エインフェリアとゆりかごの距離はそう遠くは無かった、それほどまでにエインフェリアの進行が進んでいた。
 …だが彼等の進行も此処までである、ゆりかごから放たれた対エインフェリアであるナンバーズにルーテシアと言う戦力が相手だからだ。
 エーレン・クレセント組は次々に敵を薙ぎ倒し快進撃を続けていた、だが其処にゼストとディードが姿を現す。

 「エインフェリアだな、これ以上は行かせん!!」

 意を決したかのようにゼストは槍を構え呼応するようにディードもまたツインブレイスを構え、
 ディードはクレセントの相手をゼストはエーレンの相手をそれぞれ決め攻撃を開始する。

 「成る程…大した実力だ…だがしかし我々には及ばん!!」

 ゼストの初撃を受け止めエーレンはゼストごと弾き返し更に突進、大きく振りかぶると
 身の丈程ある刀身をゼスト目掛けて振り下ろし二つに切り裂こうとした。

 「甘いっ!!」

 だが其処は歴戦錬磨のゼスト、すかさず持っていた槍を水平に保ち攻撃を受け止めると、
 左に受け流し体勢を崩したエーレンの脇腹を槍の柄にて貫くように突き飛ばした。
 その間にディードとクレセントは空中戦を行いなっていた。
 クレセントのスピードはディードよりも速く、ディードを囲うようにして攻撃を仕掛け続けていた。

 だがディードには然したるダメージを受けてはいなかった、何故ならばクレセントの攻撃は
 一撃に対する重みが軽いためである、恐らくは速度優先の攻撃なのだろう。
 とは言えこのまま攻撃を受け続ければ不利になるのは必死、其処でディードは相手の動きを見切る為音を頼りに攻撃をしかける。
 一振り二振り三振りいずれも当たらず空を切る中、四振り目でクレセントの左腿に掠り傷を追わせる事が出来た。

 「この程度の傷を負わせただけで勝てると思うの?」

 確かにクレセントの言葉にも一理ある、幾ら音を頼りにしたところであの程度では焼け石に水
 もっと確実な打撃を与えなければ効果が無い、其処でディードはクレセントの動きを把握する為、動きを止めジッと防御の態勢を始めた。

 「どうしたの抵抗しないの?抵抗して貰わないと…おもしろくないじゃない!!」

 クレセントは攻撃の手を緩めず更に加速、その姿を嵐に変えて何度も攻撃を仕掛けるが
 依然としてディードはその場から動かず身を守る、だがその瞳には焦りの色が伺えなかった。

 一方でエーレンを突き飛ばしたゼストはアギトとユニゾン、全身に魔力をたぎらせると一気に加速、
 エーレンを追い越しそのまま振り返りつつ薙払うかの様に槍を振り抜く
 だがエーレンは振り向いて体制を立て直し突き飛ばされた勢いを利用して再度刀身を振り下ろし辺りに大きな音を奏でた。

 その大きな音を合図に二人は攻撃を仕掛けゼストの槍の振り上げを受け止め、切り返しからの柄の攻撃を交わし右から切り払おうとするエーレン、
 だがエーレンの巨大な剣を柄だけで捌き胸元ががら空きになったところを深く切りつけるゼスト
 更にアギトが援護として轟炎を撃ち抜き巨大な火球が迫るが次の瞬間エーレンの刀身に赤い光の炎熱を帯び始め
 轟炎をいとも簡単に切り裂く、その熱は周囲を歪ませ蜃気楼を生み出すほどであった。

 「私にこのソウルエボケーションを発動させるとは!」

 ソウルエボケーション、三度程切りつけた後で赤い光の炎熱を帯びた一撃を放つ魔力付与攻撃でありエインフェリア固有の強力な必殺技である。
 エーレンは炎熱を放つ刀身を振り上げて突進、ゼストに襲いかかるがアギトの烈火刃によって炎を纏った槍にて防ぎ
 周囲は赤く燃えたぎる二つの熱の前に蜃気楼が生み出されていた。

 「やるな!だが私のソウルエボケーションに何処まで耐えうるかな?」
 「……貴様の思い通りにはならん!アギト!!」
 「合点でぇダンナぁ!!」

 ゼストの掛け声を合図にアギトは炎熱消法を用いてエーレンの刀身の炎熱を消去、
 するとすぐさまゼストは駆け抜けながら槍を振り抜きエーレンの右腕を切り落とした。

 「ダンナ!やったぜ!!」
 「いや…まだだ!!」

 ゼストはすぐさま振り向きエーレンに目を向けると、
 エーレンは既に左手に剣を携え振り向いており更に刀身を向けて突進を開始していた。

 …このタイミングで回避することは不可能、槍を盾にしたとしてあの攻撃を防ぎきる事も出来ず二つに切り裂かれるであろう…
 …自分は既に死んだ身しかも目的を果たし悔いは無い…
 …だがこのままではユニゾンしているアギトにまで死をもたらす、それは避けなければならない…

 ゼストはアギトとのユニゾンを強制的に解除、背中から押し出される形でアギトが排除されると
 入れ替わるようにしてエーレンの刀身がゼストの腹部に突き刺さり背中へと突き出した。

 「ダンナぁ!!」
 「ぐはぁあ!!」

 ゼストの口から大量血が吐き出され傷口からもおびただしい程の血が滲み出し致命傷であるのは明白、
 一方でエーレンはデバイス故の特性か右腕一本とられたからといって然したる影響はなかった。

 「人の身でここまで戦えるとは…だがここまでだ!」
 「………あぁ…そう…だな――だが只では死なん!!」

 既に死を悟ったゼストは最後の力を振り絞りフルドライブを起動、右手に持つ二つに切られた槍の矛先にてエーレンの首を瞬時に切り落とした。
 だがフルドライブの影響がゼストの致命傷を受けた肉体にのし掛かり、
 再度吐血、全身の骨筋肉が崩壊する音を奏でるとそのまま地面に落下、その後をアギトが全速力で追いかけた。

 「ダンナぁ!!しっかりしてくれよダンナぁ!!」

 地上では涙をこぼしながらその小さな手でゼストの体を揺らすアギト、だがゼストはアギトに目を向けることが出来なかった。
 何故ならばフルドライブの影響により既に視力は失われていたからだ。

 「ア…ギ…ト……」
 「ダンナぁ!!」
 「私は…もう…此処までだ……後は…お前の好きなように…生きるんだ」

 それがアギトに対するゼストの最初で最後の願い、死にゆく者は自分一人でいいという思いがそんな言葉を紡がせたのだろう…
 ゼストはその言葉を最後に静かに目を閉じる、その顔は安らぎに満ち笑みを浮かべているようであった。
 一方でゼストの胸で泣きじゃくるアギト…暫くして静かに立ち上がり涙を拭くと天を仰いだ。


 上空では依然としてクレセントの攻撃に耐え続けるディードの姿があった。
 既に何度も攻撃を受けている為か戦闘スーツは切り刻まれ素肌が見え隠れし、中には切り傷も除かせていた。

 「無様ね、そのまま何も出来ずに切り刻まれるがいいわ!!」
 「…分析…終了」

 クレセントの耳に聞こえない程小さく呟きクレセントに目を向け迫ってくる攻撃を受け止める。
 驚いたのはクレセント、今まで一方的に与えていた攻撃を受け止められた、
 …だが只の偶然だろう…そう考え再度攻撃を仕掛けるがその事如くを受け止められていく。

 既にクレセントの動きを分析したディードはクレセントの僅かな隙・癖を見逃さず機械的な、
 しかし正確な判断で動きを捉える事が出来るようになっていた。

 「やるわね!けどこの程度に動きについてこられるからって!!」

 クレセントは更に速度を上げてそのまま加速を維持、タイミングを合わせて上から下へと刃を振り下ろす。
 だがそれでも左の刀身で刃を合わせる、どれだけ加速しようとも攻撃時の癖つまりはタイミングを見切られている以上
 攻撃を防げない道理はない、更にタイミングも掴まれている為に右の反撃がクレセントの顔を切り裂いた。

 「きっ貴様!よくもこの私の顔に傷を!!」
 「…“人形”も傷つけられると怒るのね……」
 「貴様だって“人形”でしょうがぁ!!」
 「残念だけど私は“人形”じゃない」

 ディードの言葉に疑問視するクレセント、何故ならば戦闘機人もまた造られた存在“人形”と同義である。
 しかしディードは自信に満ちあふれる瞳で睨みつける、自分とどう違うのだろう?だが今はディードを消すことが優先
 クレセントは刀身に魔力を込め左に携えた盾をディードに向けて突進、
 盾で強く殴打するとすくい上げるように切り上げ、続いてトライクルセイドと呼ばれる
 一度に三カ所切り上げる攻撃を仕掛けディードはツインブレイスにて捌こうとしたが、刀身は弾かれその身を更に上空へと運んだ。

 怒りのクレセントの攻撃をその身を受けたディードは流石に焦りの色を見せていた。
 確実に一撃一撃の威力が上がっている、たとえタイミングを合わせても威力に負けて弾かれてしまう。
 レリックウェポン化しても勝てないのか…その時である、地上からアギトが全速力でディードに向かってきた。

 「ディード!あたしとユニゾンしろ!!」
 「アギト?!でも調整が――」
 「それはあたしに任せろ!!」

 当初、ゼストとのユニゾンは厳しく常に調整を行う程で、無理矢理といっても過言ではなかった。
 何故ならばアギトは烈火の剣精と呼ばれる通り剣による斬撃と炎熱が相性が良く
 ゼストが扱うデバイスは槍でしかも炎熱も使えない、当然の結果である。
 だがアギトはゼストの動きに合わせる事で徐々に調整、今でも少々のズレはあるにせよ十分に対応出来るまでに至った。

 その経験を基にすればディードとユニゾンする事も可能、しかもディードは双剣の使い
 少なくともゼストよりは調整がしやすい、其処まで踏んでの決断であった。

 「…分かった、お願い」
 「よぉぉぉし!行くぜぇぇぇ!!」

 アギトの気合いを合図にディードはユニゾン、その姿は彩度の低い茶色の髪、紫色の戦闘スーツは青紫色に変わり瞳は紫、背中からは二対の四枚の羽が生えていた。
 早速ユニゾンしたアギトは烈火刃を発動、ツインブレイスのエネルギー刃に炎が混じりその刃は熱せられた金属のような輝きを見せていた。

 「…行くよアギト」
 「応っ!!」

 ディードは左の刃を伸ばしながら瞬時に左に振り払い、まるでレーザーが薙払うかのように迫りクレセントに襲い掛かる。
 だがクレセントは左に携えた盾で受け止めるが勢いは止まらず吹き飛ばされた。
 そして刃を元の長さに戻すと何かを確かめるように握りしめた拳をじっと見つめた。

 「…エネルギーの出力が上がっている」

 戦闘機人は魔力と異なるエネルギーを使用している、だがアギトは自身の魔力とエネルギーの似た特性を合わせる事により
 出力を調整、更にアギトの魔力も重なり合う事により出力・威力共に強化されたのである。

 「ったりめぇだ、誰とユニゾンしてんと思ってんだ!それより早く追い打ちを掛けな!!」

 幾ら調整可能とはいえ付け焼き刃であることは変わりない、長時間ユニゾンする事が出来ない。
 アギトの見立てでは三十分が限界、それを超えると強制的に解除しなくてはならなくなるとディードに告げる、
 とその時である、吹き飛ばされたクレセントがすごい剣幕でディードに迫っていた、どうやら怒り心頭らしい。

 「アンタぁ!やってくれたねぇ!!」
 「…其方から来るなんて都合がいいわ」

 早速ディードは加速してクレセントの懐に入り右の刃を左に振り抜くがクレセントは左の盾で受け止める。
 すると間髪入れず左の刃を右に振り払い挟むような形となるが今度は右の刀身で受け止められ、
 逆にクレセントがその場で背後を向き右のかかとで顎を蹴り上げられた、オーバースピンと呼ばれる技である。

 一方蹴られたディードはある程度距離を離れ姿勢を正してクレセントに目を向けると、
 クレセントは逆さまのままシャドウスナップと呼ばれる黒いナイフ型の魔力刃を次々に投げつけ、その数は二十を越えていた。

 「くっ弾き返す!」
 「いや此処はあたしに任せろぉい!!」

 アギトはディードの周囲に火炎を発生させるやすぐさま撃ち出しシャドウスナップに直撃すると爆炎を起こす。
 ブレネンクリューガーと呼ばれる着弾時に高温で燃え上がる魔法である。
 その炎はクレセントとディードの間を分かつ壁となり、クレセントは警戒するが、
 ディードは炎の壁を突き抜けそのままクレセントに押し迫り双剣を合わせて一気に頭上に振り下ろす。
 …がクレセントは左の盾で攻撃を受け止め、逆に右手に携えた刀身でディードを切り裂こうと袈裟切りを放つ。

 「うあああああっ!!!」

 ディードの滅多に出さない気合いを込めた叫び声を上げ、双剣の刃と共に盾を打ち砕いた。
 …だがクレセントの凶刃は止まらず空しくもディードの左肩に深く斬り込まれ、胸元まで達成して刃が止まった。

 「くっ動かない!!」
 「“人形”に…負ける訳にはいかない!!」

 ディードは右の剣の刃を形成しクレセントを貫こうとしたが、いち早く察知したクレセントは
 斬り込まれた剣から手を離し間一髪串刺しから逃れ逆にシャドウスナップを二本投げつける。
 だが投げつけたシャドウスナップはとっさに投げた為か急所に当たらず、心臓となる部分の丁度左の脇腹と左こめかみを掠めるだけに終わり、
 寧ろディードは突き出した形の右の刃を伸ばしクレセントの腹部を貫いた。

 「えっ!?嘘?」
 「これで…終わり!」

 その言葉を最後にディードは容赦なく斬り上げ縦に真っ二つに切り裂き、
 クレセントは火花を散らせながら落下、地面に辿り着く前に大爆発を起こし消滅した。

 その光景を静かに見つめユニゾンを解除したディードは胸元まで到達した剣を引き抜き傷口に手を当てると、
 小さく溜息を吐き彼女の右肩にはアギトがチョコンと乗っかっていた。

 「…終わった――――そう言えばアギト、ゼストは?」
 「………旦那は――」

 アギトは天を仰ぎ見暫く沈黙する、アギトの反応に疑問視するディードだが
 その後暫くしてアギトはディードに応急処置をしながら静かに…しかし力強くゼストの最後を報告した。


 ディードが激戦を繰り広げている頃、ギンガ率いるノーヴェとウェンディは高速道路を疾走していた。
 とその時である、目前にエインフェリアの一体セレスの姿を確認、早速ギンガはノーヴェに指示を送り先行、セレスに攻撃を仕掛けた。

 「うりゃああああ!!」

 ノーヴェはエアライナーをセレスの頭上まで伸ばして滑走、気合いと共に右のかかと落としが襲い掛かる、
 だがセレスは冷静に右手に携えた刀身で受け止め逆に弾き返し
 ノーヴェは空中で回転しながらも足から道路に着地、セレスを睨みつけると左前方に光るものを確認
 ノーヴェは目線のみ向けると其処にはリリアが狙いを定めて弓を射抜き矢が迫っていた。

 「ウェンディちゃん参上ッス!!」

 だがウェンディが滑り込むようにノーヴェの前に躍り出てライディングボードを盾にして矢を防いだ。
 更にウェンディは間髪入れずにライディングボードをリリアに向けエリアルショットで攻撃を仕掛けるが
 ゼノンの巧みな操作による魔力弾にてエリアルショットを相殺した。

 その間ウェンディの後ろで待機していたノーヴェはA.C.Sを起動、ノーヴェの両足の外側の踝辺りに二対の四枚の翼が広げられ加速
 黄色い弾丸と化したノーヴェの蹴りが顔面に直撃してセレスを吹き飛ばした。

 「ヨッシャアどうだ!!」
 「なんつうか…何時もながら猪突猛進ッスね」

 常に全力で迷い無く突っ込んでいくノーヴェ、その姿を細目で見つめ呆れるウェンディだった。
 一方ギンガはゼノンと対峙、先に動いたのはゼノン誘導性の高い魔力弾を八つ撃ち放ち
 ギンガは最小限の動きで回避しつつウィングロードを上空へと伸ばし滑走
 更に先には上に向かって螺旋が描がかれたウィングロードを伸ばし滑走することにより八つの魔力弾を防ぐ。

 「次はコッチの番!!」

 ギンガは切り返して急降下、落下速度を加えたバイルバンカーをゼノン目掛けて振り下ろす、だが難なく回避され高速道路のアスファルトを砕くのみで終わった。
 一方で回避したゼノンは杖を向けて魔力弾を放つと、今度はギンガがディフェンサーを張って魔力弾を弾き飛ばした。

 「成る程…かなりの実力のようだ」
 「貴方もね」

 互いの実力を確認したギンガとゼノンは肩慣らしであった今までの戦いを変え、
 ギンガはA.C.Sを起動、ゼノンもまた杖から青い稲光が走り第二回戦の準備を終えた。

 その頃…ノーヴェとウェンディはセレスとの戦闘を続行していた。
 ノーヴェが描くエアライナーの軌道は周囲のビルや道路を巻き込み
 不規則で縦や横斜めとまるで迷路と化していた、リリアからの攻撃を防ぐためである。

 その姿はまさにノーヴェの巣、その中心にはセレスが閉じ込められており、一方的な戦いを強いられていると思われていた。
 だが…ふたを開けてみればセレスはノーヴェ達の動きを見切っており、攻撃を開始するタイミング、フェイントの全てが読まれ
 ウェンディのエリアルショットにも対応、それらに合わせて反撃を受け、ノーヴェ達はボロボロの姿となり
 寧ろ巣に掛かったのはノーヴェ達ではないのか、そんな錯覚を覚える程に圧されていた。

 「クソッ!最初にA.C.Sを見せたのが仇だったか!!」

 エアライナーの上で膝をつき口端から覗かせる血を指で拭き取るノーヴェ、
 相手の実力を考えず先手必勝と言わんばかり放った最初の蹴りはセレスにとって加速・威力を知るには最も適した一撃であった。
 故にセレスはその一撃を基にノーヴェを解析し、更に繰り出される攻撃一つ一つも冷静に解析にかけたことによって
 圧倒的、また一方的な展開が広げる事が出来たのだ。

 「このままで…終われるかよ!!」

 自分の過信が招いた事とは言えこのまま一方的にやられる訳にはいかない何としても一矢報いたいところ、
 そんな時ノーヴェの脳裏にチンクがよく言う言葉を思い出す。


                  ――冷静になれ!!――


 常に怒っているような荒々しいノーヴェの性格、それは戦闘的な性格を表しているのであるが、
 戦場では冷静な判断がとれない者は実力を出し切れず下手をすれば死んでしまう。
 ノーヴェの実力は本物である、だが彼女の荒々しい性格がその実力を押し殺していると言っても過言ではない、現にこうして追いつめられているのだから。

 「…冷静になれ……か」

 ノーヴェは目を閉じ大きく息を吸い、そしてゆっくり吐息を吐き落ち着きを取り戻すと
 脳裏にウェンディからの連絡が入ってきた。

 「やっと繋がったッス!いくら何でも頭に血上り過ぎッスよ」
 「うるせぇ!何か用かよ」
 「ヒドいッスね~折角秘策があるッスのに」

 ウェンディの秘策、それは即ちライディングボードによる接近攻撃である。
 レリックウェポン化したウェンディには対消滅バリアをライディングボードに張る事が可能、
 更に応用として先端に一点集中、エネルギー刃を作り出す事が出来るという。
 今まではウェンディが援護に入りノーヴェが隙をついて攻撃するスタイルであったが、
 今度はノーヴェ自身が囮となって注意を逸らし、その隙を狙って一撃離脱を目指す算段であった。

 「上手くいくのかよ?!」
 「大丈夫ッスよ、奴さん私の攻撃の全てを知っている訳じゃないッスから」

 今まではノーヴェがトドめ要員であった為にウェンディは砲撃のみに費やしてきた、対消滅バリアを張る事はあったがそれを武器にはしていない、
 その為、充分通用するハズであると胸を張って答えた。
 だがウェンディのその態度に一抹の不安を覚えるノーヴェ、だが他に方法が無い…仕方無くノーヴェはウェンディの作戦に乗り攻撃をしかけた。

 「来やがれ!“人形”!!」

 右手のガンナックルの水晶体から機関銃のように大量のエネルギー弾を放つノーヴェ
 そのけたたましい音を立てての攻撃がセレスに迫るがその事如くが盾で弾かれる、または回避されていた。

 「チィィィィまだまだぁぁ!!」

 ノーヴェは臆する事無く引き続き光弾を発射しながら接近、間合いを詰めると右のハイキックを繰り出し頭部を狙う、
 が左に携えた盾にて防がれ、セレスはニヤリと表情を浮かべるがノーヴェの表情に焦りの様子はなかった。

 「このぉっ!砕けやがれ!!」

 ノーヴェが身に付けているジェットエッジの踵部分に設けられている噴射口から勢い良くエネルギーが噴射、
 蹴りの威力を高め受け止めていた盾に亀裂が入り破壊、再度頭部を狙うが顎を引いて掠める程度に終わらせると
 今度はセレスが剣を両手持ちに変え突進、ノーヴェの背後を狙うがノーヴェは攻撃を切り替え蹴り上げ踵で刀身を弾いた。

 「くっ貴様!」

 セレスは剣を拾う前にノーヴェの両腿にナイフを突き立て動きを止めてから剣を拾い
 再度突きによる攻撃を仕掛けてくる、だがノーヴェは臆する事無く冷静に見つめ
 脇を閉め小回りを利かせた右のガンナックルにて叩き落とし、更にその勢いを利用して顎に直撃させた。

 セレスの顎は跳ね上がり後ろに仰け反り、勝機を見たノーヴェ右のジェットエッジを点火、加速させたハイキックが今度こそ直撃した。
 ぐらりと体を揺らし体勢を崩したセレスの反応に間髪入れずウェンディに指示を送る。

 「行け!ウェンディ!!」
 「うおりゃゃゃッス!!!」

 ウェンディは気合いと共に低飛行、ライディングボードの先端に対消滅バリアのエネルギー刃を作り出してセレスの胴体に直撃
 体を横に真っ二つに切り裂きその後爆発して残骸に変えた。

 「ヨッシャアァァッス!!」

 雄叫びをあげ右腕を高々と掲げて勝利を物にしたウェンディ、一方でウェンディの反応に呆れ果てた様子のノーヴェ。
 ウェンディの判断は正しかった、だがノーヴェの今まで大振りであった動きを細やかな的確な動きに変えた事により
 引きつけ役としては十分過ぎる程の働きを見せたのも勝利の一つであった。

 ノーヴェはエアライナーの巣を解除し高速道の真ん中に立ち尽くしウェンディはライディングボードにて上空を滑走周囲を確認していると
 ビルの屋上に光るものを発見、目を凝らしてみると其処にはノーヴェに向けて弓を射るリリアの姿があった。

 「ノーヴェ!危ないッス!!」
 「もう遅い!クランブルガスト!!」

 ウェンディの忠告も虚しく無数の矢がノーヴェに迫り逃れられないと悟ったノーヴェは目を瞑り覚悟を決めた。
 耳元に矢が通り過ぎる音、体に突き刺さる音を確認するが体に痛みが無く不思議に思いゆっくりと目を開くと
 ライディングボードを盾に、だが血が滴り落ちているウェンディの姿が其処にはあった。

 「うっウェンディ!!!」
 「ヘッ…ヘヘ…バリア張る暇が…無かった…ッス……」

 ノーヴェを守る為とっさの判断で前に立ちはだかった為に対消滅バリアを張る事が出来なかった。
 その為ライディングボードは貫かれ、その矢はウェンディの背中に、肩に、股に、至る場所に深く突き刺さっていたのだ。
 するとウェンディの体がゆっくりと…身を預けるかのように倒れ始め、ノーヴェは抱き抱えると
 その手にはベットリと血付いており、致命傷である事は明白であった。

 「おっオイ!しっかりしろよ!!」
 「いやぁ~……もう無理ッスよ……でも…ノーヴェ…が無事で…よかっ…た……ッス―――」

 この言葉を最後にウェンディはゆっくりと目を閉じ、まるで眠りに付いたかのように息を引き取る
 ノーヴェはウェンディの体を強く抱きしめ大粒の涙を流し、胸の奥から湧き上がる熱いモノを感じていた。

 …戦いはまだ終わってはいない、ウェンディを殺したリリアというエインフェリア
 奴だけは絶対に倒さなければならない、ウェンディの仇は必ず取る!

 覚悟を決めたノーヴェは涙を拭い立ち上がるとその瞳はリリアに一点に集中していた。
 そしてゆっくりと確かめるように前傾姿勢で構え足元にA.C.Sを起動しエアライナーを前面に張り滑走、
 真っ直ぐリリアに迫る中で、リリアは再度クランブルガストを放ち無数の矢でノーヴェを襲うが、
 ノーヴェは冷静にエアライナーを縦の螺旋状に変えて回避、更に回避出来ないモノは右の手甲で弾いた。
 とはいえ全てを回避または弾く事は出来ず頬や肩を掠め左腕には矢が二本突き刺さっていた。

 だがノーヴェには臆する事無く突き進み矢の雨を突き抜けリリアの目の前まで到達するとブレイクギアで強化させた右蹴りが胴体を捉え、
 次に左足を軸にした後ろ回し蹴り、更に右の踵落としを決めて最後に右足を軸に右に一回転
 ブースターを点火させた左のミドリキックがリリアの右わき腹を捉え吹き飛ばしビルに直撃させた。

 「この程度で終わると思うなぁ!!」

 ノーヴェは激突させたビルを睨み付けながら真っ直ぐ突き進み追い討ちを掛けようとしたところ、
 激突して土煙を上げている風穴から誘導性のあるエイミングウィスプと呼ばれる光弾がノーヴェ目掛けて襲い掛かり
 とっさに急転し左に飛び出しエアライナーを再発動させ空を舐めるように走り光弾を回避、
 すると風穴からリリアが姿を現し身晴らしの良い高速道付近に移動すると更に光弾を立て続けに撃ち抜き、計二十一発の光弾がノーヴェの行く手を塞ぐ。

 「この程度で!!」

 起死回生にエアライナーを上空に向けて伸ばし逆さまのまま滑走、
 更に後ろを向き光弾が接近したところを一つずつ丁寧に撃ち落としていき全弾撃ち落とすと
 Uターンして頭上から踵落としで襲い掛かるが、リリアは後方へ飛ぶようにして回避、
 ノーヴェの一撃は高速道路を破壊するほどの威力があり辺りは瓦礫と土煙が舞っていた。

 だが土煙から飛びかかるようにノーヴェが現しリリアはシングルショットと呼ばれる矢を撃ち抜き左肩を貫くが
 ノーヴェの勢いは止まらず右の蹴りがリリアの土手っ腹に深く突き刺さった。

 「きゃあああああっ!!!」
 「これでどうだ!!」
 「…くそぉ!こう…なっ……たら!!」

 リリアは最後の力を振り絞り弓を引き出しノーヴェは逃れようと右足を抜こうとするが一切抜ける気配がなかった。
 リリアは最後の一撃を掛けて全力で締め付け逃れないようにしていたのだ。

 「てめぇ!往生際がわりぃんだよ!!」

 ノーヴェは右腕を向けて光弾を何度も発射、目、耳、頬、腕、胸、肩など至る所を撃ち貫くが一向に止まる様子を見せなかった。
 そして…ノーヴェの銃口がリリアの喉に向けられると呪詛ともとれる言葉を口にした。

 「私と共に…死ねぇ!!」

 この言葉を合図にバスターシュートと呼ばれる橙色の炎熱を帯び威力を重視した最後の一撃を放ちノーヴェに直撃
 大爆発を起こし周囲は一瞬にして炎と熱が包み込み、その衝撃はビルの窓ガラスを叩き割り破片が光を反射させながら落ちていった。
 その中央、爆心地には両者の残骸すら無く正に木っ端微塵、拾う骨すら無いと思われていた。
 だがその上空に位置する場所で風を切る音が奏でられ、日差しを遮るモノが一つ、
 それは回転しながら落ちていき、まだ破壊されていない高速道路に直撃、物体の正体…それはノーヴェの右腕だった。


 場所は変わりギンガとゼノンの対決は、突進力が増したギンガの攻撃に対しゼノンは広域攻撃魔法で対抗、
 ゼノンの広域攻撃魔法はその範囲を小規模に、変わりに威力を高めており一撃一撃は十分過ぎる程の威力を保っていた。
 戦況はギンガが劣勢、幾ら驚異的な突進力を持っているとはいえ距離を取られてはギンガが攻撃する術がないのだ。

 さて、どう対抗するか…そんな事を模索していると、今まであったウェンディとノーヴェの反応が途絶える。
 それはウェンディとノーヴェが戦死したと言う意味を指し、ナンバーズの中で最初の犠牲者、
 しかもノーヴェは同じ遺伝子から生み出された妹も同様であり、ギンガは信じられないと言った様子を浮かべていた。

 「そんな…ウェンディ…ノーヴェ……」
 「…どうやらリリア達は一矢報いたようだ」

 ギンガの反応を後目にゼノンは冷静に戦況を判断する。
 ゼノンにとって他のエインフェリアは仲間である、だが其処に特別な感情など無い。
 必要無いのだ、ゼノンにとっては仲間は任務をこなす為の道具と変わりがない、故に悲しむ必要も無い。
 …だが一つ思うことがあるとすれば、戦力低下は否めない…その程度の存在でしかなった。

 「…仕方無いな、早くコイツを倒して次に進むか」
 「……そうはさせない!!」

 ギンガの体から藍紫色の魔力光が放たれ瞳は金色、両足からはA.C.Sが発動した証である二対の翼、左腕には螺旋を描く振動エネルギーを纏っていた。
 IS振動破砕、妹であるスバルと同じISであるが妹とは異なり、振動エネルギーを直接両腕から放つのでは無く
 左腕のリホルバーナックルに搭載されているナックルスピナーを回転させる事により
 負担を抑え左腕を破壊すること無く使用する事が可能となったのだ。

 「砕けろ!!」

 加速したギンガは瞬時にゼノンの頭上へと辿り着き左拳を振り下ろす。
 ところがゼノンの前髪を掠める程度に終わり逆にゼノンの雷の広域攻撃魔法であるサンダーストームが襲い掛かる
 しかしギンガはウィングロードを起動させて左に移動、サンダーストームを辛うじて回避すると
 ゼノンは炎の広域攻撃魔法エクスプロージョンを放ちギンガに直撃、大爆発を起こし煙が充満、バラバラに吹き飛ばされたと思われたが
 ギンガはシェルバリアとディフェンサーを用いて耐え抜き、煙を突き抜けゼノンの目の前まで接近
 左の拳にてゼノンが持つ杖を破壊すると続いてローキックにより体勢を崩した。

 「しまった!!」
 「これで!終わりよ!!」

 勝機を見たギンガは左拳を手刀に変え更に高速回転リボルバーギムレッドへと変えると、そのままゼノンの腹部を貫いた。
 そして左手に纏っている振動エネルギーがゼノンの体に響き渡り回転しながら分解、
 ゼノンを細かな残骸に変え四散、ギンガの体に破片を浴びるが気にすることなく歩き始める。
 だが…負担を抑えたとはいえ振動エネルギーに相手の攻撃、体には疲労が溜まり膝をつくギンガだった。


 場所は変わりルーテシア達はカノン達を相手にしていた。
 既にウェンディとノーヴェの件は知っており、更にその後にゼストが亡くなった事もディードから伝えられていた。

 弔い合戦…オットーとディエチはそう考えているようで二人はカノンとリディアを相手にする事となった。
 だがそれだけでは忍びないとルーテシアはガリューを召喚、ガリューは先陣を切り二人が後方支援または援護を取る形となった。
 とその時である、ルーテシアの前にエインフェリアの一体、アドニスが不気味な笑顔を見せながら姿を現す、どうやらルーテシアを先に片付ける様であった。

 「旨そうなガキだ、さぞかしいい声で泣き叫ぶんだろうな!!」
 「……何?この変態人形」

 ルーテシアは嫌悪感剥き出しの表情浮かべたまま左手をアドニスに向け鳥や魚型の下級の不死者を大量に召喚、
 数で押し迫りアドニスを襲わせるが、アドニスはその巨大な刀身を振り回し、いとも簡単に殲滅、圧倒的な実力差を見せた。

 「オイオイオイ!こんなもんじゃ俺のいきり立ったモノは満足しねぇぞ!!」
 「……気持ち悪い」

 ルーテシアは汚いモノでも見たかのように目を細め何度も下級の不死者を大量に召喚し襲わせるが、
 その都度その都度殲滅され鼬ごっこと化していた。

 「ハハハァ!こんなんじゃ感じねぇよ!もっとビンビン来る奴じゃねぇとな!!」
 「…数では無理ね」

 ある程度予測は出来ていた、寧ろ数で攻めたのは相手の疲労を狙っていたためである。
 だがアドニスは大して疲労を感じている様子は無かった、体力が異常なのかそれとも表立って出さないだけなのか…
 ルーテシアの魔力はレリックウェポン化して増大してあるとは言えこのままでは埒があかないことは明白、ならば数では無く質で勝負に出るルーテシア。

 「邪竜召喚……ブラッドヴェイン!!」

 ルーテシアは不死者召喚の最高峰ブラッドヴェインを呼び出すと、邪竜の肩にチョコンと乗っかかる。
 一方アドニスはブラッドヴェインの巨体に不気味な笑顔を浮かべ興奮した様子で見上げていた。

 「いいじゃねぇか、いいじゃねぇか!!こんなデカい奴とヤり合えんなんてなぁ!!」
 「……ブラッドヴェイン、あの気持ち悪い変態人形を容赦なく破壊して……」
 「……貴様にしては、随分と感情的な物言いだな」

 ルーテシアは人やモノを破壊する時、一切躊躇する事無く行う、それは常に冷静…いや感情が無いからこそ出来る所業である。
 だが今のルーテシアは明らかに目の前のアドニスに敵意を剥き出しにしている。






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最終更新:2010年05月03日 16:56