第参話 迷い
何を私は躊躇っている。
私は仕事人だろう。
報酬さえもらえれば、どんな仕事だって請け負う。
前、ネギ先生にもそう言っただろう。
だから、そのまま仕事を請け負えばいいだろう?
なのに、なぜ私は迷っているんだ。
なにを迷う必要がある。
『真名…。』
「…くっ…」
私を呼ぶ、殺さなければならない奴の、声。
…どうすればいい。
私は、一体どうすればいいんだ…?
「…龍宮、おい、龍宮!!」
私を呼ぶ声。少しハスキーなその声は、私に向かって叫んでいた。
「…ん…?刹那…。朝か…?」
のそりと身体を起こす。目覚めは非常に最悪だった。
昨日のことで、全然眠れなかった。
その思考を、ルームメイトの刹那の声が遮るかのように響き渡る。
「朝か、じゃないだろう!!もう登校時間だろう!!遅刻するぞ!!!」
時計を見ると、もうすぐ8時を過ぎようとしていた。
「し、しまった!!スマナイ刹那!!先行っててくれ!!」
ボサボサではない自分の髪の毛を急いでとかす。
服を着替えてるとき、ベストのポケットから封筒が落ちた。
「…あ…」
昨日の依頼の手紙。
ぼんやりとみつめる。
すかさず刹那が奪い取っていった。
「おい!刹那!!」
「今は依頼内容を気にする時間じゃないだろう!早く着替えろ!」
「…ちっ」
しぶしぶと着替える。
真名の着替えが終わると、刹那はその手紙を真名に返した。
「早くしてくれ。置いていくぞ」
「待て、刹那。お前、この依頼内容…、読んだか?」
一瞬、刹那はバツの悪そうな顔になる。
「…私が人の依頼内容を覗き見るようにみえるのか?」
「…見てないのか。ならいい…。遅れてすまない。」
「次から寝坊しないでくれよな?」
2つの陰は、学校に向かって消えていった。
刹那にも言ってみるべきだろうか。
自分の依頼内容を。
言ったところでどうこうなるわけじゃない。
でも、言っておきたかった。
なぜかは…わからない。
「…刹那。」
「どうした、龍宮。」
刹那はそっけなく返事を返す。
「…この手紙の…依頼内容だが…」
「私は見てないと言っただろう。」
「いいから聞いてくれ。」
刹那がようやく真名のほうを向いた。
一瞬、言うのを躊躇ったが、覚悟を胸に、言う。
なんの覚悟かは、分からなかった。
「依頼内容が…長瀬楓の暗殺なんだ…」
ついに、言った。
「…えっ」
刹那が驚きの声をあげる。
しかし、すぐに刹那の顔が険しくなる。
「…それで、お前はどうしたいんだ、龍宮。」
「…えっ…」
「お前はどうするんだ、と聞いている。」
…どうするんだ、だと?
…私は、仕事人だ。
どんな仕事だって、報酬さえもらえれば、請け負う。
…だから、殺す。
そういえばいいだろう?
なぜ言うのを躊躇う?
刹那が声を荒げる。
「自分の大切な人が狙われているんなら、その人を護ろうとは思わないのか!?楓は、お前にとって大切な人じゃないのか!!?」
「…ぐっ…」
そうだ、護ればいい。
なのになぜ護ろうとしない。
「…龍宮、お前がそんな奴とは思っていなかったよ…。先に行く。」
いっそうスピードを速めた刹那は、いつの間にか見えなくなってしまった。
真名は、本当にどうすればいいのか、分からなくなってしまった。
最終更新:2009年04月19日 15:06