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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第02話

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「さあて、今日はどうやって潜り込もうかしら」

 遥かな高みよりアンゼロット宮殿を見下ろしながら、蝿の女王ベール=ゼファーは呟いた。

「あたしを無視して里帰りしようだなんて、舐めてくれるじゃな――あら? あれは何かしら」

 少し離れた場所に何かが転移してきた気配を感じ、視線を転じれば、そこには錫杖を携えた人の形をした闇・・・・・・・否、瘴気の塊が在った。

「冥魔? 目障りねぇ。消えなさい」

 其方に向けた掌を中心に魔法陣を展開し、攻撃魔法を叩き込む。
 空間の歪みが巨大な槌となり、人型の闇に向けて突き進み・・・・・・ソレが振るった錫杖によって吹き散らされた。

「へえ、少しはやるじゃないの。なら、これはどう?」

 より巨大な魔法陣を多重に展開。
 今度は、太陽の輝きを凝縮した灼熱の槍を撃ち出した。
 巨大な魔力塊が、その進路上の大気を電離させ、光の尾を曳き冥魔に迫る。

 今度こそ仕留めた。

 ベルがそう確信した瞬間、冥魔は全身を鏡面化させ、ベルの自慢のディバインコロナ・ザ・ランスを反射した。

「う゛ぞ?!」

 硬直したベルは自ら放った巨大な火箭が近づくのを、やけにゆっくりとした時の中で凝視した。
 今日、ベルの用意した写し身は柊蓮司との戦いを楽しむ為のもの。
 高位冥魔との戦闘は想定外だったのだ。

(うぁ!? やばっ!)

 ベルが呻いた瞬間、視界が切り替わり、光の槍は遥か下方を通り過ぎて行った。

「危ないトコだったわねぇ、ぽんこつちゃん」
「誰よ、あんた?」

 ベルは自分を転移させた相手を――右目を薔薇の眼帯で覆い、茨のようなレースで飾り立てたドレスを纏い、満面に亀裂
めいた笑みを浮かべた黒髪の少女を――疑わしそうに睨んだ。

「わらわは冥姫王プリギュラ。冥魔王よ」



「な・・・・・・・何なんだよ、アレは・・・・・」

 アンゼロット宮殿 司令室にて。
 柊蓮司は、発すべき言葉を失っていた。

 彼はウィッチブレードに改修した己が魔剣を受け取りに来ていたのだが、宮殿の近くで巨大な魔力反応が観測された為
に冥魔の接近に気付いたアンゼロットと共に、慌てて司令室に駆け込んだのだ。
 そして彼は、モニター越しに目にしたのだ・・・・・・仇敵が、一蹴される光景を。
 ロンギヌス達も大きな混乱に陥っていた。彼らには、ベルが反射された自分の魔法で消し飛んだように見えたのだ。

「ばかな! ベール=ゼファーが!?」「あの蝿の女王がこうも簡単に?!」「こっ、この魔力反応の強さは・・・・・・計測器が
振り切れて、測定出来ません!」「間接的な観測結果から推測される能力は・・・・?! 嘘! この計算絶対間違ってる!」
「はひー!?」「うわーだめだー!」「ああ! 短い一生だったでヤンス!」「冥魔ってこんなに強いの?!」「チートってレベル
じゃねーぞ!」「つか、2ndになってからボスのスペック、インフレし過ぎだろ! 防御力3桁のhp4桁とかどーやって倒すんだ
よ!」「そーだそーだ! 柊先輩でも攻撃力100ちょっとなんだぞ!」「エネミー特殊能力でhpを1にするとかあるけどな!」
「PCは使えないでしょーが!」「召喚魔法でそれを使えるエネミーを―」「レギュレーションで禁止されるだろ。常識で考えて」


           「皆、落ち着きなさい!!」


 アンゼロットに一喝され、うろたえまくっていたロンギヌス達は口を噤んで視線を彼女に集め、次いで、柊をじっと見つめた。


    ああ、そうだ。この二人がいるのだから、怖れるものなど何もないではないか。


 ロンギヌス達の期待に満ちた眼差しを一身に受け、居心地の悪くなった柊は、明後日の方向を向いて軽口を叩いた。

「ベルの奴・・・まるで子供扱いされてるじゃねーか・・・・・直接戦った事はあんまりなかったけど、あいつ結構弱かったんだな」
「当然の結果です。裏界の蝿如きが敵う相手ではありませんわ」
「アレが何だか知ってるのか、アンゼロット!」

 固い声で呟いたアンゼロットを振り返り、柊は再び絶句した。
 その表情を、何と言えばよいのだろう。
 敢えて言うならば―――懐かしさと愛しさと切なさと悲しみと・・・・罪悪感の入り混じった、実に名状し難い表情だった。

「今日はやたらと珍しいもんを見るな・・・・・・いや、まあいい。知ってる事を教えてくれ」

 何度も苦境に立たされた仇敵を容易く退けた未知の敵を前にして尚、柊は恐れる事もなく生まれ変わった愛剣を握り締め
て闘志を漲らせる。一方、アンゼロットは暫し躊躇してから口を開いた。

「柊さん。落ち着いて、よく聞いてください」
「おう」
「今回、貴方は世界を救う運命にありません」
「はあ?」
「寧ろ、貴方がこの件に関わると世界が滅びます。ですから、ここでじっとしていて下さい」
「おいおい、何言ってんだよ? 俺が何度も世界を救ってるのは知ってんだろーが」

 あまりの言い様に困惑し、柊は抗議の声を上げた。
 別に実績を鼻にかける気はないし、自分が行けばどんな危機でも必ず救えると驕っているつもりもない。
 だが、ここまで邪険にしなくても、とは思う。

「説明している暇はありません! この件は、わたくしが一人で対処します!
 総員待機! いいですね! 逆らったら72時間耐久侵魔ハンティングをさせますよ!」

 言い捨てて、勢いよく部屋を飛び出して行くアンゼロットを見送って、柊はボリボリと頭を掻いた。
 訳が分からない。在学中は出席日数がヤバくなるほど任務を押し付けて来たというのに。

「如何致しますか、柊様」

 戸惑う柊に、それまで黙って隅に控えていたロンギヌス・コイズミが、皆を代表して問いかけた。

「んー。あー言われたからって、黙って見てられる訳ねーじゃねーか」
「では、お供致します。他の者には、この場からモニターで冥魔の情報を収集・分析させましょう」

 廊下を駆け抜けた"下がる男"コンビが、テラスに出たアンゼロットに追いつくのとほぼ同時。
 世界の守護者の前に、先程の冥魔が降り立った。

「アンゼロット様!」「待て、コイズミ! 様子が変だ!」

 飛び出そうとしたコイズミを制止して、柊はテラスの出入り口の陰に身を潜めて会話に耳を澄ませた。
 冥魔が、“言葉を発し”、アンゼロットに語りかけていたのだ。
 とても、親しげに。とても、愛しげに。
 そして、アンゼロットもまた、 ―やや、強張った態度ではあったが― まるで旧知の友人に対するかのように、それに応じ
ていた

「久しいな、アンゼロット。また逢えて嬉しいが・・・・此方での生活は随分と厳しいようだな。すっかり、やつれてしまって・・・・・」
「・・・・・・貴方ほどではありませんわ。それで、そのお姿はどうされたのですか?」

 アンゼロットは感情を感じさせない事務的な口調で問いかけ―
 冥魔は、暖かさと優しさを感じさせる声で、その問いに答えた。

「私は身体を砕かれ、世界を奪われた。
 そして冥界に突き落とされ・・・・・・漸く、自分に正直になれたのだ。
 アンゼロット。あのとき言えなかった言葉を今こそ言おう。

   君を愛している。

 私と一緒に来てくれないか。何処かで、二人だけで静かに暮らそう。
 冥界の瘴気の中でもがいている間、君だけが心の支えだった・・・」

 情熱的な、求愛の言葉。だがしかし、それは冷たく拒絶された。

「それは出来ません。わたくしは世界を守護する者です。
 それこそが、いえ、それだけがわたくしの生きる理由なのです」

 柊達の方からはアンゼロットの表情は見えなかったが、冥魔は目に見えて落胆し、空に見える地球を仰いた。

「私よりも、あの青い星の方が大事だと言うのか?」
「わたくしはもう二度と、同じ過ちを繰り返すつもりはないのです」

「そうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ところでアンゼロット。
 話は変わるが、冥界から天界を守るには、幻夢神の覚醒(=第八世界の滅亡)が不可欠だとは思わないか?」

「痴話喧嘩で世界を滅ぼすんじゃねえ!!!」

 思わず発した柊の怒声に、アンゼロットの肩がビクッと震えた。

「・・・・耳が痛いですわね」
「ん、すまねえ。そんなに大声だったか?」
「そういう意味ではないようですが・・・」

 柊のボケにツッコミを入れるコイズミをスルーして、アンゼロットは苛立たしげに男達の方を振り向いた。

「二人とも下がりなさい! 待機を命じた筈ですよ!」

(アンゼロットは・・・配下には恵まれているようだな・・・・)

 主命に逆らってまで主の身を案じ、この場に駆けつけた二人を頼もしげに見つめた後、エルンシャはアンゼロットに視線を
戻した。

 夜闇の如き黒髪は色を失い、まるで老婆の白髪のようで。
 右目の金色の邪眼は力を失い、左目と同様に澄んだ湖の色となり。
 大いなる母性を象徴する成熟した外見年齢27歳の豊満な肉体は、痩せた幼女のそれへと変わっていた。

(よほど、苦しい日々を過ごして来たのだな・・・・・・)

 誰かが、囁いた。

『あの青い星がお前から彼女を奪い、磨り潰したのだ。
 憎め。壊せ。滅ぼせ。そして、彼女を取り戻せ』

 エルンシャはその声には応えず、力を振るって魂を蝕む瘴気を浄化し・・・・・・急に苦痛を覚えて呻いた。

「ぐっ、が、がはぁっ! な・・・何だ?」
「・・・・・・貴方の本分は瘴気の浄化。その貴方が瘴気で身体を構成すれば・・・・・・自己崩壊を起こすのは必然です」


 錫杖に縋り、膝をついて胸を押さえるエルンシャを見下ろして、アンゼロットは敢えて冷めた顔をして酷薄に告げた。

「そして貴方の魂は、破損した肉体を修復するために大量のプラーナを求める・・・・・・」

 アンゼロットがエルンシャの足元に目を落とすと、床板が塵へと変わりつつあった。


       こんなになってまで・・・わたくしに会いに来てくれたのですか?


 胸を抉られるような心の痛みも、溢れそうになる涙も、氷の仮面を顔に貼り付けて押し殺す。

「わたくし達、世界の守護者が内包するエネルギーの総量は、宇宙開闢に匹敵します。
 つまり、貴方がその状態から完全な復活を遂げるには、世界一つ分のプラーナが必要になるのです。
 ですが、そんな余分なプラーナなど今の主八界のどこにもありはしません。

 冥界の瘴気に蝕まれ、自己保存本能の暴走が制御出来なくなった貴方は、間もなく・・・・・・かの荒廃の魔王と同様に、周
囲のプラーナを無秩序に吸収し、世界を滅ぼすようになります。
 ですから、其の前に」


       せめて、わたくしの手で・・・・・・・


「・・・・・・・・・・・私を・・・・・・・・・・殺すのか? アンゼロット?」

 エルンシャは、自分を愛してくれていた筈の女性が、冷たい表情のまま、魔力を込めた掌を翳すのを呆然と見つめた。

「はい。貴方を殺します。もう・・・・どこにもいない・・・・貴方の、ために・・・・・・」
「ふっ・・・・そうか・・・・・・それも・・・・・・・・・・良いかもしれないな・・・・・・・・・・」

 プラーナを吸い尽くす化け物となった今の自分を見下ろし、自嘲気味に、笑う。

「だが、どうせなら、私のプラーナを吸い尽くしてくれないか? そうすれば私は、君の中で永遠に生き続け―」

「お、おい、アンタ、大丈夫かよ?」
「今、手当てを致します」
「――ッッ! 来るんじゃありません!!」

 心配した下がる男達が慌てて駆け寄って来るのを認めたアンゼロットは蒼白な顔で、横を通り過ぎようとしたロンギヌス・コイ
ズミを殴り倒し、次いで柊の袖を掴もうとして―

「おい、アンタ、しっかりし――?!」

 間に合わなかった。

 エルンシャを助け起こそうとした柊は、その体に触れた瞬間、大量のプラーナを抜かれて昏倒した。

「柊さん!」

 アンゼロットの悲痛な声がテラスに響き―

「アン・・・ゼ・ロット?」

 エルンシャは怪訝そうに、"かつて"彼を愛した女性を見た。


 誰かが、囁いた。

『彼女の心は、もうお前の上には無いのだ。

   実に、身勝手な女でないか?

 世界の危機を招く程に熱烈に迫っておいて、別れの言葉の一つすらも無く一方的に姿を消して。

  お前が思い出を胸に、一人で世界を守っている間に、自分だけは新たな恋を見つけて居たのだ。

   自分だけは新たな恋を見つけて居たのだ。

 しかも、お前を巡って争った恋敵を殺しておいて、だ。

   こんな酷い話が他に有るだろうか? 

  此れでは、殺された恋敵も浮かばれまい。

 此れ程迄に厚顔無恥な女など、魔王の中にも居はしまい。

   こんな女に、誰かに愛される価値が有るだろうか?

 なんと不実な、なんと残酷な、なんと―』

 エルンシャはその囁きから耳を背け、魂を侵食し理性を奪う瘴気を消し去るべく再び力を振るい・・・・自壊した。
 当然だ。彼の魂を蝕む瘴気とは、彼の今の肉体を構成しているものなのだから。

「お゛お゛あ゛、がぁっ!! ア・・・ン・・・・ゼ・・ロッ・ト・・・・」
「エルンシャ様! わたくしは、わたくしはここにいます!」

 崩壊した肉体を修復すべく、無意識に周囲のプラーナを吸収し始めた初恋の相手に縋りつき、アンゼロットは自分のプラーナを分け与えた。

 これで、ひとまずは被害を抑えられる。

 アンゼロットがそう思ったとき、エルンシャは彼女を抱きしめて立ち上がった。

「きゃっ!」

 そして彼はテラスから飛び立ち。

「アンゼロット様!」「コイズミ! 後は任せました!」

 それを止めようとしたロンギヌス・コイズミは、アンゼロットの情報共有魔法により膨大な情報を流し込まれて眩暈を起こし、
倒れた。


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