その為なのはのシールドは限界を超え無惨にも砕け散り、その身に何度も衝撃が走り膝を付いて苦しんでいると
 なのはの脳に一つの詠唱が浮かび上がり、痛みに耐えながらゆっくりと確実に立ち上がるや躊躇する事なくその詠唱を口にした。


 「十戒の鼓動…喜死の召雷、幻妖の棲烈が齎せしは御滅による安息と知るがよい!!」

 すると骸骨の頭上に光の魔法陣が現れ、其処から幾重にも光が降り注いで骸骨の身を貫いていき、それが終えたと同時になのはは右手を向けた。

 「ファントム!デストラクション!!」

 次の瞬間、骸骨は魔法陣に飲み込まれ暫くすると大爆発、周囲を眩しい光で包み込み、暫くして落ち着くと其処に骸骨の姿はなかった。
 ファントムデストラクション、本来ではミリオンテラーを用いて放たれる光の広域攻撃魔法なのであるが、
 なのはは神とユニゾンしている為に特別に使用する事が出来たのである、だが当然魔力の消費も激しい為、おいそれと扱える代物ではないが…

 それはさて置き、なのはのファントムデストラクションを目の当たりにしたレザードは威力もさることながら
 その広域攻撃魔法の正体を瞬時に理解した事により、苛立ちとも言える表情を浮かび上がらせていた。

 「貴様のような小娘が…神の魔法を扱うとはな!!」

 不届き…一言で表すのであればこれ以上の言葉が見つからない、それ程までになのははレザードの怒りを買っていた。
 一方でなのはは自分の体の調子を調べ、まだイケると判断し構え始めレザードと対峙するのであった。



 「なっ……何なんだ…この戦いは………」

 一方此方はミッドチルダ宙域で待機しているクラウディアと、全地域からの情報が集うアースラを利用して戦況をモニタリングしているクロノ達の姿があった。
 だがなのはとレザードの戦いは一同を驚愕させるどころか、フィクションなのではないのかと錯覚してしまうほどであった、それ程までに二人の戦いは常軌を逸していたのだ。
 この時フェイトはゆりかごでなのはが言った言葉を思い出していた、…確かにこれ程の戦いに自分達が参加しても、ただ足手まといになるだけであると。

 一方ではやては二人の戦いにおけるミッドチルダへの影響を懸念していた、二人の攻撃はあのドラゴンオーブの砲撃と大差無いと感じていたからである。
 だが…だからといって二人を止める手立ては無く、更にレザードに対抗出来ているのは今のなのはしかいない…そう実感している時である、クロノの下にクラウディアからの連絡が届く。

 その内容とは本局からの入電で、現在ミッドチルダ宙域に大規模な次元振の予兆を感知、
 早急に手を打たなければミッドチルダは次元断層に飲まれ消滅すると言うものであった。

 この次元災害は恐らくなのはとレザードの戦いによって引き起こされたものと考えられる、
 だがこの場にいる全員で、もしくは全戦力にて二人の戦いを止めようとしても不可能、まさに無駄の一言である。
 このまま滅びをただ待っている事しか出来ないのか…一同は奈落に突き落とされたかのような表情を浮かべている中、クロノが一石を投じる一言を呟く。

 「…手が無い訳じゃないんだ」

 場の沈黙を破るこの一言にクロノは説明を始める、十年前ジュエルシード事件のおり中規模の次元振が起きたことがあった、
 その時提督であったクロノの母リンディは次元振の進行を抑えつけていた事があり、今回はそれを全員で行う事により進行を抑えつけるというものであった。

 「しかもこの場には指折りの魔導師に騎士が複数いる、試してみる価値は十分にあるハズだ!!」

 それに今ここで動かなければどのみち二人の戦いにより確実に滅ぶ、ならば少しでも次元振の進行を抑え、なのはがレザードを倒す事に賭けた方が無難であると。
 するとこの場にいる更に通信を聞いている全員がクロノの案に賛同し早速クロノの指示の下、

 機動六課メンバー、クラウディアチームを中心に魔導師達や騎士団達が一斉に移動または転送していき、
 ミッドチルダ全域に広がるとアースラ及びクラウディアから齎された情報を基に魔法陣を張って一気に魔力を解放、次元振の進行を抑え始めたのであった。


 管理局または教会騎士団が必死に次元振の進行をくい止めている頃、なのははレザードに対して肉弾戦を仕掛けていた。
 なのはの持つレイジングハートは常にA.C.Sドライバーを起動させている状態に近く、先端の魔力刃も相応な威力を誇っているからである。
 それにあの手の存在は肉弾戦を苦手としているハズ、かつての自分もそうであった為の決断であった。

 だがレザードも負けてはいない、グングニルという強力な槍に周囲を飛び交う本のページも相当な威力があるからである。
 それに神の力を得た為、肉弾戦においても十分な実力を発揮する事が出来るようになっていた。

 そんな戦力の中でなのはは再度接近して魔力刃を左上に突き上げるように攻撃、レザードの左頬を掠めるが、
 がら空きとなった腹部にレザードが右手に持つグングニルの突きが襲い掛かる。

 しかしなのははすぐさま半歩下がりながらレイジングハートを下ろし柄を使ってグングニルを防ぎ、
 更に前転して左のハイヒールによるかかと落としでレザードを蹴り
 かかとの鋭利な部分がレザードの右鎖骨に突き刺さるが、レザードは攻撃に耐えながら左手で抜き取りなのはごと押し飛ばすと、
 本のページを飛ばしてなのはに斬り掛かる。

 一方なのはは空中で体勢を立て直しレザードに目を向けた瞬間ページが次々に襲い掛かり、
 一枚一枚がなのはの身を切り裂き頬に血が垂れるが動じる事無くレザードに押し迫り
 そのまま魔力刃で心臓を貫こうとしたところ、レザードはグングニルにマイトレインフォースを纏わせて魔力刃を防ぎ
 更に右に薙払いなのはを吹き飛ばそうとしたが、前宙の形で防がれ頭上からなのはの魔力刃が振り下ろされるかに見えた。

 だが既になのはの行動を予測していたレザードは柄を逆手に持ち替え切り上げて魔力刃を受け止めた。
 なのはは歯噛みしながら一端距離を置き更に攻撃を仕掛け、接近するや否や何度も突き刺そうとしたが、

 レザードは滑るようにして後方へ躱しつつ躱せぬ攻撃をグングニルで防ぎ、更にレイジングハートを引いた瞬間に合わせて振り上げなのはの胸元を深く傷つけた。
 血が溢れ出し痛みも相当なものであるハズなのになのは臆する事なく、先程傷付けた右肩を狙って魔力刃を突き刺し
 更にディバインバスターを発射させてレザードを吹き飛ばすが、
 レザードも負けず吹き飛ばされ痛みに耐えつつもクロスエアレイドを放ち、なのはの両肩や腿を撃ち貫いた。

 最早二人の攻撃には非殺傷設定などされておらず殺られる前に殺る…そんな骨肉の争いを続けていた。
 そして瓦礫を背にして身を隠したなのはは深く傷つけられた胸元や肩腿などにフィジカルヒールを施し治療をしていた。
 だがキャロやシャマル程の回復力は無い為、応急処置程度過ぎないのだが放っておくよりはマシである。

 そんな治療をしている中で今までの戦いを振り返るなのは、此方の攻撃はレザードに通じているハズ…神とユニゾンした事によりアストラライズが可能となった。
 だがレザードのポーカーフェイスは此方の精神力を著しく削る、何故なら今までのように効果が無いという不安感を掻き乱すからだ。

 「そんな事は無い…絶対に通じているハズだ……」

 それに余り時間も残されてはいない、ユニゾンには一定の時間が決められている、しかも今は神との強制的なユニゾン、
 体に対する負担も半端ではない、だからこそ早急にレザードを倒さねばならない。
 …迷っている時間はない、そう心の中でなのはは覚悟を決めると立ち上がりレザードを姿を確認すると対峙し始めるのであった。


 一方でレザードはなのはの実力に舌を巻いていた、今まで二回ほど対峙してきたが、その中でもダントツの実力を誇っていた。
 それは神とユニゾンしているから…最初はそう考えていた、しかし幾度か交えてなのはの気迫が尋常ではない事に気がつく。
 恐らくは此処で全ての終止符を打つ覚悟で戦いに望んでいる、だがそれは此方にも言えた…

 「巡りに巡る因縁…此処で決着を付けよう……」

 アグスタ…いや本人は知るハズがないであろう八年前の撃墜事件からの因縁にケリを付ける、その為にレザード自らが封印していた魔法…それを用いる覚悟を決め
 レザードは飛び出し宙に浮くとなのはが瓦礫から姿を現しその姿を見据えながら対峙した。

 「頃合いでしょう…」
 「そうね…」

 お互い覚悟を決めた表情を浮かべ対峙していると、先になのはが動き出しレザードの懐に入るや否や右のインパクトキャノンをレザードの頭部目掛けて撃ち抜いた。
 だがレザードはその場から動かずなのはの攻撃に耐えていると続けてアクセルシューター更にショートバスターを撃ち放つ、

 しかし尚もレザードは攻撃を耐え続けており、不安感を抱く表情を浮かべるなのはであったが、
 逆にチャンスではないかと発想を変えてレザードの胸元目掛けてディバインバスターを撃ち抜く、すると―――

 「カオティックルーン!!」

 レザードはなのはのディバインバスターに耐えながら左手をなのはに向け足下に魔法陣を張ると、
 魔法陣は一気に広がりを見せてクラナガン全地域は、環状の魔法陣が帯のように幾重にも張られているドーム状の結界に包まれた。
 カオティックルーン、レザードが自らの意志で使用する事を禁じた魔法の一つで、この結界にいるだけで身体能力を20%減少させる結界魔法である。

 その効果によりなのはの身体能力は低下、何かが全身にのし掛かっているのような…まるでかつて施されていた能力リミッターと同じ感覚を覚えていると、
 目の前にいるレザードがグングニルを振り下ろしなのはは地面へと叩きつけられるが、そしてゆっくりと立ち上がりレザードを睨み付ける。

 「この程度で…私を倒せるとでも―――」
 「まだ、この程度で終わるものか!スペルレインフォース!!」

 次の瞬間レザードの足下に黄色の魔法陣が現れ、レザードを黄色く照らし始めると、レザードの体から溢れる白金の魔力が更に輝き出し周囲を照らし始める。
 スペルレインフォース、レザードが自らの意志で封じた魔法の一つで、魔法陣内に存在する者の魔力を1.5倍に高める切り札であり、
 レザードにとっての希望の一手、この世界にとっては絶望の一手とも言える支援魔法である。

 だがレザードの魔力強化はそれだけでは終わらなかった、今度はレザードに向かってまるで流星のように魔力が集まり強化していく、
 その光景になのはは目を丸くする、何故ならばそれはなのはが良く知っている方法で魔力を集めているからだ。

 「まさか…私の収束技術を!!」
 「フフフッ貴様にとってこれほどの屈辱はないだろう!!」

 地上本部での戦いの折になのはが見せた収束技術を用いて魔力を高め、更にそれによってミッドチルダを崩壊させる。
 この収束技術こそ、この世界で収穫した技術の中で最高の利であり、またなのはの技術を使わざるを得ないと言う最悪の害でもあった。
 それ程までプライドの高いレザードが使わざるを得ない相手、なのはは其処まで強くなりまた、驚異と感じていたのだ。

 「だが…それももう終わる!」

 するとレザードは右手を天にかざし魔力が右手を介して天を貫くと、詠唱を始める。

 「我招く無音の衝裂に慈悲は無く!」

 辺りはレザードが放つ光に包まれなのはは右手で光を抑えながらもレザードを睨みつけていた。
 そしてレザードから放たれた光は次元海にまで及び、続いて光を中心に移送の魔法陣が7つ張られ光が伸びていた。

 「汝に普く厄を逃れる術も無し!!」

 すると魔法陣から直径数百メートルの隕石を呼び出す、スペルレインフォースに収束技術を用いた魔力強化により
 本来の大きさの隕石より巨大な隕石を召喚する事が出来たのだ。
 そんな巨大な隕石の一つが引き寄せられるようにしてミッドチルダに落下、なのはの下へ迫っていた。

 「この世界ごと消滅するがいい!メテオスウォーム!!!」

 曇天の空を打ち破るように巨大な隕石は真っ赤に燃えながら迫っていた。
 その光景を目の当たりにしたなのははカートリッジを全て消費、自身にオーバルプロテクションを張り、
 続いて目の前に自身最大の直径数十メートルあるラウンドシールドを張り攻撃に備えた。

 そしてシールドと隕石が接触した瞬間に爆発、激しい爆音と共に衝撃波が走り、なのはの周囲を吹き飛ばし高速道も薙ぎ倒した。
 だがそれだけには止まらす衝撃波は尚も広がりを見せて海岸線に到着、大波を生み出し海は更にうねりをあげ始めた。

 そうこうしている内に二発目が直撃、先程と同じ規模の衝撃波が走り更には大きなクレーターが形成、
 続いて三発目が直撃するとクレーターに巨大な亀裂が走り、その亀裂は地割れとなって周囲の倒壊した建物などを飲み込んでいき、
 四発目には地割れは更に悪化、しかも海では津波が発生し海岸線は壊滅的な被害を被っていた。


 場所は変わり此処は首都クラナガンから南方に位置する海上上空、周囲には次元振の進行を止める為に局員が必死に行動しており、
 その中心ではクロノがモニターを通し二人の戦いを観察しつつ同じく次元振の進行を必死に阻止していた。

 現在ミッドチルダ全域には管理局魔導師及び教会騎士団が陣を張って次元振の進行を抑えており、
 二人の戦いに局員達を巻き込まれないよう注意・指示を送っていたのだが、その考えは既に終わりを告げていた。

 レザードの放つメテオスウォームの威力はクロノの予想を遙かに超えた威力で、最初の一発目でクラナガン付近で陣を張っていた局員達は全滅、
 そして二発三発と続き四発目の際に生じた津波においては、クロノとその周囲は難を逃れたのだが、他の局員は波に飲まれて姿を消し去ったのだ。

 「悪夢だ……」

 夢なら覚めて欲しい…そう心底思いながらモニターに目を通すクロノ、このまま局員達の数が減り続けば次元振が起きる可能性が高い、
 いや…事態はもっと深刻である、レザードのメテオスウォームによる影響によりミッドチルダの地軸が歪み始め先程まで微弱だった揺れが大きくなってきているのだ。

 その直後である、五発目の隕石が直撃し地軸の振動に更なる激しさが加わり、レザードが岩肌を顕わにした山岳地帯が音を立てて崩れ落ち、
 近くで作業を行っていた騎士団の連中が山崩れに巻き込まれその光景をメルティーナやルーテシアが目の当たりにして思わず目を背けた。

 そして六発目が直撃すると、西地区上空では衝撃波に巻き込まれバラバラになった魔導師が雨のように降り落ち、
 その雨の中で必死に進行を押さえつけようとしているエリオとキャロ達、
 地上東地区ではスバルの目の前で建物が倒壊、近くにいた騎士団を押し潰しスバルは作業を中断して助け出そうとしたが、
 今回の作戦の要である事を自覚させるようにティアナが説得、苦しみ後ろ髪を引っ張られているかのような表情を見せながらも作業を続ける姿があった。


 一方北地区ベルカ領で作業しているはやては空を見上げていた、上空には黒い雲、海は荒れ狂い、山は崩れ、森は激しく音を立てて燃え続け、町並みは潰れていった…
 局員達も疲弊している、それは機動六課の面々も例外ではない、だがレザードのメテオスウォームは
 まるで世界を繋ぎ止めようとしている軛を外そうとしているように思えた、それ故か小さくぽつりと言葉を口にする。

 「終焉ってこんな光景を指すんやろうな……」

 誰もが絶望するであろうこの状況、しかし局員達の目にはまだ敗北の色を宿してはいなかった、
 何故ならば彼等の前にあるモニターには、攻撃を耐え続けているなのはの姿が映し出されていたからだ。

 今も尚なのはは戦い続けている、決して諦めず不屈の意志、心で…
 それが彼等の支えとなりまた、支えようとする意志となっているのだ、だからこそ諦めない!

 はやては弱気になりそうになった自分を恥じるように、頬を強く叩くと気合いを入れ直して作業を続けるのであった。


 一方終焉を演出している発端では六発目の隕石に耐え抜いているなのはの姿があった、
 …しかし張られているシールド・バリアには亀裂が走りなのはも立っているのがやっとと言った様子を見せていた。
 だがメテオスウォームは七つの隕石で攻撃する広域攻撃魔法、後一つ耐え抜ければ此方に勝機が見えるとなのはは判断していた。
 一方レザードはなのはの様子を確認後、右手を高々とかざし見下ろすような目線でなのはに語りかけていた。

 「貴様の仲間が必死になって次元振を抑えているようです、健気だと思いませんかぁ?!」

 だがそれも無意味になる…レザードの意味深な言葉を合図に頭上に存在する雲から直径数キロの、今まで類を見ない程の巨大な隕石が姿を現し息を呑むなのは。
 レザードはこの世界ごとなのはを消し去ろうとしている、結界これ程の大きさの隕石でなければ不可能であると判断した為だ。

 「貴様ごときになぁ!我を倒す事などなぁ!!不可能なのだよ!!!」

 そう言ってかざした手を振り下ろし、隕石は加速を続けながらなのはと接触、今までとは比べ物にならない程の大爆発を起こし
 生まれた衝撃波が土煙と混ざり合って走り海を越えると大津波を作り出しまた
 衝撃波自体も山や森を吹き飛ばしながらミッドチルダ全土に響き渡った。

 その為、作業を行っていた騎士団及び局員達は為す術なく衝撃波、もしくはそれによって引き起こされた災厄に飲み込まれ、
 この未曾有の災害の発端となった地クラナガンは、建物の残骸は砂地と化し草木すら生えそうもない更地と言う名のクレーターとなって消滅したのであった。

 「フフフ…フハハハハハハハハハ!!!」

 この地で響き渡るのはレザードの笑い声のみ、既に勝利は確信しており、そろそろこの世界も終わりを告げるであろうと考えていると
 辺りに響いていた振動が小さくなっていることに気がつく、だが世界崩壊への予兆だろうと考えていると体に不調を感じた。

 「くっ!やはり…やりすぎましたか……」

 いくらレザードが神の肉体と魔力を持っているとは言え先程のメテオスウォームは十分にレザードの体力を削るものであった。
 だが憂いであったなのはを消し去る事が出来た以上、問題はないだろうそう判断した時―――

 《Restrict.Lock》

 突然の電子音が耳に入るや否や体中を桜のバインドで縛られ、それを行った正体がブラスタービットであると分かった瞬間
 更地の一部が盛り上がり其処から右の袖が半袖左に至っては肩から失った上着に、
 スカートも左の部分膝まで失い更に腰までスレットのように破れたバリアジャケットを羽織るなのはの姿があった。

 「ありがとうレイジングハート」
 《No.problem》
 「貴様…あれに耐え抜いたと言うのか!!」

 流石のレザードは驚愕の表情を隠せないでいると、なのはは一歩前に出てレザードを睨みつける。
 …自分一人では耐えきれなかったかもしれない、だがあの時自分を応援してくれる仲間の声が聞こえた、
 それを聞いたから自分の心は折れる事もなく、また守られ支えられた為にレザードの攻撃にも耐え切れたのだと、凛とした表情で答えた。

 「バカなっ!そんな事が!!」
 「あなたには分からないでしょう」

 人を蔑み他人を見下し他者を踏み台にし自分しか賞賛しない…そんな性格の“人間”では一生理解する事は出来ないであろう。
 当然レザードはなのはの言葉に耳を貸さなかった、他人の思いが自分を強くするなどありえるハズがないのだと自負しているからだ。

 「たとえ貴様がそうであっていたとしても、この崩壊した世界では無意味だ!見ろ!!」

 人と呼ばれた存在はいなくなり、文明も消滅したと言っても過言ではない程に崩壊している、
 恐らくこの世界で存在しているのは自分と貴様のみ…そんな世界の中で貴様の戯言が通じるハズがない、
 レザードはバインドに縛られたままであってもなのはを挑発していた。

 「…私はみんなが生きているのを信じる!」
 「現実を見よ!この荒廃した世界を!貴様の役目は終わったのだよ!!」
 《―――まだ終わっていない!!》

 突然の通信に驚くなのは、それがユーノであった事に気が付くとユーノの言葉の真意を確かめる、
 なのはが必死に攻撃を耐え続けている頃、ユーノはクラウディアに赴きあるプログラムを配信したという。

 それは無限書庫に存在する石のエネルギーをクラウディアの魔導炉で増大させてから使って攻撃を防ぐというものである、
 だがこの作戦は石自体を犠牲にしなければならない、当然その中に含まれる情報も失われる事も指す。

 しかし司書長であるユーノは人命救助を優先にして石を提示、起動させて見事みんなを守ったのだという。
 するとなのはの下に次々に連絡が入る、フェイトを筆頭にはやて・スバルやティアナ、ヴィータ、シグナム、シャマルに
 ザフィーラを真ん中に置き右にエリオに左にキャロと機動六課メンバーが次々に連絡を送り最後にはクロノの姿もあった。

 「なのは、後は頼んだ!」
 「任せて!!」

 みんなからの連絡を受けて元気を取り戻したなのはは、そのままレザードを見上げレイジングハートを向ける。

 「今度は…こっちの番!!」

 そして一歩前へ踏み出すと足下に巨大な三角形が三つ均等に並ぶ桜色の魔法陣を張り巡らせ更に目の前にも同じ魔法陣を張り巡らせる、
 続いて背中の六枚の翼が巨大化して更に足元のくるぶし辺りにある翼は地面に突き刺さっていた。


 すると目の前の魔法陣に桜色の魔力が集い始める、だがその光はなのはの周囲だけではなかった、
 北地区、南地区、東地区、西地区と次々に使用された魔力がなのはの下へ向かい、ドラゴンオーブが放たれた場所からも魔力が集い始めミッドチルダ全土の魔力が集った。
 その為に収束された魔力は魔法陣の面積を大きく越え更に環が出来ており、まるで土星を彷彿としいた。
 …そして完成された魔法を前になのははレイジングハートを大きく振りかぶる。

 「全力!全開!!スターライト……ブレイカアアアアァァァァ!!!」

 渾身の力を込めて放たれたスターライトブレイカーは容易くレザードを飲み込み巨大な直射砲となって天を貫き次元海に到達、更に上昇して二つの月の間を通り過ぎていった。
 そして地上では撃ち放たれたスターライトブレイカーの影響により雲が晴れ、夜空や二つの月が垣間見え、
 二つの月の間から桜色の光を確認、するとその延長上に黒い物体を発見し、黒い物体は静かに地上へと落ちていった。

 一方でなのはは勝利を確信した様子を浮かべるが、体に掛かる負担により、膝を付きレイジングハートを支え棒に肩で息をしていた。
 すると其処にグングニルを杖にして近付くレザードの姿があった、どうやらここまで歩いてきた様子である。
 そしてなのはを睨みつけるとグングニルを大きく振りかぶり、なのはに向かって突き刺す構えを見せた。

 「貴様のような小娘に…我が力が負けるハズがないのだ!!」

 そして振り下ろされたグングニルはなのはの腹部に迫り貫く…ハズであった。
 だがグングニルはなのはに触れる手前で崩壊した、流石のオリハルコンも威力に耐えきれなかったようである。
 この結果に歯噛みし苦虫を噛んだ表情を浮かべる中でなのは凛とした表情でレザードを睨みつけ一言告げた。

 「いくら貴方が世界を滅ぼす力を持っていても…私の心を折る事なんて出来ない!」
 「なんだと?!」
 「心は…魂から生み出されるもの…だから心を支配出来る存在なんて何処にもいないんだから!!」

 それはこの体になった事でハッキリ解ったことがあり、力で魂を支配する事が出来ないように
 力で心を屈服させる事など出来はしない、心は心で魂は魂とでしか触れ合うことが出来ないと…

 そんななのはの言葉を聞きレザードはある二つの影と重なる、それはかつて自分と対峙した王女、そして自分が愛した愛しき者レナスである。
 自分がこの世界に来る間際に放たれた言葉の意味、恐らくこれが答えなのだろう…
 だから他者が所有する事が出来ない、たとえ世界を滅ぼす力を持っていても、神の力とは万能では無いのだから…

 レザードは全てを悟った瞬間、体が青白く光り出しまた少しずつ光の粒子と化していた。
 それはレザードが全てを受け入れた意味であり、そして全てが終わりを告げる合図でもあった。

 「私の…負けです……」

 静かに…だがハッキリとした口調で敗北を宣言すると、レザードの体は加速度的に粒子化していき、その中で振り返るようにして目を瞑る、
 …悪くない人生であった、自分の本能に任せたまま、やりたい事を好きなだけ行った、だが…惜しくらむは初恋の存在を手中に収める事が出来なかった事ぐらいか…
 だがそれでもレザードの心は晴れた気分であった、恐らくそれは心から悟り死を受け入れたからであろう。

 レザードは自分の意志が微睡みの中に溶けていきながら広がっていく死の感覚を堪能していると、
 体は完全に光の粒子となり静かに音も無く崩れ去り消滅したのであった。



 レザードの死を見届けたなのはは、緊張が抜けたのかその場に座り込む、すると体が輝き出し光と共に二つの魂が解放される。
 その時である、なのはの周囲から転送用の魔法陣が現れ其処から次々に機動六課のメンバーが姿を現す、その中にはユーノの姿もあった。

 「ユーノ…」
 「なのは…お疲れ様」

 ユーノはなのはに近付き手を差し伸べるが、どうやら体が思うように動かないようで差し伸べられた手を触れるだけで止めるなのは。
 するとなのはの状態を察したユーノは膝を付き、なのはと同じ目線に座る中で二人は流浪の双神に目を向けた。

 「有り難う流浪の双神…」
 「我等は力を貸したに過ぎない、奴を倒したのはなのは、貴方の“不屈の心”よ」

 イセリアクイーンは優しい笑みを浮かべながら激励を送ると、続いてガブリエセレスタが言葉を交わす。
 今回の戦いによりミッドチルダの地軸はズレたまま、今は崩壊前の予兆として静かであるがすぐさま崩壊が始まるであろうと。
 其処で流浪の双神が力を使って地軸だけでも修復するという、流石にあれだけの戦いを行った為、
 かなりの力を消費してはいるが地軸を修復するぐらいであれば可能であると告げられた。

 「お願い出来ますか?」
 「あぁ、任せておけ」

 ユーノの言葉に力強く答えると早速流浪の双神は足下に魔法陣を張り右手で触れる、
 すると魔法陣から一筋の優しい光が延び地面と接触すると地上全体が光に包まれ、そして暫くすると
 光が落ち着き始め一同は辺りを見渡すと全土を覆っていた灰色の雲は晴れ、荒れていた海も落ち着きを取り戻していた。

 「では我等は行く、もう…会う事もないだろう」
 「…さようなら、我等を従わせた強き心の持ち主達よ……」

 流浪の双神は軽く別れの挨拶を交わすとそれぞれ赤と青の光の玉に変わり上空を上っていき暫くして音も無く消えていった。
 それを見上げながら本当に全てが終わったのだと実感し始めるなのは達であった。



 暫くしてユーノはなのはの左肩に手を回し、続いてフェイトが右肩に手を回して優しく立ち上げると
 東の空が徐々に明るくなり始め夜明けが近いことを告げていた。

 「なのは、夜明けだよ…」
 「うん、とっても綺麗だね…ユーノ」
 「これは…この風景はなのはが守った景色なんだよ?」
 「うん…ありがとうユーノ、そして―――」
 「…なのは?何か言った?」

 ユーノの問い掛けに小さく首を振るなのは、そして朝日を見つめ笑みを浮かべていた。
 一方でクロノは朝日を眺めながらこれからの事を考えていた。

 「…これからが大変だ」

 ミッドチルダの再興、管理局の立て直し、魔法に対する対策など問題は山積みであるとクロノは朝日を見つめながら話し、
 その言葉にはやては頷き他のメンバーも同じく頷いていた、そしてフェイトはなのはに目を向けながら言葉を口にした。

 「頑張ろうね、なのは―――」

 だが…なのははフェイトの言葉に一切反応せず、眠りについたかのように瞳を閉じていた…




 しかし…なのはの表情は安らぎに満ち溢れており、優しい笑みを浮かべたままであった………





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最終更新:2010年02月26日 18:50