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―1―


「いやっ!?兄さんも逃げてですっ!?一人はいやですぅっ!?」
「うぅ…早く行けっ!!真論っ!!」

俺の言葉を聞き、こっちを振り返る事無く真論はどこかへと走り出した。

(ったく……やっと……行ったか……)

真論が逃げたのを確認した俺は、切れて血が出ている口の端を拭いながら立ち上がろうとする。だが…

「がぁっ……」

いつの間にか接近していた金髪の男から重たい拳を腹部に受けて、地面へと倒れて行く。

「それは流石にやり過ぎでしょう…。自分から攻撃を受けに行った母親といい……計算が狂いまくりですよ、まったく…」
「……俺ハ手加減ナンテ出来ナイ。」
「……………………」

掠れゆく視界に映ったのは、家に入って来た三人がそろっている姿だった。

そして俺は意識を手放した……



――When a "Shingle" changes.――



――side Shing――

「――つが―山大樹の―――?」
「はい…おや、目覚――したか?」
(……俺は…生きてる…のか…?)

俺は目覚めた。目の前には二人の人間が…いる?
まだしっかりと覚醒してないせいか、視界はぼやけているし、音もはっきりと聞き取れない。

「―×―――×へよう―そ、美山真求(みやましんぐ)君。私はこ―――長の―山――よ。」
「…は?……しょ…ちょう…?……なに…を……する…」

一人はここの所長らしい。ここの名前は聞き取れなかった。
もう一人…黒髪?の男が俺の右腕に腕輪をはめる。

……それよりも……今の俺は……

「なんで…俺は…イスに…しばられて……いるんだよ………その……注射器は…なんだ…」

二人は何も答えなかった。……いや、何かを話していた。
だが、腕輪をはめられた直後から俺の耳には何も聞こえて無かった。いや、全身を何かに押し潰されるような感覚が襲って来た。

そして俺は謎の注射を打たれて、またも意識を手放す。

所長の机の上に置いていた、壊れている「見覚えのあるからくり箱」を瞼の裏に焼付けながら……





―2―




――side OUT――

彼等の対面から数日が経つ。ここは彼等が対面した部屋、所長室。
薄暗い部屋の中には二つの人影がある。

その内の一人、黒に銀が混ざった髪を持つ男が口を開く。

「美山真求からの搾取は順調です。淫魔ロボにもエラーは出ておりませんし。」
「……あまり、やり過ぎないようにね。貴方のロボはたまに暴走するから…」
「…それは彼が所長の親友の息子だから、心配しているのでしょうか?」
「それもあるわ。大樹(たいじゅ)と真木(まき)と…は…」
「美山真木は自らの意思で私の攻撃を受けました。」
「…そう、だったわね……」
「とにかく、計画は順調。貴女の命令で彼を鍛えるのも美山の腕輪のお陰で、まだ訓練を初めて数週間とは思えない程。……それでは失礼します。」

黒髪の男は所長室の扉を音を立てて閉める。所長の発言の中に彼の琴線に触れたものがあったのかも知れない。

「…はぁ……」
「…かなり疲れてるねぇ。」

椅子の背もたれに背を預けて溜息を吐く彼女。その背後には、いつの間にか一つの人影が背を向けて立っていた。

「…貴方が気配も無く現れるのにも慣れたわ。」
「……そう。」
「素っ気無いわね… で、今日は何の用なの?」
「今日も準備だよ。あの計画の為の、ね。」
「そうよね…それしか無い…か…」
「じゃ、また来るよ。」

人影が言う。それと同時に部屋にある唯一の蛍光灯が明滅する。
光が消えた一瞬の間に、人影の姿は消えていた。
扉は一つしか無いこの部屋から。窓は鍵が閉じたままで開かれた様子が無い。

「もう…疲れたわ……」

椅子に深く座り、頭を抱える。
その体勢は誰かが扉を叩くまで続いたらしい。


そして、数ヶ月の月日が流れる…





―3―




美山家の小さくも大きな惨劇から約五ヵ月が過ぎたある日。

――side Shing――

日が昇る頃に起き、日中は休憩を挟みながら体術を学び、日が暮れると部屋に戻される。食事の後、少しの休憩を取ったら俺の部屋にあいつらが来て――。そして、眠る。
そんな生活にも慣れた。俺自身、よく生きてるなと思う。おそらくはこの腕輪のお陰だろう。
俺がここで初めて目覚めた時に嵌められた腕輪。白金(プラチナ)のような色合いで、何やら紋様が入っている。
こいつから、何かエネルギーのようなものが俺に流れて来ているそうだ。…俺には良く解らないがな。

…ん?近付いて来るのは……

「また来たよ、真求。」
「よぅ…一週間ぶりか?」

こいつの名前はクライス。所長の知り合いらしい。
時たまここにやって来て、何かしてる…そこ、「なんで知らないんだよ」って思っただろ?だよな?
……実の所、何も教えてくれねぇんだから仕方無いんだよ。
…俺は今、誰に話しかけてんだ?…話を戻す。
前髪は顔よりも長く、額の真ん中で左右に分けられている。さらっさらな後ろ髪は腰の辺りまである。
そんな白銀の髪を揺らす細身の、見方によっては女にも見える白衣を着た男。身長が170cmくらいだから余計に、な。
ちなみに、腕輪から溢れる力を察知した唯一の人物でもある。

「決行は十日以内。合図は以前も言ったと思うけど、爆発音。」
「その後、お前が俺の部屋にある隠し通路から現れて俺を連れ出す、と。」
「そう。…ところで、能力の練習はどう?」
「しっかりやってるぞ。」

俺はこの腕輪を嵌められた後から不思議な力を使えるようになった。それに気付いたのは、いつの事だったっけな?
確か…いきなり使い方が頭の中に流れこんだんだよなぁ……

「おーい、だいじょぶかぁ?」
「ん?あぁ…いかんいかん。」
「まったく。じゃ、僕は萌華(めいか)の所に行くよ。またね。」

そう言い、クライスは去って行った。萌華とは、この研究所に住んでいる所長の娘だ。

(しかし…あいつって、声も普通に女としても大丈夫だし…あの顔も…うーむ……性別偽って無いか?)

そんな事を考えながら、貴重な休憩時間を潰す俺だった。





―4―




――side OUT――

それから8日が経過した。

――『爆砕』

PM.20:01

研究所に巨大な爆発音が響き渡る。所員が慌ただしく駆け回る中…

「また来たよ、真求。」
「…呑気だな…。俺の準備は出来てるぞ。」
「どれどれ…ん、ちゃんと造れてるね。真求の等身大人形。」
「……これを造れるようにならないと、計画を実行出来ないってお前に言われたからな。」
「じゃ、これ付けて。その腕輪と同じトコに。」
「また腕輪か…これは…水晶か?」
「そ、ガーデンクォーツ。それじゃサッサと行くよ。」
「あぁ。」
(アレをやったら人形は確実に消滅するだろうけどねぇ…ま、それが狙いなんだけどサ。)

美山真求にあてがわれた部屋から、一体の人形をベッドの上に残して誰も居なくなる。

PM.20:14

「お二方、動かないで頂けますか?」

隠し通路を通り抜け、広場の一角へと出て来た二人。その前には三人の男が立ちはだかる。
一人は金短髪の屈強な男。一人は腰まである色素が抜けた白髪の野太刀を持つ男。
そして二人に話しかけた、黒の中にほんの僅か銀が混ざった髪を持つ眼鏡を掛けた如何にも知的な男。

「あー、やっぱ貴方達“だけ”が気付いたかぁ。次期所長の座を狙ってる人は違うねぇ。」
「……あなたがこの騒ぎの元凶ですね。」
「んー…まぁそうなるねぇ。で、どうするのかな?」
「当然あなたを始末、あわよくば捕らえて、美山真求を返して頂きます。」
「あのー…俺は「「真求(あなた)は黙ってて(下さい)。」」…はい。」
「それと、絶対にそこから動かない事。分かった?」
「あ、あぁ…」

そしてクライスと言う名の銀髪の青年は数歩前に出る。

「美山真求ハ…戦力ニ入レナイデイイミタイダナ。」
「………………」

金髪の男の言葉に無言で頷く白髪の男の姿がそこにはあった。





―5―




PM.20:17

銀髪の青年は駆け出す。それを迎え打つのは金髪の男と白髪の男。銀髪の青年が駆けながらも何事かを呟くと、その両手には透き通った剣が二本握られていた。
一本は両刃の西洋剣。もう一本は日本刀。
金髪の男はその拳を打ち出すが当たらず、白髪の男が振るう野太刀も銀髪の青年の前には全く通じない。
その合間をつき黒髪の男から放たれる銃弾はいとも容易く躱され、斬り落とされる。

PM.20:21

戦闘が開始されて数分が経過した。三人の男の攻撃は銀髪の青年に一撃たりとも当たらず、男達の顔には焦りと疲労の色が見える。
一方、銀髪の青年はと言うと、こんな芸当を魅せながらも涼しい顔をしている。
そして、銀髪の青年の左の剣の柄が金髪の男の後頭部を打つ。金髪の男は地面へと倒れこんだ。
一瞬にして行われたそれに驚愕した白髪の男の隙を銀髪の青年が見逃す筈も無く、次の瞬間には白髪の男もまた、金髪の男と同じように地面へと崩れ落ちた。

PM.20:22

二振りの西洋と東洋の剣を持つ腕を下げながらも、黒髪の男へとゆっくり歩み寄る銀髪の青年。
黒髪の男はその手に持つ拳銃を構える。だが男は忘れていた。新たな銃弾を込めなければならない事を。
黒髪の男は後退りしながら空撃ちを繰り返す。が、突然銀髪の青年の姿が掻き消えた。
そして次の瞬間には黒髪の男もまた、地面へと倒れていった。

PM.20:24

銀髪の青年は、ふと思い立ったように倒れる三人の周囲を歩き、剣の先端を地面に当てて三人を囲む大きな円を地面に描いていく。
そして円から離れた銀髪の青年が何かを呟くと、その円を外周とした魔方陣が描かれる。
暫くすると、その魔方陣が淡く輝き出し、三人の男の身体、そして彼等が手にしていた武器は、光の粒子となり世界へと融けていった。




―6―



PM.20:27
――side Shing――

「マジかよ……」

相手の攻撃を一つたりとも受けていない。ありえねぇだろマジで。これまでに俺と会ってた時のあいつは全く戦えない雰囲気だったじゃねーか。
クライスが話し掛けて来るまで、俺は呆然と立ち尽くしていた。当然、剣を持っていない事にも気付いて無かった。

――side Cry-s――

「真求…だいじょぶ…かな?」

……返答無し、か。やっぱりこうなったねぇ…。ま、仕方無いけどね。

「ほら、行くよ。」

そう。早く行かないと。まだ最後の仕事が残ってるからね。

PM.20:31
――side OUT――

二人は敷地内を駆ける。幸いな事に、誰とも遭遇する事が無かった。そう、ここに来るまでは。

「……真求、ストップ。」
「ん?」

二人は立ち止まる。そこは研究所の敷地内への入口、つまりは門の前。

「どうしたよ?」
「えと…もうすぐ来ると……来た。」
「…………ん…誰が……」

月明りの中、建物から人影が近付いてくる。そして、二人の眼が捉えた姿とは…

「所長おぉ!!?」
「……そんなに驚く事は無いと思うけど…。それに彼女は、この計画に協力してくれたしね。」
「そう言う事よ、美山真求君。」

深緑の長い髪を揺らす、この研究所の所長だった。

PM.20:33

「色々と言いたい事はあるけれど時間が無いわ。だからまずはこれを……」

所長は真求へと歩み寄り、紙袋を渡す。

「それと……ごめんなさい。最初は真木に頼まれて貴方達兄妹を預かるだけの予定だったのだけれど……」

「どこで間違えたのか、あの三人は……」

それから、ぽつりぽつりと話し始める所長。ここは、自分の父親が残した研究所で、それを継いだ事。いつの間にか歯車が狂い始めた事。自らと部下の失態の事。そして……

「貴方の隣りにいるクライス…いえ、クリス。彼が真論ちゃんを預かっているわ――

――こことは別の世界で。」




―7―



――こことは別の世界で

PM.20:38

「は?ク…リス?真論を?別の…世界?」
「そ。まぁ混乱するのも解るよ。ついでに言うと、この姿も仮初のものだしねぇ。」

銀髪の青年、クライス。彼は残りの二人に背を向けて数歩歩く。

微かな呟きが聞こえた直後、彼の姿が見えなくなる程、大量の透き通った羽根が彼の周囲を巻き上がる。
そして、その羽根が舞い落ちる中に立って居たのは、先程よりも若干身長が高く、光沢が少なくなった髪を背中の中程までのポニーテールにし、薄灰色のコートを纏う人物が背を向けた姿だった。

PM.20:40

「な……」
「これが僕のほんとの姿。」

青年は振り返る。「クライス」よりもほんの僅かだが、顔つきも男性のものであった。……まぁ、中性的な事に変わりは無いのだが。

「……とりあえず真求、早くここを離れるよ。」
「そうよ、早く行って。…その紙袋の中に私からの手紙を入れておいたわ。落ち着いたら読んで。」
「……あ、あぁ。…所長、ありがとうございました。」
「じゃ、こっちだよ。車があるからそれで移動するよ。」

そして二人は研究所を後にする。

「……貴方をずっと拘束していたのにお礼を言われるなんてね…フフッ…」

所長の呟きは、誰にも届かない。

建物へと向けて歩き出したその背中を、少しだけ欠けた月が放つ柔らかな光が照らしていた。




―8―



件の研究所があるのは、とある山の中腹辺り。山中にある舗装された道を、一台の黒の乗用車が走る。

PM.21:54

ここは、山麓(さんろく)にある街の中のホテルの一室。

「どっと疲れた……」
「だろうね。でも、明日からのが大変だよ。」

部屋に着くなり直ぐにベッドへと倒れるのは美山真求。
研究所内で着せられていた服からは既に着替えている。走る車内で着替えたのだろう。

「とりあえず、着替えとかを入れてる鞄はここに置いて置くよ。後、一応コンビニで買っておいたパンもあるけど…ルームサービスで何か頼んでも良いからね。」

「さてと…僕はまだしないといけない事があるから出て来るよ。明日の昼までには戻って来るからねぇ。」

生返事が返って来た事を確認し、部屋を出ていく薄灰色の青年。

「…とりあえずシャワー浴びるか……」

その呟きは、静かな部屋の中に響く。

PM.22:08

「…ふぅ……ん…そういえば手紙……」

所長の言葉を思い出し、所長から預かった紙袋に手を伸ばす。中から手紙を取り出し、封を開く。

「これは……そう…だったのか……」

手紙に書かれていた内容は謝罪から始まる。その後、自分の両親と所長の出会いについての話、美山の家系について等と続き、そして…

「この腕輪は父さんのからくり箱の中身で…美山家の後継に代々伝わる物…か。」

手紙を読み終えて、自らの右腕に嵌めている腕輪を眺め

「……クラ…クリスがくれたこの水晶の腕輪って…何なんだ?」

ふと呟いた。


その後、手紙を片付けた彼は、紙袋の中に入れられた所長からの贈り物…特に分厚い現金の束を見付けてしばし硬直した後、眠りについた。




―9―



――side OUT(other side)――

PM.22:03

ホテルを出て、ふらりと歩く。彼の周囲からは段々と人が少なくなってくる。
そして誰も住んで居ない、いや、住む事が出来ない寂れた廃ビルへと引き寄せられるようにその歩みを進める。

PM.22:11

廃ビルの屋上に彼の姿があった。人工的な光に包まれる街を眺める事が出来る場所だ。
いつの間にか、彼の背に翼が現れていた。透き通った翼。それを羽ばたかせ、空を飛んで行く。

研究所がある方向へと……

PM.22:39

「後二時間と少し、かぁ……お父様、ごめんなさい。私が不甲斐無いせいで……」
「……ほんとにそう思ってるのかな?」
「ひゃっ!?…な…なんで…ここに……」

所長室。深く椅子に座り、机に向いて考え事をしていた所長の背後にいるのは薄灰色の青年。

「なんで、ねぇ…入った方法が知りたいの?…フフッ。」
「凄く気になるわ…ハァ…。だけど、そんな事を言う為じゃないでしょ。なんなのよ?」
「貴女には僕達の世界に来て貰います。」
「えっ!?…ど…どうして……」
「貴女が持つ知識、判断力、カリスマ性。それが気になるという方がいますので。…まったく…僕の個人的な行動なのに、いつの間にメノウさんに漏れたんだか……」
「でも…私は……」
「有無は言わせませんよ。…ほんとは貴女の望みを尊重したかったのですがね。」

青年が左手を振るうと、所長室の中央に唐突に姿見が現れる。

「その中は、多数の世界を繋ぐ空間となっています。既に案内人は中で待機していますので。」

――さぁ、新たなる世界への旅立ちを……


「…無理よ。私が生きてる意味なんて……」

――お母様…

鏡から少女の声が聞こえてくる。顔を上げた所長が見たのは…

「えっ…ど、どうして萌華が鏡の中に……」

鏡面には10才にも満たない橙色の髪の少女が映っていた。

「彼女…照山萌華(てるやまめいか)が案内人です。」
『お母様、私はまだお母様がいないとだめです。お母様がここに残るというなら私もここに残ります。』
「ふむ、困ったね。確か、この計画を実行に移す為の貴女からの条件として『萌華を僕の世界で保護する』と言うのがあったけど…これじゃ、難しいねぇ……」

「こ、こんなの…ずるい…わよ……」

所長の頬を一筋の雫が伝う。……その顔は苦笑いを浮かべていた。




―10―



『―――続いては、昨夜一時頃、○○県△△山の中腹にある××××××機械生物及び人造生物研究所で起きた爆発炎上事件についての情報です。
警察の調べによると、防火扉を破壊する程の爆発が研究所の至る所で起きたとの事です。
研究所の焼け跡からは多数の遺体が見つかりましたが、その中からはこの研究所の所長である照山永華(てるやまえいか)氏と所長の娘である萌華ちゃんのものとみられる遺体は未だに見つかっていないとの事です。
警察は、外部への協力要請と共に研究所の調査を開始するもようです。
尚、建物は全壊し研究資料も焼失している事から、調査は難航する恐れがあります。
では、株と――』

――side Shing――

俺が目覚めたのは午前十時を過ぎた頃。クラ…クリスは部屋にあるテレビを見ていた。

「あ、おはよ。」
「おぅ…」

なんだろ…久々に熟睡出来た気がするな。
とりあえず飯を食ってから俺は尋ねてみた。

「なぁ…これから俺、どうすれば良いんだ?」
「それは真求が決めないと。表に生きるか、裏に生きるか。どちらを選んでも良い。」
「……俺はもう、裏にしか生きれねぇじゃねぇか。…そうだっ…真論はどうしてるっ!?」
「僕の世界で生きる術を学ばせてるよ。それがマロンの望みだしね。…少しだけ見てみる?」
「見れる…のか…?」
「うん。このDVDに少しだけ録画してる。」

なぜ録画してるのかをつっこむ余裕なんて無い。まぁ、後から自分で見て動きの確認とかをするんだろうな…
…じゃあ、なんでそれを今持ってんだよ。……俺に見せる為か?
…こうなる事を予測してたのか?…今はいいか……

そして俺はそれを再生した……



…これが…真論が望んだ事…なのか……

…ク…クク……クハッ……

――ハハハッ…アハハッ……俺は……

………こんな俺は……真論に……

――真論に会わす顔が…

……ハハッ…なんで濡れてんだ…俺の頬は……

――ねぇじゃんかよ……




―11―



それから俺が選んだのは世界を渡りながらの傭兵業。一つの世界を拠点にして、幾つかの決められた世界を巡る。世界を越える方法はクリスが与えてくれた。
まぁ、傭兵だけじゃ新参にはなかなか金にならねぇから万屋もしてんだがな。
ほんと色々とあった。いつの間にか≪宵闇の仕事師≫なんて言う名で呼ばれるようにもなった。…仕事時しか使いたくねぇ……
能力者達の転移に巻き込まれるようにもなった。
ちなみに永華さんの研究所は「裏では外道な実験を行っており、それを抹消する為に火事を起こした」という噂が流れている。

そして俺は、とある世界で彼女と再会を果たす……

――第48世界 火山――

(火山か…ここに落ちたら即死。…一年前の俺なら躊躇は無かったんだろうな……。永華さん、俺は……)

「…はぁはぁ……見付けた…ですっ!!貴方もクリスの関係者ですか!?ですっ!?」

(なっ!?この…声…は……)

俺はゆっくりと振り返った。そこに居たのは俺の唯一の肉親…美山ま…いや、栗栖真論(くりすまろん)。

(…幸いにも、フードを被っているから俺の事はバレてねぇな……)

「………何か言って下さいですっ!?」

(クリスの差し金か?…あいつ……)

俺は真論に近付き、右腕を…そこにある二本の腕輪を見せた。

「……確かにこれはクリスが創ったものです。」

「……名前を教えて下さいですっ。私は栗栖真論です。マロンって――

(眩しい笑顔だな…だが俺は、な……)

俺は、そっと真論の頭に右手を置いた。

「……………またな、真論。」

俺は直ぐに立ち去る。

「………えっ……その声……」

まだ俺は……

(顔を見せる訳にはいかねぇんだよ…スマン…な……)

「……兄さ…ん…?……兄さんっ!?」

その声を背中に浴びながら、俺はその場を立ち去る事しか出来なかった。

(逃げてるだけ…だよな…。だけど…今の俺はまだ…だから……)

――いつか、一緒に笑いあえる事が出来るようになる時まで……

――待ってて…くれるのかな……




―EX―




美山真求君へ

前略 貴方がこれを読んでいるのならば、この計画は成功したみたいね。
 研究所ではあのような扱いをしてしまって本当にごめんなさい。おそらくは貴方の前に立ちはだかった黒の中に少し銀が混ざった髪を持つ男が指示をしたのだと思うわ。
だけど部下の失態は私の責任。彼の行動を放置していた私にも責任がある。今は深く反省してるわ。

 順番は逆になるけど、先に私と貴方のご両親の関係を書くわよ。
 私は、貴方の父親の大樹(たいじゅ)とは幼馴染み。幼い頃の彼はよく研究所にある私の部屋に遊びに来てくれたわ。勿論、彼のお父さんが私のお父様に会いに来るついでなのだけどね。
貴方の母親の真木(まき)とは高校時代からの付き合い。彼女と仲良くなった私は当然、部屋に招き入れたわ。その時に偶然研究所に来ていた大樹と出会った。これが貴方のご両親の馴初めね。

―― 中略 ――

 それじゃ、美山家について。美山家は古くから続く退魔の家系なの。大きくは無く、ほそぼそと続いていたらしいわ。ちなみに私の照山家は美山の分家。美山家を支える立場だったみたい。
話を戻すわ。先程の通り、美山家は小さな家系だった。でも、潰れずに現在まで繋がっている。…まあ最近は傭兵稼業になっていたみたいだけど。で、何故潰れなかったかと言うと…
代々美山家には薄まる右の瞳と共に不思議な力が遺伝しているらしいわ。そしてそれは美山家当主の証である通称「美山の腕輪」に選ばれた者にしか開眼しないみたいなの。
この力があったから美山家は潰れなかった。
私には詳細は解らない。大樹も結局教えてくれなかった。腕輪はずっと「からくり箱」に入れてたし…あ、箱壊したのは私。
貴方にとって必要な物になるだろうと思ったからよ。
ただ、腕輪についてはクリスが何かを掴んでいるような感じがしたわ。

―― 中略 ――

 私の旦那はね、大樹と同じ日、同じ場所で死んじゃったの。大樹に自らのボディーガードの仕事を頼んで仕事に行ったのだけど、二人が乗った帰りの飛行機が墜落しちゃってね。本当に事故だったわ。
その事故で唯一生き残った女性がいたわ。それがきっかけで私と彼女は知り合った。それから私は彼女を支える事にした。
だけど、萌華(めいか)を産んだ後にこれまた事故で彼女と彼女の旦那さんが、ね。その時に私が萌華を預かってたから萌華は巻き込まれずにすんだの。
で、幼い萌華を養子にする事にしたの。可哀相って理由もあるんだけどね、一番の理由は…実は私はね、子供が産めない身体なの。

―― 中略 ――

 とりあえずはこれでお終い。貴方の人生が幸せで溢れるように願っているわ。

草々


××××××機械生物及び人造生物研究所 所長 照山永華(てるやまえいか)






これは『"Shingle" and "Marron" and "Crystal".』から分岐した物語です。
≪捏晶≫シングの過去~(一部省略して)~第48世界(火山)までの話です。


補足をしておくと、最後のは所長からシング宛の手紙。
クライス(クリス)と三人の男達のレベル差は言わずもがなです。いくら強くても男達は“一般人”の範疇に属してますから。
三人のその後は考えてません。
クリスと所長と所長の娘のシーンはなんとなく入れました。
今回の登場人物の殆どの髪色を表記したのもなんとなくです。過去のシングの髪は当然栗色。

それではこの辺で…


――When a "Shingle" changes.――
("小石"が変わる時。)




~~予告編~~


これは、物語の裏側にある物語

――もう…疲れたわ……

ある者は呟く

――美山真求を返して頂きます

ある者は狙う

――これが僕のほんとの姿

――マジかよ……

真を求める者に対しては

――そう…だったのか

真が論じられた

――『爆砕』

それは、破壊を招く言葉

――さぁ、新たなる世界への旅立ちを……

それは、未だ見ぬ場所へと誘う言葉

――ハハハッ…アハハッ……

嘆き笑う者は

――兄さんっ!?

たった一人の肉親と再会する

共に運命に巻き込まれる者として

それは偶然であり必然

これは、一人の青年の世界が変わる時を

物語としたものである

その青年の物語を選んだ理由は

ただ、神の気紛れである


――When a "Shingle" changes.――

製作:Team.CRYSTAL

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最終更新:2010年07月03日 23:52