「人型デバイス……エインフェリア!?」
 「そうだ……」

 ある次元世界の一施設にて、モニターに映し出された最高評議会のエンブレムがそう応えると、説明を始める…

 正式名称は等身大・人型インテリジェントデバイス・エインフェリア、XV級大型次元航行船の動力とほぼ同じ魔力を生むことが出来る小型魔力炉を搭載したデバイスで、
 人造魔導師とは異なりリンカーコアを使わずに魔力を作成できる事が出来るようになった。
 そして本体はユニゾンデバイスの構成情報を元に作成され、
 クローン技術とは異なり、弾力性のある金属を利用した人工強化筋肉と皮膚を採用する事で強固な造りを実現していると言う。
 更に他のインテリジェントデバイスと同様、人工知能も搭載され非殺傷設定も可能であると。
 だが此方の命令には“絶対服従”で、逆らわないようプログラムが施されているという。


                リリカルプロファイル
                 第十八話 強化


 一通り説明を終えると疑問を持ったクロノがガノッサに質問を投げかける。

 「これは…まるで“生体兵器”では無いですか!こんなモノが認められる訳が―――」
 「何をいう…コレらは歴としたデバイスである、
 …違うと言うのであれば、貴様の仲間が持つユニゾンデバイスもまた“生体兵器”と呼ばねばなるまい」

 ガノッサの言葉に声を失うクロノ、クロノの親友が持つデバイス、リインフォースIIは言うなれば古代ベルカの技術の粋を集め造られたデバイス
 そしてこのエインフェリアもまた現在の魔導技術の粋を集め造られたデバイス、つまり倫理的に問題はないと。
 更にこのエインフェリアにデバイスを持たせれば、Sランクの魔導師二人分の実力を誇り、
 それが十体も存在しているという事は、このエインフェリアの戦力はあの“六課”を超える戦力であると語る。
 …ただ一体造るのにXV級大型次元航行船三隻分の費用が掛かるのがネックであるとの事であった。

 「……しかし何故この様なモノを私に見せたのですか?」
 「それについては最高評議会より伝達がある」

 クロノの問いにガノッサがそう答えると、最高評議会が直接伝達を読み上げる。

 最高評議会の伝達とは此処にいる十体のエインフェリアを元“六課”の隊舎に運び入れ、
 其処を拠点にエインフェリアを中心とした部隊を編成・指揮し、ミッドチルダを護るというものである。
 現在ミッドチルダはレザードの脅威に晒されており、
 地上本部の戦力だけでは心許ないと判断した処置であると。

 「ではクラウディアはどうするのですか」
 「…貴様の判断に任せる」

 最高評議会のたった一言にクロノは不満を覚えつつ敬礼をすると、最高評議会の伝達を受け取る。
 そして最高評議会は「以上である」と一言告げると、エンブレムと共に消え青髪の秘書はモニターを閉じ、
 ガノッサと共にその場を後に去ると、現場にはクロノとジェイクリーナスが佇んでいた。

 そしてクロノは顎に手を当て理解した、何故“六課”の解散があんなにもスムーズに行われたのかを。
 それはこのエインフェリアの存在にあった、本局は既に新たな“切り札”を手にしていたのだ。
 しかも“六課”とは異なりデバイスである為、部隊で保有できる魔力ランクの総計規模に引っ掛からず、いくらでも保有する事が出来る。
 しかしそれを活用出来る場所がない、其処で今回失態を起こした“六課”に目を付け、
 解散させる事により空く隊舎を利用し、地上本部近くに本局にとって都合が良い隊舎を造る事で、監視・牽制をする事が出来るのだ。
 無論、ミッドチルダの安全の事も考慮しての行動だと思われるが…
 クロノは一通り考えを纏めるとジェイクリーナスにエインフェリアをクラウディアに乗せるように指示、そしてクロノは一足早くこの場を後にした。

 「え~っ!?クロノさんとジェイクさん、ミッドに向かうんですか?」
 「あぁ、其処でクラウディアチームはロウファを代理艦長として行動してくれ」
 「了解です、艦長」

 現在、エインフェリアを積んだクラウディアは一路ミッドチルダへと進路を取っていた。
 その中、クロノの指示によりクラウディアの全権をロウファに委ねる事が決まり、更にクロノはロウファに話を続ける。

 「そうだロウファ“俺の部屋の汚れ物”が増えたから、代わりに“洗って”おいてくれ、何なら“洗濯屋”に頼んでもいい」
 「なるほど……分かりました艦長」
 「うわぁ…艦長、幾ら単身赴任でも洗い物はこまめに出さなきゃダメですよ」

 クロノとロウファの会話に口を挟む夢瑠、そのあっけらかんとした言葉に頭を押さえる二人であった。


 六課解散から数日後…此処聖王教会にある教会騎士団訓練所にて、エリオとフリードリヒに乗ったキャロが、シャッハ相手に模擬戦を行っていた。
 それを遠くで腕を組みながら見守っている二つの姿がある、アリューゼとシグナムである。

 「……そうか、奴と対峙したか」
 「あぁ……」

 シグナムは予めレザードの存在をアリューゼからそれとなく聞いていた。
 だがアリューゼの言葉の全てを鵜呑みにすることは出来なかった。
 しかし今回レザードと対峙する事で実感し、改めて自分の認識の甘さを嘆いたことはなかったと語る。

 奴…レザードの能力は凄まじく魔力に至っては底が見えない程で、まるで天災にでも遭ったかのような印象を受けたと語る。
 あの時ほど自分の身を凍らせた事は無かった、だが此処で立ち止まるわけには行かないとシグナムは話し続ける。

 「あの二人も努力している訳だしな」
 「お前が連れてきた小僧達か」

 アリューゼの問いに頷いて答えるシグナム、あの戦いはエリオとキャロにとってもトラウマ的な衝撃を受けた戦いでもあった。
 更に六課の解散により二人はフェイトとまた離れ離れになる事となり、さすがに落ち込んでいたという。
 それをすくい上げたのはシャッハであった、シャッハはエリオ達に今のまま塞ぎ込んでいる姿を見たらフェイトが心配すると語り、
 フェイトを安心させるには二人が元気にしている所を見せることだ…と微笑みを浮かべながら語ると、
 二人はシャッハの言葉を胸に刻み今に至っていると言う。

 「流石はシスターと言うべきだな」
 「…それより、お前は模擬戦に加わらないのか?フェイトに頼まれたんだろ?」
 「…私は人に教えるのが苦手なんでな」

 例えアドバイスを促そうとしても、攻撃の届く所まで近付いて斬れ、位しか言えないと語る。
 それにエリオは自分とタイプが違うと話す、自分はアリューゼのように威力重視の一撃タイプ、
 それに対しエリオは速度重視による一撃タイプ、それはフェイトやシャッハと同じタイプだと語る。
 つまり自分と模擬戦するより、シャッハとの模擬戦の方が学ぶことが多いハズだと話している最中、
 辺りを見渡しザフィーラの姿を見えない事に疑問を感じるシグナム。

 「そう言えばザフィーラはどうした?」
 「…例の如くカリムに捕まっている」

 なる程といった様子を浮かべつつ頭を押さえるシグナム、本来ならキャロの支援方面をザフィーラに頼もうとしていたからだ。
 そのザフィーラが無理となるとキャロの相手はシャマルが妥当だろうと考える。
 シャマルは支援魔法のエキスパートで鋼の軛も使用できる、つまりキャロにとってお手本となる存在だ。
 すると噂をすれば影と言うべきかシャマルが二人の前に姿を現す。

 「いいタイミングで来てくれたな、シャマルに―――」
 「それよりもシグナムに通達があるの」

 シャマルの言葉に首を傾げると一枚の書類を渡される。
 書類には元機動隊の隊舎へと向かうように指示されており、対象にシグナムの他ザフィーラ、エリオとキャロの名も書かれていた。
 そしてシャマルもまた同じく呼び出されていると話す。

 「一体何の用なんでしょ?シグナム、心当たりない?」
 「………………………」

 …かつての六課のメンバーを、かつての機動隊隊舎に集わせる、こんな事をするのは一人しかいないだろう…そう考えるシグナムであった。

 一方此処はある地上部隊の隊舎、其処でスバルとティアナが事務作業を行っていた。
 二人は六課解散後、部隊をたらい回しにされていた、その理由とは二人の肩書きのせいである。
 “六課の人間”…その肩書きにより同僚から煙たがれ、上司には白い目を向けられていた。
 だが二人は気にもとめず今の仕事をこなし、二人で自主練を行う毎日なのである。
 二人は黙々とデスクワークをこなしていると、部隊長に呼び出され、
 二人は部隊長の前で敬礼をすると部隊長は二人を休ませる、そして二人に一つの書類を渡す。

 書類にはスバルとティアナの両名は今所属している部隊を抜け、元機動隊隊舎へと向かうように書かれていた。
 スバルはまた何処かに飛ばされるのかと考え、ティアナは厄介払いが出来ただろうなと考えるも、
 自分達は出来る事をすればいいと考え直し通達を受け取った。

 場所は変わり此処は元機動隊の隊舎前、スバルとティアナがその場に辿り着くと、
 かつての六課のメンバーが集まっており、その中になのはの姿を見かけ声を掛ける。

 話を聞くとなのはもまた呼び出されたらしく、何が始まるのかは分からないでいるという。
 すると隊舎の入り口から八神はやてとリインが姿を現す。

 「よく集まってくれたなぁ、みんな」
 「はやてちゃん?!一体どうしたの?みんなを集めて」
 「ふっふっふっ……そらぁ勿論、新しい部隊“機動六課”の設立の為や!!」

 全員が雁首そろえて傾げ困惑する中、意気揚々と説明するはやて。
 首都機動防衛隊・古代遺物管理部第六課、通称“機動六課”とは首都防衛隊の亜種でロストロギアの管理及び地上の防衛を任務とし
 レジアスの権限により保有できる魔力ランクの総計規模を無視する事が出来る、超法規的処置が施された部隊であると話す。

 ランク無視で集められた部隊、そんな部隊が必要とする相手はただ一人レザードだけである。
 つまりこの部隊はレザードに対する対抗手段という意味を指す。

 「せやけど、レザードはホンマもんのバケモンや!怖じ気ついたんならこの場を去ってもえぇ、それが当然の反応やし」

 だが集まった全員の目に恐れの色は無く一同敬礼をするとはやてを称え
 はやてもまた残ってくれたみんなに対し、感謝の念がこもった敬礼で返すのであった。

 それから数日後、此処機動六課に存在する会議室にて会議が行われていた。
 会議室には、はやてを中心になのは・フェイト・シャーリーと並びモニターの脇にはグリフィスが佇んでいた。
 そして時間になり会議は開始される、会議の内容はレザードについてである。

 レザード・ヴァレス、そう名乗った魔導師はホテル・アグスタ襲撃事件及びミッドチルダ失踪事件の首謀者と認定され多次元指名手配となった。
 だが、レザードは他の次元世界での目撃者が殆どなく、寧ろミッドチルダでの犯行が多い為、
 ミッドチルダを中心に捜索をしているが、未だ手掛かりが掴めていないでいた。
 しかし真に恐ろしいのはレザードの所業より自身の能力にあるとグリフィスは説明する。

 レザードの能力、特に魔力は凄まじく高く、その魔力から繰り出される魔法は他の魔法と一線を引いても良いほどである。
 それだけではない…彼の魔法は炎、雷、難しいとされる凍結、更に光や闇などの魔力変換を主としていると。
 すると今度ははやてがモニターを注意深く見るように告げ、
 スライドするようにレザードが魔法を撃つ姿が次々に写し出され、最後はレザードが放ったディバインバスターの画が写し出される。
 その画を食い入るように見つめていると何やら違和感を感じる、するとなのはがその画の異変に気がつく。 

 「足下に魔法陣が…無い?」
 「せや…んでもって、このディバインバスターの時もそうなんや」

 その言葉に唖然とする一同、確かにレザードが魔法を撃つ際、足下には魔法陣が展開されていない。
 そもそも魔法陣とは魔法を撃つ為に必要な魔力の収束・圧縮をスムーズに行う為のもの、それは魔力変換も例外ではない。
 しかしレザードの魔法にはそれがない、つまりレザードにとって魔力変換など魔法陣を必要とする程の技術ではない事という事になる。

 そのレザードが魔法陣を使用したのは三つ、移送方陣と呼ばれる転送魔法、不死者召喚、広域攻撃魔法である。
 どれも高度な魔法であるが、その中で広域魔法の威力は常軌を逸しているとグリフィスは語る。

 「もっとも…あれだけの魔力を保有していれば当然かもしれませんが…」

 だがレザードの魔法は何も攻撃面のみ特化している訳では無いと眼鏡に手を当て話を続けるグリフィス。
 シールド、バリア、フィールドと三種に使い分ける事が出来るガードレインフォース、しかもフェイトの話では支援効果も見受けられてたという。
 つまり肉体自体の防御力も強化させる事が出来る防御魔法なのである。
 そして生半可な魔法では反射されてしまう魔導師泣かせのリフレクトソーサリーも存在し、
 この両者を撃ち破るには純粋に圧倒的な威力がある魔法か、バリア破壊の効果を持つ魔法、あとは直接攻撃のみであるという。
 しかもそれだけではない、力を拘束するレデュースパワー、防御を拘束するレデュースガード、そして魔力を封じるプリベントソーサリーまで存在する。
 特にプリベントソーサリーの効果は恐ろしく、まさに魔導師殺しと言っても過言ではないバインドである。

 「まさに魔法の申し子っちゅうところやな、だけとな…レザードの恐ろしさはそれだけや無いんや…」

 そう神妙な面持ちで話すとはやては席を立ち、グリフィスが立つ位置まで移動、
 そしてグリフィスが持っている差し棒を奪うとモニターに写るレザードの顔を力強く指す。

 「見や!眼鏡をかけていても尚!!イケメンっちゅうところや!!!
  …………………………………あり?」

 はやての言葉に対し一斉に白い目で見る一同、その冷たい目線から逃げるように背を向け、
 一つ咳をすると振り返り、差し棒をグリフィスに返し何事もなかったかのように席に座ると今後のレザード対策へと話題を移す。

 変な空気が辺りを包む中、なのはとシャーリーが席を立ちモニターへと赴くと説明を始める。
 なのははフォワード陣の技術の向上と、デバイスのリミッター解除によってもたらされるフルドライブを使いこなせるようにすると説明。
 次にシャーリーがデバイスに新しい機能を取り付け強化させると話す。
 エリオにはフルドライブのデューゼンフォルムとは異なり範囲攻撃・強化を持たせたウンヴェッターフォルムを、
 キャロには射撃能力と強固な防御魔法を追加されたセカンドモードを超える、更なる防御魔法を加えたサードモードを、
 ティアナには長距離特化されたロングレンジタイプのブレイズモードを、
 そしてスバルにはギアセカンド以上の加速を実現させる為、A.C.Sを利用したギアエクセリオンを起用すると説明した。

 「エクセリオン?!それは大丈夫かいな?」
 「昔と違って安全性は保証されていますから大丈夫ですよ」

 はやての不安に自信を持って答えるシャーリー、だがシャーリーのプラン説明はまだ終わっていなかった。
 次にレヴァンティンのリミッター解除によるボーゲンフォルム
 グラーフアイゼンにはギガントフォルムとラテーケンフォルムの長所を持つツェアシュテールングスフォルムをそれぞれ追加、

 そしてフェイトのバルディッシュにはフルドライブのライオットブレードの進化系ライオットザンバーと真・ソニックフォームを起用すると話す。
 ライオットザンバーとはシグナムとの度重なる模擬戦によって編み出された戦闘フォームで二種類の形態を持つ。
 そして真・ソニックフォームとは先日のレザードとの戦いの際、ソニックムーブとブリッツアクションを用いた攻撃を防がれた為、
 かつて使用していたソニックフォームを基礎に防御を一切無視した完全速度重視の超高速特化形態であると説明した。

 そしてなのはのレイジングハートにはエクシードを更に超えるブラスターモードを追加するという。
 ブラスターモードとはエクセリオンモードと自己ブーストを複合したようなシステムで
 使用者・デバイス双方に限界を超えた強化を主体とした形態で、三段階に分かれており
 ブラスターモードによってブラスタービットと呼ばれる遠隔操作機を操作でき、ブラスターの段階によって2~4基操作・制御出来ると説明する。

 説明を終えたなのはとシャーリーは元の席に座ると、はやてはシャーリーとなのはのプランを了承し会議は終了、
 それぞれ席を立つと会議室にはグリフィスとはやてが残され、はやては腕を組み首を傾げる。

 「なんでウケへんやったんやろ…とっておきやったのにな……」
 「…はやて部隊長、時と場所を考えてください」

 そう言ってはやてを窘めるグリフィスであった。

 一方此処、ゆりかご内に存在するレザードの施設にて、ベリオンの起動実験が行われようとしていた。
 立会人にはレザードと助手のクアットロ、ベリオンの起動を見に来たセインとウェンディ、そしてレザードに呼ばれたノーヴェとディエチの姿もあった。
 レザードの合図の下クアットロは電源を入れる、するとベリオンに搭載されているリンカーコアが活性化し回路に魔力が満ちると
 頭部のモノアイが光りを放ち、全長3メートルもあろうかと思える巨体がゆっくりと起き上がる。

 「オハヨウゴザイマス、御主人様」
 「ふむ、うまく機能しているようですね」

 ベリオンの出来に納得するように頷くと、ノーヴェとディエチに目を向け不敵な笑みを浮かべるレザードであった。

 場所は変わり此処は訓練所、部屋にはノーヴェ・ディエチ・ウェンディの姿があり、彼女等の対極の位置にベリオンが佇んでいる。
 一方モニター室にはレザードとクアットロに野次馬根性全開のセイン、そして今まで訓練していたオットーとディードの姿も見受けられた。

 「博士?本当に本気で攻撃していいんだな?」
 「えぇ、そうでなくては意味がない……」

 レザードの答えにノーヴェは頷くと早速準備運動を始め、体がほぐれた頃を見計らいレザードが開始の合図を出した。

 まずはノーヴェが先手をとりエアライナーをベリオンの頭上まで伸ばし滑走、
 右手を握り締めるとベリオンの左頭部コメカミ辺りを打ち抜く。
 だがノーヴェの一撃はベリオンの巨体どころか頭部すらは揺るがす事が出来ず
 寧ろベリオンの左手がノーヴェの右手を掴むと振り回し、壁に叩きつけられた。

 だがベリオンの攻撃はまだ終わってはいない、ベリオンは左手をノーヴェに向けると左手の中心が丸く開き銃口を覗かせると
 マシンガンのように光弾を撃ち出す、ノーヴェのガンナックルに搭載されているシステムと同質の物だ。

 「ウェンディちゃん!華麗に参上ッス!!」

 ベリオンの攻撃がノーヴェに迫る中、ライディングボードに乗ったウェンディが間に入り、ライディングボードを盾にしてベリオンの攻撃を防ぐ。
 一方ディエチはベリオンを挟んでノーヴェ達の位置とは対極の位置に移動すると、イノーメスカノンをベリオンに向けチャージを始める。
 そしてある程度チャージするとエネルギー砲を発射、発射されたエネルギー砲は真っ直ぐベリオンに向け延びていった。
 だが――――

 「ガードレインフォース」

 ベリオンはバリア型のガードレインフォースを展開、ディエチの攻撃を防ぐ、
 ディエチは驚いた、自分の攻撃を防がれた事に対してでは無く、機械であるハズの存在なのに魔法を使用した事に対してだ。
 そんなディエチを余所にベリオンはノーヴェ達への攻撃を止め、ディエチが構えている方向へと向くと右手を突き出す。
 すると右手の平の中心が丸く開き銃口を覗かせるとエネルギーがチャージされていく。
 だが―――――

 「チャージなんかさせるかよ!!」

 ベリオンがチャージしている間に、ライディングボードからノーヴェが飛び出すように姿を現すと、エアライナーをベリオンの頭上まで展開させ滑走
 そして加速を維持したままベリオンの頭上目掛け飛び降りると、両の拳を合わせ後頭部めがけて一気に振り落とす。

 更にノーヴェは両手でベリオンの頭を掴むと逆立ちのような体勢をとり、加速を付けて何度も膝蹴りを打ち抜き
 バク宙のような縦回転を始めると、ブレイクギアを用い踵のジェット噴射を利用した右足で蹴り上げた。

 この連撃に流石のベリオンもチャージを止めるが、大したダメージは受けておらず何事もなかったかのようにノーヴェの蹴り上げた右足を掴むと、勢い良く床に叩きつけた。
 その衝撃は強烈でノーヴェの体を宙に浮ばせる程であり、ベリオンはノーヴェの足を離すと右拳を堅く絞め振り下ろす。

 だがその瞬間、ディエチが速射砲に切り替えたイノーメスカノンでベリオンを撃ち抜く。
 ディエチの攻撃はベリオンの右頭部・肩・腕に三発・わき腹辺りを撃ち抜き、
 その攻撃によりベリオンは動きを止めると、その隙をついてライディングボードに乗ったウェンディがノーヴェを回収、ベリオンの上空を旋回していた。
 するとベリオン左手のマシンガンが火を噴き、ウェンディを撃ち落とそうとしていた。

 「ちょっ?!マジ勘弁してほしいッス!!」

 焦るようにそう言うと、ライディングボードの面をベリオンに向け攻撃を防ぐ、
 その間にディエチはチャージしていた最大出力のエネルギー砲を放射するが、ベリオンはバリアを張る。
 しかしエネルギーの渦はバリアごとベリオンを飲み込み壁に激突した。

 ベリオンが直撃した壁辺りは土煙に覆われていたが、それが徐々に晴れていくとベリオンは平然と佇んでおり、ディエチに右手を向け直射砲を放つ。
 ディエチはイノーメスカノンを持ったままだと回避できないと判断し、
 イノーメスカノンを手放しベリオンの直射砲を左に転がるように回避難を逃れる、そして腰に付けていたスコーピオンを取り出す。

 マシンガン型イノーメスカノン・スコーピオン、イノーメスカノンを失った際の穴埋め的な形で造られた簡易版イノーメスカノンで、
 ディエチのISヘヴィカノンに合わせ、多彩な弾倉(マガジン)を交換することにより様々な銃弾を撃ち出すことが可能な銃なのである。

 ディエチは走りながら速射用マガジンに切り替え照射、それに合わせてノーヴェはウェンディの進行とは逆の方向へエアライナーを展開させ滑走すると光弾で応戦
 ウェンディもまた床に着地するとライディングボードにて砲撃を開始した。

 一方でベリオンは三方向からの攻撃に対しバリアを展開、見事に防いでいる。
 その様子を見たディエチはノーヴェにバリアの破壊を指示、その間ウェンディと二人でノーヴェをサポートする事となった。
 二人のサポートを受けたノーヴェは早速ブレイクギアを起動させるとスピナーが音を立てて回転していく。
 そしてスピナーの加速が最大になりジェット噴射と共にバリアを左足で蹴り降ろす。

 「砕けろぉぉぉぉ!!!」

 ノーヴェの蹴りは見事ベリオンのバリアを破壊すると、今まで援護していたウェンディが反応炸裂弾に切り替えベリオンに向け撃ち出す。
 撃ち出された反応炸裂弾はベリオンの胴体に接触すると榴弾のように炸裂、ベリオンは桜色の光に包まれる。
 すると今度はディエチが徹甲弾が詰まったマガジンに切り替えると、ストックを伸ばし足を肩幅ぐらいに広げ脇を絞め構えると、
 ヘヴィカノンの効果によりスコーピオンからエネルギーによって被帽化された徹甲弾が撃ち出される。

 撃ち出された徹甲弾は金属を貫く鈍い音を奏でており、マガジンに詰まっていた徹甲弾を撃ちきると、ベリオンは動きを止め胴体には幾つか穴が空いていた。
 流石にベリオンの装甲がミスリル銀であっても、ディエチによって強化された徹甲弾は防ぐ事は出来なかったようである。
 そして辺りが静寂に包まれると急にベリオンの声が響く。

 「…警戒レベル1カラレベル2へ移行、アクセルモードカラバスターモードニ切リ替エマス」

 するとベリオンの魔力が上がり穴の空いたベリオンの胴体から徹甲弾が押し出される、
 どうやら徹甲弾は内部に存在するダマスクスによって防がれていたようである。
 更に穴は徐々に塞がっていき跡形もなくなる、リジェネーションヒールと呼ばれるスキルである。
 ベリオンにはルーンと呼ばれる紋章が内部に幾つか刻まれており、その並びにより様々なスキルが使えるのである。
 しかしルーンはバスターモードでないと機能せずスキルも最大三つしか機能させる事が出来ないという弱点もあるのだ。
 だがそれらを省いても今のベリオンは強力な存在である。

 「チッ自己再生か!」
 「厄介な能力ッスね!!」

 ノーヴェが舌打ちをしウェンディが文句を言っているとベリオンの足下が輝き一気に加速、ディエチの目の前に現れる。
 ディエチはその場から逃げようとするが時すでに遅く、両拳を合わせたベリオンの剛腕が振り下ろされた。
 その光景を見たノーヴェはベリオン目掛け突撃、右のハイキックを打ち込むが、容易く受け止められ寧ろノーヴェの足を掴むと壁へと振り投げる。
 ノーヴェは悲鳴を上げながら吹き飛ばされるが、ウェンディによって壁との激突は免れた。
 だが二人の前には既にベリオンが姿を見せており、二人はベリオンの右拳をなす統べなく撃ち込まれてしまったのであった。

 ディエチは床にめり込むように沈み、ノーヴェとウェンディは重なり合うように壁にめり込んでいると、
 ベリオンは少し離れ上空から三者を見下ろす位置に立つと、右手をディエチに、左手をノーヴェ達に向け止めの体勢に入る。

 「其処までです、ベリオン……」

 其処にレザードの一言により動きを止めるベリオン、そして待機モードとなったベリオンは床に降りると静かに佇んでいた。
 一方モニター室ではベリオンの強さに圧倒されるセインに、戦いの一部始終をじっと見つめていたオットーとディード
 そして上々といった様子で眼鏡に手を当て笑みを浮かべるレザードの姿があった。

 「…………此処は?」
 「気がつきましたかディエチ…」

 レザードに起こされたディエチはゆっくりと体を起こす。
 どうやらベリオンとの戦闘は終了したらしく今訓練所は破損した部分をガジェットが修理していた。
 一緒に戦ったノーヴェとウェンディも無事なようでディエチの両脇で眠りについている。

 そして正面を見ると右肩にオットー、左肩にディードを乗せたベリオンの姿が見受けられた。
 どうやら今回の戦闘で、二人はベリオンの事を気に入ったのではないかと言うのがレザードの話である。

 「貴女達のお陰で十分なデータがとれました、後は“鍵”の完成を待つばかりです」

 するとディエチはベリオンの強さについてレザードに問いかけるとレザードは笑みを浮かべ簡単に応じる。
 ベリオンにはアクセル、バスターと二種類のモードを持っており、警戒レベルに合わせて能力、機能が変わるのだという。

 「尤も今現在は…ですがね」

 レザードは意味深な台詞を吐くと、眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべるのであった。

 一方機動六課の会議から二週間が経ち、今日も午後の訓練が終わりフォワード陣が集められていた。
 会議後の訓練は更に厳しくなり、エリオは電気の変換資質を開花させてからフェイトにみっちりシゴかれており、
 スバルはA.C.Sの運用をティアナには砲撃・遠距離による支援の極意をなのはから、みっちり教えられていた。

 そして今回の訓練はテストも兼ね備えていたようで、なのは・フェイトの両名から合否の判断が委ねられる。
 結果は合格、今のフォワード陣ならばフルドライブを十分に扱えるだろうという判断である。
 なのは達の判断に喜ぶメンバーであるが話はまだ終わってはいなかった。

 「今回、みんな苦しい訓練に耐え抜いたから、明日は一日お休みにします!」

 なのはの言葉に唖然とする一同、だがすぐに満面の笑みを浮かべる一同にヴィータが釘を指す。

 「そん代わり明後日からセカンドモードを基本にした訓練になるからな!」

 ヴィータの言葉に力強く返事をする一同、そしてなのはは解散させると速攻で隊舎に戻る。
 その姿に頬掻くなのはに対しヴィータは問いかける。

 「だがよ、本当によかったのか?フルドライブは…まぁモノにはなって来てるみてぇだが」
 「確かにフルドライブ以上になると安定はしていないけど、それはまだ先の話だし、それに………」
 「それに何なんだよ?」

 フォワード陣に休暇を与えたのは体と心をリフレッシュさせるだけではない、
 自分達もまた鍛え上げる為にフォワード陣に休暇を与えたと話す。

 「新しい機能を把握するには実戦に近い模擬戦が一番だからね」
 「なるほど確かにな……」

 なのはの答えに頷くシグナムにフェイト、その中ヴィータは一人青冷めていた。
 かつてなのはと一日中模擬戦をした時、次の日の朝、全身筋肉痛で動けないでいた。
 その悪夢が明日起きようとしている、しかも今回はみんなリミッターが外れでおり、更に新機能のテストも兼ね備えている。
 フォワード陣には明後日の事をあぁ言ったが、もしかしたら自分達の方が明後日動けないんじゃないか…そう不安がよぎるヴィータであった。



 場所は変わり此処はとある次元世界の収容施設、クラウディア艦長代理であるロウファは看守の案内により一つの部屋へと向かう、其処には一人の中年男性の姿があった。

 「オイ、起きろ…」
 「…んあ~?いつものクロ助じゃねぇな」
 「黙れバドラック、刑を減らして欲しいんなら働け」

 ロウファの言葉に鼻で笑うバドラックと呼ばれた男性、彼はかつて魔導師暗殺により逮捕された人物で、今は此処に収容されている。
 バドラックはロウファの依頼を聞くと笑い始める。

 「そりぁいい!ソイツは俺向きの仕事だな!」
 「ほぅ何故だ」
 「そりゃあおめぇ、俺ぁ“口が達者”なんだよ」

 昔はそれでよく人を騙し金を稼いでいたと自慢するように話すバドラック、
 だが、それに対し冷たい目線を送り役に立つのか不安になるロウファであった……







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最終更新:2009年06月09日 18:51