Mystery Circle 作品置き場

真紅

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nightstalker

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Last update 2008年06月01日

Rebirth  著者:真紅


「何読んでるのかしら」

彼女は、不思議そうに後ろから覗き込んでくる。
昨日から読み始めていて、授業が終わってから読んでいた本から顔を上げる。
「ちょっとした小説さ」と返す俺に、彼女は「へぇ」とだけ返す。
ジャンルとしては、ミステリー小説なのだけど彼女にそんな事言える訳が無い。

「ちょっと貸して」

俺は慌てて「あっ」と声を出すが、もう遅い。
彼女の手は早く、あっという間に俺の手から本を抜き取った。
そしておもむろに、パラパラとページを捲っていく。
読んでいる・・・というより、眺めているといった方が近いだろうか。
だとしても、彼女の瞳は確実に一文一文をなぞっている。

しばらくすると、彼女は「ふーん」と溜め息のような声を出した。
そしてパタン、と本を閉じると俺の方へ投げ返した。
その突然の行動に「おっと」と焦る俺を見て、彼女は少し笑った。

「・・・良いじゃん」

彼女はそう一言残すと、背を向けて次の授業へ行ってしまった。
いつも、俺が読む本に滅多に興味を示さない彼女だ。
まさか、感想を聞けるどころか「良い」とまで言うとは。
俺は呆気に取られて、せっかく掴んだ本を床に間抜けに落としてしまった。

何故だ、と言われれば答えは簡単である。
「幽霊は居ると思う?」と聴くと、大声を上げて笑うような彼女、だからだ。

ただでさえ奇奇怪怪な世界を繰り広げる、俺の大好きなミステリーの世界でさえ。
いつもの彼女にとっては、「ただのインクと紙の世界じゃん」で終ってしまう。
それがとても悔しいけど、言い返せないのが俺のダメな所だろう。

分かっていても、彼女の瞳はそんな色を灯している。
どこか逆らえない、そんな支配者の素質を秘めた瞳の色を。

彼女の周りに集まる人々も、それに魅かれている。
しかし、俺は皆が知らない彼女を知っている。
俺の前では、ただの可愛い女の子であるという事を。

そんな彼女が愛しくて、俺は気持ちの全てを彼女に曝け出す。

曝け出して、曝け出して、それでも足りないほどに。
彼女は、人前ではそんな素振りは見せはしない。
しかし、二人きりではこれでもかというぐらいに俺を愛してくれている。

だからこそ、こうして何年も経っても傍に居られるんだと思う。
だからこそ、今の彼女の一言が俺はとても嬉しかったのだ。
俺は、「待てよ」と彼女の後を追った。
追うと、彼女は「・・・ん」と手を差し出してくる。
俺は、その手をしっかりと掴んで教室に着くまで決して離さなかった。
互いに、別れが永遠に来ないと信じて。

 ――――――――――――――――――――――――――――――

だけど、別れは不意に来た。
それは、彼女を俺がいつものように家の近くまで送った直後にだ。

事故に遭って死んでしまった。

あっという間だった。

知らせを受けて、病院に着くと彼女は白い顔で手を組まされていた。

いつも見せていた、あの瞳をしっかりと閉じて。

嘘だ。

嘘だ。

こんなの。

俺は狂ったように、壁に手を打ち付けた。

何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。

痛みなんて感じない、悲しみが麻痺させてしまっているのだろう。

何も感じない、悲しみが俺の全てを麻痺させてしまった。

そのせいだろう。

視界が、血で染まったように赤く赤くなっていく。
強く握った拳から、血が溢れるのさえ俺は気付かなかった。

 ―――――俺は彼女を失うと真っ白になった。
彼女の両親に抱えられながら自分の部屋に戻っても、何も考えられない。
考えたくない、彼女の事以外。
考えれない、彼女の事以外。

ふと、一冊の本が目に入った。
彼女が笑い飛ばしてきたミステリー小説の中で、唯一興味を示してくれた本だ。
俺はその本の内容を思い出すと、元気が沸いてくるようだった。
また、彼女に逢える。
その一心が、俺の中の悲しみを打ち消して一瞬にして支配した。

まるで、彼女の瞳に魅入られた時のように。

そして、俺は窓の桟に足を掛ける。

逢える。

ほうら、彼女がそこで笑ってる・・・。

俺は空中でもがいて伸ばした手で、彼女の手を掴んだ気がした。



 ――――本のタイトルは『輪廻転生』。
運命は、回って回って回り続ける。
いつか辿り着くゴールは、すごろくのように必ずスタートへと戻る。
俺と彼女は、揃ってスタートに戻っただけなのだ。
そう、いつかは巡り巡って逢えるのだ。
またいつか、彼女に逢えると信じて。

"奇妙な輪"の下で――――――――――。

いつかきっと。




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