第四話 決意
「…っ!!」
刹那に置いていかれ、真名は一人その場で佇んでいた。
分からない。
自分自身が分からない…。
楓は大切な人だから、護ってやればいい…。そうじゃないか…。
でも、なぜ私は迷っていたんだ…?
迷う理由があるのか?
ずっと自分自身に問いかける。
答えはもちろん、帰ってくるわけもなく…。
かなりの大遅刻だった。
ネギ先生がなにがあったかとかとてもあわあわしていたが、ただの寝坊だと伝えた。
クーも楓も心配していた。
「真名が寝坊て、珍しいアルね♪」
なぜかクーはニャニャしながらこっちをみている。
「………。」
ゴゴゴゴゴゴ…。
「……ヒィッ!?」
無言の重圧を投げかけると、一気にクーの顔が真っ青になる。
「クー、…刻まれたいのか…?」
とどめの、一言。
「すすすスマナイアルー!!真名ぁー!!!」
クーは一目散に逃げていった。
蛇に睨まれた蛙、という言葉があるが、この現状を例えるならその言葉がまさしく一番似合うだろう。
あっはっはっは、と軽快な笑い声が聞こえる。
「真名は容赦がないでござるなー。」
「っ、楓!!?」
楓はいつの間にか、真名の隣に居た。
いつ移動したんだ…。さっきまでクーの隣に居たはずではないのか…?
「ちょっとした瞬動術でござるよ、ニンニン♪」
「ニコニコしながら人の心を読むのはやめてくれ……逆に恐ろしい…」
「酷いでござるな~。拙者、真名のこと心配してたでござるよ?」
「…今日の寝坊の事か?別にどうってことなか…」
「ちがうでござるよ」
急に楓によって遮られた会話。
楓を見やると、めずらしく楓は瞳を開いて私を見ていた。
強い眼差しに、私は押されがちになる。
「今日の真名、いつもと違うでござるよ…。何かあったでござるか?」
…どう答えればいい。
楓のことを殺すなんて、私には出来ない。
だから、黙っておこうと、依頼の事を言わずにいとこうと。
そう、思っていた。
「いつもと違う…?馬鹿を言うな。そんなことはな…」
「違わないでござる。真名は…そのような瞳ではない。もっと強い瞳だ。」
「…っ」
何を言えばいいのか分からなくなる。
依頼の事を言うか…?
しかし、私は仕事人だぞ…。
報酬さえもらえれば、どんなことだってやる。
たとえ、自分が汚れてしまっても…。
「真名…。」
楓が私を真っ直ぐ見ていた。
その瞳に、揺るぎはない。
「…すまない。」
「…えっ?どうかしたでござるか真名…」
「すまない!!」
もう一度だけ言って、走ってその場を後にした。
「真名!!?」
ダメだ…。
自分が血で汚れたって、楓を血で汚す事は出来ない…。
…護りたい。
けれど、護れない…。
…私はなんて弱いんだ…。
走りながら、そんなことを考えてた。
「待つアル。」
ふと、後ろから声がした。
特徴的な口調だったので、真名はその人物が誰であったかすぐに分かった。
「…クー。」
クーが、後ろから真名を真っ直ぐ見ていた。
「真名、いったいどしたアル。悩みでもあるアルか?」
あっけらかんとした口調。
…何も分かっていないのかコイツ。
さすがバカイエロー…。
「…。」
真名は考えてみた。
クーに相談してみようかと。
クーのような一途でおバカな奴の意見を参考にしてみるのも良い。
だが、さすがに真っ直ぐ言うのはマズイ。
「クー、聞きたいコトがあるんだが、いいか?」
「悩みアルか?」
「まぁ、そんなところだ。」
悩みということにして、質問を述べる。
「もしも、誰かからかに『お前の大切な奴を殺せ』と依頼がきたら、お前ならどうする?」
クーは、少し不思議そうな顔をした。
「何かあったアルか?」
「別に、このような依頼がきたら、どう対処するべきなのかを意見として聞きたいだけだ。」
そぅアルか。う~ん…と、クーは考えていく。
およそ2秒後に、クーは答えた。
「私だたら、護るアルな。」
刹那と同じ答えだった。
真名は、その答えにかすかな怒りを覚える。
「…どうしてだ…」
掠れるほど、小さな声。それに秘めた、大きな感情。
「…え?」
「どうして護れると言い切れるんだ!!私は仕事人だ、依頼を断るなんて出来るわけないだろう!!!なのに…なぜ、私は…、私は…!!!」
内に秘めた感情を、容赦なくさらけだす。
クーは、其れを悟ったのか、何も聞いてこなかった。
しかし、苦しむ真名に対し、言葉を放った。
「私の拳は、大切な人を殺めるために鍛えてきたわけじゃないアルよ。全てを、大切だと想える人を…護るためアル。其れは真名にとっても同じことじゃないアルか?」
大切な人を殺めるために鍛えたわけじゃない。
全てを、大切だと想える人を…護るため。
「まぁ、ワタシにもいつ大切な人が現れるかよく分からないけど、コレだけはしっかり言い切れるアルよ。」
…そうか。
…そうじゃないか。
…護ればいいじゃないか。
簡単な答えだったのに、どうしてこんなに気づくのが遅かったのか…。
「ありがとう、クー。恩にきるぞ!」
真名は、その場を走り去った。
実はクーがすでに真名の事情をちゃんと知っていたのはこれまた別のお話。
「…真名、ちゃんと護るアルよ。…楓を。」
誰にも聞こえないように、クーはつぶやいた。
このとき、真名は決意していた。
楓を殺す…覚悟ではなく、
依頼人から、楓を護る、覚悟が…。
最終更新:2009年04月28日 20:50