ホテル・アグスタ襲撃事件、後にそう呼ばれる事となる今回の事件は、一夜にしてミッドチルダ全土を震撼させた。
事の発端はオークション会場でもあるこのホテルにガジェットが襲撃、更にその後に現れた魔導師の手によってアグスタは崩壊、
警備に当たっていた管理局員のうち、六課前線メンバーは奇跡的にアグスタの瓦礫の中から救出されたのだが、
本局の局員は被害を被り、死傷者・行方不明者合わせて数十名という未曾有の大惨事となった。
そして今回の警備責任者で六課の部隊長でもある八神はやては、数日後に開かれる六課の是非を問う審議会を控えていた。
リリカルプロファイル
第十七話 手札
事件から数日後、此処六課の訓練所にはヴィータとなのは、そしてティアナの姿があった。
だがその中にスバルの姿は無く、なのははスバルの事をティアナに問いかける。
「ティアナ、今日もスバルは……」
「……はい」
襲撃事件から三日後、目を覚ましたスバルは部屋に引きこもり、食事も睡眠すら取らずにいた。
そんなスバルの様子を心配したティアナはスバルに優しく話しかけるが、
スバルは暫く一人にして欲しいと一言呟くと、じっと一点を見据え指にはカシェルから貰った指輪がはめられていた。
ティアナは、…今スバルには一人の時間が必要なのだろう…と考え、スバルの言葉に応じ部屋を出て別の部屋で寝泊まりする事となった。
しかし訓練所や何処かへ行く際には必ず、スバルに声を掛け毎日食事を届けているのだが、未だスバルの傷は癒えぬまま現在に至っているのである。
そして今日も訓練所に来ないスバルに対し、ティアナは落ち込む表情を見せながら俯き口を開く。
「スバルはもう……駄目かもしれません………」
「ティアナ……」
ティアナは思わず悲観的な言葉を口にする。
…スバルはきっとカシェルの死を受け入れる事が出来ないでいる、そして今ある現実から逃げている…
スバルの様子を改めて思い返し、そう考えるティアナ。
するとなのはは、瞳を閉じゆっくりと息を吐く、そして瞳を開くとティアナに語りかけるように言葉を口にする。
「ダメだよ…ティアナがそんな事言っちゃ」
その言葉にティアナは顔を上げると、なのはの瞳は怒りとも哀しみとも取れる色を宿していた。
そしてなのははティアナの肩に手を当て話を続ける。
「ティアナはスバルの友達なんだよ?」
「なのはさん……」
「それに…スバルの傷を癒せるのはティアナだけなんだから」
なのはのその言葉は、ティアナの過去を知っているからこその発言であった。
“大切な者を失う痛み”それを知っているティアナだからこそ、スバルの力になれるハズだとなのはは語る。
その言葉にティアナは俯き目を閉じる、…今まで自分はスバルが現実から逃げていると思っていた。
だがそれは違っていた、自分もまたスバルから逃げていたのだ…と。
ティアナは何かを決意したかのように頷き顔を上げる、するとその表情には迷いが無く決意に満ちていた表情を表していた。
「なのはさん!私スバルの所に行ってきます!」
「うん分かった、いってらっしゃいティアナ」
なのはの了承を得たティアナは、早速スバルがいる部屋へと向かい、その後ろ姿を見届けるなのは達。
辺りが沈黙に包まれる中、今まで黙っていたヴィータの口が開く。
「んで、どうすんだよ今日の訓練は」
「そうだね……今日は一日中ヴィータちゃんと模擬戦…かな」
「ゲッ!マジかよ!」
そう言ってヴィータの顔を見るなのは、その顔は笑みを浮かべていたが、
その目はまるで獲物を見つけ狙いを定めたかの様に細く鋭く光っており、ヴィータは思わず青ざめる。
あの敗戦後、なのは達は知らず知らずの内に己の力を過信していたと考え、それぞれ鍛錬を始めていた。
幸い此処六課には鍛錬に相応しい人物が集まっている。
そしてスターズはスバルがいない分、午前中は二人でティアナが動けなくなるまで鍛え上げ、
午後はヴィータとなのはが模擬戦を行う形を取っていた。
しかし今回はティアナがスバルの元へ向かった為、朝からなのはと一日中模擬戦へと変わったのである。
ヴィータは明日は筋肉痛は確実だなと考えつつグラーフアイゼンを起動させ構えるのであった。
一方ティアナはスバルがいる部屋の扉の前にいた。
ティアナは深く深呼吸をすると、覚悟を決めスバルが居る部屋へと入る。
部屋の中は暗くカーテンも閉め切っており、部屋の中心にはスバルが座り込んでいた。
スバルの目は虚ろで隈が出来ており一睡もしていない様子で、後ろには朝ティアナが持ってきた弁当が手つかずに置いてあった。
スバルは通常勤務なら四・五日寝なくても平気なのだが、今のスバルは
苦悩や悲観や憎悪、そしてカシェルへの想いが頭を駆け巡り、精神的に疲弊している状態なのである。
そんな目を背けたくなる様子のスバルだが、ティアナは真横へと近づき両膝を付く形で隣に座る。
そして辺りは沈黙に支配され、一分すら悠久の時の長さにすら感じる部屋の中でスバルの口がゆっくりと開き始めた。
「……ティア」
「…うん」
「私ね…カシェルの事、好き……だったんだと思う…」
そう言うとスバルはカシェルとの思い出を話し出す。
最初はただの男友達だった…しかしカシェルは優しく、色々と手を貸してくれた。
一緒に訓練や学習をしたり、自主練に付き合ってくれたり、宿題に付き合ったり…それに食事を奢ってくれた事もしばしばあった。
そしてそれらが積み重なっていくうちに、自分に兄が出来たような感覚を覚えたと。
自分には二つ上の姉がいる、それ故にカシェルに姉の面影を重ねていたのかも知れない…その事をカシェルに話してみると、
微笑みを浮かべ、スバルの頭を撫でながらカシェルもまた自分の事を妹のように思っていると答えたと。
そう嬉しそうな雰囲気で思い返しているスバルにティアナは問いかけた。
「今でもカシェルを兄として?」
「……………分かんない」
今スバルの胸の内に広がるカシェルへの想いは兄としてなのか、男としてなのか…今はもう判断出来ない。
だがどちらにせよ、カシェルといた時間は、何よりも充実していたとスバルは微笑みを浮かべながら語るが、すぐに笑みが消え暗い表情に変わる。
カシェルの励ましもあり六課に編入したスバルは強くなる為に努力し、またいつかカシェルと会える事を楽しみにしていた、だがその願いは無惨にも打ち砕かれた。
カシェルは見るも無惨な姿となってスバルの前に敵として現れた。
その時自分はカシェルに対し何も出来なかった、カシェルを救い出すことも、カシェルを苦しみから解放させる事も…
そして今、カシェルの為に何が出来るのか自分は悩み続けていると囁くように語った。
「ねぇ…ティア……」
「うん?……」
「私…カシェルに何をしてあげればいいんだろう」
スバルの言葉にティアナは瞳を閉じ考え込む、そして五年前の自分を思い出していた。
…あの時、兄を無くした自分は涙が枯れるまで泣いた。
犯人を恨み復讐を誓おうともしたが、犯人は自首し更に自殺した為それすら適わなかった。
そして兄の為に自分が出来る事…それは兄の夢を引き継ぐ事、その決意は“大切な者を失った痛み”を和らげ今に至っている。
そしてスバルは五年前の自分と同じ状況にいる、しかしスバルと自分では大きな違いが一つ在る。
それは敵討ちの相手がいる事だ、だが心優しいカシェルが復讐など望んでいるハズがない。
ならばスバルがカシェルに出来る事は一つしかない、そう考えるとスバルの肩に手を当て優しく答えた。
「……それは勿論、カシェルの為に泣いてあげる事よ」
スバルが泣いて悲しんであげる事でカシェルが生きていた“証”になるとティアナは語る。
その言葉にスバルはティアナの顔を見上げる、ティアナは優しい笑みでスバルを見つめていた。
スバルはティアナのその表情にカシェルの陰を見ると、今まで胸の内に溜めていた様々な感情が込み上げていく。
そしてティアナの肩を掴み顔を胸に埋めると、込み上げた感情が声となり涙となってティアナの胸の中で解き放たれた。
「っ!…カ…シェル……うっ…うぁぁああああああああ!!!」
スバルは泣いた…泣き叫んた…声が枯れる程に…涙が枯れる程に…
そして…その感情を優しく包み込むようにスバルを抱き締めるティアナ。
「強くなろう…スバル……」
ティアナの言葉に頷きつつ涙を流し続けるスバル、それを全身で受け止めるティアナであった。
それから数日後、八神はやて率いる六課の是非を問う審議会が此処本局にある審議室にて行われる事となった。
部屋は広く、はやてを中心に左の席にはクロノ提督、レジアス中将、カリム少将と並び、右側の席には伝説の三提督の姿があった。
そして審議席にあたる後方の位置には複数のモニターが設置されており、管理局の一佐から三佐までの顔を表示されていた。
だがその中にはやてが師匠と呼ぶゲンヤの姿は見受けられなかった。
そしてはやての正面には巨大なモニターが設置されており、更に上には左から順に青・赤・黄色の最高評議会のエンブレムが映し出されたモニターが設置されていた。
そして巨大モニターの隣には竜を模した杖を携える老将の姿があった。
ガノッサ提督、かつて伝説の三提督と共に一時代を築き、生涯現役を今も貫き通す、自称神を屠る者と呼ばれる人物である。
今回はガノッサが審議の中心となって指揮を取るようである。
…そして開始時間になり審議会が開幕された。
「これより六課の是非を問う審議を執り行う」
まず今回のアグスタ襲撃によって被った被害は本局の局員数十名、ホテル・アグスタの崩壊、そして歴史的価値のあるロストロギアの破損・消失などが上げられた。
そして今回はやては六課…いや管理局の切り札とも言える能力リミッターを解除を承認した。
しかし結果は上記の通り、その被害結果により、はやての指揮官能力へと審議は移る。
するとモニターの審議者達が今回の結果に対して次々に述べ始めていた。
「…所詮二佐とはいえ小娘、部隊長としての技量など知れたものだったのでは?」
「いくらレアスキルを持っていてもな…些か特別扱いし過ぎたのではないだろうか」
「そうかもしれんな…それに彼女は闇の書事件の当事者であるしな」
するとクロノはモニターの審議者の最後の言葉に対し、手を挙げ異議を唱える。
「待ってくれ!今回の審議の内容ははやての指揮官能力の是非についてだ!闇の書の事件は関係ないハズだぞ!!」
クロノの言葉に一同はざわめくと、ガノッサは静粛を促し更に話を続ける。
今回において能力リミッター解除は結果的に有力ではなかった。
つまり貴重な切り札を無駄に切ったと言うところにある。
それは指揮官としてどうなのかはやてに問いかけると、はやてはこう答えた。
「確かにあの場で切り札を切るんはどうかと思いました、せやけどあの時あの犯人、
レザードをこのままにしとくんはミッド…ひいては次元世界全てに被害が被ると思うたからです」
はやての力強い発言に頷くクロノとカリムに対し、ガノッサはエンブレムが映し出されているモニター、最高評議会に問いかけると赤いモニターが反応する。
「如何しましょう?最高評議会の皆様……」
「……古代遺物管理部第六課の解散を要求する」
「何故ですか!」
最高評議会の決定に今度はカリムが申し立てる。
六課は設立して数ヶ月のうちにロストロギアであるレリックの回収や、リニア事件から姿を現した不死者の解析など、様々な功績を立てたと。
今回の失態一つで今すぐ解散を促すのは如何なものかとカリムは主張する。
するとカリムの主張に黄のモニターが応え始める。
「確かに古代遺物管理部第六課は設立されて日が浅いうちに様々な功績を立てた。
だが…今回の失態はそれらの功績を積み上げても手に余るのだよ」
故にこの様な判断を下したと語り、その判断に不服はないかとガノッサは問いかけると、はやては口を開く。
「…確かに今回の失態は大きいと思います、せやけど六課のみんなは頑張って仕事をしております!
それにこれからの事を考えれば六課の存在は必要なるん思います!
せやからお願いです!今回の失態、私の首一つで片付けてもらえませんか?」
「……状況を飲み込めて居ない様だな八神二佐、事態は貴様の首一つで収まる状態では無いのだ」
はやての申し出に対し今度は青いモニターが話し始める。
今回の六課の失態で、民衆は魔法に対し大きな不信感を抱きつつある。
管理局は魔法に対し質量兵器とは異なり比較的クリーンで安全な手段だと謳っていた。
しかし今回の事件によって魔法による破壊工作及び殺人行為が可能だという事が、露呈し広まってしまったと。
その情報は管理局の意向に反した情報、しかも一夜にして全土に知れ渡ってしまった。
その発端を作ったのが六課であり、あの男レザードの所業であると。
レザードはアグスタを魔法によって崩壊させ、更に失踪事件を引き起こし失踪者を用いて不死者を製造した人物でもある。
そんな人物がミッドチルダに潜伏している、次は何処を狙われるか…誰が狙われるか…民衆は不安で仕方がない。
そしてそれらを払拭する為にも、今回の事件を招いた六課の解散は否めないと語る。
「元々古代遺物管理部第六課は実験的に設立した部隊、そして…このような失態を生んだ部隊に最早存在価値など無い」
最高評議会は吐き捨てるように事実を叩きつけると、はやては何も言えず萎縮する。
そんなはやての姿を後目に、ガノッサは最高評議会の意向を受け六課解散を宣言した。
次にはやてに対するの処分の審議を始めようとすると、レジアス中将が割り込むように挙手する。
「何かな?レジアス中将…」
「八神二佐の処分、それは儂に任せて貰えんか」
思わぬ人物の提案にガノッサは顎に手を当て考え込む。
…あのレジアスが自ら動くとは、だがあの男ならば甘えなど無く処分を言い渡すだろう…
それに今のはやては本局にとっては“害”に過ぎない、それ故に地上本部が引き取ってくれるのであれば願ってもない事かも知れない。
その旨を最高評議会に話してみると満場一致で了承し、八神はやての処分はレジアス中将に一任する事となり審議会は閉幕した。
「では八神二佐、ついて来たまえ」
レジアスはそう言うと席を立ち、はやてはレジアスの言われるがまま、ついて行く事となった。
それを苦虫を噛み締めるような表情で見つめるクロノ達であった。
…審議会を終えたクロノは自分の船、クラウディアへと戻りブリッジへ続く通路を歩いていた。
そしてブリッジへと辿り着くと、金髪の青年がクロノを出迎える。
彼の名はロウファ、本局の一等空尉でクロノの補佐を務めている。
クロノは席に座ると深くため息を吐く、その様子にロウファは質問を投げかけた。
「お疲れさまです艦長、審議会はどうでしたか?」
「…どうもこうもないな、あれではただの吊し上げだ」
今回の審議の結果に頬に手を当てふてくされた様子で話すクロノ。
今回の審議会はまるで六課の失態を期に解散させようとする雰囲気に満ちていた。
そして結果的に六課は解散を余儀なくされ、はやては本局から追い出される形で地上本部に出向になったと。
一通り説明を終えたクロノであったが、未だその顔は不機嫌なままであった。
其処へお茶を持った那々美一等陸士が姿を現す。
「艦長、お茶を用意いたしました」
「あぁ、すまない那々美」
クロノは手を伸ばしお盆からお茶を持つとゆっくりと啜る。
するとクロノの口の中に甘ったるく濃厚なミルクの味が広がり、思わず喉を詰まらせる。
何故ならその味はかつて母が飲んでいたお茶の味をしていたからだ。
その味にクロノは那々美に問いかける。
「なっ那々美、このお茶は一体?!」
「この前送られて来たんです、緑茶ラテと言うそうです」
送られてきた緑茶ラテの量はダンボール一箱分、送り主はリンディ・ハラオウン、クロノの実の母親である。
そして同封された手紙にはこう記されていた、【疲れた時には甘い物をとって疲れを癒してね】と。
クロノは思わず頭を押さえる、何故ならばクロノは甘い物は苦手であるからだ。
更に量はダンボール一箱分、確かに疲れている時には甘い物は有効だ。
だがそれにしたって量が半端ではない、寧ろ糖尿病に掛かってしまうレベルだ。
クラウディアにはクラウディアで新たな問題が発生したとクロノは頭を抱え左右に振ると、オペレーターである夢瑠一等陸士が暗号通信を受信したとクロノに伝える。
「誰からの通信だ?」
「え~っと、ガノッサ提督からみたい……です!」
クロノの指示のもと夢瑠は暗号を解析、通達された内容は指定された場所と日時に信頼できる部下を一人引き連れて来るようにという事であった。
その内容にクロノは腕を組み考え込む、あのガノッサ提督からの通達ではそうそう無碍には出来ない。
クロノは半ば諦めに近い形で内容を受託、早速クラウディアは指定された場所へと進路を取り始める。
その中、ロウファはクロノに問いかけた。
「それで現場には誰と?」
「そうだな…ジェイクと、だな」
「成る程、あの人なら安心ですね」
クロノの放った名に納得するロウファ、ジェイクリーナス一等陸尉、数々の実績と経験を兼ね備え、教官資格も取得している人物である。
そしてクロノ率いるクラウディアチームは一路ガノッサが指示したポイントへ向かうのであった。
場所は変わり此処はゆりかご内のレザードの施設、中ではレザードが入手した操呪兵設計図面を基にゴーレムを作成していた。
その中何かに気が付いたレザードが声をかける。
「覗き見とは感心しませんね、セイン……」
そう言うと床からセインが飛び出すように出て来た。
レザードはセインを横目に頭を横に振る、どうやら訓練から逃げ出してきた様子だ。
「またサボったのですか?仕方がない人ですね」
「だって私偵察型だよ?戦闘型と一緒に訓練したらコッチが持たないよ」
「やれやれ…そう言えば、黄金の鶏はどうしています?」
「コッコの事?今日はウェンディが面倒を見ているよ」
コッコとは黄金の鶏のあだ名らしく、コッコの面倒はナンバーズが一日交代で面倒見ていると。
そう言うとセインはレザードが作成しているモノに目を向ける
その姿は頭部が小さくモノアイで、上半身は巨大で腕は太く、下半身には足の代わりに浮遊体のような球体が二つ付いた姿をしていた。
「…博士、これは一体何です?」
「これですか?ゴーレムですよ」
「あぁ、例の設計図の」
セインの言葉に頷くレザード、しかし設計図通りに造るのは面白くないと考えガジェットの技術やアレンジを加えていると話す。
ゴーレムの動力源は人造魔導師の技術を応用しリンカーコアを起用、
表面の装甲は軽くて強固なミスリル銀、内部材質は弾力と耐久力を持つダマスクス、そして頭部・腕の外装甲は特別にレザードのデバイスと同様オリハルコンで造られていると。
そしてリンカーコアを搭載させている事で、ある程度の魔法を使用する事が出来る。
そして今の完成度は80%と自慢げに語った。
「へぇ~、それでコレって名前あるの?」
セインの言葉に考え込むレザード、確かに名前が無けれは色々と不便である。
そしてどんな名前にするか考えていると、かつて自分が造ったホムンクルスの名を思い出し、思わず苦笑する。
「どうしたの?博士」
「いえ何でもありませんよ………名前ですが、ベリオンと言います」
「ベリオンかぁ」
そう言ってベリオンを見つめるセイン、すると入り口からウェンディの呼ぶ声が響く。
「あぁ!!こんなとこに居たんッスかセイン姉!トーレ姉がカンカンッスよ!」
ウェンディに窘められたセインはレザードに別れの挨拶を交わし足早に去っていく。
レザードはまるで台風にでも遭ったかのような印象を受けていた。
一方、審議会を終えた二人はハイヤーで地上本部へと向かっていた。
車内はレジアスとはやてが乗っており、カーテンは締め切られて、外の様子が全くわからない造りをしていた。
暫く車内は沈黙に包まれているとレジアスがはやてに問い掛ける。
「八神二佐、突然ではあるが、君はホワイトナイトという株用語を知っているかね?」
突然の質問に困惑するはやてだが、レジアスの質問に答える。
ホワイトナイトとは株用語の一つで、買収される企業にとって友好的な第三者の事を指すと。
はやては話し終えると今度はクラウンジュエルの事を聞いてくる。
クラウンジュエルとは、買収する企業において資産価値、収益力、事業力などが最も魅力的な部門を指すと答えた。
はやては一通り説明を終えるが、疑問を感じていた。
何故株用語を聞いてきたのか、まさか自分に株でもやれとでも言うのだろうか?
そう考えているとハイヤーが止まり扉が開く、はやてはハイヤーから降りると此処はかつての機動隊の隊舎で、入り口にはゲンヤが出迎えていた。
はやては困惑していると、レジアスとゲンヤが付いてくるようにはやてに指示、三人は隊舎の中へと赴いた。
隊舎の中は綺麗に掃除されており、とても八年前の建物とは思えない作りをしていた。
三人は通路を道なりに歩いていると、ドアへと辿り着く。
そしてドアを開くとその光景にはやては唖然とする、ドアの先に広がる光景とは六課のロングアーチとよく似た施設が広がっていたからだ。
はやてが唖然としている中、レジアスがはやての処分を言い渡す。
その内容とは、此処機動隊の隊舎を基に新たな部隊の部隊長を任せると。
だがその任はまるで、もう一度六課を設立しろと言っている印象をはやては受けていた。
そしてはやては深々とお辞儀をし、大声で感謝の弁を述べる。
「有り難う御座います!こんな私に―――」
「八神二佐、何か勘違いしているようだな」
レジアスの言葉に頭を上げ首を傾げるはやて、レジアスの主張はこうである。
今回の事件で一番の問題点は六課の失態ではなくあのレザードという存在であると。
奴の存在によってミッドチルダの安全神話は崩壊した。
奴をこのまま野放しにすればミッドの地上は危うい、そこで今回の失態により株価が落ちたはやてに目を付けたという。
だが、はやてに現状に存在している部隊を渡すのはもったいないと考え、この様な処置を与えたと語った。
「機動隊は我が地上本部の汚点とも言える存在、つまり…本局の汚点と言える貴様に地上本部の汚点を与える、此ほどの相応しい処分は無いと思われるがな」
そう言って悪意に満ちた笑みを浮かべるレジアス、更に機動隊の隊舎を与えるという事は、最前線で戦ってもらう事の意味も含めているという。
何故ならレザードという前代未聞の犯罪者に、地上本部の局員を全面に押し出せば此方の戦力はがた落ちとなる。
それを防ぐ為の部隊でもあるとレジアスは付け加えた。
だがはやてはその言葉の裏に潜む意味を理解すると同時に、レジアスが車内で問い掛けた質問を意味を理解する。
レジアスは六課の存在を本局のクラウンジュエルとして見立てていた。
そして地上本部と言うホワイトナイトによって六課を回収する為この様な処置を行ったのであろう。
だが六課の再建は管理局…いやレジアスの株を下げ痛烈な非難を浴びる事になる。
しかしレジアスはそれを覚悟でこの様な処置に至ったと…するとはやての目に涙が浮かび上がっていた。
だがはやては涙ぐむ目を左腕で拭い敬礼を行う。
「八神はやて二等陸佐、謹んで処分をお受けいたします」
その返事を聞いたレジアスははやてに背を向けると、まずゲンヤが出て行き、レジアスがドアの前まで向かうと立ち止まり大きな声で独り言を喋り出す。
「しかし…今の時期に新たな部隊に戦力を渡してくれる者など居るだろうか?
まぁ、いざとなったら最近解散した六課とやらの人材でもかき集めるがいいだろうな
何も知らぬ素人より役に立つかも知れんしな」
そう言うと後にするレジアス、その場にははやてが一人ぽつんと立っていた。
だがはやての顔は徐々に笑みを浮かべ始め、まるで子供が新しい玩具を手に入れた時のような表情を現していた。
「ヨッシャァァ!!やったるでぇぇ!!」
気合いとともに叫ぶはやて、六課はまだ終わってはいない、此処からまた六課を作り直す!…そう意気込むはやてであった。
その意気込みをドアの向こうで聞いていたレジアスとゲンヤ。
そしてゲンヤは通路を歩き出すと目だけをレジアスに向け呆れた口調で話す。
「相変わらず…大きな独り言だな」
「フンッ………」
ゲンヤの言葉に一言で答えるレジアス、そして二人は今度こそ、その場を去っていったのであった。
一方クロノはガノッサが指定したポイントに辿り着く。
そこは研究施設のようでクロノとジェイクリーナスは通路を進んでいくと突き当たりのドアに辿り着く。
其処には先に到着していたガノッサが佇んでいた。
ガノッサの隣には青髪の女性がおり、ガノッサの秘書を務めているようである。
ガノッサはクロノの姿を確認するとドアを開け中へと入る。
そしてクロノも後に続き中に入ると、部屋の中にはバリアジャケットや騎士甲冑を着込んだ男女十名が整列していた。
その姿にクロノはガノッサに問いかけてみると、ガノッサは秘書にモニターを起動させるように指示、
起動させたモニターには最高評議会のエンブレムが映し出されると、クロノの問い掛けにモニターが答えた。
―――“人型デバイス”エインフェリアであると―――
最終更新:2009年05月02日 23:54