはあの異常な戦力と対等の力を持っていることを指す。
 そんな馬鹿げた事を考えつつも、なのはの姿を見上げる。
 なのははあれ程の収束砲にコンビネーション攻撃を仕掛けたにも関わらず、なのはの瞳には未だ警戒の色が滲んでいた。
 だとすれば、なのははレザードを倒したという確固たる手応えを感じてはいないのではないか?
 そんな有り得ない事を考えるも、背中に冷たいモノを感じるティアナであった。

 一方舞上げられた土煙の中、その中央の場でレザードは大の字を描いて寝そべっていた。
 レザードは上半身だけを起こすと手の感覚を調べる、次に自分の服装を調べた。
 服は舞上げられた土煙のせいで砂を被っており、レザードは眼鏡に手を当て頭を横に振る。

 「やれやれ…一張羅が台無しだ……」

 そう答えるや空を見上げるレザード、空は未だ舞い上がった土煙に覆われており、太陽も朧気になっていた。
 そこでレザードはモニターを開きルーテシアと連絡を取る。

 「どうしたの博士?」
 「ルーテシア、ガリューの方はどうなっていますか?」
 「……………………」

 その言葉に沈黙するルーテシア、レザードは首を傾げると意を決したように話し始めた。
 ガリューは無事アグスタへの潜入に成功しスカリエッティの依頼品を無事に回収、
 続いてレザードの依頼品を回収に向かったところ、一つは回収したのだが
 もう一つはある“ハプニング”により目下捜索中で暫く時間が掛かると告げた。
 それを聞いたレザードは呆れるように頭に手を当て振る。

 「仕方がありませんね、ではもう少し時間を稼ぎましょう……」
 「大丈夫博士?ゼストを向かわせようか?」
 「いえ…それには及びませんよ」

 そう言うとルーテシアと別れの挨拶を交わすとレザードはモニターを消し、これからどうするか考えた。
 彼女達の攻撃があの程度であれば、このままでも充分時間を稼ぐ事は出来る。
 だがそうなると攻撃を全て受け止めなければならない、それにやられっぱなしというのも面白くない。

 「やはり…リミッターを一つ解除するしかないですね」

 考えを纏めたレザードはゆっくりと立ち上がり空を見上げていた。

 一方上空では、なのはとフェイトを中心に舞い上がった土煙の様子を見つめていた。
 だが未だ動きがない為かヴィータが業を煮やし問い掛ける。

 「なぁシグナム、やったんじゃねぇか?」
 「さぁ…どうだろうな、油断は出来ん」
 「なのははどう思う?」
 「……………………」

 ヴィータの問い掛けに警戒を促すような答えを出すシグナムに、フェイトの呼び掛けに一切答えず土煙を見つめるなのは。
 土煙も徐々に薄くなっていき地上が見え始めている中、地上にはレザードが膝あたりの砂を叩きつつなのは達を見上げていた。
 その光景にやはり…といった様子でデバイスを構えるなのは、それを皮切りに他のメンバーも構え始める。
 それを地上で見ていたレザードは眼鏡に手を当てこう言い放った。

 「成る程…どうやら貴方達を侮っていたようですね…ならばこちらも……」

 その言葉の後にレザードの足元から青白く光る五亡陣が現れると更に言い放った。

 「ネクロノミコン、能力リミッター解除、モードII……グングニル!!」

 するとレザードに掛けられていたリミッターが外れリンカーコアが活性化すると体はふわりと浮かび上がり体から青白い魔力が溢れ出す。
 溢れ出した魔力は周りの木々を薙ぎ倒すと徐々に小さくなっていき右手に炎のような形で揺らめく。
 レザードはその魔力をかき消すように振り払うと今度は左手に持っていた魔導書が輝きだした。
 魔導書は柄の両端に巨大な両刃の刃が付いた槍へと変わりレザードの右手に収まった。

 モードIIグングニル、かつてレザードが居た世界に存在する、
 神の世界アスガルドを支える四宝の一つで、神の王オーディンが所有していた武器を模倣した形態である。

 一方上空ではレザードの魔力に唖然としていた。
 あれだけの魔力を保有していながら今までリミッターが掛かっていた事に。
 おそらく今のレザードの魔力は自分達の想像を超えているであろう、だが此処で屈しる訳にはいかない。
 そう隊長達は気を取り直しレザードを睨みつける。
 そしてレザードは地上からなのは達を見上げこう述べた。

 「では……最終幕を始めましょうか」

 そしてなのは達に向けグングニルを振り払うと衝撃波を作り出し、衝撃波はなのは達に直撃した。
 なのは達は叫び声を上げながら吹き飛ばされるが、すぐに体制を立て直し地上を睨みつける。
 地上には既にレザードの姿はなく、なのは達はレザードを探していると更に上空にてレザードを発見する。

 「野郎!いつの間に!」
 「待て、私が行こう!」

 ヴィータが飛び出そうとする中、シグナムに止められシグナムはレヴァンティンを構えた。

 「レヴァンティン!カートリッジロード!!」

 レヴァンティンからカートリッジが二発排出されると、刀身に紅蓮の炎が纏いレザードとの間合いを詰め切りかかる。
 だがシグナムの紫電一閃はレザードのシールドに阻まれてしまう。

 「ほぅ……そのデバイスの名はレヴァンティンと言うのですか…成る程…貴様の能力によって炎の魔剣を体現させている訳か」
 「貴様!何を言っている!!」
 「だが…我がグングニルと同様、オリジナルとは程遠い!!」

 レザードは意味深な台詞を吐くとグングニルをシグナムに向け切り払う。
 それによって発生した衝撃波がシグナムに直撃し吹き飛ばされた。
 それを見たヴィータはレザードとの間合いを詰める。
 ヴィータはグラーフアイゼンをギガントフォルムに変えるとカートリッジを二発消費させレザードに打ち込む。
 ギガントハンマーと呼ばれるヴィータのフルドライブから繰り出される一撃である。
 だがレザードはヴィータのギガントハンマーをグングニルで防いだ。

 「バカな!アタシのギガントハンマーをデバイスで受け止めやがった!!」
 「材質が違うのですよ」

 そう言うとレザードの左手に青白く炎のように揺らめく魔力を纏わせるとヴィータにかざした。

 「ダークセイヴァー」

 次の瞬間、ヴィータの右下・左下・上後方に闇の刃が現れ、それぞれ右わき腹・左わき腹・延髄あたりを貫く。
 更に右上・左上・下後方に先程と同様の闇の刃が現れると、右肩・左肩・腰のあたりを貫き、
 またもや右下・左下・上後方に先程と同様の闇の刃が現れると同じく右わき腹・左わき腹・延髄あたりを貫いた。

 「ヴィータちゃん!!」
 「安心しなさい…非殺傷設定されていますから死にはしませんよ…痛みは伴いますが」

 そう言うとヴィータを貫いた闇の刃が消え力なく落ちるヴィータ。
 その間にザフィーラが正面から襲いかかる。

 「おのれ!よくもヴィータを!!」
 「次は貴方ですか……先程貴方には一杯食わされましたね」

 そう言って手をかざすとザフィーラの手足に赤いバインドに、胴には青いバインドによって縛られた。

 「くっ!これは!!」
 「無駄ですよ、その赤いバインド、レデュースパワーは縛った対象の力を抑え、
 青いバインド、レデュースガードは縛った対象の防御を抑える……その意味はわかりますね?」

 そう言うとグングニルを振り上げるレザード、ザフィーラはバインドを外そうと力を込めるが思うように力が入らなかった。
 ザフィーラはなす統べなくレザードの攻撃を受け吹き飛んだ。
 すると今度はフェイトがトライデントスマッシャーをレザードに放つ。
 最初に撃ち出された直射砲を軸に上下に直射砲が伸び、三本の直射砲がレザードに向かって襲いかかる。
 だがレザードの左手に青白く炎のように揺らめく魔力を纏わせライトニングボルトを放つ。
 ライトニングボルトはトライデントスマッシャーを打ち破りフェイトに直撃した。
 すると今度はなのはがエクセリオンバスターを撃ち込む。

 「エクセリオン……バスター!!」
 「フッ……プリベントソーサリー」

 するとエクセリオンバスターから黄色い魔力の鎖が現れ、巻き付くとエクセリオンバスターは徐々に拡散し消滅した。
 なのはは驚く表情を見せるとレザードは得意気にバインドの説明を始めた。
 プリベントソーサリー、レザードがこの世界に合わせた魔法で、縛った対象の魔力を封じる効果を持つという。
 つまりそれは魔法を縛れば魔力の運動を止められ消滅し、
 肉体を縛ればリンカーコアの動きを封じられ魔法が使えなくなると語る。
 そしてレザードは眼鏡に手を当てると更に話しを続けた。

 「どうしました?さっきまでの威勢は何処へ行ったんでしょう?
  それとも…フフッ犠牲者がでなければ実力が発揮出来ないとか?」

 そう言うと左手を地上にかざすレザード、左手は先ほどと同様、魔力に覆われていた。
 なのはとフェイトはレザードがかざす手の方へ目を向ける、すると其処にはティアナやエリオ達の姿があった。
 まさか!といやな予感がしたなのはは、とっさにティアナ達に念話を送る。

 (ティアナ!みんな!急いでその場か―――)
 「…バーンストーム」

 そう言うとレザードは指を鳴らすと纏っていた魔力が消える。
 そしてスバルが居た場所を中心に直径数百メートルの部分が三度に分けて大爆発を起こし、その光景を目の当たりにするフェイト。
 するとレザードはバーンストームの説明を始める、バーンストームは爆炎を利用した魔法、
 そしてレザードの手によって非殺傷設定されている為、死ぬ事は無いと。
 だがレザードの炎は特別で対象が気絶するか、かき消すか、そして非殺傷設定が解除されてあれば燃え尽きるかしないと、炎は消える事が無いと話す。
 しかしバーンストームの跡地に残された炎は見る見ると消えて来ており、その状況に疑問を感じるレザード。

 「おや?思いの外、炎の消えが早い……そうか!相手が弱すぎて最初の爆炎だけで気を失ったのか!
  ならば…その後に訪れるハズであった身を焼かれる苦しみを味わなくて済んだようですね」

 そう言って高笑いを上げるレザード、フェイトは依然として跡地を見つめていた。
 あの場にはエリオ達の姿もあった…それが一瞬にして消されたのである。

 するとフェイトは怒りで目の瞳孔が開き、髪をふわりと逆立てると、ソニックムーブでレザードの後ろをとり、
 ブリッツアクションを用いて腕の振りを早めたジェットザンバーを放つ。
 だがレザードはとっさにシールドを展開させフェイトの攻撃を防ぐ。
 互いの攻防により火花が散る中、フェイトはレザードを睨み付け吐き捨てるように叫んだ。

 「アナタは!命をなんだと思っているんですか!!」
 「ほぅ……“人形”が生意気にも命を語るか……」

 その言葉に動揺を覚えるフェイト、その隙を付いてレザードはグングニルでフェイトの子宮辺りを突き刺す。
 グングニルにはアームドデバイスと同様、非殺傷設定されてあれば肉体を傷つけず、
 肉体を傷つけた際に生じるであろう痛みのみを与える効果を持っている。

 「かぁ!?……はぁぁぁ……ぁぁ…」
 「“人形”が…処女〈おとめ〉を失う時の様な喘ぎ声を上げるとは…な!」

 そう言ってレザードは更にグングニルを深く突き刺し更に突き上げた。
 グングニルによって深く突き上げられた痛みによって、フェイトは目を見開き涎を垂らしていた。

 「はぅ!……ぁ…ぁぁああ!!」
 「キツいですか?なぁに…すぐにこの感覚にも馴れます…よ!」

 更に深く突き上げ、グングニルは尾てい骨辺りを超えて貫き、腰から刃を覗かせていた。

 「カハァ!!」
 「とは言え所詮はただの“人形”……貴方が相手では木偶と情交するに等しいか…」
 「わた…しを…“人形”と……呼ぶな!!」

 涎を垂らし目には涙を溜めながらも必死に抵抗するフェイト。
 するとレザードはグングニルを引き抜きフェイトの顎を掴み、顔を近づけこう言い放った。

 「“人形”と呼ばれるのがそんなに不服か?…ならばこう呼んでやろう……プロジェクトFの残滓よ」
 「ッ!!!キッキサマ!!」

 フェイトの怒りは頂点に達しレザードの手を振り払うとバルディッシュをまっすぐ振り下ろした。
 だがレザードはフェイトの怒りの一撃をたやすく受け止めていた。

 「そんな!フィールド系?…いや支援魔法!?」
 「ご名答…正解した貴女にはコレを差し上げましょう…」

 そう応えるとレザードはフェイトに手を向ける、手には魔力が纏われており、魔力は手のひらを介して球体へと変化、それは徐々に加速していった。
 それを見つめるなのはは見たことがあった、いや確信していた、あれは自分の十八番とも言える魔法であると。

 「確か……名は」
 「フェイトちゃ――」
 「ディバインバスターでしたか」

 次の瞬間、レザードから青白いディバインバスターがフェイトに向け撃ち出された。
 フェイトはディバインバスターに飲み込まれ吹き飛ばされていく。
 だが後方でザフィーラがフェイトの救出に成功していた。

 「何で!アナタがディバインバスターを!」
 「ただの魔力を加速させて放出させるなど、私が出来ないとお思いで?」

 レザードは様々な魔力変換が可能な存在、魔力を加速させて撃ち出すことなど造作もないと不敵な笑みを浮かべ話す。
 その中レザードにルーテシアから念話が届く。

 内容は今し方ガリューは目的の品を回収し無事アグスタを脱出、現在ルーテシアの元へ向かっているという。

 (…わかりました、ではルーテシアはガリューが到着後すぐに転移して下さい、しんがりは私が務めましょう…)
 (わかった…やりすぎないでね)

 ルーテシアは一言残し念話を切る、それを確認したレザードは辺りを見渡すとなのはを中心にメンバーが募っていた。
 レザードは一通り見渡すと肩をすくめこう言い放った。

 「さて…貴方がたの実力も見えてきた頃ですし、そろそろ私は退散でもしますか」
 「なっ逃げるの!それに…私達がそれを許すと思うの!!」

 なのはのその言葉に大笑いするレザード、するとレザードは眼鏡に手を当てこう言い始める。

 「これは面白い事を言う、貴女は自分がどのような状況かまるで解っていないのですね」
 「それはどういう意味!」
 「こう言う事ですよ」

 そう言ってレザードは移送方陣で更に上空へと上がる。
 なのは達は必死に追いかけているとレザードの足元に、
 巨大な複数の環状で構成された多角形の魔法陣を展開、そして左手をなのは達に向け詠唱を始める。

 「…闇の深淵にて重苦に藻掻き蠢く雷よ…」

 するとレザードの目の前に黒い球体が姿を現す。
 球体の中は幾つか稲光が見えていた、そしてレザードは更に詠唱を続ける。

 「彼の者に驟雨の如く打ち付けよ!」

 すると球体は見る見る膨らんでいきレザードの姿すら見えないほどにまで巨大化していた。

 「あれは……まさか広域攻撃魔法か!?」
 「こんな場所で撃ち出そうと言うの!」

 なのは達は上空を見上げレザードの魔法を分析する。
 するとレザードの声だけが響いてきた。

 「安心なさい…非殺傷設定されてあります…ですので……」

 レザードの姿は魔法に隠れ見えないが、不敵な笑みを浮かべているだろう声でこう告げた。

 「存分に死の恐怖と苦痛を堪能して下さい…」

 そしてグラビティブレスと叫ぶと漆黒の球体はなのは達に向かっていった。
 なのは達は苦い顔をしながら迫ってくる球体を睨みつけると回避を否がす。
 だがヴィータがそれに反発する、何故ならなのは達の後ろにはアグスタが存在していた。
 アグスタの中にはまだ局員達が多数警備しており、今自分達が避けたらアグスタに直撃してしまうからだ。
 するとザフィーラが一歩前に出ると障壁を最大にして展開、グラビティブレスを受け止めようとする。
 その間になのは達はアグスタに残っている局員達に連絡を取ろうとした瞬間、
 ザフィーラの障壁が脆くも打ち崩され、ザフィーラを飲み込んでいった。
 更になのは達をも飲み込み、グラビティブレスは無情にもアグスタを包み込むように直撃した。

 …グラビティブレスの中は詠唱如く、無数の雷が蠢きあい、内にあるモノ全てを驟雨の如く打ち付けていた。
 暫くするとグラビティブレスは一つの稲光を残し消え、跡地にはアグスタが瓦礫の山となっており、一部は砂塵と化していた。
 その様子を上空で見届けたレザードは眼鏡に手を当てながら口を開く。

 「我ながら中々の威力ですね」

 そして高笑いをしながら移送方陣でその場を後にした。

 一方、一部始終見届けていたロングアーチは静寂に包まれていた。
 誰もが今まで見ていた光景が偽りであると考えるその中で、はやての檄が飛ぶ。

 「何を惚けとる!早よ現場に救護班を急行させ!いくら非殺傷設定の攻撃だとしても、あの量の瓦礫に埋められたら圧死か窒息死してまう!!」

 その言葉に端を発し一斉に動き出すロングアーチ、その中はやては右手を握ると思いっきり机を叩く。
 そして苦い表情を表しながらモニターを見つめ吐き捨てるかのように言葉を口にした。

 「私の……私の判断ミスや!!」



 一方ゆりかごに戻ったレザードは通路を歩いていると、ルーテシアがレザードの帰りを待っていた。
 ルーテシアはスカリエッティに頼まれた品物を渡しナンバーズにも品物を渡し、残りはレザードの品物だけだと話す。
 ルーテシアはレザードに一つのパピルスを渡す、パピルスには設計図のような物が描かれていた。
 そしてルーテシアはその品物が何なのか問いかけた。

 「博士…それ何なの?」
 「これですか?」

 ルーテシアの疑問に対し、パピルスに目を通しつつ笑みを浮かべこう答えた。



 「“ゴーレム”の設計図ですよ…」






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最終更新:2009年04月12日 17:38