猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

犬国奇憚夢日記10b

最終更新:

jointcontrol

- view
だれでも歓迎! 編集

犬国奇憚夢日記 第10話(後編)

 
 
 ~承前

 紅朱館の奥側にある階段はスロゥチャイムファミリーとごく一部の者のみが使うプライベートエリア。
 地域の公館として機能する建物だが、そこに生活空間が入り込む以上はそのようなスペースも必要なのだろう。

 あの夜から数日。

   ―― まだなにか挟まってる気がする・・・・

 そんな事を言っているマリアを捕まえて、マヤが盛んにからかう毎日。

   ―― ヒトの男はうまく使いなさい。でも決して溺れちゃダメよ。

 自らの経験を元に娘を諭すアリス夫人の言葉もまた確かだ。

   ―― 俺もミサも上手くやりますから。だから、リサねぇは兄貴と子供が出来るまでは・・・・

 タダはそう言いながらも満更じゃ無い様子ではある。

 女

 ただ一言のその重みと、不思議な束縛感から解放されたような高揚感をマリアは抱えていた。
 その気になればいつでも言って、自分が満足するまで事をさせれば良い。

 色事の小説に出てくるような、ヒトの男に溺れて自分を見失う女達の事など笑い話だと思っていた日々。
 でも、そこにある熱い悦びの中身を垣間見て、それに溺れないようにするなど・・・・

「飼われる側は楽かもなぁ・・・・」

 風呂上りのジョアンと身重の彼女を助け風呂から帰ってきたミサとすれ違いながら、マリアはそう一人ごちていた。

「マリちゃんどうしたの?」
「あ・・・・ リサ・・・・ ねぇさま」
「深刻な事?」

 ちょっと俯いているマリアの前。
 マリアより一足早く執事公室へと戻る途中のリサが立っていた。
 ジョアンと一緒に風呂へ入っていたのだろうか。
 腰のやや上ほどまで伸びている長い髪が所々濡れている。

「お母様は言われるの。ヒトに溺れちゃいけないって」
「それはきっと奥様が経験された事なのよ」
「でも」
「奥様とマサミ様の関係にきっとカナ様も色々思われていたはずだわ。だから、奥様は一定の配慮をしろと仰られてるのかも」
「ねぇさま・・・・ ヨシ兄さまをお借りするときってやっぱり・・・・」

 リサは笑みを浮かべたままだった。言いたくても言えない事だってある。
 どれ程の身分向上があったとしても、ヒトはやはり、ヒトなのだから。

「面白く無いなんて事無いと言えば、それは嘘よね。でも、仕方が無いって割り切らないとダメなの。そういうものだから」
「ねぇさま」
「だから、申し訳ないとか悪いとか思わなくても良いから。でも、大事に扱ってあげてね。タダ君もみっちゃんも」

 コクッと頷いたマリアは風呂場へと駆けて行った。その後姿を見送るリサ。
 種族を超えた女の闘いとでも言うのだろうか。何となく思う負けたくないと言う心情。
 嫉妬では無い歯痒さにリサは思わず身震いする。そして、深い溜息。

「リサねぇさま・・・・ちょっとこっちに来て」

 何となく立ち尽くしていたリサを呼んだのはマヤ。
 ジョアンの為に部屋を綺麗にしてアーサーと二人きりにする配慮だろうか。
 風呂支度を整えて向かう最中と言った感じだ。

「まーちゃん、どうしたの?」
「この間のアレ、実はまだあるんですよ」
「うそ!ほんとに?」
「ほんとですって。ねぇさま・・・・要りますか?」

 ニヤッと笑うマヤ。その目が雄弁に語る効果の程。
 思わず笑う二人の笑みはどこか邪悪な物があった。

「もらって良いの?」
「もちろん! 実はアーサー様がね、リサねぇさまとヨシ兄様にも・・・・って、買ってくれました」
「それじゃぁ・・・・」

 女二人してニヤニヤしながら話す事と言えば・・・・

「アーサー様が言われるに、ヨシ兄様も少し搾り取られた方が良いって言われて、ウフ!」
「じゃぁこの間のアレは・・・・」
「アレは私とジョアンでアーサー様に使ったときの残りです。で、こっちは」

 マヤがこっそりと取り出してリサへと手渡した小瓶には、たっぷりと詰まったピンク色の液体があった。
 これだけあれば、朝までギンギン間違いなしでは済みそうに無かった。

「こんなに有るんじゃ・・・・」

 困ったような表情を浮かべつつも笑っているリサ。
 マヤも笑いながら言う。

「マリちゃんも嫁入りまで時間が有るし、またお部屋に来るかもしれませんよ?そしたら・・・・」
「大変なことになるわねぇ」

 それでも何かに気が付いたリサがふとマヤの顔を真剣に見る。

「でもね、昨日奥様からきつく言われたの。薬を使っちゃいけないって」
「あ、私も言われました。でも、御館様が言われるには、ヒト同士とそうで無い場合を1週間以上あければ大丈夫だって・・・・」
「どういう意味だろうね?」
「私も良く分からないけど、でも、良いって言うんだから・・・・」

 ちょっと不安そうなリサの表情にマヤは言葉を切らざるを得なかった。
 自分とは違う立場にあるリサの不安とは何か。
 マヤは何となくそれを気が付いた。

 ごく稀に発生する生物相を違えた性行為による異常妊娠と、命に関わる流産の懸念。
 初産を経験していない女にとって、流産のリスクは今後に関わる重大な問題だ。
 万が一にもマリアがヨシの子供を妊娠しかけて流産した場合は、その責任をどう取るのか。
 それに何より、夫ヨシヒトの子供を生めない身体に自分がなってしまった場合、リサの存在理由根本に関わる危険性がある。

「ねぇさまは不安よね」
「うん・・・・ ごめんね。せっかく買ってくれたのに」
「え、あ、いや、私こそ・・・・ ごめんなさい。思慮が浅かったです」 「そんなこと無いよ。でも、まーちゃんも誰かを好きになったら・・・・『アーサー様以外好きになるなんて無いです!』

 ちょっとムキになって反論するマヤ。
 リサも苦笑いを浮かべる。

「でも、まーちゃん」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「そんなにむくれないの。それに、子供が出来なくなったらまーちゃん、ヒト買いに売られちゃうかもよ?」
「そんなの困ります!」

 動揺するマヤの不安そうな表情に思わず笑い出しそうになるリサ。
 ある意味、性に対して一番オープンなマヤの、実は一番不安でもある部分を直撃したようだ。

「じゃぁ、こうしましょ? それは、しっかり栓をしてどこかに隠しておこうよ。そしてね」
「そして?」

 ニコッと笑ったリサの表情に女の幸せが滲み出る。
 心のどこかにチクッとした痛みを感じたような気がするマヤは、何とはなしに視線を切ってしまった。

「大事な人にチョコをあげようよ。薬の代わりに」
「あ!そういえばもうすぐばんあれんたいだ!」
「バレンタインでしょ?」
「そうそう!ばれんたいん!」
「今日の昼間、納品に来た業者さんに頼んでおいたの。明日には来る筈よ」
「チョコレートですか?」
「そう、明日には作れるね」
「楽しみにしてます!」

 天真爛漫と言った表情で駆けて行ったマヤを見送り、リサはもう一度溜息をつく。  スロゥチャイムファミリーの子供達の中で、最年長のお姉さん役をしなければ成らないリサの、他人には言えぬ辛さでもあった。

「あ、ねぇさま」

 次から次へと客が出てくるな・・・・・・
 声を掛けられたリサの表情が僅かに曇る。
 せっかくの風呂上りなんだが・・・・

「・・・・みっちゃん。ジョアンは?」
「お部屋に戻られました。今夜はアーサー様と二人きりです」
「そう。じゃぁ夫婦水入らずね」
「でも、マヤねぇが・・・・」
「大丈夫よ。よく分かってるわよ。それより、これから部屋へ帰るんでしょ?」
「うん」
「マリちゃんお風呂へ行ったから。帰ってきたら遠慮なく部屋へ遊びに来てって伝えてくれる?」
「はい、そうします。ねぇさまおやすみなさい」

 アーサー夫妻の部屋から返ってきたミサとも手短に言葉を交わす。
 婦長とは朝から晩まで自分以外の事を考え続けなければならないポジションなんだろう。
 正直に言うなら、もうそろそろ疲れてきた頃合とも言える。

    ―― カナさんは本当に大変だったんだろうなぁ・・・・

 手の中にある小瓶へと目を落とし思案するリサ。
 何とはなしに立ち尽くしていると、風呂上りのアーサーが通りかかった。

「リサ」

 クンクンと鼻を鳴らすアーサー。
 イヌの鼻には誤魔化せない匂いがしている。

「例の小瓶、マヤから受け取ったか?」

 ちょっとはにかんでコクリと頷くリサ。
 音も無く足を運んでリサの傍らへとやって来たアーサーをリサは見上げている。

「でも、奥様が言われるには、あの薬は使っちゃいけないとキツク言われまして」
「だろうね。王都の研究機関でも使ってる媚薬だからな」
「媚薬?」
「あぁ。ヒトの交配紹介所で配ってるやつだよ。ヒトの女が飲むと確実に妊娠するそうだ。そして必ず女が生まれる」
「じゃぁ、それを男性に?」
「うん。おかげで朝までビンビンって感じだな。でもな、男の立場で言わしてもらうと」

 真剣な眼差しで見ているリサの視線にやや気圧されたアーサー。
 思わず笑ってしまいそうになるのだが・・・・

「実は凄くだるいんだ。血圧が上がるから酷く疲れる。この前も翌朝のヨシが酷くむくんでたろ?」
「えぇ」
「ま、ほどほどにな。そして、何があっても女は飲むなよ 薬屋がそう言ってた」

 もう一度コクリと頷くリサ。
 アーサーはすっとリサの後ろに回りこむと、両肩越しにそっと抱きしめた。

「でも、イヌとするなら大丈夫だそうだ。女が飲むといつもの3倍は感じるそうだが」
「ほんとに?」
「多分な。なんなら試してみるか?」

 甘く囁いたアーサーがリサの耳へそっと舌を這わす。
 ジョリジョリとざらついた感触が頭を突きぬけ、「アァ・・・」とリサは静かに嬌声を漏らした。

「どうする?」
「私を抱きたい? 久しぶりに」
「どっちでもいいよ」
「・・・・酷い人ね。抱きたいって言われたらウンって応えたのに」

 アーサーの腕を振り解いてそっと離れたリサ。

「ご主人さま。伽を立てたほうがよろしゅうございますか?」

 どんな風にも読み取れる深い表情で笑ったリサが、いつもより1オクターブは低い声で問いかける。
 下腹部の上で重ねられた両手の、その右手の指が左手のリングを隠していた。

「・・・・悪かった。冗談だよ」

 ニヤッと笑ってから目を閉じて首を左右に振る仕草は父ポールとそっくりだ。
 両手を広げ肩を窄め自嘲気味に笑う姿に、リサは僅かに安堵した。

「昔、カナさんの部屋へ忍び込んで力いっぱい押し倒したとき、カナさんが同じ事を言ったよ。ご主人様って」

 再び目を開けたアーサーが見たものは、目を細め冷たい視線で見るリサの姿だった。

「・・・・あの夜の後?」
「あぁ、そうだ。その時俺は自分のしでかした事の重大さにやっと気が付いた」
「・・・・私だけじゃ、満足しなかった・・・・の?」
「床上手なルハスの女達になれていたんだろうな。生娘一人とやったところで・・・・」

 ちょっと所ではない怒りの匂いがリサからしている。
 アーサーはリサの反応を見ていた。

「私だけじゃなくて、マヤもミサも、それだけじゃなくてジョアンだってみんな最初はあなたに・・・・」

 僅かに震えるリサの声が、アーサーに自分の見立てが狂っていた事を気が付かせた。
 リサは怒っているのではない。涙を見せずに泣いていた。

「この正月の事だ。王都の青年将校クラブの新年会でな、ヒトの女を何人抱いたか?って話題になった」

 プイッと顔をそらして外を見たアーサーは声色を換えて語りだす。

「そこらの木っ端貴族や豪商上がりの連中が言うには、どこそこの娼館に行ってだとかヒトの置屋の座敷でどうとか」

 ブラブラしていた両手を胸の前で組んで僅かに首をかしげている。

「恥も外聞もなくまぁ、ヒラヒラとひけらかしてやがった」

 やや不機嫌そうに髭をいじる仕草も父ポール譲りのものだ。
 僅かに離れて立っていたリサへと歩み寄ったアーサーは、自分が羽織っていたバスローブを脱いでリサの肩へ掛けた。

「で、俺ははっきり言ったよ。我が家に勤めるヒトの娘を3人手に掛けて、挙句にその母親まで手に掛けそうになって、そしてその夫で執事のヒトの男に射殺されかけ、挙句に・・・・」

 くるりと振り返ったアーサーの背中には大きな傷跡がある。
 見事に袈裟懸けの傷が残るそれは、絶命に至るほどの怪我ではないものの、その後の処置の悪さで消えぬ痕になっていた。

「実の父親がヒトに執事の為にと用意した炎の魔刀でざっくり切られ、駆けつけた父親にフルパワーでぶっ飛ばされて、傷口へ・・・・」

 その傷へそっと手を伸ばすリサ。
 深い傷に血行障害を起しているのだろうか。それとも、炎の魔剣で切られた火傷を癒すための処置だろうか。
 冷えた指先で傷跡をそっと触れると、底だけは周りよりも幾分体温が低く感じられた。

「そこへ掛けられた媚薬の効果で俺は一晩中悶絶してた。両手も両足も柱に縛られて、一晩中、血と精液を出し続けた」
「アーサー・・・・さま」
「そしてその後で勘当されて碌な手当てもされぬまま家の外へ放り出されたってな。そう包み隠さず話しをした」

 見事な毛並みの大きな背中が、リサには少しだけ小さく見えていた。
 自嘲気味にクククっと笑うアーサーの声は真底自己嫌悪といったふうだ。

「そしたら言われたよ、あいつらに。金持ち貴族のぼんぼんは遊び方も豪快だってな」

 再びくるりと振り返ったアーサー。
 さっきまでの冷たい視線が消えたリサは静かに悲しそうな笑みを浮かべていた。

「リサとヨシの子供が生まれ、その子が結婚して子が産まれ、何世代か繰り返していく間に、俺はやっと死ねると思う」

 アーサーの大きな手がリサの頬に触れた。
 かつて憧れたその手にリサは手を添える。

「その時まで俺は皆を守り続ける。何があっても約束するだから、安心して子供を作って、いや、生んでくれと言うべきだろうな」

 リサは僅かに頷く。

「カナさんを見ていたから、ヒトが生まれるってどれくらい大変か知ってるつもりなんだけど・・・・・・」
「それで・・・・ いいの?」

 アーサーのいつもの屈託の無い笑顔がリサを見下ろしている。
 どれ程手を伸ばしても届かなかった存在。
 マヤの為に遠慮して身を引いたつもりだったのだが・・・・

「あぁ、男は我慢すれば良いんだ。ただ、イヌの女だけはどうしようもない部分があるから」
「うん」
「それだけは分かってやって欲しい。頼むから」

 もう一度コクリと頷くリサ。
 アーサーもまた笑みを浮かべる。

「部屋でヨシが待ってるんだろ?風呂上がりで呼び止めてすまなかった。冷えてないか?」
「大丈夫」
「そうか。さくっと部屋へ行ってさ、あいつから子種を搾り取ってくれ。そして、マリアが行ってねだったらそれを使えば良いよ」
「うん、そうする」
「ただ、やっぱり女には飲ませないようにな」

 リサの肩に掛けていたローブをひょいと持ち上げて再び羽織ったアーサー。
 その鷹揚とした背中にリサは見とれている。

「冷えたならもう一度風呂へ行けよ。女の冷え性は大敵だっておふくろが言ってたぜ」

 笑いながらその場を後にするアーサーを見送って、リサはもう一度小瓶を見た。
 何も言わぬピンクの液体は瓶の中でユラユラと揺れていた。


************************************************************************************************************************


 翌日の晩。
 バレンタイン前夜に執事公室へと集まった娘達。
 ヨシはポール公のお付で風呂へ行ってるし、タダはヘンリーとチェスに夢中になっているはずだ。
 アーサーはエミールと共に、それぞれの妻を連れてフェルディナンド将軍の所へ出掛けている。
 いわば、偶然が生み出した千歳一遇のチャンス。

「チョコ溶けきったよ!」

 リサが揺する鍋の中。
 トロトロに溶けたチョコが揺れていた。

「ねぇさま。型が出来ました!」

 ミサとマリアが用意したのは大きなハート型のチョコレート型。
 マヤは丁寧に切り揃えられた包装紙を用意し、それから鍋一杯の雪を窓の外から集めて冷水を作っている。
 少しずつ出来上がっていくチョコレートのピース。
 やや小さめのそれをたくさん作る作戦だろうか。

    ガチャ・・・・

「なんかチョコレートの香りがと思ったら、やっぱりここだったわね」

 唐突にドアを開けて入ってきたアリス夫人の姿に娘達は凍りついた。

「なにビックリしているの?早く作りなさい。チョコが固まっちゃうわよ?」

 優しい笑みを浮かべたアリス夫人は作業を促した。

「懐かしいわね・・・・・」

 ツカツカと歩み寄ったアリス夫人が鍋の中を覗きこむ。
 完全に溶け切ったチョコレートの香りが鼻に痛いほどだ。

「昔はもっと質の悪いチョコレートだったのよねぇ。これは良い香りだわ」
「アリス様も昔は」
「えぇ、マサミとポールに作ったわよ。カナと一緒に」

 ウワァ~と言う驚きの表情で娘達がいっせいにアリス夫人を見ている。
 母であり領主であり。威厳有る姿のアリス夫人の若かりし青春の頃。
 マヤとマリアが目を輝かせていた。

「お母様はどのようなものを?」
「え?、うん、カナがデザインしてね。木の実とシュガーパウダーをかけたチョコレートね。隠し味入り」

 指で形を作って見せた立体型のハートマーク。
 かつてカナが古い紅朱館の小さなキッチンで作ったチョコレート。
 だが・・・・

「え?隠し味?」

 誰ともなくそう反応したアリス夫人の一言に、アリス夫人本人が一番驚いた。

「え?入れてないの」

 ポカーンと呆気に取られる娘達。
 アリス夫人はただ苦笑いを浮かべるだけだった。

「こんなタイミングなんじゃ、搾り取るだけ搾り取ったほうが良いじゃない」

 アハハ!と笑いながらあっけらかんと凄い事を言うのだが。

「あの、アリス様? 父さまにあげたチョコレートって・・・・」

 マヤが不思議そうに見ているのだが、アリスはチョコの溶けた鍋をリサの手から取って揺すっている。

「まぁ、入れるものといえば色々あるけどね。リサ、例の瓶はまだ持ってる?」
「あ、はい、持ってますが・・・・ と言うかアレは・・・・」
「持ってきなさい」

 ちょっと青ざめたリサが言われるままに持ってきた媚薬。
 マヤも興味津々に見ている。
 アリス夫人はその瓶を取ると鍋の中にタラーリと垂らした。

「こんなもんね。これ以上入れると壊れちゃうかも」
「壊れちゃうって・・・・男の人がですか?」

 不安そうに言葉を発したミサ。
 マリアも隣で不安そうだ。
 勿論、リサもマヤも不安げな表情なのだが。

「男がこの位で壊れる訳無いでしょ。 壊れるのはあなたたちよ」

 垂らした液体がチョコレートになじむようにゆっくりとかき混ぜるアリス夫人。

「リサ、ウィスキーはある?」
「あ、あります。ヨシさんはあまり飲まないから」
「そうなの。まぁ、それも良いかもね」

 リサが取り出したウィスキーの瓶を開けて、アリス夫人は気前良くドバッとチョコへ注ぎこみ、更にかき混ぜる。
 チョコレートの匂いに混じってウィスキーの香りが浮かび始め、娘達の顔が少し赤くなった。

「そろそろ良いかしらね」

 マリアとミサが用意した型へ流し込むアリス夫人もニヤニヤと笑いながらの作業。
 当然のように娘達の目はキラキラしているのだが。

「あの、奥様? 奥様が作られたチョコレートは」
「マサミとポールにだけね」
「そうなんですか」
「そうよ、どうして?」

 不思議そうなミサは固まりつつあるチョコレートを均しながらシュガーパウダーを作るべく砂糖の粒を砕いていた。

「だって、その頃の紅朱舘はマサミさまとポール様以外にも・・・・」
「その人たちの分はカナが作ったのよ。勿論、まともな作り方で」
「じゃぁ、こうやって隠し味入りのは・・・・」

 ニコッと笑ったアリス夫人。

「本当に好きな人専用ね」

 型へと流し込まれたチョコレートに雪で作った冷水をかけるマヤ。
 固まっていく過程で割れてしまう事もあるようだが、今夜は割合うまくいったようだ。
 しばらく待って型から抜いたチョコレートにシュガーパウダーをまぶし出来上がり。

「さて、今夜はしっかり搾り取ってやりなさい」

 ちょっと怖い笑みを浮かべる娘達がウンウンと頷いている。

「あの、奥様もその夜は・・・・」
「そりゃぁもう色々やったわよぉ~。体中にチョコレート塗ってみたりね」
「え?ほんとですか?」
「えぇ、勿論。私とカナと両方塗ってね。どっちにする?とかね」

 ケタケタ笑うアリス夫人の昔話。
 ふと、遠い目をして笑みを浮かべて、そして目を閉じたアリス夫人の瞼の裏には何が写っているんだろうか?

「でも、明日はちゃんと起きるのよ?」

 その一言に苦笑いを浮かべるミサやマリア。

    ―― この子達は朝起きるのが苦手ね。

 かつてカナはそう言った事がある。
 どんな時でも朝はキチンと起きていたカナ。
 それ故に、あの初めて起きられなかった朝は皆で大騒ぎしたのだが・・・・

「初めてチョコレートを作った年だったかしらね。カナと二人して明け方近くまでマサミを搾り取って遊んだ夜の次の朝。私もさすがに起きられなくって」

 近くに有った椅子を引き寄せ腰を下ろしたアリス夫人は遠くを見ている。

「さぁて、あなた達、喧嘩しちゃダメよ。良いわね。さぁ行きなさい」

 涼やかな笑みで皆を促したアリス夫人。
 誰が最初に飛び出すかと思っていたら、程なくしてミサが自分の分のチョコレートを持って部屋を飛び出していった。

「ねぇさま達も頑張ってね♪ 奥様、おやすみなさい!」

 天真爛漫のミサが居なくなると、マヤもまた自分のチョコレートを持って部屋を出る。

「さて、アーサー様とジョアンが帰ってくる前に色っぽくして待ってよっと♪ 奥様、ありがとう御座いました」

 バイバイ!と手を振って居なくなったマヤ。
 部屋にはリサとマリアが残っている。

「マリちゃん、ベットメイクするから手伝ってくれる?」
「あ、勿論です」

 執事公室の大きなベットに大きな大きなベットマットを2枚敷いて、その上から厚手のシーツを被せるリサ。
 長丁場にも耐えられるようにベットサイドへは水差しを並べ、手ぬぐいとオレンジを並べておいた。

「リサねぇさま」
「なに?」

 椅子に腰掛けたアリス夫人はマリアとリサを見上げている。

「どうしたの?」

 マリアの思いつめたような顔がただの相談事でないと察したリサ。
 キッチンへと行きカップを三つ用意したアリス夫人は、マリアとリサへ一つずつ手渡すとサイダーを注いで黙ってみていた。

「なにか心配事?」
「あの」
「うん」

 ちょっと俯いたマリアは今にも泣き出しそうな声だ。

「どうしても好きな人が居て、でも、その人には絶対に手が届かないって時は、どうやって諦めれば良いと思いますか?」

 薄々は分かっていた事だが、それでもここまで直球勝負で来るとは予想外だったリサ。
 僅かにうろたえた表情を見せたのだが、一瞬視線を送ったアリス夫人の表情が意外にも楽しそうだった事の方に驚いた。
 そして、静かにウンウンと頷いて、娘マリアをじっと見てからリサへと視線を送っている。
 その目は明らかに・・・・リサの対応力を見極めようとする目だった。

「マリちゃん・・・・ ヨシさんの事が好き?」

 マリアは言葉無く頷いた。
 僅かに震える肩や尻尾の飾り毛がリサには痛々しいほどだ。

「・・・・昔ね、まだ子供だった頃、マサミさまに教えていただいた事があるの」

 マリアはやっと顔を上げた。
 柔らかく笑みを浮かべるリサの表情は慈愛に溢れている。
 勝ち誇ったように言われるかと思っていたマリアには、リサのその表情が意外な物に見えている。

「ヒトの世界にはレディーファーストって文化があるんですって」
「れでぃふぁーすと?」
「そう。女性優先思想って言うものだそうなの。つまらない事だろうけど、例えば男性がドアを開けて女性が先に通るとかね」
「この世界でも普通の事ですよね」
「でも、マサミ様が言われるには、それは特別な事だったそうなの。何でかと言うと、女には人権が無かったからなんですって」
「え?そうなんですか?不思議です」
「そうね、私も不思議だったわ。だから、マサミ様は私にもわかりやすく教えてくださったの」

 マリアはウンウンと頷いている。

「女に人権が無かった時代ってね、戦乱と騒乱に明け暮れた時代でもあったそうなの。その時代は・・・・」

 言葉を切ったリサが振り返った先。
 そこにはいつもヨシが整備する重火器の保管庫があった。

「その時代は男が戦役に行くのは普通の出来事だったそうなのね。権利を得る代わりに兵役の義務に付いたの。でも、女には兵役の義務が無かった」
「それはこの世界でも同じですね」
「そう。だから、女は権利を認められなかったのね。社会的に。だから変わりに、兵役に出る男たちは女を大事にしたんだって」
「それは何でですか?」
「だって、子供を生めるのは女だけだから」

 あ、そうか。
 そんな表情のマリアにリサは畳み掛ける。

「私の存在意義の根本はね。御館様に命じられた婦長でも、奥様にお許い頂いた執事さまの妻でもないの。それは」
「ヨシ兄さまの子供を生む事。そうですよね」
「そう。それだけなの。そして、ほら。交配紹介所に登録されたりしたら、見知らぬどこかのヒトの女と子供を作るかもしれない」

 戦役で死ぬ事が美徳とされるイヌの社会では、家長は長男が継ぐものとして認識され、不問律として国内に蔓延していた。
 近年の雑種交配の進展により、純潔血統でなくとも家名を継げる世になると、その傾向は更に強くなったようだ。
 常に飢えと貧困と戦に晒される社会のいびつな現実。
 他の種族よりも家名を大切にするイヌの社会に有って、まずは家を残すことが重要な任務と成れば、家長はとにかく子供を作る努力をする。
 そして、生まれてきた子供達の長男が家督を継ぐのだった。

 それはつまり、リサよりも先にどこかの女がヨシの子を産んだら、その子はスロゥチャイム家執事のマツダ家を継がねばならない。
 そして必然的にその子は次期執事として教育を受け、スロゥチャイム家に入ってくるかもしれない。
 それを嫌ったからこそ、リサはアリス夫人やポール公に大切に育てられ、マサミやカナもまた様々な事を教えたのだった。

「私はその為に居るの。私にとっての現実はこれなのよ。だからね」

 自分の胸に手を当てて目を閉じるリサ。
 マリアは次の言葉を待っていた。

「届かない思いを持っているのはあなただけじゃないのよ。私やあなただけじゃなくて、この世界の半分は諦める事で成り立っているのね。そして、残りの半分は絶望的な現実を受け入れる勇気と覚悟」

 瞳を開けたリサの表情は笑ってはいるのだが、それは口元だけ。
 優しくも哀しい眼差しの瞳には笑みが無かった。

「だからこそ、遊ぶって事が許されるのよ。働いてばかりじゃ世界は成り立たないでしょ。今を楽しむ事もきっと重要なのよ」
「リサねぇさま・・・・」
「カナさまが亡くなる前、どれ位かしら・・・・多分3年位前だったと思う。カナ様は言われたわ。恨んでいたり嘆いていたり、そんな非生産的な事で時間を潰すなんて勿体無いから。だから誰も恨まないし自分の事って割り切るし。だから」

 リサの目がアリス夫人へと注がれる。
 アリスも釣られて母アリスを見ている。
 その視線にアリス夫人は笑むだけだ。

「カナ様はアリス様と友達で居られたのね。恨まず妬まず羨ましがらず」
「リサ」
「はい」
「上出来よ。あなたも良い女になったわね。カナもきっと喜ぶわ」

 椅子から立ち上がったアリス夫人はそっとリサへ歩み寄ってギュッと抱きしめた。
 そして、手を広げ娘マリアまでも抱き寄せた。

「あなた達は私とカナが歩いたのと同じ道を歩んでいるの。でもね、私は何もアドバイスできないし、あれこれ口も挟まないわ」
「お母さま」
「私やカナが何度も長い夜を過ごして、そして、そこで経験して得た事で理解できた事は言葉じゃ説明できないものよ」

 両手を解いて一歩下がったアリス夫人。そのまま再び椅子に腰掛けると壁に眼をやる。
 そこには、マサミとカナの夫婦が丁寧に刺繍された大きなタペストリーが壁に掛かっていた。

「リサもマリアも。今は理解できなくても覚えておきなさい。生きると言う事のつらさは楽しさの裏返しなのよ・・・・

************************************************************************************************************************

 明け方近くまで続いた熱いひと時の残り香がまだ部屋に漂っている紅朱館のマサミとカナの部屋。
 何となく目を覚ましたアリスが周囲を見渡すと、グッタリとしたマサミの腕に共に抱かれていた筈のカナが居なかった。
 時計の針はそろそろ8時を指そうとしている。
 そろそろ朝食の時間なのだが・・・・

「マサミ!マサミ!」
「アリス様 もう1ラウンドですか?」

 半分寝ぼけたマサミはそう答えた。
 滅多に見られないマサミのその無防備な姿に、アリスは思わず笑い出した。

「あなたもやっぱり人間ね。安心したわ」

 まだ眠そうなマサミだが、主が起き上がった以上は寝てるわけにも行かない。
 何とか体を起すのだが・・・・

「マサミ、カナが居ないの。探してくるからゆっくりしてなさい。いいから」
「申し訳ありません」

 げっそりとしているマサミを残し立ち上がったアリス。
 疲れ果てて気を失うように眠ってしまったせいだろうか。
 体中あちこちに残っていた性と愛の交じり合う体液が、見事に水気を失って固まり、ガビガビのゴワゴワだ。

 それだけではない。
 自分の体からもマサミからも。勿論部屋の中にも。
 鼻を突くような酸っぱい匂いとチョコレートの甘い匂い。
 そして、汗の臭い。
 体には自分で塗ったりカナに塗られたりしたチョコレートがまだ残っていて、マサミの嘗め残した後まであった。

「まずは風呂ね」

 手近に有ったガウンを羽織って階下へ下りて行くと、フロアからは朝食の良い香りがしていた。
 キックとメルが気を利かせてくれたのかな?
 そんな風に思いつつだらしない姿で出て行くのが憚られたアリスは、逃げ込むようにそそくさと風呂場へと向かった。
 すると、脱衣所にはアリスの着替えが既に用意されている。
 それだけではない。
 小さなメモ用紙に走り書きされたカナの文字。

   『どうぞごゆっくり』

「カナ・・・・」

 愛の営みによって染み付いた臭いはそうそう簡単に落ちるものではない。
 源泉からダイレクトインで常に並々とお湯の注がれた湯船へ入るのも憚られるほどだ。
 湯へと臭いが染み出せば、ここのお湯を全部入れ替えねばならない。

 シャンプーを手にとって身体を洗い出せば、溢れくる泡に包まれ柑橘系の香りが風呂場に満ち行く。
 その香りの中に、アリスはごく僅かながらカナの体臭が残っているのを見つけた。
 まったく油断しきって眠ってしまったアリスを他所に、カナはキチンと起きて仕事に入ったのだろうか。
 自分とは決定的に違う責任感の強さ。
 ヒトと言う生物の力強さにアリスは驚くばかりだ。

 朝だと言うのに髪まで洗い、全身さっぱりしたアリスが風呂から出て来ると、そこにはキックが待っていた。

「あ、アリス様おはようございます」
「どうしたの?」
「はい、そろそろアリス様がお出になられるはずだからと婦長様が言われ・・・・」

 ニコッと笑い着替えを手伝うキック。
 アリスはちょっとだけ惨めだった。

「キック。カナは?」
「あ、今はキッチンです。まもなく朝食の支度が整います」
「あなた達は?」
「申し訳ありませんが先ほど頂きました。カナさんが支度されていまして」
「そうなの・・・・」
「アリス様はお疲れですから遅いでしょうと」

 もう一度ニコッと笑ったキックだが、その後で表情が僅かに沈んでいる。
 何を言いたいのか。それが分からぬほどアリスも子供ではない。

「カナは・・・・すごいわね。私はまだまだ子供だわ」
「そんな事ありません。カナさんは時間に正確なだけですよ、きっと」

 きちんと着替えて椅子に腰掛けたアリス。
 キックはその後ろに立ち、長い髪をタオルドライした後でブラシを入れた。

「キック。カナは普通にしてる?」
「と、言いますと・・・・」
「いや、眠そうだったり、辛そうだったり」
「そういう事でしたら・・・・たぶん」
「たぶん?」
「幸せそうです」

 肩甲骨まで伸びた髪に少しずつ櫛を入れ、手早く梳いて風を入れ髪を乾かすのは知恵の一つだろう。
 最近登場した魔洸式の猫井製ヘアドライヤーを欲しがったアリスやカナだが、まだまだちょっと手の出ない高価な品だ。
 マサミはいずれ必ず買える様にしますよと言っているのだが。

 最近のマサミやカナを見ていると、明らかに働きすぎと言う印象を持っていたアリス。
 その姿は嬉々としてるようにも見え、また、悲壮なようにも見える。

「マサミ様もそうですけど。やっぱり違うんですよ、私たちイヌとは」
「・・・・そうかもしれないわね」

 僅かな沈黙。気不味い空気。
 その場の雰囲気を変える気転の良さをキックはようやく身に付けつつある。

「実は先日、レーベンハイトさんがボソッと言ってました」
「なんと言ったの?」
「ヒトは長生きしないから。イヌの半分も生きないし、ネコの10分の1程度だから」
「だから?」
「だから・・・・ 生き急いでるって」
「生き・・・・急いでる・・・・」
「私たちが300年掛けて経験する事をマサミ様やカナさんは60年で経験し学ぶんだそうです」

 鏡越しにニコッと笑うキックの顔が心なしか寂しげに見えたのは、アリスの心の持ちようだからだろうか。
 何となくそう見えると言う事は、自分の心が弱くなっているんだろう。
 アリスはその寂しげな笑みの意味をボンヤリと考えていた。

「リコも上手い事言うわね」
「本当ですね」

 僅かな沈黙。キックは黙々と髪を整えている。

「それを考えると、私達の生涯と言うのは空虚で薄いものなのかしら」
「それはどうでしょうか。学の無い私には分かりません。でも、一日の重さはヒトの方が重いでしょうね」
「・・・・そうね」
「さぁ、アリス様できましたよ。カナさんが朝食を整えている筈です。行きましょう」
「うん、その前に、ちょっと部屋へ戻るわね。すぐに行くから待っているように伝えて」
「はい」

 立ち上がったアリスは平然と階段を上がっていった。キックはその後姿に会釈した後でホールへと歩みさる。
 少しずつ威厳と言うものを身に付けつつあったアリスの、それでもどこか頼りない部分を埋める存在。

     ガチャリ

「マサミ・・・・ 起きてる?」

 Zzzzzzzzzzzz・・・・・・・・・・

「マサミ」

 Zzzzzzzzzz・・・・・

「・・・・・・・・・・・・」

 Zzz・・・・「あれ? あ アリス様。いつからそちらに?」

「今来たところよ」
「それは失礼しました」

 起き上がったマサミもまたあちこちにチョコレートの痕があった。
 ややふらつく頭をパンパンと叩き、何とか強引に目を覚ます。

「すいません、随分寝かせていただきました」
「良いのよ、あなたも疲れてるでしょ」

 力無く笑うマサミがアリスを見る。
 その表情にアリスは悲壮なまでの忠誠心を垣間見た。

「あなた達は生き急ぐのね。本当に」
「・・・・アリス様 どうかされましたか?」

 アリスは静かに笑った。
 その姿にマサミはアリスの心中を読み取る。

「ヒトの世界の犬は10年ちょっとで死んでしまいます。でもヒトは犬と暮らしました。そして」
「言いたい事は分かるわよ。この世界と裏返しなのよね」
「そうです。私達の世界の犬がそうだったように、私たちは子孫と思い出を残すんです」

 思い出・・・・
 アリスの顔がこれ以上なく悲しいように見えるマサミ。
 しかし、これは、これだけは、主の側が乗り越えていかねばならない問題だ。
 ヒトの世界のペットロスシンドロームの裏返し。
 大切な存在になった者を失うのは、例えそれがどのような種族であっても辛いのだろう。

「私たちは・・・・ この世界のイヌの5倍の速度で老いながら、5倍濃い人生を送るんでしょう」
「マサミ・・・・」

 これ以上なく寂しそうなアリスの表情にマサミもまた視線を落とし、寂しそうな溜息を一つついた。

「昨夜のようなひと時を越せるのはあと10年でしょう。20年経てば私の身体は老いさらばえてしまいます。30年経てば・・・・」

 顔を上げたマサミの真剣な眼差しがアリスを見ていた。

「30年経てば、私の身体はアリス様に悦んで頂く事すら出来なくなるでしょう。そして40年後。私は死を覚悟しなければいけません」
「あと40年・・・・」
「でも、アリス様はまだまだお若い姿のまま。そして、昨夜のようなひと時をお求めになるでしょうね」
「その時、あなたはどうするの?」

 マサミは首を左右に振って目を閉じた。
 僅かに開いた唇の右隅だけを、まるで引きつるように歪ませ笑う。

「アリス様の。いや、主人の命に従うまでです。使えぬ従者は捨てられるでしょう。それも、覚悟しています」
「そんな事するわけ無いじゃない! 朝からふざけた事言わないで!」

 少しだけ怒気を含んだアリスの言葉。
 しかし、マサミには笑う余裕すらあった。

「私もそれを願っています。ですから、妻と同じく愛する主の為に、私は役に立ち続けないといけない」
「例え役に立たなくとも、例え立ち上がれなくとも。マサミ、あなたはこの家の恩人なのよ」
「失礼を承知で申し上げます。私をそのように扱ってくれたとしても、でも、私の子や孫や子孫達はどうでしょう。アリス様の孫の孫の世代になったとき、もし私の子孫がここ紅朱館でご奉公に就いていたら。そうですね、15世代くらい後でしょうか・・・・」

 マサミが語る言葉の意味をようやく理解したアリス。
 そっとベットサイドに歩み寄ってマサミの隣に腰を下ろした。
 優しさに溢れたマサミの眼差しにアリスは悲しくなる。

「子供達の読むおとぎ話の中ならば問題の無い話でしょう。ヒトの世界から落ちてきたヒトとイヌは末永く幸せに暮らしました。それでお話は終わりです」

 目を閉じたマサミは薄っすらと笑いながら首を振る。

「でも、ヒトはイヌほど長生きしません・・・・ 残されたイヌはどうするのでしょうか。イヌだけではありません。ネコはさらに長生きだそうですね。先日、リコさんが言われてました。何度ヒトを失っても慣れぬものだと」

 ペットロスシンドローム。
 種族を超えた愛情が問答無用で切り離されてしまう辛さ。
 それを心配するマサミの、その一番肝心な部分が何であるかをすぐに気がつくほどアリスはまだ人生経験が豊かではない。
 だが・・・・

「それまでに、私はこの地域だけでも変えてしまうから。ヒトがイヌと対等に生きていける社会にするから・・・・」

 アリスの両手がマサミの顔を捕らえ、2人の顔がフッと近づく。

「アリス様。そのような危険な事はおやめください。イヌの社会から抹殺されてしまいます」
「それでも良いわよ。誰かが始めなければ、世界は変わらないから。あなたが始めなければスキャッパーが変わらなかったように」

 アリスはそのままマサミに口付けした。
 マサミの唇に吸い付いたアリスが浮かべた表情に、ただマサミは凍りつくしか出来なかった。
 かつて、世間知らずのお嬢様だった箱入り娘が、いつの間にこれほど深い眼差しを出来るようになったのだろうか・・・・

「・・・・カナが風呂を用意していてくれたわよ。風呂に入ってさっぱりしなさい。出たら朝食にしましょう」
「仰せのままに」


************************************************************************************************************************


 僅かな身振り手振りを沿えて静かに語っていたアリス夫人の言葉は唐突に途切れた。
 何を思っているのか。窓の外を眺める眼差しには深い苦悩が見える。

「あなたにもまだ、わからないでしょうね。でも・・・・ マリア。ヒトが生き急ぐ事を止めてはダメよ。私たちとは違うのだから」

 マリアはただ頷いた。
 生き急ぐという事の意味はなんだろう?
 ちょっと混乱しつつも、しかし、母アリスがそう言うのであれば、それはきっと真実なのだろう。
 どれ程考えても答えが出ないなら、それは考えるのではなくて感じる物なのだ。
 かつてマサミはそう教えていた。

「お母さま・・・・」
「まぁ、じきに分かるわよ」

 不思議そうなマリアと静かに笑うアリス夫人。
 その対比をリサは単純に面白いと見ていた。

「さっきリサが言ったレディーファーストって言う文化わね、この世界でヒトを大切にするって事でもあるのよ」
「え?」
「さて、お邪魔な母親は消えますか。あなた達、程ほどにしなさいね」

 静かに部屋を出て行ったアリス夫人の後姿に一礼を送るリサ。
 その姿をマリアは眺めていた。

「マリちゃんがヨシさんをどう使おうと私は何も言わないわ。でも、私の務めを果たす位には残しておいてね」
「リサねぇさま・・・・」

 コクリと頷いたマリア。
 リサは笑っていた。

「どうせだから・・・・ もうちょっと悪戯しようか!」
「え? 悪戯・・・・ですか?」

 ニコッと笑ったリサは居間のテーブルにチョコレートを並べて、走り書きのメモを残した。

    ―― マリちゃんと風呂に行ってくるから、部屋で待っててね

「ねぇさま?」
「こうしておけばヨシさんは」
「食べますね♪」

 部屋の明かりをちょっと弱くして薄暗くしたリサ。
 何をやらかすのか?とマリアが眺めている間に、紅朱舘正門へ馬車が帰ってきたようだ。

「マリちゃん、こっちこっち!」
「え?え?え?」

 どぎまぎと慌てふためくマリアをリサは寝室へ押し込めた。
 ここに隠れていましょ。
 そう言わんばかりのリサがニコニコしながら履物を脱ぎ始めた。
 マリアもその意図を理解して服を脱ぎ始める。
 身軽な格好になった二人が息を潜めていると、馬車を出迎えた筈のヨシが部屋へと帰ってきた。

「お~い アーサーからお土産貰ってきた・・・・・ って、あれ? 留守か?」

 部屋を見回すヨシはテーブルの上にチョコレートと置手紙を見つけた。
 ヨシはメモを手にして読んでいる。

「そういうことか・・・・」

 よっこいしょ・・・・
 掛け声をあげながら立ち上がったヨシは小さなキッチンの中へ行き、父親が愛用していたグラスを取り出した。
 窓の外は雪。ヨシは窓を開け雪を手に取りグッと固めてグラスへ落とす。
 かつてマサミが良くやっていた、冬場のオンザロックの作り方だ。
 大きなサイドボードの中から取り出した高級な切子の瓶はスキャッパー名産のウィスキー。
 シングルモルトの名作と呼び声高い、その名も『アリス』と銘打たれた琥珀の液をグラスへ注ぐ。

   カランカラン・・・・・

 キッチンのカウンターへもたれ窓の外を見るヨシ。
 再び降りだした細雪は春を待つ氷雪にも見える。
 何を思うか物憂げな眼差しがジッと外を見ている。

「ヨシにぃさま、気がつかれるかな」
「案外鈍感だからね」

 声を潜めて話すリサとマリアはドアの隙間からジッと見ていた。

「・・・・もういっぺんシャワーでも浴びておくか」

 ボソッと呟いたヨシがシャワールームの戸を開けて中へ消えると、二人は部屋から這い出てくる。

「ねぇさま、ヨシにぃさま全然・・・・」
「仕方が無いわねぇ」

 リサは苦笑いするしかできなかった。

「マリちゃん、ちょっと持ってて」

 テーブルの上のチョコレートを手に取って渡すリサ。
 受け取ったマリアが見ている前で、リサはワンピースの前をはだけさせ、ブラジャーを外す。
 その中から出てくるのは桃のように膨らんだ二つの乳房。

「マリちゃんここに挟んで」

 二つの乳房を持ち上げるように胸の下で腕を組んだリサ。
 ほんのりピンクの乳輪に挟まれたチョコレートが揺れている。

「ねぇさま、それ、私もやる!」

 マリアはタタタ!と駆けて行ってベットサイドに隠した薬入りのチョコレートを持ってきた。
 あららと失笑するリサの前で同じポーズになったマリア。

「ヨシにぃさま。どっちを先に取るかしら?」
「そうねぇ・・・・」

 しばらく思案したリサは自分の胸に挟んでおいたチョコをヒョイと持ち上げた。

「たぶんこれが正解ね」

 リサをキョトンと見ていたマリアは、リサが自分の胸に挟まれていたチョコと交換するのを不思議そうに見ていた。

「ねぇさま。根拠は?」
「特に無いよ。でも、多分。これで正解だと思う」

 ンフフ!と笑うリサ。
 マリアもつられて笑った。

   ガチャリ

 唐突に開いたシャワールームのドア。
 リサはビックリしてヨシに背を向けた。
 マリアもまた背を向けてしまう。
 腰の低い位置にタオルを巻いたヨシが頭を拭きながら出てくると、二人は肩を僅かに震わせて笑うのを堪えていた。

「あれ?いつの間に?」
「いつの間にじゃなくてさぁ」
「そうですよにぃさま」
「え?」
「ちょっとこっちに来て、そのままで良いから」

 リサに呼ばれちょっと警戒しながら近づくヨシ。
 手を伸ばせば触れられるところまで来て足を止める。

「何隠してる?」
「い・い・も・の!」

 せーの!
 掛け声を掛けて同時に振り返ったリサとマリア。
 胸の谷間に挟まれたチョコレートへヨシの目が行く。

「おいおい・・・・」

 頭をボリボリと掻いて苦笑いするヨシ。
 その仕草を見ながらリサとマリアは笑っているのだった。

「ねぇ、どっちが良い?」
「そうそう!にぃさまはどっちが良い?」

 どーんと胸を見せ付けてなお笑う二人。

 ヨシはジッと見ながら品定めしているように思案する。
「これ、絶対どっちかに薬入ってるだろ!」
「にぃさま、さすがです!」
「ふふん! で、どっちだと思う?」
「ヒトの鼻じゃ匂いでわからないからな。おまけにウィスキーの匂いがするし」

 両手を伸ばして二人を抱き寄せるヨシ。
 ギュッと抱き寄せられて乳房がチョコレートを押しつぶすと、塊の周りからゆっくり溶け始める。

「じゃぁこっちから!」

 何かの根拠が有ってかヨシはマリアの胸に向かって顔を埋めた。
 パキリと音を立てて割れるチョコレートを口に入れつつ、舌先でマリアの敏感な先端をペロリと嘗めてやる。
 僅かに触れた舌先にザラツキ感にマリアの背筋がピンと伸び、尻尾の先端まで一直線になった。

「要するに、こうしたいんだろ?」

 おりゃ!とばかりに二人を抱えあげたヨシがベットルームのドアを蹴り開け、大きなベットの上に二人を放り投げた。
 キャ!と短く悲鳴を上げたリサだが、ベットの上でバウンドしたマリアは、楽しそうに空中で体の向きを変えるのだった。

「にぃさま! してー! してー! おねが~い!」

 ベットに着地すると同時にマリアはリサのバックポジションを取った。

「あ!ずるい! マリちゃんずる! あは!」

 両腕を後ろに引っ張られて両手の自由を奪われたリサ。
 マリアの力は女とは言えイヌのそれだ。
 頑張ったところで振りほどけない力なんだが・・・・

「あぁぁぁぁ!!! くすぐった~~いぃぃ!!!」

 胸の谷間に挟まったチョコレートの周りを舐めるヨシの舌先。
 乳首がビンビンに立っているのを見ると、リサは満更じゃないようだ。

「こっちは?」
「ンァア!!」

 ヨシの指がリサの秘裂をそっとなぞると、リサは言葉にはならぬ声で嬌声を上げた。
 トクトクと溢れ出てくる蜜の垂れる様がヨシの理性を狂わせる。

「あ!ねぇさま震えてる!」
「あぁぁぁん! もう!」

 両足をしっかりと掴まれたリサが観念して足を開けば、茂みの奥の密かな泉が弱々しい光を反射して艶かしく誘っていた。

「観念しろよぉ!」
「ヤァ! チガウチガウ!! そっちじゃぁぁぁぁぁ!!!!」

 足を広げたリサの膝を折って、そのままマリアの足をも広げてしまうヨシ。
 上下に段になった蜜まみれの貝がうっすらと開きながら、タラリタラリと涎を滴らせている。
 ヨシの舌は下側にあったマリアの裂け目をなぞりつつ、妻リサの裂け目へそっと指を潜り込ませるのだった。

「アァァアア!!! ンァンァンンンンンン!!!!! アァ! だめぇ!」
「あん! あぁぁぁぁぁ! にぃ! ぃさま!!!」

 しばらく弄っていたヨシが何を思ったか、マリアの割れ目を舐めていた舌を引き抜いた。
 舌先に残るのはやや白濁した酢蜜の泡。
 二人の体の上を這い上がって、リサとマリアの顔へ近づく。

「これ、マリちゃんのね!」
「え!あ!もう! 恥ずかしい・・・・」

 ほれ!とでも言いたげなヨシの舌先へリサとマリアの舌が近づく。
 なんとも言えない淫らな匂いが3人の鼻に届くのだった。

「んあぁぁ!」

 ヨシの舌先へ意識を集中し、無防備に油断していたリサの泉へ再びヨシの指が飛び込んだ。
 そのまま泉の中を泳ぎまわる乱暴な魚。

 目を閉じ快感に顔を顰めるリサが搾り出すように言う。

「よ! よしさ・・・・ あぁぁ! マリちゃ・・・ 2度目だから そっと! んあぁぁ! そっとね!」
「わかったわかった。そう言うわけだから」

 愛するリサの中を中指で弄りながら、ヨシのもう一つの中指がマリアの中へと侵入していく。
 出来る限りそっと押し込めたはずなのだが・・・・

 プチッ・・・・

「あ゙!」

 カタカタと音を立てて震えだすマリア。
 ヨシは気にせず両方の泉へ指を沈めていく。

「きゃあぁぁぁぁ、あんっ、あんっ、ああぁぁっ・・・・」
「んふっ! あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙・・・・・・ !!!!」

 顔を起したヨシの目に入ってくるのは、つかみ所の無い快感に翻弄されるリサの表情と、痛みに耐えるマリアの顔だった。

「マリア! 覚悟しろよ! それ!」

 既にビンビンに立ち上がっているヨシの愛情棒がマリアの中へねじ込まれていく。
 半分引き戻して、勢い良く再突入すると、マリアはリサに抱きついて痛みに耐えていた。

「にっ! にぃさま・・・・ 痛い!」
「ヨシさん! もっとそっと!」
「無理!無理!アハハ!」

 2人分の重量を受けるようにマリアの背中まで手を回したヨシは、なんら躊躇することなくピストンを開始した。
 淫蕩な水音が漏れ出し、マリアは言葉ならぬ声を上げている。

「んあ! んんんんんんん!!!!!! あぁぁぁぁ きゃあぁぁぁぁ、あんっ、あんっ、ああぁぁっ・・・・ !!!!!!」

 クチャクチャと言う音がどこか遠くのほうから聞こえてくるマリア。
 焼け付く鉄の棒でも打ち込まれたかのような痛みの中に、どこか妖しい光を放つかのような快感が顔を見せていた。
 それは少しずつ痛みを叫ぶ冷静な顔と場所を入れ替わりながら、自分の中になんとも表現できない満足感をもたらし始めている。

「んふっ! あぁぁん・・・・・」

 しばらく突き上げていたヨシが気まぐれに全部引き抜くと、マリアは僅かに身体を震わせて肩を窄めた。
 2人分を抱きしめていた両腕が緩むと、真ん中の餡子だったリサがクルリと体の向きを代えてマリアを抱きしめる。

「マリちゃん どう? いいもんでしょ?」
「ねぇさま・・・・ いつもこんなに愛されて」

 トロンとした眼差しでリサを見上げるマリア。
 そっと両手でその乳房を揉みしだくリサの顔が急に変わった。

「今度はこっちだ」

 グチョ!
 そんな音が聞こえたリサとマリア。
 フン!フン!と息も荒く腰を振るヨシの吐息にあわせ、リサは喘ぎ声を漏らしながら背骨を撓らせる。

「ねぇさまは本当に愛されてますね 羨ましい」

 リサの腰を引き上げて一番ストライドが大きくなるポジションにしたヨシ。
 苦しそうな声を漏らして潰されそうなリサをマリアが支えていた。
 2人の胸の間にあるチョコレートが溶けているのも気がつかず、ヨシは尚も突き続ける。

「リサ! いくよ! いくよ!」
「ん! うん! んあぁぁぁ!!! あぁぁぁぁん!」

 一番奥深くまで押し込まれたヨシのペニスから熱い物が吹き出ている。
 全身の力が抜け切ってグッタリとしたリサの体がマリアにもたれ掛かっていた。

「ねぇさま・・・・ ほんと幸せそう・・・・」
「・・・・ふふん 次はあなたの番ね」
「でも」
「大丈夫」

 マリアをギュッと抱きしめたリサがベットの上でくるりと向きを変えた。
 一番下敷きの位置に入ったリサがマリアを横にどけると、2人の胸で溶かされたチョコレートが見事に張り付いている。
 まるで開きにされた魚のように同じポーズの女が2人。
 胸の谷間は2人ともチョコレート色だ。

「もう一個が溶けちゃったよ」
「にぃさまが溶かしたのね!」
「きれいにしてね♪」
「ね!」

 ニコっと笑うリサとマリア。
 2人まとめてガバッと覆いかぶさるように襲い掛かるヨシは2人を抱き寄せ、胸の谷間を交互に舐めはじめる。
 気まぐれにやってくる舌先のザラツキが敏感なところを攻め、リサもマリアも肩を窄めンフッ♪と僅かに震えている。
 しかし・・・・

「あー まただ。 クラクラする」

 少しずつ効き始める薬の効果と、体を動かす事による血圧の上昇効果。
 一度は萎えたヨシのペニスは再びムクムクと固さを取り戻していた。

「ほんと凄いねぇー」
「ほんとですねー!」

 ヨシの両腕に抱き寄せられたリサとマリアの手がヨシのペニスを弄っている。
 完全に立ち上がったその肉を摘んでみたり、撫でてみたり。
 ぺチャリぺロリと舐めていたヨシの舌が2人の胸を綺麗にし終わると、リサはヨシの手をほどいてその下半身に襲い掛かった。

「それじゃ、反撃ね」

 黒々しいほどのペニスへ舌先を這わせ舐めていると、ヨシは両手を固く握り締めて何かに耐えている。
 リサにひっくり返され「うお!」とか「ングッ!」などと男の我慢声を漏らすヨシ。
 ベットに寝転がり我慢するその姿にマリアが笑っていた。

「ねぇさま! 私もやる!」

 リサの反対側からマリアが襲い掛かり、見事に立ち上がったその肉棒をまるでアイスキャンディーの様に2人は舐めていた。
 先端部分を両側から舌先で挟まれてグリグリとされると、ヨシは両足をバタバタと暴れさせて我慢する。

「我慢しないでいいのに」
「にぃさま 我慢なさらないでぇ!」

 「うぉ!」と声を漏らすヨシは両足の指までグーにして全身へ力をいれている。
 ワナワナと僅かに震えるペニスの先端がハチ切れんばかりに膨らんでいるのだが・・・・

「んふふ・・・・ ヨシさんの弱点は・・・・ ここ!」

 裏筋から鈴口への腱をリサが舌先でなぞると、ヨシの我慢は限界に達したようだ。
 勢い良く噴出させるヨシのペニスがピクピクと動いている。

「あは! 出た! 出ちゃった! さっすがねぇさま!」
「男のヒトは大体ここが弱いわよねぇ~♪」

 とくっ!とくっ!とくっ!
 脈を打って吐き出される白濁がこぼれぬ様に舌先で抑えているリサとマリア。
 肉棒を挟んで見詰め合う女2人の舌先が絡み、銀の糸がツーっと伸びる。

「まだまだ夜は長いわよぉ~」
「にぃさま! まだまだですわよぉ~♪」

 尻尾をパタパタと振り出すマリア。
 単純に嬉しい!と表現するその仕草にリサは目を細める。

「えい!」

 唐突にリサが仕掛けたのはマリアの両腕を後ろから締め上げる仕草。
 背後から両手首を持って羽交い絞めにすると、幾ら筋力の有るイヌとてそう簡単には動けない。
 体格的にマリアよりも若干大きいリサだ。
 背後から両足も使ってマリアを雁字搦めにしてしまった。

「あぁ!ねぇさま!」
「ふふふ~ マリちゃん油断大敵よ」

 2人の娘の地上戦闘を見ていたヨシがニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべている。

「なるほどなるほど そんな訳で」

 完全に動けなくなったマリアの膣内へヨシは無造作に中指を突っ込む。
 既に何度もヨシのペニスを押し込まれ、その中は再び開いた裂傷の血と愛液で酷い状態だった。
 ネットリとする感触を楽しみながら中を弄るヨシ。
 割れ目の中を弄っていた指がいつの間にか増え、中指と薬指で奥の奥をそっと刺激する。

「マリア いま何処を触ってるかわかるかい?」

 湧き上がってくる淫らな波にもまれ、マリアは身体を捩るだけだった。

「言ってごらんよ 何処を触ってる?」

 付け根まで完全に押し込まれたヨシの指先が触れるのは、マリアの大事な子宮口の僅かに手前。
 ボルチオ帯の開発にはやや早いだろうか・・・・
 まだまだ入り口付近の敏感な部分で小刻みに震えるマリア。
 リサはそれを見ながらヨシに対して首を横に振っている。

「じゃぁ」

 指でマリアの中を弄りながら、ヨシは乳房の横辺りをゆっくりと舐め始める。
 舌を尖らせ押し付けるように穴でもあけるようにグッと押し込んでやれば、マリアの体がギューッとよじれていく。
 後ろから押さえつけているリサもマリアの首筋やら耳の後ろへ舌を這わせはじめた。

「んっ!んんん!!! んぁんんん! んぐぁぁぁあああ!!!!」

 ただ単純に獣のような声を上げるマリア。
 その反応を確かめながら、ヨシは舌先で乳首の周りに円を描く。
 一番肝心な部分には触れず、僅かにぺろりと舐めて涎をつけ、そこへ息を吹き掛ける。
 気化熱で乳首が痛い程に冷えるとマリアの中でモゾモゾとうごめくヨシの指がギューッと締め付けられた。

「ここも弱いんだよな」

 ヨシのもう一歩の手がマリアの尻尾の付け根辺りを愛撫すると、マリアは涙と涎を流して背骨を波打たせていた。
 愛撫して強く握って指先をグッと押し込んで。そして、ネットリと乳首を攻めながらマリアの膣中では指がうごめく。
 その蠢く手の親指がプックリと膨らんだクリトリスをクリクリと攻め立て、マリアの意識は中にでも浮いてるかのようだ。

「ヨシさん」
「うん」

 ヒートアップして心ここに在らずなマリアの両足をフッと抱え込んだヨシ。
 白濁した蜜の溢れる割れ目へとペニスの先端を宛がう。

「マリア さぁもう一度だ」

 そのまま一気呵成に押し込まれ、マリアの頭の中で何かが弾けた。
 リサの抑えていた両腕が信じられない程の力で振りほどかれ、ヨシの胸へと抱きついてギュッと絞めゆく。
 決してひ弱ではないヨシの筋肉質な上半身がグイグイと締め付けられ、肋骨がギシギシと痛んだ。

「んぁ・・・・・」

 言葉に出来ない声を上げて意識が中を漂うマリアの、その深層心理にあるパワーリミッターの外れた力。
 リサ達ヒトですらもその瞬間に発揮される力は凄まじいのだが、基礎筋力が全く違うイヌの場合はそれこそ次元が違う。
 肺中の空気を全部押し出されたヨシは半ば酸欠になりながらもピストン運動を続けているのだが。

    ―― ゴリ! ・・・・ゴキッ!

「ングゥ!」
「ヨシさん!」

 想定外の力で引き寄せられたヨシの体がマリアに密着する。
 羽化登仙のマリアが見せた深層心理の具現化とでも言うべきなんだろうか・・・・
 ヨシの背骨や肋骨から有り得ない音がしていた。

「にぃ・・・・ さま・・・・」

 精一杯の力でマリアの力に抗ったヨシの姿勢は、ピストンのストローク一杯まで押し込んだ状態だ。
 子宮口をゴリゴリと押され内蔵ごと揺すられたマリアのボルテージはMAXを通り越し、これ以上曲がらぬほどに背骨が撓っている。

「いくぞ」

 結果的にマリアの一番深いところで全てを吐き出したヨシのペニス。
(あ~ぁ やっちゃった・・・・・)
 そんな風にでも言いたげなリサの目がヨシを見ている。

 しかし、ズボッと音を立ててマリアの中から引き抜かれたヨシのペニスは、まだまだ立派に膨らんでいた。

「マリア まだするか?」

 優しく囁いたヨシの言葉にマリアは少しだけ首を振って答えた。

「じゃぁ、 また今度な」

 うん・・・・
 首を縦に振ったマリアはまるで夢でも見ているかのように純真無垢な表情だ。
 背中を支えていたリサはそっと抜け出して、小さなハンカチにお湯を垂らしてベットサイドへ持ってきた。

「ヨシさん。 マリちゃん抱えてて」
「あぁ、そうだね」

 マリアの隣へ静かに腰を下ろしたリサは、マリアの足を片方だけ持ち上げて秘所を丁寧に拭いている。
 外部を粗方綺麗にすると、こんどは指へと巻きつけ割れ目の奥へハンカチを押し込んだ。

「ねっ! ねぇさま・・・・」
「ちょっと我慢して」

 グッと押し込まれたハンカチをグルリとまわし引き抜くと、鼻を突く臭いの物が纏めて掻き出されて来た。
 そしてその先端には、ヨシの吐き出した白濁する精液。

「これで大丈夫」
「・・・・ありがとう」

 虚ろな笑みを浮かべるマリアと、となりでほほ笑むリサ。
 その二人の女が浮かべる笑みにヨシは奇妙な満足感を覚えていた。
 僅かな間に可愛い寝息を漏らし始めるマリア。
 満ち足りたひと時を感じているのだろうか。
 気まぐれに尻尾が揺れている。

「余程楽しかったのね」

 リサはハンカチをたたみ直し立ち上がろうとしたが、それをヨシが制した。

「俺が置いてくる、ちょっとまってて」
「・・・・うん」

 リサからハンカチを受け取ってパントリーへ置きに行ったヨシ。
 その後姿を見ていたリサは、ベットサイドの水を一口飲んで一息ついた。

「リサ」
「なに?」

 振り返ったリサ。
 ヨシは何も言わずリサとマリアの間に座った。

「明日の朝までジッとしてて」
「・・・・そうね。うん」

 リサの肩へ手を回しギュッと抱きしめると、リサの体からなんとも言えない良い匂いがしてくる。

「来月は両満の月ね」
「そうだね」

 幸せそうな笑顔でジッとヨシを見ているリサ。
 その表情こそがヨシにとっての満足そのものだ。

「いつだったかお母様が言われたの。ヒトは妊娠するなら両満の前の月にしなさいって」
「そうなんだ」
「うん」
「なんでだろう?」
「私にもよくわからない」
「そうか でも」

 ヨシはもう一度ギュッとリサの肩を抱きしめた。
 反対側ではマリアが静かに寝息を立てている。

    ―― こんな夜も悪くないな・・・・

 窓の外を見ながら、ヨシはふと、そんな事を思っていた。

「もう寝ようか」
「あぁ、そうだな。冷えないようにしないと」
「暖房強くしてこようか」
「いや、今でも十分だよ」

 リサの肩を抱きしめたままヨシは床へ横になって毛布を被った。
 意識せずとも床の中からメスの匂いが漂ってくる。
 それは決して嫌な匂いではない。

「寒いか?」
「ちょっと」

 何を思ったか、ヨシはリサに覆いかぶさるように抱きつくと、マリアとは反対側へ移動した。
 一瞬だけ期待したリサはヨシの狙いが違うところにあるのを気がつく。

「あっち向いてみ」
「うん」

 ヨシに背中を見せて寝転がるリサ。
 その背中を抱き寄せ、更にマリアをも抱き寄せたヨシ。
 リサは真ん中に挟まれた形になる。

「これなら暖かいだろ?」
「うん」

 マリアをギュッごと抱き寄せるヨシ。
 そのまま眠りに落ちて行きそうなのだが・・・・

「まだ硬いね」
「困ったな」
「大丈夫?」
「あぁ、我慢するよ」

 リサの腰辺りにはまだまだ硬さを維持するヨシのものが当たっている。
 ピクピクと僅かに震えるその先端をそっと撫でるリサ。

「あなたに出会えてよかった」
「なんで?」
「こんなに大事にしてくれるなんて思わなかったから」
「よくわかんないけどまぁ・・・・」
「あの時、御父様が助けてくださらなかったら・・・・・」
「どうなってたかな」
「今頃どこかのお屋敷でボロボロになってたかも」

 もう一度背な越しに抱きしめるヨシ。
 力一杯抱きしめたリサの体が僅かに震えている。

「怖いのか?」
「嬉しいの」
「そうか」
「うん」
「おやすみ」
「おやすみなさい」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・おやすみなさい あなた

 第10話 了

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー