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吹けよ風、呼べよ嵐

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吹けよ風、呼べよ嵐 ~ それゆけ! リンカイザー ~


それは、少しだけ前のこと。

ブロロロロ…と大きめの音を立て、いつものように町の中を走るマイクロバス。
母親から子供を預かり、幼稚園へと送り届ける。いつもと変わらない日常の風景だった。

すっきりと晴れ渡る青い空。
一歩一歩を踏みしめるように暖かくなっていくこの時期だが、朝はまだ肌寒い。
とは言え、そう感じているのは大人たちだけで、主役たる子供たちはそんなことお構いなしのようだ。

やはりまた、いつものように子供たちは大騒ぎ。
バスに同乗していた女性教員は、毎度毎度繰り返される光景に飽きないのだろうか?と思いつつも、車内では大人しくするよう彼らに口頭で注意する。

「はいはーい、みなーさん! バスの中では静かに…… きゃっ!?」

立ち上がった瞬間、外から急に赤い光が差し込み、幼稚園バスがガタンと揺れる。
体勢を崩し、思わず手すりに寄りかかるが、彼女に動揺はない。
幼稚園教員という使命感からか、真っ先に意識が向いたのは自分のことよりも守るべき子供たち。

(大丈夫かしら?)

顔をあげ、後部座席に目を向けると――

「グルルルルルrrrrr! シギャアアアァァァァァアアアッッ!」

それまでの青空はどこに行ってしまったのか。
赤い光を放つ月を背にして、バスの窓に「何か」がへばりついていた。

映画の中にしか存在しないような、という形容がまさに相応しい。
緑とも黒とも言い難い体色をした化け物。爬虫類に似た顔つきに、両生類のような両足。両手はまるで刀のように鋭く伸びている。
体表は粘液に覆われているのか、太陽の光を乱反射し、ところどころ白く輝いていた。

ギョロリとした大きな2つの目が、こちらをぎりりと睨みつける。

その「何か」と目が合った途端、彼女は生気を抜かれるかの如く、そのまま意識を失ってしまった。
科学という常識の中で生まれ育ってきた彼女には、決して耐えられたものではないのだろう。
本来なら、相手の姿を見た瞬間失神してもおかしくないレベルだ。
時間にして数秒間とはいえ、よく耐えられたものである。

「わーーーーー!?」
「きゃーーーーーーっ!?」
「ほっほーーーい」

彼女の異変(それと背後の化け物)に気付いた園児たちが、一斉に声をあげた。
若干名を除き、車内は大混乱。

「なんですか、一体もうっ!」

その様子をバックミラーで見ていたバスの運転手が悪態をつく。
相当いかつい顔をした中年男性だが、これでも列記とした幼稚園の教員(しかも園長!)である。

「みなさんっ、しっかり掴まっててくださいね!」

そう叫ぶと組長、もとい園長は急ハンドルを切る。
速度の出ないバスでは相手を振り落とすことは難しいかもしれない、だが今はこうするしか無かった。

組長はふと昔を思い出す。
四国から上京したての頃、自分がやっていたことを。
夜闇の魔法使いとして、世界を脅かすあのような化け物と戦っていた自分の姿を。

(せめて、せめて応援を呼べば……!)

おそらくは低級の侵魔だろうが、今の自分には、かつてのように戦う力は残されていない。
ふたば幼稚園を設立すると決めた時に、全てを捨て去ってしまった。


 * * *


赤い月に照らされた町並みを、背中に化け物を抱えたマイクロバスは蛇行運転していく。
なんとか振り落とそうとチャレンジはしているのだが、一向に埒が明かない。

――ガシャアアアン!

ついにバスの窓が割られ、化け物が、車内へ滑りこんでくる。
べちょりと音を立てて着地すると、怯える園児を品定めをするように観察した。

じわり、じわりと子供たちに近づいていき、一番手頃な獲物――たまたま正面にいた少年――に向かって、右手の刀を振り下ろす。
まさに絶体絶命!
次の瞬間には、無残な姿になった肉塊を見ることになるだろう、その場に居た誰もが思っていた。
他の園児たちを始め、バックミラーで様子を見ていた組長も。
そう、刀を振り下ろした化け物本人さえ。

――むにっ。

いつもとは違った感触。
決して自分の攻撃が外れたわけではない。そう、例えるなら柔らかいもので止められたかのような。

「ケツだけ星人ーーーー!」

白羽取り。
日本には、確かそんな言葉があったような気がする。

場に訪れる、一瞬の沈黙。
それを打ち破ったのは、突然聞こえてきた男の笑い声だった。

「ぎゃははははは! おまえサイコーだな!」

いつからそこに居たのか、20歳くらいの青年が化け物の背後に立っていた。
健康的な肌色に、均整のとれた体つき。そしてキラリと輝く白い歯!

「変身(アーマーフォーム)っ!」

青年は一声発すると、派手な効果音とCG演出を伴い、みるみるうちに姿形が変わっていく。

「正義のヒーロー、リンカイザー参上!……ってな」


 * * *


「「がんばれ、リンカイザー!」」

リンカイザーの背後から、子供たちの応援が聞こえる。
自分は正義のヒーローなのだから、命に代えても彼らの日常は守り抜かなければならない。

リンカイザーパンチ! かきん!
エミュレイターキック! かきん!

ラウンド進行が始まってしばし。
リンカイザーと侵魔は、お互いに有効打を与えられず均衡状態に陥っていた。
リンカイザーは攻撃よりも防御、仲間を守ることに長けた難攻不落の変身ヒーローなのだ。

――シャカシャカシャカ。

リンカイザーの背後に、すばしっこく動き回る小さな影。
先ほどエミュレイターの攻撃を受け止めた、あの少年である。
何か考えがあるのか、それとも何も考えていないのか。
少年は、印を結ぶかのように両手を組み、そのまま勢い良く前へと押しやった。

「えいやっ!」

少年の人差し指は、ある一点に向かってまっすぐと突き進む。
そして目の前に居るのはリンカイザー。

――ぶすっ。

見事に命中。
尻に激痛を覚えたリンカイザーは、その反動で強烈なリンカイザーキックを侵魔に見舞う。

――ガゴォォォォォォォォン!

どさり。
それが決定打となり、永きに渡る戦いは終止符を打たれることになった。

化け物を倒したのと同時に、窓の外の景色にも変化が訪れる。
周囲を包んでいた月匣が崩壊を始めたのだ。

「みなさん、出口です! 一気に飛ばしますよっ!」

組長が、ここぞとばかりにアクセルを強く踏み込んだ。
左足の動きに合わせて、慣性の法則により身体に力がかかる。
きちんと物理法則が働くという、たったそれだけのことが少し嬉しい。
遠くに見える白い光を抜ければ、この薄気味悪い世界からもおさらばだ。

――ブロロロロロォォォォオオオオッッ!

光の奔流が周囲を包む。
次の瞬間、窓に映るのは抜けるような青空――と、どこか見慣れない景色だった。
知っているようで知らない建物たち。
少なくとも自分の知っている町並みでは無いことは確かだ。


 * * *


こうして“学園世界”へとやってきた、ふたば幼稚園の園児たち+α。
彼らもまた、この世界で嵐を呼ぶ冒険を繰り広げることになるのだが……

けれどもこれは別の物語、いつかまた、別のときに。


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