今から150年以上前…あらゆる次元世界に戦いが蔓延していた頃、ミッドチルダに三人の魔導師が存在した。
 三人の魔導師は、ミッドチルダ南西部のとある地方において謎の石を発見する。
 その石は真っ二つに割れたかのように欠けていて、外見はただの石であった。

 …しかし石の内部には謎のエネルギーが残留しており、更にそのエネルギーを解析すると、
 エネルギー内には魔法技術や質量兵器技術、果ては様々な世界の歴史など膨大な知識が保存されており、
 中には伝説級のアルハザードの技術や情報、神話級の魔法技術や情報が蓄積されていたのである。

 …これらの情報を知った三人の魔導師は、ある野望を抱く事となる。
 この情報と技術を応用・併用すれば、この次元世界を纏め上げ事すら不可能ではない。
 それは正に神の所業、つまり我々は神になる事が出来る…
 三人の魔導師は互いに協力し合い、神になる為の道を歩み進む事となった…


                 リリカルプロファイル
                  第二十八話 角笛


 …その後、三人の魔導師は石の情報を基に次元世界を纏め上げ平定、
 75年後にミッドチルダに時空管理局を設立し、三人は最高評議会と名を変え表舞台から姿を消す。

 設立から月日が経ち、石を中心とした巨大なデータベースを保有した超巨大次元船を設立、
 その後次元船は本局と名を変えデータベースもまた無限書庫と名を変え現在に至るのであった。


 そして現在…ミッドチルダに東部の森に存在する洞穴の前に三人の人影が存在する。
 ヴェロッサ、シャッハ、アリューゼである、彼等はなのは達がセラフィックゲートに向かっている頃
 スカリエッティの居場所兼ラボである聖王のゆりかごへの潜入と魔法技術のルーンを解除の為に、
 ティアナによって齎されたディスクの情報を頼りに此処へと赴いたのである。

 「…しかし来たのはいいが、どうやって潜入する?ルーンって奴で存在次元を曲げられてんだろ?」
 「勿論、此方にもそれなりの用意はあるさ」

 アリューゼの疑問にヴェロッサは答えると、懐から液体が入った二つの瓶を取り出す。
 ルシッドポーション、これは無限書庫に記載されていたルーンの情報を基に、一時的に存在次元をずらし透明にするものであるという。
 つまりはルーンが起動している時と同じ現象を作り出す代物なのだが、効果は五分程度であるのが弱点であると付け加える。

 「でも五分もあれば僕のレアスキルで潜入することは可能だからね」

 そう言うとヴェロッサの下に半透明の猟犬が多数姿を現す、ウンエントリヒ・ヤークトと呼ばれるヴェロッサの魔力を用いて
 目視や魔力深査に対し高いステルス性を誇る猟犬を作り出すレアスキルであり、
 更にコンピュータにアクセスしての情報収集や、障害物を通り抜けたりする事も出来るのである。
 そして今回はルシッドポーションを猟犬に振りかけることで、効果を与え侵入を可能とするものであった。

 「でも…君が潜入するとはねぇ」
 「何だ?まだ文句があんのか?」

 …本来アリューゼはこのような任務は得意ではない、寧ろシャッハの方が能力的に適している。
 しかし今回はアリューゼたっての希望でヴェロッサ達に嘆願し、シャッハに代わって潜入する事になったのだ。

 「まぁいいさ、とりあえずがんばって」

 ヴェロッサは一つ挨拶を交わすと開始時間となり、アリューゼは受け取った瓶の中身を飲み干し
 ヴェロッサは猟犬達に振りかけると徐々に姿を消し見えなくなる。

 だが本人達は消えた事が分からないようなのであるが、五分しか保たない為に急いで洞穴を通る。
 …比較的長い洞穴を駆け足で抜けると広い空洞に当たり、中には巨大な船の姿がある。

 「これが…ゆりかごか……」
 〔惚けてる時間はないよ〕

 猟犬からヴェロッサの窘める言葉が響く中で、入り口らしき場所を見つけると
 猟犬は早速ハッキングを仕掛け、直ぐに扉を開けると飛び込む形で乗り込み直ぐ様扉を閉める。

 「大丈夫なのか?」
 〔うん、痕跡は残していないからね〕

 直ぐにバレるようじゃ査察官は務まらないと猟犬から笑い声が響く中で、
 ヴェロッサは直ぐに真剣な口調へと変え此処から先は二手に別れようと提案する。
 自分は引き続きルーンの解除とスカリエッティの居場所の詮索
 アリューゼはアリューゼが望む事をしてくれと説明を終える。

 「気付いていたのか……まさか!てめぇ思考捜査を!?」
 「…君は簡単に顔に出るんだよ」

 嘆願の頃からアリューゼは何かを胸に秘めていたのが分かっていた、だからシャッハも快く代わってくれたと話すと
 頬を掻いてばつの悪そうな顔をするアリューゼ、それを後目に猟犬はゆりかごに放たれ、
 アリューゼもまた自分のすべき事の為、先に進むのであった。


 場所は変わり翌日の朝、此処はミッドチルダ北部聖王教会から更に北に位置する雪に覆われた巨大な山
 此処は年中雪に覆われており、梺の村では大雪山と呼ばれている場所でもある。
 その極寒の地の奥にある木々が大茂る森の中に、一カ所だけ切り取られたかのように草木が生えていない場所がある。

 其処には青い線で描かれた魔法陣が刻まれており、その前に一人の女性が立っていた、メルティーナである。
 メルティーナは無限書庫の情報によりこの場所を知り、なのは達を送った後此処へ赴いたのだ。
 そしてメルティーナは徐に魔法陣に手を伸ばし触れると、無限書庫で得た詠唱を始める。

 「…極寒の地にて眠りし冷厳なる魔狼よ…我が前に姿を現せ!!」

 すると魔法陣が輝き出し、中央から巨大な狼が姿を現す。
 メルティーナが呼び出した狼は、かつてこの地域で信仰されていた伝説の狼なのであるが
 傲慢な態度と我が儘な行動で誰にも従わず好き勝手に暴れまわり、
 結果的に人々から畏怖の念で見られ此処に封じられた存在なのである。

 そんな狼の体は大きく氷のような青い体毛に覆われ、首下には金色の首輪が付けられており、
 目は赤く輝き口から白い息が漏れ出す中で、狼はメルティーナに問い掛ける。

 「俺を呼び出したのは貴様か?」
 「そうよ、私の名はメルティーナ、率直に言うわ、アンタの力が欲しい!!」

 メルティーナは狼に指を指して答えると、狼は大声を上げて笑うとメルティーナの申し出を断る。
 狼曰く…俺は俺の為に生きており、誰かの…ましてや女に使役されるつもりは無いと、傲慢に満ちた表情で答える。

 だがメルティーナも負けてはおらず徐に左手を狼に見せると其処には、金色の絹糸のような紐で出来た腕輪が付けられており、
 その腕輪を見た狼の表情が一転する。

 「貴様!何故それを…グレイプニルを手にしている!!」

 メルティーナが身に付けている腕輪の名はグレイプニル、狼の首に付けられた金色の首輪と同じ材質で作られた封印の切っ掛けとなった代物である。
 …かつてこの地を訪れた高僧が片腕と引き替えに取り付けた物で、この腕輪を身につけた者に逆らう事が出来ず
 それにより狼は封印され、腕輪はこの地に安置されていたのだが、管理局が腕輪をロストロギアと判断した為、場所を本局へと移し
 永らく本局の保管庫内で埃を被っていたところを、無限書庫の情報によって知ったメルティーナがパクっ………借りたのである。

 「これさえあればアンタは私に逆らえない!」

 メルティーナは狼以上に傲慢な態度で挑むと歯噛みしながら睨み付ける狼。
 しかしどれだけ悔しがってもメルティーナに逆らうことは出来ない
 何故ならグレイプニルは狼の動き全てに作用し、封じられ果ては意志に背いた形で動きを操られしまうからである。

 それを知っているからこそ、メルティーナはあの様な横柄な態度をとれるのである。
 ……尤もメルティーナ自身の度胸も関係してはいるのではあるが……

 「ぬぅ……仕方あるまい…しかし!寝首をかかれる覚悟はあるのだろうな!!」
 「ウルサいわね!アンタは私の飼い犬になっていればいいのよ!!」

 狼の威圧もメルティーナは横暴な態度と言葉で一刀両断し
 口を紡ぐ狼を見て更に見下すメルティーナであった。


 場所は変わり此処はゆりかご内の施設、中ではナンバーズ達が最終決戦に備えて模擬戦を行っており、
 その中には戦闘スーツで身を飾ったギンガの姿もあり、すっかり馴染んでいる様子であった。

 「では各自励むように…以上!!」

 トーレの掛け声を合図に解散するとチンクとトーレは最後の調整として話し合い始め
 ギンガはディエチと共に食堂へと赴こうとしていると、そこにノーヴェとウェンディが姿を現す。

 「どうしたの?二人とも」
 「二人に質問ッス!どうやったら二人みたいなコンビネーションが出来るんッスか!!」

 今回の模擬戦の中でギンガはディエチと組み、ノーヴェはウェンディと組んで行った。
 結果は一目瞭然でギンガの動きに合わせてディエチはウェンディの動きを牽制
 ノーヴェは真っ向勝負をかけるが、ギンガの動きはフェイントで、実はウェンディを狙っており

 ノーヴェはすぐさま追おうとしたところをディエチに出鼻を挫かれ
 ウェンディは焦りながらエリアルショットにてギンガを迎撃しようとするが難なく回避
 ライディングボードごとウェンディを叩き付け吹き飛ばし、一方でノーヴェはディエチの下へ向かおうとするが、
 ディエチは既にイノーメスカノンからスコーピオンに持ち替え迎撃、ギンガ達の勝利で幕を閉じたのである。

 二人の息の合った動きと更に言えばギンガの能力はノーヴェと酷似している為に、参考として聞きに来たのである。
 すると二人の向上心に感心したギンガは快く応じ、その中で休みたいのに引っ張り出されるディエチであった。


 その頃レザードの自室では席に座ったレザードがナンバーズ達とギンガの仕上がりを確認していた。
 仕上がりは良好で、特にギンガの洗脳は今までゆりかごで暮らしていたかのように順応しており、
 順応こそが最大の洗脳効果である事を証明していた。

 一方で戦闘面での仕上がりも良好で並の魔導師や不死者では相手にならない程まで成長している…と践んでいると、
 後方から助手であるクアットロが資料を持って話しかけてくる。

 「博士!強化型の不死者の量産の目処が付きましたよぉ」
 「それはよかった、では見せて貰いましょうか」

 レザードはクアットロが手にした資料を受け取ると流し読みする。
 資料にはドラゴントゥースウォーリアを始め、自爆を主としたウィル・オ・ウィスプ、後方支援に適したイビル・アイ、
 三体の獣を合成したパラミネントキマイラ、高い回避率を持つグレーターデーモンなど

 今までとは全く異なる強力な不死者の量産成功が綴られており、
 流石のレザードも眼鏡に手を当て喜びの笑みを浮かべ、それを見ていたクアットロもまた笑みを浮かべていると
 レザードのデスクのモニターに目がいき、つい質問を投げかける。

 「博士?これは?」
 「ん…これですか?対エインフェリア用の強化プランですよ」

 三賢人が造り出したエインフェリアは高性能で、多数の不死者で相手をしたとしても焼け石に水の状態は目に見えている、
 その為、質に対し量で適わぬのなら質を上げるしかないという考えに至ったレザードは、
 スカリエッティと共同でナンバーズのレリックウェポン化を決定したのだという。

 かつてレリックウェポンに使われているレリックは危険なロストロギアであったのだが
 二人のレリックウェポンやベリオンなどのデータにより、安定した魔力を供給することが出来る
 安全な高エネルギー資源へと生まれ変わった為、今回の強化プランを実行出来たのだという。

 レリックによる強化は身体強化が主なのであるのだが、
 トーレはインパルスブレードの出力強化、チンクはヴァルキリー化の際の能力向上
 セインはフィールドを用いた対消滅バリアを展開し、バリア・フィールドに覆われた場所もダイブする事が出来るようになり

 セッテはブーメランブレードをクロスに重ね手裏剣のような形で投げれるようになった事と、回転速度・精密度などの向上
 オットーは更なる広域攻撃化と結界の強化、ノーヴェは失った右足の強化と
 両足に加速用のエネルギー翼を展開する事でA.C.Sドライバークラスの突進力を実現させ

 ディエチは超遠距離の精密射撃の実現と弾頭の軌道操作能力
 ウェンディはセインと同様の対消滅バリアをライディングボードに展開させる事が出来るようになり
 ディードはツインブレイズのエネルギー刃を伸ばすことが出来るようになり、四階建てのビルなら両断出来る程の能力などが加わるのだという。

 「へぇ~それで博士私は?」
 「……貴女は前線に出ないでしょう?」

 クアットロは不死者及びガジェットの操作・制御を主にしている故に
 強化プランは必要無いと肩を竦め答えるレザードに対し、心なしか残念そうな顔をするクアットロであった。


 場所は変わりスカリエッティの研究施設では、ゆりかごの調整に勤しんでいた。
 そんな施設の中で二つの似つかわしくない物が存在している、
 一つは左手用で指先が鋭い金属で出来たグローブ型のデバイスと
 刀身が艶のある黒に禍々しい印象を感じる飾りが付いた鍔と片手用に短くなった柄の片手剣である。

 剣の名は魔剣グラム、かつて手に入れた妖精の瓶詰めを基に錬金術により変換した
 オリハルコンを材料に造られた剣型アームドデバイスである。
 恐らくこの世界で、レザード以外にアーティファクトを元にしたとはいえ、オリハルコンを作成したのはスカリエッティだけであろう。

 そしてもう一つは防と縛に特化したアームドデバイスで、此方は流石にオリハルコン製ではない。
 その二つのデバイスを目にしたウーノはスカリエッティに質問を投げかける。

 「ドクター?これは一体……」
 「あぁ、私専用のデバイスだよ」

 今回の戦闘は総力戦といっても過言ではない、自分が育てた“愛娘”達が負ける事はないと思うが
 万が一乗り込められた場合を想定して造ったと語ると
 ウーノは胸に手を当て大声を上げてスカリエッティに訴えかける。

 「大丈夫です!もし攻め込められたとしても、私が命を懸けて―――」
 「いや…ウーノにはもっと重要な任務がある」

 そう口にすると突然席を立ち、徐にウーノの唇に優しく手に掛け顔を近づけ、スカリエッティの突然の行動に顔を赤らめ目線を逸らそうとするが、
 スカリエッティの澄んだ瞳を避ける事が出来ず、じっと見つめ続けているとスカリエッティは静かに甘い吐息混じりで言葉を口にする。

 「……私の子を孕め」

 ウーノは他のナンバーズ、特に初期の三人の中で体の作りは人に近く、子供を孕む様に出来ている。
 それに…もし自分が消える事になった場合、自分が生きた“証”を残しておきたい。

 その一つは“歴史”であり、もう一つは“遺伝子”である、
 そして“証”の内の一つである“遺伝子”をウーノに受け取って欲しいと告げる。

 ウーノはスカリエッティの言葉を一字一句聞きながらもその瞳は逸らさず
 話を終える頃にはウーノの瞳は妖美に満ち、徐に上着を脱ぎ捨て、たわわに実った果実を晒し出すと
 スカリエッティに抱き付き、更に首に手を回して見つめ合うと、甘い吐息を吐くのように応えるウーノ。

 「…私の体はドクターのモノです……」

 その妖艶な笑みと口調にスカリエッティの理性が飛び、口付けを交わしながら実った果実に手を伸ばし
 倒れ込むように押し倒して、二人の濃密な時間が流れ始まるのであった……


 場所は変わり翌日の夜、聖王教会の会議室に対策本部を設置したクロノはユーノを始め本局、
 ゲンヤを始めとした地上本部と共に今後の対策を練っていた。
 しかしその面子の中にカリムの姿はなかった、彼女は自室にて翻訳された予言を読み返していた。
 予言の大半を読み返していると一つの文に目が行く、それは――

 “神々と死せる王が相対する時、神々の黄昏を告げる笛が鳴り響く”である。

 神々とは恐らく神の三賢人の事であろう…しかし死せる王とは一体誰のことを差すのであろう…
 歪みの神はレザード、無限の欲望はスカリエッティというのは、既に明らかにされている。

 今回の事件の張本人達が次々に明らかにされていく中で、死せる王が誰なのからない…
 故に不安は未だ拭えず眠れぬ夜が続いているのであった。

 翌日の昼、今日も朝から議論が交わされている中で一報が届く。
 それは神の協力を得る為に向かったなのは達機動六課前線メンバーが、今し方帰ってきたというものである。

 その一報を聞いた対策本部はざわめき始める、なのは達は神の協力を得られたのか?それとも敗北による撤退だったのか?
 いずれにしろ報告する為ここに顔を出すだろう…クロノがそう考えていると対策本部にノック音が響く。
 クロノは返事をするとなのは達が部屋へと入り、その顔は今までとは異なる程自信に満ちていた。
 その表情に淡い期待を胸に秘めながらクロノはなのは達に問い掛ける。

 「先ずは無事に帰って来て何よりだ……それで神の協力を得られたのか?」

 するとなのはとフェイトは互いに目を合わせ頷くと、腰に添えてある杖を見せる。
 この杖は神の協力を得た証拠であると話すと、対策本部は一斉に沸き立ち
 歓喜に満ちる中でユーノがなのはに抱きつきながら激励を込める。

 「やったね!なのは!!」
 「ちょ!?ハシャぎ過ぎだよユーノ」

 そう言ってなのはは顔を赤らめ照れていると、その様を見たはやてが出発前の事を思い出す。

 …そうだ!無事生還したらなのはと共にお祝いの赤飯を炊かねばならんかった…

 はやては歓喜に満ちた対策本部をこっそり抜け出して、食堂にある厨房へと赴く、
 そして暫くすると対策本部には赤飯に鯛の尾頭付き、更にビフテキにカツカレーなどがズラリと運ばれて来た。
 今回の祝杯と今後の栄喜を養う為に、はやて自らが腕を振るい更に監修して用意したようである。
 対策本部は一時宴会場と変わり、飲めや歌えやの大騒ぎとなっていた。


 翌日、場所は変わりスカリエッティの指揮の下、ゆりかごの最終チェックが行われていた。
 ゆりかごは当初、激しく損傷していたのだが、長い時間をかけて修復を完了
 そして動力炉に繋がれた聖王の遺伝子を所有したベリオンによる動力炉の起動確認も完了し、
 更に余ったレリックを使う事で動力エネルギーを手にする事が出来た。

 後はこの最終チェックを完了させればゆりかごを起動させる事が出来る、
 すると其処にレザードとクアットロが姿を現す、レザードの方は既に準備が完了しており、
 後はスカリエッティの演説と“ゆりかごの主”の合図を待つばかりであると。
 その時である、いつもいる彼女がいない事に気が付いたレザードはスカリエッティに問い掛ける。

 「おや?ウーノの姿が見当たりませんが?」
 「あぁ、ウーノは船を下りたよ」

 スカリエッティは最終チェックを行いながら淡々と答える。
 ウーノには重要な任務を与えた、しかしそれは此処ゆりかご内で出来る事ではない為
 彼女を船から降ろし任務に専念して貰ったのだと語る。

 その為、ゆりかご内の防衛及びガジェット・不死者の官制はクアットロに全て任せると告げると
 ウーノの代わりとはいえ責任ある任を受け、笑みを浮かべ喜ぶクアットロを後目に、逆にスカリエッティが質問を投げ掛ける。

 「ところで“聖王”の方はどうなんだい?」

 すると眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべると話し始める。
 “聖王”には“聖王”としての自覚を持たせ、更に王の印たる二つのレリックを取り付ける事により、
 “聖王”として完成を迎え、今はゆりかご内に存在する王の間にてその時を待っていると。
 …ただ、今の“聖王”はかつての姿とは異なり“貫禄”が身に付いていると語る。

 「ほう…それはすばらしい、では早速行こうか」

 レザードの会話の中で最終チェックを済ませたスカリエッティは席を立ち、
 王の間へと向かうと、あとに続くレザードとクアットロであった。


 そして夜…聖王教会の対策本部にはまだ灯りが灯っており、昼夜問わず議論が重ねていた。
 その時である、議論を提示するモニターにノイズが走り映像が切り替わると、スカリエッティを映し出した。

 この電波ジャックはミッドチルダ全土に及び、なのは達は待合室でその様子を観察していると
 映像のスカリエッティは狂気に満ちた表情でゆっくり口を開き始める。

 「ミッドチルダに住む諸君…久し振りだね、私を覚えているかい?」

 …誰もが忘れる訳が無い、地上本部壊滅の一端を担い世界を破滅に導く存在を…
 そんなミッドチルダ全土の思いを後目にスカリエッティは話を続ける。
 …いよいよ彼等は動き始める、今までの時間はミッドチルダを壊滅させる為の準備期間であったと。

 「見たまえ!これが我々の戦力だ!!」

 すると映像は引き絵に変わり、画面には夥しい数のガジェットと不死者が犇めいており、
 ガジェットには新たな武装が追加され不死者も今までとは異なる凶悪さが垣間見てとれた。

 スカリエッティ曰わくガジェット及び不死者はこれで全部なのではなく
 至る場所に量産施設が存在し、其処から無数の軍勢として姿を現すと饒舌に語る。

 「だが…コレだけではない、我々は遂にベルカの王を復活させたのだ!」

 スカリエッティは両手を広げ宣言すると映像は王の間に切り替わり、
 左右にはナンバーズ達が立ち並び、その列にギンガの姿も存在していた。

 一方でギンガの姿を見かけたスバルとゲンヤは思わず目を見開き、
 スバルに至っては両膝をつき、そのいたたまれない姿にティアナはそっと肩に手を置く。
 しかしその光景を後目に映像は続き、奥の王の座が映し出されると其処には一人の女性が座っている。

 その女性の年齢は17歳前後で服装は黒を基調としたバリアジャケットと騎士甲冑を合わせた造りの服に
 髪をサイドポニーで纏め、その髪型は普段のなのはと酷似していた。

 そして女性は目を開くと左右が紅玉と翡翠色をしたオッドアイで、その目を見たなのははヴィヴィオである事を確信した。
 …いや確信せざるを終えなかった、あの瞳を見る前からそうではないかとなのはは感じており、
 実際にそれが合っていた事に対し、流石のなのはも動揺を隠せずいると
 映像のヴィヴィオが立ち上がり一つ間を置いて言葉を口にする。

 「…私の名は聖王ヴィヴィオ、このゆりかごの主にしてベルカの王である」

 ヴィヴィオの口から放たれるその言葉は威厳に満ちており、その佇まいは風格すら感じる。
 そしてヴィヴィオは自分達の目的を話し始める。

 「我々の目的はこのミッドチルダを土台に我々の世界…新たなベルカを創り出す事にある」

 元々古代ベルカは此処ミッドチルダに侵略する為に来た、
 故に本来の目的を知ったヴィヴィオはミッドチルダと言う“土台”の上にベルカを設立すると語る。
 その言葉に苦虫を噛むような表情で映像を見るはやて。

 「冗談やない!私等は肥やしやない!!」

 はやては対策本部の机と強く叩き吐き捨てるように言葉を口にすると、それに呼応するように周りの人々が一斉に頷く。
 一方で、はやては同じく演説を聞いていたカリムの顔を見る、するとはやての行動に気が付いたカリムははやての顔を見てにこやかに微笑む。

 「安心してはやて、幾ら彼女が聖王だったとしても教会は協力を惜しみません」

 …確かにかつてベルカはミッドチルダに侵攻した、しかし今は友好的な繋がりが出来ている、
 それを捨ててまで聖王に…ましてやスカリエッティにつく事は有り得ないと断言するカリム。
 しかしヴィヴィオの演説はまだ終わってはいなかった。

 「この世界の住人に出来る事…それは速やかに死ぬ事、抵抗は無意味…死を受け入れなさい」

 そうすれば苦しむ事なく生から脱却できると言葉にすると、
 間髪入れずに老成の声が辺りに響き渡る。

 「…いつからミッドチルダは貴様達のモノになったのだ?」

 するとモニターが二分割され、其処にガノッサが映し出されるとクロノは歯噛みしながら睨み付ける。
 ガノッサの周りにはエインフェリア達がずらりと並び立ち、ガノッサは杖で床をつつくと話し始める。

 「ミッドチルダに住む諸君、いよいよ時は満ちた!貴様等が我々の礎となる為のな!!」

 すると映像は海上を映し出し、ルーンを解除したヴァルハラがゆっくりと姿を現す、
 …今までの潜伏は戦力を整える為のものであり、既にそれが揃った今だからこそ行動に移すと息巻いた様に語るガノッサ。

 「見よ!これが我々の切り札である!!」

 ガノッサは杖を高々に上げると映像が切り替わり、二つの月が映し出され、その間に何かが出現する。
 其れは巨大な赤い水晶体のようなものに両端には竜の翼を象ったものがあり、
 そして水晶体の中心からは管が何本の伸びており、ラッパのように先端が広がった砲口に繋がれていて、砲口には竜を象った飾りが付いていた。

 人々がその存在に困惑する中で、クロノの端末に独自の諜報員からのデータが今し方送られてきており、
 それに目を向けると驚愕し、思わず映像に目を向け声を荒らげた。

 「奴らなんて物を!!!」
 「さぁ終末を告げる笛の音よ!今こそ奏でてやろう!!」

 ガノッサは高々と上げた杖を振り下ろしながら宣言するのであった。




 …場所は変わり此処はミッドチルダ西部エルセア地方、人々はスカリエッティと三賢人の演説に聞き見入り
 空は満天の星空で雲が一切無く星々が人々の頭上で力強く輝く頃、
 一つの赤く輝く星の光が徐々に輝きを増し更に巨大化すらしていき、
 それが映像に映し出されている攻撃であると気が付いた頃には辺り一帯を赤く染め上げ

 攻撃が大地に突き刺さると一気に広がりを見せ、その光はエルセア地方全土を包み込み
 赤い光が一筋の光となって消滅すると、エルセア地方は巨大なクレーターとなってミッドチルダの地図から消滅したであった…




 この一部始終はミッドチルダ全土に流れており映像には巨大な魔力砲を撃ち終えた砲口が映し出されている。

 「これが我々の切り札、その名もドラゴンオーブである!!」

 ドラゴンオーブ、二つの月の軌道上に設置された巨大魔導兵器で、
 左右の二枚の翼で月の魔力を受け止め、中央の赤い水晶体によって増幅・圧縮、
 そして砲口にて加速され撃ち放ちその威力は一目瞭然、常軌を逸していた。
 そして今の今までその存在に気が付かなかったクロノは八つ当たりするように机に向かって拳を振り下ろす。

 「情報が………遅すぎる!!!」

 一方で現場や他の地域はアリの巣をつついたかのような大騒動に発展しており、
 その情報は対策本部にまで伝わっており、ゲンヤの指揮の下、対応を取り始める中
 映像には未だガノッサとヴィヴィオが相対するように映し出されていた。

 「我々はこの力でミッドチルダを破壊し全ての憂いを晴らし神の道を行く!!」
 「そうはさせない、この世界は我々の世界の礎として必要な物である、破壊などさせてたまるか!!」

 互いは相対しながら睨み合い、宣戦布告すると両者の映像が消え、
 その中でカリムは一人、予言の一文を思い返していた。



  …神々と死せる王が相対する時、神々の黄昏を告げる笛が鳴り響く…と……








タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年09月13日 13:44