時間はドラゴンオーブの砲撃が行われるより前まで遡り、
 ゆりかご内ではヴェロッサが放った猟犬がルーンの解除の為に走り
 アリューゼはゆりかごのデータが入った端末を頼りに、自分の目的の為ゆりかご内を走っていた。

 彼の目的はただ一つ…ゼストに会う為である、彼の懐には今、二つの結晶体が入っている。
 それはかつてレザードの手によって抜き取られたゼストとメガーヌの二人の魂で、
 アリューゼは常に御守りとして持ち歩いていたのである。

 アリューゼは前々から考えていた事があった、魂を元の肉体に戻せば元のゼストに戻るのではないのかと…
 そんな淡い期待を胸に秘めつつ今もなお、ゆりかご内を走り続けるのであった。


                リリカルプロファイル
                 第二十九話 開戦


 しかし此処ゆりかご内は広く、ガジェットや護衛ロボなどが警備を行い、
 思うように先に進む事が出来すアリューゼは舌打ちを鳴らしていると、ヴェロッサから一報が届く。
 現在猟犬はルーンを発見し解除作業を行っており、ルーンが解除されれば警備も厳重になるであろうと説明した。

 一方外ではヴェロッサが猟犬を使ってアリューゼに連絡を送りつつルーンの解除に躍起になっており、
 シャッハは周囲を警戒しつつ端末にて宣戦布告を試聴していた。

 そしてヴェロッサがルーンの解除を完了したと同時に恐ろしい一報が届く。
 それはエルセア地方が一瞬にして消滅したと言う内容であった。
 すると、まるで呼応するように二人がいる場所が揺れ始める、どうやらゆりかごが本格的に起動するようである。

 「此処は危険だ!シャッハ避難するよ!!」
 「でも中にアリューゼが!!」

 彼なら心配無い、彼の実力はシャッハの方がよく知っているだろ?そう説得を促し
 暫くしてシャッハは頷くと二人はその場から退避する、しかし目の前にはガジェット達が転送されており、
 ヴェロッサは一つ舌打ちをするとシャッハが更に一歩前へと出る。

 「斬り込みます!!」

 そう言うや否やデバイスを起動させ一迅の風となって次々にガジェットを切り裂いていき、
 その圧倒的な攻撃に流石と感心しながらもヴェロッサはシャッハと共に闇に包まれた森を駆け抜けていった。

 一方でアリューゼはゆりかごの振動に動き始めたか…と考えていると体に違和感を感じ始める、
 どうやら起動と共にAMFを展開させたようで、かなり濃度が高いようである。
 アリューゼは余りチンタラ出来ないと一つ舌打ちを鳴らし、身を隠しながらゼストの居所を探し始めた。

 一方で演説を終えたスカリエッティ達は戦闘準備の為、各自配置に付き始めていた。
 その中でルーンが解除されている事に気が付いたスカリエッティは、レザードに問い掛ける。

 「レザード、ルーンが解除されているようなんだが?」
 「まぁ、問題ないでしょう」

 元々ルーンはこのゆりかごを隠す為に使用していただけで、起動した今では無用の長物である。
 寧ろルーンを解除した者がこのゆりかご内に存在している可能性があると指摘する、

 しかし内部には大量のガジェット及び不死者がおり、更にAMFも起動させている為、問題は無いだろうと考えている…
 …だが万が一の事も考慮すればゼスト辺りに探索をさせておこうとレザードは提案すると、
 スカリエッティは提案を飲み、本来の目的である不死者及びガジェットを転送を行い始めた。

 場所は変わり、空が白ずみ夜明けが近づいている事を告げている空の下、
 聖王教会対策本部は未だに慌ただしく、様々な情報が飛び交っていた。

 先ずはドラゴンオーブの件である、エルセア地方を消滅させたドラゴンオーブの威力を本局が分析した結果、
 ミッドチルダに七発、ドラゴンオーブを撃ち込まれれば、その威力と衝撃により自軸はズレ自壊するという結果が出たのだ。
 更に深夜、第二射が実施されミッドチルダ北部ベルカ領の更に北に位置する万年雪に覆われた山が、一瞬にして消滅したという一報が届く。

 事は急を要する、ドラゴンオーブはその威力を維持する為に連続発射が不可能な構造をしてるのだが、いずれは残り五発も確実に撃ち込まれてしまう、
 その為に本局は早急に討伐隊をドラゴンオーブへと派遣するが、ドラゴンオーブにはエインフェリアであるイージスとミトラが護衛に付いており
 派遣から30分後、討伐隊は暗礁領域となり果て幕を閉じたのである。

 …本局の戦力では二体のエインフェリアを相手するのは荷が重すぎる、
 そこでクロノに白羽の矢が当たり、彼が率いるクラウディアチームによるエインフェリアの撃破、
 その後本局が有するアルカンシェル隊を配置し、ドラゴンオーブを撃破するという作戦を立てる。

 だが次元空間を生身で行動するのは不可能である、其処でクラウディアにフィールド・結界技術を応用した
 安定した力場を発生する装置を装備させてクラウディアを足場とするのだという。
 現在クラウディアはその装備の設置を急いでおり、完了次第現場へと赴く事となった。

 続いてミッドチルダ全土についてである、現在各地域に不死者及びガジェットが出現、
 更にそれに連動するように量産型エインフェリア、アインヘリアルも出現し各地は戦火に包まれていた。
 戦況は不死者3とガジェット10に対し、量産型であるが高性能なアインヘリアル1という量対質の構図が生まれ五分五分という事である。

 これに対し管理局は住民の避難を最優先とし地上本部局員は住民の誘導を担い、
 一方で機動六課及び教会騎士団は不死者とガジェット及びアインヘリアルの撃破を優先する為、
 隊舎崩壊以降から出ていた案により移動本部として改修されたアースラに乗り込み、
 アースラはゆりかご及びヴァルハラが向かうであろう場所に先回りし、各隊員は各地域へアースラからの転送及び移動となった。

 二隻の次元船の目的地点は、二つの月の公転軌道が交錯する地点、軌道ポイントと呼ばれる地点である事は明白で
 もし此処で二つの月の魔力を得る事になれば、ゆりかごはその力を高め、
 ヴァルハラに至ってはドラゴンオーブとドッキングする可能性があるという。

 …つまり二隻の次元船を飛び立たせてしまえば、此方の敗北となるのは必死、
 管理局は全戦力を投入する勢いでこの“未曾有の災厄”に対処するのであった。


 場所は変わり此処はゆりかご内の管制室、室内ではクアットロが戦況を見守っており、
 五分五分といった戦況に眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべていた。

 「ふふふっ…下賤な者達を見ると笑いが止まらないわぁ……」

 しかしレザードはこの戦況ではジリ貧は必死、ここらで一石投じるべきだと考え始める。
 一石とは即ちナンバーズ達の投入である、このまま膠着状態が続けばヴァルハラはドラゴンオーブという手を使う可能性がある為だ。

 とは言えチンク及びゼストは侵入者の事を考慮して残しておくべきとの考えに至り、
 レザードは振り返りその旨をスカリエッティに伝えてみる事にした。

 「如何でしょう?ここらでナンバーズを投じてみるのも…」
 「そうだね…頃合いかもしれない」

 スカリエッティもまた戦況を見つめながら同じ事を考えていたらしく、賛同するとレザードは軽く頷き背を向ける。
 そして不敵な表情を表しながらレザードはクアットロに命じ、ナンバーズ達を各地域に展開させるのであった。

 一方此方はヴァルハラ内に存在する管制室、此方ではガノッサが戦況を見守っており、
 五分五分といった戦況に顎に手を当て考え込んでいた。

 …このままではジリ貧は必死、ならばここいらで一石投じるべきであろう…
 此方の一石、つまりはエインフェリアの投入の事である、ドラゴンオーブという手も無きにしろ有らずだが、
 ヴァルハラが飛び立つ前に自壊してしまう可能性があるためおいそれと使えないのが現状である。
 取り敢えず此処までの旨を三賢人のエンブレムに問い掛けてみる事にするガノッサ。

 「如何成されよう?ここいらでエインフェリアを投じてみるのも…」
 「ならば…早くするのだな」

 三賢人の一人が淡々と答えるとガノッサは深々と頭を下げエンブレムに背を向ける。
 そして顔を上げたその表情は怒りとも屈辱とも取れる表情を表しながら
 ガノッサの秘書官である青色で長髪の女性に命じ、エインフェリアを各地域に展開させるのであった。


 場所は変わり現在はやては、沿岸付近に出現した不死者及びガジェットの殲滅を担っていた。
 既にはやてはリインとユニゾンしており、リインによって逐一戦況が報告を受けており、

 それはまさに地獄絵図とも言える戦況であった、ある地域ではドラゴントゥースウォーリアによって
 強化されたパラミネントキマイラが住民ごと局員を噛み殺し

 局員達の攻撃に対しウィル・オ・ウィスプは周囲を巻き込む形で自爆を行い、更にイビル・アイによる蘇生によって復活
 極めつけは回避能力の高いグレーターデーモンによる一方的な惨殺などが伝えられていた。
 そんな戦況を耳にするも、はやては冷静にそして的確に指示を促す。

 「各隊員に告げる!あの球体型は一定のダメージを与えるんと自爆する!倒すんやったら一気に倒すんや!!」

 他にもドラゴントゥースウォーリアは先に倒すと他の不死者を強化させてしまう為に最後に片付ける事や
 グレーターデーモンの回避能力に対しバインドで拘束してからの攻撃
 イビル・アイは優先的に撃破するなどを命じていると、はやての耳に新たな一報が届く。


 場所は変わり此処はヴァルハラが優雅に飛行している海上、目の前にはガジェットII型が多数姿を現し、ヴァルハラに攻撃を仕掛けようとしていた。
 しかし次の瞬間、海上に巨大な氷山が生まれ、氷山の中には攻撃を仕掛けようとしていたガジェット達が凍り付いており
 氷山は煌びやかにガジェットごと砕け散ると、目の前にはエインフェリアの一体ゼノンが佇んでいた。

 …一方、首都グラナガンもまた戦火に包まれており、路地裏では一人の少女が必死にパラミネントキマイラから逃げ惑っていた。
 少女の両親はガジェットのミサイルによって四散し、助けにきた局員もパラミネントキマイラによって食い散らかされ、
 余りにもの出来事に恐怖に支配され少女は必死に逃げ惑っていたのだが、とうとう行き止まりにぶつかり足を止める。

 振り向くと少女の目の前にはパラミネントキマイラが涎を垂らしながら迫ってきており、
 思わずその場で座り込み少女は死を覚悟し目を瞑る。

 しかし少女に不死者の牙が届くことはなかった、パラミネントキマイラの三つの頭は切り落とされ、光の粒子となって消滅すると
 目の前には黒い甲冑を着たエインフェリア、アドニスが佇んでいた。
 少女は目の前に現れた救世主に礼を述べる為、立ち上がりアドニスへと駆け寄る。

 「あっありが―――」

 次の瞬間、少女の頭部は胴体から離れドスッと音を立てて地に落ちる。
 そして胴体から夥しい量の血飛沫があがり辺りを赤く染める中で、
 口の部分が開いた仮面に覆われたアドニスの口が、つり上がり始め言葉を口にする。

 「テメェも対象なんだよ!」

 アドニスは高笑いを浮かべながら次の獲物を探しに足を運び始めた。

 場所は変わり此処北西地区の上空ではアインヘリアルの猛攻を受け、教会騎士団は苦戦を強いられていた。
 戦況は騎士団が劣勢、このままでは全滅する可能性がある中で、一人の騎士が風を感じる。
 するとアインヘリアルは三分割され更に騎士団も同様に刻まれた。

 そして肉片と残骸が落ちていく中でトーレがインパルスブレードを展開させながら佇み
 不意に来た戦闘機人に戸惑いつつも攻撃を仕掛けようとする教会騎士団。

 「セッテ!」

 しかし教会騎士団はトーレに接近する前にセッテのブーメランブレードにより頭部と胴体が切り離され、
 トーレは残りのアインヘリアルの元へ向かうと、その手に展開されているインパルスブレードで

 アインヘリアル達の首・胴・手足などを切り離し、更には袈裟斬りや振り下ろしなどで両断した。
 そして周りを見渡しあらかた片付いた二人はその場を去り、その後不死者達が次々に出現し住民への殺戮が始まった。

 一方で此処は東部12区内に存在するパークロード、その上空に二つの影が存在する。
 ルーテシアとガリューである、そしてルーテシアは地雷王を召喚し各配置に付けると局地的地震を起こし、
 パーク内に複数存在する建物を次々に倒壊させている中で、逃げ惑う住民達を冷徹な瞳で見つめるルーテシア。

 「ガリュー…」

 ルーテシアは一言命じるとガリューは頷き、逃げ惑う住民を片っ端から切り裂く。
 そんな阿鼻叫喚の中で必死に逃げる少年が一人、年齢はルーテシアと同い年ぐらいであろう、

 そんな少年の前にルーテシアが降りてきて、道を塞ぐと少年に左手をかざす。
 少年は震えながらその場で竦んでいると、ルーテシアの口が動き始めた。

 「……さようなら」

 そしてルーテシアの手からファイアランスが放たれ、少年は一瞬にして消し炭と化した。
 それを目の当たりにした大人達は戦慄した、とてもでは無いが子供が行うような行動ではないからだ、
 しかしルーテシアの瞳は冷たく、まるで何もなかったかのように次の相手に手をかざすのであった。


 戦況は一気に変化した、エインフェリア及びナンバーズ達の投入によりアインヘリアル及びガジェット・不死者の数が減少していった。
 しかしそれだけではなくエインフェリア及びナンバーズ達は局員・住民にも襲いかかっており
 全体的の流れとしては未だ殲滅戦から脱却していないのが実情であった。

 しかし教会騎士団並び管理局局員は、不死者・ガジェット及びアインヘリアルならば幾らか相手に出来るが、
 エインフェリア及びナンバーズ達では歯が立たない、そんな状況の中で司令部から一報がはやての耳に届く、

 現在首都グラナガンの上空にギンガと思しき人影を捉え、
 ベルカ領上空にはヴィヴィオらしき人影を捉えたという。

 その一報を聞いたなのはとズバルは動揺を隠しきれないでいると
 はやては機動六課メンバーをエインフェリア並びにナンバーズ達に当てることを提案、
 それぞれ近場の相手、若しくは割り当てられた相手の元へ急ぐのであった。

 場所は変わりゆりかご内でもまたアリューゼが戦闘が行っていた。
 アリューゼが相手にしているのはガジェットIII型が複数、しかしレンチングスウィングにより次々に鉄くずに変えていく中
 更に不死者とガジェットの増援が姿を現す、アリューゼは一つ舌打ちをしながら剣を構えると、カートリッジを一発消費

 アリューゼの体が闇に包まれるとそのまま増援の元へ突撃し敵陣は待ってたかの様にアリューゼに襲いかかるが、
 敵陣の攻撃はアリューゼに一切届かず、寧ろ背後をとられ、レンチングスウィングにて肉塊と鉄くずとなり果てた。
 ダークと呼ばれる黒い魔力を帯び闇に紛れるように相手の攻撃を無効化しつつ背後をとる魔法である。

 「チッ!キリがねぇな!!」

 幾らアリューゼが一騎当千とも言える実力を持っていても、高濃度のAMFの中で限りが見えない数を相手にするのは流石に分が悪い。
 それにゼストを捜さなければならない、此処でモタモタしている時間はないのだ。
 何処か身を隠す場所はないものか…すると何処からともなく声が響いてくる。

 「こっちだ!!」

 アリューゼはその声に罠ではないかと警戒するが、現状を考え仕方なくその声に従う。
 そして一つの扉が開いた部屋に辿り着き、アリューゼは部屋に飛び込むと一気に扉を閉まる。
 部屋の中には黒い甲冑を纏った不死者グレイが扉の前に佇み扉の向こうの気配を探っていた。

 「……行ったか」
 「…テメェ、不死者か?」
 「まぁ、一応な…」

 自分は自我を持ったまま不死者となり、此処の情報を集め古い友人に渡した張本人であると語ると、
 グレイの話に信憑性を感じるアリューゼ、そしてゆりかご内を詳しく知っていそうなグレイにゼストの居場所を聞き出す。

 ゼストは今、管制室を抜けた先にあるスカリエッティのラボにいるはずだと
 しかし現在ゆりかご内はアリューゼという侵入者により警戒態勢に入っており、
 更には戦闘状態でもある為にこの警戒態勢は解除される事は無いと語る。
 となれば、強行突入しかないとアリューゼは考えているとグレイもまた手を貸すと言い始める。

 「いいのか?テメェは奴らの仲間なんだろ?」
 「元より仲間になったつもりはないさ」

 それにグレイもまた頃合いを見てゆりかご内で暴れる予定であったらしく、
 思わぬ珍客とは言え都合が良い戦力であると話すとデバイスを起動させ始める。

 「なら良いが…お前名は?」
 「………グレイ」

 名を聞いたアリューゼは持っていたデバイスを掲げ、グレイもまた掲げると切っ先を交えキンッと甲高い音を奏で、
 それを合図に一斉に部屋から飛び出し、敵陣に斬り込む。

 「行くぜ!ファイナリティブラスト!!」
 「奥義!アイシクルディザスター!!」

 アリューゼの真っ赤に熱を帯びた刀身とグレイの真っ白く冷気を帯びた刀身が、敵陣の中を突っ切り
 二人が通った後は、凍り付いた不死者と溶解したガジェットが横たわっていた。

 一方北西上空を移動しているトーレとセッテは辺りを見渡しながら次の街へ飛行を続けていた。
 アインヘリアルは不死者と同様、重点的に街へ配置しているようで、
 下に広がる森林地帯には配置されていないと考えていた。
 しかしそれは甘かった、森林中から一つの影がトーレに襲い掛かり、トーレはインパルスブレードで辛くも攻撃を受け止める。

 「トーレ姉!!」
 「くっ!何者だ!!」

 その影の正体はエインフェリアの一体クレセントであった、どうやら油断しているところを狙い打つ算段であったようである。
 しかし当てが外れたなと、一つ笑みをこぼすとクレセントもまた意味深な笑みを浮かべ、
 その笑みに不安感を感じた瞬間、セッテの腹部から刀身が姿を現す。

 「ガハッ!!」
 「セッテ!!!」
 「先ずは一人…いや一体かな?」

 セッテの背後にはエインフェリアのセレスが含み笑いを浮かべながら
 腹部を突き刺した刀身を引き抜くと、力無く落ちていくセッテ。

 それを見たトーレはクレセントを蹴り飛ばし急いでセッテを抱きかかえる、
 セッテの傷口は酷く向こう側が見えており、更に血と共に火花を散らしていた。

 「……す…すみません…油…断を………」
 「無理に喋るな…傷に響く」

 現在セッテはレリックのエネルギーによって応急処置を行ってはいるが、助かる可能性は五分五分といった状態である。
 トーレはゆっくりと森の中に入り、セッテを木に凭れさせるとすぐさま飛び立つ。

 そして二体のエインフェリアがいる前まで昇るとインパルスブレードを展開、
 それは先程とは異なり高圧縮されて稲光が走っていた。

 「貴様等……直ぐにスクラップにしてやる!!」

 トーレの瞳には激しい怒りの色が宿り二体を睨み付ける中で
 セレスとクレセントは余裕のある表情を見せながら対峙した。

 場所は変わりパークロード内では依然としてルーテシアが暴れ回っており、
 逃げ惑う住民をバーンストームで吹き飛ばし、ファイアランスで焼き尽くし、ポイズンブロウで毒殺していた。

 一方でガリューもまた逃げ惑う人々に襲いかかっており、
 ルーテシアは新たなターゲットである女性局員を補足し歩み寄ると、局員は魔法にて応戦

 しかしルーテシアはガードレインフォースにて攻撃を弾き返すと左手で無造作に長い髪を鷲掴み、右拳を振り上げ顔面を殴る。
 局員の鼻から血が垂れ更に殴りつけていると、後ろでルーテシアを呼ぶ声が聞こえ振り向く。

 「その人を放しなさい!!」
 「……誰かと思ったら…アナタ達」

 其処にいたのはエリオとキャロ、連絡を受けた二人はルーテシアの凶行を止めるべく、いち早く現場に向かっていたのだ。
 そしてルーテシアの手に握られた女性局員を放して貰うべく説得を始める。

 「止めるんだ!君はそんな人じゃないはず!!」
 「……体の良い台詞…でも…分かった」

 そう言うと掴んでいた左手を振り抜くように手放し、女性局員は一目散にエリオ達の元へ向かう。
 しかしルーテシアは放した左手をかざしたままファイアランスを唱え、二人の目の前で女性局員は黒こげとなって倒れ込んだ。

 「新しい相手も現れた訳だし……」

 ルーテシアは冷淡に言葉を口にする中で、足下に転がった出来たての焼死体を目の当たりにし、
 エリオは目を背けキャロは口元を押さえ嘔吐する。

 しかしルーテシア二人の行動を冷淡に見つめながら指を鳴らしガリューを呼びつけると
 ルーテシアの行動に気が付いた二人はお互いをを鼓舞しながら力強く見つめた。
 そんな二人の行動に舌打ちを鳴らし不快感を示すルーテシアであった。

 更に場所は変わり南地区は炎に包まれていた、原因はエインフェリアの一体カノンによる魔法攻撃によるものである。
 そして上空では燃え盛る街並みを高笑いしながらカノンは見つめていると

 左右から緑色の光線が襲い掛かり、カノンはバリアを展開させてこれを防いだ。
 更に首もとに気配を感じ振り返ると、其処にはオットーとディードが構えており、
 その姿を見たカノンは笑みを浮かべ新たな獲物である二人に手をかざし構えた。

 一方首都グラナガンではアドニスによる一方的な殺戮が繰り広げており、
 辺りはアインヘリアルや教会騎士団、地上本部局員に住民、果てはペットなどの遺体が犇めいていた。
 そしてアドニスは新たな標的である幼い兄妹を発見し路地裏へと追い込む。

 更に刀身にて音を奏で相手の恐怖心を煽り立てながらゆっくりと追い込む。
 そして兄妹達を行き止まりまで追い込むと狂気に満ちた表情で大剣を肩で担ぐ。

 「くくくっ!ここがお前等の終着地点だぁ!!」

 アドニスは一言告げると刀身を振り上げ目の前の二人目掛けて振り下ろし、
 二人の兄妹は互いの温もりを確かめる様に抱きしめ死を覚悟し目を瞑る。

 だが二人はその凶刃の餌食になる事はなかった、何故なら二人とアドニスの間を分かつ存在ザフィーラがいたからだ。
 ザフィーラは左手に障壁を巡らせアドニスの凶刃を受け止め、更に右拳を握り魔力を込めると
 真っ直ぐアドニスの胸元を打ち抜こうとした。
 しかしアドニスは拳が触れるギリギリのところでバックステップを行い難を逃れる。

 「テメェ……ナニモンだぁ!」
 「弱き者を護る盾……ザフィーラ!」

 ザフィーラは名乗ると二人を逃がす為にアドニスに襲いかかり拳を振り抜く。
 しかしアドニスは刀身を盾にザフィーラの攻撃を防ぎつつ圧されていると、ザフィーラは左足に魔力を巡らせ一気に蹴り抜く。

 その重い一撃に吹き飛ばされ道を拓くとザフィーラは二人に逃げるように叫び、
 ザフィーラの言葉を聞き二人は急いで駆け抜けると、
 アドニスは後を追おうとしたが行く手を塞がれ一つ舌打ちを鳴らす。

 「テメェ…よくも俺の獲物を!!」
 「この……狂犬め!」

 ザフィーラは吐き捨てるように言葉を口にして両拳を構えると、
 獲物を逃がしたザフィーラを怒りの目で睨みつけ報復だとばかりにアドニスは上段の構えで対峙した。

 一方でシグナムは一人でアインヘリアル及び不死者を相手にしていた。
 いや正確には先程まではヴィータと共に相手をしていたのだが数が少なくなってきた為、二手に分かれ現在に至っているのである。

 「飛竜一閃!!」

 撃ち出されたシグナムの一撃は残りの敵を焼き尽くし、殲滅を終えると
 上空に気配を感じシグナムは見上げる、其処にはエインフェリアのエーレンが姿を現していた。

 「…エインフェリアか」
 「私の名はエーレン、機動六課シグナムとお見受けします…」

 エーレンはデバイスを起動させて中段にて構える、その佇まいにただ者では無いと見たシグナムは
 真剣な面持ちでエーレンを睨み付け、レヴァンティンを鞘に戻し居合いの構えで対峙した。

 一方でギンガ、ノーヴェ、ウェンディ、ディエチは首都グラナガンに向かっていた。
 ギンガとノーヴェはその足で、ウェンディとディエチはライティングボードに乗って移動していると、

 四人の前に二つの影が行く手を遮るように立ち並んでいた、スバルとティアナである。
 二人の姿を見たノーヴェは一つ舌打ちを鳴らしていると、先行していたギンガが足を止める。

 「ギン姉……」
 「まさか…こうも早く会えるとはね…タイプゼロ・セカンド!」

 ギンガの言葉に流石のスバルも動揺を隠せないでいた。
 何故なら自分達は戦闘機人でありながら人として生きてきたのに、それを忘れたかのような台詞を吐いたからである。

 そしてティアナはギンガの変貌に洗脳を受けているのでは無いのかと感じていると
 ノーヴェとウェンディとディエチが一歩前に出てギンガを隠すように立ち並ぶ。

 「ギン姉さん…此奴等は私達が…」
 「それじゃあ…任してみようかしら」

 ギンガはそう言って後方へ下がり腕を組むとノーヴェは拳を鳴らし構え
 ディエチはイノーメスカノンを手に持ちウェンディもライティングボードを手に掛け構える。

 …どうやらギンガを救う為には先ず、彼女等を大人しくさせないといけないと悟り
 スバルとティアナはそれぞれ構え始め、三対二の団体戦の火蓋が切って落とされた。


 そしてヴィヴィオはベルカ領上空を飛行し聖王教会に向かっていた、目的は聖王教会の破壊とカリムの抹殺である。
 既にベルカは当時とは異なる考えを持ち、更には“聖王”である自分に弓を引いた、
 だからこそ報復としてヴィヴィオ自らが制裁しに来たのである。

 そして聖王教会の建物が薄等と見え始めた距離で、後方から高い魔力が物凄い勢いで近づいて来るのを感じ思わず振り返る。
 振り向いた先には桜色の魔力の塊が徐々に近づきヴィヴィオの前で止まると、
 塊がほぐれ中からはエクシードモードを起動させたなのはが姿を見せた。
 「……ヴィヴィオ」
 「…高町…なのはか」

 ヴィヴィオは…なのはの名を口にするがその瞳は鋭く、敵対心と殺気を表情から滲み出しながら睨み付ける。
 その変わり果てたヴィヴィオの姿と表情になのはは、胸を締め付けられるような表情を表しながら
 それでも平静を装うように静かに目を閉じ、深く息を吐き目を開くと決意ある瞳でヴィヴィオを見つめる。

 「…ヴィヴィオ、なのはママだよ?」
 「……残念だけど、私は貴女の娘ではない、今の私は“聖王”ヴィヴィオだ」

 故に偽りの親子ごっこは終わりを告げた、今は聖王として自らの使命を果たす
 そしてその使命を邪魔するのであれば、誰であろうと全力全開で排除する、
 ヴィヴィオは右手を握り締め自分の決意が本物であることを告げると、なのはもまた言葉を口にする。

 確かにヴィヴィオにとっては偽りの親子関係であったのだろう…
 しかし…短くとも私と過ごして来た日々、機動六課の皆と過ごした日々は偽りではない。
 少なくとも私はヴィヴィオを実の娘として見ている、その心に偽りなど無い!

 そんな愛娘が道を、それも人としての道から外れようとしている…
 母親として私が出来る事…それは体を張ってでも叱りつけることである!
 そう力強く宣言すると、左手に持つレイジングハートでヴィヴィオを差すなのは。

 「だから…私がヴィヴィオを止める!!」
 「言ったはずだ!誰であろうとも私の邪魔をする者は排除すると!!」

 互いの決意が交差し合い、ヴィヴィオはいっそう拳を握り締め、
 なのはもまたレイジングハートを握り締めると戦いの開始の合図を鳴らすのであった……







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最終更新:2009年11月14日 22:07