Side響
ふぅ、流石にずっと歩き詰めだったからちょっと疲れたな。
志摩さんたちが引き上げたあと、校長の提案でこれから事件解決までの間、僕達は放課後3人で街の見回りをすることになった。
・・・・・・と言っても、現状で有力な手がかりがあるわけでもない。ある種のアイスブレイクのようなものだろうか。
手がかりを強いて挙げるとすればヴァイオラが言っていた八代総合病院だが、地震と直接関係があるとは限らない。
志摩さんの言う通りヴァイオラへの対処はあくまで『ついで』だ。
更に言うと、その八代総合病院にも足を運んだが、空振りに終わった。
冥魔特有の殺気を伴う気配は微塵も無く、更にはヴァイオラの目撃情報すら得られなかったのだ。
その後は特に当てがあるわけでもなく、冥魔の気配や不審な人物に気を配りながら街をぶらぶらと歩き回り、今に至る。
しかしこれ以上見回りと称した散歩を延々と続けるのも正直不毛だ。
次の行動を考えあぐねていたその時だった。少し遠目に見覚えのある影が1つ見えた。
いや、1つじゃなくて2つだ。もしや、とは思ったが間違いない。あれは・・・・・・!
Sideレイン
隣を歩いていた響さんが突然はっとしたように立ち止まって、目線を少し遠くの方に固定して動かなくなった。
目線の先を見てみると、そこには小さな公園の入り口に立つ大小2つの人影。
1つは輝明学園中等部の制服の制服を着た小さな女の子。もう1つは・・・・・・朝ぶつかった人と寸分違わぬ姿をした男の人、ヴァイオラ。
女の子と何か話しているみたいだけど流石に聞き取れない。すぐにヴァイオラは女の子に何かを渡して去って行った。
「ヴァイオラの姿が完全に見えなくなるまで待機しましょう」
響さんは一度生唾をごくりと飲み込むと、視線を私達の方に戻して言った。
この慎重さは恐らく初であろう任務に対する気負いか、元々慎重な性格なのかはわからない。
別にどっちでも良いけど。
やがて細長い影が完全に見えなくなると、響さんは残された小さい女の子に向かって放たれた矢の様に駆け出した。
響さん顔面偏差値高いから良いけどこれ見た目アレな人がやったら100%通報されるんじゃない?
『ただしイケメンに限る』。なんて残酷な言葉・・・・・・。
「僕達も行きましょう!」
私が柄にも無く下らない事を考えていると、乱火さんがそんな私を現実に引き戻すかのように言った。
少し遅れて私達も響さんの後を追う。
「あ、ひびきんだ!」
公園の入り口近くまでくると私たちに気付いたのか、女の子はほっぺに笑窪を作りながら響さんに駆け寄る。
ひびきん・・・・・・?
「さっきの人は!?」
響さんは少し息が切れ気味になりながらランドセルを背負っていても違和感が無い体格をした女の子に問いかけた。
この絵面も見た目アレな人がやったら間違いなく・・・・・・。
「知らない人だよー。道を聞かれたから教えてあげてたの」
「どこへの道聞かれたんだ?」
「なんかね、この辺で一番高い建物は?って聞かれたから、セントラルタワーまでの道を教えてあげたよ。そしたらね! アメくれたの!」
そう言って女の子はポケットから赤いキャンディーを1つ取り出して目を輝かせながら響さんに見せた。
たかだかキャンディー1つでよくもあそこまで喜べるものね。
響さんはキャンディーと女の子を交互に見つめて小さくため息をついた。
そしてやれやれと言った表情で片膝を地面につけてしゃがみ、目線を女の子より低くして言う。
「へぇ。でも、知らない人から食べ物を貰うってのは感心しないな」
「むー。お兄さん・・・・・・お姉さん? が道を教えてくれたからお礼にってくれたんだよー」
女の子は拗ねたように唇を小さく尖らせると、抗議の眼差しを響さんに向ける。
響さんは瞳と唇に笑みを浮かべて目の高さは変えずに女の子の頭を軽く撫でた。
「あんまり知らない人から物を貰っちゃだめだぞ。以後気をつける事。・・・・・・でも親切に道を教えてあげたのは偉いぞ」
すると、女の子の表情がさっきキャンディーを見せたときの様に再び明るく輝いた。
・・・・・・この子はキャンディーを貰って喜んでたんじゃない。ただ響さんに褒めて欲しかったんだ。
目の前で行なわれている一切の打算がないやりとり。学校で嫌と言うほど見るそれとは違って--。
不意に無色で無機質な日常の中で思い出すことすら滅多に無かった、海外に出張しているお父さんとお母さんの姿が頭の中に浮かんだ。
「妹さん?」
無意識に出た自分の言葉に自分でびっくりした。
響さんは立ち上がると私の方に向き直って頭をぽりぽりとかくと、少し照れたように言う。
「後輩の東雲麻耶です。妹・・・・・・と言うわけではないのですが、まぁ妹みたいなものですかね。中学生にもなってこの調子だから放っておけないんですよ」
「ねぇねぇひびきん。後ろのお姉さんとお兄さんは・・・・・・ひびきんのお友達?」
麻耶ちゃんは響さんの後ろからひょっこりと顔を出して尋ねた。
「ああ、紹介がまだだったね。うーん、友達、と言うには知り合ったばかりだから何ともだけど、まあそうなるのかな?」
そう言って響さんは私と乱火さんの方を見る。
「あ、どーも。乱火と言います」
「知り合いの・・・・・・レイン・・・・・・」
「こんにちは! しののめまやです。よろしくね、レインおねーさん、らんかおにーさん」
あえて『知り合い』という言葉を使った自分自身に半ば自嘲が混じった感情を向ける。
そしてその感情を抱いた自分自身にまた、上手く言えない違和感を覚える。何か頭も痛い。
そんな私とは正反対に目の前の小さな女の子は裏表の無い太陽みたいな笑顔で--。
『ウルルルルルル・・・・・・』
私の心のモヤモヤを振り払うみたいに、獣の唸り声みたいな声が一帯に響き渡った。
間髪入れずに強めの地震が起こり、周囲の木々から一斉に鳥達が飛び立つ。
揺れはすぐに収まった。それと同時に響さんと乱火さんと私の携帯電話が鳴る。携帯電話を確認してみるとメールが一通届いていた。
『セントラルタワーで停電事故が発生。すぐに向かって調査してください』
差出人は東野さんだった。セントラルタワー。店や企業がたくさん入っている複合ビル。
はぁ、地震とヴァイオラが繋がり始めてしまったみたい・・・・・・。
裏切り者のオカマを始末とかものすごく気が進まない。
「どうやらちょっとずつ手がかりが見えてきましたね。すぐに向かいましょう!」
私が盛大に心の中でため息をついている脇で、乱火さんがガッツポーズを作って意気込む。
「それじゃあ、僕達は用事があるからそろそろ行くけど、気をつけて帰るんだぞ」
「そうなの・・・・・・? わかったー。ばいばいみんな」
これはヴァイオラとの接触は避けられそうにないわね・・・・・・。
響さんと乱火さんは麻耶ちゃんに手を振ると踵を返して駆け出す。
重い足取りで2人を追いながら、ふと後ろを振り返ってみると、未だに手を振り続けている麻耶ちゃんの姿。
頭が・・・・・・痛い・・・・・・。
最終更新:2013年02月24日 01:20