ウェンディとノーヴェ、そしてゼストの命を奪った同じエインフェリアという存在に怒りを覚えたのか…
 それともただ単にアドニスの発言に苛立ちを覚えただけなのか?ブラッドヴェインには分からない。
 分からないが今は目の前の“敵”であるアドニスを片付ける、それだけはハッキリしていた。

 「まぁいい、俺は暴れられればそれでいいからな!!」

 ブラッドヴェインはその強靭な爪でアドニスに襲い掛かり引き裂こうとしたがアドニスは上空に逃げこれを回避、
 反撃としてソニックエッジと呼ばれる大きく振りかぶり、全体重を乗せて振り払う攻撃を急降下しながら仕掛ける。
 だがブラッドヴェインは口から高熱の炎を放ちこれを迎撃、周囲に高熱を響き渡らせると
 翼を広げ飛翔、だがアドニスは炎に耐え抜き再度ソニックエッジを振り払いブラッドヴェインの胸元を深く切りつける。

 だがブラッドヴェインは引く事無く右の爪を振り払いアドニスは長い刀身を盾に防ぐと
 本命である尻尾による殴打がアドニスの頭部に見事直撃、大地に叩きつけられ巨大なクレーターを作り出した。

 「くたばったか?」
 「この程度で殺れれば苦労はない…」

 ルーテシアの言葉通りクレーターの中心からアドニスが立ち上がり雄叫びのようなモノをあげていた。
 そしてアドニスは目の前に存在する圧倒的な力の前に興奮の坩堝と化し最後の一撃とばかりに大きく振りかぶり、
 足下に魔法陣を張ると刀身は赤く光る炎熱に包まれた、それはエーレンが使用したソウルエボケーションの構えだった。

 「このソウルエボケーションで地獄に叩き込んでやるぜぇ!!」

 アドニスは躊躇無く飛び出し真っ直ぐブラッドヴェインに突っ込んでくるとイグニートジャベリンを撃ち抜き牽制
 アドニスは刀身を振り抜き撃ち落とし更に押し迫り、ブラッドヴェインは続いてファイアランスを放ち
 更に牽制を仕掛けるがその事如くを撃ち落としていく。
 そして目の前まで到達すると大きく振りかぶり振り下ろす体勢をとるアドニス。

 「てめぇの死を受け入れろ!!」

 だがピタリと動きを止めるアドニス、その腕にはレデュースパワーで縛られており
 目の前、ブラッドヴェインの肩に乗るルーテシアが左手を向けていた。

 「てってめぇの仕業か!!!」
 「気付かない変態人形が間抜けだっただけ…」

 ルーテシアは見下ろす目線で毒を吐くと今度はブラッドヴェインがプリズミックミサイルを発射、
 今度は弾かれずその身につき刺さるとアドニスの顔色が紫に変化し全身は電気を撃たれたかの様に麻痺
 一部鎧も凍結していた、どうやらプリズミックミサイルの状態異常効果によるモノである。

 「ヤベェ、イっちまう!イっちまうぜぇぇ!!」
 「………早く…とどめを刺して、気持ち悪いから」
 「そうだな…」

 ブラッドヴェインは早速巨大な魔法陣を張り詠唱を始める、
 その間ルーテシアは再度アドニスにレデュースパワー更にレデュースガードを使用し、
 ブラッドヴェインのグラビディブレスの効果を高める処置を行った。
 そして―――

 「グラビディブレス!!」

 放たれたグラビディブレスの前にアドニスは矮小に等しく簡単に撃ち込まれ周囲を巻き込んで地面へと激突、
 大きなクレーターを形成すると、その中心にいるハズのアドニスは姿を確認できない程破壊されていた。

 「ご苦労様、ブラッドヴェイン」
 「まぁ、楽しめた方か…」

 だがアドニスのあの性格には正直ついていけないと思うブラッドヴェイン。
 それに対しては同感であると感じざるを得ないルーテシアだった。


 …カノンはオットーが張った結界に閉じ込められていた、ディエチの巧みな誘導でビルに追い込み、ガリューの格闘がカノンの行動を制限させた結果である。
 オットーの結界には魔力の動きを阻害する効果がある、しかしカノンは未だ余裕に満ちた表情を浮かべていた。

 「この程度の結界で私を止められるとでも思っているとはな…」

 カノンは動じる事無く魔力を解放、周囲に稲光が走り床を砕き壁ガラスを破壊し始める。
 サンダーストームと呼ばれる雷の広域攻撃魔法で結界を内側から破壊、ビルは瞬く間に瓦礫と化し崩れていく。

 その瓦礫が舞う中でガリューはカノンに近付き、両手肘を刃に変え接近戦を仕掛ける。
 ところがカノンは魔法障壁を張って猛攻を防ぎ、右手をガリューに向けると炎の広域攻撃魔法であるエクスプロージョンを発動、
 大爆発と共にガリューを吹き飛ばし対角線にあったビルに叩きつけた。

 その頃ディエチはリディアと牽制し合っていた、弓と銃の違いはあるが共に遠距離支援型、
 リディアはカノンの支援、ディエチはリディアの支援の妨害を行い、リディアはディエチに切り替え攻撃、
 するとディエチもまたリディアに照準を絞り込み、互いに一歩も譲らない攻防戦であった。

 「こっちに狙いを絞られたのはいいけど…」

 超重量のイノーメスカノンの振り回すのは流石にキツく幾ら誘導性の高いエネルギー弾を撃ち放っても限界がある。
 となれば小回りが利く銃に切り替えた方が無難…そう考えた矢先、リディアの猛攻を受け左肩、右足を貫かれ
 右こめかみと頬、左わき腹を掠める、これ以上の被害は被る訳にはいかない、

 そう考えたディエチはイノーメスカノンを盾にして追撃を防ぎ、
 更に破棄して腰に添えた銃、スコーピオンに手を伸ばし取り出すとすぐさま撃ち鳴らす。
 弾丸は実弾を使用、しかし自身のISであるヘヴィバレルを用いて弾丸に薄いエネルギーの膜を張る事により操作が可能となり
 誘導性のある実弾としてリディアが放った矢を迎撃、更には肩や足を撃ち貫いた。

 「これならイケる!!」

 勝機を見たディエチは次に徹甲弾が詰まったマガジンに切り替え、ストックを伸ばし足を肩幅ぐらいに広げ脇を絞め構え撃ち始める。
 周囲にけたたましい音を奏でながら撃ち出された徹甲弾はリディアを完全に捉え手足、胴体、頭を貫き蜂の巣と化していた。

 だがそれでも動けるようで、その頑丈さに呆れ果てるディエチ、
 しかしリディアの体から稲光が走りショートしている様子を見せており致命的である事は明白
 ところがディエチはリディアの姿を見て一抹の不安を覚える、…そしてその不安は現実のモノとなった。

 「今の攻撃で…倒せなかった事を…後悔なさい!!」

 リディアは決意を胸に弓をオットーに向けグランブルガストを撃ち放つ、
 それと同時にオットーに狙いを変えた事に気が付いたディエチもまたリディアに向け残りの徹甲弾を撃ち
 頭部を直撃、完全破壊したが間に合わず二十本の矢がオットーへと迫っていた。

 「オットー!逃げて!!」

 ディエチの悲痛な叫びが辺りに響き渡る中、それをかき消すかのようにリディアは爆発して消滅、
 一方狙われたオットーはディエチの叫びを耳にしたのかレイストームを放ち迎撃するが、
 全てを迎撃する事が出来ず左肩胸、右股腕、咽を貫かれ串刺しと化し前のめりで倒れその儚い命を失った。

 「オットー……」

 アドニスを撃破しブラッドヴェインと共に後を追っていたルーテシアはオットーが倒れていく姿を目撃
 共に暮らし長く過ごしてきた親友ともいえるオットーの死、それはルーテシアの凍り付いた感情を溶かすには十分であった。
 だがこの感情、ぶつける相手は既にディエチの手によって葬られた、
 とその時であるルーテシアの目にカノンの姿が映りビルに激突していたガリューの下へ向かおうとしていた。

 「ガリュー!起きて戦って!!」

 ルーテシアは怒りのままガリューに武装化を命じ、ビルからガリューが飛び出す姿を目撃すると、
 牽制としてルーテシアはカノンの足下付近に攻撃範囲が広いバーンストームを次々に撃ち
 カノンが動ける範囲を狭めガリューがバーンストームに合わせる形で接近戦を仕掛ける。
 だがカノンは魔法障壁を張りガリューの猛攻を防ぐとグラシアルブリザードを放ちガリューを逆に追い詰め、
 撃ち放たれたグラシアルブリザードの氷の刃はガリューの身を突き刺し見る見るうちに凍結しオブジェと化した。

 「砕け散るがいい!!」

 続いて撃ち放ったエクスプロージョンによってガリューは粉砕、その光景を目の当たりにしたルーテシアは大粒の涙を零す。
 …ルーテシアにとってガリューはただの相棒では無い、共に戦ってきた戦友であり、
 母の温もり、残り香を感じるルーテシアにとって無くてはならない存在であった。

 だがそのガリューが無惨にも砕け散りその姿を嘲笑うカノン、怒り…いやルーテシアの中に憎悪という今までに無い感情が生まれ
 その感情はルーテシアにある召喚虫を使わせる引き金となった。

 「白天王!!!」

 呼び出された召喚虫白天王、色は白く背中には半透明の膜状羽を持ち、その大きさはブラッドヴェインと並ぶ巨体の持ち主である。
 ルーテシアは容赦なく白天王に命令を促しその巨腕が振り下ろされ、カノンはバリアを張って攻撃を受け止める。

 その周囲は大きくへこみクレーターを作り出す中、白天王は何度もバリアの上から叩き付け
 クレーターは亀裂が走り地割れとなって周囲の建物を飲み込んでいく。

 「こんなモノで終わりだと思わないで!ブラッドヴェイン!!」

 白天王が一歩引くと今度は命令を受けたブラッドヴェインが襲いかかり、クレーターを削るように下から上へと引き裂き
 宙には削れた大地と共にカノンが投げ出され、姿を確認したルーテシアはブラッドヴェインに命じ瓦礫と共にその巨大な尻尾で薙払った。
 その破壊力は強大で薙払った瓦礫は周囲の建物や木々を破壊し、その一つにカノンの姿もあった。

 「燃え尽きるがいい!!」

 ブラッドヴェインの高熱を帯びた炎が周囲を巻き込みながら迫り来るが、カノンは立ち上がり威力を高めたエクスプロージョンで相殺、
 巨大な炎の壁が立ちふさがりブラッドヴェインを覆い隠すと、カノンは足下に巨大な魔法陣を張り右手を炎の壁に向け詠唱を始める。

 「絶望の深遠に揺蕩う冥王の玉鉾、現世の導を照らすは赤誠の涓滴!!」

 そしてカノンの最大広域攻撃魔法であるグローディハームが発動、魔法陣の中心部分から毒々しい液体が伸び炎の壁を貫きブラッドヴェインにまとわりつく、
 次の瞬間受けた魔法の部分とルーテシアを振り払うように吹き飛ばした、すると受けた場所が徐々に溶けていき一部は白骨化し始めていた。

 「このまま溶けて消えるがいい!!」
 「ブラッドヴェイン!!」
 「来るな!…奴の相手はこの俺様だ!!」

 ブラッドヴェインはルーテシアに制止を促し徐に魔法陣を張り詠唱を始める。
 すると魔法陣から黒い球体が姿を現し中では稲光が走り更に巨大化、
 広域攻撃魔法の準備を整えると自身の最後の一撃を放った。

 「グラビティブレス!!」

 ブラッドヴェインは最後の一撃を放った後に完全に白骨化、音を立てて崩れ去っていく中、カノンは結界を張り防御に備える。
 だがブラッドヴェインの渾身の魔法はカノンの結界を破壊し飲み込まれ黒い球体の中では稲妻が四散しカノンの身を驟雨の如く打ち付けていた。

 「ブラッドヴェイン……白天王!トドメをさして!!」

 撃ち放たれ消えていったグラビティブレス、だがその中心にはカノンが辛うじて立っている姿があり、
 ルーテシアはその身を確認するや間髪入れず白天王に命令、爆発的な加速と共に右拳を振り下ろし更に左拳、
 そして何度も叩き付け巨大なクレーターを生み出すと上空へと飛翔
 腹部に存在する水晶体から強力な魔力砲を発射、クレーターを吹き飛ばしその周囲を瓦礫に変えカノンは跡形も無く吹き飛んでいった。

 その上空、白天王の肩に乗るルーテシアは涙を拭き気丈を振る舞う。
 日に使役を二体失う…しかもその一体はルーテシアにとって大切な存在、
 ルーテシアは白天王を送還した後、ただ一人…空を向いて佇んでいた。


 場所は変わり此処ゆりかご内では一人の不死者が彷徨いていた。
 名はグレイかつてレザードに捕縛されグールパウダーを飲まされ不死者となったが
 その類い希なる精神力により自我を持つ不死者となったのだった。

 外の様子はおおよそ見当はついている、ナンバーズとエインフェリアの戦いは熾烈を極めるだろう。
 管理局は戦力が整っていない為ゆりかご、そしてヴァルハラを落とすのは困難、
 だがヴァルハラにはレザード達が向かった、落ちるのも時間の問題だろう。

 「今、俺が此処で出来る事それはゆりかごのコントロールを奪う事」

 今現在ゆりかごにはめぼしい戦力が無いウーノと呼ばれるナンバーズはどう見ても戦闘型では無い、
 ならば今動くべきなのだろう、此処を逃す手はない、そう考えコントロールルームに向かうグレイ。
 とその時である、壁から突然右拳が現れグレイのこめかみを打ち抜き、その勢いで壁に叩き付けられた。

 「なっなんだいったい!?」
 「ウーノ姉の所には行かせない!!」

 其処には壁をすり抜けて睨みを利かせたセインの姿があった。
 セインはゆりかご内を捜索していた所、不審な動きをする不死者を発見、
 興味本位で向かっていたのだが、ゆりかごのコントロールを奪うと言う言葉を耳にした為、攻撃を仕掛けたのだ。

 「どけ!!」
 「そう言って退く奴なんていないでしょ!!」

 グレイは仕方なくデバイスを起動、その長い刀身を右手に持ち一気に振り下ろすが
 セインは壁をすり抜けて回避、切り傷を壁に残すだけに終わると今度は反撃とばかりにグレイの後ろに回り込んで攻撃、
 後頭部に狙いを定めて打ち込むが既に読んでいたのか回り込みながら回避しつつ刃を薙払った。

 「あぶなぁ!対消滅バリアを張っておいて良かった」

 セインはウェンディと同じく対消滅バリアを全身に纏う事が可能で
 この際に攻撃を仕掛ければかなりの火力を持った一撃を放てるのである。
 だがそれを活かせる技術は無く荒々しさが目立っていた。

 しかしディープダイバーを用いた奇襲作戦は成功しており、苦戦を強いられるグレイ。
 何処から姿を現すのが分からないのである、今の所相手の攻撃が大振りな為何とか凌いでいるがいずれこの均衡も崩れていく。

 「どうにかしないとな…」

 何かヒントになるモノはないのか…グレイは静かに構え周囲に緊張が走る。
 セインもそれに気付いたのか今までとは事なり慎重になり始める。

 暫くして静かに構える中、周囲に違和感を感じるグレイ。
 表現するとしたら無音の中に一つの波、とても小さく本来なら気付かないものだが今はそれが大きく違和感の波に襲われていた。

 恐らくあの戦闘機人が何かを仕掛けようとしているのか…
 一つ…また一つ波を感じる、それは徐々に感覚が狭まっていた、仕掛けるのが近いのだろう。
 とその瞬間大きな波紋を感じた、グレイは迷わずその波紋に刃を突き刺す。

 「カハッ!!な…なん…で」
 「貴様が姿を現すとき小さな波紋を感じた」

 どうやらディープダイバーの際に起きる物質を通り過ぎる時に起こる微小の音に反応した結果のようで、
 この結果を串差し状態のまま聞かされるセイン、刃は心臓を貫き命が消えていくのを感じていた。

 「このまま…死んだら…みんなに…合わせる顔が…無い!!」
 「なんと!!」

 セインは鬼気迫る顔で左手でグレイを掴み続いて右拳に対消滅バリアを張り真っ直ぐ胴体を貫く。
 その瞬間拳に纏っていた対消滅バリアのエネルギーを解放、グレイを中心に直径十メートル間は高密度のエネルギーに満ちその後消滅
 二人がいた場所は大きく…そして綺麗に削られ姿を確認する事は出来なかった。


 一方コントロールルームではウーノが戦況把握に勤めていた。
 正面のモニターには命を賭けてエインフェリアを撃破し死んでいく妹達の姿が映し出されており、
 近くでは爆発音が聞こえモニターを向けると大きく削れた傷跡が映し出されていた。

 恐らくはセインが自爆でもしたのだろう…そしてこの光景はウーノにとって目も当てられない惨事だった。
 だが自分の任務はガジェット及び不死者の指揮統率、それに長女である自分が妹達の死に目を逸らす訳にはいかない。

 ウーノは妹達の死を必死に受け止め仕事に集中、モニターではドラゴンオーブの操作情報の移行が続けられていた。
 その後暫くして移行が終了しスカリエッティにナンバーズの状況も含め報告した。

 「そうか…外はそんな事になっていたのか……」
 「いかがなさいます?ドクター」

 モニターに映るスカリエッティは静かに目を閉じ考える様子を見せると、
 何かを決意したかのように目を開けウーノに命令を下す。

 「ドラゴンオーブを発射したまえ、彼女達を弔う為にも…ね」

 それが出来るのは長女であるウーノしかいない…と静かに伝えウーノは頷き映像を切る、そしてドラゴンオーブの発射準備を開始した。
 一方ヴァルハラ内で待機しているスカリエッティは閉じたモニターを見上げながらジッと佇んでいた。
 近くにはレザードが同じく佇んでおり、静かに見守っていた。

 「命とは儚いものだね…こうも簡単にこぼれ落ちていく」
 「…………」

 レザードは答えず静かに佇む、するとスカリエッティは自分の感情を覆い隠すように言葉を続ける。
 命とは生物が生きている限りもち続け、すべての活動の源泉、だがナンバーズは造られた存在、
 しかしレザードの手によって“魂”を持ち肉体も成長する事が出来るホムンクルスと融合していた。
 いわば普通の“人”と何ら変わらぬ存在、それ故に命の終着点、生き物が持つ絶対なる出来事、死を得た事にもなる。

 「彼女達は満足だったのだろうか…」
 「…それは聞いてみない事には分かりませんね」

 苦労して手に入れた命が理不尽に奪われる、憤り悲しみ…そして虚しさがこみ上げてくるスカリエッティ。
 だが彼もまた理不尽に他者の命を奪ってきた、これは報いなのかもしれない。
 そして…死の先を知るレザードはただジッと黙り込み、その時を待っていた。
 奇しくもこの時エインフェリアであるイージスとミトラのデータ書き換えが終了した頃であった。


 場所は変わり此処次元海に存在するドラゴンオーブに火が入り、その矛先がある方向へと向けられる。
 その方角の先には本局が存在しており、周囲には多数の次元船が並びアルカンシェル隊も其処にはあった。

 「目標補足、周囲の警戒を怠るなよ」

 エインフェリアであるミトラが反撃に備え警戒を促す頃
 ドラゴンオーブは呻き声のような音をかき鳴らし、二枚の翼から二つの月の魔力を吸収、
 それを皮切りに砲身の前に赤い巨大な転送用の魔法陣が張られ、
 中心の赤い水晶体の中では魔力が増幅・収束されていき臨海点を超えると、その長い砲身にて加速されて発射
 転送用の魔法陣によって魔力砲は本局に運ばれ次元船を次々に破壊、待機していたアルカンシェル隊を一瞬にして藻屑に変えた。


 場所は変わりゆりかご内ではドラゴンオーブの威力を目の当たりにしたウーノが目を丸くしていた。
 ウーノの予想を遙かに越えた威力、三賢人が切り札とした理由も頷ける…
 この一撃が妹達の弔いになってくれれば…そんな事を思っているとこの結果を報告する為スカリエッティに再度連絡を取った。

 一方で此処ヴァルハラの制御室ではスカリエッティにレザード、そして合流したトーレ、セッテ、ドゥーエの姿があった。
 外の状況をスカリエッティが隠すこと無く伝えナンバーズも戦死した事を伝えると、
 トーレは左手で頭を押さえ信じられないといった表情を浮かべセッテは無表情ながら悲しみに暮れていた。

 …そしてドゥーエは未だ見ぬ妹達の死に実感がわかない様子を見せていた。
 だが見ずとも妹…その死は十分に心を痛める出来事である、暫くは呆けておりいずれ実感へと結ぶには、そう時間はかからなかった。
 すると其処にウーノからの連絡が入る、今し方ドラゴンオーブ撃ち、結果次元海に展開された次元船を壊滅することが出来たのだという。

 「なるほど…大した威力だ」

 そしてゆりかごでドラゴンオーブの操作が出来ると言う事を実証出来た事にも繋がり、ヴァルハラは用済みであることを指し示す内容でもあった。
 早速スカリエッティは待機中のチンクとクアットロに連絡をとった。


 動力室…部屋の中では動力炉が音を立てて動き、その目の前には待機中のチンクとクアットロの姿があった。
 二人はレザードの待機命令から三時間以上、何もする事が無くその場で呆けていた。
 すると其処にスカリエッティからの連絡が入る、それはヴァルハラの動力炉を破壊してもいいというものであった。

 「了解しました、では早速開始します」
 「気を付けて行ってくれたまえ」

 スカリエッティは簡単に通信を切ると改めて動力炉を見上げる二人。
 デカい…これほどのものを破壊するにはチンクが持つランブルデトレーターですら骨が折れる。
 そんな事を考え徐に髪を掻き上げ、左耳に付けられているイヤリング型のデバイスが姿を見せる。

 「どうするの?」
 「手ならあるさ…ヴァルキリーセットアップ!!」

 次の瞬間、デバイスが輝き出しチンクを飲み込むと其処には甲冑姿のチンクがそこに存在した。
 チンクは他のナンバーズと異なりリンカーコアを持つ唯一の戦闘機人…
 ……であるはずであった。

 「へぇ~それが博士から貰った力なのね…だったら私も、J.Dセットアップ!!」

 するとクアットロが持つデバイスは起動、シルバーカーテンはフードの付いた妖美なバリアジャケットとなり、
 髪の色も赤く変化、顔色も変化し手には頭蓋骨をモチーフとした禍々しい杖が握られていた。

 「クアットロ!?その姿は!!」
 「チンクちゃんだけがリンカーコアを持っている訳じゃ無いのよん」

 クアットロもまたリンカーコアを手に入れその力を使う事が出来るようになった。
 当然この事はレザードもスカリエッティも知らずクアットロの独断で行ったもの
 がしかし戦力としては申し分なく、思わぬ戦力も事実であった。

 「まぁ~それはいいとして、早く破壊しましょう」
 「……そうだな」

 一人より二人の方がより確実、二人は足下に巨大な広域攻撃魔法用の多重多角形型の魔法陣を張り
 瞳を閉じるとチンクは左手を動力炉に向け、クアットロは右手を上へかざし詠唱を始める。

 「…其は忌むべき芳名にして偽印の使徒、神苑の淵に還れ…招かざる者よ……」
 「我…久遠の絆断たんと欲すれば、言の葉は降魔の剣と化し汝を討つだろう…」

 チンクの左手の前には光が集まり強烈な光を放ち、クアットロの頭上では巨大な槍が音を立てて回転し矛先が動力炉に向けられると
 それに合わさるようにチンクの広域攻撃魔法の準備が整い、両者は目を見開きしっかりとした目線で動力炉を睨みつけた。

 「セラフィックローサイト!!」
 「ファイナルチェリオ!!」

 二つの広域攻撃魔法が放たれ巨大な槍が動力炉に突き刺さると同時に圧縮された光の直射砲が動力炉を貫き
 音を立てて崩壊、するとヴァルハラ全体が振動を始め亀裂が走り一部が崩れ始めた。

 「これ以上は長居は無用だ、脱出する!!」

 チンクの一言を皮切りに脱出を始め、クアットロはその道中でレザードに報告、
 向こうもまた脱出を急ぎ突入口に向かっていると告げられた。

 突入の時とは逆の道をひた走り、落ちてくる瓦礫をクアットロはファイアランス、チンクは原子配列変換で短剣に変えて処置、
 すると目の前に巨大な瓦礫が道をふさぎチンクは立ち止まるとヴァルキリーを抜きカートリッジを二発使用、
 マテリアライズを実行させ左手には身長を遙かに超える巨大な槍を携えた。

 「時間が無い!押していく!!」

 手に持つニーベルンヴァレスティを目の前の瓦礫に投げつけ破壊、周囲にエーテルが輝く中、先へと進む。
 その後レザード達と合流し突入口まで一直線をひた走り突入口に辿り着き飛び出すように脱出
 すると間髪入れず突入口が崩壊しそれを皮切りに次々に崩れていき、最終的に瓦礫の山と化してヴァルハラは終わりを告げた。


 此処はミッドチルダ中央区画ヴァルハラは既に此処まで進軍していたようで、脱出したメンバーが立ち並ぶ中、
 チンクとクアットロにレザードが現在の様子を伝えるとチンクはノーヴェが戦死した事に納得いかない表情を浮かべ
 クアットロに至っては何も動じていない様子を見せていた。

 「そんな……あのノーヴェが戦死したなんて有り得ない!」
 「ならば確かめてみてはどうです?」

 レザードの意味深な言葉にチンクは首を傾げると説明を始める。
 チンクのマテリアライズは魔力を消費して武具を具現化させる能力がある。
 武具の具現化にはその武具の情報が必要となる、そしてそれは魂にも活用可能で
 魂の情報…記憶を読み取り肉体を再構築することが可能、更に精神集中すれば魂の選別する事も可能となる。
 つまりマテリアライズとは“魂を選定する者”に相応しい能力であるのだ。

 「物は試しです、精神を集中しなさい」
 「はい、博士」

 早速チンクは目を閉じ深い深呼吸を行う、落ち着いてきたところで自分の感覚の視野を広げ始める。
 一つ…また一つ魂を感じる、だが望む魂ではない、一つ一つの魂の色は違いその輝きも違って見える、
 とその時、耳に微かな聞き覚えのある声が聞こえる、それはよく耳にする声、親しい声…

   ―――知っている…この声は…私の妹達!!――

 確信したチンクは声にあわせて魂を引き寄せ始める、暫くするとチンクの周りに光が集まり始めた。
 その色は緑・桜・黄色に輝きフワフワと親しみすら感じていた。

 「成功ですね」
 「これが…魂?」
 「さぁ、早くマテリアライズを」

 魂は脆く儚い…このまま放っておくと自然に消滅してしまうとレザードに促されマテリアライズを開始するチンク、
 両の手のひらで水をすくうように構え、手のひらから白く輝く魔力を放ち、その光は優しさを秘めていた。

 そして魔力と魂が重なり合うと強く輝き出し膨れ上がるように大きくなると形を成し始め、
 人の姿には成ると徐々に光が消え其処にはオットー、ウェンディ、ノーヴェが姿があった。

 「あっアレ?どうなってるんッスか?」
 「…確か、エインフェリアに倒されたハズ……」
 「チンク姉?」
 「どうやら巧くいったようですね」

 魂に刻まれた情報を基に再構成された三人、だがマテリアライズの効果は三分程度、長時間は不可能である、
 其処で三人の魂をチンクの体内に取り込む事で保存する事が可能であるとレザードは説明を終えた。

 「取り敢えず魂の具現化は可能であると実証出来ただけでもよかったです」

 眼鏡に手を当て答えるレザード、一方でもう二度と会えないと思われていた妹達と再会を果たしチンクは勿論の事、まだ見ぬ妹達をこの目で確かめたドゥーエ、
 命に関して重さを知り命を得て、また奪われた者の答えを知りたかったスカリエッティなどメンバーは喜びに満ちていた。
 その中で一人レザードだけが顎に手を当て静かに考えていた、
 チンクの成果はこの後に行われる行動の実証に繋がった…と。

 「ところで…他の者達はどうしているのでしょう?」
 「そうだね…ウーノに聞いてみるよ」

 レザードに急かされる形でスカリエッティはウーノと連絡を取る。
 ウーノの説明ではアギトと負傷したディードは自力で行動、既にゆりかご内に移動している
 ギンガもまた手傷を負っているがゆりかごへと戻っている最中であると
 だがルーテシアはガリューを失った反動かその場でうずくまり落ち込んだまま一歩も動かずにおり、
 ディエチもまた深手を追い、自力で戻るのが困難であるとのことだった。

 「ふむ…ではチンクはルーテシア達の下にギンガの下にはトーレとセッテが向かいなさい」

 ルーテシアの悲しみはチンクの能力によって癒す事が可能であり、
 ギンガは自力で戻っているとはいえ怪我を考慮してトーレとセッテを向かわせるというものであった。

 「ではその手筈で…残った我々は戻るとしましょう、計画も終わりに近付いていますしね」
 「あぁ、ではみんな、ゆりかごに戻ろ―――」

 とその時である、スカリエッティの言葉に呼応するように桜色の直射砲がレザードに迫り、
 レザードはとっさにガードレインフォースを張って攻撃を受け止める。
 そして直射砲の先を見つめるとはなのはがレイジングハートを向けて睨みつけており、
 周囲にはヴィータ、フェイト、はやてなど機動六課最高戦力が集いその中にはアリューゼとメルティーナの姿もあった。

 「これはこれは…対した面子で……」
 「見つけた……レザード・ヴァレス!!」

 なのはの力強く、そして怒りに満ちた瞳をレザードに向ける中、
 レザードは余裕のある表情を浮かべ、見下す目線にてなのは達を見下ろしていた。








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最終更新:2010年05月03日 16:59