襲撃から一夜開け、被害を免れた一部の地上本部局員は本局と連携をとり事態の収拾に着手していた。
 そして、その甲斐があってか崩壊した機動六課隊舎の瓦礫を早急に除去、避難シェルターの入口を発見し無事救助
 更に近くに倒れていたフォワード陣もまた早急に聖王医療院へと搬送された。

 一方でスバルの後を追っていたティアナは右腕に怪我を負って倒れているスバルを発見、
 ティアナは傷口を見るや否や先端技術医療センターと連絡を取り、その後に現れた搬送車によって搬送、ティアナも同行者として乗り合わせた。

 そしてなのはの身を案じていたフェイトは医療院に辿り着くと、うつ伏せの状態で倒れているなのはを発見、
 すぐさまなのはを抱え医療院に向かうと院内ではヴァイスとシャッハが治療を施されてる姿があり、
 フェイトは二人から事情を聞き、ヴィヴィオが攫われた事を知るのであった。


                     リリカルプロファイル
                      第二十二話 扉


 …事件から一週間が経ち、ミッドチルダ全土は今回の事件で持ちきりな状態が続いている。
 マスメディアの一部はスカリエッティの所業、管理局の失態などを取り扱っているが、その多くは最高評議会の声明を取り扱っていた。

 最高評議会は神の三賢人と呼び名を変え、巨大な次元航行船ヴァルハラにてミッドチルダ全土を破壊すると宣告した。
 つまり“未曾有の危機”は彼等三賢人の手によって起こされるという事を指し示す声明である。
 その事をマスコミは管理局には責任があると報じるが、管理局側は今回の事件は最高評議会の独断による声明で、我々管理局の意向ではないと表明した。

 そしてその意を民衆に伝える為、三賢人が関わる事件に関わった人物の逮捕に勤めていた。
 今まで三賢人に関わる事件は改ざん、削除、抹消されていたのだが、
 ある男の死によって無限書庫に存在する事件簿の情報が復活を遂げ、その情報を基に次々と逮捕する事が出来たのである。
 そして今回の逮捕劇の要であるこの情報は功労者の名を取りレジアスレポートと呼ばれるのであった。

 話は変わり此処聖王医療院の通路に右手には花束、左手にはフルーツの盛り合わせが入ったバケットを携えたフェイトが歩いていた。
 フェイトは今回の事件で負傷・入院をしたエリオとキャロ、そしてなのはの見舞いに来たのである。
 そして暫く通路を歩きエリオとキャロの病室に入るフェイト、
 二人は窓側にキャロ、その隣にはエリオと並ぶように位置をとっていた。

 『フェイトさん!!』
 「二人共、お見舞いにきたよ」

 そう言うと花瓶に花を生け、台にバケットを置くと二人の間に座るフェイト。
 二人はフェイトの顔を見て明るい表情を見せるが、すぐに暗い表情を覗かせる。
 二人は今回の戦闘で大きな傷を残していた、それは肉体ではない心の傷である。

 ――元々…アナタ達に居場所なんて無いでしょ…――

 二人が対峙した少女、あの少女が放った言葉が今でも二人の心に深く刺さっている。
 居場所……二人の居場所である機動六課隊舎は既にもう無い、それは即ち自分達の居場所はもう無いという意味と同義であると考え落ち込む二人、
 すると二人の表情を見たフェイトは、椅子から立ち上がり二人に近づくと優しく頭を撫でる。

 「大丈夫、私は此処にいる、二人の“居場所”はちゃんと此処にあるんだよ?」

 フェイトの言葉に二人はフェイトの顔を見上げる、二人は何も一言もフェイトに胸の内を話してはいなかった。
 しかしフェイトにはちゃんと二人の気持ちを理解していたのだ。
 そしてフェイトは言葉を続ける、確かに隊舎は無くなってしまった。
 でも“居場所”とは自分が“居る場所”だけを指し示している訳ではない、
 自分が安心する・出来る所、つまり“拠り所”という意味も指し示していると優しく語る。

 「…それとも私じゃ、二人の“拠り所”になれない?」
 『そんなことありません!!』

 二人はフェイトの問い掛けに声を合わせ力一杯否定する、自分達が此処にいるのはフェイトさんが拾ってくれたから、
 もしフェイトさんと出会わなければ、自分達はずっと施設に居たかも知れない。
 そう二人はフェイトに感謝の弁を述べると、自分達の心からある感情が湯水のように沸き上がる。
 …自分達にはフェイトさんという“居場所”が“拠り所”あるんだ!
 そんな喜びと安堵の感情を感じた瞬間、二人の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。

 「あっあれ?……悲しく……ないのに…何で?」
 「…人は安心した時にも…涙が出るんだよ?」
 「…うぅ……フェイトさん!!」

 フェイトの屈託のない笑顔に二人はフェイトの胸の中で泣き続け、二人の涙をその胸で優しく受け止めるフェイトなのであった。

 そして二人は泣き疲れ眠りにつくと、フェイトは次の目的地であるなのはの病室へと赴く。
 その時、向かい側からシグナムが姿を現す、どうやら同じく入院しているザフィーラとシャマルの見舞いを終え、
 今度はヴィータの見舞いに向かうところのようである。
 フェイトは軽く挨拶を交わすとシグナムは少し影を潜めた表情で返し、フェイトはシグナムの態度に首を傾げる。
 するとシグナムはフェイトに、医者に言われた事を話し始める。

 シグナムは二人の見舞いに来たところ医者に呼ばれ、二人…と言うよりヴォルケンリッターに関する変化が伝えられた。

 本来ヴォルケンリッターとは夜天の書の一システムで、
 騎士内でのリンクや主であるはやてから魔力を供給される事で得られる、無限再生機能などが上げられるが、
 それらの機能は初代リインフォースの消失によって薄まる、もしくは消失していった。
 だが、それらの事は前々から分かっていた事なのであるが、
 今回は更に肉体の再生能力が低下し人に近いレベルにまでに至っているという。
 つまりは重傷や致命的な傷を負えば“死”が訪れると言う事だ。

 だが人に近づいたとは言え、その治癒力は高く、寿命や肉体の成長は起きないと付け加えられたと話す。

 「そうですか…皆さんにそんな変化が…」
 「あぁ…だがまぁいいさ、せっかく手に入れた“一度きりの生”だ、有意義に楽しむつもりだ」

 そして今回の内容をヴィータにも話すつもりであると、人に近づいたとは言え肉体は成長しない…
 ヴィータはさそがし悔しがるだろうと、意地の悪い顔をしながら笑みを浮かべるシグナム、
 その笑みに頬を掻き苦笑いをするフェイトであった。

 シグナムと別れたフェイトは、なのはの病室に辿り着きベッドに近づくと、その姿は見受けられないでいた。
 するとフェイトはベッドの隣に置いてあるハズの松葉杖が無いことを確認、
 恐らく“アノ”場所へと向かったのだろうと判断すると病室を後にした。

 此処は医療院の屋上、此処にはブランコや滑り台、砂場などがあり、まるで公園のような造りをしていた。
 そしてその場所に存在するベンチにて右側に松葉杖を置き、
 右手にはレイジングハートを握り締めた病院服姿のなのはが座り空を見上げていた。

 なのはは今回の事件で使用したブラスターシステムの反動により、肉体・リンカーコア共にダメージが蓄積、
 魔力は最大値の8%も低下し、肉体も松葉杖がなければ動けない程なのである。
 その為此処医療院にて治療兼リハビリを受けているのだ。
 そしてなのはの姿を見かけたフェイトは優しく声をかける。

 「やっぱり此処にいたんだ」
 「あっ…フェイトちゃん……」

 フェイトの声に気が付いたなのはは、顔を向けるがすぐに空を見上げる。
 その反応にフェイトの表情は少し陰りを見せるもなのはの隣に座る、そして暫く静寂に包まれると一つの風が二人の髪を靡かせる。
 その風に髪を乱されたフェイトは、指で髪を解くと、なのはの口が開き始める。

 「…私、ヴィヴィオを護れなかった……」

 小さくか細い声で言葉を口にすると目線を下ろし遊具を見つめる。
 なのはの目にはブランコを漕ぐヴィヴィオや、一緒に砂遊びをしているヴィヴィオの姿が幻影の様に映し出していた。
 そしてそれらが蜃気楼の様に消え去ると、今度は目線をレイジングハートに変え握り締めると、ゆっくりと話し始める。

 自分はヴィヴィオと約束した、ヴィヴィオを絶対護ると。
 そして自分のモットーでもある全力全開でレザードに立ち向かった、
 しかし結果はなす統べなく倒され簡単にヴィヴィオは攫われてしまった。
 なのはは自分の弱さを歯噛みするも、もう自分には何も出来ないと諦めに近い表情を見せ話し続ける。
 するとフェイトはベンチから立ち上がりなのはの前に佇む。
 それに気が付いたなのはは顔をフェイトに向けると、辺りに乾いた音が響き渡る。
 なのはは痛む左の頬を押さえフェイトを見つめると、フェイトは怒りにも悲しみにも似た表情を表していた。
 そしてフェイトの怒号ともいえる声が辺りに響き渡る。

 「しっかりしてなのは!そんなの…なのはらしくない!!」
 「フェイトちゃん……」

 フェイトの怒号の後に風が一つ激しく吹き収まると、フェイトは話し続ける。

 十年前、なのはは自分と何度も対峙した、決して諦めずに自分を救おうと、そして友達になる為にも…

 はやてが闇の書に飲み込まれた時、決して諦めず救おうとしていた、
 そして闇の書を消し去る時も管理局の切り札であるアルカンシェルを地上に向けて発射する事に対して、
 決して諦めずに策を練り見事、闇の書を撃破した。

 八年前の撃墜の時も、二度と飛べないかもしれないと伝えられても、決して諦めずリハビリを受け見事に復活した。
 そんないつも諦めない不屈の心を持つなのはが吐く台詞では無いとフェイトは叫ぶ。

 「攫われたのなら取り返せばいい、私の知っているなのははそう言う人のハズ……」
 「フェイトちゃん……」

 フェイトの叱咤の混じった励ましに俯くなのは、暫く沈黙が辺りを支配し
 風が二人の髪を靡かせると、なのはは俯いたまま静かに言葉を口にし始める。

 「ヴィヴィオ…今頃泣いているかな?」
 「そうだね…アノ子は泣き虫だから…」

 フェイトはそう言うと俯いたまま一つ笑みを浮かべヴィヴィオを思い返すなのは…

 最初ヴィヴィオに出会った時はシャッハにデバイスで脅され泣いていた。

 機動六課で引き取った時、ザフィーラの大きさに驚き、ジクナムの顔を見て泣き出したこともあった、
 シグナムが珍しく落ち込んでいたのは見物だった…

 聖王教会にて話を聞きに向かおうとした時、ヴィヴィオが泣きながら離れず困り果てた事もあった、
 あの時程フェイトちゃんがいて良かったと思った事はなかった。

 そして…ヴィヴィオは今でも自分を探して泣いているハズである。
 そんな時に自分が塞ぎ込むわけにはいかない、ヴィヴィオは自分を待っているのだから!

 するとなのはは松葉杖を手に持つと歩き始める、その行動に思わずフェイトは声をかける。

 「何処行くの?」
 「リハビリに行ってくる」

 今自分に出来る事は先ず、この体を満足に動かせるようにする事
 そう話すなのはの瞳には不屈の炎が宿っていた。
 その炎を見たフェイトは、歩幅をあわせなのはの後をゆっくりとついて行くのであった。


 場所は変わり此処はゆりかご内に存在するスカリエッティの施設…
 部屋ではレザードとスカリエッティがチェスを嗜んでいた。
 スカリエッティは今こそ落ち着いてはいるが、一週間前は荒れに荒れていた。
 それもそのハズ、スカリエッティは綿密に立てた計画を実行に移し、計画は順調に進み見事地上本部を壊滅させた。
 そしてその光景を民衆に見せつけ管理局の無力さをアピールする算段であったのだが、
 最後の最後に事もあろうに三賢人に回線を乗っ取られミッドチルダ壊滅を宣言されたのだ。

 三賢人はスカリエッティが行っていた計画をお膳立てとして利用し、ミッドチルダの終焉をアピール
 更にはヴァルハラと言う次元航行船を見せつける事で、絶望感を与えたのである。

 最も忌むべき存在である三賢人にまんまと利用されたスカリエッティはモニターを叩き割るほどに怒りに震え、
 その後のメディアの対応に新聞を破り捨てテレビを消すなどと、怒り心身といった状態が続いていたのであった。

 「もう、怒りは収まりましたか?」
 「……正直、ハラワタが煮えくり返るほどの怒りは残っているが、その怒りは奴らと出会った時に発散するよ」

 それよりも今はヴァルハラの分析が優先だとスカリエッティは話しつつ城兵〈ルック〉を動かす。
 スカリエッティの見解では、ヴァルハラは此処ゆりかごとほぼ同格の能力を持っていると考えている。
 何故ならば、かつて三賢人はゆりかごの解析の為スカリエッティを此処に送り込むが、
 スカリエッティはゆりかごを奪取し、此処を拠点としたのだ。
 本来では三賢人は奪取されたゆりかごを血眼で探すのが普通であるのだが、捜索は簡単に打ち切られた。
 それには訳があったのだ、その頃には既にゆりかごに取って代わるヴァルハラを建造していたのだろう。
 つまり、ゆりかごを諦める事が出来る程の能力がヴァルハラにはあるとスカリエッティは考えていた。

 すると今度はレザードが話し始める、ヴァルハラが陽炎の様に消えた技術、あれはまさしくルーンによる物だと。
 つまりヴァルハラにはレザードの世界の呪法が使われているという事である。
 レザードの話ではルーンの一部にはレザードの世界でも失われた呪〈ロストミスティック〉と呼ばれるほどの呪式が存在する。
 それらが使えているということは、レザードと同じ世界から来た者がいるか、もしくは情報を持っていることを指し示す。

 「成る程、それは厄介だ、ところでナンバーズとタイプゼロの方はどうなっているんだい?」

 スカリエッティの質問に対し眼鏡を動かし騎士〈ナイト〉を動かすと説明を始めるレザード。
 先ずナンバーズであるが、ノーヴェは失った右足の治療を終え現在リハビリを行っている。
 次にチンクであるが体に違和感を感じている為、医療ポットで治療、今はそれも終え元気に模擬戦を行っていると。
 次に回収した戦闘機人を調査したところ、我々が造り出した戦闘機人とは全く異なり、人に近い造りをしているという。
 そして失われた左手はギミックアームとして修理を施し、更に洗脳までも施したのだが、
 只の洗脳ではなく心の奥底に存在する感情を利用していると語る。

 「彼女の奥に潜む感情……それは自分が地味であるという事
  即ち、彼女の地味な性格を利用する事により、もっと目立ちたいという感情を芽生えさせ
  その結果、派手な破壊工作を行う事が出来るのですよ……」
 「…………それは…冗談かね?」
 「…………当然、冗談ですよ」

 手を広げ肩を竦めるレザード、その態度に頭を押さえるスカリエッティ、
 レザードの説明はリアリティがありすぎると窘めると、レザードは眼鏡に手を当て本当の説明を行う。

 彼女の根底にある感情、それは妹に対しての愛情、それを引き出すことにより他のナンバーズと連携をとれるようにしてあると語る。
 論より証拠、取り敢えず見て欲しいと言わんばかりにレザードはモニターを開き、ナンバーズの様子を映し出す。
 モニターにはナンバーズの一人、ノーヴェとギンガがリハビリを兼ねた模擬戦をしている姿や、
 セインとウェンディと楽しく談話している様子、更にはオットーとディードと一緒に食事をとり、面倒を見ている様子が映し出されていた。

 「………見事に順応しているね」
 「えぇ、計画通りです」

 ナンバーズには腹違いの姉……もとい生まれが違う姉と紹介したところ、以外とすんなり受け入れられた。
 故に此処まで順応しているのだろう、と言うのがレザードの展開である。

 「そう言えば聖王はどうです?」

 レザードの質問に顔を曇らせるスカリエッティ、暫くすると大きくため息を吐き女王〈クイーン〉を動かし近況を報告する。
 鍵であるヴィヴィオの肉体は幼くリンカーコアも弱い、其処でレリックを使って魔力を上昇させ、ゆりかごを起動させるだけの肉体と魔力を補うと話す。

 するとレザードから一つの提案が生まれる、それはベリオンに搭載されているリンカーコアを使うと言うものだ。
 だがゆりかごは聖王の“遺伝子”がなければ機能しないとスカリエッティが主張すると、更に話を続ける。
 先程のスカリエッティの主張通り、ゆりかごを動かすには聖王の血筋、つまり“遺伝子”が必要である。
 つまり別に聖王自身が必要というわけではない、“遺伝子”と言う鍵があればいいのである。
 故にベリオンのリンカーコアと接続させたレリックからもたらされる魔力を、
 “聖王の遺伝子”に通す事により“聖王の魔力”に変えゆりかごを起動させると言うものであった。

 「可能なのかね?」
 「理論上不可能では無いハズです」

 リンカーコアとレリックの強制接続はゼストのデータを基に可能であり、
 リンカーコアと“遺伝子”は人造魔導師と戦闘機人技術の応用で何とかなると、
 そして“遺伝子”提供は鍵から手に入れればいいと眼鏡に手を当て話すレザード。

 「……となると、あの“鍵”はどうするのかね?」
 「まぁ、レリックウェポンとしても優秀ですから、戦力として使えるでしょう」

 いざとなれば、ベリオンのサブとしても利用価値はあるとレザードは話す。
 そしてレザードは笑みを浮かべ城兵を動かし、チェックメイトをかけるのであった。


 それから一週間以上が経ったある日、此処聖王教会に存在する会議室では、今後の対策の為の会議が行われようとしていた。
 会議室にはカリムを中心に右の席にはクロノとその側近であるロウファにユーノ、
 左の席にははやてとその側近であるグリフィスにフェイトとリハビリにより、
 体はある程度動けるようになったなのはの姿があった。

 そして予定された時間になり会議が開始され、最初にカリムが語り始める。
 今回、地上本部壊滅を防ぐことが出来ず、予言は覆らなかった。
 更に三賢人の発言によりスカリエッティが“無限の欲望”であると判明、
 それと同時にレザードが“歪みの神”であることは間違いないと話す。
 そしてレジアスレポートにより復活した無限書庫に存在するデータベースにより、様々な事実が明らかにされたと語る。

 そして議題は三賢人に関する内容に移り、ロウファが席を立ちモニターへと赴き説明を始める。
 先ずはヴァルハラからの説明であるが、レジアスレポートを元に調査した結果、
 ヴァルハラとはミッドチルダの魔導技術を基に、アルハザードの技術とロストロギアであるレリックを使った次元航行船であると言う。
 レリックは本局と地上本部に保存されていた物を横流しする事により入手、
 アルハザードの技術は三賢人が元々持っていた情報である可能性が高いと指摘、
 だがアルハザードの技術の情報はレジアスレポートの情報だけではなく、“独自”のルートによる情報が功をそうしたとロウファは語る。
 更にヴァルハラの性能は最新の次元航行船を大きく越えた性能を持つ、まさに現代の技術によって作り出されたロストロギアであると説明を終える。
 次にエインフェリアであるが、此方にはルーンと呼ばれる技術が使われており、ヴァルハラと同じ扱いであると簡単に説明を終える。

 次に今回の事件の発端でもあるスカリエッティに関する情報であるが、此方はグリフィスが席を立ち説明を始める。
 今回の事件でティアナが入手したディスクとレジアスレポートの情報を基に奴らの場所を特定、聖王のゆりかごと呼ばれる次元航行船に存在すると説明する。
 聖王のゆりかごとは、古代ベルカの王が使用していた質量兵器で当時は戦船と呼ばれた代物である。

 「歴史的価値がある聖王のゆりかごが、このような形で表に出るとは悲しいことです」
 「……その通りですね」

 カリムの言葉に頷くユーノ、だがグリフィスは更に話を続ける。
 ディスクの持ち主の話ではゆりかごにもルーンと呼ばれる技術が使われており、
 ゆりかごの他にもヴァルハラ、エインフェリアの動力源に使われ、更には不死者の脳に刻まれた呪印もそうであるという。
 このルーンの情報はレジアスレポートによって復活した無限書庫のデータベースを基に手に入れた魔導書によって解ったことである。
 更に元々ルーンはロストロギアともアルハザードの技術とは異なる技術で、
 無限書庫の奥深くに隠すように保存されていたという。
 そしてこのルーンはスカリエッティ側、三賢人側、両方にもたらされている技術であることは間違いないと判断する。

 「つまり…おんなじ技術が両方で使われているっちゅう事か……」

 誰かが無限書庫の情報を横流ししたのか、それともただの偶然か…
 だがどちらにせよ、驚異である事には変わりがないと考えるはやて。

 次に対策であるが、先ずカリムは居場所が特定されているスカリエッティの方から攻略を始めた方がよいと考えを述べる。
 何故ならば予言を考慮すると三賢人は“神々の黄昏を告げる笛”が鳴り響くの待っている可能性があるためだ。
 ゆりかごはルーンによって存在次元をずらされているのだが、無限書庫の情報により短い時間ではあるが、
 ルーンを中和する事が出来ると判明、その間に潜入・大本であるルーンを解除するという。
 その役はカリムの義弟であるヴェロッサと、彼が信頼する仲間が行うという。

 次の対抗策であるが、戦力として教会騎士団も協力するとは言うが、一斉に黙り込む一同。
 片方は現代の技術によって作り出されたロストロギアの塊で武装した三賢人…
 もう片方は過去に幾つもの世界を滅ぼしたロストロギアを保有した歪みの神と無限の欲望…

 この二大勢力に幾ら聖王教会から戦力を借りたとしても満身創痍の管理局が向かったところで勝ち目はない。

 「本局に応援要請はでけへんの?」
 「…本局は次に狙われる事を考慮して戦力を温存しようとしている、十中八九無理だな」

 クロノの発言にそれぞれは落ち込む表情を見せる中、ユーノがそっと手を挙げる。

 「現実的じゃないけど、手は無い訳じゃないんだ」

 そういうと一つの本を取り出す、本の表紙には円に囲まれ中心には正三角形が均等に並ぶ魔法陣が描かれていた。
 レジアスレポートによってもたらされた情報は何も最高評議会だけではない、
 削除された為、永久的に解けなかった謎が解け、新たな情報に繋がる場合も存在していたのだ。
 そしてこの本は、それによって表に出た本であると説明する。

 無限書庫には二通りの情報の保存方法がある、先ずは物質による保存法つまり本である、
 もう一つは無限書庫の奥の奥、原初の頃から存在する今でも解析不可能なエネルギーによる電子的な保存法である。

 そして物質的な保存法であるこの本には特殊な力場によって時間劣化が起こらないように出来ているという。
 恐らく表に描かれている魔法陣による効果であるとユーノは興奮するように説明すると、
 周りの冷ややかな目線に気が付き、自重するように一つ咳をすると話を戻す。
 この本の題名は流浪の双神と書かれ、ある神の話が書かれているとユーノは語る。

 …双神は時間・世界・事象のあらゆる次元を渡り歩く放浪者…
 神の名は男神ガブリエ・セレスタと女神イセリア・クイーン…
 神は強き者を好み、自らが生み出した世界にて強き者を待っている…
 そして神が与えた試練を乗り越えた者のみ神と対峙する権利を得られる、
 そして神にその強さを認められれば、神は力を貸すという内容なのである。
 更にこの本には神の住まう世界セラフィックゲートへの扉の位置が記されているとユーノは語るとクロノが声を荒上げる。

 「バカな!こんな世迷い言を信じろと?」
 「僕も最初はそう思ったさ、でも此処に記載されている扉は実際に存在するんだ」

 ユーノの一言に一同は動揺しざわめく中、話を続ける。
 此処に記載されている場所の説明と今の地形、更にこの時代の地形を照らし合わせた結果、その場所は此処聖王教会の地下と判定、
 そこでカリムの協力を得て調査すると近くに鍾乳洞があり、そこから地下数千メートルの位置に存在する空洞を確認、
 其処には本の表紙に書かれている魔法陣が描かれていたという。
 つまりこの本の信憑性が実証されたと言う事である。

 神の世界への道は見つけた、次に誰が向かうのかであるが、はやては機動六課のフォワード陣を現地に向かわせる事を提案する。
 しかしなのはだけには留守番をするように命じた、何故ならば未だ体が万全ではない為、治療に専念させる為にである。
 しかし周りの制止を無視して自分も行くと聞かないなのは、
 その瞳には決意と不屈の色が宿っており、はやてはこうなったなのはを止める事は出来ない考え、渋々了承する。

 そして現場には明日向かうことで会議は終了、早速なのはとフェイトは今回の決議を他のフォワード陣に伝えるのであった。


 その日の夜…、此処聖王教会の敷地内に存在する中庭にて、なのはが一人ベンチに座り物思いに呆けるように夜空を見上げていると、
 そこに一つの影が姿を現す、なのははその影に気が付き目を向けると、其処にはユーノの姿があった。

 「あっユーノ君…」
 「お邪魔だったかな?なのは…」

 ユーノの言葉に首を振り屈託のない笑顔を見せると、ユーノはなのはの隣に座る。
 辺りは沈黙に包まれ、虫の鳴き声が静かに響き渡る中、静寂を優しく切るようにユーノの口が動き出す。

 「……ヴィヴィオの事、考えてたの?」
 「……うん」

 ユーノの問いかけになのはは一つ頷くと静かに話し始める。
 最初はあの男、レザードの言う通り同情の目でヴィヴィオを見つめていた。
 しかし共に過ごしていく内に自分の心にヴィヴィオへの思いが広がっていった。
 レザードはそれを同情から生まれたの優越感だと罵ったが、自分はそう思ってはいない。
 自分の心に広がるヴィヴィオへの思い…それは絶える事無く募っていく。
 自分の思いは本物である!そう確信した瞬間、心の底でヴィヴィオの母親になりたいと思うようになった。
 そう語るなのはの目には迷いは無く、決心に満ちた色を宿していた。

 「もう自分の想いに嘘をつきたくない!」
 「そうか……それじゃあ僕も自分の想いに正直になろうかな」
 「えっ?」

 ユーノの言葉に驚き顔を向けると、ユーノの唇がなのはの唇に重なり合う。
 暫く沈黙が続き唇を離すと、なのはは頬を染めユーノに目を向けると、
 其処には男の顔をしたユーノ・スクライアの姿があった。

 「なのは…愛しているよ」
 「ユーノ……君」
 「こんな時にこんな事を言うのは卑怯かもしれないけど…」

 なのはが自分の想いに正直になったように、自分もまた、自分の想いに正直なろうと。
 十年前に出会ってから、二人はそれぞれの道を歩んで来た。
 だがそれでも自分は、なのはの支えとなろうと努力してきた。

 なのはの支えになる…その想いは昔も、今も、そして未来も変わらない、
 二人の絆が消える事は無い、寧ろ堅く結ばれていくのを感じている。
 そして照れ臭さそうな笑みを浮かべ更に話を続けるユーノ。

 「それに…ヴィヴィオには男親も必要だと思うし……」

 そんな事を口走ると今度はなのはから目線を逸らし俯くユーノ、自分はヴィヴィオを盾にして告白する破廉恥な男と感じ恥じていたのだ。
 そんなユーノの態度になのはは笑顔で、そんなことは無い…ユーノはヴィヴィオの為を思って言ってくれた言葉であると理解を示し、
 更に顔を真っ赤に染め小さく頷くと意を決したように話し出す。

 「ユーノ君…私を“女”にして」

 そう言うなのはの顔は真っ赤に染まったままだが、その目は真剣そのものである。
 レザードの話ではないが、自分は母親になる前にユーノの“女”になりたいと望んでいる。
 その言葉にユーノは無言になるが、その目にはなのはと同じく真剣そのものであった。

 その目を見たなのはは目をゆっくり閉じると、ユーノは優しく答えるように、なのはの肩を抱き締め
 唇を重ね合わせ、二人だけの夜が始まり更けて行くのであった。


 夜が明けた次の日、聖王教会によって割与えられた部屋のベッドの上には上半身裸のユーノのが寝ており、その近くではなのはが制服に着替えていた。
 すると着替える音に気が付いたユーノが上半身を起こすと、それに気が付いたなのはが目を合わせる。

 「あっ起こしちゃった?“ユーノ”」
 「ううん、今起きようと思っていたところだよ、なのは」

 二人は軽く挨拶を交わすと頬を赤く染め上げるユーノ、どうやら昨晩のことを思い出していたようである。
 すると着替え終わったなのはが入り口に向かうとユーノに目を向ける。

 「それじゃあ、行ってきます、ユーノ」
 「うん、いってらっしゃい、なのは」

 二人は挨拶を交わしなのはは部屋を出る、そして凛とした態度で集合場所に向かうのであった。

 集合場所にははやてを中心にフェイト、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマルに
 スバル、ティアナ、エリオ、キャロとフリードリヒが並び立っていた。
 そして道案内にユーノの秘書を勤めているメルティーナの姿も見受けられた。

 「なのはも来た事やし、いっちょ行ってみますか!!」
 「うん!行こう、セラフィックゲートに!!」

 なのはの合図に全員は気合いを込めて返事をし、いざセラフィックゲートへと続く空洞へと向かうのであった。

 その道中、先頭を歩くメルティーナに続き、はやてとフェイト、少し離れた位置になのはの姿があり、二人はなのはの印象が変わったように見えていた。
 いつものような優しい顔だけではなく、ふと見せる凜とした大人の顔が垣間取れていたのだ。
 たった一晩で一体なのはに何が起きたのか?…二人は首を傾げていた。

 「なのは、昨晩何かあったのかな?」
 「さぁ?分からんなぁ~」
 「彼女はきっと“女”になったのよ」

 二人のヒソヒソ話に耳を傾けていたメルティーナが二人の疑問に答える。
 その答えにはやてはニンマリと不気味な…イヤらしい笑みを浮かべ、フェイトはキョトンとした表情を表していた。
 メルティーナの“女”の勘では、恐らく相手は十中八九ユーノであろうと小声で話す。
 はやては、そんな面白い事があったのなら、なのはの後をついて行けば良かった…と冗談混じりに考えるが、
 ディバインバスターにて吹き飛ばされるのは必至と考え身震いを起こし自分の考えを自重する。
 そして戻って来れたら色々な意味で祝杯として、はやて直々に赤飯を炊こうと考えるのであった。

 それから数時間、道なりに歩き目的の場所である空洞へと赴く一同。
 空洞は広く天井も50mはあると思われる程に高く、地面には巨大な魔法陣が描かれており、資料と全く同じ作りをしていた。

 「それじゃ、私は帰るわ、後はがんばって」

 そう淡白にメルティーナは挨拶を交わすと、そそくさと地上へと戻って行く。
 そして一同が残されると、先手をとってなのはが魔法陣に踏み込む。
 それを皮切りに次々と魔法陣に踏み込みちょうど中央に集まると、
 三角形が一ずつ光り出し、最後に円が輝き出すと周りは白い光に覆われ始める。

 「いよいよやな!みんなぁ、気ぃ引き締めていくでぇ!!」

 はやての掛け声に一同は気合いを込めて返事をすると扉が起動、
 機動六課フォワード陣は光に包まれ、この世界から消え去り神が住まう世界、セラフィックゲートへと向かうのであった……







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最終更新:2009年07月01日 21:24