電子の塔 - (2009/06/08 (月) 20:58:53) の最新版との変更点
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*電子の塔 ◆T0ldTcn6/s
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カタカタカタ……
無機質な光が支配する中に男が一人。
彼は眼球を忙しく動かし、ただ画面という画面を見比べる。
15階を網羅する監視システム。
15階の全てに存在するシャッター。
このビルのブレーカーもこの部屋にある。
そう、これが俺の武器だ。
カタカタカタ……
されど、使いこなせるかどうかはまた別の話だ。
全てのシステムがここに集中しているということは、逆に言えばありとあらゆる機能をこの小規模な部屋にぶち込んだことに他ならない。
座席の数から考えて少なくとも5人は常駐していた、あるいはすべき部屋だと察せる。
カタカタカタ……
カメラ。15階全てを余すことなく抑えている。
そう表現すれば聞こえはいいんだが、その情報量は手に余る。
今は何事もなくせいぜい少女が下で仕事をしているだけだから静かなものだが、正直言って全部を確認するには目が足りない。
必ずどこかの映像は見落とす。
だから3階から上は確認しないといえば嘘になるが、あまり注意してはいない。
1階や2階に意識を傾けてる。
お、いい感じに水浸しになってきたな。
カタカタカタ……
だが全く無視するわけにはいかない。
全てのモニターを見比べて気づいたのだが『非常階段と屋上にはカメラがない』。
もちろん、建物内部に入れば察知できるのだが……これはちょっと。
まあ珍しいケースでもない。マンションなどでも時折ある、欠陥住宅というやつだ。
いや、欠陥ビルというべきか?
シャッターが各階にあるくせ、このギャップには少々ながら嘆息した。
同時に体を包む安心感。
もし知らなければ、システムを掌握してるのに奇襲を受けてしまう……ギャグマンガのような失態だ。
人間、上方向への注意は疎かになりがちだしな。
これを防ぐためには上方の階の様子も気に留めないといけないわけで。
うん、目が痛くなりそうだ。
カタカタカタ……カチッ
指が疲れてきたので、作業の方を切り上げる。
監視カメラ、スピーカー、シャッターの配置……そしてそれらを作動させるコマンド。
必要最低限ではあるがおおよそ把握できた。
即興とはいえ俺の砦が完成したわけだ。
……言葉で言うと易いけどな。
比喩抜きで1,2時間ぐらいかかったんだぞ。
なにせカメラだけで200個近くあったんだ。
15階分ということを考慮すりゃ当然だが、そうなると映像の切り替えや画面の拡大という機能が付いてくる。
分かってなきゃ話にならんので気合いで頭に叩き込んだが……
スピーカーや空調も似たような感じだ。
こちらも各階単位ではなく各部屋単位だからな。
シャッターが一番マシだったぐらいか。
どちらにせよ、マジで酷い。
全て手探りでやった俺の苦労を察して欲しい。
さて、と。背もたれに体を預け、これからの方針を整理する。
もちろん人数が減るまで可能な限り動かないという1点は変わらない。
問題にすべきは別にある。
それを説明するために、現在手を組んでいる女――萩原雪歩を評価してみよう。
肉体面、精神面、そして頭脳面。
いずれの観点から見ても彼女は間違いなく『弱者』にカテゴライズされる。
何か隠しているのかも知れないがこの際保留だ。
歴史にifは許されないが、もしあのまま見捨ててればどうなっていたか。
大方、誰かに狩られていただろうな。良くてお人好しの足手まといだ。
従順なのは良いがそれ以外に見るべきものはない少女。
将棋に例えれば歩。
攻めと守りの布石にはなるが決定打にはなり得ない、そんなところか。
あの女の価値はしょせんその程度だ。
重ねていうが、隠している手札があるとしても考慮に値しない。
秘密にするということは、俺のために使われるカードじゃないってことだ。
むしろいざというときに俺を刺すためと思うべき。
それを戦力と呼ぶには無理があろう。
では彼女と2人で行動し続けるとしよう。
過酷な殺し合いを突破できるか。
優勝して最後の1になれるか、あるいは主催を出し抜くことができるか。
以上の情報から導出される解は簡明。
――――否
あまり多人数で連むつもりはないが、現状では切れるカードが少なすぎる。
わかりやすく、殺し合いに乗った奴がビルに殴り込んできたと仮定する。
よほどの脳筋じゃなければ管理室を目指すはずだ。
したがって、迎撃戦になる。
そのとき取れる戦術は
・あの少女を囮に死角から殴りにゆく
・濡れたフロアに電流を流す
・ネイティオとかいう間抜けた鳥に任せる
以上を複合させた搦め手となるだろう。
現戦力での正面衝突は危険すぎる。
戦いは勝利するだけでは無意味。
骨折、臓器損傷、肉体の欠損……重い怪我を負って手に入れた勝利などもとより不要だ。
勝ちに行くのではなく、生き残ることが第一義だ。目的を履き違えちゃいけない。
気は進まないがオフィスビルの放棄も視野に入れるべきだろう。
別に拠点が落ちようと――痛手ではあるが――命が助かるなら構いはしない。
無策な殴り合いも馬鹿馬鹿しい。だから変化球も否定しない。
だが、いつでも先手を取れる、イニアシチブを握れるとは限らない。
禁止エリアに指定されるなり何なりしてビルから叩き出されると、一気に手札が減るのも頭を抱えたくなる。
そう、生存を確実なものにしていくには駒が必要だ。
使いやすい奴、なんて選り好みはしない。
そういうおめでたい人間は淘汰されている頃だろう。
寝首を掻かれるのを覚悟してでも――有能な奴を手元に置くべき。
もちろんあまりに穏やかでない輩は遠慮させてもらうが、リスクとリターンを天秤に乗せなければならぬ状況は近く訪れる。
駒の確保はその最たるものだろう。
そいつの持つ能力と付随する危険性、それらを秤にかけ必要なら手を握る。
――そこに信頼がなくても、だ。
一番ありがたいのは技術者。
解除できるなら首輪は外しておきたい。
どういう結末になるにせよ、首輪のあるなしで身の振り方が大きく変わってくる。
ただし、彼らは主催者にとって不都合な人種だ。とびっきりのな。
俺なら選考段階で弾く。
しかし、仕事でなく趣味で機械を弄ったりする人間は確かにいるんだ。
記録に残らず、ともすれば人にも知られず、な。
そこまで深く、そして余すところなく調べきれるか。
……おそらくは70人の中に2人か3人ほど『篩から零れた奴』がいると踏んでいる。
今も生き残ってるかどうかは別問題となるが。
次にありがたいのは単純に戦闘能力が高い奴。
技術者と違って、こっちはゴロゴロいるはずだ。
少女の実力はお察しレベル。あるいは俺のために力を振るう気はない。
つまり、戦闘になれば俺に負担がのし掛かるんだ。
それを軽減する意味で仲間に引き入れたい。
なんだかんだで優勝を目指そうとしている少女が異を唱えるかも知れないが、俺にもの凄い依存してるように見えるしなんとか言いくるめられるだろ。
演技である可能性は十分考えられるから警戒しておくに越したことはないがね。
よし、とパソコンに向き直る。
作業再開、というわけではないがPCについても考えることがある。
一番気になるのはブラウザソフトウェアがないのになぜネット環境だけが用意されてるのか、という点。
不自然極まりないが、何らかの意味があるのだろう。
そもそも回線はどこに繋がっているのか。
普通ならプロバイダだが……切り捨てていい。
もう一度、情報を整理しようか。
・ケーブルは必ずどこかに繋がっている(ただしプロバイダではなさそう)
・設営したのは主催者と睨んでよし
・ブラウザソフトウェアが導入されていないことから、参加者の使用は想定されていない
――なるほど、だんだん読めてきた。
オフィスビルに用意された回線は最終的に主催者の元へと集束するはず。
つまり、主催者が何かを成すために用意したのだ。
警備システムの遠隔操作か。
全てのシャッターを閉じ、かつ入り口を施錠すれば籠城ができてしまう。
突破するには相応の道具と覚悟、そして力が必要となる。
下手すれば食料が尽きるまで、降着することも十分あり得るわけだ。
この状況はあまりに閉塞的だ。娯楽なら『手心』を加えてくるだろう。
もちろん俺はそのような引き籠もり作戦は採用しない。
慎重を通り越して臆病だ。
参加者との接触を極端に嫌うと、駒は増えないし情報は不足するしで緩やかに己の首が絞まっていく。
閑話休題。
あるいは、パソコンで何をしているか把握するためか。
俺がこうして監視システムやスピーカーを掌握したわけだが……それを主催者は察知しているのかもしれない。
中国の当局がWEB上の情報を監視・検閲してるのは有名な話だ。
アメリカだって通信を傍受していると聞いたことがある。
プライバシーもへったくれもないが現実はそんなもんだ。
政府は国民の行動を統制したがるからな。
と、閑話休題。
主催者がネットワークを経由し何か悪さをしているとなると、ケーブルを抜きたくなる。
が、どうせ参加者の行動は筒抜けなのだろう。
放送で死者が呼ばれているということは主催者が参加者の行動を捉えていることを物語っているではないか。
それよりもこのネット環境を『逆用する』ことを考えた方が幾分か生産的だ。
まず、主催本拠地へのクラッキング。
ネットへとつながれているコンピュータ、いや全てのシステムが抱えるリスクだ。
もし本当に主催者へ通じているのなら理論の上では可能なはず。
……バカか、俺は。
んなコトすれば胴体と頭が泣き別れするのが目に見えてる。
第一、俺はそこまで高尚な技術を持ってない。
突破できたらどんだけザルなセキュリティなんだと。
じゃあ、監視・盗聴の傍受なんてどうだ?
本拠地へのクラッキングに比べれば危険は少ないだろう。
もちろん旨味も減るが、他参加者の行動が掴めるのは大きい。
さらには主催側の監視・盗聴の『深さ』も分かって悪いことはない。
システムを落とすのではなく、ただの覗き見でしかないのだから気づかれても即座にボンッはないはず。
なにせ参加者の中にはおそらく脱出や打倒主催者を目指す奴もいるんだ。
火の粉が降りかからないならいちいち構ってくることはないだろうさ。
それに相手のコンピュータやサーバーに直でアクセスする必要はないというのもポイント。
イメージ的な話だが、ネットに流れる情報を待ちかまえて掴むという作業内容でも良いんだ。
……これでも相当じゃないか、おい。
どうやれば良いのか、皆目見当が付かない。
結局のところ、今の俺にネット環境を使ってどうこうするのは無理なようだ。
一応、頭の片隅に留めておく程度でいいだろう。
いずれ何かの役に立つかも知れないしな。
色々考えてる間に大分時間が経ってしまったようだ。
まあ、そりゃそうか。システムの把握だけでも結構な時間を取られたわけだし。
……それにしてもあいつ、なかなか戻ってこないな。
水を撒くだけなんだからたいした手間はかからないはずだ。
いや、1Fは広いしそれなりの時間は必要か。まて、それをさっ引いても遅すぎる。
何かあったのか?
カメラの映像には特に異常は見られな……っておい。
モニター越しの光景に絶句する。
そして3秒後にはさも呆れたかのように額に手をやるときちくの姿。
確かに雪歩は管理室から『直接』見えない絶妙な位置で眠っている。
しかしながら、無機質なレンズは怠けることなく仕事をしていて。
電子化された情報はきちんと管理室に届けられた。
もちろん彼は抜かりなくそれを受け取っているわけで。
――――おいおい、そんな堂々と寝るなよ……
せめて外から来た人間に見つからないように身を隠せ。
ときちくの抱いた、あまりにシンプルな感想である。
【A-1 オフィスビル2階 管理室/一日目・夕方】
【ときちく@時々鬼畜なゲームプレイシリーズ】
[状態]:健康、精神疲労(小)記憶の混乱(思考は正常)
[装備]: ナイフ×3、包丁×3、ブレード@サイべリア フライパン
[道具]:基本支給品*3、フライパン、フォーク、張遼の書@ニコニコ歴史戦略ゲー 、
首輪探知機(残り48分) 銃(14/15)@現実、モンスターボール(ネイティオ)@ポケットモンスター
【思考・状況】 基本思考:生き残り、真実を知る。
0:何やってんだよ……
1:参加者が20人を切るまで基本的に動かない。
2:誰か着た場合には十全に対処する。
3:囲炉裏……麻生太郎……?
4:雪歩を利用するが、念のため警戒しておく。
5:他にも使えそうな人間がいれば駒として利用する。
6:自分からは殺さない。
7:自衛のための殺害は已む無し。
8:頭痛が治まってよかった。
【備考】
※七夜志貴と十六夜咲夜の姿を確認しました。名前は知りません。
※元世界の知識はかなり封印されていましたが、2割程度解けたようです。
※囲炉裏に関しては今は『知っている』という程度だけです。
※ローゼン閣下(麻生太郎)に関することがフラッシュバックしました。
※自身の記憶に関してのフラッシュバックがありました。
※元々の能力などのせいで他の参加者に比べ疲労が激しいようです。
※自分の記憶がおかしいと自覚しています。
※オフィスビルのネットは主催者と繋がっていると推測しました(真偽は不明)
【オフィスビルの構造について+】
非常階段と屋上が監視網の死角になっています。
|sm177:[[INMYDREAM]]|[[時系列順>第三回放送までの本編SS]]|sm:[[]]|
|sm177:[[INMYDREAM]]|[[投下順>151~200]]|sm179:[[]]|
|sm171:[[少し頭冷やそうか(考察編)]]|ときちく|sm:[[]]|
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*電子の塔 ◆T0ldTcn6/s
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カタカタカタ……
無機質な光が支配する中に男が一人。
彼は眼球を忙しく動かし、ただ画面という画面を見比べる。
15階を網羅する監視システム。
15階の全てに存在するシャッター。
このビルのブレーカーもこの部屋にある。
そう、これが俺の武器だ。
カタカタカタ……
されど、使いこなせるかどうかはまた別の話だ。
全てのシステムがここに集中しているということは、逆に言えばありとあらゆる機能をこの小規模な部屋にぶち込んだことに他ならない。
座席の数から考えて少なくとも5人は常駐していた、あるいはすべき部屋だと察せる。
カタカタカタ……
カメラ。15階全てを余すことなく抑えている。
そう表現すれば聞こえはいいんだが、その情報量は手に余る。
今は何事もなくせいぜい少女が下で仕事をしているだけだから静かなものだが、正直言って全部を確認するには目が足りない。
必ずどこかの映像は見落とす。
だから3階から上は確認しないといえば嘘になるが、あまり注意してはいない。
1階や2階に意識を傾けてる。
お、いい感じに水浸しになってきたな。
カタカタカタ……
だが全く無視するわけにはいかない。
全てのモニターを見比べて気づいたのだが『非常階段と屋上にはカメラがない』。
もちろん、建物内部に入れば察知できるのだが……これはちょっと。
まあ珍しいケースでもない。マンションなどでも時折ある、欠陥住宅というやつだ。
いや、欠陥ビルというべきか?
シャッターが各階にあるくせ、このギャップには少々ながら嘆息した。
同時に体を包む安心感。
もし知らなければ、システムを掌握してるのに奇襲を受けてしまう……ギャグマンガのような失態だ。
人間、上方向への注意は疎かになりがちだしな。
これを防ぐためには上方の階の様子も気に留めないといけないわけで。
うん、目が痛くなりそうだ。
カタカタカタ……カチッ
指が疲れてきたので、作業の方を切り上げる。
監視カメラ、スピーカー、シャッターの配置……そしてそれらを作動させるコマンド。
必要最低限ではあるがおおよそ把握できた。
即興とはいえ俺の砦が完成したわけだ。
……言葉で言うと易いけどな。
比喩抜きで1,2時間ぐらいかかったんだぞ。
なにせカメラだけで200個近くあったんだ。
15階分ということを考慮すりゃ当然だが、そうなると映像の切り替えや画面の拡大という機能が付いてくる。
分かってなきゃ話にならんので気合いで頭に叩き込んだが……
スピーカーや空調も似たような感じだ。
こちらも各階単位ではなく各部屋単位だからな。
シャッターが一番マシだったぐらいか。
どちらにせよ、マジで酷い。
全て手探りでやった俺の苦労を察して欲しい。
さて、と。背もたれに体を預け、これからの方針を整理する。
もちろん人数が減るまで可能な限り動かないという1点は変わらない。
問題にすべきは別にある。
それを説明するために、現在手を組んでいる女――萩原雪歩を評価してみよう。
肉体面、精神面、そして頭脳面。
いずれの観点から見ても彼女は間違いなく『弱者』にカテゴライズされる。
何か隠しているのかも知れないがこの際保留だ。
歴史にifは許されないが、もしあのまま見捨ててればどうなっていたか。
大方、誰かに狩られていただろうな。良くてお人好しの足手まといだ。
従順なのは良いがそれ以外に見るべきものはない少女。
将棋に例えれば歩。
攻めと守りの布石にはなるが決定打にはなり得ない、そんなところか。
あの女の価値はしょせんその程度だ。
重ねていうが、隠している手札があるとしても考慮に値しない。
秘密にするということは、俺のために使われるカードじゃないってことだ。
むしろいざというときに俺を刺すためと思うべき。
それを戦力と呼ぶには無理があろう。
では彼女と2人で行動し続けるとしよう。
過酷な殺し合いを突破できるか。
優勝して最後の1になれるか、あるいは主催を出し抜くことができるか。
以上の情報から導出される解は簡明。
――――否
あまり多人数で連むつもりはないが、現状では切れるカードが少なすぎる。
わかりやすく、殺し合いに乗った奴がビルに殴り込んできたと仮定する。
よほどの脳筋じゃなければ管理室を目指すはずだ。
したがって、迎撃戦になる。
そのとき取れる戦術は
・あの少女を囮に死角から殴りにゆく
・濡れたフロアに電流を流す
・ネイティオとかいう間抜けた鳥に任せる
以上を複合させた搦め手となるだろう。
現戦力での正面衝突は危険すぎる。
戦いは勝利するだけでは無意味。
骨折、臓器損傷、肉体の欠損……重い怪我を負って手に入れた勝利などもとより不要だ。
勝ちに行くのではなく、生き残ることが第一義だ。目的を履き違えちゃいけない。
気は進まないがオフィスビルの放棄も視野に入れるべきだろう。
別に拠点が落ちようと――痛手ではあるが――命が助かるなら構いはしない。
無策な殴り合いも馬鹿馬鹿しい。だから変化球も否定しない。
だが、いつでも先手を取れる、イニアシチブを握れるとは限らない。
禁止エリアに指定されるなり何なりしてビルから叩き出されると、一気に手札が減るのも頭を抱えたくなる。
そう、生存を確実なものにしていくには駒が必要だ。
使いやすい奴、なんて選り好みはしない。
そういうおめでたい人間は淘汰されている頃だろう。
寝首を掻かれるのを覚悟してでも――有能な奴を手元に置くべき。
もちろんあまりに穏やかでない輩は遠慮させてもらうが、リスクとリターンを天秤に乗せなければならぬ状況は近く訪れる。
駒の確保はその最たるものだろう。
そいつの持つ能力と付随する危険性、それらを秤にかけ必要なら手を握る。
――そこに信頼がなくても、だ。
一番ありがたいのは技術者。
解除できるなら首輪は外しておきたい。
どういう結末になるにせよ、首輪のあるなしで身の振り方が大きく変わってくる。
ただし、彼らは主催者にとって不都合な人種だ。とびっきりのな。
俺なら選考段階で弾く。
しかし、仕事でなく趣味で機械を弄ったりする人間は確かにいるんだ。
記録に残らず、ともすれば人にも知られず、な。
そこまで深く、そして余すところなく調べきれるか。
……おそらくは70人の中に2人か3人ほど『篩から零れた奴』がいると踏んでいる。
今も生き残ってるかどうかは別問題となるが。
次にありがたいのは単純に戦闘能力が高い奴。
技術者と違って、こっちはゴロゴロいるはずだ。
少女の実力はお察しレベル。あるいは俺のために力を振るう気はない。
つまり、戦闘になれば俺に負担がのし掛かるんだ。
それを軽減する意味で仲間に引き入れたい。
なんだかんだで優勝を目指そうとしている少女が異を唱えるかも知れないが、俺にもの凄い依存してるように見えるしなんとか言いくるめられるだろ。
演技である可能性は十分考えられるから警戒しておくに越したことはないがね。
よし、とパソコンに向き直る。
作業再開、というわけではないがPCについても考えることがある。
一番気になるのはブラウザソフトウェアがないのになぜネット環境だけが用意されてるのか、という点。
不自然極まりないが、何らかの意味があるのだろう。
そもそも回線はどこに繋がっているのか。
普通ならプロバイダだが……切り捨てていい。
もう一度、情報を整理しようか。
・ケーブルは必ずどこかに繋がっている(ただしプロバイダではなさそう)
・設営したのは主催者と睨んでよし
・ブラウザソフトウェアが導入されていないことから、参加者の使用は想定されていない
――なるほど、だんだん読めてきた。
オフィスビルに用意された回線は最終的に主催者の元へと集束するはず。
つまり、主催者が何かを成すために用意したのだ。
警備システムの遠隔操作か。
全てのシャッターを閉じ、かつ入り口を施錠すれば籠城ができてしまう。
突破するには相応の道具と覚悟、そして力が必要となる。
下手すれば食料が尽きるまで、降着することも十分あり得るわけだ。
この状況はあまりに閉塞的だ。娯楽なら『手心』を加えてくるだろう。
もちろん俺はそのような引き籠もり作戦は採用しない。
慎重を通り越して臆病だ。
参加者との接触を極端に嫌うと、駒は増えないし情報は不足するしで緩やかに己の首が絞まっていく。
閑話休題。
あるいは、パソコンで何をしているか把握するためか。
俺がこうして監視システムやスピーカーを掌握したわけだが……それを主催者は察知しているのかもしれない。
中国の当局がWEB上の情報を監視・検閲してるのは有名な話だ。
アメリカだって通信を傍受していると聞いたことがある。
プライバシーもへったくれもないが現実はそんなもんだ。
政府は国民の行動を統制したがるからな。
と、閑話休題。
主催者がネットワークを経由し何か悪さをしているとなると、ケーブルを抜きたくなる。
が、どうせ参加者の行動は筒抜けなのだろう。
放送で死者が呼ばれているということは主催者が参加者の行動を捉えていることを物語っているではないか。
それよりもこのネット環境を『逆用する』ことを考えた方が幾分か生産的だ。
まず、主催本拠地へのクラッキング。
ネットへとつながれているコンピュータ、いや全てのシステムが抱えるリスクだ。
もし本当に主催者へ通じているのなら理論の上では可能なはず。
……バカか、俺は。
んなコトすれば胴体と頭が泣き別れするのが目に見えてる。
第一、俺はそこまで高尚な技術を持ってない。
突破できたらどんだけザルなセキュリティなんだと。
じゃあ、監視・盗聴の傍受なんてどうだ?
本拠地へのクラッキングに比べれば危険は少ないだろう。
もちろん旨味も減るが、他参加者の行動が掴めるのは大きい。
さらには主催側の監視・盗聴の『深さ』も分かって悪いことはない。
システムを落とすのではなく、ただの覗き見でしかないのだから気づかれても即座にボンッはないはず。
なにせ参加者の中にはおそらく脱出や打倒主催者を目指す奴もいるんだ。
火の粉が降りかからないならいちいち構ってくることはないだろうさ。
それに相手のコンピュータやサーバーに直でアクセスする必要はないというのもポイント。
イメージ的な話だが、ネットに流れる情報を待ちかまえて掴むという作業内容でも良いんだ。
……これでも相当じゃないか、おい。
どうやれば良いのか、皆目見当が付かない。
結局のところ、今の俺にネット環境を使ってどうこうするのは無理なようだ。
一応、頭の片隅に留めておく程度でいいだろう。
いずれ何かの役に立つかも知れないしな。
色々考えてる間に大分時間が経ってしまったようだ。
まあ、そりゃそうか。システムの把握だけでも結構な時間を取られたわけだし。
……それにしてもあいつ、なかなか戻ってこないな。
水を撒くだけなんだからたいした手間はかからないはずだ。
いや、1Fは広いしそれなりの時間は必要か。まて、それをさっ引いても遅すぎる。
何かあったのか?
カメラの映像には特に異常は見られな……っておい。
モニター越しの光景に絶句する。
そして3秒後にはさも呆れたかのように額に手をやるときちくの姿。
確かに雪歩は管理室から『直接』見えない絶妙な位置で眠っている。
しかしながら、無機質なレンズは怠けることなく仕事をしていて。
電子化された情報はきちんと管理室に届けられた。
もちろん彼は抜かりなくそれを受け取っているわけで。
――――おいおい、そんな堂々と寝るなよ……
せめて外から来た人間に見つからないように身を隠せ。
ときちくの抱いた、あまりにシンプルな感想である。
【A-1 オフィスビル2階 管理室/一日目・夕方】
【ときちく@時々鬼畜なゲームプレイシリーズ】
[状態]:健康、精神疲労(小)記憶の混乱(思考は正常)
[装備]: ナイフ×3、包丁×3、ブレード@サイべリア フライパン
[道具]:基本支給品*3、フライパン、フォーク、張遼の書@ニコニコ歴史戦略ゲー 、
首輪探知機(残り48分) 銃(14/15)@現実、モンスターボール(ネイティオ)@ポケットモンスター
【思考・状況】 基本思考:生き残り、真実を知る。
0:何やってんだよ……
1:参加者が20人を切るまで基本的に動かない。
2:誰か着た場合には十全に対処する。
3:囲炉裏……麻生太郎……?
4:雪歩を利用するが、念のため警戒しておく。
5:他にも使えそうな人間がいれば駒として利用する。
6:自分からは殺さない。
7:自衛のための殺害は已む無し。
8:頭痛が治まってよかった。
【備考】
※七夜志貴と十六夜咲夜の姿を確認しました。名前は知りません。
※元世界の知識はかなり封印されていましたが、2割程度解けたようです。
※囲炉裏に関しては今は『知っている』という程度だけです。
※ローゼン閣下(麻生太郎)に関することがフラッシュバックしました。
※自身の記憶に関してのフラッシュバックがありました。
※元々の能力などのせいで他の参加者に比べ疲労が激しいようです。
※自分の記憶がおかしいと自覚しています。
※オフィスビルのネットは主催者と繋がっていると推測しました(真偽は不明)
【オフィスビルの構造について+】
非常階段と屋上が監視網の死角になっています。
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