めいろマイマイ
【001】
2人の少女が、深夜の街中でばったりと出くわした。
「話しかけないで下さい。あなたのことが嫌いです」
髪を頭の両脇やや上で縛ってツインテイルにした、小学校高学年くらいの少女は、出し抜けに言った。
そうですか奇遇ですね、私もあなたが好きではありませんし、話しかけるつもりなど毛頭ありません。
何故か長ランを身に纏った中学生くらいの年頃の少女は、視線だけでそんな風なメッセージを返した。
互いに隠すつもりもない、強烈な拒絶のオーラを放つ2人は、そのまま背を向け、別れた。
【002】
「……って、ちょっと待って下さい! そこの応援団のお姉さん!」
はい? いえ、私は別に応援団というわけでもないのですが、まあそう見られても仕方ないでしょうね、
と言わんばかりの表情で振り返った年上の男装の少女は、しかし年下の少女の声に素直に足を止めた。
先ほどまで強烈に放っていた「人を寄せ付けない雰囲気」も、心なしか和らいでいるようにも見える。
で、なんでしょう? と目線だけで問う彼女に、ツインテイルの少女は、
「わたしは、
八九寺真宵です。漢数字の8、9に寺で、真実の真に、宵闇の宵です」
とおもむろに一方的に丁寧な自己紹介をまくしたてた。これには学ラン姿の少女も少々面食らいつつ、
そうですか。私は
病院坂迷路――病気や怪我の時に行く病院に、傾いた坂に、道に迷う、迷路です。
と、一言も発することなく己の名を伝えきるという恐るべき表情の繊細な操作でもって応える。
「病院坂迷路さん、ですか。私が言うのもなんですが、人間らしからぬお名前ですね」
八九寺真宵と名乗った少女の感想に、病院坂迷路と名乗った少女はよく言われます。と軽く微笑み。
「よく外人ならぬ人外と言われるわけですね」
その言い方は初めてされました、しかし人の外だと私の領域ではないのではないでしょうか、と首を傾げ。
「英語で言えばオーバーマンです」
そりゃこのイベントからは私もエクソダスしたいですけれどね、とでも言いたげな溜息をついた。
どうやらこの病院坂迷路、ボケに対して律儀に全て突っ込んであげるような優しさはないようだった。
「で、病院作家さん」
病院坂ですよ、と真宵が犯した名前の間違いを迷路は視線だけですばやく修正する。
「失礼。噛みました」
ま、あまり一般的な名前でもありませんし。1回くらいなら大目に見ましょう。
しかし病院作家とか言うと、血痰でも吐きながら必死に原稿を書いてるイメージになってしまいますね。
それはそうとして……あなたは何か言いたいことがあったのではないですか? と軽く視線で先を促す。
「ええと、普段ならわたし、ああ言って去りかけた人を呼び止めたりしないのですけれども」
そんな感じですね。迷路は軽く頷いてみせる。
「よく考えたら、こうして『病院坂さんと普通に会話できている』こと自体が不思議なことなんですよ」
思わせぶりな言葉に、どういうことでしょう、と続きを視線で促す迷路。
「まぁこれは凄いネタバレになっちゃいますし、軽々しく自分で言うのもどうかと思うんですけど……」
「わたし、幽霊――みたいなモノ、なんです」
ほう。幽霊ですか。病院坂迷路の眉が、ピクリと動く。
それにしては「普通の女の子」のように見えますが。と視線だけで問えば、
「いえ、普通に喋ったり触ったり噛み付いたりセクハラされたりできる人、っていうのはいるのですが」
そこで噛み付きとセクハラが入る意味が分かりません。と表情だけで返す羽目になった。
「ただまあ、『誰でも』ってわけじゃないんですよね。実は。喋ったり触ったりできない人の方が多いです。
そういう人って、わたしには理屈じゃなく直感で『分かっちゃう』ものなんですが……病院坂さんは……」
普通ならば『喋ったり触ったりできないような人間』、ということですか。とばかりに何度か頷いた。
「ええ。だから、おかしいなー、と。
ひょっとしたら、今のわたしは『誰にでも見えて触れる』存在なのかもしれません。
それこそ、『蝸牛』の『前』の頃のように。ただの小学校5年生の子供だった時のように」
そう言えば最初の説明の時にも、『死んだはずの人間が復活した』とか何とか言っていましたね。
『魔法』だとか、なんとか。普通ならば笑い飛ばしてしまうところですが。
病院坂迷路はそんなニュアンスを含んだ表情で己の顎に手を当てると、少し考え込む様子を見せる。
しかしそういうことであれば、私の方にも心当たり――というか気になることがあります。
「なんですか?」
私も私で、多分、一度は死んだはずの身――なのですよ。
いえ、私の場合は「幽霊だった」という自覚はないのですがね。
正確に言えば、死んで当然の重傷を負ったばかりのはず、なのです。
詳しい話は省きますが、過去に別の人間が死んだこともある高い場所から、同じように落下しまして――
私の最後の記憶というのが、全身を激痛に苛まれつつ己の死を覚悟する、ところで終わっているのです。
次に気が付いた時には、あの会場での説明を受けている最中でした。傷も痛みも、一切ない状態で。
……と、こういった自らの事情をスラスラと口も動かさず声も発さずに、病院坂迷路は表情で示した。
「はぁ……。しかし病院坂さんの場合は、『急死に一生を得た』可能性もあるんじゃないですか?
それこそ、救急車が早く来てくれて手当てが間に合ったとか。
わたしみたいに、何年経っても成長しない、ってこともないのでしょう?」
ええ。頭を打ったか何かをして、一時的な記憶の欠落が起きている可能性も否定しきれません。
ですが、あの大怪我です。
もしも治療が間に合っていたとしても、何らかの後遺症なり傷痕なりが残ってしまうはずなのです。
それが、無い。
念のため開始直後に手近なトイレに入って服を脱ぎ確認してみましたが、やはり見つかりませんでした。
死からの復活、まであったかどうかは断言できませんが、現代医学では説明しきれない『何か』があった。
それこそ『魔法』とでも呼ぶべき不可思議な力が、私の傷を治した。
どうやらここまでは確実なようです。
……ところで、先ほどの八九寺さんの『きゅうしにいっしょうをえた』という発言ですが。
イントネーションから考えるにあなたは『急死に一生』と言ったようですが、正しくは『九死に一生』ですよ。
と、そんな目線を病院坂迷路は八九寺真宵に向ける。
「え!? そ、そうなのですか!?」
ええそうなのです。ついでに指摘するならば、『一生』も人生丸ごと1つ、の意ではなく、1つの生、ですよ。
10回やったら9回は死んでいるようなピンチの中で、運よくたった1回の生を掴む、という意味です。
病院坂迷路は視線だけでさらにそんなダメ押しを加える。
「そんな! 『サドンデス・フルライフ』って英語で言ったらすごくカッコイイと思ってたのに!
それが実は『ナインデス・ワンライフ』だったなんて! これじゃまるで野球か何かみたいですっ!」
野球でも3アウトでチェンジですよ。
病院坂迷路は表情のみでそんな重箱の隅だけを指摘し、あとは身悶えする少女を観察することにした。
【003】
十数分後。
2人の少女は連れ立って夜の市街地を歩いていた。
同行を一旦は拒否した八九寺真宵を、病院坂迷路が説き伏せた格好である。
曰く――
私も本来ならばこうして初対面の人間……いえ、八九寺さんは浮遊霊でしたね、
ともかく、こうして初対面の人間であろうと浮遊霊であろうといきなり馴れ合うような趣味はないのですが、
しかしこの今の私たちが置かれている異常事態は、他人と接触しないことには話が始まらない。
そう、言ってみれば情報交換です。
私はもちろん『魔法』なんてものには縁のない暮らしをしてきました。
口から刃物を吐き出すニンジャも、幽霊を自称するあなたのような『怪異』にも縁がありません。
まあ病院坂の一族というのはこれはこれで変わった存在ではあるのですが、それはともかく。
私が何をするにも、「情報」が足りないのですよ――
と、そんな意味のことを目線で訴えた。
「で、その『情報』を集めてどうするんですか?」との八九寺真宵の問いかけには、実にシンプルに。
探偵ゴッコです。
とだけ視線で応えた。
つまりは1人だけでは、元になる情報も限られる。
手掛かりを見落とさないための目も、1人よりは2人がいい。
相談相手として、新たなる発想の提供者として、「探偵」には「助手」が必要、ということもある。
あとついでに、口下手を通り越して寡黙に過ぎる己自身の欠陥を埋める狙いもあるだろう。
それに何より、形式美として助手役の存在は欠かせないではないか――ということらしい。
探偵として何を調べるつもりなのか、ということはさておくとしても。
かくして八九寺真宵に比喩でも何でもない無言の圧力をかけて強引に「説き伏せた」病院坂迷路は、
何故か妙に気乗りしない風の彼女を伴い、街の中を歩き始めたのだった。
「で……病院サッカーさん」
私の名前で小林サッカーを思い出させるような珍妙な言い間違いをしないで下さい。
しかし病院サッカーだと何気に地味な上に死人が出そうで怖いですね……とでも言いたげな視線を向け、
「失礼。噛みました」
むしろ間違える方が難しいと思うのですが、とさらに睨みつけ、
「噛みまみた」
嘘じゃないっ!? と素直に驚かれ、
「編みました」
セーターもマフラーも手作りですか、と最後には呆れられた。
「それはともかく、病院坂さん。探偵ゴッコはいいですが、どこに行くおつもりなのでしょうか?
いえ、別にわたしはどこに行くアテもないので、どこであろうと大して変わりないのですけど」
と、ある意味もっともな、でも今更な八九寺真宵の問い掛けに対し、
とりたててアテがあるわけでもないのですがね、とばかりに病院坂迷路は地図を取り出す。
現在地はこの地図を信じるならばH-7。
そこから向かえる近場の施設はいくつかありますが、ひとまずはココを目指しましょう。
と、いった風な視線を地図の上に走らせる。
「澄百合学園……ですか。学校ですね」
ええ。わざわざ地図に描かれている以上、どの施設にも何らかの意味があるはずです。
しかし現時点では優先順位を計るための材料すら私たちの手元には存在しない。
となれば、まずは私のホームグラウンド的環境に近いと思われる場所、から当たるのも手でしょう。
見ての通り私は学生、「学校」ならどこでも造りは大体同じですし、調べるべき場所の見当もつきます。
まずはここから「探偵」の仕事を始めましょう、とうっすらと微笑んだ。
「探偵ですか。しかし一体何を調べるのですか。
確かに『殺し合いをしろ』と言われているのですから、殺人事件もいっぱい出きそうですけど。
テリーさんがミスしてミステリーが成立するのを待ってから、というのはちょっと探偵として呑気かなと」
真顔で首を捻る八九寺真宵を前に、病院坂迷路は半ば呆れながらも、
……大変興味深い『ミステリー』という単語の語源説を聞いた気がするのですが、それはそれとして。
私が「探偵ゴッコ」で調べる対象はそれではないですよ。と、いう感じに口元を釣り上げる。
私が探求したいのは、『主催側の思惑』、です。
「主催側……というと、あの唾まみれの刃物でグサグサに刺されてたあの男ですか?」
いえ、あんな小物ではなく。その背後にいたらしい、『
水倉神檎』とかいう人物の思惑です。
確かにあの人物は、とてつもない力を持っているようです……
私の怪我を治したのも、あの人物かもしれません。
その力があれば、確かに「こんなこと」を行うことも、可能かもしれませんね。
しかし、「こんなこと」をする力がある『だけ』では、「こんなこと」を実際に行う理由にはなりません。
明らかに労力も手間もかかっている以上、「何か目的がある」。
どんな願いでも叶える、という法外な報酬を約束するからには、「主催者にもメリットがある」。
そう考えるのが自然です。
しかし材料の乏しい今、そこから先に思考が進まない。どうしても手が届かない。
私は、『それ』が気になって仕方ないのです――それこそ、私自身の安全の確保などよりも、遥かに。
……そんな風なことを、病院坂迷路は熱っぽく、しかし吐息1つ聞かせることなく表情で示した。
「なるほどー。実はわたしも、あんまり自分の身を守ろうとかいう気は起きないんですよねー。
そりゃ、痛いのもセクハラされるのもイヤですけど。殺されたところで、今更っていう感じで」
お互い、『一度は死んだ身』ですからね。病院坂迷路はそんな共感を微笑み1つで表現する。
「似たもの同士、ということですか。しかし病院坂さん、わたしとあなたとでは大きな違いがあります」
と、おもむろに八九寺真宵が口にしたのは、唐突な断言。
違い……ですか? そう言われても咄嗟に思いつかず、病院坂迷路は首を捻る。
「ええ。仮にこの殺し合いのイベントがアニメ化されたとして……
わたしには声優がつきますが、一言も喋らない病院坂さんには声優の当てようがありません。
てかそんな繊細な表情の変化、熟練アニメーターの手にも余りますっ! だから出番削除ですっ!」
……!
「あ、もちろん、『心の声』なんて卑怯な手も許されませんっ! イメージぶち壊しですからっ!
なのでアニメ化されても病院坂迷路さんのエピソードだけはA級欠番です!」
くっ……。病院坂迷路の顔が歪む。珍しく反論の手を失った彼女は、せめてもの反撃を視線に込める。
ここは仕方なく、それを言うなら『A級欠番』ではなく『永久欠番』ですよ、とだけ反撃しておきますっ!
「ああっ、またしまりました!
『クラスAロストナンバー』じゃなくて『エターナルロストナンバー』だったのですか!」
頭を抱えて己の不覚を責める八九寺真宵に、病院坂迷路は、
何でも英語で言えばいいというものではありませんよ、と言いたげな澄まし顔を向けた。
それは、あまりにも楽しい会話(?)だった。
ここが殺し合いの場であることを忘れるようなやり取りだった。
2人とも、人見知りなんてものではない本来の性格をすっかり棚上げしてしまうような、
そんな、一時だった。
【004】
で、今回のオチ。
「……まあ、イヤな予感はしてたんですよね……」
つまりこれが、あなたの『怪異』としての力、だと? 『迷い牛』、『蝸牛』の?
視線だけで問う病院坂迷路に、ツインテイルの少女――八九寺真宵は、力なく微笑んで。
「病院坂さんにも私が『見えた』ことですし、地縛霊から浮遊霊にレベルアップしたことですし……
もう、大丈夫かと思ったんですけどねぇ……」
そう言って、見上げた視線の先には――『ピアノバー・クラッシュクラシック』の看板。
彼女らが目指した澄百合学園とは、90度逆の方向。
決して方向音痴でもない病院坂迷路が先導していたにも拘らず、完全に道に迷っていたらしい。
道に迷って、全く違う所に出てしまっていたらしい。
「わたしは――今でも、迷路の中の蝸牛の迷子のようです」
迷路の名を持つ、迷える探偵モドキ。
真宵の名を持つ、迷えるカタツムリ。
どうやら、まあ。
似たもの同士、というのは、惹かれ合うものらしかった。
【1日目 深夜 『ピアノバー・クラッシュクラシック』の前 H-6】
【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] 支給品一式、ランダム支給品1~3(確認済み?)
[思考]
基本 とりあえず成り行き任せでうろついてみる。生に執着する気もないが、苦しみたくもない。
1 当面、病院坂迷路に付き合って行動する?
※どうやら現在は、身体的にはほぼ「普通の人間」のようです。
彼女の存在は普通の人間と同様、全ての参加者が認識でき、触れることが出来ます。
※「迷い牛(蝸牛)」としての力が発揮されている可能性があります。
もしそうならば、彼女自身・及び彼女と意識的に同行する同行者たちは、
「明確な目的地を持って」どこかを目指すと、道に迷って目的地に到達できなくなるようです。
その場合でも、適当に彷徨う過程で、何らかの施設や建物に「たまたま辿り着く」ことは可能です。
流石に、目の前にある建物にただ入るくらいなら迷いません。
でもひょっとしたら……
全部彼女の勘違いで、迷い牛の力などなく、ただ今回は普通に「道に迷っただけ」かもしれません。
詳細と真相は、後続の書き手さんにお任せします。
【病院坂迷路(オリジナル)@世界シリーズ】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] 支給品一式、ランダム支給品1~3(確認済み)
[思考]
基本 「探偵役」として主催者の思惑を探り出す。生き残ることにはさほど興味がない
1 手近な所にある学校(澄百合学園)に向かいたい、と思っていたが……?
2 八九寺真宵と行動を続ける? それとも、行動の邪魔になるから別れる?
※自分が死亡後に「復活させられた」かもしれない、と考えています。
※雑談と移動の合間に、『怪異』についての簡単な説明を八九寺真宵から聞きました。
八九寺真宵が理解している程度には、『怪異』の存在と概念を理解しました。
このロワにも関わる『怪異』の具体例(
阿良々木暦の吸血鬼とか、
戦場ヶ原ひたぎの蟹だとか)
まで聞いたかどうかは不明です。詳しくは後続の書き手さんにお任せします。
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最終更新:2009年02月18日 11:19