第六話 油断
楓に打ち明けて、1ヶ月の時が流れた。
もう11月に入ったあたりだった。
考えてみれば、もうすぐ二人の誕生日でもあった。
真名は楓より少し後に生を授かった。
だからといって、油断してはならない。
気が抜けた瞬間。それは自分の負けを意味していた。
そして、真名と楓は裏山へ修行に出掛けた。
最初、真名はそれに反対していた。
楓は命を狙われている存在。無防備に山の中にいては、狙われやすくなるだろうと。
しかし、楓の考えている事は、単に修行だけの意味じゃなかった。
『むしろ、山の中に居たほうが、一般人を巻き込まずに済むでござる。拙者たちにとっても、なかなか有利な条件でござるが』
…言われてみると、そうだろう。
しかし真名はそれでも心配だったので、楓の修行についていく事にした。
思えば真名は、このころから、死んでも楓を護るという覚悟をしていたかもしれない。
「う~む。やっぱり山の中は格別に気持ちいいでござるなぁ♪」
裏山に着いたらさっそくテントをいそいそと組んでいく。
真名は壊すのは得意だが、組み立てるのは苦手なので、周囲の見張りをしていた。
ふわり、と何かが落ちてきた。
紅色の葉っぱ。ほのかに別の色も混じっている。
(紅葉…。『楓』とも、言うんだっただろうか。)
上を見上げると、一面の紅色。
何本もの樹。その樹はすべて、紅色の葉をまとっている。
タイミングよく楓が来た。
「真名~、テント張り終わったでござるよ。って、うわぁ…」
目の前の美しい光景に、楓が感動したような声を出す。
「楓、見てみろ。美しくないか?」
ざわざわと擦れ合っては、一枚、また一枚と、散っていく。
一枚一枚が、とても儚く見えた。
少しずつ、しかし確実に散っていく。
「もしもこの景色がこんな状況じゃなかったら、もっと綺麗に見えただろうな…」
自分の口から漏れた、願望。
楓は返事を返さない。
「…すまない楓。気を悪くしてしまったか?」
「そんなことあるわけないでござるよ。紅葉に見とれていただけでござる。…まことに、綺麗でござるよなぁ…。」
楓は、少し寂しげな瞳で、つぶやいた。
遅くなる前に、修行を開始する。
川で魚を獲ったり、崖を昇り降りしたり、熊とかと戦っていたりしているうちに、
…夜になった。
――静寂の闇。
その中に、ひとつの陰があることに、真名は気づいていない。
パチパチ、と火のはぜる音がする。
夕食を済まし、風呂に入った後、今日の様子について語る。
「…今日は、特に変わった事なんてなかったな。」
真名が、楓に向かって告げる。
「しかし、拙者を狙う輩がいたとは…。恨みを買うような事をした覚えはないでござる。故郷の里はとうに無くなってしまったでござるしな…。」
昔、楓の生まれの里に悪魔が襲ってきた。
たちまち、炎につつまれ、生まれの里はなくなった。
楓だけ隠れていたため、悪魔に気づかれる事無く助かった。
その過去をいま、真名は初めて知った。
「―――!!!」
楓は、その何者かの気配を感じ取った。
真名も、少ししてから其れに気づいた。
「伏せるでござる!!」
咄嗟に二人とも伏せた。
すると、頭上に炎の塊がすごいスピードで飛んできた。
ボォォォォォと、全てを焼き尽くすような音を耳にする。
「…っ」
「敵でござるか!!」
最後の最後に油断をしてしまったことを、後になって酷く後悔する真名がいた。
最終更新:2009年04月28日 21:48