邪神は学園世界の夢を見る
―――???
―――タリナイ
"それ"は気づいた。
―――タリナイ
今までは気づかなかった…否、思考すら存在しなかった。
―――タリナイ
新たに組み込まれた"部品"によって手に入れた自我。
そこから発生したおぼろげな思考を巡らせ、"それ"は求め、探す。
―――タリナイ
自らの不足を補う、新たなる部品。幽かに感じる、自らに近しい存在。
それを手に入れなければ、自らが満たされることはけして無い。
故に"それ"は求める。
―――タリナイ
薄皮1枚隔てた先にある世界。そこから感じる。新たに組み込まれた部品に近い存在。
手に入れなければ…"それ"は本能にも似た衝動に突き動かされ、求める。そして。
―――ミツケタ…
世界すらも越え、"それ"は見つけ出す。自らに足りない存在を。
―――ミツケタ
世界を越えた先すら見通す"それ"の目には確かに映っていた。
―――ミツケタ!
間違いない。"それ"にとって、その部品は自らに足りないものを補うに足る存在だ。
故に。
―――ミツケタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
半ば衝動に突き動かされるように"それ"は世界を超え、部品を辺りの空間ごと喰らい、飲みこむ。
部品…"それ"に足りないものを補う存在。
"それ"と同じ力を纏った…知恵と感情を持つ"巫女"を。
"それ"は気づいた。
―――タリナイ
今までは気づかなかった…否、思考すら存在しなかった。
―――タリナイ
新たに組み込まれた"部品"によって手に入れた自我。
そこから発生したおぼろげな思考を巡らせ、"それ"は求め、探す。
―――タリナイ
自らの不足を補う、新たなる部品。幽かに感じる、自らに近しい存在。
それを手に入れなければ、自らが満たされることはけして無い。
故に"それ"は求める。
―――タリナイ
薄皮1枚隔てた先にある世界。そこから感じる。新たに組み込まれた部品に近い存在。
手に入れなければ…"それ"は本能にも似た衝動に突き動かされ、求める。そして。
―――ミツケタ…
世界すらも越え、"それ"は見つけ出す。自らに足りない存在を。
―――ミツケタ
世界を越えた先すら見通す"それ"の目には確かに映っていた。
―――ミツケタ!
間違いない。"それ"にとって、その部品は自らに足りないものを補うに足る存在だ。
故に。
―――ミツケタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
半ば衝動に突き動かされるように"それ"は世界を超え、部品を辺りの空間ごと喰らい、飲みこむ。
部品…"それ"に足りないものを補う存在。
"それ"と同じ力を纏った…知恵と感情を持つ"巫女"を。
1柱の神と1人の巫女…そしてそれに巻き込まれた2人の姫。
彼女らを中心に、物語は始まりを告げる。
彼女らを中心に、物語は始まりを告げる。
―――エヴァの茶室
とある日曜日の昼下がり。
魔人皇との邂逅より1ヶ月。
斎堂一狼はエヴァに請われ茶室を訪れていた。
「身辺調査…ですか?」
一狼の問いかけにエヴァは頷く。
「そうだ。お前が適任だと思ってな。こいつらの周りに悪魔の影がないか、調査してこい」
そして、1冊の大学ノートを机の上に放り投げる。
一見するとただの大学ノート。それを茶室のテーブルにほうりだしてエヴァが言う。
「それは私から元春に頼んでおいたものだが、ついさっき出来上がったと持ってきてな。読んでみろ」
魔人皇に関して情報収集を行っている、カゲモリ屈指の情報通の名前を挙げ、エヴァは一狼に手に取るよう促す。
一狼は1つ頷いて手に取り、パラパラとめくり、内容を確認する。
斎堂一狼はエヴァに請われ茶室を訪れていた。
「身辺調査…ですか?」
一狼の問いかけにエヴァは頷く。
「そうだ。お前が適任だと思ってな。こいつらの周りに悪魔の影がないか、調査してこい」
そして、1冊の大学ノートを机の上に放り投げる。
一見するとただの大学ノート。それを茶室のテーブルにほうりだしてエヴァが言う。
「それは私から元春に頼んでおいたものだが、ついさっき出来上がったと持ってきてな。読んでみろ」
魔人皇に関して情報収集を行っている、カゲモリ屈指の情報通の名前を挙げ、エヴァは一狼に手に取るよう促す。
一狼は1つ頷いて手に取り、パラパラとめくり、内容を確認する。
『…D-28石浜中学校、一橋ゆりえ。分類、国津神。神様で中学生。F-63菊本高等学校、神山佐間太郎。分類、魔神。同じクラスにいる家族(大天使とエリート天使と大森は除く)も神。
B-76賀城高校、御厨ナギ。分類、地母神。自らの本体である御神木から彫りだされた像を依り代に顕現した。妹が…』
B-76賀城高校、御厨ナギ。分類、地母神。自らの本体である御神木から彫りだされた像を依り代に顕現した。妹が…』
それは、人物禄だった。学校名と名前、デジカメで隠し撮りしたと思しきスナップ写真と写真の人物に対する簡単なプロフィール。それがずらずらと並べられている。
老若男女多種多様(学園世界である以上、若い学生が多いのは仕様である)な人物禄には一見すると法則性も何もないが、よく見ると分類と言う項目には必ず"神"の文字が含まれている。
「学園世界で実際に肉体を持って活動している"神"のリストだ。私も目を通したが、確かお前の学校にもいたぞ。高等部3年の真壁とか言う女が天津神系の女神の転生体らしい」
魔神皇が"神"を手に入れると宣言してから、エヴァは茶々丸やタバサ、その他情報収集を得意とするカゲモリたちの協力を得て、学園世界の神について調べていた。
各学園で信仰され、時に奇跡の力を分け与える神。その力は学園世界にも等しく届く。
元の世界で1つの技術として確立され、"神の奇跡"として行使されていた力は、学園世界においても変わらず使うことができる。
(もっともこれは魔法や超能力と言った他の技術体系でも同様なのだが)
それゆえに学園世界で名を確認でき、その力を使うことができる神はローカルなものも含めれば万に届く。
文字通りの意味で八百万の神の加護を受けているとすら言われる世界。それが学園世界と呼ばれる場所である。
そして、そのことが魔神皇が狙う"神"の特定を極めて困難にしていた。
魔神皇と同じ技術を根源とする、佐藤のアームターミナルの情報を解析しては見たものの、魔神皇の狙いと直結していそうな知識は、
魔神皇が神と呼ぶ存在は7つに分類されることと、彼らの種族を決める定義が分かった程度。
そこでエヴァは一計を案じ、狙われる神としてもっとも可能性が高く、何名か存在の確認されていた『既に学園世界に顕現している神』を調べたのだが…
「…まさか100を越えるとは思っていなかった。つくづくこの世界には常識が通用せん」
実際に学校に通う生徒に教師、学校の七不思議から個人に憑いてる守護者、果ては密かに学園に封印された邪神なんてものまで。
学園世界には存在、顕現しているものだけでも3桁に達する数の神がいる。
それを1つ1つ調べて行くのは確かに骨だろう。更に。
「真偽はどうあれ『俺に戦闘(あらごと)任せた日にゃあ辺り一面血の海ぜよ?主に俺の血で』とか抜かす奴に悪魔に襲われる可能性のある詳しい調査までは任せられんが、
卑怯もホタルも山芽も魔術の方は完全に門外漢だからな。隠密の技を持つメンバーでかつ魔術の知識もある程度持っているとなるとお前くらい、と言うわけだ」
適正の無いものに任務を任せては、無用な犠牲を招く。それを防ぐべく、エヴァは他の『適正ある』カゲモリに後を継がせるつもりであった。
「なるほど…確かにそうですね」
一狼は『役に立つものなら何でも使う』と言う思想のもと、科学と魔法の技術を取り入れてきた技術体系"忍術"を使う、忍者のウィザードである。
そのためか本職の魔術師や陰陽師ほどではないにせよ魔法にも詳しい。
加えて気配を断つ白面の術を得意とするだけあって隠密能力の方もカゲモリの中ではトップクラス。いざ戦いになっても勝てないと分かれば撤退するだけの判断力もある。
適任であった。
「分りました。すぐに調査にかかります」
「ああ、頼んだ。一応言っておくが、無理はするなよ」
「ええ。分かっています。元より、僕1人でどうこうできる相手じゃない」
そして、早速調査を開始するべく茶室を後にしようとした、その時だった。
バタンッ!
荒々しい音を立てて、客室に向かう通路の扉が開かれる。
「た、大変だよ!」
そこに立っていたのは、いつものツインテールを下ろしファンシーなパジャマを着た1人の少女。
「…一体何があった、さつき?」
この時間ならいつもは完全に夢の中であるはずのさつきの様子に、不穏なものを感じ取ったのだろう。エヴァが眉をひそめ尋ねる。
「い、今杏里ちゃんの"子供"からメールが来たの!輝明学園の購買部が…消えちゃったって!」
「なんだって!?」
それにエヴァよりも早く反応したのは一狼だった。思わず立ち上がり、さつきの肩をつかむ。
老若男女多種多様(学園世界である以上、若い学生が多いのは仕様である)な人物禄には一見すると法則性も何もないが、よく見ると分類と言う項目には必ず"神"の文字が含まれている。
「学園世界で実際に肉体を持って活動している"神"のリストだ。私も目を通したが、確かお前の学校にもいたぞ。高等部3年の真壁とか言う女が天津神系の女神の転生体らしい」
魔神皇が"神"を手に入れると宣言してから、エヴァは茶々丸やタバサ、その他情報収集を得意とするカゲモリたちの協力を得て、学園世界の神について調べていた。
各学園で信仰され、時に奇跡の力を分け与える神。その力は学園世界にも等しく届く。
元の世界で1つの技術として確立され、"神の奇跡"として行使されていた力は、学園世界においても変わらず使うことができる。
(もっともこれは魔法や超能力と言った他の技術体系でも同様なのだが)
それゆえに学園世界で名を確認でき、その力を使うことができる神はローカルなものも含めれば万に届く。
文字通りの意味で八百万の神の加護を受けているとすら言われる世界。それが学園世界と呼ばれる場所である。
そして、そのことが魔神皇が狙う"神"の特定を極めて困難にしていた。
魔神皇と同じ技術を根源とする、佐藤のアームターミナルの情報を解析しては見たものの、魔神皇の狙いと直結していそうな知識は、
魔神皇が神と呼ぶ存在は7つに分類されることと、彼らの種族を決める定義が分かった程度。
そこでエヴァは一計を案じ、狙われる神としてもっとも可能性が高く、何名か存在の確認されていた『既に学園世界に顕現している神』を調べたのだが…
「…まさか100を越えるとは思っていなかった。つくづくこの世界には常識が通用せん」
実際に学校に通う生徒に教師、学校の七不思議から個人に憑いてる守護者、果ては密かに学園に封印された邪神なんてものまで。
学園世界には存在、顕現しているものだけでも3桁に達する数の神がいる。
それを1つ1つ調べて行くのは確かに骨だろう。更に。
「真偽はどうあれ『俺に戦闘(あらごと)任せた日にゃあ辺り一面血の海ぜよ?主に俺の血で』とか抜かす奴に悪魔に襲われる可能性のある詳しい調査までは任せられんが、
卑怯もホタルも山芽も魔術の方は完全に門外漢だからな。隠密の技を持つメンバーでかつ魔術の知識もある程度持っているとなるとお前くらい、と言うわけだ」
適正の無いものに任務を任せては、無用な犠牲を招く。それを防ぐべく、エヴァは他の『適正ある』カゲモリに後を継がせるつもりであった。
「なるほど…確かにそうですね」
一狼は『役に立つものなら何でも使う』と言う思想のもと、科学と魔法の技術を取り入れてきた技術体系"忍術"を使う、忍者のウィザードである。
そのためか本職の魔術師や陰陽師ほどではないにせよ魔法にも詳しい。
加えて気配を断つ白面の術を得意とするだけあって隠密能力の方もカゲモリの中ではトップクラス。いざ戦いになっても勝てないと分かれば撤退するだけの判断力もある。
適任であった。
「分りました。すぐに調査にかかります」
「ああ、頼んだ。一応言っておくが、無理はするなよ」
「ええ。分かっています。元より、僕1人でどうこうできる相手じゃない」
そして、早速調査を開始するべく茶室を後にしようとした、その時だった。
バタンッ!
荒々しい音を立てて、客室に向かう通路の扉が開かれる。
「た、大変だよ!」
そこに立っていたのは、いつものツインテールを下ろしファンシーなパジャマを着た1人の少女。
「…一体何があった、さつき?」
この時間ならいつもは完全に夢の中であるはずのさつきの様子に、不穏なものを感じ取ったのだろう。エヴァが眉をひそめ尋ねる。
「い、今杏里ちゃんの"子供"からメールが来たの!輝明学園の購買部が…消えちゃったって!」
「なんだって!?」
それにエヴァよりも早く反応したのは一狼だった。思わず立ち上がり、さつきの肩をつかむ。
『明日は葉月ちゃんの代わりに購買部のお手伝いするの。暇だったら来てくれると嬉しいな』
「今日、あそこには空がいたんだぞ!?それが、なんで!?」
「わ、ちょ、ちょっと待って!?」
狼狽が伝染し、2人して混乱していた、そのときだった。
「わ、ちょ、ちょっと待って!?」
狼狽が伝染し、2人して混乱していた、そのときだった。
「落ち着け!」
エヴァの一喝。2人がビクリと肩を震わせ動きを止める。
「餓鬼みたいにギャアギャア騒ぐな。まずは事実の確認が必要だ。違うか?さつき、お前の携帯を貸せ」
頷いてさつきが差し出した0-phoneを受け取り、送られてきたメールを確認する。その後、送り主の"母親"に電話をした。
「園原。エヴァンジェリンだ。メールだけでは分からん。一体何があった?詳しく話せ」
『対"人"戦であればほぼ最強。それゆえにうかつに使うのは危険』な能力であるが故に、普段はもっぱら子供たちを使った情報収集を行っているカゲモリの1人。
園原杏里は子供たちから聞いた情報をまとめ、エヴァに伝える。
「…つまり光綾学園の冒険者が入った直後に購買部ごとどこかに消えた。それで間違いないな?」
周りで固唾を飲む2人に聞かせるように、エヴァが反芻する。
「他に転移に巻き込まれた奴については、何か分かるか?」
少しだけ考え、杏里はその答えを口にする。
「そうか。購買にいた店員とその冒険者の他はあと1人…うん?」
やはり巻き込まれていたと膝を落とす一狼を無視して、エヴァは再度尋ねる。
「…本当にその風貌で間違いないな?…ならば、そいつはカゲモリだ」
そう、普段はここには近寄ろうとしない杏里は知らない。数か月前に新たに加わった、彼女のことを。
「ああそうだ。輝明学園の制服を着て手袋をはめたお下げなら、間違いない」
一狼がはっと顔を上げる。エヴァの言葉で一狼の脳裏に浮かんだのは、1人の少女。
「ライズ=ハイマー。私たちと同じ、カゲモリの1人だ」
かつて、一狼の案内でカゲモリへと加わった、すご腕の剣士の醒めた風貌だった。
「餓鬼みたいにギャアギャア騒ぐな。まずは事実の確認が必要だ。違うか?さつき、お前の携帯を貸せ」
頷いてさつきが差し出した0-phoneを受け取り、送られてきたメールを確認する。その後、送り主の"母親"に電話をした。
「園原。エヴァンジェリンだ。メールだけでは分からん。一体何があった?詳しく話せ」
『対"人"戦であればほぼ最強。それゆえにうかつに使うのは危険』な能力であるが故に、普段はもっぱら子供たちを使った情報収集を行っているカゲモリの1人。
園原杏里は子供たちから聞いた情報をまとめ、エヴァに伝える。
「…つまり光綾学園の冒険者が入った直後に購買部ごとどこかに消えた。それで間違いないな?」
周りで固唾を飲む2人に聞かせるように、エヴァが反芻する。
「他に転移に巻き込まれた奴については、何か分かるか?」
少しだけ考え、杏里はその答えを口にする。
「そうか。購買にいた店員とその冒険者の他はあと1人…うん?」
やはり巻き込まれていたと膝を落とす一狼を無視して、エヴァは再度尋ねる。
「…本当にその風貌で間違いないな?…ならば、そいつはカゲモリだ」
そう、普段はここには近寄ろうとしない杏里は知らない。数か月前に新たに加わった、彼女のことを。
「ああそうだ。輝明学園の制服を着て手袋をはめたお下げなら、間違いない」
一狼がはっと顔を上げる。エヴァの言葉で一狼の脳裏に浮かんだのは、1人の少女。
「ライズ=ハイマー。私たちと同じ、カゲモリの1人だ」
かつて、一狼の案内でカゲモリへと加わった、すご腕の剣士の醒めた風貌だった。
―――輝明学園購買部
話は少しだけ遡る。そう。
「ら、ライズさん!?」
「…ヒメミヤ?何故、貴方がここにいるの?」
2人の邂逅から。
「ら、ライズさん!?」
「…ヒメミヤ?何故、貴方がここにいるの?」
2人の邂逅から。
輝明学園購買部地下。
スクールメイズ探索用のアイテムや箒や魔装と言った武装を扱うオクタヘドロン直営のこの店は、日曜日も営業している。
最も最近は"上"の広場やバザール、オクタマーケットと言った他店におされぎみなのと主要な冒険者はもう潜り始めている時間だけあって客は他にはいない。
「ハヅキはどうしたの?」
それ故に他の人間に存在を知られるわけにいかないカゲモリたちの御用達となっているこの店で、いつもの人造人間では無く空と出会ったことに、ライズは眉をひそめる。
「実は…」
困った風の言った顔になりながら空は事情を説明する。
スクールメイズ探索用のアイテムや箒や魔装と言った武装を扱うオクタヘドロン直営のこの店は、日曜日も営業している。
最も最近は"上"の広場やバザール、オクタマーケットと言った他店におされぎみなのと主要な冒険者はもう潜り始めている時間だけあって客は他にはいない。
「ハヅキはどうしたの?」
それ故に他の人間に存在を知られるわけにいかないカゲモリたちの御用達となっているこの店で、いつもの人造人間では無く空と出会ったことに、ライズは眉をひそめる。
「実は…」
困った風の言った顔になりながら空は事情を説明する。
『弥子やリルカたちに誘われた…お願いする。私の代わりに店番をして欲しい』
基本落ち着き払った無表情である葉月が珍しく必死な表情で懇願して来たのは昨日のこと。
その手に握られていたのは『"あの"学園の名物メニューが勢ぞろい!学園世界学食祭!明日、バザールにて開催!』と書かれたビラ。
学園世界屈指のグルメとしては外せないイベントであった。
『明日は購買の店番の日。マルローネに雇われた冒険者が頼んでいたものを取りに来ると言っていたから勝手に休むわけにはいかない…けど、だけど!学食祭は明日しか無い…お願い!』
同じ人造人間でかつ自分よりも人当たりよく調整されている空ならば任せられる。
『…うん。いいよ。葉月ちゃんにはいつもお世話になってるし。楽しんできてね』
対する空にも元より断るつもりなどなかった。葉月は大切な友人だし、前にデートを手伝ってもらった恩もある。
そんなわけで日曜日の1日、空は葉月の代わりに購買部の店員をやっていた。
その手に握られていたのは『"あの"学園の名物メニューが勢ぞろい!学園世界学食祭!明日、バザールにて開催!』と書かれたビラ。
学園世界屈指のグルメとしては外せないイベントであった。
『明日は購買の店番の日。マルローネに雇われた冒険者が頼んでいたものを取りに来ると言っていたから勝手に休むわけにはいかない…けど、だけど!学食祭は明日しか無い…お願い!』
同じ人造人間でかつ自分よりも人当たりよく調整されている空ならば任せられる。
『…うん。いいよ。葉月ちゃんにはいつもお世話になってるし。楽しんできてね』
対する空にも元より断るつもりなどなかった。葉月は大切な友人だし、前にデートを手伝ってもらった恩もある。
そんなわけで日曜日の1日、空は葉月の代わりに購買部の店員をやっていた。
「…そういうこと」
事情を聴き、ライズは溜息を吐きだす。
そう言えば聞いたことがある。ここの店員はうまい食事に目が無い、と。
「まあいいわ。剣を見せて欲しいのだけれど」
気を取り直し、ライズは空に尋ねる。
「はい。剣ですか?」
「そうよ。ここにある剣…とりあえず箒とやらではない剣を見せてちょうだい。性能が良ければ値段は問わないわ」
今日訪れた目的である品について。
事情を聴き、ライズは溜息を吐きだす。
そう言えば聞いたことがある。ここの店員はうまい食事に目が無い、と。
「まあいいわ。剣を見せて欲しいのだけれど」
気を取り直し、ライズは空に尋ねる。
「はい。剣ですか?」
「そうよ。ここにある剣…とりあえず箒とやらではない剣を見せてちょうだい。性能が良ければ値段は問わないわ」
今日訪れた目的である品について。
―――10分後
「…すごい」
姫宮空は、ライズの演武に見惚れていた。
とりあえず今ライズが使っている剣に一番近いと思われる銘刀を手に、ライズは試し振りの演武をしていた。
まるで舞いを舞うかのようにライズは剣でもって連続攻撃を繰り出す。
斬りと突きを巧みに使い分け、踏み出したと思えば引き、フェイントと本命がめまぐるしく入れ替わり、無駄も無理も徹底的に排除した動きで剣を振る。
目の前に存在しないはずの敵が、空にも見えるような気がするほどの、美しい演武。それは空の知る剣の達人…一狼すらも上回る剣さばきであった。
「…使えないことは無いけれど、やはり東洋風ね。斬りと比べて突きが使い辛いわ。どうもしっくりこない」
武器の試し振りを行うために用意された空間で一通りの演武を終え、銘刀を鞘に戻しつつ、ライズは感想を言う。
「やはり新しい剣もあそこで買うべきかしら?」
今使っている細剣を思いつつ、ライズが呟く。
光綾学園の購買で購入した、冒険者の荒い運用でも大丈夫なように作られたと言う触れ込みの細剣。
元々はとりあえず調達した品だったが、今では使いこんだおかげで手にしっくりと馴染んだ細剣にかすかに寿命の予兆を感じたのは昨日の訓練のとき。
いかに丈夫とはいえ、悪魔や魔人を始めとした様々な敵との激戦の結果、この剣は限界を迎えようとしていた。
よほど無茶な使い方をしなければ昨日今日でへし折れるものではないが、それでも余り長い時間はもつまい。
そう考え、買い替えに訪れたのだが。
「仕方無いわね。今日のところは保留にするわ。邪魔したわね…ヒメミヤ、どうかしたの?」
命を預けるものだけに、妥協はできない。幸いすぐに折れるものでもないし、もう1度考えようと結論づけ、空に目を向けたライズは、空の様子に首を傾げる。
「え?い、いえ!その凄くきれいだな…て」
ハッと我に返った空が慌てて言う。
「奇麗?」
「はい。なんて言うか…無駄がないんだけど、それだけじゃないと言うか…」
絶滅社の強化人間や人造人間の戦い方と効率重視で無駄がないという点では一緒だが、ライズの技にはそれだけじゃない何かがある。
私の戦い方とはまるで違う。それがライズの剣を見た、空の感想であった。
「…そう言われても、私には分からないわ」
惜しみない空の称賛にライズは少しだけ困惑して答える。
ライズの剣は、無数の傷と共に幼いころから徹底的に身体に叩きこまれたもの。
騎士が使うような正統の剣技を隠密の技として使いやすいよう歪めた"先代"から学び、それを地獄のような戦場でさらに独自に磨きあげた…"殺し"の技だ。
それがあったからこそ、ライズは異例の若さで数々の武勲を上げ、八騎将の称号を勝ち取ることができたとはいえ、それについてライズに特に感慨は無い。
"お父様"の役に立つならば、それでいい。そのためだけに身につけた技なのだから。
「…とにかく、今日はこれで失礼する…ッ!?」
言いかけた、その時だった。
身体を襲う異様な感覚。
「なに!?」
見れば空も気づいたのだろう。驚いて辺りを見る。
「…まさか」
考えて、思い当たる。何度か経験した、予兆の正体に。
咄嗟に時空鞘から剣を抜き、構える。油断なく辺りを見て、悪魔の襲撃に備える。
「…?」
いつもならばそろそろ悪魔が現れるはずだ。
それが無いことに首をかしげつつ、ライズは傍らの空に言う。
「とりあえず、外に出ま…」
ライズの言葉は最後まで紡がれることは無かった。
姫宮空は、ライズの演武に見惚れていた。
とりあえず今ライズが使っている剣に一番近いと思われる銘刀を手に、ライズは試し振りの演武をしていた。
まるで舞いを舞うかのようにライズは剣でもって連続攻撃を繰り出す。
斬りと突きを巧みに使い分け、踏み出したと思えば引き、フェイントと本命がめまぐるしく入れ替わり、無駄も無理も徹底的に排除した動きで剣を振る。
目の前に存在しないはずの敵が、空にも見えるような気がするほどの、美しい演武。それは空の知る剣の達人…一狼すらも上回る剣さばきであった。
「…使えないことは無いけれど、やはり東洋風ね。斬りと比べて突きが使い辛いわ。どうもしっくりこない」
武器の試し振りを行うために用意された空間で一通りの演武を終え、銘刀を鞘に戻しつつ、ライズは感想を言う。
「やはり新しい剣もあそこで買うべきかしら?」
今使っている細剣を思いつつ、ライズが呟く。
光綾学園の購買で購入した、冒険者の荒い運用でも大丈夫なように作られたと言う触れ込みの細剣。
元々はとりあえず調達した品だったが、今では使いこんだおかげで手にしっくりと馴染んだ細剣にかすかに寿命の予兆を感じたのは昨日の訓練のとき。
いかに丈夫とはいえ、悪魔や魔人を始めとした様々な敵との激戦の結果、この剣は限界を迎えようとしていた。
よほど無茶な使い方をしなければ昨日今日でへし折れるものではないが、それでも余り長い時間はもつまい。
そう考え、買い替えに訪れたのだが。
「仕方無いわね。今日のところは保留にするわ。邪魔したわね…ヒメミヤ、どうかしたの?」
命を預けるものだけに、妥協はできない。幸いすぐに折れるものでもないし、もう1度考えようと結論づけ、空に目を向けたライズは、空の様子に首を傾げる。
「え?い、いえ!その凄くきれいだな…て」
ハッと我に返った空が慌てて言う。
「奇麗?」
「はい。なんて言うか…無駄がないんだけど、それだけじゃないと言うか…」
絶滅社の強化人間や人造人間の戦い方と効率重視で無駄がないという点では一緒だが、ライズの技にはそれだけじゃない何かがある。
私の戦い方とはまるで違う。それがライズの剣を見た、空の感想であった。
「…そう言われても、私には分からないわ」
惜しみない空の称賛にライズは少しだけ困惑して答える。
ライズの剣は、無数の傷と共に幼いころから徹底的に身体に叩きこまれたもの。
騎士が使うような正統の剣技を隠密の技として使いやすいよう歪めた"先代"から学び、それを地獄のような戦場でさらに独自に磨きあげた…"殺し"の技だ。
それがあったからこそ、ライズは異例の若さで数々の武勲を上げ、八騎将の称号を勝ち取ることができたとはいえ、それについてライズに特に感慨は無い。
"お父様"の役に立つならば、それでいい。そのためだけに身につけた技なのだから。
「…とにかく、今日はこれで失礼する…ッ!?」
言いかけた、その時だった。
身体を襲う異様な感覚。
「なに!?」
見れば空も気づいたのだろう。驚いて辺りを見る。
「…まさか」
考えて、思い当たる。何度か経験した、予兆の正体に。
咄嗟に時空鞘から剣を抜き、構える。油断なく辺りを見て、悪魔の襲撃に備える。
「…?」
いつもならばそろそろ悪魔が現れるはずだ。
それが無いことに首をかしげつつ、ライズは傍らの空に言う。
「とりあえず、外に出ま…」
ライズの言葉は最後まで紡がれることは無かった。
「ええっ!?なにっ!?どうなってんの!?」
部屋の向こう、売り場の方から少女の驚愕の声が聞こえてくる。
「ヒメミヤ!ついてきなさい!」
異常事態。それを察したライズが空に声を声を掛けて部屋から出る。
「は、はい!…ええっ!?」
慌ててそれを追う空はそこにあった光景に驚きの声を上げる。
「ヒメミヤ!ついてきなさい!」
異常事態。それを察したライズが空に声を声を掛けて部屋から出る。
「は、はい!…ええっ!?」
慌ててそれを追う空はそこにあった光景に驚きの声を上げる。
部屋を出ると、そこはダンジョンだった。
開かれたドア…購買の入り口の向こうに見えるのは、異様な気配の漂う、黒い空間。
店の中には見慣れない少女…紫の髪をツインテールにし、格闘用のナックルをはめ、日焼けで小麦色になった肌のエルフの少女が目の前の異常な光景に目を奪われて佇んでいる。
「…参ったわね」
溜息をつき、事態を自分なりに把握したライズが剣を手に溜息をつく。
この異様な雰囲気のただよう、歪んだ世界にライズは覚えがある。
「どうやら、私たちは閉じ込められたみたいね。この…魔界に」
魔神皇の手下の魔人が作った異界。ライズの知識ではそれが今の状況に最も近い状態だった。
開かれたドア…購買の入り口の向こうに見えるのは、異様な気配の漂う、黒い空間。
店の中には見慣れない少女…紫の髪をツインテールにし、格闘用のナックルをはめ、日焼けで小麦色になった肌のエルフの少女が目の前の異常な光景に目を奪われて佇んでいる。
「…参ったわね」
溜息をつき、事態を自分なりに把握したライズが剣を手に溜息をつく。
この異様な雰囲気のただよう、歪んだ世界にライズは覚えがある。
「どうやら、私たちは閉じ込められたみたいね。この…魔界に」
魔神皇の手下の魔人が作った異界。ライズの知識ではそれが今の状況に最も近い状態だった。