「結局逆進で入って待つの?!一旦入区してくっ付けるの?!誰か知ってるヤツは居ないの?!」
いつも慌ただしい朝だが、今日は特に殺気立っている。なかなか見ない編成オーダー、突如決まった代走…挙げ始めればキリが無い。とはいえ直にどうにかなるはずだが…
「その9001Sってヤツ、どこに入れるの?モーニングが6で2000が5でしょ?」
「9番のつもりだったけど…まだ進路開いて無いんだよね…」
「ああ4番じゃなくて9番に入れるのね。りょーかいりょーかい。」
誘導灯を振り回しながら階段へ向かう顔馴染みの駅員を見送り、先程から騒がしい集団の元へ歩く。
「は?代走車って柏木から出すんじゃなかったのか?!じゃあどこから?!」
大きく声を上げる男の隣からひょっこり顔を出し、自分の把握している情報を話す。
「高戸の方から3と2で来てますよ。残りの1はTKT車の片割れを1000形牽引で持ってきてるようです。」
すると皆がポカンと口を開きこちらを見る。言葉は聞き取れたが脳は理解を拒んでいる、そんなところか。
「は?TKTの片割れを1000形牽引?…TKTの片割れを1000形牽引?!牽引ってことは…2180じゃなくて2080なのか?!ど…どう繋ぐんだよそれ…」
「はい、2080です。2180は検査で金剛に入場してるらしいです。繋ぎ方は…まあ普通に3 1 2なんじゃないですかね?」
「アンタも理解してないのかよ…はぁ…なんでこんなめんどくさいことしてんだ。」
「車両が足りないからですかね…近いうちにL13が新製されるとは聞いたのですが。」
「そもそもL編成は元から所定13、詰めて12だろ…」
「まぁ、それはそうなんですが…」
慢性的な車両不足に頭を抱え、あれやこれや手を探し乗客を捌いてはいるが、今回はL編成とS編成が1本ずつ居なくなるということで、頭を抱えているといった次第だ。
『6番のりば、折り返し6時ちょうど発、モーニングエクスプレス高戸、高戸行きが入ります。危険ですから黄色い点字ブロックまで下がってお待ちください。』
先程揉めていたモーニングEXPが逆進で入ってくる。いつもより余計にそろそろと入ってきた列車は、中間の切妻面を先頭に走るという、出来の悪い夢のような光景を、脳内に押し付けてくる。連結器を確認し問題ないことを確認してから、9番のりばへと向かった。
階段を降りた頃には列車が高速で進入して来ていた。一応運転所からは構内入れ換え扱いではあるものの、そこそこの距離があるために速度制限は緩和されている。頭端式でも無いため、このように速度を乗せて突っ込んできても、止まり切れれば問題は無い。ブレーキを鳴かせながら、どこかクセになる匂いを漂わせ目の前に止まる。きちんと普段は使わない停目に合わせて止まっている。まあ、心配するようなことでも無いが。
「やっほ、久しぶりだね。」
列車から降りてきた赤髪の綺麗な女性に話しかける。彼女は軽く目を見開き、こちらへ応える。
「えっ…伸介くん…普通にさっきぶりですよね…?」
突飛は戸惑っている。それもそうだ。さっき車両の繋ぎ替えを一緒にやったんだから、久しぶりなわけが無い。
「そうだね。ちょっと言ってみたかっただけだよ。…帰ってきた時は本当に久しぶりって言うことになるだろうけど。」
突飛、そしてその担当編成のL4、S4編成はSCRへと旅立つ。1つは国同士の交流のため、1つは会社同士の交流のため、1つは三山鉄道のイメージアップ・認知度アップのため、1つは他の会社を知るため…。三山鉄道最良で最ベテランのRailRoidである突飛が代表することとなった。あちらに合わせるため、減車を行ったりしている。
「9001S、あからさまな列番だけど、まあこういうのも悪くないよね。」
「そうですね…柏木から高戸港の回送、そしてSQVERへ…」
「…乗務前確認。今回の乗務区間の特記点と気をつける点を。」
「はい。今回の乗務区間は全線を通して工事等はありません。臨海鉄道への入線は初めてなので、歓呼する信号機や標識を間違えないようにし、路線最高速度100キロには十分気をつけます。」
「はい…9001S、8000系電車8両、担当突飛。確認よし。…いってらっしゃい、突飛。」
「はい。行ってきます。」
彼女は背を向け、出発の準備を進める。これからしばらくの間彼女に会えなくなる、そう思うとどこか胸が締め付けられるような感覚がする。それでも止めることなど出来ない。彼女のためにも黙って笑顔で見送るべきで…
何かが零れ落ちそうになるような感覚がし、慌てて頭上の架線を確認する。ピンと張られた黒線は、青を背景に存在感を放っている。
「伸介くん、ちょっといいですか?」
その声に目を下ろすと、いつの間にか突飛が目の前に立っている。
「えっと…その…」
何かを躊躇う突飛。その続きを待ってみる。
「その…伸介くん。最後にギュッて…してくれませんか?」
あまりにも高火力なそれは、自分の心のど真ん中を正確に射抜く。断るはずもない。迷わず彼女を包み込んだ。
「えへへ…やっぱり伸介くんは暖かくて…落ち着きます…」
蕩ける彼女に更に心を射抜かれる。気をしっかりと保っていないと、こちらが崩れ落ちてしまいそうだ。
「私、頑張りますから。伸介くんも頑張ってくださいね?」
「うん。約束するよ。…頑張ってね、突飛。」
頭を撫で、そう囁く。彼女はひとつ息を吸って、満足気に離れる。
「じゃあ、行ってきます!」
そう言い残し彼女は運転台へ消える。やがて列車は動き出し、僕は彼女に向かって手を振る。カーブの先に消えてもしばらくそちらを眺め、先程の出来事の余韻に浸っていた。
「あ!そっか!結局中に入れないといけないから外さないとじゃん!おーい!誰か手伝ってくれ!」
いつの間にか高戸からの回送が到着していたようだ。そちらへ向かって駆け出す。
「はいはーい!今行きまーす!」
最終更新:2025年05月15日 14:08