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運び屋は魔王様

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運び屋は魔王様

深夜。いつもならばとうの昔に床についている時間にも関わらず、トリステインの女王、アンリエッタは待っていた。
ここは王宮の最奥、厳重に守られた女王の寝室。
深夜とは言え交代で魔法衛視隊や銃士隊を出し抜いてここにたどり着くことなど、普通の人間…否、メイジでも不可能。
だからこそ、アンリエッタはその女が言う事を信用した。
それから、彼女は時々訪れる。こんな、“紅い月だけ”が輝く晩に。
「ういっす。いつもの奴、届けに来たよ」
ざっくばらんな口調で話しかける、くわえ煙草に革のピッタリした服を着こんだ女。そう、彼女こそ―――
「…お待ちしておりましたわ。パトリシア…」
“挟間の渡り手”パトリシア=マルティン。アンリエッタには知る由もないが、裏界の公爵の1柱…魔王である。

「はいこれ。いつものね」
早速とばかりに、パトリシアはそれをアンリエッタに渡す。
「いつも御苦労さま」
労いの言葉もそこそこにいそいそとアンリエッタは文机のペーパーナイフで封筒を開封する。
そこに入っていたのは…

『姫様へ―――』

いつもの調子で始まる、日本語で書かれた手紙。
本来ならばアンリエッタには読めようはずもないが、翻訳の魔法が掛けられており、アンリエッタが目で追えば内容が自然と頭に入ってくる。

『―――平賀才人より』

「…お元気そうでなによりですわ。サイト様…」
色々あって恐ろしく強い獣人と決闘をしたことなど、“向こう”で起こった出来事を面白おかしく伝えてくるサイトの手紙。
ガリアやロマリアとの外交や、いまだ戻らぬ子息を心配する貴族たちの陳情に日々心労を溜めているアンリエッタにとってパトリシアが運んでくる手紙は、
大切な支えとなっていた。
「パトリシアも御苦労でした。これを」
手紙を読み終え、アンリエッタは代わりとばかりに手紙を託す。王家の花押でもって閉じられた、手紙。
その中にはサイトやルイズなど“向こう”に行ってしまった者たちへの言葉が綴られている。
「はいよ。そんじゃ、料金はいつも通りね」
そう言うとパトリシアは手をかざす。
「はい、どうぞ…」
アンリエッタが頷くと同時に、アンリエッタを脱力感が襲う。
「…うん。プラーナ1日分。確かに受け取ったよ」
パトリシアが“プラーナ”と呼ぶ、魔法を使うための精神力を1日分。
これを取られると一晩休んでも翌日はほとんど魔法が使えなくなるが、その翌日には回復するし、
そもそも王宮で暮らしている限り、アンリエッタが自ら魔法を使う機会はそう多くは無い。
「それと、頼まれてた奴、買って来てやったよ」
そう言いつつ、パトリシアは前回来た時に“プラーナ3日分”を報酬として受け取り、代わりに持ってくることを約束した
モノが入った小包みを取り出す。
「本当は連れ出せりゃよかったんだけどね」
学園世界の“中”の人間は、魔王たるパトリシアの力を持ってしても連れだすことはできない。
それが、あの挟界に定められたルールだった。
「…まあ」
中に入っていたものにアンリエッタは驚いた。それは…
「こんなに精巧な絵姿…向こうには凄いものがあるんですね」
まるで今にも動き出しそうなほど精巧に描かれた、サイトの絵姿。
それも普通の立ち姿の他にも一身に稽古に励む姿や赤毛の少年と一緒に街中を歩いている姿、果ては疲れて居眠りした寝顔など、
様々な情景をリアルにとらえていた。
「いや、普通のブロマイド…写真だけどね?」
『バザール』ではこの手の“有名人”の写真がブロマイドと称して売られている。
大抵は女の子のもの(ちなみに本人には秘密と言うのが大半)だが、稀に男にも関わらず女の子にも負けない数売れるブロマイドがあったりする。
“ありとあらゆる武器の使い手”平賀才人のブロマイドは、執行部の面々や不幸だーの少年と並び良く売れる品なのだ。
「ああ、あとよく分かんないけどそのサイトのことを描いた漫画も売ってたから一緒にいれといた。んじゃ」
そう言うとパトリシアは次の運び先である世界へと向かうため、虚空へと消えた。


「…マンガ?」
聞き慣れない単語に首をかしげながら、アンリエッタは小包の中に入ったそれを取り出す。
「これは…絵物語?」
先ほどの“ブロマイド”とは違う、独特のタッチで描かれた薄い本。
その表紙にはサイトと先ほどのブロマイドに写っていた赤毛の少年が描かれている。
「―――『サイ×ナギ 禁断の課外特訓 作者:天法院みやび』…?」
ご丁寧にもこちらにもちゃんと翻訳の魔法が掛かっていたらしく、何が書いてあるかは分かる。
だが、その意味は良く分からなかった。
「いったいどんなお話なのかしら…?」
そう言いつつ、アンリエッタは何気なくページをめくり…

「さーてあとは今日はメリダ島のテレサに遠野家の琥珀、それに三千院家のマリアっと…」
ずらりと並んだ『お得意様』リストに目を通しながらパトリシアは1人ごちる。
「にしてもまさか頼まれた人が題材の漫画が全部売ってるってのは驚いたわ」
あんまし期待しないで探してみた『バザール』の懐にちょっとだけ関心する。
「しかも売ってるのも買っているのも全員“女の子”だったしねー」
「受け」だの「攻め」だの良く分からない単語が飛び交う異次元空間と化した一角。そこには頼まれた人物の漫画が全部売っていた。
どれが良いのかは分からないので表紙の出来が良かったのを適当に、だが。
「…ま、喜んでもらえたからいいけどさ」
これがあるから、自分は格安で手紙の運び屋なんてやってるのだ。
「さ~って、お仕事お仕事」
気合いを入れて次の世界へと駆ける、魔王パトリシア。
彼女に依頼を出したいときは休日『バザール』にて営業中、である。

…ちなみに後日、パトリシアはアンリエッタを始めとした複数の人物より『本の作者』へのファンレターを託されることになるのだが、それはまた、別の話。




  • パトリシア=マーティン@ナイトウィザード!(ラビリンスシティ)
  • アンリエッタ@ゼロの使い魔
  • テレサ・テスタロッサ@フルメタルパニック!
  • 琥珀@月姫
  • マリア@ハヤテのごとく!
  • 天保院みやび@ぱるてるチャイムContinue

以上『多分学園世界にはいないであろう登場作品キャラ』+2にてお送りしました。


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