邪神は学園世界の夢を見る #2
―――???
深く冥い"これ"の中心部。いわば"これ"の核とでも言うべき場所。
「…?」
そこにいた彼女は異変を察知し、目を覚ました。
「…一体どれだけ寝てたんだろうね」
つい先ほどまで見ていた、繰り返される悪夢の感触を思い出しながら、彼女はここに来てから半ば癖になってしまった、独り言を呟く。
眠りと覚醒。ただひたすらに冥いこの場所で1人それを繰り返してきた彼女に、もはや時間の感覚は残っていない。
魔人皇の手で悪魔合体が行われてからどれだけ経ったのか。完全に分からなくなって久しい…のかすらもう分からない。
分かるのはただ1つ。目覚めること無くまどろみ続ける眠りの時間…"これ"の部品として過ごす時間が長くなっていると言うことだけだ。
「…はは。どうやらあたしが曲がりなりにも人でいられるのはあと少しってことか」
やがて自分は"これ"に完全に飲み込まれ、これと同じ邪神になり果てる。
彼女はもう、そのことにとうに気づいていた。そして。
「…まぁ、いいや。あたしにゃあもう何も残っちゃいないからね」
この邪神の力で見続けている悪夢を再度思い出し、諦めを多分に含んだ声で自嘲する。
「さてと。一体何が起こっていんのかね?」
もはや文字通りの意味で自らの一部となった"これ"を探り、彼女が起こされた原因を探る。
「…悪魔じゃない生き物の気配が3つ…か」
この魔界1つに匹敵する大きさを持ち、邪神の悪夢から生まれた悪魔が徘徊するこれの胎内に取り込まれた、異物が3つ。
どうやらそれが彼女が起こされた原因らしい。
「…さてと」
少し考え、彼女は結論を出す。
「…?」
そこにいた彼女は異変を察知し、目を覚ました。
「…一体どれだけ寝てたんだろうね」
つい先ほどまで見ていた、繰り返される悪夢の感触を思い出しながら、彼女はここに来てから半ば癖になってしまった、独り言を呟く。
眠りと覚醒。ただひたすらに冥いこの場所で1人それを繰り返してきた彼女に、もはや時間の感覚は残っていない。
魔人皇の手で悪魔合体が行われてからどれだけ経ったのか。完全に分からなくなって久しい…のかすらもう分からない。
分かるのはただ1つ。目覚めること無くまどろみ続ける眠りの時間…"これ"の部品として過ごす時間が長くなっていると言うことだけだ。
「…はは。どうやらあたしが曲がりなりにも人でいられるのはあと少しってことか」
やがて自分は"これ"に完全に飲み込まれ、これと同じ邪神になり果てる。
彼女はもう、そのことにとうに気づいていた。そして。
「…まぁ、いいや。あたしにゃあもう何も残っちゃいないからね」
この邪神の力で見続けている悪夢を再度思い出し、諦めを多分に含んだ声で自嘲する。
「さてと。一体何が起こっていんのかね?」
もはや文字通りの意味で自らの一部となった"これ"を探り、彼女が起こされた原因を探る。
「…悪魔じゃない生き物の気配が3つ…か」
この魔界1つに匹敵する大きさを持ち、邪神の悪夢から生まれた悪魔が徘徊するこれの胎内に取り込まれた、異物が3つ。
どうやらそれが彼女が起こされた原因らしい。
「…さてと」
少し考え、彼女は結論を出す。
バサリッ
久しく使っていなかった翼を広げる。
「会いに行くか。こんな所でうだうだ考えてるよかマシだろうからね」
そう一言言い残し、彼女は異物の元へと向かった。
「会いに行くか。こんな所でうだうだ考えてるよかマシだろうからね」
そう一言言い残し、彼女は異物の元へと向かった。
―――輝明学園 購買部
転移から数分後。
「やっぱりお店の中にいたのは、ボクたちだけみたいだよ」
購買の中の確認を終え、エルフの少女が言う。
「えっと、回復アイテムと装備、持ってきました」
地下の倉庫から在庫として保管されていたアイテムを抱え、空が戻ってくる。
そして。
「…やはり外は魔界化している。悪魔…モンスターもいたわ」
剣についた緑の液体を振り落としながら、"外"の確認に行っていたライズが2人に告げる。
「じゃあ、動かない方がいいんでしょうか?」
「いえ、それはやめておくべきでしょうね」
空が問いかけにライズは首を振る。
「事情が伝われば極上生徒会が動くかも知れないけれど、それがいつになるのか分からないもの」
魔界の悪魔がいる以上、間違いない。ここは魔人皇の勢力圏だ。
かつて、その勢力圏に単身乗り込み、3日後、自力で脱出するまで音沙汰がなかったと言うタバサの例を考えるに、そうそう助けが来るとも思えない。
「当てにならない救援を待つより、何とかして自力で脱出する方法を考えるべきね」
元よりライズは"誰か"の助けを待つつもりはなかった。自分の危機は自力で脱する。それが、彼女の生き方だから。
「私はここの脱出口を探すつもりよ」
ライズは自らの中で出していた結論を改めて宣言する。
「それで、ヒメミヤと…そこの貴方。貴方たちはどうするのかしら?」
空と、見慣れない長い耳を持つ少女に、ライズは問いかける。
「…私も一緒に行きます。一狼君なら、そうすると思うから」
覚悟を決め、空がライズに答える。
「一応言っておくけれど、私はイチローと違って貴方を守るつもりはないわ。自分の身は自分で守って貰うわよ?」
その答えに、ライズは無表情に釘をさす。
「分かってます」
空は頷く。何となくだが、分かる。今のこの状況は去年のクリスマス前以来の危険な状況だ。
これまであの時以上の危険な状況に立たされたことの無い空にとって、今の状況が怖くないと言えば嘘になる。
だが、それでも、空に引くつもりは無かった。
「分かったわ。ならば、協力してちょうだい」
その瞳に宿る決意を見て、ライズは認める。この目の前の人造人間の実力のほどは知らないが、戦う気はあるらしい。
ならば、連れて行っても良いだろう。足手まといになるなら、捨てて行くだけだ。
「…それで、もう1度聞くけど、貴方はどうするのかしら?」
そして、ライズは残った3人目…長い耳を持つ少女に再度問いかける。
「え?ボクはと~ぜん、一緒に行くよ。ここで1人じっとしててもしょうがないし、それに…」
エルフの少女があっさりと答え、そして、黒髪のお下げと細身の剣、そして手袋と言うライズの格好を見て改めて確認し、言う。
「ライズさんが行くって言うんなら、手伝わないわけにはいかないもん」
「…貴方、何故私の名前を知っているの?」
ピクリと、エルフの少女の言葉に反応し、ライズが怪訝そうに聞き返す。
日焼けした小麦色の肌と、ツインテールに結わえられた、紫の髪。
青と白を基調とした身軽で丈夫そうな服と、銀色のバックルがついた赤茶色のベルト、聖印らしきものがつけられたチョーカー。
その左腕には彼女の武器なのであろう鈍く輝く格闘用ナックルと防具を兼ねた鋼鉄製のガントレット。
ライズにはこの少女に見覚えは無い。にも拘らず少女の方はライズを知っている様子に、警戒する。
「そりゃあ知ってるよ。輝明学園の播磨ライズさん。前にユウキとリナを助けてくれた人だよね?」
「ユウキとリナ…なるほど、貴方、光綾の冒険者なのね」
その説明を聞き、ライズは納得し、緊張を解く。
カゲモリに加わる直前の、悪魔との最初の戦いと、ソフィアに憑いた狐の悪魔との戦い。2つの事件で、ライズは成り行きとはいえ光綾学園の生徒を助けている。
その光綾学園の冒険者ならば、ライズを知っていてもおかしくは無い。
「うん。そうだよ。ボクはフィル・イハート。光綾学園冒険科の3年B組。神術士志望だよ。フィルって呼んでね。それと、そっちの姫宮さんも、よろしく!」
エルフの少女…フィルが笑顔で空とライズに向けて手の甲を差し出す。
「…輝明学園の、播磨ライズよ。さんづけはいらない。ライズでいいわ。よろしくお願いするわ、フィル」
その、陰のない表情に気圧されつつも、ライズは軽くフィルと手を重ね合わせる。
「えっと、姫宮空です。ライズ…もフィルも空って呼んでください。よろしくお願いします」
一拍遅れ、空も名を名乗り、2人と手を重ねる。
「よっし、これでダンジョン攻略の臨時パーティー結成だね!よろしく!」
場違いに元気なフィルの声が、辺りに響き渡った。
「やっぱりお店の中にいたのは、ボクたちだけみたいだよ」
購買の中の確認を終え、エルフの少女が言う。
「えっと、回復アイテムと装備、持ってきました」
地下の倉庫から在庫として保管されていたアイテムを抱え、空が戻ってくる。
そして。
「…やはり外は魔界化している。悪魔…モンスターもいたわ」
剣についた緑の液体を振り落としながら、"外"の確認に行っていたライズが2人に告げる。
「じゃあ、動かない方がいいんでしょうか?」
「いえ、それはやめておくべきでしょうね」
空が問いかけにライズは首を振る。
「事情が伝われば極上生徒会が動くかも知れないけれど、それがいつになるのか分からないもの」
魔界の悪魔がいる以上、間違いない。ここは魔人皇の勢力圏だ。
かつて、その勢力圏に単身乗り込み、3日後、自力で脱出するまで音沙汰がなかったと言うタバサの例を考えるに、そうそう助けが来るとも思えない。
「当てにならない救援を待つより、何とかして自力で脱出する方法を考えるべきね」
元よりライズは"誰か"の助けを待つつもりはなかった。自分の危機は自力で脱する。それが、彼女の生き方だから。
「私はここの脱出口を探すつもりよ」
ライズは自らの中で出していた結論を改めて宣言する。
「それで、ヒメミヤと…そこの貴方。貴方たちはどうするのかしら?」
空と、見慣れない長い耳を持つ少女に、ライズは問いかける。
「…私も一緒に行きます。一狼君なら、そうすると思うから」
覚悟を決め、空がライズに答える。
「一応言っておくけれど、私はイチローと違って貴方を守るつもりはないわ。自分の身は自分で守って貰うわよ?」
その答えに、ライズは無表情に釘をさす。
「分かってます」
空は頷く。何となくだが、分かる。今のこの状況は去年のクリスマス前以来の危険な状況だ。
これまであの時以上の危険な状況に立たされたことの無い空にとって、今の状況が怖くないと言えば嘘になる。
だが、それでも、空に引くつもりは無かった。
「分かったわ。ならば、協力してちょうだい」
その瞳に宿る決意を見て、ライズは認める。この目の前の人造人間の実力のほどは知らないが、戦う気はあるらしい。
ならば、連れて行っても良いだろう。足手まといになるなら、捨てて行くだけだ。
「…それで、もう1度聞くけど、貴方はどうするのかしら?」
そして、ライズは残った3人目…長い耳を持つ少女に再度問いかける。
「え?ボクはと~ぜん、一緒に行くよ。ここで1人じっとしててもしょうがないし、それに…」
エルフの少女があっさりと答え、そして、黒髪のお下げと細身の剣、そして手袋と言うライズの格好を見て改めて確認し、言う。
「ライズさんが行くって言うんなら、手伝わないわけにはいかないもん」
「…貴方、何故私の名前を知っているの?」
ピクリと、エルフの少女の言葉に反応し、ライズが怪訝そうに聞き返す。
日焼けした小麦色の肌と、ツインテールに結わえられた、紫の髪。
青と白を基調とした身軽で丈夫そうな服と、銀色のバックルがついた赤茶色のベルト、聖印らしきものがつけられたチョーカー。
その左腕には彼女の武器なのであろう鈍く輝く格闘用ナックルと防具を兼ねた鋼鉄製のガントレット。
ライズにはこの少女に見覚えは無い。にも拘らず少女の方はライズを知っている様子に、警戒する。
「そりゃあ知ってるよ。輝明学園の播磨ライズさん。前にユウキとリナを助けてくれた人だよね?」
「ユウキとリナ…なるほど、貴方、光綾の冒険者なのね」
その説明を聞き、ライズは納得し、緊張を解く。
カゲモリに加わる直前の、悪魔との最初の戦いと、ソフィアに憑いた狐の悪魔との戦い。2つの事件で、ライズは成り行きとはいえ光綾学園の生徒を助けている。
その光綾学園の冒険者ならば、ライズを知っていてもおかしくは無い。
「うん。そうだよ。ボクはフィル・イハート。光綾学園冒険科の3年B組。神術士志望だよ。フィルって呼んでね。それと、そっちの姫宮さんも、よろしく!」
エルフの少女…フィルが笑顔で空とライズに向けて手の甲を差し出す。
「…輝明学園の、播磨ライズよ。さんづけはいらない。ライズでいいわ。よろしくお願いするわ、フィル」
その、陰のない表情に気圧されつつも、ライズは軽くフィルと手を重ね合わせる。
「えっと、姫宮空です。ライズ…もフィルも空って呼んでください。よろしくお願いします」
一拍遅れ、空も名を名乗り、2人と手を重ねる。
「よっし、これでダンジョン攻略の臨時パーティー結成だね!よろしく!」
場違いに元気なフィルの声が、辺りに響き渡った。
―――30分後
ライズの発案でまずは店にある商品を使って装備を整えようと言う事になり、3人はそれぞれに装備を選び、整える。
「2人とも、準備は出来た?」
元々自前の冒険装備に身を包んでいたフィルが真っ先に準備を終えた後、回復アイテム等の確認も終え、2人に声をかける。
「私は終わったわ」
フィルの声に答え、ライズが装備を整え終えて試着室から出てくる。
「…私も終わりました」
それから遅れること5分、ようやく装備が終わった空が試着室から出てくる。
「うん。いい感じ。なんて言うかグッと冒険者っぽい格好になったよね」
2人の揃いの装備を見て、フィルが感心して声をかける。
「そう?その辺の防具を適当に使っただけよ?」
ライズが彼女にとっての"正装"に近い、赤を基調とした鎧を身にまとった姿で答える。
元々の基本装備として呪錬制服と言う非常に強力な魔導装備を持っているライズは、それをベースに装備を整えている。
呪錬制服の上から重ね着するのは、肩当てのついたブレストプレートに、鉄製のすね当てのついた、ひざ上まであるロングブーツ。
お下げの髪をくくる赤いリボンも防御魔法が施されているマジックアイテムに変えた。
防御力を高めつつも動きを鈍らせないよう動きやすさに細心の注意を払って整えられたその姿は、制服とよく調和した、いかにも学生戦士と言うにふさわしい様相にまとめられていた。
「私は、ちょっと不思議な気持ちかな」
ライズとは対照的な色合いの、だが似たような装備を身にまとった空が着慣れない鎧の重さに戸惑いつつ、答える。
普段は呪錬制服と自らのバイオオーガン以外の武具を使う事のない空はライズの見立てた装備を使っているため、内容自体はライズと同じ。
だが、赤を好んで使ったライズに対し、空は自らの名前にちなみ淡い空色を基調にそろえたため、パッと見の印象は正反対である。
「とりあえずこれで準備は…あ、そうだ」
いつの間にか場の雰囲気を支配したフィルが空に目を向けて聞く。
「そう言えば空はウィザードなんだよね?クラスは何?何ができるの?」
「…確かに私もよく知らないわね」
ライズは空については一狼と同じ、ウィザードであると言うことを知っているだけで空のクラスである人造人間についてはよく知らない。
「教えてくれるかしら?ソラ」
ライズの問いかけに1つ頷き、空が答える。
「はい。えっと、私は人造人間です。葉月ちゃんと同じで。それで、できることはこれを使った戦いだけです」
制服の袖をまくりあげ、右腕を露出させる、そして。
「…展開!」
気合いをこめた言葉と共に空の右腕が一気に膨らみ、"変形"する。
数mにも及ぶ長さに伸びて尖り、硬質化したそれはさながら巨大な突撃槍(ランス)
「これが私の、人造人間の武器、バイオオーガンの《アームブレイド》」
巨大な武器と化した右腕を左手でさすりながら、空が2人に見せる。
「…なるほど。確かに武器ね」
空の右腕を眺め、興味深げにライズが言う。
「すごいね。確かにこれなら大抵のモンスターは一発で行けそう」
割と無遠慮に空の右腕を触りながら言うフィルにも好奇心以外の気持ちは見えない。
(良かった。怖がられてないや)
そんな2人の様子に空が内心ほっと胸をなで下ろす。
戦闘用に製造された人造人間はイノセントどころか下手をすると同じウィザードにすら"化け物"呼ばわりされかねない存在。
そのことを知っているだけに、2人の反応は空には心地よいものだった。
「じゃあ、次はボクだね」
そう言うとフィルが元気に自分の出来ることを紹介する。
「さっきも言ったけどボクは光綾学園の冒険者で神術士志望…って言っても分かんないかな。
ようするにラヴェルの加護の力で傷を治したり毒や麻痺を治したり攻撃力を一時的に底上げしたりできるよ。それと…」
笑顔でガントレットを装備した左腕を掲げてみせる。
「神術士の修行の一環で格闘技も習ってるんだ。戦士専攻のユウキとかぼたん程じゃないけどその辺のモンスターよりは強いと思うよ」
そう言って笑うフィルの身のこなしは、確かに戦士としての訓練を受けたものを思わせる、隙の少ないものだった。
「さて、と…じゃあ、最後にライズは…」
「今さら言う必要もないかと思うのだけれど?」
ちらりと手にした細剣に目をやる。いかにも使いこまれた感のある業物には、まだ先ほど倒した悪魔のマグネタイトの破片がついている。
「だね。ユウキも凄い剣の使い手だって言ってたし。となるとライズと空が戦士でボクが神術士…あ」
3人の特徴を確認し、ダンジョン探索をするなら必須であるクラスがいないことに気づいたフィルが少しだけ顔を曇らせる。
「まいったなー。スカウトがいないや」
「スカウト?」
フィルの聞き慣れない単語の呟きに、ライズが反応し、聞き返す。
「あれ?知らない?スカウトって言うのはダンジョンの鍵のかかったドアを開けたり、罠を見つけて解除したり」
「出来るわよ?」
フィルの説明を聞いて、ライズが即答する。
「え?」
「出来ると言ったの」
聞き返してきたフィルに、再度ライズは答え、更に言葉を重ねる。
「私は、斥候としての訓練を受けてるわ。鍵や罠への対処法も、一通り理解しているつもりよ」
何でも無いことのように言いきるライズ。その表情には嘘や不安はまるでうかがえない。
そう、"隠密"たるライズにとって、敵地への単独での潜入と工作、そして何より単独でも生き残る技術は必須のスキル。
戦闘能力の高さだけが、彼女の能力では無いのだ。
「う~ん。なんて言うか…ライズって万能だね」
そんなライズにフィルは少しだけ苦笑して、先ほど見つけておいたベルトポーチを渡す。
「はいこれ。スカウト用の探索装備セット。罠の解除とかに使えるだろうから、ライズが持ってて」
「分かったわ」
受け取ると同時にライズは中身を確認する。
針金や各種工具、細身の多機能ナイフに丈夫そうな細いワイヤーロープ。探索用アイテムが機能的にまとまったそれは、確かに便利そうだ。
「良く出来てるわね」
コンパクトかつ機能性の高い探索セットに、ライズは少しだけ関心する。
「よっし。これで準備は完璧!ライズ、空、出発しよ!」
「そうね」
「うん。頑張ろうね」
そして、準備を終えたフィルの提案に、2人は頷き、魔界の探索が開始された。
元々自前の冒険装備に身を包んでいたフィルが真っ先に準備を終えた後、回復アイテム等の確認も終え、2人に声をかける。
「私は終わったわ」
フィルの声に答え、ライズが装備を整え終えて試着室から出てくる。
「…私も終わりました」
それから遅れること5分、ようやく装備が終わった空が試着室から出てくる。
「うん。いい感じ。なんて言うかグッと冒険者っぽい格好になったよね」
2人の揃いの装備を見て、フィルが感心して声をかける。
「そう?その辺の防具を適当に使っただけよ?」
ライズが彼女にとっての"正装"に近い、赤を基調とした鎧を身にまとった姿で答える。
元々の基本装備として呪錬制服と言う非常に強力な魔導装備を持っているライズは、それをベースに装備を整えている。
呪錬制服の上から重ね着するのは、肩当てのついたブレストプレートに、鉄製のすね当てのついた、ひざ上まであるロングブーツ。
お下げの髪をくくる赤いリボンも防御魔法が施されているマジックアイテムに変えた。
防御力を高めつつも動きを鈍らせないよう動きやすさに細心の注意を払って整えられたその姿は、制服とよく調和した、いかにも学生戦士と言うにふさわしい様相にまとめられていた。
「私は、ちょっと不思議な気持ちかな」
ライズとは対照的な色合いの、だが似たような装備を身にまとった空が着慣れない鎧の重さに戸惑いつつ、答える。
普段は呪錬制服と自らのバイオオーガン以外の武具を使う事のない空はライズの見立てた装備を使っているため、内容自体はライズと同じ。
だが、赤を好んで使ったライズに対し、空は自らの名前にちなみ淡い空色を基調にそろえたため、パッと見の印象は正反対である。
「とりあえずこれで準備は…あ、そうだ」
いつの間にか場の雰囲気を支配したフィルが空に目を向けて聞く。
「そう言えば空はウィザードなんだよね?クラスは何?何ができるの?」
「…確かに私もよく知らないわね」
ライズは空については一狼と同じ、ウィザードであると言うことを知っているだけで空のクラスである人造人間についてはよく知らない。
「教えてくれるかしら?ソラ」
ライズの問いかけに1つ頷き、空が答える。
「はい。えっと、私は人造人間です。葉月ちゃんと同じで。それで、できることはこれを使った戦いだけです」
制服の袖をまくりあげ、右腕を露出させる、そして。
「…展開!」
気合いをこめた言葉と共に空の右腕が一気に膨らみ、"変形"する。
数mにも及ぶ長さに伸びて尖り、硬質化したそれはさながら巨大な突撃槍(ランス)
「これが私の、人造人間の武器、バイオオーガンの《アームブレイド》」
巨大な武器と化した右腕を左手でさすりながら、空が2人に見せる。
「…なるほど。確かに武器ね」
空の右腕を眺め、興味深げにライズが言う。
「すごいね。確かにこれなら大抵のモンスターは一発で行けそう」
割と無遠慮に空の右腕を触りながら言うフィルにも好奇心以外の気持ちは見えない。
(良かった。怖がられてないや)
そんな2人の様子に空が内心ほっと胸をなで下ろす。
戦闘用に製造された人造人間はイノセントどころか下手をすると同じウィザードにすら"化け物"呼ばわりされかねない存在。
そのことを知っているだけに、2人の反応は空には心地よいものだった。
「じゃあ、次はボクだね」
そう言うとフィルが元気に自分の出来ることを紹介する。
「さっきも言ったけどボクは光綾学園の冒険者で神術士志望…って言っても分かんないかな。
ようするにラヴェルの加護の力で傷を治したり毒や麻痺を治したり攻撃力を一時的に底上げしたりできるよ。それと…」
笑顔でガントレットを装備した左腕を掲げてみせる。
「神術士の修行の一環で格闘技も習ってるんだ。戦士専攻のユウキとかぼたん程じゃないけどその辺のモンスターよりは強いと思うよ」
そう言って笑うフィルの身のこなしは、確かに戦士としての訓練を受けたものを思わせる、隙の少ないものだった。
「さて、と…じゃあ、最後にライズは…」
「今さら言う必要もないかと思うのだけれど?」
ちらりと手にした細剣に目をやる。いかにも使いこまれた感のある業物には、まだ先ほど倒した悪魔のマグネタイトの破片がついている。
「だね。ユウキも凄い剣の使い手だって言ってたし。となるとライズと空が戦士でボクが神術士…あ」
3人の特徴を確認し、ダンジョン探索をするなら必須であるクラスがいないことに気づいたフィルが少しだけ顔を曇らせる。
「まいったなー。スカウトがいないや」
「スカウト?」
フィルの聞き慣れない単語の呟きに、ライズが反応し、聞き返す。
「あれ?知らない?スカウトって言うのはダンジョンの鍵のかかったドアを開けたり、罠を見つけて解除したり」
「出来るわよ?」
フィルの説明を聞いて、ライズが即答する。
「え?」
「出来ると言ったの」
聞き返してきたフィルに、再度ライズは答え、更に言葉を重ねる。
「私は、斥候としての訓練を受けてるわ。鍵や罠への対処法も、一通り理解しているつもりよ」
何でも無いことのように言いきるライズ。その表情には嘘や不安はまるでうかがえない。
そう、"隠密"たるライズにとって、敵地への単独での潜入と工作、そして何より単独でも生き残る技術は必須のスキル。
戦闘能力の高さだけが、彼女の能力では無いのだ。
「う~ん。なんて言うか…ライズって万能だね」
そんなライズにフィルは少しだけ苦笑して、先ほど見つけておいたベルトポーチを渡す。
「はいこれ。スカウト用の探索装備セット。罠の解除とかに使えるだろうから、ライズが持ってて」
「分かったわ」
受け取ると同時にライズは中身を確認する。
針金や各種工具、細身の多機能ナイフに丈夫そうな細いワイヤーロープ。探索用アイテムが機能的にまとまったそれは、確かに便利そうだ。
「良く出来てるわね」
コンパクトかつ機能性の高い探索セットに、ライズは少しだけ関心する。
「よっし。これで準備は完璧!ライズ、空、出発しよ!」
「そうね」
「うん。頑張ろうね」
そして、準備を終えたフィルの提案に、2人は頷き、魔界の探索が開始された。
―――第1階層
「えへへへっ、やったねっ!」
謎の漆黒の通路が続く魔界。
そこでの何度目かの悪魔との戦いに勝利し、無邪気に喜ぶフィルを尻目に、ライズは考えていた。
足元の、緑色の液体と化した悪魔を見る。
(妙だわ。意思がまるで感じられない。まるで人形か何かを相手にしているみたい)
ライズがこれまでに戦ってきた悪魔には何かしらの意思が感じられた。
今、この魔界で戦っている悪魔には、それが無い。
ただ出てきて、倒されるだけの存在。目の前で仲間を瞬時に殺されても無言で悪魔は襲ってくる。
普通ならば少しは恐れるなり怒るなりはしそうなものなのだが。
「あの…どうかした?ライズ」
そんなライズの様子に気づいた空がライズに尋ねる。その顔には心配の色が浮かんでいる。
「…何でも無いわ」
今考えていたことを説明しても仕方がないと判断し、ライズは適当に返事を返す。
「そ、そう?ならいいけど」
そんな取りつく島も無いライズの反応に、空はおずおずと引き下がる。
(…やはり素人ね)
そんな空のここまでの戦いを思い返し、ライズは空の戦力評価について考える。
謎の漆黒の通路が続く魔界。
そこでの何度目かの悪魔との戦いに勝利し、無邪気に喜ぶフィルを尻目に、ライズは考えていた。
足元の、緑色の液体と化した悪魔を見る。
(妙だわ。意思がまるで感じられない。まるで人形か何かを相手にしているみたい)
ライズがこれまでに戦ってきた悪魔には何かしらの意思が感じられた。
今、この魔界で戦っている悪魔には、それが無い。
ただ出てきて、倒されるだけの存在。目の前で仲間を瞬時に殺されても無言で悪魔は襲ってくる。
普通ならば少しは恐れるなり怒るなりはしそうなものなのだが。
「あの…どうかした?ライズ」
そんなライズの様子に気づいた空がライズに尋ねる。その顔には心配の色が浮かんでいる。
「…何でも無いわ」
今考えていたことを説明しても仕方がないと判断し、ライズは適当に返事を返す。
「そ、そう?ならいいけど」
そんな取りつく島も無いライズの反応に、空はおずおずと引き下がる。
(…やはり素人ね)
そんな空のここまでの戦いを思い返し、ライズは空の戦力評価について考える。
姫宮空。斎堂一狼と行動を共にするウィザードでクラスは人造人間。
戦闘能力は極めて高く、右腕を改造して作られたアームブレイドを文字通りの意味で手足の如く使いこなし、筋力はもちろんスピードも単純な反応速度ならばライズをも上回る。
強い。強いのだが、いかんせん行動を決定する思考が"中途半端"でそれを生かし切れていない。
普通、強い戦士の思考回路は2パターンに分かれる。
1つは、ライズのように経験に裏打ちされた冷静な判断で持って行動する、プロの戦士のパターン。
もう1つは本能的な直感に頼り、閃きでもって瞬時に行動を決定する猛獣のパターン。
その意味において、空は優秀な戦士とは言えない…否、それどころかプロとも呼べない新兵の動きしかできない。
悪魔を見れば驚いて動きが一瞬硬直して出遅れ、攻撃パターンも目についた手直な敵に攻撃を叩き込むだけ。指示を出そうものならまごついてかえって動きが悪くなる。
それ故に破壊力ならばこの場の3人の中ではトップにもかかわらず、ライズの攻撃で瀕死に追い込まれた死に体の敵に
明らかにオーバーキルの攻撃を行ったりと悪手が目立って今1つ役に立たない。
そう言う意味では戦闘の実力こそ2人に大きく劣るがちゃんと自分の力量を把握し、ライズの倒し損ねた敵にとどめを刺したり、
攻撃が1人に集中しないように敵を引きつけたりとサポートに徹して行動するフィルの方がよっぽど役に立っている。
戦闘能力は極めて高く、右腕を改造して作られたアームブレイドを文字通りの意味で手足の如く使いこなし、筋力はもちろんスピードも単純な反応速度ならばライズをも上回る。
強い。強いのだが、いかんせん行動を決定する思考が"中途半端"でそれを生かし切れていない。
普通、強い戦士の思考回路は2パターンに分かれる。
1つは、ライズのように経験に裏打ちされた冷静な判断で持って行動する、プロの戦士のパターン。
もう1つは本能的な直感に頼り、閃きでもって瞬時に行動を決定する猛獣のパターン。
その意味において、空は優秀な戦士とは言えない…否、それどころかプロとも呼べない新兵の動きしかできない。
悪魔を見れば驚いて動きが一瞬硬直して出遅れ、攻撃パターンも目についた手直な敵に攻撃を叩き込むだけ。指示を出そうものならまごついてかえって動きが悪くなる。
それ故に破壊力ならばこの場の3人の中ではトップにもかかわらず、ライズの攻撃で瀕死に追い込まれた死に体の敵に
明らかにオーバーキルの攻撃を行ったりと悪手が目立って今1つ役に立たない。
そう言う意味では戦闘の実力こそ2人に大きく劣るがちゃんと自分の力量を把握し、ライズの倒し損ねた敵にとどめを刺したり、
攻撃が1人に集中しないように敵を引きつけたりとサポートに徹して行動するフィルの方がよっぽど役に立っている。
(…なるほど。確かにこれではイチローが連れてきたがらないわけだわ)
基本スペックがやたら高い分、完全な足手まといでは無いだけマシ。
今のところ、ライズの空への評価は、かなり悪かった。
「ねえライズ。こっちに何かちょっと豪華な扉があるよ。ちょっと調べてくれない?」
「分かったわ」
一応の結論を出し、ライズは思考を打ち切って行動を再開する。
「ほら、こっち」
フィルの指さした先には、確かに他より豪華な扉がある。
「…どうやら、ここが一応のゴールみたいね。罠の類は無いわ」
辺りを確認し、罠が無いのを確認したライズが、2人に言う。
「気をつけて。先がどれだけ続いているかは知らないけれど、ここが一応の区切りのようだから」
ライズの言葉に、2人が頷いた。
基本スペックがやたら高い分、完全な足手まといでは無いだけマシ。
今のところ、ライズの空への評価は、かなり悪かった。
「ねえライズ。こっちに何かちょっと豪華な扉があるよ。ちょっと調べてくれない?」
「分かったわ」
一応の結論を出し、ライズは思考を打ち切って行動を再開する。
「ほら、こっち」
フィルの指さした先には、確かに他より豪華な扉がある。
「…どうやら、ここが一応のゴールみたいね。罠の類は無いわ」
辺りを確認し、罠が無いのを確認したライズが、2人に言う。
「気をつけて。先がどれだけ続いているかは知らないけれど、ここが一応の区切りのようだから」
ライズの言葉に、2人が頷いた。
―――第1階層 最後の部屋
「…異物がいるから誰かと思えば、まさかアンタだとはね」
他の2人には目もくれず、ライズを見据え、彼女は嗤う。
「…ここに放り込まれたときから、もしかしたらとは思ってたわ」
その彼女を、冷たい殺意と共に瞳に写し、ライズが返答する。
「え?だれ?知り合いなの?ライズ」
フィルがいきなり殺し合いでも始めそうな雰囲気になった2人に驚きつつ、ライズに問いかける。
ライズと、それと対峙する翼の生えた女の人。
最初はエルクレストのドゥアンかパルタクスのセレスティアかと思ったが、放つ気配が尋常じゃないことを悟り、それは違うと思い返す。
「…気を抜かないで。こいつは"魔人"よ」
あの日戦った3体の魔人。その中の1人、ライズが直接戦わなかった唯一の魔人である彼女の実力をライズは完全には理解していない。
だが、あの紫の肌の魔人とエレンに聞いた実力のほどを総合すれば、決して油断出来る相手ではないことくらいは、分かる。
「…っは。うれしいねえ。まだアタシを"人"と呼ぶか」
そんなライズのセリフに苦笑し、彼女…魔人、白川由美は他の2人に目を向ける。
「しっかしなんだってアンタがこんな場所に…うん?」
見渡し、2人のうちの1人…フィルに目を止める。
「なるほど…確かに道理だ」
邪神に同化したユミは理解する。邪神が求めたものを。
「ってことはアンタらはとばっちりってところか。まあいいや」
バサリと翼を広げる。
「気が変わったよ。アンタらとはここでは殺り合わない」
飛び上がり、空中で言う。
「特別にアンタらをこいつの最深部まで最短ルートでご招待してやる。つっても他のルートは全部閉鎖すっからアンタらには選択肢、無いけどね」
そして、地面を指さし、言う。
「だが、ただ招待したんじゃつまらない。最短ルートは命がけの道さ。こいつ等をぶっ倒して来な」
ボコリと、地面が盛り上がる。
「それはこいつの力を使って掘り出した"過去の幻影"。平たく言やあアンタらが知る限りの"一番強い奴"だ。過去を乗り越えられない奴に未来を見る資格は無い」
ガシャリと音を立て、盛り上がった地面が人の形を取る。
「せいぜい頑張んな」
その言葉を残し、ユミはこの場を飛び去る。そして、ガシャリと。
「…っ!?」
過去の幻影は全身を覆う真紅のフルプレートアーマーを纏い、豪奢なマントをつけた巨漢へと姿を変えた。
他の2人には目もくれず、ライズを見据え、彼女は嗤う。
「…ここに放り込まれたときから、もしかしたらとは思ってたわ」
その彼女を、冷たい殺意と共に瞳に写し、ライズが返答する。
「え?だれ?知り合いなの?ライズ」
フィルがいきなり殺し合いでも始めそうな雰囲気になった2人に驚きつつ、ライズに問いかける。
ライズと、それと対峙する翼の生えた女の人。
最初はエルクレストのドゥアンかパルタクスのセレスティアかと思ったが、放つ気配が尋常じゃないことを悟り、それは違うと思い返す。
「…気を抜かないで。こいつは"魔人"よ」
あの日戦った3体の魔人。その中の1人、ライズが直接戦わなかった唯一の魔人である彼女の実力をライズは完全には理解していない。
だが、あの紫の肌の魔人とエレンに聞いた実力のほどを総合すれば、決して油断出来る相手ではないことくらいは、分かる。
「…っは。うれしいねえ。まだアタシを"人"と呼ぶか」
そんなライズのセリフに苦笑し、彼女…魔人、白川由美は他の2人に目を向ける。
「しっかしなんだってアンタがこんな場所に…うん?」
見渡し、2人のうちの1人…フィルに目を止める。
「なるほど…確かに道理だ」
邪神に同化したユミは理解する。邪神が求めたものを。
「ってことはアンタらはとばっちりってところか。まあいいや」
バサリと翼を広げる。
「気が変わったよ。アンタらとはここでは殺り合わない」
飛び上がり、空中で言う。
「特別にアンタらをこいつの最深部まで最短ルートでご招待してやる。つっても他のルートは全部閉鎖すっからアンタらには選択肢、無いけどね」
そして、地面を指さし、言う。
「だが、ただ招待したんじゃつまらない。最短ルートは命がけの道さ。こいつ等をぶっ倒して来な」
ボコリと、地面が盛り上がる。
「それはこいつの力を使って掘り出した"過去の幻影"。平たく言やあアンタらが知る限りの"一番強い奴"だ。過去を乗り越えられない奴に未来を見る資格は無い」
ガシャリと音を立て、盛り上がった地面が人の形を取る。
「せいぜい頑張んな」
その言葉を残し、ユミはこの場を飛び去る。そして、ガシャリと。
「…っ!?」
過去の幻影は全身を覆う真紅のフルプレートアーマーを纏い、豪奢なマントをつけた巨漢へと姿を変えた。