…ミッドチルダ全土は戦火に包まれ、各地域にて各主戦力が対峙する中で
 二隻の次元船が軌道ポイントへ向かう為に通らなければならないポイントへと先回りしたアースラの船内、
 グリフィスが代理を務めている此処司令室に聖王教会対策本部からの一報が届く。

 それは先程ドラゴンオーブの砲撃により、ミッド南部アルトセイム地方が消滅したというものである。
 この一報はクロノの元にも届いており、歯噛みしながらクラウディアの改装完了を待ちわびていた。


                      リリカルプロファイル
                       第三十話 曇天


 ドラゴンオーブの砲撃がアルトセイム地方に落ちる少し前、
 ミッド南東部の街に存在する隊舎が何者かの襲撃により次々と破壊されていた。

 それはセインの手によるものである、強化されたディープダイバーはバリア・フィールドに包まれた場所を突破する事が可能となり
 それにより重要箇所及び施設の破壊を円滑に進める事が出来ているのである。

 「う~ん、順調順調!」

 そう言いながら時限爆弾を設置して司令室から抜け出し隊舎の外へと出ると時限爆弾を起爆、
 司令室を中心に次々と爆発し、また一つ隊舎を破壊した。

 すると大地に強烈な振動が走りセインは思わずその場に倒れ込み、振動が収まるまでその場を動く事が出来ないでいた。
 その振動がドラゴンオーブの砲撃によるものだというのを後から知り、冷や汗をかくセイン。

 …三賢人は本気でこのミッドチルダを破壊するつもりだ…
 だが博士達がこのまま黙っているはずがないだろう。

 ならば自分に出来る事、それは任務を忠実にこなすだけだ…
 そう考えたセインは次の隊舎へと赴くのであった。


 一方セッテを不意打ちによって倒され、怒り心頭といった様子のトーレはセレスとクレセントに襲いかかっていた。
 トーレはライドインパルスを用いてセレスの目の前に移動すると、その首を狙って右のインパルスブレードを振り抜くが、

 セレスはソニックムーブにて後方へ回避、その動きに合わせるようにクレセントがトーレに襲いかかり
 右手に持つ刀身を振り下ろすが左のインパルスブレードにて防がれる。

 するとセレスが追撃を仕掛けようとしたところ、トーレはクレセントの右手首を掴み、振り払うかのようにセレスに向かって投げ飛ばす。
 セレスは迫ってくるクレセントを受け止め難を逃れると、一網打尽とばかりに右のインパルスブレードを巨大化させて振り下ろすが、
 二体はトーレの動きに対しソニックムーブにて左右に展開して回避、更にトーレの振り下ろした隙をついてミドルキックにてトーレを蹴り飛ばす。

 トーレは体勢を立て直し一つ舌打ちをしていると二体は魔力で出来たナイフを投げ
 トーレはとっさにライドインパルスにて回避する、が完全に回避出来ず右肩にナイフが突き刺さっていた。
 セレスが投げたナイフはサプライズスロー、クレセントが投げたナイフはマジックロックと言う。

 「思っていたよりやる、だが私達二体に勝てるとでも?」

 セレスはそう述べる中、未だ肩に突き刺さっているナイフを抜き取り捨てると二体を睨み付けるトーレであるが、
 数として、実力としても上と見ている二体は未だに余裕ある表情を浮かべていた。

 「オラァオラァ!手が止まってんぞぉ!!」

 一方此方はザフィーラとアドニスが戦闘を開始していた、しかし戦況はアドニスが優勢で
 アドニスの振り下ろしに合わせて左手に障壁を張り耐えると

 左右からの二連撃、更に刀身を肩に構えて振りかぶり、魔力で刀身を覆い一気に振り下ろし
 障壁を破壊、更に生じた衝撃により吹き飛ぶザフィーラ、
 アドニスはソニックエッジと呼ばれる強力な一撃を打ち出したのである。

 「オラァ!さっきまでの威勢はどうしたんだぁ?この飼い犬が!!」

 アドニスの挑発に対し目で威嚇をしながら立ち上がるザフィーラであるが、
 それを全く気にすることなく、寧ろもっと楽しませろと言った表情を浮かべながら刀身を肩に構え手招きするアドニスであった。

 一方エーレンとシグナムの戦いは互いが互いを牽制し合う戦いを繰り広げていた。
 エーレンはシグナムの斬撃を一つ一つ丁寧に弾くと両手で構え一気に振り抜く、

 だがレヴァンティンにて攻撃を防がれ、今度はエーレンの持つ刀身に魔力が覆い始め勢い良く振り抜くが、
 予め魔力が覆い始めるのを見ていたシグナムは、パンツァーガイストを刀身に展開させてなんとか受け止める、

 しかしその衝撃までは防げず体をよろめかせ、エーレンは追撃とばかりに振り上げると
 それに合わせるように体勢を立て直して時計回りに回転、腰の反動を加えた切り払いがエーレンの胴を狙う。

 ところがエーレンはシグナムの攻撃に危機感を感じに刀身を盾にしてシグナムの攻撃を防ぐ、
 だがシグナムの攻撃はまだ終わってはいなかった、シグナムはレヴァンティンからカートリッジを一つ消費すると刀身は炎に包まれ、
 そしてそのままエーレンを紫電一閃にてビルに向かって吹き飛ばし激突、辺りは土埃が舞っていた。

 「……やったか?」

 暫く待ち動きがない様子にそんな事を考えていると土埃からエーレンが飛び出してくる。
 そして首を押さえ二回ほど鳴らし、体の具合を確かめると刀身を中段にて構え始める。
 エーレンの行動にシグナムは一つ舌打ちを鳴らすとレヴァンティンを斜に構えまたもや対峙した。

 そしてカノン対オットーとディードの戦いは熾烈を極めていた。
 カノンは次々にエクスプロージョンを撃ち出し、地上の街並みが炎に包まれる中で、オットーは右手からレイストームを撃ち出す

 だがカノンは縫うように回避してオットーの攻撃もまた街並みを破壊していった。
 そしてカノンは足を止めサンダーストームを撃とうとしていたがオットーがバインドによって動きを封じ
 オットーのバインドに合わせてディードがツインブレイズにて攻撃を仕掛ける。

 しかしカノンは魔力を解放させてバインドを消し去ると目の前にシールドを展開、ディードの攻撃を防ぎ
 そしてカノンはシールドを媒介に魔力を放射、ディードをオットーの下へ吹き飛ばすと間髪入れずに詠唱中だったサンダーストームを撃ち抜き、
 サンダーストームは二人の身に襲いかかり何度も体を跳ね、撃ち終わると其処には互いの体を支え合う二人の姿があった。


 場所は変わり此処はヴァルハラ内に存在する三賢人が滞在する施設、
 施設内は広く三賢人の目の前にはモニターが配置されてあり、
 其処には戦況が映し出されている中で、ガノッサとその秘書が三賢人のメンテナンスを行っていた。

 三賢人の正体とは延命処置が施されたカプセルに浮かぶ脳髄である。
 彼等は肉体を捨て脳髄のみを残し過ごして来たのであるが、

 施設が百年以上経つ為にメンテナンスが必須となり信頼のある…
 …いや彼等にとって都合が良いガノッサを採用しているのである。

 「戦況は良好のようだな」
 「さようで……」

 三賢人の一人が泡を立てながら戦況を見守り、ガノッサは体の良い相槌で答える。
 そしてメンテナンスも終了したらしく、作業を終えたガノッサとその秘書は頭を垂れる。

 「如何でございますか?」
 「……悪くはない」
 「それはそれは……後は死の旅路に向かうだけですな」
 「なん…だと―――」

 三賢人の一人が答える間に杖を向けカプセルを破壊、培養液と共に脳髄は飛び出し更に炎で焼き払う。
 ガノッサの突然の行動に、残りの三賢人は驚きを隠せない様子で泡立てながら騒ぎ始める。

 「きっ貴様!神である我々に謀反を起こす気か!!」
 「元より貴様等についた覚えなどない!!」

 そして神である貴様等を倒せば自分は神をも越える存在になれる。
 そう説明するともう一つのカプセルを破壊、先程と同様中身が飛び出し

 ガノッサは風を巻き起こすと脳髄は挽き肉と化した。
 そして最後の一人の前に立つと一言残し杖を向ける。

 「ではさらばだ……愚者共」
 「ガノッサ!!」

 三賢人の言葉を後目にガノッサはカプセルを破壊、飛び出した脳髄を踏みつけてクリーム状になった脳髄を見るや高笑いを浮かべ、
 ガノッサの後ろでは、ほくそ笑んでいる秘書がおり、秘書はガノッサに話しかける。

 「御苦労様です、ガノッサ」
 「ははっ!有り難き幸せに御座いますドゥーエ様」

 そう言って膝を付き頭を下げ秘書が伸ばした左手の甲に口付けを交わすガノッサ。
 すると秘書は見る見るうちに髪の色が青から霞んだ金色に変わり
 服装も戦闘機人と同じ戦闘スーツに変えドゥーエは本来の姿に戻る。

 ドゥーエはラグナロク計画開始から今まで裏工作に徹し、更に魅惑の呪〈チャーム〉を掛けて意のままに操っていたガノッサを用いて
 三賢人の信頼を買い近付く事に成功、そして先程ヴァルハラの情報も全て把握した為
 ガノッサを操り見事に三賢人の暗殺を成し遂げたのである。

 後はヴァルハラの情報をドクター達に届けて、このヴァルハラを奪うか破壊するか判断を委ねるだけだ…
 そう考えたドゥーエはガノッサを従えその場を後にしようとしたところ、辺りに聞き慣れた声が響き渡る。

 「愚かな……本当に我々を消したと思っておるのか……」
 「この声はまさか……三賢人!!」

 すると天井から三人の魔導師が姿を現す、その姿は黒を基調としたクロークにそれぞれ赤・青・黄色のラインが入っており、
 その中で赤いラインが入ったクロークを着た老年の人物ヴォルザが話し始める。

 「貴様等が消したその脳髄はただの影武者…本物は此処にある」

 そう言って自分の頭を指し不敵な笑みを浮かべる。
 三賢人は神になるためには今の延命処置方法では不完全と考え

 模索していたところ、戦闘機人の情報、更にはホムンクルスの情報に目を付け
 戦闘機人情報はスカリエッティに渡しナンバーズを作成、一方でホムンクルス情報によりサンプルを作成した。

 その後、両者の情報を基にエインフェリアを作成し、
 最終的には三賢人の遺伝子を使用して戦闘機人のフレーム、ホムンクルスの肉体、エインフェリアに使われているルーン技術
 そしてレリックによる安定した魔力の供給、それらが合い重なって作成されたのが今の三賢人の肉体であるという。

 「つまりこの体は神に成る為の器……そうだな、“神の器”とでも云うべき代物なのだ」

 そう言って次々と高笑いを浮かべている中で苦虫を噛んだ表情で睨み付けるドゥーエ。
 迂闊であった…まさか三賢人を出し抜くつもりが出し抜かれるとは…だが此方にはあのガノッサがいる…
 そう考えたドゥーエはガノッサに三賢人抹殺を命じる。

 「行けガノッサ!今度こそ奴らを地獄に叩き落とすのよ!!」
 「よかろう!!」

 そう言うと手に持った竜の杖を三賢人に向け炎の渦を撃ち出すが、
 黄色の衣を纏った壮年姿の三賢人ダインがバリアを展開させて炎を防ぐ。
 すると青い衣を纏った青年姿の三賢人ガレンが冷気を撃ち出しガノッサの手を竜の杖ごと凍り付かせた。

 「愚かな…我々に勝てると思っていたのか」

 ガレンは不敵な笑みを浮かべながら言葉を口にすると、魔力弾を撃ち抜きガノッサの凍り付いた手を打ち砕く。
 更にダインが魔力で形成された槍、フォトンランサーを50発程開させて一斉に発射
 フォトンランサーはガノッサの目を貫き、耳をそぎ落とし、のどに突き刺さし全身を切り刻む。

 ガノッサは口から大量血を吐き出し、よろめきながら膝を地につけると、全身をバインドによって縛られる。
 目の前にはヴォルザが右手の平をかざしており、前には魔力球が加速を始めていた。

 「己が無力を噛み締めるがいい……」
 「おっおのれぇぇぇ!!」

 ガノッサは呪詛のような叫び声を上げながら、ヴォルザのディバインバスターを受け頭部が吹き飛び床に倒れた。
 その光景を目の当たりにしたドゥーエではあるが、今この場で逃げることは皆無である。

 ならば一分の望みを賭けて三賢人を倒す、そう考えたドゥーエは親指、人差し指、中指の爪を伸ばし始める。
 ピアッシングネイルと呼ばれる固有武器でその切れ味は業物と変わらない程である。

 そしてドゥーエは自由自在に動き回り牽制しながら三賢人に近づき、ヴォルザの背中を取ると右手を振り上げ一気に振り下ろす。
 だがヴォルザはいとも簡単に右手でドゥーエの爪を掴み取った。

 「そっそんなバカな!!」
 「この程度の硬度では…我等が肉体を傷つける事は出来んぞ!」

 そしてヴォルザはドゥーエの顎を左手で掴み空いた右手で直射砲を腹部に発射、ドゥーエは吹き飛ばされ壁に激突した。
 ドゥーエが激突した周辺は土煙が舞っていたが、其処から飛び出すように再びヴォルザに迫るドゥーエ、
 しかしガレンのバインドにより動きを封じられ更に間髪入れずダインがフォトンランサーを撃ち抜き、爪ごと右手首を切り取られる。

 「はぁぅっ!がああああああああ!!!」
 「ほう…戦闘機人でも痛みは感じるのか」

 ヴォルザは興味深くドゥーエを観察しながらもスティンガーレイを放ち、
 ドゥーエの両腿、左肩を撃ち抜きドゥーエはそのまま倒れ込み動けなくなった。

 …このままでは確実に殺られる、どうにかしてこの状況を打破出来ないものか…
 だが三賢人の実力は自分を大幅に上回っている、正攻法では太刀打ちできない…
 ならば“アレ”しかない、数ある魔導師を…あのガノッサすら操れた“アレ”を……

 ドゥーエの考えが纏まった瞬間を狙ったかのようにヴォルザはドゥーエの髪を掴み強制的に立たせると
 再度じっくりとドゥーエの顔、胸元、下半身、脚などを舐め回すように見つめる。

 「……つくづく惜しいな…どうだ、我等の慰め物とならぬか?」
 「………どうしようかしらね」

 そう言いながら口元がつりあがり妖美な笑みを浮かべると、瞳から一瞬では分からない程の魔力光を放ち、
 魔力光はヴォルザの目に入り更に脳への干渉の為に神経を伝う。

 その瞬間、ヴォルザはドゥーエを掴んでいた手を離し頭を抑え始め膝をつく、
 その姿に魅惑の呪が利いたと床に倒れながらも考えたドゥーエはヴォルザに命じる。

 (ヴォルザ……あの二人を消しなさい……)

 するとヴォルザは立ち上がり振り返ると二人に向け右手をかざし対峙する。
 やはり魅惑の呪が利いたか…そう思ったドゥーエだが、その思いは直ぐに崩れ去る、

 ヴォルザは振り返りかざした右手でドゥーエのこめかみ辺りを掴み再び立ち上がらせると、
 ヴォルザは驚きにも似た表情を浮かべながら睨みつけた。

 「魅惑の呪か……面白い事をしてくれておって」

 しかし神の器であるこの肉体は一般的な肉体とは異なり神経系も異なる為、通用しないと説明すると、
 ドゥーエは悔しそうな表情でヴォルザの顔を睨みつけ、その表情に対し卑猥な笑みを浮かべ話を続ける。

 「それとも…くくくっ…淫らに襲われるのが望みであったか?」

 ヴォルザはそう言うと手を離し両腿が撃ち抜かれている為にまともに立てないドゥーエは糸の切れた操り人形のように倒れる。
 そして辺りには三賢人の卑猥な笑い声が響き渡る中で、
 ドゥーエは不敵な笑みを浮かべヴォルザの問いに答える形で言葉を口にする。

 「…ハッ!アンタ達みたいな“作り物”の体じゃ、私を満足させる事なんて出来る訳無いじゃない!!
  “作り物”は作り物らしく人形と…木偶とでも情交していな!!」

 その言葉と共に唾を吐き捨てドゥーエは不敵な笑みを浮かべると、
 その行動に激しい怒りの表情と共に血管を浮かばせたヴォルザが

 ドゥーエの腹部、子宮辺りを蹴り飛ばし壁まで追いやる。
 その痛みに口から涎を垂らしながら悶絶している中でドゥーエは今の状況を考えていた。

 …どうやら自分はここまでのようである、だがドクター達にヴァルハラの情報を伝えなければならない…
 本来の作戦は三賢人を抹殺し、その後ヴァルハラの端末を使いドクター達と連絡を取り

 ヴァルハラの情報を基に奪うか破壊するか決定してもらうつもりであった。
 だが実際は三賢人を抹殺する事が出来ず、寧ろ自分が死に絶えている…

 この状況でドクター達に情報を伝える方法、それはかつてレジアスが行った方法を応用した手段である。
 だがこの手段は自分の死を意味する、しかし既に死が迫っている以上、選択肢は無い。

 …ドゥーエは決意した表情を浮かべると左手をかざし三賢人に中指を立て挑発、
 そしてドクターや博士…自分の姉と未だ見ぬ妹達の事を浮かべていると、
 ヴォルザが放った魔力の光に包まれ命を散らした……

 「己!人形の分際で我等を愚弄するかぁ!!」

 ヴォルザは怒りに震えながらドゥーエであった“モノ”に唾を吐き捨て、ダインにドラゴンオーブの充填具合を確認させる
 そして既に充填が完了している事を確認したダインはヴォルザに伝えると、
 ドラゴンオーブの第四射の為にその場を後にする三賢人であった。


 時間は正午、第三射によって巻き上げられた粉塵が気流に乗り、空を曇らすその下、
 未だミッドチルダ全土は戦火に包まれ、此処はやてがいる海岸付近も
 先の見えない戦いに勤しんでいる中で二つの情報を耳にする。

 一つはクロノの旗艦クラウディアの改装作業が終わり、クロノ達は至急ドラゴンオーブの破壊に向かったという。
 もう一つは先程海上に向かってドラゴンオーブの第四射が発射されたというものである。

 情報を得て暫くすると地上が小さく振動し始める、
 どうやら第四射の影響により自軸がズレ始めた兆候のようで、波も荒れ始めて来ていた。
 しかしドラゴンオーブには既にクロノ達が向かっている、自分達は自分達が出来る事、

 それをするようにと命じた瞬間、はやてに向かって魔力の矢が放たれ、はやてはパンツァーシルトにて矢を防ぐ。
 そして矢の来た方向に目を向けると其処にはエインフェリアの一体リリアが見下ろしていた。

 「う~ん、やっぱり部隊長、そう簡単に撃ち取れないか……」

 あっけらかんとした表情で言葉を口にするリリア、突然現れたエインフェリアに対し他の隊員達が騒ぎ始める中
 目線だけ下ろして引き続き自分達の作業に専念するように一喝するとリリアを見上げる。

 「へぇ~無能とばかり思っていたのに…」
 「安い挑発やな…せやけど時間が惜しい、乗ったるからかかってこいや!!」

 そう言うとシュベルトクロイツをリリアに向け構えるはやてであった。


 時間はドラゴンオーブの第四射が発射される前まで遡る…
 シグナムの攻撃を受けきったエーレンは長い刀身を肩に掛け構え始めていた。

 「成る程…貴女も炎熱系が得意なようですね」

 そう言うとエーレンはシグナム目掛け飛び出し一気に刃を振り下ろす
 しかしエーレンの攻撃をレヴァンティンにて防ぐと、

 そのまま押し切る形で吹き飛ばし続けて左右の袈裟切り、
 更には振り上げ上空に飛ばすとエーレンの刀身が真っ赤に染まり
 飛ばされたシグナムよりも高い位置に移動すると一気に振り下ろす。

 「奥義!ソウルエボケーション!!」

 真っ赤に染まった刀身はシグナムの身に直撃し、更にそのまま地面まで急降下、
 地面に直撃すると刀身の熱が辺りに伝わり、その場は炎と熱に支配された。
 そんな光景から飛び立つようにエーレンが上空へと上がり周囲を見渡していた。

 「燃え尽きたか…」

 シグナムの姿が発見出来ない為にそう考えたエーレンはその場から立ち去ろうと背を向けた瞬間
 地上の炎が渦を巻き始め、その中心にはエクストラモードを起動させたシグナムが、上空にいるエーレンを睨みつけていた。

 「何処へ行く…まだ私は倒れていないぞ!!」

 次の瞬間、シグナムの周りで渦巻いている炎が赤い刀身に吸い込まれるかのように集まると、強烈な光を放つ炎の刀身へと変わり、
 そしてエーレンのいる位置まで上がり、刃を水平に保ち腹部目掛けて右に振り抜くが刀身で防がれる。
 だがシグナムは動じることなく再度攻撃を仕掛け左払い、右袈裟を繰り出すと反撃とばかりにエーレンは切り上げる
 しかしシグナムも負けてはおらず左切り上げ、そして突きを繰り出すがその全てを刀身で受け止めるエーレン。

 「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 するとシグナムは気合いを込めエーレンを突き飛ばしレヴァンティンを鞘に戻すと居合いの構えに入りカートリッジを四発消費
 飛竜一閃を放ち、エーレンに弧を描いて伸びていくが、刀身を盾にして飛竜一閃を受け止める。

 「さっ流石の威力だ…だがこれを受けきれば――」

 しかしシグナムの攻撃はまだ終わってはおらず、左手には炎で出来た剣が握られており、
 シグナムは振り払うかのような構えを取っていた。

 「剣閃烈火!火龍一閃!!」

 シグナムが放った火龍一閃はエーレンを中心に飛竜一閃と交差、エーレンは歯を食いしばりながら耐えているが
 その衝撃と炎熱は凄まじく後方のビルは砕け燃え始め、エーレンの騎士甲冑もまた溶け出し刀身もひびが入り始めていた。

 「…みっ見事だ……」

 次の瞬間、刀身は砕け散り溶け出した騎士甲冑と共に満足げな笑顔をしたエーレンはバラバラに砕け消滅した。
 そして二匹の竜が通った後は大きく削られ、その前方には刀身に戻したレヴァンティンを握るシグナムが佇み
 エクストラモードを解除すると一気に疲れがのしかかる。

 どうやら真の姿のレヴァンティンは魔力を消費すればする程、威力が高まるようである。
 無論、威力が高まれば肉体に対する負担も高まる為、使いどころを間違えれば昏睡、下手をすれば死ぬ可能性がある。
 シグナムは自分の体の具合を確かめ、レヴァンティンを鞘に戻すとその場を後にした。


 一方ザフィーラとアドニスの戦いはアドニスが優勢でザフィーラは防戦一方であった。

 「オラァ守ってばかりじゃあ!つまんねぇぞ!!」

 アドニスは狂気を含んだ笑みを浮かべながらザフィーラのバリアを叩き続けており、
 とどめとばかりにアドニスが振りかぶると、それに合わせる形でバックステップ
 更にバインドを掛けてアドニスの動きを封じるが力任せに引きちぎり、なお襲いかかる。

 「負け犬はぁ!負け犬らしく地べたでも這いずり回ってろ!!」

 そう言ってアドニスの持つ刀身に魔力が込められ一気に振り下ろすとザフィーラの障壁を砕く。
 だが障壁の先にはもう一枚の障壁が展開されておりアドニスの一撃を防ぐと、八枚の長方形の刃がアドニスの周りを覆う。

 すると刃はアドニスの騎士甲冑を斬りつけ始め、流石に後退すると刃はザフィーラの周りを時計回りで取り囲み、
 ザフィーラの体から濃い蒼色の魔力が立ち上り、右手の手甲が巨大化させていた。

 「てめぇ……」
 「ここからが本番だ!!」

 だがアドニスは臆すること無くザフィーラに向かって刀身を振り下ろそうとしたが
 ザフィーラは刃を操りアドニスの関節一つ一つに合わせ動きを止めさせる。

 それでもアドニスは攻撃を仕掛けようと動こうとしたが、刃が深く突き刺さっていく
 流石のアドニスでもこの刃が煩わしく感じ魔力を高め始めると、ザフィーラが目の前に現れ右拳を振り抜き甲冑を砕き腹部に突き刺さる。

 「ガハッ!!!」
 「…貴様が犯した罪、その身で償え!!」

 そう言うと次々に拳を振り抜き左頬、右ストレートにて右胸を打ち抜き
 更に左ローキックによる脹ら脛、ミドルキックによる脇腹、
 最後は後ろ回し蹴りによりみぞうちを蹴り抜き、その一撃により吹き飛び壁にめり込む。

 そして刃を自分の周りに移動させると、壁からアドニスが怒りの表情を浮かべながら飛び出し刀身を振り抜く、
 しかしザフィーラは刃に自身と同じ蒼色の魔力をたぎらせると四枚並べ大きな長方形の盾に変えてアドニスの一撃を防ぐ。

 「くっそぉぉおお!!何で砕けねぇんだぁぁ!!!」
 「貴様のような者に我が盾が砕ける訳が無いだろう」

 そう言ってアドニスの一撃を跳ね返すと刃を操り八枚の刃がアドニスの身を切り刻んでいく。
 甲冑が切り裂かれ砕け散るとアドニスは力無く前のめりで倒れる、

 その光景を見たザフィーラは無言のままその場を去ろうと背を向け歩き始める、
 すると力尽きたと思われていたアドニスがふらつきながらもゆっくりと立ち上がり
 刀身に魔力を帯びて一気に跳躍、ザフィーラの頭上まで上がるとその勢いのまま一気に刃を振り下ろす。

 「この俺がぁ!てめぇみてぇな飼い犬に負けるはずがねぇんだぁぁぁ!!!」

 鬼気迫る表情を浮かべながら迫るアドニス、するとザフィーラが振り向き三重魔法障壁を展開、
 アドニスの一撃は障壁二枚を砕いて止まると刃を操りアドニスの刀身を砕き
 更に右拳で地面を打ち鋼の軛にてアドニスを拘束すると、右拳に八枚の刃が一列に並び蒼色の魔力を帯びて一枚の刃へと変わる。

 「…人形が行き着く事が出来るか判らぬが……地獄へ落ちろ!!!」

 ザフィーラはアドニスに一言告げると右腕に展開されたグリムマリスを振り下ろし
 アドニスは真っ二つに切り裂かれると、蓄積されていた魔力に引火したのか爆発
 破片いっさい無く消滅したアドニスに背を向けていると、思い出したかのように目線だけを向けて言葉を口にする。

 「…それと我は犬ではない、誇り高き守護獣だ!」

 そう言って一言訂正すると今度こそその場を去るザフィーラであった。



 場所は変わりゆりかご内の管制室ではクアットロがミッドチルダの戦況把握に勤しんでいた。
 すると自分の端末に連絡が入ってきた事に気が付き、端末を開くと連絡先はドゥーエである。

 「うわぁお、ドゥーエお姉様から…久しぶりねぇ~、一体何の連絡でしょう?」

 久々の姉から連絡に、はやる気持ちを抑えながら確認すると驚愕する。
 それはヴァルハラの細かい見取り図と情報にドゥーエの遺書が綴られいた。

 【クアットロへ…】

 【貴女がこの遺書を読んでいる頃には私はもういなくなっている事でしょう…】

 【だから…私の願いを二つ聞いて欲しいの、一つは遺書と共に送られているハズの情報をドクターと博士に届けて活用して欲しい…】

 【もう一つは私の事がいたという事を覚えていて欲しいの…】

 【長く会えず私の事を忘れ去られていたり、知らない妹達も多いかもしれないけど】

 【私はあなた達の成長した姿をモニター越しでも見られて安心したわ】

 【私はもういないけど…私の“魂”は貴女達と共にいるから…だから安心してね】

 【最後に……私は私の人生を全うしたわ…クアットロもクアットロの人生を満喫してね……】

 【それじゃ】

 「ドゥーエお姉様……」

 端末に記載されている遺書を呼んでいると頬に伝う物を感じ、指で確かめるとそれは自分の涙であった。
 …今、自分は泣いている…ドゥーエお姉様がいなくなったから…
 …この沸き立つ感情、のどが渇くような気分、胸を締め付けられるような苦しみ…これは悲しみ…

 …感情とはその者の行動に左右する、かつての私は感情で行動して過ちを犯した…
 私達みたいな兵器には感情なんて不必要なもの、だからオットー達には感情を教えてこなかった。

 「でも…ドゥーエお姉様の仇は討ちたいわ…」

 悲しみから生まれる感情、憎悪、復讐、報復、そんな感情を胸に秘めながらも、
 ドゥーエの願い事の一つでもあるヴァルハラの情報を博士とドクターに伝える為に連絡を取る。

 「…そうか、ドゥーエは逝ったのか」
 「…はい」

 連絡を受けたスカリエッティは少なからずショックを受けている様子があった、
 だがドゥーエの行動を無駄にしないようにしようと、感情を押さえ込み情報に目を通す。

 ドゥーエの送った情報はヴァルハラの動力源から三賢人の居場所まで事細かく記載されており、
 これ程の物ならヴァルハラを内側から制圧し、破壊する事すら可能である。
 あとはこの情報を基に誰が進入するべきか顎に手を当て考え込むスカリエッティ。

 「さて…誰をヴァルハラに送ろうか」
 「私にお任せください、ドゥーエ姉様の仇を―――」
 「私が赴くとしましょう」

 チンクの言葉を遮るようにレザードが言葉を口にすると、目を見開き驚きの表情を隠せないでいるスカリエッティ。
 レザードの言い分はこうだ、この情報が正しければヴァルハラの外装は強固で、多少の攻撃ではびくともしない
 故に自らが赴くというものである、しかしレザードの目的はそれだけではなかった。

 「この目で確かめてみたいと思いましてね…“人の身”でありながら“神”を名乗る三賢人の姿を……」

 眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべながら答えると、スカリエッティは頷き了承するが、
 一つだけ条件があるとスカリエッティは述べる。

 「ヴァルハラを…一切の破片も残さず破壊してくれ」
 「ドゥーエに対する手向け……という訳ですか」

 レザードの言葉にスカリエッティは小さく頷くと、レザードは不敵な笑みを浮かべモニターを消す。
 そして黒いマントを靡かせながら振り向き、ヴァルハラへと足を運ぶのであった……







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最終更新:2009年10月04日 17:18