ゆりかごに突入した機動六課フォワード陣はそれぞれ割与えられた任務をこなす為に分散した頃、
 一足先にゆりかごに戻っていたレザードはモニター越しに機動六課の動きを確認していた。

 一方スカリエッティもまたモニターで機動六課の動きを把握してると、自分の下へフェイトが向かって来ている事を確認、
 徐に席を立ちデバイスに手を伸ばしフェイトを向かい入れる準備を始めるのであった。


                     リリカルプロファイル
                       第三十六話 命


 フェイトは地図を頼りに通路をひたすら飛び進み、その間に防衛用のガジェットIII型の猛攻に会うが、
 バルディッシュをハーケンフォームに切り替え縦横無尽に飛び回りつつ次々に撃破、
 何事も無かったかのように先に進む中で先程の戦闘で体に異変を感じるフェイト。

 「体が……軽い?!」

 ゆりかご内は高濃度のAMFで満たされており、普通の魔導師では魔力を使用するのが困難な程の濃度なのであるが、
 フェイトの体、主に魔力に掛かるハズの負荷がまったく無く、本来の魔力のまま移動出来ているのだ。

 その事に疑問を感じるフェイトであったが、今はスカリエッティを確保する事を優先しようと考え、
 先に進むフェイト、その腰には神から貰った杖が淡く水色に輝いていた。

 暫く先に進み大きな広場に辿り着いたフェイトの前に、目的の人物であるスカリエッティが姿を現す。
 その右手には魔剣グラムが握られており、左手には指先が鋭いグローブ型のアームドデバイスを付けられていた。

 「よく、ここまで乗り込んできたね」
 「ジェイル・スカリエッティ!アナタの野望もここまでです!!」

 大人しく逮捕されれば悪いようにはしない、そう警告するがスカリエッティは不敵な笑みを浮かべて首を横に振る。
 計画は既に引き返す事が出来ない所まで来ている、それに管理局に媚びを売る事など出来ない、

 故に最後まで抵抗を続ける、そう言って刀身をフェイトに向けて構えると、
 フェイトもまたバルディッシュを構え対峙し始め、暫く静寂が辺りを包む。

 先ずはフェイトが先手を打ちソニックムーブを起動させてスカリエッティの右後ろを取り躊躇無く振り抜く、
 だがスカリエッティは既にフェイトと目線が合っており、フェイトの一撃を右の刀身で軽々と受け止める。

 その反応にフェイトは驚く表情を浮かべていると、スカリエッティはそのまま振り抜きフェイトを吹き飛ばすが、
 フェイトは姿勢を立て直し床を滑るように着地、すると目の前にはスカリエッティが既におり、
 刀身を横に左に薙払うような姿勢を見て、フェイトはブリッツアクションを用いて手の振りを早めスカリエッティの一撃を受け止めた。

 バルディッシュの魔力刃から魔力素が火花のように散り鍔迫り合う中で、このままだと先程と同様に弾かれると考えたフェイトは、
 自ら後方へと飛び距離を開けると左手を向けてサンダースマッシャーを撃ち鳴らす。

 ところがスカリエッティは悠々と右に回避して難を逃れると、三日月型の衝撃波を撃ち出し、
 フェイトはディフェンサーを張り衝撃波を受け止めると、その隙に後ろへと回り込み、
 背中に衝撃波を浴びせ上空へと吹き飛ばすが、フェイトは姿勢を立て直し踏みとどまる事で天井との激突を免れた。

 そしてフェイトはスカリエッティが思っていた程以上の実力者に甘く見ていたと反省し、
 ハーケンフォームからザンバーフォームに切り替え身の丈以上の魔力刃を肩に構えると、

 ソニックムーブにて接近、唐竹割りのようにして振り下ろすが、スカリエッティは刀身を横にして受け止め、
 そのまま薙払い吹き飛ばし更に衝撃波を放つが、衝撃波は真っ二つに切り落とされる。

 そしてフェイトの左足が床に着地すると間髪入れずに突きの構えで襲い掛かるが、スカリエッティは左手をフェイトに向け、
 指先から赤い魔力糸を作り出しザンバーの魔力刃を縛り付けると、そのまま魔力刃を破壊する。

 この魔力糸はレザードが使用するプリベントソーサリーをヒントに、AMFに近似したエネルギーを纏わせる事により、
 魔法を阻害もしくは拡散させる効果を持ち破壊するには、
 魔力拡散能力以上の魔力か鋭利な物理攻撃などが必要とされる代物なのである。

 話は戻り魔力刃を破壊されたフェイトであったがすぐに刃を形成、その場で右回転しながら振り抜こうとした、
 だがスカリエッティは引き裂くように左手を振り下ろし、その軌道には魔力糸が張られフェイトの魔力刃を防ぐと、

 すぐさま右の刀身での振り下ろしで魔力刃を破壊、更に切り替えて右からの薙払いによってフェイトを吹き飛ばす。
 だがフェイトは足を踏ん張り衝撃に耐えると、驚いた表情を浮かべつつ睨みつけていた。

 「くっ…まさかここまで出来るなんて……」
 「当然、何せ初期のナンバーズの三人を鍛えたのはこの私なのだから」

 初期のナンバーズとはウーノ・ドゥーエ・トーレの三名で、ウーノの冷静な判断と情報処理能力、ドゥーエの冷酷で残忍で狡猾な性格、
 そしてトーレの戦闘能力とセンスはスカリエッティの指導により齎らされたモノで、

 これらの能力は元々からスカリエッティ自身が持ち合わせていたのである。
 つまりスカリエッティは三人のナンバーズの師匠という立場でもあったのだ。

 「そんな…一介の研究者が――」
 「何を言ってるんだい?君を“造った”あの女も相当な実力者だったと聞くよ?」

 プレシア・テスタロッサ、確かに彼女は研究者になる前は優秀な魔導師であった、
 それはフェイト自身“身を持って”体験した為に理解は出来ていた。
 だがそれを踏まえてもスカリエッティの実力は相当なものである、それこそ今のフェイトに対応できる程に…

 その事を踏まえて改めてフェイトは気を引き締めカートリッジを一発使用して魔力刃を復活させて対峙、
 まずはソニックムーブでスカリエッティの懐に入ると下から上に切り上げるが、

 スカリエッティは左手で受け止め、指先から赤い魔力を放ち魔力刃を破壊すると、
 右の刀身で左から右へ薙払い衝撃波を放つが、フェイトはその場で前宙して衝撃波を躱すと、
 ザンバーフォームをライオットブレードに切り替えそのままの勢いに乗り唐竹割りを振り下ろす。

 しかしスカリエッティは右の刀身に魔力を込めてフェイトの唐竹割りを受け止め、鍔迫り合いにより魔力素が火花のように散る中、
 スカリエッティは左手を床に向け魔力糸を突き刺し床を介してフェイトを囲うようにして糸を張り巡らせ檻を造る。

 そして一定の距離を開けフェイトを縛り付けようと左手を向けて五本の糸を伸ばしたのだが、
 フェイトはライオットブレードを振り抜き檻を細切りにして更に糸も切り裂き脱出、
 上空に上がるとスカリエッティに左手を向けてカートリッジを二発使用、トライデントスマッシャーを撃ち抜くが、

 スカリエッティは魔力糸を螺旋を描くのように伸ばし巻き付かせると、
 トライデントスマッシャーは拡散して消滅、するとフェイトは床に降りてスカリエッティに迫るが、

 床から現れた魔力糸に阻まれライオットブレードにて糸を薙払い切り裂いていると、
 スカリエッティはフェイトの後ろをとり刀身を振り下ろした。

 だがフェイトはすぐさま振り向きスカリエッティの一撃を受け止めるのだが、
 その一撃は誘導で本命の魔力糸が床から姿を現しフェイトに巻き付き、

 フェイトを振り回し壁や床、天井などに叩き付け、そしてもう一度床に叩き付けると、
 壁や床が崩れ辺りには土煙が舞い、その中で土煙の中から魔力糸を断ち切ったフェイトが飛び出し、

 スカリエッティは再度魔力糸を五本放つが、次々に断ち切られ更にフェイトが押し迫りカートリッジを二発使用、
 フェイトは強化された右袈裟切りを放つが、スカリエッティは右の刀身を盾にして受け流しながら右回転、その後下から上に切り上げる。

 だがフェイトは半歩下がってこれを回避、逆に左の袈裟切りを放つが、
 今度はスカリエッティが半歩下がって回避し、突きの構えで襲いかかる。

 ところがフェイトは右に回転しながら回避して後ろをとりそのまま左に切り払うが、
 スカリエッティは左手でライオットブレードを受け止め、指先が赤く光り出し、
 魔力刃が破壊されると考えたフェイトはとっさにソニックムーブで後方へと回避、

 だがスカリエッティは左手を床に向け糸を張り巡らせフェイトの後を追いかけるかのように次々に床や壁から魔力糸が姿を現し、
 フェイトはソニックムーブで縦横無尽に回避しつつライオットブレードにて糸を切り裂き難を逃れていた。

 だが魔力糸は更に数が増えまるで蜘蛛の巣のように張り巡らしており、動きに不自由さを感じていると、後方から三本の魔力糸が襲いかかり、
 フェイトは振り向き細切りにするが左右からの糸には気がつかず、ライオットブレードごと体を縛り付けそのまま床に落下していった。

 「無様だね」
 「くっ……」

 そう一言漏らして狂気に満ちた笑みでフェイトを見下ろすスカリエッティに対し、
 苦虫を噛みしめるかのように険しい表情を浮かべながら睨み付けるフェイトであった。


 場所は変わり、フェイトがスカリエッティと戦闘を始める頃、はやて・ヴォルケンリッターチームは、
 押し寄せるガジェットの波を押し退けて一路動力室へと進み続けていた。

 そして動力室に辿り着きその大きさにヴィータは目を丸くして見上げていると、
 はやては急かすようにして動力炉を破壊しようとした、
 すると目の前からベリオンが立ちふさがるようにして姿を現し、
 その周りにはガジェットが四体おり、その風貌にヴィータの目の色が変わる。

 「あっアイツらは!!」
 「知っているのか?ヴィータ」

 シグナムの問い掛けにグラーフアイゼンを握る手が震え、奥歯を噛み締め答えるヴィータ、
 忘れるハズがない…八年前なのはが撃墜されたあの事件、その際になのはに深手を負わせたあの兵器の事は…
 あの頃とは若干容姿が変わってはいるが、基本的な部分は変わってはいない為直ぐに判断出来たのだ。

 ガジェットIV型、ガジェットの元型を利用して造られたガジェットで、元型のバリアシステムに加え接近・射撃共に強化された代物である。
 そんなガジェットIV型の姿を見たヴィータは、右のこめかみに血管を浮かばせて、
 グラーフアイゼンをラテーケンフォルムに変えると大きく振りかぶり襲い掛かった。

 「テメェェェェェラァァァァ!!」

 飛び出したヴィータを制止しようとシグナムは手を伸ばしたが届かず、四体いるガジェットの内の一体に目掛け振り下ろすが、
 ガジェットはバリアを張り攻撃を防ぐ、するとグラーフアイゼンから薬莢が一つ飛び出し、
 先端のドリルが回転し始めバリアを削り火花を散らせていると、
 ベリオンがヴィータに迫りマイトブロウが掛かった右拳が直撃、
 ヴィータはまるで弾丸のように吹き飛ぶが、その後方で待機していたザフィーラの手によって受け止められる。

 「大丈夫か?」
 「…クソッ!!」
 「…コレヨリ、侵入者ヲ排除シマス」

 ベリオンの機械音のような声が辺りに響き渡り構え始めると、はやて達も構え対峙、
 するとベリオンは四体いるガジェットの丁度中心に陣取り、
 まず前方に配置されているガジェット二体からエネルギーの弾丸がマシンガンのように次々に撃たれ、

 ザフィーラが前に躍り出て障壁を張り攻撃を防ぐと、ザフィーラの右からシグナム、左からはヴィータが飛び出し、
 後方にいるはやてがフリジットダガーで援護射撃を行った。

 すると後方二体のガジェットがフリジットダガーを撃ち落とし、
 前方で撃ち鳴らしているガジェットと共にバリアを張りシグナムとヴィータの攻撃を受け止める。

 一方攻撃を受け止められた二人は高々と上空へ距離を置くと、四体のガジェットに向けて、
 シグナムは連結刃によるシュランゲバイセン・アングリフ、ヴィータは巨大な鉄球によるコメートフリーゲンを撃ち出し、
 鉄球は砕け拡散してバリアを打ち付け、魔力の乗った連結刃は這うようにしてバリアを切り裂こうとしていた。

 するとバリアの中心にいたベリオンが飛び出し二人の間に立つと、ヴィータを左の裏拳で吹き飛ばし、
 シグナムの連結刃を使う際に生じる動く事が出来ないという弱点をついて床に叩き付けるように右拳を振り下ろした。

 しかしシグナムは途中で体を捻って姿勢を正し足から床に着地、
 ヴィータもまた足にフェラーテを纏い、踏ん張るようにして止まり壁との激突を防いだ。

 一方ではやてはシュベルトクロイツを剣に変えて本来の目的である動力炉に向けてに飛竜一閃を撃ち出すが、
 ベリオンが行く手を塞ぎバリア型のガードレインフォースを張り防いだ。

 「そう甘かないか……」

 はやては一言漏らして舌打ちを鳴らしベリオンの防御能力を分析していた。
 ベリオンのバリアは飛竜一閃程度の威力では亀裂を生じさせる事すら出来ない程に強固、
 恐らくはザフィーラの障壁と大差はないだろう、それを踏まえて新たな作戦を練り始める。

 その頃ヴィータとシグナムはシャマルの下へ向かい、フィジカルヒールにて体力を癒し次の戦いに備え、
 互いに能力を分析・対策を練り上げながら第二陣を開始し始めた。


 一方で捕縛されたフェイトは必死に糸からの脱出を試みていたが、
 スカリエッティは魔力糸に力を込め動きを封じ、自分の目線まで持ち上げると狂気に満ちた表情を浮かべた。

 「流石の君でもこの状態では大した抵抗も出来ないようだね」
 「アナタは…新たな世界を創り出してどうするつもりです!まさか神にでもなるつもりですか!!」
 「私が神に?フフッ…フハハハハハ!!!!!!」

 スカリエッティは高笑いを上げてフェイトの指摘を一蹴する、
 自分はあの評議会のような愚考など持ち合わせてはいない、
 他の目的があり、その目的を果たす為にはミッドチルダは邪魔な存在であると語る。

 「なら…アナタの目的って!?」
 「シンプルなものだよ、“私”が“私”として生きられる事さ…」

 スカリエッティの別名は無限の欲望、評議会が手にするアルハザードの技術で造られた存在、
 つまりは彼等の“道具”その為に様々な研究を行って来た、自分の身体能力もその副産物に過ぎないと。

 だが自分は考え始める、なぜ自分だけこれほど理不尽な扱いを受けなければならないのか…
 生まれが違う…ただそれだけで造られた“者”はただの“物”扱いになる…同じ“命”なのに…

 「君だって経験あるだろう?理不尽な扱いを…」

 スカリエッティの言葉に顔を曇らせるフェイト、彼女もまた母から理不尽な扱いを受けていたからである。
 造られし者は“平等”に不当な扱いを受ける、だからこそ自分は立ち上がった、造られし者が普通に生きられる世界を構築する為に、

 しかし…もし世界を構築したとしても管理局は黙ってはいないだろう、彼等は目的の為ならば管理外世界すら足を運ぶ存在、
 そして管理局は評議会が創り出した組織、スカリエッティにとっては枷と言っても過言ではなかった。

 つまり評議会そして管理局と言う枷を断ち切る事で真の自由を手に入れられる…それが今回の目的、
 そしてレザードの手によって三賢人…否評議会は抹殺された、
 後はこの世界を媒介に新たな世界を構築するだけであると高々と語る。

 「そんな事が本当に可能だと――」
 「可能さ、レザードによって齎されたこの魔法技術を扱えば!!」

 そう言って刀身を掲げると頭上から巨大な球体型の魔法陣が姿を現す、
 この魔法陣はレザードの世界に存在する世界樹の名を取ってユグドラシルと言う。

 本来、世界創造には莫大な魔力と強力な媒介を必要とし、
 レザードは世界を支える四宝の一つグングニルを媒介にした事により世界を構築した。
 だがこの世界にはグングニル程の物が存在しない為にそれに準する物、
 つまりはこの世界ミッドチルダが必要という訳なのである。

 だがこれだけでは世界を創る事は出来ない、これを実行する者が必要である、
 その役目がチンクである、だがそれを実行するには先ずベリオンがゆりかごを融合してミッドチルダを破壊、

 次にチンクがこの魔法陣で原子配列変換能力を強化させて魔力素に変え、更にマテリアライズにて新たな世界として再構築する、
 こうして新たな世界、ベルカが完成すると説明した。

 「これによって私達の――楽園が完成する!!」

 其処にはクローンだから人工生命体だから戦闘機人だからなどの生まれによる差別など無く、等しく生きられる世界であるのだという。
 そう言って両腕を大きく広げまるで崇めるようにして、天を仰ぎフェイトに背を向けて宣言するスカリエッティ。

 「そう私は造られた者の為に戦っているのだ!現状を素直に受け入れた君とは違うのだよ!」

 管理局に縛られその苦しみから逃れる為、自分と似た境遇の人達を集める事で癒し、
 あまつさえ彼等を駒にする事により、自分の不満や欲求を解消する。

 それはまさに自己満足による今の状況からの逃げであるとフェイトに左人差し指を向けて、
 断言するスカリエッティ、一方でフェイトは俯き何も答える事が出来ないでいた。
 すると―――

 『そんなことはありません!!』

 二人の重なった声をきっかけにフェイトのモニターが突然開き、
 其処にはフリードリヒに乗ったエリオとキャロが力強い瞳で見つめていた。

 「フェイトさんは逃げてはいない!今も必死に戦っています!!」

 確かに今の世界の情勢は造られた者達にとってつらい世界である。
 だがフェイトはそれと真正面に向き合い必死に模索してきた。

 結果、自分と似た心境の人達を集め少なくとも今を生きる事が出来るようにしていこうと言う考えに至り、
 いずれ造られた者達も安心して暮らしていける世界を共に歩んでいく、
 その考えに賛同したから今の自分とキャロがいると力強く断言するエリオ。

 「今の世界に絶望して…自分の思い描く世界に逃げ込む、逃げているのはスカリエッティ!アナタです!!」

 現状を受け入れず、類い希なる頭脳がありながらも変えようともせず、
 ただ非難し否定し消し去り新たな世界に縋る、まさに負け犬ともいえる発言であるとキャロが答える。
 するとスカリエッティはモニターに目を向けて話始めた。

 「では君達は楽園に興味がないと?」
 「当然です!僕達は既に自分の“拠り所”を見つけたんですから!!」
 「ふむ…それは残念だ」

 話は平行線のままスカリエッティは肩を竦め理解しがたいといった表情を浮かべる中で、フェイトは二人の言葉が心に響いていた。
 …二人は十分に成長している、機動六課の隊舎が無くなった時、落ち込んでいた二人がここまで力強い意志を持った、
 恐らく共に苦難を乗り越える事により、鍛え上げられたのだろう…
 今まさに二人は一人前として自分の足で立ち歩み始めたのだ。

 そんな二人の姿を見たフェイトはこのまま無様な姿を見せ続ける訳にはいかないと自分を奮い立たせ、
 真ソニックフォームを起動、溢れ出した魔力で魔力糸を綻びさせると、
 両手に握られているライオットザンバー・スティンガーにて糸を細切れにして呪縛から逃れた。

 「まだそれだけの力を宿していたとはね」
 「…私はもう迷わない!!」

 まるで揺らいだ自分を叱咤するように決意を口にするとスティンガーを水平にして突きの構えをとると一気に加速、
 一瞬にしてスカリエッティの懐に入ると右のスティンガーを振り下ろす。

 だがスカリエッティは振り下ろしに合わせて後方へ飛ぶように回避、前髪を掠める程度に終わらせると、
 反撃とばかりに左手から魔力糸を伸ばし捕縛しようとしていた、
 がしかしフェイトは左のブレードで魔力糸を細切れにしながら徐々に迫って来た。

 「もはや魔力糸は意味を成さないか……」

 するとスカリエッティは左のデバイスの出力を上げ始め、先端部分に赤い魔力による鋭い爪が形成、
 それはまるでドゥーエの持つピアッシングネイルを彷彿とていた。

 そしてフェイトに押し迫り左爪で右のブレードを掴み魔力刃を破壊すると、フェイトはすかさず左のブレードで左に払うが、
 スカリエッティは右の刀身を逆手に持ち替えフェイトの攻撃を受け止めつつ後方へ飛ぶようにして下がり、
 右足で着地した瞬間、スカリエッティは高速移動にてフェイトの背後をとると右の刀身を元に持ち替え振り下ろす。

 しかしフェイトはソニックムーブにて加速して回避、スカリエッティの一撃が空を切ると、
 逆にフェイトが背後をとり、再形成した右のブレードを振り下ろすが、
 スカリエッティは振り向きながら下から上への切り上げに切り替えフェイトの攻撃を防いだ。

 すると今度はスカリエッティの持つ刀身に魔力が覆われ、力強く振り抜きフェイトを上空に吹き飛ばすが、
 フェイトは空中で姿勢を立て直し二本のブレードを交差させて再びスカリエッティに攻撃を仕掛ける、

 だがスカリエッティは左の爪でフェイトのブレードを掴み取り魔力刃を破壊しようとしたが、
 フェイトはカートリッジを一発使用して魔力刃を強化させて破壊を防いだ。

 一方で魔力刃を破壊出来ないと判断したスカリエッティは魔力刃を掴んだまま床に向けて投げつけるが、
 フェイトは宙を一回転して足から床に着地して、スカリエッティに向けて構えていると、
 既に後ろに回り込んだスカリエッティがフェイトの背中に右の回し蹴りを叩き込んで吹き飛ばし、
 続けて左の爪から魔力糸を作り出しフェイトを縛り付けようと迫っていた。

 だがフェイトは動じる事無く左のブレードを逆手に持ち空中で回転、魔力糸をバラバラに切り裂くと、
 床に着地してそのままスカリエッティ目掛けて直進、一気に払い抜けるとスカリエッティはその衝撃で宙を舞った。

 ところがスカリエッティは錐揉みしながらも的確にフェイトに向けて三発衝撃波を放ち、
 フェイトは左のブレードを元に持ち替えて衝撃波を撃ち落としていると、スカリエッティは床に着地、

 それを見たフェイトはすぐさま近づき左のブレードを振り払うが左の爪で受け止められてしまう。
 するとフェイトは右のブレードを左のブレードに合わせライオットザンバー・カラミティに切り替え威力を高めるが、

 今度は魔力を込めた右の刀身を盾にして攻撃を受け止め、
 お互いの攻撃により魔力素が火花のように散る中でスカリエッティは言葉を発する。

 「速度は互角…ならば!!」

 するとスカリエッティは刀身に力を込め徐々にフェイトを押し始める、
 一方でフェイトはスカリエッティの押しを必死に堪えていたが、
 その勢いは止まらず床を削りながら追いやられ始めていた。

 「くぅぅぅぅぅ!!」
 「さあ!そのデバイスごと砕け散るがいい!!」

 そう言って更に押し始め魔力刃にも亀裂が生じ始め歯噛みするフェイト、
 …このまま負けてしまうのか…この戦いに負けると言う事は即ち全てを否定されると同義である。
 すると頭の中からエリオやキャロの姿が浮かび上がる、二人は自分を信用してここまで来てくれた。
 自分を“拠り所”にしてくれた、そんな二人の思いを踏みにじる訳にはいかない!

 「負ける訳には…いかないんだぁぁぁぁ!!!」

 フェイトの魂を振り絞るような叫びと共に力を込め始める、
 すると腰に添えてあったアポカリプスが輝き出し全身に青白い魔力が纏うと、
 途端に体が軽くなり流石のフェイトも戸惑いを見せる。

 そして青白い魔力はライオットザンバー・カラミティにまで包み魔力刃を強化し始め、
 勝機と睨んだフェイトは両足を踏ん張り腰をひねり大きく振り抜いた。

 一方でスカリエッティはフェイトの攻撃を受け止めようと両方のデバイスの出力を最大にした、
 だがフェイトの強化された魔力刃には適わず、左の爪とデバイスは無惨に砕け散り
 その身にフェイトの渾身の一撃を受け壁まで吹き飛ばされ、その場は砕け散り砂塵と化した瓦礫に覆われていた。

 そしてフェイトはゆっくりとその場に足を運ぶと土煙が落ち着き始め、
 両足を大きくひらいて座り込み頭を俯かせているスカリエッティの姿があった。
 するとスカリエッティの左指がピクリと動き出し意識がある事に驚くフェイト。

 「まさか…意識があるなんて」
 「……この剣の…おかげだが…ね……」

 そう言って右手に握られている魔剣グラムを見せる、
 魔剣グラムは神の力を受けた一撃に耐え抜き、折れるどころか傷一つついてはいなかった。

 「流石は…神の金属と言うべきか……」

 一方で左手に填められたデバイスは無惨にも砕け散りその姿すら確認が出来ない程であった。
 神の金属、オリハルコンを模した金属を材料にしたのだが、やはりオリジナルとは程遠いものであると痛感する。
 そして一通り自分の状態を確認したスカリエッティはモニターを開き、其処にはレザードの姿が映し出されていた。

 「どうしましたか?ドクター」
 「負けて…しまったよ……もう…動くこと…すらまま…ならない」
 「そうですか……」

 レザードは小さく答えるとその反応に少し笑みを浮かべるスカリエッティ……
 そして―――

 「私はもう…ここまでだ……」
 「そうですか…ならば――さようならです“スカリエッティ”」
 「――あぁ…さようならだ、レザード」

 そう言うとお互い軽く笑みを浮かべモニターを閉じそして目の前に立つフェイトを見上げる。
 一方でフェイトはスカリエッティの罪状を述べようとした瞬間、
 スカリエッティが刀身を振り上げ、警戒したフェイトは間を空けて対峙する。

 「まだ…抵抗する気ですか!」
 「あぁ…君達の思い通りにはならないよ!!」

 そう言って狂気に満ちた笑みを浮かべると刀身を逆手に握り返しそのまま自分の心臓を貫く。
 突然の行動に唖然とするフェイトであったが、直ぐに立ち直りスカリエッティに突き刺さる刀身を引き抜こうと近づくが、
 既に手遅れで口から大量に血を吐き出すと、狂気に満ちた笑みのまま力無く永遠の眠りについた。

 「何故…こんな事を……」

 フェイトはその場に座り込み、まるで自問するように問い掛ける。
 あれだけ命に拘った人が何故自害をしたのか…だ。



  …だがその問い掛けに答える者などいなかった……‥








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最終更新:2009年12月30日 13:47