太陽と月と星24 - (2010/08/01 (日) 14:31:56) の編集履歴(バックアップ)
太陽と月と星がある 第24話
「一体、何を拗ねているんだ」
「何の事だかわかりませんが、とりあえずそのチョコを片付けていただけませんか」
テーブルの載ったチョコの山を見ながら、私は冷静に言いました。
目前で爬虫類系冷血美形が重たげな尻尾をくねらせています。
む、ターバンがちょっとずれてる。
直したい…・・・いや、ここは自分でやってもらおう。
「オティス先生へ単位下さい。スーザン・ウェルカッセン オティス先生へ最近人格が丸くなりましたね。事務員女子一同より(注:義理です)
レポートの締め切り延ばして下さい。フー・F・フォワード あ、これもだ。えーっと…これは芥子入り……わさび味…寿司風味……虫入り……がっくん」
勝手にチョコの包みを開け、悲しげな眼差しを向けるサフに対し、無表情のまま聞こえないフリをしてますよこの人。
「サフはニキさんからもらえたの?」
……サフの満面の笑顔って、ちょっと怖い……。
「手作りだったんだ。あ!キヨカのクッキーもおいしそうだけどね」
バフバフを尻尾を振って非常に嬉しそうです。
……髪を引っ張るのはやめて下さい。尻尾の先でつつくのもです。
「何か」
何故睨みますか。
「もしクッキーが食べたいというなら、あそこに。お勧めはしません」
ちょっと失敗した分が。
焦げたのかカカオで黒く見えるだけなのか判別しがたい事になっているソレをみて、枯れた植物のように悄然としてます。
……かわいい……っと危ない危ない。
もちろんあれは私が食べて片付けるつもりなんで、気にしないでほしいのに。
「そろそろ御飯だから、コタツの上を片付けてくれる?」
「わかった」
手入れのいい箒の穂のような尻尾を振りながらサフがキッチンから出ると、血も凍るような美貌が寄せられました。
「何を怒っているんだ」
「怒ってませんよ」
そう私が返すと、眉間に皺を寄せて腕を回してきます。
「御飯ですから、向こう行ってて下さい」
回された手を避けると、綺麗な指先が宙を掴みました。
「ねぇねぇ ちーチョコほしいな。ジャックいっぱいもらえた?」
御飯の後、のんびりとテレビを観ているジャックさんに甘えるチェル。
かわいいです。
「オレー?あげたし貰ったよー。でもさ!みんな凄いね。ネコって超ツンデレ!みんな義理って言うんだよ☆」
サフは無言で目頭を押さえて俯き、やがて耐え切れなくなったのか部屋に帰りました。
もう一方は、コタツに首まで入りじっとこちらを見ています。
言いたい事は、ちゃんと口で言いましょう。
尻尾を絡ませてくるんじゃなくて。
「というわけで、ほら義理チョコだよー」
どこからともなく現れる小さな包みの山に眼を輝かせるチェル。
見た限り、危険そうなチョコは混ざっていないようですが……一応確認しないと。毒とかあったら大変だし。
「あとオレ製生チョコー ほら、美味しいぞー」
「おいしー!」
「一応、見せてもらってもいいですか?お酒入りとかだと大変ですから」
「あーオレ確認したけど。まぁいいよ」
念入りに確認する私をよそに、早くも口の周りをチョコで汚しバタバタするチェル。
コタツの中で長い尻尾が蹴られたらしく、冷たい美貌が一瞬歪みました。
一瞬キュンときましたが、こなかった事にします。
ああ、ホントに義理って書いてある。凄い……。コレが本物の義理チョコ……。
「ほらキヨちゃんもオレ製生チョコだよ。あーんっ」
目の前に差し出されているソレは可愛らしい箱に収められ、表面にはカカオパウダーが塗され、おまけにクラブ型の模様が軽く焼き込まれています。
美味しそうに見えます。
コレ全部、自分で用意したのか……。
「コレ、何が入ってるんです?」
「チョコに生クリームにアフア」
思わず巨大顔傷黒ウサギをみつめると、びくりと長い耳を震わせ、もぐもぐと美味しそうにチョコを食べるチェルを盾にして体を隠そうとしました。
でっかい図体はどう考えても隠れてません。
「今度、アフア抜きで作ってください。私も食べたいですから」
「ももももちろんさ!だからその眼やめて。がっくんもなんか言ってよ!」
無言で尻尾を体に巻きつけ突っ伏しているので、期待しても無駄だと思います。
お風呂についてこようとするジャックさんが蹴り出され、サフとチェルが眠りについた頃、寝巻きの私に鋭い眼差しが向けられていました。
「なにか」
ぐっと睨んできました。
何せ美形ですので睨むと大変迫力があります。
一年以上暮らしても、未だに美形に慣れなくて困ります。ときめく。
「俺には?」
「クッキーはありませんよ。アレは義理用しか成功しませんでしたし」
ご近所や友達用に大量生産したので、しばらくクッキーは見たくない気分です。
プレーンは上手くいったのに、手を加えると失敗するなんて。
眼を戻せば……美形がうなだれています。
美形ですので、うなだれていても美形です。
……私の意志の強さは弱くなる一方で困ります。
……ちゃんと言うまであげないつもりだったのに。
「……ま、まぁ一応チョコならありますが、あんなにたくさん貰ったなら別に」
「くれ」
今、0.1秒ぐらいでした。
即座に服の隠しからチョコの包みを取り出し押し付けました。高級チョコレート、数量限定です。
買った後であまりチョコが好きではなかった事を思い出しましたが、資金も時間も足りなかったので仕方ありません。
誰だ。小豆買い占めたの。
雑巾色のでっかいイヌが買い占めて行ったって本当だろうか。
大体、みんなチョコチョコと貰った方は飽きるじゃありませんか。
……とか、買った後で気がついたんですけど……。
「たくさんもらえてよかったですね」
「もしかして、嫉妬してたのか?」
美形に覗き込まれました。
「最初からチョコをたくさん貰って返ってくるのは予測済みでしたから全然気になりませんが何か」
……大量に貰うだろうから、私のなんかやっぱり要らないんじゃないだろうかなどと本人に訊くわけにもいきませんし。
……美形がニヤニヤしています。
無性に血の巡りが良くなり、背中とか頭が熱いので私は扉を閉め明りを消し前方にダイブしました。
尻尾がベッドの角に当たって凄く痛そうな音がしましたが、忙しいので聞かなかった事にします。