第壱拾弐 最期
「龍宮!!!?」
悪魔の叫び声の後に聞こえた、刹那が私を呼ぶ声。
それを聞いた瞬間、体中から力が抜けていく。
『くっ…倒れるな…!倒れてる場合じゃないんだよ…!!私…は…』
心はそう思っても、身体がいうことを聞かなくて。
『か…ぇで…の、ところに…!』
真名の思考はそこで途切れた。
何もない、無の世界。
周りを見渡す限り、全て真っ白な光景。
その中心に、真名はぽつんと立っていた。
最初、真名はここがどこかも分からず焦っていた。
見渡す限り白の世界。
刹那も、悪魔もそこには居なかった。
『まさか…私…死んだのか?』
そう、思っていた。
だが真名は死を恐れていなかった。むしろ、受け入れる覚悟が出来ていた。
楓は護れなかったけど、『楓の想い』はちゃんと護れたから。
後悔はしていない。地獄なら既に見ている。
あの血なまぐさい光景。
戦場で何人殺してきたのかも分からないほど、殺してきたのだから。
地獄に行ったとしても、後悔なんてしない。
真名は、あの時とはまた違う『覚悟』をしていた。
だが――――
『だめでござるよ』
後ろのほうから声がする。
決戦のとき、その場に居なかった人物。
よく知っている声。
よく知っている口調。
世界で一番、愛しい存在だと思えた人。
「…楓…?」
真名の後ろ、少しだけ、離れた位置に、
『長瀬楓』が立っていた。
真っ白い、純白のワンピースを着ていた。
胸の谷間あたりに、変な印があった。しかし、ワンピースによって完全には見えていない。
「楓っ!!!」
真名の顔が、一瞬笑顔になる。
ほっと安心したような顔。
しかし、少しだけ警戒した顔になる。
――あの楓は本物なのか?
そう、思っていた。
楓はいつものおとぼけた顔のまま、
『真名、拙者は正真正銘の長瀬楓でござるよ』
真名に近づき、ぎゅうっと抱きしめる。
「ふむぎゅっ!!!?」
真名の顔が楓の豊富な胸の中にすっぽり埋まっている。
息苦しいが、ふかふかで、気持ちよかった。
――この暖かさは…楓だ…。やっと…また逢えた…――
自然に瞳から涙が溢れ出る。
ずっと、ずっとこうしていたかった。
『真名…』
楓が真名を呼ぶ。それに応えて、真名は楓の顔を見ようと、顔を楓の方に向けた。
すると、唇に暖かい感触が伝わる。
「ふむっ…!?」
楓の唇と真名の唇が重なりあう。
とても優しい、あったかいキス。
仮契約、という意味のキスではなかった。
楓とは初めてのキスだった。
柔らかい、暖かい、そして、とっても優しい――――。
楓がそっと唇を離す。少し名残惜しかったかのような顔をしている。
「…楓?」
『真名…、真名には生きてほしいでござる。そして、拙者のことは忘れて欲しい…。そして、拙者が―――ことは、クラスの皆には黙っていてほしいでござる』
優しく、ふんわりと真名を抱きしめる。
真名は、楓が言った言葉の一部が聞き取れてなかった。
『拙者はいつだって、真名の傍に居る。だから、忘れても寂しくないでござる…』
真名は、楓の言っている意味が分からなかった。
『大好きでござるよ…、真名』
楓の眼には、今まで見たことがない涙があった。
しかし、とても綺麗な笑顔だった。
それが何を示してるのか…。
今度は遠くで、刹那の声がした。
そして、また真名の意識は途切れる。
『…生きて…』
そう、聞こえた気がした。
「龍宮!たつみやっ!!」
…刹那の声だ…。
うっすらと眼をひらく。
そこにいたのは、さっきまで一緒にいたような気がする楓じゃなくて、
あまり見たことのない表情の刹那がいた。
眼から涙を零している。
ここは病院なのか…。周りがまっしろい壁に包まれている。
「せつ…な…?ハハ、ひどい顔だな…」
私の声を聞いて安心した刹那は、よりぼろぼろと涙を零した。
「たつみやぁ!!!」
傷を負ったはずの身体に不思議と痛みはなかった。
体中には包帯が巻いてある。
そして、今更ながら異変を感じた。
―――楓は?先程まで一緒にいたよな…?―――
「刹那…、楓、は…?」
刹那に、そう問いかける。
すると、今度は刹那が私を抱きしめる。
力強く、ぎゅっと。
「…刹那?」
「龍宮…、落ち着いて聞いてくれ…。」
震えている刹那の声。
震えている刹那の腕。
それが何を意味するのかは、分からない。
刹那は、意を決して、伝える。
「楓は……、さっき…っ、くっ…うぁぁ…!」
「嘘…、だろ?」
さっきまで一緒にいた。
キスだってした。
綺麗な笑顔も見た。
それなのに…
もう、逢えないのか…?
二度と…、あの暖かさ、ぬくもりに、触れられないのか?
嘘、だろ…?
大好きな楓に、もう、二度と…
「あ、ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
『拙者が「死んだ」ことは、クラスの皆には黙っていてほしいでござる』
聞こえなかった部分が、今になって聞こえた気がした。
最終更新:2009年06月09日 21:52