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死者一人(小さき鳥)


「とにかく……今のぼくにできる最善を尽くそう」

 目の前に横たわる、真っ赤な髪をした人類最強(自称)さん。
 彼女が確かに気を失っていることを確認して、ぼくは―――真庭忍軍頭領が一人、真庭人鳥は行動を開始した。
 鳳凰さまのため、真庭忍軍のため、そしてぼく自身の今後のために、この女はここで味方につけておくべきだ。
 少なくとも―――敵に回してはならない。
 人一倍臆病なぼくの、臆病ゆえの警戒心が、そう告げている。

 震える手で、炎刀を奪う。

 つい先刻、運が悪ければぼくは彼女に殺されていた。
 完全に、ぼくは何の痕跡も残さず、天井裏に身を潜めたはずだった。
 しかし、他の十二頭領達と比べても決して劣っていないはずのぼくのそれを―――彼女は、看破してしまった。
 まるで、そうなるのが当然だと言わんばかりに、あっさりと破ってしまったのだ。
 忍法柔球術にしても……果たして、ぼくの柔球術にあそこまで耐えた相手が他に居ただろうか?
 ぼくを殺した―――もっとも何故かこうして生きているものの―――右左田右衛門左衛門にしても。
 柔球があの速度、威力に達するより先にぼくを殺したに過ぎず、柔球術そのものは攻略できていないというのに。
 仮に、彼女があと一、二分耐えれていたとしたら。
 加速した柔球が硝子を割り、外へ飛び出すまで耐えれていたとしたら。
 その場合、負けていたのはぼく―――そんな段階まで、彼女は柔球術に耐えたのだ。
 間違い無い……彼女の単純な力量は、ぼくよりも上。
 即ち、真庭忍軍十二頭領の面々と同格か、それ以上。
 本来なら―――忍法運命崩しが無ければ、ぼくでは彼女には敵わないのだ。

 炎刀に続いて、彼女の分の道具袋―――ぼくのものと、ほぼ同一だ―――も回収しておく。

 ただ―――運命崩し無しでは敵わない。
 それで、逆に安堵できたこともある。
 本来勝てないような相手に勝てたということは、ぼくの運命崩しが正しく作用しているということだから。
 絶対的な、絶望的な力量差をも引っくり返せるこの忍法が、今もなおぼくを守っているということだから。
 そして、それはつまり、ぼくらをこの場に呼んだ彼らには、ぼくの幸運に枷を設けることはできなかったということで。
 崩れた運命は―――主催者にもどうにもできないということだ。

「なら……ぼくの強運が……ぼくの強さが……奴らと事を交える際には、役に立つかもしれない。
 鳳凰さま達のお役に、立てるかもしれない」

 鳳凰さまも狂犬さんも、何も考えずに主催者に従うような人じゃない。
 表向きは殺し合いに乗ったとしても、腹の底で虎視眈眈と反撃の機を狙い堪え忍ぶ、彼らはそんなしのびだ。
 だから、ぼくが彼らの足を引っ張るわけにはいかない。
 ぼくはぼくがすべきことを―――人類最強の請負人との交渉を、成功させる。
 どんなに怖くとも……どんな手を使ってでも……必ず。

「と、とりあえず炎刀と道具袋は回収したし……他に暗器の類も隠し持ってはいないみたいだ。
 あとは……そうだ、一応縛っておくべきかな?」

 目覚めてすぐに、襲いかかってくるかもしれないから。
 そう思い立ち、部屋の中を探索する。
 十分な長さの縄があればいいのだけれど、生憎この部屋には見当たらない。
 他の部屋を回ってみれば見つかるかもしれないが、彼女がいつ目を醒ますかわからない以上、それは危険だ。
 本当ならしのびの嗜みとして、どんな状況にも対処できるよう道具は常に一式持ち歩いているのに。
 残念な事に、便利過ぎるということなのか、そちらの道具類は奪われてしまったようだ。

「でも、柔球を奪われなかっただけいいのかな。
 柔球無しじゃ、最強さんは倒せなかっただろうし……そうだ」

 最強さんから回収した、彼女の道具袋を開く。
 予感がする……『運が良ければ』この中にきっと……。
 ぼくの袋にも入っていたあれやそれを脇に退けながら、中身を検分していく。
 程無くして、手頃な長さ、手頃な太さの縄数本が、袋から顔を出した。
「やった! これで縛れ―――!」
「おいおい、最近のお子様はそんなプレイが好みなのかい?」
「!?」

 お、遅かった?
 振り返れば―――彼女はゆっくりとその身を起き上がらせていた。
 反射的に、彼女から離れようと後ろに飛ぶが―――狭い部屋のこと、大して距離は取れはしない。
 だ、大丈夫だ―――柔球も炎刀も、こちらの手にある。
 対して相手は素手で、しかも手負いだ。判断を間違えなければ、戦いになっても負けは無い。
 拘束できなかったのは痛いけれど……そこまで状況が悪化したわけじゃない。
 落ち着け。落ち着いて、交渉をすればいいんだ。

「さっきはちょいとしてやられちまったが……今度はそう簡単にはいかないぜ?
 言っておくがあたしは変身する度に戦闘力が遥かに増す。その変身をあたしはあと二回残してる……この意味がわかるな?」
「ぼ、ぼくはお前と戦う気はない……話し合いがしたい」
「話し合い?」

 『話し合い』という単語に最強さんの眉がぴくりと動く。
 ど、どうだ……?
 交渉に、乗ってくれるか……?

「話し合いねえ。お前と話して、あたしが何か得をするのか?
 この距離だ、あたしはほんの数歩踏み込むだけで、お前を殺せるんだぜ?」
「ぼくとお前、互いに得のある話だ。
 そ、それに、今のお前にぼくは殺せない。お前がぼくに何かするよりも早く―――ぼくはこれをお前に撃てるんだから」

 彼女にもよく見えるよう、炎刀を持った右手を胸の高さまで持ち上げる。
 炎刀『銃』。
 その恐ろしさは、身をもって味わったのでよく理解している。
 これの速射性ならば、彼女がぼくに迫るよりも先に、彼女の身体を撃ち抜くことは十分に可能だ。

「……おお、こわいこわい。仕方ない、話くらいは聞いてやるよ」
「じゃ、じゃあ単刀直入に言う。ぼくと手を組んでくれ、人類最強の請負人」
「手を組むだ? おいおい、最初にあいつらが言っていたことを聞いてなかったのか?
 最後の一人になるまで殺し合えって言ってたのを聞かなかったか?
 見せしめで殺されちゃったお仲間の死にザマを見なかったのか、『真庭忍軍の十二頭領くん』よぉ?」

 ……えっ!?
 な、何故知っているんだ!?
 ぼ、ぼくは彼女に一度も名乗ってない。真庭忍軍の頭領という身分を明かした覚えもないのに。

「いや、ギャグで言ってんのか?
 はじめに殺された真庭忍軍十二頭領とかいう連中。
 最初の場所でお前はその連中と一緒にいた。
 お前の格好には連中と同一の意匠が取り入れられている。
 それに、さっきお前自分から忍法とか言ってただろうが。
 これだけヒントが有ったら、お前の正体なんて簡単に検討がつくっての。
 口から武器を吐き出した、あのびっくり人間の名前が真庭蝙蝠だったから……差詰お前は真庭ペンギンってところか?」
「あ……そ、そうだ。ぼくの名前は真庭人鳥。
 察しのとおり、真庭忍軍十二頭領が一人『増殖の人鳥』だよ」
 おおお落ち着け!
 た、たかが名前と立場を知られただけだ、大したことじゃない。
 その程度は彼女の協力が得られれば明かそうと思っていたんだから、それが早まっただけだ。
 名を知られたそれ自体よりも、その動揺を面に出してしまう方が色々とまずい……動じていない風を装うんだ……。

「じゃあ人鳥、あたしと手を組んでどうする?
 結局最後に生き残れるのは一人だってのに」
「別に最後の一人になる気はない……ぼくの目的は、この首輪を外すことだ」
「へえ?」

 ぼくらの行動を制限する首輪。
 首輪がある限り、いつ蝙蝠さん達のように殺されるかわからない。
 だから一刻も早く外したいが……そう簡単に外せれば、苦労はない。下手に解体を試みても、爆発するのが落ちだろう。
 けれど、鳳凰さまならば。
 鳳凰さまの左腕―――忍法命結びで接続した川獺さんの左腕―――なら、忍法記録辿りがある。
 無生物に込められた「記録」を読み取る、忍法記録辿り。
 この首輪を外すにあたり―――これ以上に適した忍法は無いだろう。
 鳳凰さまについての具体的な言及や忍法の詳細は伏せつつ、そう説明する。

「だから、仲間と合流するまでの間……ぼくの護衛を頼みたい。
 護衛をしてくれれば、お礼としてお前の首輪も外す。
 ぼく一人では生き残れる可能性はそう高くないだろうし―――お前一人でその仲間に会っても、首輪を外しては貰えない。
 た、互いに得のある話だと思う……」
「……成程ね。この首輪を解除してくれるのか。
 流石のあたしにもこいつはどうにもできそうに無かったし、そりゃ助かるな」
「それじゃあ―――」
「ああ、悪くない条件だな

                だが断る」

 え…………え?

「いや、本当悪くない条件だと思うんだよ……人類最強の請負人としては、ぜひ請け負いたい依頼だ。
 ただ、あたしはバトルロワイアルでやらなくちゃいけない事があって、殺らなくちゃいけない奴がいるんでね。
 だから、あたしはまだバトルロワイアルのルールを破ることはしたくない……そんなわけだから、悪いな人鳥」

 そう言って、彼女は笑みを浮かべる。
 先程ぼくを襲ったときのような、獰猛な笑みを―――

「あ……ああ…………」

「あたしのために、死んでくれ」

「うあああああああああああっ!!!」

 殺したくないっ、戦いたくないっ!
 だけど―――死にたくはもっとないっ!
 右手の炎刀―――人類最強に狙いを定め、引き金を引く!
 ぱん、ぱんぱん。
 乾いた音が室内に響き―――三発の弾丸が、放たれた。
 放たれた―――そう、たしかに放った、放ったはずなのに!

「な、なんで無傷なんだ! どうして当たらないんだよっ!?」

 一発たりとも、彼女の身体に当たってはいなかった。
 嘘だ……この距離で外れるなんて……!
 ぼ、ぼくには運命崩しが、絶対の幸運があるはずなのに!

「なあ、お前拳銃を撃ったこと無いだろ」
「っ!?」
「扱いが素人同然……いや、もっと酷いな。その構え、その持ち方じゃ奇跡が起こったところで相手には当たらねーよ。
 やれやれだ……『銃は剣よりも強し』……確かに名言だが、素人に持たせるなら銃よりまだ剣の方がマシだな」
「う、うるさい! ぼ、ぼくにはまだ、まだこれがある!」

 ぼくの奥の手、忍法柔球術!
 反射を利用した、『増殖の人鳥』の名前の由来―――!
 懐から、二つの柔球を取り出し―――人類最強へと、投げつけた!
 投げられた柔球は、壁で反射し、加速しながら部屋中を跳ね回り―――乱舞する!

「ほい、キャッチだ」
「…………な」

 ……だが。
 柔球は一度も、反射しなかった。
 否、乱舞するはずだった柔球を二つとも―――反射するより先に、彼女が抱えていた。

「この忍法……加速する前のボールを捕っちまえば、それだけで攻略できるんだな、これが。
 初見なら皆ボールを避けるだろうから通用しても……二回目以降は通じない、それだけだ。
 まあ、この弱点にお前が気付いてなかったってことは、この技を二度受けた奴が今まで存在しなかったってことなのか?
 ……どうでもいいな」

 そんな事を言いながら、人類最強は一歩一歩こちらに歩を進めてくる。
 な、なんでこんなことに……ぼくには、絶対の幸運があるはずなのに―――!

「ああ、それはきっとお前は運を使い果たしちまったんだよ。
 この人類最強の請負人、哀川潤が気を失っている間に、あたしを殺しておけば良かったのにな。
 折角のあたしを討ち取るチャンスを棒に振ったのは、お前自身なのさ」
「そ、そんな―――」

 に、逃げないと……でも、一つしかない扉は彼女の後ろ―――無理だ。
 残りの柔球を投げて、その隙に? いや、それもどうせ無効化されるだけだ……。
 ぼくが何もできないうちに、人類最強―――哀川潤がぼくの前で歩みを止める。

「そういやお前、戦いたくないって言ってたっけな。
 残念だが―――戦わなければ生き残れないってのが、バトルロワイアルって事だ」

 それが、ぼくが聞いた最後の言葉だった―――



■   ■



「いや……ぼくの幸運は、まだ……少しだけ残っていたよ……」

 ぼくの腹を、拳の一突きでぶち抜いて……哀川潤は部屋を去っていった。
 何とか……本当に何とか、まだ息はあるけれど……もう駄目なのが、自分でもわかる。
 どれだけ幸運だろうと……奇跡が起こったところで……もう……死は避けられない。

「でも……今回は、後に残せるものがある……」

 前回。
 左右田右衛門左衛門に殺されたときとは違って……鳳凰さまに、狂犬さんに、残せるものがある。
 それだけが救いで、それだけが幸運だった。

 ぼくの視線の先。
 止まらない血で、畳に書いた文字。
 ところどころ字が震えているけど、読めなくはないだろう。

 そこには、ぼくを殺した相手の名前が―――『哀川潤』という名前が書かれている。
 この場を訪れた鳳凰さまが、狂犬さんが、もしくは他の誰かがこれを見てくれれば。
 それだけで―――ぼくの死は無駄では無くなる。

「やっぱり……ぼくは戦いたくなんてなかった……けど」

 それでも、前よりは。
 前よりは……何かを遺して死ねましたよね、鳳凰さま―――?



【真庭人鳥@刀語 死亡確認】 
【残り 41名】 

※骨董アパート・戯言遣いの部屋に真庭人鳥の死体が放置されています。
※死体の近くに『哀川潤』と書かれたダイイングメッセージが残されています。



■   ■



「さて、予定通り人鳥はダイイングメッセージを残してくれたな」

 息絶えた人鳥と、死体の側の『哀川潤』の文字を確認して、あたしはアパートを後にする。

 いーたんの部屋で本物を待ち伏せしようと思ってたが、予定変更だ。
 このバトルロワイアルで、とにかく多くの参加者に『哀川潤』を敵だと認識させる。
 それが、あたしが本物の哀川潤を確実に殺し、本物に成り代わるために新たに考えた策だ。
 あたしが哀川潤を名乗り、悪逆非道の限りを尽くせば。
 そのリバウンドが、何も知らない本物へと襲いかかる。
 如何に人類最強の請負人と言えど―――自分以外が全て敵じゃ、どうしようもないだろう?
 勿論他の参加者を敵に回すのはあたしも同じだが……その程度、どうにでもしてみせよう。

「このアパートを少年が……おっと、いーたんが訪れたとき、待っているのはガキの死体とダイイングメッセージか。
 せいぜい頑張りな、名探偵さん。鴉の濡れ場島ではあたしが勝ったが―――さあ、今度はあたしに勝てるかな?」


【1日目 深夜 骨董アパートD-6】

【誰でもない彼女@戯言シリーズ】
[状態] 全身打撲、哀川潤の姿
[装備] 炎刀『銃』@刀語(回転式連発拳銃・残弾6/6)
[道具] 支給品一式×2、柔球@刀語×4、炎刀『銃』の弾、縄、ランダム支給品1~4
[思考]
 基本 哀川潤を殺して、私が本物に成り代わる。それを邪魔する奴も殺す
 1 哀川潤を名乗って悪逆非道の限りを尽くし、他の参加者に『哀川潤』への敵意を抱かせる。

 ※参戦時期は、哀川潤に成り代わると友のマンションで戯言遣いに言ったよりも後です。


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最終更新:2009年12月18日 09:58