――旧い結晶と歪みの神と無限の欲望が交わる地――

             ――死せる王の下、聖地にて彼の翼が甦る――

      ――不死者達は踊り、中つ大地の奉の剣は折れ、法の塔は虚しく焼け落ちる――

        ――法の塔が焼け落ちし時、彼の地より神々が先兵を引き連れ現れん――

       ――神々と死せる王が相対する時、神々の黄昏を告げる笛が鳴り響く――

   ――それを先駆けに数多の海を守る法の船は龍の咆哮により砕け落ち、彼の地は焔に包まれん――



                  リリカルプロファイルif
                       破滅


 地上本部は落ちた…スカリエッティが率いる戦闘機人ナンバーズとレザードの手によって…
 しかも戦力である機動六課も同時に失った…最早ミッドチルダに戦力など無いに等しい…そう思われた矢先、この機に乗じて最高評議会が神の三賢人と名乗り出し
 エインフェリア及び彼等の次元船であるヴァルハラによる破壊と新たなる秩序を宣言、奇しくもスカリエッティの行動は彼等の口実を与えてしまう事になった。

 それから一週間後…スカリエッティは自分のラボでゆりかごの最終チェックを行っていた。
 現状のゆりかごではミッドチルダを壊滅させることは不可能、だがレザードのゴーレム・ベリオンと聖王の鍵であるヴィヴィオを融合させる事により
 聖王のゆりかごは“鎧”を手にする事が出来る、そうすれば攻防ともに強力な次元船へと生まれ変わるのだ。

 既にヴィヴィオはレザードの手によってベリオンと融合を果たし、ベリオンの体の中にはかつてヴィヴィオであった“モノ”がしまわれている。
 更にゆりかごにおける動力炉には強奪したレリックを使用する事により動力源を確保した、動力炉にある非常に大きな赤い結晶体がそれだ。

 続いて先日手に入れたタイプゼロである、レザードが強力で甘い毒である“順応”という洗脳方法により此方側の戦力となった。
 しかもタイプゼロは他の戦闘機人とは大きく異なり、ホムンクルスと呼ばれる、
 生きた金属とも呼べるフレームで構成された成長出来る肉体である事が判明した。

 「この技術を用いれば“娘達”を成長させることが出来るのではないか」

 そんなスカリエッティの小さな呟きを耳にしていたレザードは自身のラボで考え込み、
 暫くして意を決したかのようにタイプゼロの下へ向かい、骨格フレームの金属とナンバーズの細胞を採取、
 培養と共に形成することにより見る見る内に成長していき見事な肉体、ホムンクルスを短期間に完成させた。

 だがこの肉体は簡易版で臓器はあっても機能しておらず、ましてや意識や“魂”など存在しない血と骨と肉で構成された只の“器”である。
 しかしそんな“器”だからこそ意味があり、ナンバーズの肉体と融合させるには十分であった。 
 次に融合方法であるがレザードがかつて神の肉体を奪った時と同じ方法を用いることになり、
 早速ナンバーズはレザードの監修の下“器”との融合を果たし、成長する肉体を得る事となった。
 だがこの肉体は簡易版を用いた為に成長する事が出来るようになっただけで肉体自体の強化には至らない、
 其処でレザードはナンバーズにレリックを与えレリックウェポン化させる事で強化に至ったのであった。

 それから一週間が経ちスカリエッティはレリックウェポン化したナンバーズ及びタイプゼロの報告書に目を通していた。
 対象の実力は目を見張るもので上級の不死者程度では相手にならない程、対エインフェリアとして十二分に対応出来ると言っても過言ではなかった。

 「此方の戦力は充分に充実している…動くなら今かな?」

 その時である、スカリエッティのラボにレザードが姿を現す、目的はベリオンの最終チェックの報告である。
 ヴィヴィオと融合を果たしたベリオンは更に動力炉との連結を済ませ、いつでも使用可能だという。

 「ふむ…」
 「まだ何か憂いが?」

 計画は最終段階に進み、全ては整い後はスカリエッティの宣言を待つばかりだが、
 当の本人は踏ん切りの付かないようでその反応にレザードは質問を投げかけると小さく頷く。
 スカリエッティの憂い…それはヴァルハラの居場所である、既に管理局が捜索に手を回しているが未だ手がかりはつかめていない様子、
 更に地上本部壊滅の際、ヴァルハラの姿を見せたはいいがそれ以降一切表に出ていない…

 恐らくは此方と同じく準備が完了していないという事をし指し示すもの。
 だがそれだけではない、あの慎重な三賢人がヴァルハラをああも簡単に見せた…それが気がかりであると。

 「切り札だと思われるヴァルハラを敢えて見せる事で真の切り札を隠す…そう感じずにはいられないんだよ……」
 「…………………………」

 そんなスカリエッティの疑問に眼鏡に手を当て考え込むレザード、確かにスカリエッティのいうことも一理ある、
 しかし…だからといって手を拱いている場合でもない、既に準備は終えているのだから…
 とその時である、ラボに一つの暗号通信が届く、それは管理局に潜伏しているドゥーエからである。
 スカリエッティは届いた通信を開くと其処にはドゥーエの姿が映し出された。

 「お久しぶりですドクターに博士…」
 「珍しい、一体どうしたんだい?」
 「ドクターに有益な情報を届けようと思いまして……」
 「有益な情報?」

 その情報とはズバリ、ヴァルハラの現在位置と構造図である、ドゥーエは既にガノッサを利用してヴァルハラに潜伏し有益になる情報を集めた。
 先ずはヴァルハラの位置であるがミッドチルダから南に離れた海上であり、既に進軍の準備が滞っているとの事。
 そしてエインフェリア及びアインヘリアルの詳細な情報、そして最後に三賢人の真の切り札についてである。

 神の三賢人の真の切り札、それはドラゴンオーブと呼ばれる魔法兵器で現在ミッドチルダ宙域に漂っており、
 二つの月の魔力を使って次元海から精密砲撃を行い、更には転送魔法を用いた次元跳躍砲撃も可能な代物であるという。

 「成る程…それが奴らの切り札か……」
 「しかしまだ砲撃を準備を終えてない様子、叩くなら今かと」

 砲撃を行うには二つの月の魔力を増幅・圧縮・加速させる必要があり、いつでも自由に砲撃が可能という訳ではない、
 それを伝える為に危険を冒してまで通信したドゥーエ、一方でスカリエッティはドゥーエの情報に踏ん切りがついたのか
 意を決したように…または機は熟したと言わんばかりに狂喜に満ちた笑みを浮かべていた。

 「素晴らしい!流石だよドゥーエ、これならイケる!!」
 「お褒めに与り光栄です、其れでは私は三賢人の始末に――」
 「――お待ちなさい」

 ドゥーエの通信に割って入るようにレザードが止めに入る、確かに有益な情報であった、だがまだ三賢人を始末しに行くのは早計であると警戒を促す。
 何故ならば三賢人はドラゴンオーブと言う切り札を隠し持っていた、だがそれもまた囮であり他にも切り札を持っている可能性があると指摘する。

 「確かに…レザードのいうことも一理ある」
 「あくまで推測にすぎませんが念には念を……です」
 「…では私は一体どうすれば?」
 「今暫くは姿を隠していた方が良いでしょう…あの“老害”を盾にすれば目立たないハズです」

 ガノッサは既にドゥーエの魅惑の呪に掛かっている為、ドゥーエの命令ならば犬や豚にすらなれる、
 道具としては最も有効的な代物である、故に今暫く使用していた方が良いと告げた。

 「分かりました、博士の指示に従います」
 「ドクターもそれでよろしいですか?」
 「あぁ、懸命な選択だしね」

 スカリエッティは肩を竦めレザードがよく行うポーズを取り、その姿に眼鏡に手を当て怪しく光るレザード。
 そんなやり取りの中、ドゥーエとの連絡を閉じたスカリエッティは両手を大きく広げゆりかごの起動を宣言した。

 …場所は変わり此処はクアットロが所有するラボ、
 其処には全裸姿のクアットロがベットに横たわり周囲には人工魔導師を手がける際に使われる器具が並べられていた。
 クアットロは自身を賭けてある改造を行っていた、それはリンカーコアを自身に取り付けるもの、
 全てはレザードの寵愛を受けたい一心で行っていた。

 「私は…生まれ変わるのよ……」

 …思えば十年前、初めて博士と出会った時、戦慄と共に胸の高鳴りを覚えた。
 …博士の比類無き魔力、知能、技術に加え残忍で冷酷で自信家、自分にとってこれ以上の人は存在しない。
 …博士に近付きたくて眼鏡を掛けてみた、博士の寵愛を受けたかった…だけど博士は私よりチンクを選んだ。

 …博士に認められたくて無茶をした事もあった、博士に叱られる覚悟していた、だがドクターの粋な計らいで助手にしてくれた。
 …そして……博士に相応しい女性〈ひと〉なる為、今度は力を手にする事を決めた。

 「博士…私を見て……下さい」

 クアットロの囁かな願いを漏らししつつ手術を始め、暫くして手術を終えると其処には髪の色も赤く変化、
 顔色も変化した“生まれ変わった”クアットロの姿があった。
 早速クアットロは目を閉じ静かに魔力を解放すると、妖艶な輝きを放つ熟成した赤ワインのような色の魔力光が放たれていた。

 「成功したのね…これで……」

 クアットロは自分の体を確かめるように頷き一つの場所に目線を向ける。
 其処には妖美なバリアジャケットと頭蓋骨をモチーフとした禍々しい杖が置いてあった。


 スカリエッティの宣言を機にベリオンからは虹色の魔力が溢れ出し、
 逸れが座席に存在する起動スイッチを動かすと動力炉は唸りを上げて起動を始める。
 するとゆりかごが眠っていた地は盛り上がり、長い年月をへて聖王のゆりかごは今此処に目を覚ました。
 目的の地はヴァルハラ、しかしその道中で不死者及びガジェットを放ちながら突き進んでいった。


 一方で管理局は大した対策もないまま不死者及びガジェットの迎撃に勤しんでいた。
 その時である、南方の海上からヴァルハラが出現、エインフェリア及びアインヘリアルを放ちながらゆりかごに向かっているとの事であった。
 この情報に部隊長であるはやては歯噛みしていた、只でさえ忙しい状況であるのにそれに加えてヴァルハラの出現
 友人であるカリムから教会騎士団という戦力が加わって入るが、現状では不死者の対応に手が放せないと言った状況であった。

 「マズい…このままやと予言通りになってまう!」

 機動六課のメンバーも万全では無く、なのはに至っては立つことすらやっとの状態、
 つまりは現状を打破する対策がない事になり、はやては己の無能さに腹が立っていた。

 一方ゆりかご内ではスカリエッティが現状の把握に勤しんでいた、不死者及びガジェットの操作はウーノに一任してある。
 ナンバーズは対エインフェリアとして温存せねばならない、ゼストとルーテシアはゆりかご内の護衛として温存しておきたい。
 管理局は放って置いても良いだろう、既に対した戦力も残されてはいない。

 「今は三賢人共との決着に専念しよう」

 となると誰をヴァルハラに突入させるか、スカリエッティは顎に手を当て考え込んでいると、
 何処で聞いていたのかチンクにトーレ更にクアットロから通信が入り自分達が向かうと伝える。
 その理由とは自分達の手で姉であるドゥーエを助けたいというものである。
 すると三人の言葉の後に思わぬ人物レザードが同じくヴァルハラへと向かうと口にし、スカリエッティは目を見開き驚きの表情を隠せないでいた。

 レザードの言い分はこうだ、ドゥーエの情報が正しければヴァルハラの外装は強固で、多少の攻撃ではびくともしない
 つまり三人だけでは火力不足なため自らが赴くというものである、しかしレザードの目的はそれだけではなかった。

 「この目で確かめてみたいと思いましてね…“人の身”でありながら“神”を名乗る三賢人の姿を……」

 眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべながら答えると、スカリエッティは頷き了承するが、
 一つだけ条件があるとスカリエッティは述べる。

 「私もついて行く」
 「ドクター…自身がですか?!」

 この発言に流石のレザードが目を丸くする、スカリエッティ曰わく自らの枷である三賢人が討たれる姿をこの目で確かめたい
 あわよくば自分の手で三賢人という枷を断ち切りたい、その為の道具も用意してある、
 魔剣グラムとグローブ型のアームドデバイスである、これを使うのは今しかないと強い決意でレザードを見つめるスカリエッティ。

 「…分かりました、貴方の覚悟聞き届けましょう」
 「ありがとう…レザード」

 レザードは眼鏡に手を当て了承すると待ち合わせ場所を指定、スカリエッティは頷くとモニターを消しウーノに命令を下す。
 それは、もしゆりかごが危機に陥った際ゆりかごの力を行使しても良いと言うものである。

 「使い方は分かるね」
 「ハイご安心下さい」

 ウーノは力強く答えるとスカリエッティは二つのデバイスを手にしてレザードが待つ場所へ赴いた。


 「…それで、何故セッテが此処に?」
 「どうしても…と聞かないもので……」

 此方ヴァルハラ突入組にはレザード、トーレ、チンク、クアットロ…そして何故かセッテがトーレにしがみついていた。
 セッテはトーレと離れ離れになるのが嫌らしく、自分も行くと聞かないのである。
 だがセッテもまた大事な戦力である、これ以上の戦力の分散は避けたいもの、
 しかし頑として譲らないセッテ、トーレは仕方なくセッテを連れて今に至るのである。

 「すみません、博士」
 「…まぁ仕方がありませんね」

 セッテのトーレ好きはノーヴェのチンク好きに匹敵する、今回はたまたまノーヴェが近くにいなかったから良かったものの
 チンクの近くにノーヴェがいたら十中八九ついて行くと聞かないであろう、それ程までに姉妹の絆は深い。

 「おや?私が最後だったかな」
 「来ましたねドクター…」

 眼鏡に手を当て迎えるレザード、早速突入方法を説明する。
 先ずはレザードの移送方陣にてヴァルハラの近くまで接近、続いてクアットロのシルバーカーテンにて接触すると
 当初の方法ではレザードによる広域攻撃魔法によって風穴をあけ突入するつもりであったが、
 チンク、トーレ、セッテの三人とレザードの魔法さえあれば風穴をあける事は可能と考え其方に変更、
 突入後は三手に分かれレザードとスカリエッティは三賢人の下へ、クアットロとチンクは動力炉へトーレとセッテはドゥーエと合流する事となった。

 「では準備はよろしいですね」
 「あぁ、頼むよ」

 スカリエッティの返事を皮切りにレザードは移送方陣を発動、足下に五亡星の魔法陣を張ると突入組は移送した。
 此処はヴァルハラは少し離れた海上上空、突如五亡星の魔法陣が現れ其処からレザード達が姿を現した。
 だがスカリエッティとチンクは空を飛べない為チンクはクアットロが、スカリエッティはレザードが抱える形であった。

 「済まないねレザード…」
 「…私としてはチンクの方が良かったのですが…」

 ボソリと一つ愚痴をこぼすレザードであったが、スカリエッティは気に掛けることなくクアットロに命令を下し
 クアットロのシルバーカーテンが発動すると姿を消したままヴァルハラへと足を運んだ。

 ヴァルハラの周囲にはアインヘリアルの姿があったがエインフェリアの姿は見受けられなかった。
 取り敢えず作戦通りに行動を開始、チンクのランブルデトレーターとレザードのバーンストームが折り重なり爆発を演じると
 セッテのブーメランブレードが焦げた外壁を切り裂き傷を付けるとトーレのライドインパルスによる蹴りによって破壊、大きな風穴をあけた。

 「さて…此処からはノンビリしていられませんよ」

 レザードは急かすと一気に突入、三手に分かれて移動することとなる。
 トーレとセッテはドゥーエに連絡を取る、今はガノッサと一緒に部屋に閉じこもっている様子、
 早速向かっているとアインヘリアルが姿を現し二人に襲いかかってきた。

 「邪魔をするな!!」

 だがレリックウェポン化した二人の攻撃は瞬く間にアインヘリアルを撃破し、二人が通った後には残骸だけが残されていた。
 そしてトーレ達はドゥーエが待つ部屋の前に辿り着きインパルスブレードにて扉を細切れにして押し入った。

 「ドゥーエ姉さん迎えに!―――来た…よ???」
 「あらトーレ、早かったわね」

 其処には四つん這いになったガノッサを椅子にして足を組んで座るドゥーエの姿があった。
 どうやら二人が来るまで退屈だったようでガノッサに命令を下し暇潰しをしていたようだ。
 一方二人は思わぬ状況に目を丸くしていると、ドゥーエは手を叩いて二人を正気に戻し二人は気が付くと、
 ドゥーエは不敵な笑みを浮かべて立ち上がる、すると今まで椅子になっていたガノッサがドゥーエを見上げていた。

 「どっ何処へ行くのですか女王様!!」
 「もう此処には用が無いの…アナタにもね……」
 「そんな!アナタ様がいなければ私は……!!」

 まるで捨てられた子犬のような眼差しで見上げるガノッサ、一方でドゥーエは冷たい目線でガノッサを見下ろしていた。
 だがその目線も今のガノッサにとっては幸福の一途のようで、恍惚な笑みを浮かべているとその姿を見て顎に手を当て考え込む仕草を取るドゥーエ。

 「…とは言っても今まで尽くしてくれた感もあるし、一つご褒美を差し上げよう」
 「本当ですか!女王様!!」

 まるでお預けを解かれた犬のように目を輝かせて見上げるガノッサ、一方ドゥーエは懐から錠剤が入った小瓶を取り出す。
 そして一粒取り出すとガノッサの口に向かって投げ込み、ガノッサは躊躇無く飲み込む。
 暫くしてガノッサの体から白い煙のようなものが立ち上り始める。

 「はぁあ…ぬぉあああ…はぅぅ…ぅぅうぬぁぁあ……」
「 そのまま快楽に溺れていなさい…」

 ガノッサはのたうち回り体の中では鞭で叩かれているような衝撃が走る中、
 頬を赤く染め上げ口から涎を垂れ流し恍惚な笑みを浮かべており、その姿はまるで絶頂へと階段を登り上がっている様であった。

 一方でガノッサの反応を目の当たりにしたトーレとセッテは汚物でも見たかのような表情を浮かべていると、
 先に部屋を出たドゥーエに促され三人は部屋を後にした。

 「…ドゥーエ姉さん、何を飲ませたんだ?」
 「ん?グールパウダーよ」

 グールパウダーとは体内のリンカーコアに作用して無尽蔵に魔力を生成、それに合わせて肉体も変化させ不死者にする薬なのだが、
 ドゥーエの持つそれは肉体を魔力素に変えリンカーコアで魔力に変換、魔力の塊と化すと爆発する、まさに魔法爆弾に変える作用を持っているのだ。

 「相変わらず残酷な……」
 「私にとってその言葉は何よりもの褒め言葉だわ…それより――」

 ドゥーエはセッテに目を向けるとセッテはトーレの影に隠れ、その姿に頬を掻き困惑の様子を見せる、
 これが私の妹…何だか頼りがいが無いような…それとも只の人見知りなのかしら……
 そんな事を考えていると目の前にアインヘリアルが大量に姿を現し、ドゥーエは戦闘スーツに変え構え始めたが
 トーレとセッテが瞬く間に撃破、ドゥーエの出番無く片づけ終えていた。

 「へぇ~やるじゃない」

 セッテの実力に先ほどの考えを改め賞賛するドゥーエ、
 一方で姉に誉められ顔を赤くし頭を掻くセッテ、その様子に頬を掻き困惑した様子のトーレだった。


 此方レザードとスカリエッティはドゥーエから得た情報を基に三賢人の居所へと向かっていた。
 当然道中ではアインヘリアルの猛攻に会うがレザードはネクロノミコンをグングニルに変え、振り抜く度に衝撃波が走り次々にアインヘリアルを残骸に変えていく。
 スカリエッティもまたグラムを振り抜き次々にアインヘリアルを両断していく、その実力にレザードも驚きの表情を隠せないでいた。

 「まさかドクターが此処まで戦えるとは……」
 「当然さ、あの三人を鍛えた私だよ?」

 あの三人とはウーノ、ドゥーエ、トーレである、レザードがこの世界に来る前は自分が三人に戦闘の基本などを教えていた。
 だからこそ、この程度の動きが出来ないハズがないと狂喜に満ちた笑みで答える。
 思わぬ戦力に両手を広げ肩を竦めるレザード、そんなこんなで二人は三賢人が待つ広場へとたどり着く。
 其処には延命処置が施されたカプセルに浮かぶ脳髄が三つ並んでおり
 彼等は肉体を捨て去り脳髄のみを残して延命しながら過ごして来たようである。

 「よもや無限の欲望…貴様自身が乗り込んで来ようとは……」
 「…これが…神の三賢人…否、最高評議会だと?!」

 三賢人の姿にスカリエッティは大きなショックを受けていた、自分を創り出しまた自分を駒にしていた存在が脳髄であった…
 此ほどの屈辱は無い、また此ほどの憤りも無い、スカリエッティは怒りで震える手を抑えきれずグラムを振り抜き
 一瞬にして延命カプセルを破壊、脳髄は宙を舞いその後ベチャっと音を立てて床に落ちた。

 「こんな存在に私は踊らされていたとは……」

 スカリエッティは左手で頭を抱え信じられないと言った表情を浮かべ頭を横に振る、
 暫くしてスカリエッティは冷静さを取り戻しレザードと共にこの場を立ち去ろうとした。
 その時―――

 「愚かな我々がこれで終わりだと思ったか…」

 突然声が辺りに響き渡り天井から三人の魔導師が姿を現す、その姿は黒を基調としたクロークにそれぞれ赤・青・黄色のラインが入っており、
 その中で赤いラインが入ったクロークを着た老年の人物ヴォルザが話し始める。

 「貴様等が消したその脳髄はただの影武者…本物は此処にある」

 そう言って自分の頭を指し不敵な笑みを浮かべる。
 三賢人は神になるためには今の延命処置方法では不完全と考え模索していたところ、
 戦闘機人の情報、更にはホムンクルスの情報に目を付け両者の情報を基にエインフェリアを作成し、
 最終的には三賢人の遺伝子を使用して戦闘機人のフレーム、ホムンクルスの肉体、エインフェリアに使われているルーン技術
 そしてレリックによる安定した魔力の供給、それらが合い重なって作成されたのが今の三賢人の肉体であるという。

 「つまりこの体は神に成る為の器……そうだな、“神の器”とでも云うべき代物なのだ」

 そう言って次々と高笑いを浮かべている中で苦笑いを浮かべているレザード、
 何故ならば神の三賢人の姿はまさにディパンの三賢人の写し代わり、それが滑稽でたまらないのだ。
 一方でレザードの反応に小馬鹿にされていると悟った三賢人は怒り心頭と言った様子であった。

 「貴様…神の力を手にした我々を愚弄する気か!」
 「神の力?愚弄?愚かな…神の力とはこういうものを指すのだ!!」

 するとレザードの足下から青白く光る五亡陣が現れ、青白く光るレザードの魔力が白く輝く白金の魔力に変わり、
 レザードの全身は光の粒子に包み込まれ、次に右手に持っていたグングニルがネクロノミコンに戻りレザードの目の前で浮かび光を放つと、

 一枚一枚ページが外れ白金の魔力に覆われレザードの周りを交差しながら飛び回り、
 最後にレザードのマントは浮遊感があるようにふわふわと漂い、レザードの体も同様に漂うと足下の魔法陣が消え去った。

 モードIIIカタストロフィ、大きな破滅または悲劇的な結末と言う意味を持つ
 レザードが自ら掛けたリミッター全てを外し愚神の力を解放した状態である。

 「成る程…これがレザードの中で眠っていた力か」
 「その通り…とは言えこの力を見せるのは初ですが……」

 愚神オーディンの力はこの世界において無敵の力、わざわざこの力を使用しなくとも大抵の相手は片が付く。
 なのに何故使用したか?それは三賢人の余りにもな愚考に虫唾が走り、また天狗の鼻を叩き折る為に敢えて使用したのだ。
 一方でレザードの規格外な魔力と力に恐れおののく三賢人、だがその中の一人ヴォルザが意を決してレザードに挑む。

 「おのれぇぇ恐れるものかぁ!食らえぇぇぇい!!」

 ヴォルザの全身全霊を込めた直射砲がレザードに迫り襲いかかるが、レザードの体は光の粒子となって攻撃を受け流した。
 アストラライズ、肉体を幽体に変える能力で幽体となった肉体には物理攻撃はおろか魔法攻撃すら通用せず、
 傷つけるには同じく幽体化して攻撃するか幽体に効果がある技術が必要となる。

 だがこの世界では幽体関する…即ち魂の研究が全く研究されていなかった、当然である前例が無いからだ。
 つまり今のレザードを傷つけることは皆無であるのだ。

 「さて…無駄な足掻きである事は理解出来たようですね」

 たった一撃の魔法で全てを悟り、自分達では適うことが出来ないと悲願した表情を浮かべ
 その表情を見たレザードは不敵な笑みを浮かべながら右手を向けると三賢人をレデュースパワーとレデュースガードにて縛り上げ動けなくする。
 すると今度はスカリエッティが右手に持つ魔剣グラムにて三賢人の両腕脚を切り落とした。

 「ぐおおぉぉぉあああ!!!」
 「流石紛い物の体だ、この程度では死なないようだね」

 脳以外は作り物な為か幾ら傷つけても三賢人には対したダメージとは至らない、
 だが痛みは別である、何故ならば痛みとは肉体が行う危険信号であり、痛みが分からなければ肉体の限界を超えて行動してしまうからだ。
 それはさておき…スカリエッティはまるで達磨を思わせる三賢人の姿を見下す目線で見つめ、ヴォルザの顔側面を踏みつける。

 「無様だな…最高評議会……」
 「き…貴様!!」
 「さぁトドメをドクター…」
 「……済まないレザード、君の手で始末をつけてくれないか?…興が冷めてしまった」

 最早興味も価値も無い…自らの手で裁きを下す事自体が愚行であった、いっそレザードの玩具としての方が価値があるのではないか?
 スカリエッティはそう考えレザードに促すがレザードは首を振る、神を気取った人間を神の力で罰を与える…
 だが“コレ”には天罰を与える価値など存在しない、寧ろ天罰など与えれば自分の価値に傷が付くと両手を広げて肩を竦め小馬鹿にした表情で答えた。

 「それに念願であった最高評議会にトドメを刺す…これはドクターにこそ相応しい」
 「イヤイヤ、神を気取る者に対して天罰を与える、レザードにこそ相応しいよ」

 互いが互いに遠慮し会う二人、これでは埒があかないと考えていた。

 「仕方ない…放っておきますか」
 「……そうだね、どちらにしろ用が無いわけだし」

 とは言えぎゃあぎゃあ騒がれるのも目障りだと考えたスカリエッティは、三賢人ののどを切り裂き声帯を潰し、
 レザードはモードIIIを解除した――その時である、レザードの下にクアットロから動力炉に辿り着いたとの連絡が入る。

 「…ふむ、では此方の指示があるまで待機していて下さい」

 そう一言告げると通信を切り次にヴァルハラの端末にアクセスする、理由はドラゴンオーブの此方の戦力に加える為である。
 端末から起動方法を探索しているとドラゴンオーブの起動させるには三賢人の右腕が鍵であり更に彼等の魔力素が必要不可欠なようであった。
 この事実にレザードとスカリエッティは振り返り、手足を無くし芋虫が這いつくばっているかのように暴れまわり無音の叫びを上げている三賢人に目を向けた。

 「ふむ…まさか彼らが鍵になるとは、良かったですね殺さずに」
 「こう言うのを諺で何て言うんだっけ?」
 「さぁ?ですが…どちらにせよ“アレ”が役に立つだけでも良かったです」

 レザードは不敵な笑みを浮かべながらそう答え、早速スカリエッティは懐から水晶を一つ取り出す。
 すると水晶が輝き出し医療セットへと姿を変える、スカリエッティはいつでも治療・解剖出来るように常に医療セットを持ち歩いていた。

 …それはさておき早速スカリエッティは三賢人の右腕を手早く端末に繋げ、次に右腕のケーブルを伸ばし体から剥き出しにしたリンカーコアと直接接合、
 次にレザードがリンカーコアに呪印を施すとレザードの合図でリンカーコアが強制的に活性、魔力が放出され
 魔力は右腕を通じて起動スイッチに流れ込み無事にドラゴンオーブの起動を果たした。
 この間の手術に麻酔など一切使用しておらず、全ての痛みを与えたまま施し涙を流し声無き断末魔の叫びを上げる三賢人であった。

 「…こんなところかな」
 「流石ですねドクター」
 「人体の事ならお手のものさ」

 スカリエッティは左親指を向けて答える、だがレザードは一つ問題があった、何故何時も医療セットを持っているのか…
 レザードはスカリエッティにその事を問い掛けてみると簡単に答える、
 どうやらスカリエッティが愛読している顔に大きな傷を持つ医者免許は持ってはいないが腕が立つ医者の影響であるという。

 …相変わらずよく漫画に影響されるものだ…そんな風な目線をスカリエッティに向けるレザードを後目に
 スカリエッティは続いて起動したドラゴンオーブの操作関連をゆりかごに移行できないか調べ始める。
 結果的に操作関連を移行することは可能だが、容量が大きく完全移行するまで三時間近く掛かるとのことであった。

 しかし他にも問題がある、それはドラゴンオーブの護衛としてエインフェリアのイージスとミトラが付いていたのだ。
 このままではドラゴンオーブを乗っ取ったとしてもエインフェリアに破壊される可能性がある。
 するとレザードから大胆な提案を提示される、それはイージスとミトラを此方の戦力に加えると言うものである。

 「可能なのかい?」
 「エインフェリアの主な操作はこのヴァルハラで行われているようですから」

 エインフェリアが起動しているという事は証文は既に済んでいる、ならば此方で操作すれば問題は無いと。
 だが万が一の事も備えバックアップとして此方のデータも移行しておく手筈を整えておくと眼鏡に手を当て不敵な笑みで答えた。

 この結果を受けスカリエッティは早速ウーノと連絡をとり準備に取りかかる中、ウーノが一つある許可を貰いたいとのことが伝えられる。
 現在ゆりかごにエインフェリアが予想以上の速度で向かってきておりそれに対抗する為、ナンバーズの参加許可を貰いたいのだと
 するとスカリエッティはあっけらかんとした表情で了承した。

 「さて他のエインフェリア相手に何処まで行けるかな?」
 「…………」

 スカリエッティの無意識な問い掛けに対し無言の表情を向けるレザードであった。


 時は少し遡り…此処はゆりかご内に存在する制御室、此処ではウーノが戦況を確認していた。
 此方の戦力は不死者及びガジェット、管理局側は機動六課及び教会騎士団、三賢人側はエインフェリア及びアインヘリアルの三つ巴となっている。
 だが管理局側は人数が少ない為か目立った動きは無く、此方の戦力と三賢人の戦力の対立が主であった。

 「戦況は五分五分…と言いたいですが……」

 エインフェリアの実力は目を見張るもので次々に不死者及びガジェットを殲滅させていた。
 これ以上の戦力低下は思わしくない、そこでウーノはスカリエッティに連絡しナンバーズの投入の許可を得た。
 だが…ナンバーズは戦力が揃っている訳ではない、要であるトーレとセッテにチンクはドクターと共にいる…残りはセインを除きギンガを加えても六人。
 一方現在エインフェリアの数は八体、この差をどう穴埋めするか考えていると突然ルーテシアからの連絡が入る、どうやら外の様子が気になっているようだ。

 「なら…私達も加わる…何もしないよりマシだから」
 「本当ですか?助かります」

 ルーテシアは召喚虫に不死者召喚も兼ね備えゼストにはユニゾンデバイスであるアギトが付いている、戦力としては申し分無い。
 ウーノはルーテシアの申し出を受け入れナンバーズと共にエインフェリアの撃破に取り組むことを命じた。
 その時である、一人ナンバーズの中で納得の様子を見せない人物が抗議の為ウーノに連絡を入れる、その人物とはセインだった。

 「ちょ?!ウーノ姉!何で私が戦力外なの!!」
 「だって貴方は偵察型ですし…」
 「でも私だってレリックウェポン化してパワーアップしたよ!!」

 今回のレリックウェポン化によってナンバーズの能力は向上、更に能力が追加されていった。
 トーレはインパルスブレードの出力強化、チンクはヴァルキリー化の際の能力向上
 セッテはブーメランブレードをクロスに重ね手裏剣のような形で投げれるようになり、更に回転速度・精密度などの向上
 オットーは更なる広域攻撃化と結界の強化、ノーヴェは地上本部壊滅の際に失った右足の強化と
 両足に加速用のエネルギー翼を広げる事でA.C.Sドライバークラスの突進力を実現させた加速装置

 ディエチは超遠距離の精密射撃の実現と物流エネルギー双方の弾頭の軌道操作能力に
 ウェンディはフィールド効果を応用した対消滅バリアをライディングボードに張る事が出来るようになり
 ディードはツインブレイズのエネルギー刃を伸ばすことが出来るようになり、四階建てのビルなら両断出来る程の能力を
 そしてセインにはウェンディと同様の対消滅バリアを追加、バリア・フィールドに覆われた場所もダイブする事が出来るようになり、
 また更にそれに合わせて格闘能力を向上させてあり対消滅バリアを用いた格闘が可能となっていた。
 ……だが

 「……でもセイン、貴方って確か戦闘のカリキュラム、サボっていたじゃない」
 「うっ…でも!動作データ継承とかデータ蓄積の共有とかあるじゃん!!」

 確かにナンバーズにはデータを共有・再編し自分にフィードバックさせる能力を持つ、
 この能力を用いれば常人よりも早く得る事が出来るようになり、生きた経験と動作感覚を蓄積出来るのはナンバーズの特権である。
 だがこれらの能力は戦闘タイプにこそ有益であり、幾ら強化したとはいえ肉体自体による能力が劣る偵察型のセインではたかが知れていた。

 「と言う訳、分かった?」
 「………………………」

 ウーノの答弁に何も答えられないセイン、心なしか涙目である。
 そんなセインの反応に流石に言い過ぎた感を覚えるウーノであった。



 その頃ナンバーズとルーテシアは一挙に集まりエインフェリア撃破の為の戦力分けを行っていた。
 現在暴れまくっているエインフェリアの内訳は接近戦型のエーレンと高速戦型のクレセントのツーマンセルが一組、
 接近戦型のアドニスと広範囲攻撃型のカノンに遠距離戦型のリディア、
 高速戦型セレスに広範囲攻撃型のゼノンと遠距離戦型のリリアのスリーマンセルが二組である。

 そこでギンガはエーレンとクレセント組にはゼストとディードを、アドニス、カノン、リリア組にはルーテシアにディエチとオットー、
 最後にセレス、ゼノン、リディア組に対しては自分とノーヴェ、ウェンディが担当する事になった。

 「各員油断しないように相手はあのエインフェリアだから」

 今現在この場を仕切っているのはあのギンガである、しかも気難しいルーテシアですら彼女に従っている。
 どうやら彼女から醸し出される姉というプレッシャーに圧されている様だ。
 それはさておきギンガの合図の下それぞれは現場に赴き始めた。






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最終更新:2010年05月03日 16:53