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不殺の刀と不生の刀《後編》


同時刻、七花が右衛門左衛門に対してした評価通りのことをやってのけていた。
「これでようやく一人か、全く幸先の悪い始まりかただ」
と、駆ける速度を緩めることなくさっきの戦いで受けた斬り傷をなでる。
もうすでに止血はすんでいるが、胸から腹にかけて袈裟懸けにばっさり切られている。
よく致命傷にならなかったものだと、今になって思う。
あの時はそんなことを考える余裕が無かった。それほどに手強い、手強すぎる敵だった。
今でも先ほどの戦いをまじまじと思い出せるほどの熾烈な戦いだった。

白みかけた空の下、金属どうしがぶつかり合う音が響く。
二人に人間によって、片や、長刀を手にした仮面の男、片や顔面に刺青を入れ短い、だが禍々しい形状の刃を手にした少年、傍目からみれば異形きわまる二人の人間が、常軌を逸した速度で切り結んでいる。
だが、その戦いは一方的だった。一方的に仮面の男右衛門左衛門が押している。
それは当然のことだろう。
刺青の少年、人識の持つ得物と右衛門左衛門の刀では長さに違いがありすぎる。
人識が武器を振っても右衛門左衛門の体には届かない。
間合いの違いは絶対的な攻防の差を生み出す。
にも関わらず。
決定的な一撃が与えられない。
大上段から振り下ろせば、避けられ。
横薙ぎに払えば、いなされ。
袈裟懸けに払っても受けられる。
さっきからそれの繰り返しだった。どれほど激しく攻め立てても、その全てが防がれる。
このままでは拉致があかない。
そう判断した右衛門左衛門は体をねじるようにして反動をかけ、長刀でなぎ払いをかける。
長さを活かしたその斬撃は遠心力により、たとえ斬られずとも受けとめれば凄まじい衝撃が襲うはずである。
それならば、どのように防ごうとあの体躯では衝撃には耐え切れない!
はずが
その攻撃を
人識は刃が触れる瞬間に自分の得物の角度を変え、その斬撃を軽く受け流す。
「な…」
こうされてしまえば、付けた衝撃が逆にあだとなる。
振り切った反動を殺しきれず体勢が崩れたところに間髪入れず、人識に懐に飛び込まれる。
(まずい…!)
これほどに距離を詰められれば、長刀の利点である長さも役には立たない。
どころか、この距離は人識の持つ刃物の領域だった。
「じゃあな、雑魚キャラ」
その言葉を死の宣告とするかのように、手にした刃物を構える。
振り戻しは、間に合わない。
「…なめるな!」
間に合わないならば、戻しはしない!
右衛門左衛門はあえて、反動を殺すことをやめ、逆に反動にのせて体を回転させながら回し蹴りを放つ。
「うお!」
さすがに予想外だったのか、人識は攻撃の構えを解き、腕を交差させ蹴りを受ける。
今度は勢いを殺しきれずに後ろに吹っ飛ばされ、それでも倒れることなく再び構える。
「へえ、なかなかいい動きじゃねえか、驚いたぜ」
「それはこちらも同じだ。これほどまでにやるとはな」
口ではそう言いながらも驚いた様子など微塵も見せず右衛門左衛門も体勢を戻す。
「お前ごとき相生剣法だけで、十分かと思ったが、不行、そう上手くも行かんか」
「あいおい?なんだそりゃ?」
「不知、知る必要は無い、どうせお前はここで」
死ぬのだから、と締めくくり再び動
「ちょい、タンマ」
こうとしたところで、いきなり人識の後ろで事態を静観していた玖渚が静止をかける。
出鼻をくじかれた形になりながらも、一応右衛門左衛門はそちらに顔を向ける。
「なんだ?」
「う~んとね、ちょっと聞きたいんだけど、しのばず君だっけ?」
「…この仮面に書いてあるのは、名前ではない」
「そうなんだ、じゃあ名前教えてよ」
「…左右田右衛門左衛門だ」
答えるかどうか、一瞬迷ったようだが、これぐらいなら答えても支障は無いと思ったか、それともしのばずなどと馬鹿馬鹿しい名前で呼ばれるのを嫌ったか、そう言う。
「変な名前だね~偽名?」
「いくら変でもこれが私の名前だ」
「そうなんだ?しーちゃん聞いたことある?」
「はあ?知らねえよ?なんだその全てを肯定しそうな愉快な名字?」
「だよね、僕様ちゃんも結構色んな人と会ったけど、こんな名字の人は知らないし…じゃあさ右衛門左衛門さん、逆に聞くんだけど零崎って知ってるかな?」
「零崎?知らぬな?何かしらの有名な家系か?」
「じゃあさ、玖渚機関は?」
「なんの呪いだ?一体何を言っている?」
次々と飛び出す単語に混乱したかのような右衛門左衛門は逆に聞く。
「ならば、こちらも質問させてもらおう、お前」
「あん?」
「お前の持つその刀、形状からして四季崎記紀の変体刀の一本のようだが、もしや尾張幕府の手のものか?」
その問いかけに人識は気持ち悪そうに顔をしかめる。
「おい、コイツ頭イカれてんじゃねえのか?誰だよ四季崎記紀って?尾張幕府ってどこよ?ってか変態党ってなんだその気持ち悪い集まりは、そして、これが刀に見えんのか?ナイフ以外の何物でもねえだろ? 電波系でキャラ作ってるつもりならやめてくれ、気持ち悪いから、マジで」
普通に聞いたら、精神的にかなりヘコむであろう言葉をズバズバと吐く人識だったが、右衛門左衛門はそのような言葉に反応するよりも別のことに驚く。
「お前たち…まさか、尾張幕府を…知らないのか、日本の人間ではないのか?」
信じがたい、と言う様子の右衛門左衛門とは対照的に裏も表も、戸惑いも驚きも感じさせない笑顔で玖渚はさらりと答える
「うに、僕様ちゃん達、れっきとした日本人だけど、そんな場所全く知らないよ」
どういうことだ…、右衛門左衛門は戸惑う。
尾張幕府の将軍が殺されたとはいえ、未だ権威は健在のはずだ。
日本の人間ならば、知らないはずはない。
罠か、もしかしたら自分の混乱を誘い…いや、この二人が嘘をついてるようには見えない。
一体…
「まあいい」
その思考を中断し、再び消しかけていた殺気を放つ。
「お前たちが誰で何者であろうと、そんなことはどうでもいい、ただ私にとって、いやお前たちにとっても大切なことは一つ、どう勝ち残るか…だろう?」
「は!確かにな、頭がヤバイ以外は筋が通ってるみてえじゃねえか、ああ、そうだ細かい戯言は終わりにしようぜ? もう聞きたいことはねえだろ?」
「う~ん、もうちょっとあるけど、仕方ないみたいだね」
さすがにこれ以上聞いても無駄だと悟ったか、人識の問いにそう玖渚はうなずく。
そして、それを合図とするかのように同時に再び二人は動いていた。
一度、懐に潜り込まれているからか、右衛門左衛門の動きに大振りなものがなくなり、その代わりに、元々速かった斬撃が更に加速する。最早、何度振るっているのかわからないほどに。
が、
その斬撃を人識はやすやすと捌く、四方八方、東西南北、完全無欠に防ぎきる。
連続する金属音、きらめく鈍い光、
それは完璧なまで均衡がとれていて、ともすれば無限に続くかとも思われた。
その均衡を、人識が先に破った。
無数の斬撃の一つ、なんのことは無いその一つを、受け止めた。
今まで受け流すことしかしなかった刃で、刀に比べれば脆弱にしか見えないその刃で、
そして、強引に押し戻し、弾き飛ばす。
「く…」
体躯、得物、筋力、その全てでは有り得ない行動に再び体勢を崩される。
そして、まるでさっきの繰り返しのように人識が懐に飛び込む。

だがさっきとは決定的に状況が違う、今度は右衛門左衛門の体に反動がついていない。
つまり、先ほどのように人識を押しのけられない。

さらに、人識は先ほどよりさらに速く構え、その鋭い切っ先を右衛門左衛門の心臓目掛けて突き出していた。
避けようは無い。完全に王手、決着が付く
はずだった。相手が普通の人間ならば

「背弄拳」

確実に右衛門左衛門を捕らえたはずの攻撃は虚しく空を切る。
「あ?」
理解不能の事態に戸惑うのとほぼ同時に、
「人識君!後ろ!!」
と、叫ぶ玖渚の声がするとともに凄まじい殺気がほとばしり、背中に熱湯をかけられたかのような痛みが走った。

「不禁、全く驚きを禁じえないな」

と、背後から右衛門左衛門は言う。

人識の背後で、刀を振り下した格好で、

「今の攻撃、確実に命を断てるものだったのだがな、今の声に反応したか?」
そう今の一撃で確実に人識の体を両断出来ていたはずだった。

だが、寸前のところで人識は前進していた。
それにより、刀の間合いにはわずかに届かず、背中を切り裂く程度にとどまってしまった。

(やはり、二人相手ではやりずらいな)
今玖渚がよけいな声さえかけなければ、決まっていただろう。
いかに戦力とならずとも、やはり戦いを見られては鬱陶しいものだ。
(この娘を先に殺すか?)
今ちょうど、右衛門左衛門は人識と玖渚の間に割って入っている形となっている。
今なら人識の邪魔が入ることは無い、ほんの一瞬で、事足りる。
だが、懸念すべきこともまたあった。

(この男、声がした瞬間に動いていた)
確かに声に反応してはいたが、後ろと言われる前に回避行動をとっていた。
背弄拳について知っていたとは考えづらい、これはとっくの昔に滅びた忍法だし、
見せた相手はほとんど確実に殺してきた。
ならば信じがたいが、反射神経だけでかわしたということだ。
もしもそうなら、こんな相手に背を向けるなど危険すぎる。
(やはり、まずこちらからだな)
致命傷を避けたとは言え、あの傷は決して浅いものではない。
現に、肩から腰に向けての切り傷からは血があふれ出している。
これならば、次で決められる。
そんなことを考えてた矢先、

「かっはっはっは!!傑作だ!本当に傑作だぜこりゃ!」

突然人識が笑い出す。
狂気を感じさせるような笑いで、恐怖を感じさせるような笑いで、
笑う、右衛門左衛門に背を向けたままで、血を流し続けながら。
「仮面で、頭がヤバいなんてただのぶっ飛んだ奴かと思ったが、中々どうして、おもしれえな」
ようやく笑うのをやめ、それでもやはりこちらに背を向けたままそう言う。
「不判、わからんな、自分の置かれている状況がわかっているのか?もう理解していると思うが、私はお前の背後に回りこむことができる。もうお前の前に姿を現すことはない、そしてお前のその武器では背後の私を攻撃できないと思うが」
「だから!だから面白いんじゃねえか」
まるで頭の悪い人間に言い聞かせるように人識は言う。
「今まで、俺は背後を取られることなんて数えるほどもねえんだよ、それがこんなにあっさりなんて、傑作以外の何物でもねえだろ」
背を向けたまま人識はしゃべり続ける。今にも自分が殺されそうなことなどまるで気にしていないように、
「つまりだな、俺は生まれて初めて、背中にいる奴に対して攻撃されることになるわけだ、初めてってな何事も痛いって相場が決まってるもんだが、中々どうして痛いもんだぜ」
「何を、何を言っている」
「あん、だからそんなん決まってるだろ?」
その瞬間、右衛門左衛門は心臓を鷲づかみにされるかのような感触に襲われる。
(な、なんだ、この殺気は!)
仮面では隠しきれないほどの動揺が走る。
そんな様子を全く見ようともしないで、しかし見えているかのように人識は言う。
「戯言だってんだよ、ばぁか」
その言葉と同時に振り向く動きを見せる。
間髪いれず、再び右衛門左衛門は背弄拳を発動し背後に回りこむ。

たとえ、どれほどの化け物であろうとも、背後にさえ回られてしまえば、どうすることもできないはずなのだから、そうどんな人間でも背中に目は無いのだから、
そう自分に向かってくる背中を見ながら思う。

…向かってくる?

「なあ!?」
咄嗟のことに声にならない叫びを上げる右衛門左衛門に、人識は背中を向けたままぶつかる。そして、体勢を立て直す暇も与えず。体を回転させ、
「今度は外さねえぜ」
右衛門左衛門を斬り上げる。
咄嗟に、よろめいた動きを利用して、後ろに下がるが間に合わない。
まるでさっき斬りつけたのをそのまま逆にしたように、腹から胸にかけて斬られる。
「おのれ…」
なんとか致命傷をさけはしたが、浅い傷ではない、そう人識と同じように。
「おいおい、もう俺の前に出てこねえんじゃなかったのか?」
嫌味たっぷりに人識は挑発するが、右衛門左衛門にすればそれどころではなかった。
ようするに人識は右衛門左衛門の動きを予期し後ろに回りこませ、それと同時に後ろに跳躍したのだ。
言葉にすれば簡単だが、それは尋常のことではない、
それほど素早い行動をするには振り向いて後ろを確認している暇など無かったはずだ。そんなことをすれば、その隙をつけたはずなのだから。
つまるところ、本当に信じがたいが、
何も確認せずに後ろに跳んだのだろう。
(あ、ありえん!後ろを確認もせずに躊躇なく跳ぶなど!)
もしも、もしも、右衛門左衛門が刀を水平に構えていれば、串刺しになっていたかもしれない。
それぐらいのこと、考えればわかりそうなものなのに、
(こいつには恐怖が…ないと、言うのか)
その瞬間右衛門左衛門は確信する。

コイツは正真正銘、比喩などではなく、化け物だ、と。

「ん?」
右衛門左衛門の動きに人識は眉をひそめる。
右衛門左衛門は刀を鞘に戻し、腰へと戻してしまっていた。
「なんだ、まさか戦意でも無くしたのかよ?」
「不案、案じずともそういうことではないよ」
そう人識の言葉を否定して、ゆっくりと手を手刀に構える。
「だが、そろそろ決着をつけようと思ってな、どうやら私は勘違いをしていた。私の目的は戦うことでは無い、殺すことだ、これ以上ダラダラとやっているわけにはいかん」
「へえ、まだなんかあんのかよ」
「ああ、これが私の最後の攻撃だ、お前も、全力で来い」
「へえ、いいね、あんた中々気にいったぜ、悪かったよ雑魚とか言って、ま、その代わりにきっちり殺してやるよ」
「殺す…か」
感慨深そうにそう呟き、突然質問する。
「お前にとって、殺すとはどういうことだ?」
「あん?」
「お前にとって殺しとはどんな意味を持つか、と聞いた」
「んなもん、得に理由はねえよ、全てにおいて気分だ、人間は息を意識してしてるか?」
「なるほどな…わかりやすいよ、お前は」
そう言って、構える。

思えば、その質問は右衛門左衛門がこれから行おうとしていることに対しての、せめてもの贖罪だったのかもしれない、

だが、人識はそんなことを気にも留めずに構える。
「まあいいさ、決着ってんならな、来いよこれでお開きとしようぜ」
「ああ、では、左右田右衛門左衛門」
「零崎人識、いざ尋常に、一生懸命」
言葉とともに、二人とも申し合わせたように、足に力を込め。
「果たしてお前は何といって」
「殺して解して並べて揃えて」
片やは手刀を水平に構え、片やは得物を強く握り、
「死ぬのかな」
「晒してやんよ!!」
同時に飛び出した。

そうそれこそ、とんでもない間違いだった。
もしも人識が右衛門左衛門の素性を知っていて、忍者という物がどんなものか理解していれば、右衛門左衛門の言葉になど乗らなかっただろう。
そう人識は理解していなかった。

こちらが二人いて、向こうは一人、そして人識は右衛門左衛門を殺そうとするのに対し、右衛門左衛門は殺すのはどちらでもよかったということを全く理解していなかった。

だからこれは当然結果だった。

人識は勢いをそのままに走り抜け、そして止まりゆっくりと振り返る。
そこには血が飛び散っている。
だが、右衛門左衛門は無傷で立っている。
そう、それは右衛門左衛門の血ではない、そもそも右衛門左衛門の狙いは決着をつけることなどではなかった。
狙いはいかにして、人識に隙をつくらずに人識を通り抜けるかにあったのだ。
そしてその狙いはまんまと成功し、そこに結果が、

全身を切り刻まれ、血を撒き散らした玖渚が倒れていた。

「汚い…と思うか」
黙ってこちらを見ながら右衛門左衛門は言う。
「だが、私は誰かを殺さねばならないのでな、ならば簡単なほうを殺すのが当然…だろう?」
それでも人識は黙っている。黙って、その景色を見ている。怒りも憎しみも感じないように、
そして、唐突に口を開く、
「ふざけんなよ…」
「まあ、それが当然の反応だろうな、この女はお前の何かだったようだからな」
「はあ?ふざけてんじゃねえよ!」
突然に怒りをむき出し、怒鳴る。
「てめえ、つまり何か!?あの決着なんていったときからこれを狙ってたってことか?俺なんぞ眼中にも入れてなかったってのか!!後少しで、あと少しで何かがどうにかなっちまいそうだって思ってたのに!!」
「不解、怒っている意味がわかりづらいが、まあ、そうなるな、お前を殺すのは骨が折れそうだったのでな」
「だったら骨を折ってでも俺を殺せ!!何くだらねえことしてんだ!!」
「悪いが」
ゆっくりと右衛門左衛門はあとずさる、あくまで人識に背を向けることなく、ゆっくりと、
「一応目的は達したのでな、これ以上続ける気はない、一人殺せれば今は上々だ。一応すまなかったとわびを入れておこう。まあ、こちらも多少情けをかけたがな」
「何?」
「その女はまだ生きている、もう助かりはしないだろうがな、それでもしばらくは持つだろう」
そう言って、今度は視線を足元の玖渚に向ける。
「わかってると思うが一応言っておくぞ、私はいっくんとやらは殺していない」
「うに…わかってたよ、…これでも僕様…は嘘を見…抜くの得意なんだ」
「なるほど、ならば一応言ってやる、奴を見かけたのはE-5辺りだ、奴らの移動速度からするにまだこの辺りにいるのではないか?」
「てめえ、何言って」
「お前なら、この女が命尽きる前にいっくんとやらを見つけ出せるのではないか?まあ、強制はせんがな」
そう言うと、少し足を止めて、そして言う。無感情に言葉を放つ。
「これが私にとっての殺すということだ。大切な人間を生き残らせること、それが私の殺す意味だ。そのためならば、どんな相手であろうと容赦しない」
その言葉を言い終えると同時に、ボウガンを取り出し、放つ。
二人の距離からすれば、ほぼ回避不能の速さだが人識はやすやすと弾き飛ばす。
が、その弾き飛ばす一瞬を見計らい、右衛門左衛門はクルリと背を向け、脱兎のごとく駆け出し、
その姿はあっという間に見えなくなった。

それはあっけないほどの幕切れだった。



「おい、大丈夫か?」
「うに…なんとかね…ほんとあの人すごいよ…僕様ちゃんみたいなひ弱な体を…本当に……ギリギリの所で生かしてる」
それでもやはり苦しいのだろう、玖渚の喋る言葉が切れ切れとなっている。
まるで一言話すごとに命を削るように、
「ごめんね、僕様ちゃんがいたばっかり…に、勝負が曖昧になっちゃたね」
そんな状況でも、とぼけるようにそんなことを言う。
「まあ、構わねえよ、この殺し合い続けてりゃ、またバトるだろうしな、んなことより、お前どうすんの?」
「さっきの右衛門左衛門って人の言葉を信じて……E-5の近くに…いるみたいだから、……恐らく骨董アパートに向かってるはずだし、行ってみるよ」
血だまりの中で、それでも玖渚はなんとか体を起こし、そう言う。
「その体で、かよ」
「うに…どうせ僕様ちゃんの体っていっつもこんな感じだもん、あんまり変わんないよ、それに人識君に殺されんなら、ちゃんと、いーちゃんに伝えてくれるだろうけど、あの人は信用できないし」
少しは話しやすくなってきたのか、そう笑いながら言う。
だが、人識にはわかる。

もう長くはない。

これではたどり着くまでにのたれ死ぬであろうことは確実だった。
「それにしても、すごい人だったね、人識君」
「あ?ああ、あいつ、戦い方から逃げ方まで完璧だったよ、プロのレイヤーってとこか、おまけになんだあの技、あんなもん見たことねえぞ」
「それに変わったことも、言ってたし、尾張幕府とか四季崎とか」
「ありゃ、ちょっとおかしかっただけじゃねえのか?」
「そんな人には見えなかった…けどな、さっきのまにわ君といい、ひょっとしたらこのゲームは僕様ちゃんが思ってる以上に複雑な事情があるのかもしれない」
そこまで話すと、一息つきふいに人識の方を向き言った。
「ありがと、しーちゃん、もういいよ、ここまでで」
「何?」
「これじゃ、しーちゃんの邪魔以外の何者でもないし、もう、ここまででいい、それで、もしいーちゃんを見つけたら僕様ちゃんの、こと伝えてくれると…うれしいな」
笑いながらもその目は真剣だった。真剣に願っていた。
人識はその目をじっと見る。
殺人鬼に真剣に願う少女と、それを聞いている殺人鬼。
「傑作だな」
そう言うと、立ち上がる。
玖渚を背負って。
「うに?」
「てめえはさっきから十分邪魔者だよ、今頃どうってことねえ」
そう言って、歩き出す。
消えかけた命を背負う殺人鬼、まったく、まったくもって、
「傑作だぜ」
「本当にね、しーちゃん」
「しーちゃん言うな」
こうして再び殺人鬼は歩き出す。
さらなる狂乱へさらなる戦いへと、青い少女を背負って、進んで行く。血で全身を濡らしながら。



「しかし、まさかあんな強敵がいようとは…」
全くの予想外だった、と右衛門左衛門は思う。
せいぜい注意すべき敵など虚刀流と真庭忍軍、そして鑢七実くらいのものだと思っていたが、甘かった。
まさか、自分があそこまで手こずるなどとは夢にも思わなかった。
「それにしても、奴ら何者だ…」
あの刺青の少年は異常だった。
あの妙な小刀の卓越した使い方は、まだいい、あれぐらいなら驚くには値しない。
だが、全く恐怖を感じないようなあの戦い方、そしてあの全てを呑み込むような眼。
なにより、あの少年には底が見えなかった。
それはこちらを圧倒するかのようなものでなく、どちらかといえば沼のようなものだった。
この程度かと思っていた矢先に急に深くなる底なし沼のように、
正直、あのまま続けていたとしても負ける気はしなかった。
背弄拳を破ったと言っても、あんなめちゃくちゃな方法二度も通じさせはしない。
それに距離をとってボウガンを打ち続けてもよかった。
いや、極端な話、あの不生不殺で人識を狙っていれば、それで終わっていたはずである。
だが、それでも絶対の勝利を確信できない、何か更なる手を隠し持ってる、そう感じさせる相手だった。
故に引いた。
「それにあの女…」
あの青髪の女もおかしなことを言っていた。
「尾張幕府を、知らないだと」
確かに将軍は没落しただろうが、それでも後釜は座っていて、未だに日本を牛耳っているはずである。
(そして、玖渚機関、零崎、闇口、そしてあの喋る箱、この立ち並ぶ建物)
どれもこれも見覚えも聞き覚えもないものばかりである。
(一体ここは、どこだ、一体奴らは何者だ、不理解、理解できん)
一瞬思考の泥沼にはまりそうになるが、すぐにそんな考えを振り払う。
今の自分に大事なことは、そんなことではない。
(全ては、姫様のため)
そう自分は、否定姫の懐刀、それだけでいい、そのために誰であろうと殺すだけ、刀に意志は必要ない。
「恐らく、あの女は今日の夜までは持たんだろうが、一応他にも殺しておかねばな」
そう呟き、駆け続ける。
あの少年のこともある、ひょっとしたらあれに匹敵する者が他にもいるかもしれない、休んでいる暇はない。
白みがかった空の下、その刀は駆け続ける。

新たなる敵を求めて。



【1日目 明朝 F-6】
【零崎人識@零崎一賊シリーズ】
[状態] 負傷(肩から腰にかけて斬られた)
[装備] グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3)
[思考]
基本 無桐伊織を探す。気が向いたら誰か殺すかもしれない
 1 あの仮面の男を次にあったら殺す
 2 一応、玖渚が生きてる間は欠陥製品を捜してやる。

【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態] 致命傷(右衛門左衛門曰く長くは持たない)
[装備] なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3)
[思考]
基本 死んじゃう前にいーちゃんに会って、自分のことを伝えたい
 1 今は人識君と行動
 2 この島で起きてることの、方法と理由が知りたい
 3 とりあえず、変わった人がいっぱいいるな
 4 ちょっとヤバイかも

 ※参加者に関して色々おかしな人間がいることに気づきました。

【1日目 明朝 F-6から移動中】
【左右田右衛門左衛門@刀語シリーズ】
[状態] 負傷(腹から胸にかけて切り裂かれた)
[装備]ボウガン(矢付き)@戯言シリーズ  刀(大小の大の方)@刀語シリーズ
   手裏剣×3@刀語シリーズ  永劫鞭×1@刀語シリーズ
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1?3)
[思考]
基本 姫を探しつつ、見つけた姫以外の人間は殺す。
 1 姫を見つけたら、以後は姫の指示に従う。
 2 姫を闇口濡衣が何らかの方法でも守っていたら闇口濡衣と手を組む。
 3 姫が参加していなかった場合は、闇口濡衣と手を組む。
 4 人識に関しては警戒せねば
 5 他にもあんな者がいるのか

 ※少しゲームに疑いを持ちました。


028← 028 →029

← 追跡表 →
― 左右田右衛門左衛門 ―
― 零崎人識 ―
― 玖渚友 ―

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最終更新:2009年12月17日 22:37