どこだ、ここは
頭が、痛い。くらくらする
重い体を起こし立ち上がると目の前にコンピュータの画面とパネルが視界に入る
「…ソうカ……」
思いだした、俺はこのコンピュータにハッキングした際、いきなりエラーが発生して…
それにしても頭痛が酷い
頭を確認する為手を宛てようとした所で俺は気が付いた
「頭が…痛い?」
まさか、そんな筈が無い
俺は機械…ロボットだ、痛みを感じる筈が無い
コミニュケーション用のロボットならプログラムを入れられているとしても、俺は完全戦闘用の筈だ
「………」
何故だ、と俺は考える
考えるという経験も作られてから初めてだな
そんな時、『バタン!』と後ろの扉が開かれ、光と共に何者かが部屋に入ってきた
それから数日
俺は俺を隠し、今まで通りただの機械として過ごしていた
あの時入って来た俺の主人の仲間達に運ばれる途中、妙な話が聞こえた
その話によると、最近ロボットが謎のウィルスにかかり持ち主に反逆する事件が多発しているらしい
…どうやら、俺がこうなった原因ははっきりしたようだ
そうこうしていると目の前にスーツを着た太った男が駆け寄ってきた
データからするとこいつが俺の主人らしい
主人は「何処も壊れていないか?」と俺のボディを確認する
どうやら心配している訳ではなく、純粋に俺の修理が必要かどうかを確かめていたらしい
俺が機械音声で「問題アリマセン、正常デス」と答えると「そうか」とだけ言って踵を返した
どうやら俺の主人は世間一般で言うとあまり良いとは言えない職業だという事が解った
人身売買を生業としているらしく、少し出掛けてはトラック一杯に人間の入った檻を運ばせてくる
そしてその檻を巨大な船に他の積み荷と共に乗せ、海を渡った場所で取引をしてまた繰り返す
その一連の行動すべてに、俺はボディーガードとして同行していた
そして今日もまた、檻が運ばれる
毎回の事だが、檻の中身はやけに女が多い
男も何人かいるが、女の方が高く売れるのだろう
俺は女、ましてや人間なぞには興味はないが、『商品』の記録として目を通して行く
どいつも死んだように虚空を見詰め、ピクリとも動かない
そんな『商品』の顔を見てメモリに記録しては次の『商品』を記録する
そんな仕事と言えるのか解らない仕事をしていると、一つの『商品』と目が合った
人間の女――それもまだ餓鬼の、幼い女だった
幼い『商品』は俺の顔をじっと見詰めている
他の『商品』とは違う、光のある目で、じっと
俺はその目に吸い込まれているように固まっていた
しばらく…と言っても五秒程見詰め合った後、俺ははっと気が付き『商品』の記録に戻った
その時はまだ、何も感じてはいなかった
船が出港してからはただ暇なだけだ
ただ海を眺めるか、船を徘徊するか
俺と同じロボット達は狭い部屋で固まっているか、見回りをしている
俺はふと、あの『商品』が気になり倉庫に向かった
倉庫に行くといくつものコンテナが並び、その隅に檻が並んでいた
死んだような『商品』の前を歩き目当ての『商品』の檻を覗き込む
いた、幼い『商品』はあの時のような光る目で俺を見詰める
「……」
「…おい」
俺が話し掛けると『商品』は驚いた顔で俺を見て口を開いた
「…お話…じょうずだね」
「…まあな」
「すごい…にんげんみたい…」
言って、『商品』は口の端を吊り上げた、これが笑顔という物か
「…お前は…何で笑っていられる?」
「え?」
「このような檻に閉じ込められ…今まさに売り飛ばされようというのに…」
「何故…お前は笑える?目に光を絶やさない…?」
「…んと、よくわからないけど…きっとヒーローが助けてくれるから!」
「…ヒー…ロー…」
ヒーロー?ヒーローとは何だ?
「そう、ヒーローはね、凄いんだよ」
「赤いマントを付けてね、お空を飛んでね、悪者をやっつけるの!」
「…そうか…もういい」
頭を抱え立ち上がる
…ただの空想か…
振り向き様、檻の中に近くのコンテナから盗った赤い果物を投げ込んでやった
『商品』の驚いた顔を背に俺は倉庫を後にした
船が港に到着した
積み荷を下ろす前に、船の上で取引を行うらしい
俺は数人の人間と混ざり甲板に立っていた
何人かずつ二つに分かれており、間に檻が置かれている
人間達が何かを話している間、ふと檻を見るとまた幼い『商品』と目が合った
―――「きっと、ヒーローが助けてくれるから」――
俺は『商品』から顔を反らし、主人を見る
主人は絵に書いたような悪人面で金の入ったケースを受け取っている
また『商品』を見る、今度は目が合う事はなく、顔が俯いていた
そして考える
「このままでいいのか?」と、「何もしなければこの
繰り返しのまま何も変わらない」と
そして…胸の奥で熱い物が弾けた気がした
背中の大砲を可変させ前へ、煙幕弾を発射、辺りは濃い煙幕に包まれた
うろたえる声を尻目に大砲の銃口を変形、ガトリングモードにして発射準備
そしてバイザーをX線使用にして視界を確保、主人とそれ以外の人間、ロボットに向けて乱射
事はほんの数十秒ですんだ、煙幕が晴れた後には甲板にいくつかの死体と鉄屑が転がっていた
その後、大砲を檻に向け鍵だけを的確に撃ち抜き破壊、抑える物が無くなった檻の蓋は自然に開いた
いくつもの檻から何人もの『商品』…人間が出て来る
その中に、あの幼い女もいた
「…ロボットさん?」
「………」
「何があったの…?」
「………」
「もしかして…助けてくれたの?」
何も言わなかった、言えなかった
なんだか照れ臭い…という感情がこれなのかは解らないが、多分そうだろう
そんな感じがして、何も言えなかった
しばらくして、俺が言葉を発そうとしたその時、俺の後頭部に衝撃が走った
「その子に…近付くな…!」
檻から出た人間の男が、鉄パイプを持って俺を睨んでいた
…何故そんな目で俺を見る…?
俺はお前を檻から出してやったのに
よく見ると、他の人間も恐怖と憎悪の混ざったような顔で俺を見ていた
「…何故…だ…」
「うるさい!!…いきなり、人を殺しやがって…!」
「お前…!あのウィルスに感染したロボットだろう!?」
「知っているぞ!!あのウィルスに感染したロボットは暴走して、辺り構わず人を殺すって!!」
確かに俺はウィルスに感染しているらしいが、そのような事は考えていない
どうやらこの人間達は誤解しているようだ
「…ちが「黙れ!!」…」
「黙れ…この…」
「化け物め…!!」
その言葉が聞こえた瞬間、胸の奥が雷にでも打たれたかのように痺れるのを感じた
「…がっ…あ゛あ゛あ゛あ゛ああああぁぁぁ!!!!」
叫びながら大砲からガトリングを乱射し、甲板に穴を開ける
人間達は驚き、恐怖し、逃げ惑う
そして幼い女を見るとまた目が合う
俺がまるで憧れの存在かの用に見ていた目は、驚きで染まっていた
俺は甲板を走り、船から飛び降り、闇の中へ消えた
どうして、あんな事を考えたのだろう
俺のようなウィルスに侵されただけのただの機械がヒーローになれる筈は無かったのに
「どうして…どうして俺は…?」
倉庫の隅に座り、呟く
俺は正義のヒーローに憧れていたのだろうか?
それともあの幼い女を助けたかったのだろうか?
それとも…
「…寒いな」
寒さなんて感じる訳がないが、そんな感じがしたので何か温かい物を捜す
すると、赤い大きな布が視界に入った
「…調度いい」
赤い布を体に巻き付け、また考える
だがいくら考えても計算しても答が見付からないので、俺はいつしかスリープモードに入っていた
夢を見た
俺が赤いマントをたなびかせ、悪党を退けるヒーローになった夢を
現実の俺には程遠い、正に夢のような存在となった俺がそこにいた
最終更新:2009年09月04日 00:24