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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第01話

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「ええい、忌々しいぽんこつめ!」

 第三世界エル=ネイシアを掌握した古代神、古女王(エンシェント・クイーン)エルヴィデンスは頼りない盟友を罵倒した。

「百体以上の魔王と四 億を超える侵魔を率いながら、アンゼロット一人の足止めすら出来ぬとは!
あの蝿め、若しや既に天界に寝返り、奴等の為に神の戦士を育てているのではあるまいな!」

 黒ローブに身を包み、額に宝玉を飾った布の帽子を目深に被った古女王は、石壁に囲まれ全き闇に満たされた広い地下通路
を、石畳を踏み砕かんばかりに荒々しい足取りで進みながら怒声を上げた。

「聖姫戦争に敗れ、総ての手駒を失ってから十余年。
人間に成り済ましてエルンシャに仕え、苦心惨憺の末に宰相に迄上り詰め、幼いセフィス女王を傀儡にして実権を握り、漸く奴を、
"世界の守護者"を打ち倒し、この世界を手に入れたのに! 何故、再びアンゼロットと戦わねば為らんのだ!」

 故郷エル=ネイシアが冥界勢力の手に落ちた事に気付いたアンゼロットは、今まさに帰郷の準備を進めていたが、対するエルヴィ
デンスは当初、事態を軽く見ていた。アンゼロットには、裏界を放置して此方に戻ってくる余裕などは無い筈だったのだ。

 それが、帰ってくる。

「アンゼロットが、帰って来る。シャイマールを、ルー=サイファーを討ち取って。人間を率いて、4億の侵魔を退けて。
―――かつて、姉妹たるイクスィムと二人して私に敗れたあの小娘が、随分と腕を上げたものよ・・・・・・」

 アンゼロットの父神によってこの地に封じられて以来、長い間アンゼロットとイクスィムの働きぶりを眺める以外にする事のなかった古
女王は、近づく再会の時を前に感慨を禁じえなかった。
 尤も、アンゼロットの方はエルヴィデンスを見た事もなければ、名前さえも知らないのだが。

「アンゼロットとイクスィムはとても仲が良く、協力してエル=ネイシアを守っていたが・・・ある時、恋に落ちて女神としての勤めを疎かに
する様に成り、其の隙を突いて私は限定的な復活を遂げた」

 そして起こった争いの中で、二柱の女神は力尽き・・・古代神はエルンシャに、二柱の女神が愛した男神によって討たれたのだ。

「一度は倒した相手だが・・・・此度も勝てるとは限らん。戦わずに済ませられるならば、其れに越した事は無い」

 呟きながら進むうちに廊下は終わり、石造りの巨大な扉に突き当たる。
 目を閉じていても分かる程に、圧倒的な威圧感を発する扉に。
 その扉の向こうにあるのは冥界門。
 エルヴィデンスの盟友たる冥魔王、冥姫王プリギュラが用意した次元回廊だ。
 エル=ネイシアを包むエルンシャの力に阻害されて今迄は上手く作動しなかったのだが、柊蓮司がゲイザーを倒した為に幻夢界
が消滅し、人間界全般と冥界の霊的な距離が縮んだ事で漸く冥界と繋がったのだ。
 どのみち、永い勤めに疲れ果て、自分の守っているものに価値を見出せなかったゲイザーは、あまり長くは持たなかっただろうが。

 エルヴィデンスが瘴気渦巻く冥界に続く扉を開けると、“眩い光が差し込んだ”。
触れた者の身を心を魂を侵食し、堕落させ腐敗させ衰滅させる冥界の瘴気の只中に、暖かく柔らかく神々しい光を放つ一振り
の錫杖が見えた。
 冥界を封じる三つのエンシェント・キーの一つ、“星の錫杖”。
 その輝きが、周囲の瘴気を浄化していた。

「全く、何故、この私にあの蝿の不始末のツケが回ってくるのだ」

 星の錫杖が此処にある理由。
 それは、蝿の女王ベール=ゼファーの愚行が原因だった。
 ベルは以前、魔王ディングレイを復活させる際に冥界勢力と手を組んだ。
 ベルは第一世界ラース=フェリアにクリーチャー・ホールを開くとフレイスに冥魔の軍勢を呼び込み、冥魔にとって致命的な光を放
つエンシェント・キーの回収を行い、星の錫杖の使い手・リューナ=セイグラムと接触し・・・・・・放置した。
 そして、実に下らない“ゲーム”を始めた結果、フレイスに攻め込んだ冥魔の軍勢は全滅し、クリーチャー・ホールは封じられ、星の
錫杖は冥界に投じられる事になったのだ。
 冥魔にとって、浄化の光を放つ星の錫杖がどれほどの脅威である事か。
 それが落下して来たのだから、冥界が蒙った被害は甚大だった。
 にもかかわらず、ベルは己の所業を一切省みず、恥じる様子を見せる事もなかった。

 冥魔王達は考えた。ベール=ゼファーの幼く未成熟で脆弱な精神は、冥魔が放つ瘴気による汚染に耐えられず、最初に冥界
勢力と接触した時点で錯乱したのだと。それ故に、冥魔王達はベルの責任追求を諦めた。

 だが、その後、ベルがルー=サイファーを失脚させて裏界のトップに立った事で「どうやら瘴気が抜けて正気を取り戻したらしい」と
判断し、エルオース開放計画に参加させたのだが・・・・・・星の錫杖の回収作業については、ベルに頼む気にはなれなかった。
 ベール=ゼファーは、現状、裏界最強の魔王である。
 そのベルが耐えられないのだから、裏界には冥界の瘴気の中で理性を保てる者はいないのだろう。
 しかし、だからといって、星の錫杖をいつまでも冥界に置く訳にはいかない。
困り果てた冥魔王達は実に見苦しい押し付け合いの末、籤引きによって回収作業の責任者を決めた。それがプリギュラだった。

「あの籤には、絶対に不正があったわぁ」

 エルヴィデンスの前に現れたプリギュラは、そんな事を言いながら助力を求めたものだった。

 渦巻く冥界の瘴気も、星の錫杖が放つ浄化の光もものともせず、古代神エルヴィデンスは冥界に踏み込んで錫杖に近づき、手に
取ってその力を収めた。

「ふむ、エルンシャは実に良い仕事をする。アンゼロットの好みは確か、何でも言う事を聞いてくれて、実績のある人、だったか?
女の扱い方を知らん男だが、それ以外は極めて有能と言って良かろう。
客観的に見て、息子としても父親としても、部下としても上司としても、ほぼ理想的だ。恋人にしたいとは思わんが」

 錫杖が光を放つのを止めると同時に、周囲の瘴気がどっと押し寄せたが、それが古女王の心身を傷付ける事はなかった。

「これでプリギュラの用事は終ったか。さて、次は・・・」

 冥界の瘴気を心地良さそうに浴びながら、懐から取り出した小箱を瘴気に当てた。
 小箱は瞬く間に侵食され崩れ落ち、掌の上には小箱の中身――親指の爪程の大きさの、内側から発光する水晶だけが残る。
 これこそが"星の欠片"。
 エルヴィデンスによって砕かれた"世界の守護者"星王神エルンシャの力の結晶であり、これを取り込めば神の力を受け継ぎ、数
多の下僕を自在に操る"神姫"となる事が出来る。
 現在、殆どの神姫はエルヴィデンスに騙されてその傘下にあるものの、一部の神姫は神の声を聞いて古女王に敵対していた。

「エルンシャ、エルンシャよ。私の声が聞こえるか?」
『・・・・ああ、聞こえている、エルヴィデンス』

 呼びかけた星の欠片から、暖かく落ち着いた、包容力を感じさせる力強い男性の思念が届き、エルヴィデンスは久しぶりに娘婿に
会った姑のように微笑んだ。

「エルンシャよ。アンゼロットに逢いたくは無いか?」
『・・・・・・・彼女は死んだ。お前の所為でな』
「うむ。私もそう思っていたのだがな。
どうやら、ゲイザーに拾われて第八世界に居る様なのだ。
イクスィムもルー=サイファーに拾われたが・・・アンゼロットと戦わされ、残念な事になったそうだ。
アンゼロットは、さぞや気落ちしているであろうな」

 その言葉に、星の欠片の放つ光が明滅した。

『そうなのか・・・・いや、私は彼女から受け継いだこの世界を守りきれなかった。今は、とても会わせる顔などないな』

 苦渋に満ちた思念が返ってきたが、星の欠片は光を強め、周囲の瘴気を浄化し始めた。
その様子を眺めながら、古代神は優しそうに語りかけた。

「エルンシャよ。アンゼロットはお前にとって災厄でしかなかったな。
 恋に溺れて世界の危機を招き、其の責任を問われたお前は地神に・・・アンゼロットの身贔屓な父親に八つ裂きにされ、聖姫達
を産み出す材料にされた。
 その後、紆余曲折を経て蘇り、私を倒して世界を救ったお前を待って居たのは何だった?
 長き戦乱に荒れ果てた大地と、心の支えを失った民衆、そして"世界の守護者"3人分の仕事の山だ。
 其れなのに、私は正体を隠して十年間お前に仕えて来たが、お前がアンゼロットを悪く言うのを唯の一度も聞いた事が無い」
 エルヴィデンスは星の欠片をじっと見つめ、言葉を継いだ。

「愛しているのだろう、アンゼロットを。総てを、許せる程に」
『ああ、そのとおりだ』

 エルンシャは認めた。

『彼女は私にとって大切な、大事な"同胞"だ』

「・・・・・・・・・・・・お前も往生際の悪い男だな」

『かつて私はアンゼロットとイクスィムの二人から同時に求愛されてどちらかを選ぶ事も、両方を幸せにする事も出来なかった。
私の不甲斐無さが、二人を苦しめた』
「いや、会ったばかりの女二人から突然、あたしと付き合え、でないと殺すと迫られては仕方が無いと思うが」

 傍から見ている分には愉快だったが、当事者は堪らんだろう。

『・・・・・そうか。アンゼロットは、生きているのか・・・・・・礼を言わせてくれ、エルヴィデンス。よくぞ知らせてくれた』
「ふふ、嬉しそうだな、エルンシャ」
『ああ、彼女の笑顔を思い浮かべるだけで、胸の奥が暖かくなる』

 いや、今のお前は身体がないだろ、というツッコミを飲み込んで。

「そうか。為らば自分のものにしてしまえ」

 ここぞとばかりに、毒の蜜を流し込む。
 星の欠片の光が、再び明滅した。

「アンゼロットは遠い異郷の地で、ずっと孤独な戦いを続けて来た。
お前との悲恋を忘れる為、世界の守護に身を捧げ、それを見た八大神は使える道具だと考えて次々と無理難題を押し付けた。
八大神はアンゼロットにも心がある事を分かっていない。何れ、アンゼロットは八大神に使い潰されてしまうだろう。
そう成る前に、二人で何処かに隠れてしまえ。そして二人で、静かに暮らせ」

 星の欠片が、弱弱しく瞬いた。

『私達は、"世界の守護者"だ。守るべき世界を放棄し、自分達だけが幸せになる訳にはいかん』
「お前達でなくとも、世界は守れるさ。だがな・・・・・・・・・アンゼロットを救えるのは・・・・・・お前だけだ」

 星の欠片の光が弱まり、瘴気を浄化する勢いが下がるのを認めた古女王は、そっと瘴気を吹き込むと欠片を投げ捨ててエル=ネ
イシアに戻り、扉を閉めた。

「エルンシャよ。お前ならば其の状態でも冥界から生還する事が出来る筈だ。
 尤も、冥界の瘴気の中で自我を保つには少々力が足りまい。
 恐らくは、唯一つの妄執の虜と成り果てる事だろうな」

 何もかも、冥界の腐沼に捨ててしまえ。
 理性も、正気も、"世界の守護者"としての義務感も。

「"世界の守護者"が冥魔と成るなど、主八界を揺るがす大事件だ。
前にエルオースが堕ちた際には、八大神が総出で袋叩きにした程の慌てようであったわ」

 八大神は今、冥界との戦争に忙殺されて身動きが取れない。
 しかし、この新たな冥魔王の脅威には、彼等が腰を上げずに取り除く方法がある。

「アンゼロット。"冥魔王"エルンシャを、速やかに確実に完全に無害化する最善の方法はな、お前自身が"贄"に成る事だ」

 エルヴィデンスは静かに目を閉じ、一人呟いた。

「アンゼロットよ・・・・・お前の恋路を見守るのは、私にとって最高の娯楽であったよ」


 生きている。
 生きている。
 生きている。

 アンゼロットが、生きている

 冥界の片隅で瘴気の渦に翻弄されながら、その事だけを考える。

 ・・・・・・どんな顔をして、会いに行けばいい?
 自分は彼女の求愛に応えず・・・・・・
 彼女から受け継いだ世界守る事も出来ず・・・・・・・・
 それに・・・・・・それに・・・・・・

 誰かが、囁いた。

『気にする事は何も無い。会いたいならば、会いに行けば良い』

 彼女は、厳しい眼差しの奥に優しき慈愛を秘め、地上に安らぎを与える事を願っていた。
 彼女は、仲間からも忌み嫌われながら仲間を守る為に金色の邪眼を身に付け、その眼を恥じて伸ばした前髪で隠していた。
 彼女は、魔王達を殺す、ただそれだけの為に生みだされた血塗られた戦女神の身でありながら、古代神戦争終結後に、人々を
守り導き慈しむ役目を与えられた事を喜んでいた。 

 彼女は、戦う事しか知らなかった聖姫達を"エルンシャの娘"と呼んで母のように姉のように愛情を注ぎ。
 彼女は、攫われた恋敵を救う為に自分の命を投げ出し。

 彼女は、いつだって率先して自分の身を犠牲にしてきたのだ。
 そんな彼女の、唯一の我儘を

 自分は―



 彼女は常に誇り高く、麗しく神々しく美しかった。

 煙管で煙草を吸って鼻からプハーと煙を吹く姿も
 さきいかをツマミに浴びるようにウオッカを飲む姿も
 イヤフォンで競馬中継を聞きながらスポーツ新聞を読む姿も

 とても、美しかった。



 ・・・・・・・誰かが、囁いた。

『・・・・・其れ程迄に彼女が愛しいのならば、自分のものにしてしまえ』

 だが、自分達は"世界の守護者"だ。
 その心は世界全体に遍く平等に公平に向けられるべきものであり
 特定の誰か一人に向けられる事など決して在り得るべきではなく・・・・・・・・・

 誰かが、囁いた。

『"世界の守護者"としてのお前は死んだ。
此処に居るのは・・・・・・・・・・・・冥魔王だ』

 そして。

 一体の冥魔王が冥界を脱し、ファー・ジ・アースに向かった。



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