Sideイクス
次に地震が起きたらセントラルタワーに向かえと言われて来てみれば、何やら腐ったレンコンのようですね。
タワーの出入り口に人だかりが出来ていて軽いパニック状態です。
人だかりからしきりに『停電』という言葉が聞こえます。恐らくはタワーが停電して非常用電源も動かない状態ですか。
ダイコンのようにそびえたつセントラルタワー。多くの店や企業がトウモロコシのごとくぎっしり詰まっているため中にいる人の数も相当なものでしょう。
このままではブリッツ探しもままならないですねぇ。ここは月衣で姿を隠して中に入ることにしますか。
使徒の姿に戻って侵入するのに適当な窓ガラスを探して飛び上がったその時です。
突如として空に巨大な紅い月が昇りました。
辺りを見渡してみると地上の人ごみに紛れて紫キャベツヘアーの彼がいるじゃありませんか。
紫キャベツヘアーことヴァイオラは人ごみから離れて忽然と姿を消してしまいます。
ヴァイオラが消えた地点には比較的小規模なドーム状の月匣が展開されていました。
月匣とは常識を遮断する個人結界である月衣の拡大版と言えばわかりやすいですかね。
内部では侵魔や冥魔は本来の力をより発揮できるため、ウィザードの戦場はこの月匣内部となることが多いです。
この紅い月こそが月匣の展開を知らせてくれるのですよ。この紅い月は常識から外れた存在である僕達ウィザードや侵魔、冥魔しか見ることができません。
月匣が展開されている空間は現実世界と切り離されるためイノセントは出入りできず、内部での出来事をイノセントは記憶できないのです。
戦うにはウィザードと冥魔のお互いに都合の良い空間というわけです。
ヴァイオラが突然消えたように見えたのはこの月匣内に入ったからですね。
人間の姿になって僕も早速内部に侵入してみると、ヴァイオラが僕に背を向ける形でなにやらぶつぶつと呟いています。
僕は確か彼に助力すればいいのでしたね。彼はまだ僕に気づいていないみたいです。まずは挨拶から。コミュニケーションの基本です。
「そこの貴方、一緒にピザを作りませんか?」
「誰!?」
ヴァイオラは振り返るとキュウリのようにぎょっとした表情で僕を見つめます。何故でしょうか。
ああ、敵と勘違いしているのかもしれませんね。ここは誤解を早急に解く必要があります。
「僕は貴方の大根です」
「・・・・・・なんですって?」
誤解を解くどころか警戒の色が濃くなってしまったような気がします。何故でしょうか。
僕が首を捻っていると後ろから赤ピーマンのような声がしました。
「そこを動かないでください!」
振り返るとそこには輝明学園の制服を着た学生が3人。
「あら、今朝ぶつかったお嬢さんに、男の子じゃない。あの時はどうも。でも今は忙しいの。失礼するわよ」
ヴァイオラは3人を一瞥すると踵を返して立ち去ろうとします。
「ストップ」
銀髪の学生がピーマンのさっきと同じ赤ピーマンみたいな声で呼び止めます。
ヴァイオラは振り向かずに足だけを止めました。
「ブリッツ・・・・・・聞き覚えは?」
「とってもあるわよ。私はソレ関係で忙しいの。道はもう教えてもらわなくても大丈夫よ」
「そうですか。丁度僕達もソレ関係の用事がありまして」
「そうなの。奇遇ね。それじゃあ」
それだけ言うと、ヴァイオラは素早く駆け出して行ってしまいました。そしてヴァイオラを追おうとする3人の学生。
話が見えないですが、とりあえずヴァイオラを助けなければいけませんね。
3人の学生のうち見覚えのあるような青髪の青年は取り逃がしてしまいましたが、赤ピーマン声の銀髪青年と小さな少女の前に素早く回り込むことに成功しました。
「くっ、そこをどいてください!」
赤ピーマン声の銀髪青年は懐から1枚札を取り出すと臨戦態勢に入ります。
さて、どうしたものですかね。僕としては仮にも同じ学園の生徒と不必要に事を構えることは避けたいのですが。
「なんだって・・・・・・?」
僕が思わず呟くと、赤ピーマン声の銀髪青年が構えを解いて緑ピーマンのような声で僕で言いました。
世界の守護者は流石のネームバリューですね。
Side乱火
猛然と駆け出したヴァイオラのすぐ後ろまで追いつくのは僕にとってそう難しいことではありませんでした。
「ちょっと、私は忙しいって言ってるでしょ! 構ってる暇なんて無いの!」
追いつかれることは想定外だったのか、ヴァイオラは後ろをチラリと振り返ると焦りと苛立ちを含んだ声を上げます。
これでも忍者のウィザードですからね。足の速さには自信がありますよ。
しかしブリッツ関係で忙しいとはどういうことだろうか。操っている? あるいは・・・・・・。
「もしブリッツをどうにかしたいと考えているのなら手伝います。だから待ってくださいお兄さーん!」
僕の直感でしかないのですが、どうにも彼は悪人では無い様な気がしたんです。
「嬉しい申し出ね。でも、悪いけど今は誰も信用できないわ」
流し目気味に僕を見るとヴァイオラは何か黒い物体を放り投げてきました。非常に嫌な予感がします。
「えっ、ちょっと・・・・・・アッー」
その黒い物体が地面に落ちた瞬間、鋭い閃光が僕を包みました。やばい、死ぬかも。ティウンティウンティウンティウン。
強烈な光に視界を奪われ、僕は思わず立ち止まって両手で目を押さえてしまいます。
「ただの閃光弾よ。失明はしないと思うわ」
耳元で声がしたかと思えば、ヴァイオラの足音がどんどん遠ざかっていきます。目が、目が死ぬ・・・・・・。
Side響
世界の守護者、アンゼロット。確かにそう言った。
僕は札を仕舞うと、目の前に立ち塞がる輝明学園の制服を着た謎の人物に問いかける。
「貴方は一体・・・・・・?」
「僕は
イクスといいます、冷えたコンビニ弁当を一緒に食べましょうか」
どういう・・・・・・ことだ・・・・・・。
言葉の真意を掴めず返答に窮しているとイクスと名乗る男性は続ける。
「貴方がたは、僕にカリフラワーを突っ込む・・・・・・というわけではないようですね」
ふと後ろのレインさんを見てみる。ケータイ弄ってた。
ダメだ、僕が何とかしないと・・・・・・。
「ええと、貴方はアンゼロットの指令でここにきたということですか?」
「ええ、サバの味噌煮です」
・・・・・・。
意思疎通の放棄も前向きに検討しているとイクスさんは続ける。
「僕のすべき事はヴァイオラへの協力とブリッツの討伐です」
ヴァイオラへの協力? 僕達が聞いた限りヴァイオラは裏切り者で処断の対象。
しかしアンゼロットの指示というのが本当ならば、ヴァイオラを処断する必要なんてあるはずがない。
志摩さんたちは情報を100%正確に伝えなかった? だとしたら何でそんな必要が?
わからない事は多いけど、現状ヴァイオラへの攻撃優先度は一気に低下したと見ていいかもしれない。
「貴方がたはイチゴ狩りですか?」
僕が思考の世界にどっぷり浸っているとイクスさんが首を傾げながら尋ねる。
前後の文脈と字面の雰囲気から察するに『訳:君達の目的は?』・・・・・・ かな。
「僕たちはコスモガードからの依頼でブリッツの討伐、並びにヴァイオラの始末を依頼されているんです」
「そうだったのですか。なら、一緒に芋掘りをしませんか?」
『訳:ここは手を組んでブリッツを一緒に討伐しませんか?』 かな。間違ってたらどうしよう。
アンゼロットが後ろ盾に居るならば恐らくヴァイオラは討伐対象から外れる。
ブリッツの討伐と言う目的が一致している以上確かに手を組むのは合理的だけど・・・・・・
本当にアンゼロットの指令で動いていると言う確証が欲しい。
「できれば本当にアンゼロットの使いであるという証拠が見たいのですが」
「イ、イクスさんがアンゼロットの使いなのは本当だと思いますよ」
弱々しい声と共に乱火さんがふらつきながら戻ってきた。
どうやらヴァイオラは取り逃がしてしまったらしい。
「イクスさんは今日僕のクラスに転校してきたんです。タイミング的にも間違いないでしょう」
成る程。冥魔の出現に合わせて人員を学生として輝明学園に潜入させるなんてそうそうできることじゃない。
直接的な証拠ではないにしろ、どうやら信じてよさそうだ。
「疑うような事をして申し訳ありません」
「別に僕のブロッコリーを見せてもよかったのですがね。それで、一緒に芋を掘っていただけますか?」
僕は乱火さんとレインさんを交互に見やると、2人とも小さく頷いた。
解釈が間違ってなかったことにちょっとだけ感動。
「ええ、僕は
北河響と言います。よろしくお願いします」
そこまで言い終えると、不意に僕と乱火さんとレインさんの携帯電話が鳴る。東野さんからのメールだった。
『ブリッツが潜伏している場所が分かりました。街はずれにある廃工場にて目撃情報あり。討伐に向かってください』
廃工場の地図情報と画像も添付されている。
「廃工場にブリッツが出現したみたいです。急ぎましょう!」
乱火さんがそう言った瞬間、ヴァイオラが構築したと思われる月匣が消滅した。周囲が再び停電に動揺する人たちの喧騒に包まれる。
まるで僕達をどこかで見ていたとしか思えないようなタイミングだな・・・・・・。
最終更新:2013年02月24日 01:20