イサナ ヒルコは
昼の国の首都・グランツで産まれた。
母親は僅か15歳、父親は不明。暴行と輪姦によって生まれた命だった。
元より内気だった母親は精神を病み、輪姦された事実を隠し通し、結果"手遅れ"になった。
育ち過ぎた胎児は堕胎手術すらできなくなり、ヒルコは一切の祝福を受けず出産されることとなる。
母親は泣き叫びながら狂乱し、産声を上げるヒルコを絞め殺そうとしたという。
当然ながら産まれたヒルコは遠縁の親戚が預かることになった。
しかしヒルコが5歳の時、親戚はとうとう耐え切れず施設にヒルコを預けることになる。
理由は5歳にして既に張り付いたような笑顔が身に付き、あまりにも流暢に言葉を話す反面、
五体満足であるにもかかわらず未だに這い這いすらできないそのギャップが不気味でならなかったからだ。
それからヒルコは10歳になるまで4つの孤児院を回ることになる。
しかしヒルコは体力を始めとし、人格、才能、幸運、健康、思想、境遇、倫理、魅力、etc、etc・・・。
とにかく知力以外のありとあらゆる"人間にとって必要な物"が欠損していた。
現にヒルコを引き取った4つの孤児院は、ヒルコの"悪意無き凶行"によって全て潰されている。
とうとうどこにも引き取り手が無くなり、ヒルコは10歳にして流浪の身となった。
以降のヒルコの過去は伺い知ることはできない。
しかし
真室川 野槌の依頼を受けて、
カノッサ機関の構成員がヒルコを発見した時。
ヒルコは栄養失調により失明し、身体は骸骨に皮が張っただけのような外見、髪は頭皮ごと剥がれ落ち、
手足は骨祖鬆症により粉砕骨折、動くこともできずただ地面に倒れ伏し、泥水を啜っている状態だったという。
野槌の興味津々の実験が開始された。
エルジオ襲撃の主犯格であり、古の祟り神・纏衣の"入れ物"にヒルコを使う実験だ。
強い肉体と健全な人格ならばファーストの纏衣と同じく、纏衣の破壊衝動に飲まれ、肉体と精神を乗っ取られ、
殺戮と破壊を好む強力な能力者となるだろう。
中途半端に悪に傾いている人格でも同様の結果になるはずだ。
仮にナチュラルの能力者や特異者を入れ物に使っても、ファーストの纏衣と大して変わらない結果になるだろう。
ならば逆ならどうか?
徹底的に才能にも能力にも恵まれない肉体で、
既に纏衣に飲まれた後よりも粗悪で劣等で絶望的で破綻した人格の持ち主に纏衣を寄生させたらどうなるのか
予想外の面白い結果に野槌はほくそ笑んだ。
纏衣の生存本能からか、ヒルコ身体を乗っ取るどころか強化し、常人以上の身体能力を出せるまでに"引き上げた"のだ。
さらに精神面でも面白い結果が出た。既に徹底的に負に傾いているヒルコの人格と纏衣の意思はすっかり馴染み、
纏衣の意思は寄生でも占領でもなく、ヒルコの人格との"共存"という形を取ったのだ。
人間の精神と肉体を乗っ取り傀儡にするはずの祟り神が、あろうことか宿主を助けることに腐心しているのだ。
否、腐心せざるを得ないのだろう。そうでもしなければあまりにも弱い宿主共々、自分も消滅してしまうのだから。
纏衣が一度砕かれたこと、そしてヒルコが"能力"の才能が一般の無能力者よりも大きく劣っていることから。
纏衣 ヒルコはファーストの纏衣よりも格段に弱い存在になった。
しかし祟り神を従順でコントローラブルな、"戦力"にしたことには変わりはない。
以降、纏衣 ヒルコは野槌の手足として、カノッサ機関で暗躍することとなる。
最終更新:2013年02月25日 07:45