此処はミッドチルダに点在する隊舎内、其処にナンバーズの一人であるセインが存在していた。
彼女はこの隊舎を破壊する為に赴いており、部屋の隅や柱、壁などに時限式の爆弾を仕掛け、
最後の爆弾を設置する為にディープダイバーを用いて隣の部屋へと侵入する。
「これで…さ~いご!」
セインは最後の爆弾を仕掛け終えその場から立ち去ろうとした瞬間、後ろから制止を促す声が聞こえ、
振り向くと其処には教会騎士団のシャッハが身構えていた。
リリカルプロファイル
第三十四話 約束
「魔導師!?いや騎士か!」
「大人しく縛につきなさい!」
しかしシャッハの制止を無視して逃げようとしたところ、シャッハはヴィンデルシャフトを起動、
攻撃を仕掛けセインを壁まで追い詰めると、再度警告を促す。
「ここまでよ、大人しくしなさい」
「それは、どうかな~?」
次の瞬間、セインはディープダイバーを起動させて壁をすり抜ける、
それを見たシャッハは驚く表情を浮かべるが、直ぐに真剣な面持ちとなり、
全身を魔力で覆うと、セインと同様に壁をすり抜けた。
一方壁をすり抜け隣の部屋に逃げ込んだセインはそのまま立ち去ろうとしたが、
後方から先程まで対峙していた人物の声が聞こえ、
驚きの表情を浮かべたまま振り向くと、壁からシャッハが姿を現していた。
「私と同じ能力?!」
「さあ!観念しなさい!!」
そう言うとシャッハのヴィンデルシャフトのカートリッジを一発消費、刀身を魔力で覆いセインに襲い掛かる。
だがセインは体に対消滅バリアを張り、左手でシャッハの攻撃を受け止めると、
続けて右手を握り締め拳を作りシャッハの頭部を狙う、だがシャッハは上半身を仰け反るようにして攻撃を回避した。
しかしセインは続け様に左のジャブを三発、右のフック、左のハイキックを繰り出すが、
そのこと如くが回避されてしまい、苦虫を噛む表情を浮かべるセイン。
一方でシャッハはセインの攻撃力に対し一般的な魔導師や騎士では一撃でやられてしまうだろうと高評価をしていた。
だが動きは荒削りで付け焼き刃的な印象を感じ、シャッハの相手としては些か物足りない相手であった。
そしてこの程度の相手にこれ以上時間をかける訳にはいかないと考えたシャッハは、
カートリッジを二発消費、二本の刀身に先程以上の魔力を乗せると、床を踏み抜く。
「烈風一迅!!」
そして素早くすり抜けるようにしてセインを切り抜け、セインはなす統べなく前のめりに倒れていく、
しかしシャッハの攻撃は非殺傷設定を設けてある為に命に別状無く、
素早くバインドを掛けると仲間と連絡を取り、セインを引き渡すのであった。
一方此処はゆりかご内に存在するスカリエッティのラボ、周囲には生体ポットに保存された検体が並ぶ中、
メガーヌが入った生体ポットの前には、瞳を閉じ肩にアギトを乗せて佇むゼストを発見したアリューゼ。
するとアリューゼの存在に気が付いたのか、ゼストはゆっくりと瞳を開け、アリューゼを見つめていると、
アリューゼはゆっくりと、まるで言葉を選ぶかのように話し始める。
「ゼスト…隊長」
「………かつての部下か?」
「まさか“覚えて”んのか?」
「いや…“聞いた”だけだ」
自分には昔部下がいたという事を聞いた事があるだけであると応え、
アリューゼは静かに佇み暫くすると、ズボンから一つの結晶体を取り出す。
「それは?」
「今のアンタに“必要”なモノだ」
これを届ける為に此処まで来たと告げると、ご苦労な事だと言いながら笑みを浮かべるゼスト。
するとゼストの肩に乗っかっているアギトが信用出来ないと騒ぎ立てるが、ゼストは小さく頭を横に振り、
アギトを黙らせ、そしてアリューゼが手に持つ結晶体に目を向け、何か引かれるものを感じ受け取ると、
ゼストの額から赤い呪印が姿を現し手に取った結晶体が浮き始め、
目の前でまるで解凍されるかのようにして光り輝く球体となり、ゼストに吸い込まれ赤い呪印が消える。
そして暫く辺りは静寂が包み込むと、ゼストはゆっくりと言葉を口にし始めた。
「……久し振りだな、アリューゼ」
「隊長!記憶を!!」
アリューゼの問い掛けに頷き静かに答えアギトは目を丸くする中、ゼストはアギトに目を向け微笑む。
それはつまり昔のゼストの記憶と今のゼストの記憶、両方を持っている事を意味し、
人が変わった訳では無いと知ったアギトは嬉しそうにゼストの周りの飛び回り、
アリューゼもまた嬉しそうな表情を見せるが、直ぐに一変する。
何故ならばゼストの左肩がまるで爆発でもしたかのように飛び散り、血が滴れ落ちたのだ。
「やはり…もう限界か……」
「どういう事だよ!隊長!!」
元々ゼストの肉体はレザードによって損傷していた、だがそれをスカリエッティの手によって修復された。
だがそれだけではなくレリックとリンカーコアの強制接続により肉体を強化させたのだが、
その代償に肉体の劣化が早く進行する事になり、更に今回の戦いにより肉体の劣化は限界に達し、
いよいよ肉体の崩壊が始まったのだと、左肩を押さえながらゼストは語る。
「クソッ!そんなのアリなのかよ!!」
「……アリューゼ、構えろ」
アリューゼが悔しがる表情を見せている中、ゼストはデバイスを起動させると徐に構え始める。
ゼストの肉体は死を待つだけの状態である、ならばと最後にアリューゼとの模擬戦を望んでいた。
だがそれだけではない、たとえ本人の意思では無いとしても今回の事件に加担した、
その罪は償わなければならない、故にゼストはアリューゼと対峙する事にしたのだ。
するとゼストの意志を汲んだアリューゼはデバイスを起動、バハムートティアを肩に構え大きく間を取り始める。
そして静かに構えている中でアギトは立会人として二人の間に立ち、ジッと身構えていた。
暫く静寂が包み込み、二人は集中力を高め呼吸を合わせ始める、
そしてお互いの呼吸が合わさった瞬間、カートリッジを一発ロード、
ゼストが飛び出すようにアリューゼに迫り槍を振り上げる中、アリューゼはゼストに背を向けるほどまでに振りかぶっていた。
『うおおおおおおお!!!』
互いの気合いがこもった叫び声が重なり合いゼストは槍を振り下ろし、アリューゼもまた叩き斬るようにして振り下ろした。
そして互いの位置が反転すると、アリューゼの左肩から血が吹き出す、
一方ゼストは槍を二つに断ち切られ胸元に深い傷を与えていた。
デッドエンド、相手に背を向ける程までに振りかぶり一気に振り抜く、
アリューゼが扱う技の中で最も扱いが難しく、また最も威力のある技である。
「旦那ぁ!!」
立会人であるアギトがいても立ってもいられず駆け寄ろうとしたが、
ゼストは左手を向けて制止を促すと、振り向き右拳を握り殴りかかる。
するとアリューゼはバハムートティアを肩に構えながら振り向きカートリッジを二発消費、
刀身は熱せられたかのように真っ赤に染まると刀身をゼストに向けて突撃、
ゼストの身を貫くと大きく振り上げ、ゼストは爆炎に飲み込まれた。
そして辺りはファイナリティブラストによって燃え盛っていた炎が落ち着きを見せていく中、炎の中央では体に火が付いたゼストが佇み、
アリューゼに小声で「強くなったな…」と述べると、ゼストの姿を発見したアギトは泣きじゃくりながら駆け寄る。
「旦那!今炎を――」
「いや、このままでいい……」
既に肉体は死に絶え後は醜く崩壊を待つのみ、それを知ったアリューゼは、
ゼストに対しせめての手向けとして火葬を行ってくれたのだと、
アリューゼの計らいに感謝する気持ちで応え、右の人差し指でアギトの涙を拭き取る。
「だから泣くな、それに…お前が望む使い手に出会えたのだ」
「旦那……」
アギトの能力である炎変換資質はアリューゼの技と相性も良いし彼なら良く扱ってくれるであろうと語り、
ゼストの言葉に口を紡ぎながら涙をまた浮かべ、ゼストは小さく笑みを浮かべると、今度はアリューゼに目を向け言葉を口にする。
「アリューゼ…メガーヌを頼んだぞ!!」
ゼストの最後の言葉にアリューゼは小さく頷くと、安心したのか微笑みを浮かべ、
炎が顔まで覆い全身を包み隠すと、まるで消えるようにしてゼストは燃え尽きていった。
…そしてアギトは大声で泣きじゃくり辺りに響いていく中、
アリューゼはアギトに目を向け静かに…問い掛けるかの様に言葉を口に始める。
「…お前はどうする気だ?」
「…ヒック…旦那の…最…後の望み…なんだ……だから!!」
「…そうか」
アギトは右腕で涙を拭い決意ある瞳で答えると、アリューゼはメガーヌの入った生体ポットを見上げる、
…生体ポットの中にいるメガーヌは心無しか悲しそうな表情を浮かべているように思えた。
場所は変わり此処は聖王教会付近に存在する森の上空、
其処ではなのはとヴィヴィオが熾烈な争いを繰り広げられていた。
なのはは既にブラスター1を起動させており、ヴィヴィオもまたレリックの一つを起動させている状況であった。
その中でヴィヴィオは先ず五発の虹色のディバインシューターを作り出し、
なのはに向けて螺旋を描く軌道で撃ち抜くが、なのはは縫うようにして回避、
更に体を右回転させながらアクセルシューターを五発ヴィヴィオに向けて撃ち抜く。
しかしヴィヴィオは臆する事無くアクセルシューターを身に覆った虹色の膜で次々に弾いていきなのはに押し迫る、
聖王の鎧、古代ベルカの王が持つ遺伝子レベルに所有する防衛能力で、攻撃・防御共に高い効果を持つ資質である。
そしてヴィヴィオは左手を握り締め拳を作ると真っ直ぐなのは目掛けて振り下ろす、
だが、なのははアクセルフィンを全開にして後方へ移動、ヴィヴィオの攻撃を回避した。
だがヴィヴィオは右手をなのはに向けると手には虹色の魔力球が握られており、加速しているように見えた、
そして右手に二つの環状の魔法陣と足下に円状の魔法陣を張ると―――
「ディバイン…バスタァ!!」
ヴィヴィオは虹色のディバインバスターを撃ち放ち、なのはに迫る中すぐさまレイジングハートを向けてショートバスターを撃ち抜く、
だが威力が違う為見る見るうちに圧されていくがカートリッジを一発ロード、
威力を高めディバインバスターと変わらぬ威力にてヴィヴィオのディバインバスターを相殺して終わる。
先程放たれたディバインシューターに今のディバインバスター、
本来ベルカの人間は接近に特化した者が多く、射撃系は牽制程度が殆どなのであるが、
ヴィヴィオの放った魔法は十分な威力を誇っていた。
恐らくヴィヴィオは資質として魔力の射出・放出を持っているのであろう、
だがそれだけでは無くベルカ本来の接近にも十分順応しているとみるなのは。
そしてヴィヴィオの能力の分析終えたなのはは本来の目的である説得を促す。
「ヴィヴィオ聞いて!ベルカは対話による道を選んだ!もう争う事なんて無いんだよ!!」
「戦わぬベルカなどベルカではない!そしてあんなものを融和と呼べるものか!!」
元々ベルカは戦い勝ち取る事で強く、また大きくなっていった、言うなればそれが矜持、
それを忘れてただ相手の望むまま思うがままの行動をとるなどと融和とは呼べない、
そんなものはただの植民地支配に過ぎないと力強く答える。
「それもこれも今のベルカには王がいないからだ!だからこの私が生まれたのだ!!」
そして生まれたからには自分の使命を逐わなければならない、
ヴィヴィオの使命、それは即ちベルカの威光を復活させる事、その為ならば自らを兵器になる事すら厭わない、
そう語るとヴィヴィオは右拳を握り締めなのはに殴りかかるが、
なのははプロテクションを張り防ぐと、続け様に何度も叩き付け始め今度はなのはが言葉を口にする。
「違う!ベルカは敗戦後自分達の考えを改めた!その結果が今のベルカなんだよ!!」
誰かに強要されたわけでも無く、ましてやミッドチルダに支配されていた訳でもない、
敗戦後生き残ったベルカの人々が自ら考え選んだ道であり、ミッドの人々もそれを受け入れた、
その結果、強力な指導者が必要としなくなり、聖王もまた、
宗教的な意味合いとなったのだろうと応えると、ヴィヴィオは震えるようにして言葉を口に出す。
「ならば…私は何の為に生まれてきたのだ!!」
そして両拳に雷を纏わせ合わせると地上に向けて一気に振り下ろし、
なのはのプロテクションを破壊、一気に地上に叩きつけた。
プラズマアームと呼ばれるバリア破壊効果を持つ雷を拳に纏わせて攻撃する近接魔法である。
だがなのはがゆっくりと立ち上がり森の中に身を隠すとカートリッジを二発消費、ヴィヴィオ目掛けて次々とアクセルシューターを撃ち抜く。
一方ヴィヴィオの目線では、なのはの姿が見受けられず森の中から続々とアクセルシューターが襲いかかり、
聖王の鎧にて攻撃を防いでいく中、左手に巨大な魔力球を作り出し、森の中へと投げ込む、
そして魔力球が森の木々に触れた瞬間、一気に拡散し無数の虹色の魔力弾が辺りの木々を次々に薙ぎ倒していった。
セイクリッドクラスター、対象に接触もしくは目前で爆散し、小型の魔力弾を広範囲に渡ってばらまく圧縮魔力弾である、
しかもヴィヴィオの魔力と資質によって小型の魔力弾も相当な威力を誇っているのである。
「…いないか」
セイクリッドクラスターが撃ち込まれた場所は木々が薙倒れ大きく円を描いており、
今度は他の場所に左手を向けてセイクリッドクラスターを次々に撃ち込んでいく、
その頃なのはは森の中で木々が倒されていく事に警戒し、
上空を見上げるとヴィヴィオの周りにセイクリッドクラスターが五発用意されている事に気が付く。
「ならば!この森ごと葬ってくれる!!」
次の瞬間五発のセイクリッドクラスターはある程度の距離を置いて撃ち放たれ、
森の目前で次々に爆散、無数の魔力弾が驟雨の如く迫ってきていた。
それを目撃したなのははオーバルプロテクションを張り攻撃に備えると、
無数の魔力弾は次々に木々を薙ぎ倒し、辺りは見通しがよい風景へと変貌する。
ヴィヴィオはその風景を目を凝らして見つめなのはの姿を探していると、
倒れいる木々の中から桜色の防御壁に守られたなのはが上空へと向かっていくのを発見、
するとヴィヴィオはソニックムーブを用いて押し迫ると左のプラズマアームで防御壁を破壊し、
更に右手をなのはに向け拳から直射砲を撃ち抜く、
インパクトキャノン、近接戦闘における砲撃で、射撃系魔導師にとって重宝する魔法である。
そしてインパクトキャノンを撃ち抜いたヴィヴィオはその先を見つめると、
其処にはなのはが矛先を向けており、その姿にヴィヴィオは警戒していると、
なのははブラスター2を起動、更にA.C.Sドライバーを発動させて一気に加速、
ヴィヴィオに突撃するがヴィヴィオの聖王の鎧が自動的に発動、なのはの攻撃を受け止める。
だがなのはは臆する事無く突撃を続け、先端部分から魔力素が火花のように散り聖王の鎧にひびが入ると、
すかさずカートリッジを三発消費、すると先端部分の魔力刃が強く輝き出す。
「エクセリオン!バスタァァァ!!」
なのはの叫びと共にエクセリオンバスターは撃ち放たれヴィヴィオは飲み込まれていき、
撃ち放った先を見つめると、エクセリオンバスターを耐え抜いたヴィヴィオの姿があり、
その足下にはミッド式の魔法陣が張り巡らせ、右手をなのはに向けると、虹色の魔力が流星のように集い始める。
「まさか!それは収束砲!!」
「自分の技をその身に受けるが良い!スターライトブレイカァァァ!!」
そう叫ぶと虹色のスターライトブレイカーが撃ち放たれ、なのははラウンドシールドを張り攻撃に備えた。
だがスターライトブレイカーの威力は、なのはの想像よりも高く、
徐々に圧されていきラウンドシールドにひびが入り砕けると、そのまま飲み込まれていった。
そして暫く辺りを静寂が包み込む中、撃ち抜かれた後にはなのはの姿が現れる。
収束砲の使用は流石になのはも驚きの表情を隠せないでいた、
何故ならヴィヴィオが使用した収束砲はなのはのそれと全く同じ技術を用いられていたからである。
おそらくはホテル・アグスタ戦並びに地上本部戦の際に使用したなのはの収束砲を、
レザードもしくはスカリエッティが解析し、その後ヴィヴィオにもたらしたのだと思える。
…それは奇しくもなのはの技術がヴィヴィオに母から子へと引き継がれた事を意味していた。
そして収束砲を受けたなのはは、まるで疲れ切った表情を浮かべていると不敵な笑みを浮かべるヴィヴィオ。
「少し…オイタが過ぎるんじゃないかな?ヴィヴィオ」
「……この期に及んで、まだ母親面をするつもりか!」
自分とは血が繋がってはおらず、既に親子関係すら絶たれている、その事をいい加減理解しろ!
…とヴィヴィオは睨みつけながら語るが、なのはは大きく首を振り強く否定する。
なのはと兄恭也そして姉美由希とは血が繋がってはいない、
だがそれでも家族として暮らしていた、血の繋がりが重要なのではない。
一緒に笑い合い泣き合い、時には叱られたり喧嘩したり、
心を許せる存在、それが家族であり仲間であると力強く言葉を口にする。
「ヴィヴィオ!本当の望みはいったい何なの!!」
「わっ私の望みはベルカの復興―――」
「違う!聖王としてじゃなくヴィヴィオ“本人”の望みだよ!!」
聖王とはあくまで役目・役職、個人を指し示すものでは無い、
故にヴィヴィオの本当の望みは違うと考えていたなのはは強く問い掛ける、
するとヴィヴィオの中で何かが砕け散った音が響き、俯き暫く静寂に包まれると、静かに言葉を口にする。
「私の本当の望みは………な――」
ヴィヴィオが自分の想いを告げようとした瞬間、両手で頭を押さえ苦しむ表情を見せると、
体から大量の虹色の魔力が放出、その勢いと輝きになのはは右手で光を遮りながら目を凝らしていると、
額に赤い呪印が浮かび上がり胸元からレリックが二つ現れ、レリックには赤い五亡星の陣が刻まれていた。
ヴィヴィオのリンカーコアには王の印であるレリックを二つ繋がれていたのである。
するとレリックはヴィヴィオの両手袋に備え付けてある結晶体に取り込まれ、
結晶体に五亡星が浮かび上がると両腕から虹色の魔力が放出し体を纏うと、
瞳から光が消え険しい表情のままヴィヴィオはなのはを睨みつけていた。
なのははその変貌に戸惑っていると、ヴィヴィオはソニックムーブを発動、
一瞬にしてなのはの懐に入ると左拳が鳩尾に突き刺さり、引き抜くと同時に左に一回転、
左の肘が脇腹を突き刺し、よろめきながらなのはが一歩下がると右のアッパーがなのはの顎に突き刺さる。
そして上空に跳ねられると左拳を胸に叩きつけそのまま縦に一回転すると同じ場所に右の踵落としを叩き込み、
なのはは勢い良く地上に激突、その衝撃は木々をへし折り地面に大きなクレーターを作り出した。
だがなのはは立ち上がりクレーターの中央でA.C.Sドライバーを起動、一気に加速して突撃するが、
ヴィヴィオは左手に虹色の魔力を纏い、なのはの魔力刃が聖王の鎧に接触する瞬間を見計らって弾くと、
そのままの勢いを利用して左回転からの右の肘打ちを叩き込もうとしたが、
全方向性のオーバルプロテクションを張っていたようで攻撃を防がれる。
ところがヴィヴィオは左の魔力を雷に変えプラズマアームを発動させると、躊躇無く振り抜きバリアを破壊、拳が背中に突き刺さる。
だが攻撃はまだ終わらず右拳からインパクトキャノンを撃ち出し、飲み込まれながら吹き飛ばされるが、
なのははブラスター3を起動、それによって生み出された魔力を使ってインパクトキャノンをかき消した。
「……ヴィヴィオ」
今までのヴィヴィオとは全く異なる、まるで機械のような無慈悲で正確な動き、
それは表情を一切変えない事でまるで兵器を相手にしている印象を強く感じ、
なのはは戸惑う様子を見せるが、已然としてヴィヴィオは険しい表情のままなのはを睨みつけていた。
するとヴィヴィオの瞳から一筋の涙が流れ落ちる、その涙はまるでヴィヴィオの抵抗にも見えていた。
ヴィヴィオは助けを求めている、そう感じたなのはは決意を秘めた瞳で応える。
「助けるよ……何時だって…どんな時だって!!」
そしてなのははカートリッジを全て消費、レイジングハートをヴィヴィオに向け更に囲うように四基のブラスタービットを設置して魔法陣を張ると、
ヴィヴィオもまた両手で四カ所かざし魔法陣を張り、最後に真っ正面に大きな魔法陣を張ると両手を水平に構える。
すると両者の魔法陣に魔力素が流星のように集まり出し、五つの収束砲を作り出すと、なのははレイジングハートを振り上げた。
「全力!全開!!スターライト…ブレイカァァァァ!!!」
なのはの叫びと共にレイジングハートを振り下ろし、ヴィヴィオは両手を合わせて向けると両者のスターライトブレイカーが撃ち放たれ、
辺りを桜色と虹色の魔力光で照らし、魔力素が火花のように散りながら収束砲はぶつかり合っていた。
その中で足を踏ん張り堪えている両者、その衝撃はまるで台風をその身で浴びるように強力で必死な形相で耐え抜いた。
両者のスターライトブレイカーの威力は互角な状態、膠着状態が暫く続き、なのはの額には汗が浮かび上がり、
それでも尚、ヴィヴィオを助ける為に撃ち続けていた。
今度こそ助ける、あの時…地上本部の時に約束した事を今こそ果たす為に…
だが徐々になのはのスターライトブレイカーが押され始める、
今のヴィヴィオには自分の意志とは関係無く、両手に繋がれているレリックのエネルギーを、
直接引き出し魔力に変えて撃ち抜いているのである。
それを可能にしているのが額に浮かび上がった呪印で、ルーンの一つでありヴィヴィオの変貌もまたこの呪印が原因なのであるのだが、
不死者などに刻まれているルーンとは異なりある行動をとると、それをきっかけにルーンは発動、
対象の行動を支配・制御し、また思考を停止させて敵対象を殲滅する為の兵器へと変貌させる呪印なのである。
この呪印を施したのは勿論レザード、彼はもしも洗脳が解けた場合に備えて保険として施したのである。
つまりこの呪印とレリックを破壊すればヴィヴィオは元通りなるという事でもあった。
だが兵器と化したヴィヴィオはなのはですら押されてしまう程の実力を持ち、
スターライトブレイカーも徐々にだが、確実になのはが押され始めていた。
「くぅ!……後もう少し…もう少しで助けられるのに!!」
カートリッジは既に消費済み、懐には予備のカートリッジが存在しているが今から交換する事も出来ない…
というより余裕が無いのだ、それ程までになのはは切羽詰まっていたのである。
たがなのははこの状況にも関わらず希望を捨ててはおらず、不屈の心は折れてはいなかった、
するとなのはの腰に備え付けてあるミリオンテラーがなのはの意志に呼応するように輝き出し、
白銀の魔力がなのはの体を包み込むと、今まであった負担が一気に軽くなりリンカーコアも活性しているのを感じていた。
「これは!?助けてくれるの?」
突然の助太刀に驚くも感謝を浮かべ、力強く正面を向く、
今の状態ならイケる…そう確信したなのはは力強く叫んだ。
「ブレイクゥゥ…シュウゥゥゥゥゥトッ!!!」
次の瞬間、体を纏っていた白銀の魔力がスターライトブレイカーに混ざり合い螺旋の模様を描きながら、
ヴィヴィオのスターライトブレイカーに激突、見る見るうちに押し返していき、とうとう撃ち破った。
そしてヴィヴィオの体は飲み込まれていくと、額の呪印がまるで風化するようにして消滅、
すると両手に取り込まれていたレリックが現れ、ひびが入ると砕け爆発した。
そして撃ち終えたなのはは肩で息をしながら目先に向けると、
其処には少女の姿に戻ったヴィヴィオがおり、体には聖王の鎧が纏っていた。
どうやらレリックの爆発に反応して発動したらしく、ヴィヴィオの体は奇跡的に無事なようである。
するとヴィヴィオの体に纏っていた聖王の鎧がゆっくりと消えていき落下し始めた。
「ヴィヴィオ!!」
なのははすぐさまヴィヴィオの元へ駆け寄り、ヴィヴィオの体を抱き抱え地上に降りると、
その温もりに気が付いたのかヴィヴィオは意識を取り戻す。
「……なのはママ」
「…ヴィヴィオ!無事だったんだね!」
なのははヴィヴィオの無事な姿に力強く抱き締め大粒の涙を零す、
するとヴィヴィオは今までの恐怖から解放された為か、
それともなのはに抱かれ安心したのか大粒の涙を零しながら、なのはに抱きつく。
「…ごめ…んな゛…さい……な゛の゛は…マ゛マ」
「もう…大丈夫だから……もう…安心していいんだよヴィヴィオ…」
ヴィヴィオは泣きじゃくりながら何度も謝り、そんなヴィヴィオの姿を優しく抱き締め受け止めるなのはであった……
最終更新:2009年12月02日 20:18