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ノーチェさんのヒマ潰し

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ノーチェさんのヒマ潰し


 学園世界の中心部、A区画にある極上生徒会管理棟内東棟通称『執行部室』。
 それは、この世界を守る最後の砦にして人々を守る『最強の矛でできた盾』。
 あらゆる厄災をだいたい力技で元から絶つ最高の 防衛機構(カウンターアタッカー)。
 世界で起こるありとあらゆる悲しい出来事を止めるため、日夜駆け回りながら人々を守るために矛を振るい、己の身を誰かの盾とするお人好し集団の集う場所。
 そんな、戦場の最前線基地では今。

「ひ~~~~まぁぁぁぁぁ~~~~、でありますよ~~……」

 ……なんだかた○ぱんだのように机に突っ伏してたれている少女がいた。

 原型を思い出すのが難しいくらいにゆる~いキャラに変貌した彼女の名はノーチェ。執行委員の一人である。
 彼女はたれたまま、ごろんと机の上を転がって仰向けになる。長い銀髪が波打ち、また机の上に落ちた。

「お仕事がないから蓮司もちょっと買い物行っちゃったでありますしー、今午前中だからみんないないでありますしー。
 書類の整理も昨日有希がやっちゃったでありますしー。備品の補充も昨日の内に初春がやってしまったでありますしー」

 ごろん、と再び机の上を転がり、仰向けに。
 彼女が見据えている床は、鏡のように本人の姿を映すほど磨き上げられている。

「……じゃあ掃除と洗濯、といきたいところでありますが、それも昨日の内にハヤテが来て一時間でイヤミなくらいぴっかぴかにしてくれたでありましたからな」

 要はやることがない。
 誰もいない場所でえんえんとことが起こるかもしれないところで待機を続ける、というのは存外神経を使うのだ。
 そうぴりぴりもしすぎるとやがて緊張の糸もぷっつり途切れてしまう。
 そんなわけでノーチェは一人でだらだらしていることに決めたのだが、それはそれでやることがないとストレスも溜まるのだった。
 ストレスがたまれば、日ごろの愚痴も出るわけで。

「なんなんでありますか。
 一時期あんなに愛されてたというのに、ちょっと○○○がネットから離れてただけで『影薄くなった』とか『名前なんだっけ』とか。
 えぇ別に気にしてなどないでありますとも。
 所詮わたくしは忘れられがちなファンブックの、しかもPC3ポジションなんてほんっとーに影薄い役でありますからな。もともと日陰がお似合いなのでありますよ~」

 別に、別に……最近イリアがまた出演して好評と人気を博してると聞いて焦ってたりしてるわけじゃ断じてないのでありますからなっ!! と虚空に向かって叫ぶ。
 ……ノーチェさんや、短編だからってぶっちゃけすぎですよ。メタなネタ連発しすぎですよ。

「そうそう。わたくしと一緒に出演した天竜なんて、ポジションを時雨にとられてほとんどの人に忘れられてるわけで、あれと比べればまだマシでありますよ。
 忘却された公式PC集団はまとめて幻想○に落ちるって噂で聞いたでありますが大丈夫なのでありますかなー?
 最近ジャスティスレッドと幻の白いイルカ氏が見当たらないでありますが……ま、噂は噂でありますから大丈夫でありましょう。わたくしは覚えてるでありますし」

 そのままごろんと再び仰向けに。
 やることがないとこのままダメ人間(吸血鬼?)になってしまいそうな勢いである。

「ネットゲーは趣味じゃないでありますしー。あー外でたい外でたい家にいたくない蓮司早く帰ってきてもしくは仕事なんかください」

 誰もいない天井に向けてそんな逆引きこもりみたいなことを標準語で言ってみても、やり残した仕事が出てくるわけもない。

 ここで『誰か事件起こして』と言わないあたりが彼女のお人好しなところだ。
 平和というのは誰もが笑っていられるということ。本当は執行委員みたいな連中が動かない方が、よほど幸せなのだということを知っているから。
 いつでも誰かと笑って暮らすために、ケンカが嫌いでも彼女はこの場所にい続けている。
 その平和が尊いもので、得難いもので、『何もない』ということは執行委員たちも日々を満喫しているということだとわかっているから。

 が、そんなお馬鹿なお人好しがちょっといいことを言ってみても、ヒマがなくなるわけではないわけで。
 ごろん。うつ伏せ。

「ヒマ~、ヒマ~、なんかこれだけで歌とか作れそうな勢いでありますなー」

 ごろん。あお向け。

「いっそ作曲の道に走ってしまうでありますかなー。わたくしのヴァイオリンはしずかちゃん並と言われたこともあるでありますし」

 ごろん。うつ伏せ。

「あ、でもわたくし楽譜の読み書きできないでありますからやっぱ意味ないでありますな」

 ごろん。あお向け。
 そんな風に机の上を転がり続けていた彼女の指先に、プラスチック的な手触りの何かが触れた。
 ノーチェはそれを掴むと、もう一度ごろん。うつ伏せになりながら掴んだものを見た。

「……何かと思えばテレビのリモコンではありませんか。
 まったく、使う度に初春とエリーが『リモコンはモニターの横に片付けてくださいね』って言ってるのに守らないのでありますからー。
 確か昨日使ってたのはイリヤでありましたか、初春もエリーも苦労するでありますなぁ」

 ノーチェの脳裏に肩を落として嘆息する二人の姿が浮かぶ。
 子供のしつけはなかなか大変なのだ。
 とはいえ、そんなことはまったく関係なくノーチェにとっては、リモコンはなんとか見つかった暇つぶしの道具だ。
 ためらいなく赤い電源ボタンを押し、モニターを注視する。何か面白い番組が放送しているといいのだが。



 ***

 銀髪。天然パーマ。死んだ魚のような瞳。
 いつも派手な色物のシャツで、ボタンは胸元までしか締めず、ネクタイの結び玉もまたそのボタンの位置に合わせたように緩みきっており、日がな白衣とスリッパ。
 そしてこの愛煙家には厳しい世の中で、担当する教室や番組でまで紙巻タバコを手放さないヘビースモーカー。たまに朝方は酒臭くもある。

 そんな国語教師・坂田銀八をパーソナリティの片割れにして放送されている番組がある。
 ……しかも、授業時間中に放送されているはずだというのに、意外とこの番組人気があった。
 何度か放送事故に近い内容になりながら、放送時間が変更される憂き目に合いながらも、それでも反響がある不思議なその番組の名は。
『命を守る! -明日を生きるための危険ブツ講座-』という。



「はァい、じゃあ次のおたよりー。
 C区内陵桜学園、PN『貧乳はステータスだ!』さんからー。
 えー『パーソナリティのみなさんこんにちは!』 はい、こんにちはー。
 『突然ですが、銀八先生に質問したいことがあります』はいどーぞー。
 『この間着流し羽織って木刀腰にさしてブーツで麻帆良のスイーツショップの新装開店に並んでたよね?
  その前も宇宙戦艦で大砲の砲塔を木刀で壊してたよね。チャイナ服の女の子と眼鏡の男の子と一緒に宇宙戦艦壊してたよね?
  銀髪の男の人はここじゃ珍しくないけど、くりんくりん天然パーマはなかなかいないから見間違いじゃないと思います!
  あの糖尿ヒーローみたいなの銀八先生だよね? 答えてください!』 はい、お答えします。

 違います。

 いいかー泉、ここ学園世界。学生と教師以外入れませーん。
 どっかの肩書きだけ学生と一緒にしないよーに。先生はちゃーんと教職免許と普免持ってまーす。
 あとね、人を天然パーマだけで判断すんな。アレだ。銀髪も天パも結構いんだろこんなの。だから銀髪で天パってだけで人を俺と判断するな。
 眼鏡を眼鏡としか認識してないようなもんだぞー。眼鏡にだって志村って名前がちゃんとあります。

 それから、事実無根でも教師が生徒連れて危ないとこに行ったー、なんてことが噂になったらPTA……じゃねぇ、闇の教師集団学教連に俺がしょっ引かれるから。
 また『半日糖分摂取禁止』ぃー、とか言われるから。あれ拷問だぞ? 前食らった時死ぬかと思ったんだぞ? お前は俺を殺す気ですかコノヤロー。

 ってーわけでェ、見間違いです。
 俺は志村弟や神楽と一緒にダスクフレアと一体化した富嶽の宇宙戦艦潰したり、魔法をスリッパ卓球よろしくはたき落としたりしてませぇん。
 そーゆーバイオレンスなことは元気なガキ共がやるよーに。年寄り働かせんな。
 それから泉ぃー。今度この手の投稿して来たら、逆さてるてるぼーずの刑に処してやっからな。
 とりあえず今回は番組で紹介できない顔文字使った罰として、あとで陵桜の先生にかけあって一週間便所掃除当番にしてやるから覚悟しとけー」

 言って、ハガキをダストシュート。
 テンポの緩いBGMをバックに、ハガキが『ボツ』と書かれた箱の中にひらりと舞って落ちた。
 なぜメールをプリントアウトしたものでなく、ハガキを読み上げているのかといえばひとえに風情みたいなもんのためである。

 追記しておくと、闇の教師集団とか言われている『学教連』は正式名称を『学園世界教師連合組合』という。
 生徒達を物理面、またそれ以外の面でもフォロー&サポートしていこうと生み出された、教師達の連絡会みたいなものだ。
 ……逆に言うと子ども達を危険な目に合わせないのを目的とした話し合いを行う場でもあるため、不利益を働いた教師への処罰はここが行うこともあるわけだ。

 この非常に見た目からしてやる気のなさそうな教員・坂田銀八は定期的に甘いものをとらないとイライラしてくるほどの、学園世界でも五指に入る甘党であり、
 それが原因でまだ二十代後半にも関わらず糖尿に足踏み入れかけているわけなので、第三者から見れば実に優しい処置であったといえなくもないことも追記しておく。



 閑話休題。
 彼はタバコを携帯灰皿に押しつけると、新しいものを取り出し火をつけた。

「あの見た目から夕方にあっていい絵面じゃねぇ物騒な奴が来るまで時間稼ぎに視聴者のハガキに答えてろってのが指示なわけだが、もうあと何枚読めばいいんだコレ?
 アイツほんとに何してやがんだー。人体実験でもしてんのか?
 まーいいや。あいつがくるまでの分のギャラ俺がもらっとくってことでいいよなプロデューサー。
 え、なに? 『そういうことは本人の間で決めてください』? 馬鹿言ってんじゃないよ、ただの一教師が悪の組織の大幹部に勝てるわけないでしょーが。
 下から面倒事持ち込まれんのが上に立つ者の仕事だろーが、自分のケツにくらい自分で責任持ちなさいよお前」

 じゃ次のお便り行くぞー、とやはりやる気のない言葉で続ける。

「えー、トリステイン魔法学院所属 PN『俺の拳は天を突く拳だ!』さんからのお便りー。
 『最近こちらに来てゲームにはまりました。
  けど、まんげつそうの効果がわからなくて困っています。教えてください』 はぁい、わっかりましたー。

 コマンド>自分で調べろ

 いやね、やくそうが体力回復ですよー、みたいに教えるのは簡単なことだが、一応教師として生徒の自主性ってヤツ? そんな感じのものを認めてやろうってお達しでな。
 つーかぁ、お前この番組なんだと思ってんだコノヤロー。
 ここはドラクエの攻略法教えるコーナーじゃないんだよ、お前らに降りかかる災厄的な何かを減らしてやろーってテレビですよー。

 以上。わかったかモグラぁー、わかったらかわいそうな卵探してバケツ一杯分食べてきなさーい」

 根っからのサドっ気を発揮している教師がここにいる。ものすごい大人気ない。
 しかし、ここに彼のストッパーは今いない。具体的に言うとツッコミ役がいない。よってサ度は赤丸急上昇していくのであった。

「んで次。雛見沢分校『しゅーくりーむ友達ができました』さんからのお便りー。
 『今度みんなでお外に遊びに行くことになったのですが、ボクはちょっと人より目立つ頭をしているので色々と心配しています。
  みんなはお外に行ったことがあるので気にすることはないと言ってくれているのですが、そんなみんなに迷惑をかけては申し訳ないと思うのです、あぅあぅ……。
  そんな臆病なボクを、勇気付けてください! 頭を隠す方法とかで!』とのことですねー。
 目立つ頭ねぇ、色ならたぶんお前さんの言う外の方が色図鑑みたいな状況になってっと思うんだがなー。俺もこんなんだし。あ、天パについて言ったわけじゃないからな?
 ということは、『しゅーくりーむ以下略』は頭によっぽど変なもんがついてるんだと俺は判断しました。とゆーことで、お答えしまーす。

 しゅーくりーむ、頭に○○○的な物体がついてるからって気にすんな。
 男は皆×××に○○○ぶら下げて生きてんだ、頭についてるからって特に奇異の目で見られたりは―――」

 銀八が電波に乗せたらまずそうなことをエスカレートしながら続けようとしたその時。
 大気を引き裂きながら巨大な質量が残像すら残さない速さで銀八のすぐ目の前に落下。轟音。爆煙。一瞬で破砕された机、ノイズと砂嵐に支配されるテレビ画面。

 もうもうと舞う粉塵と砂嵐の向こうから、
 『お前これ何時台の番組だと思ってんだぁぁぁぁっ!!』とか『ま、待て落ち着けェェェェ! 死ぬ! これは死ぬ!』なんて声が聞こえてくる。
 激しい打撃音がしだしたと同時、モニター一杯に『きょうの○んこ』的なほのぼのとした可愛らしい生物の静止画が映り、音声が途切れる。
 この番組ではもうおなじみの映像編集である。
 もはや『現在お見苦しいものが流れています。しばらくお待ちください』的な注意書きすらない。これで存分に癒されてください的な感じだ。

 視聴者ももはやこの程度では驚かない。
 こんなことは珍しいことではなく、むしろない日の方が少ないくらいなのである。なんでこの番組が存続し続けられるのか不思議でならない。


 ともあれ、5分ほどすると可愛らしい子犬の映像は切り替わり、映し出されるのは爆発の後のような破壊の爪痕の残るロケ現場。
 そして新しく補充された机の前に、やけにぼろぼろになった銀八と、隣に一人新しく人影があった。

 その人物は、なんとも目を引く格好をしていた。
 黒いアーマー付きボディースーツ。
 赤いマント。
 極めつけは頭部を覆う培養槽。そして、その中に浮かぶしゃれこうべ。
 どこからどう見ても『悪の大幹部』という言葉の似合う、悪人以外に見えない、あんまりお会いしたくない感じのいでたちの人物だった。
 ……というか、あんまりこの手の番組にあってはならない絵面だ。

 けほん、と煙を吐き出しながら、銀八が普段の二割増しでやる気のない口調で進行する。

「……はーい、そんじゃパーソナリティも揃ったところで改めてご挨拶でぇーす。
 みんなの心の国語教師、坂田銀八だコノヤロー」
「ドクロ仮面だ。
 それから先ほどのお便りの件だが、しゅーくりーむよ、お前が思っているよりもはるかにこの世界は多種多様な者が存在している。
 お前の友人達はきっとお前のコンプレックスのことも知っているだろうが、それでも大丈夫だと言ってくれたのだ。少しくらいは友人を信じてやってはどうだ?
 それでもお前のコンプレックスを嗤う者がいるのなら、また連絡をよこすがいい。
 世界を征服する前に、そいつの腐った性根を叩き壊してやる」

 悪の大幹部面してそう挨拶とお便りへのフォローも忘れないそいつの名前は本人も言った通りドクロ仮面。
 悪の組織ZONEの大幹部だと本人は言っているが、そもそもその設定はとある世界の特撮番組の設定だそうで、このドクロ仮面が本物なのか偽者なのか不明なのだとか。

 しかし、それはそれとしてこのドクロ仮面、今のフォローを例に出すまでもなくやたらと言動が漢前。
 デフォルトがやる気0な上ほっとくとうっかり猥談に突入することもある、しかしごくごくたまに本質をついた発言をする銀八とコンビを組んで番組を進めているのだ。
 この番組の企画がなぜ通ったのかは謎だが。

 閑話休題。
 そんな漢前な発言をする悪の組織の大幹部の言葉を受け、銀八は皮肉気に笑いながら新しいタバコをくわえて告げる。

「おー怖ぇ、悪の組織の大幹部サマは言うことが違うねぇ。
 そんなわけだしゅーくりーむ。よかったな、お前のバックに悪の組織がついたぞ。大手を振って外に出やがれ。
 以上。お便りコーナーおしまい。
 んじゃー、後は通常通りの進行で番組を進めまぁーす。
 つかお前どこ寄り道してたんだよ。世界征服しようとしてヒーロー気取りのガキにでも追っ払われてきたとこか?」
「む……というか、むしろ世界征服をしようとした身の程知らずどもを蹴散らしてきたといったところか」
「お前、悪の組織の幹部だよね?」
「やかましい。先に世界が誰かのものになったらそれこそ正義の味方の所業になるだろう」
「何そのアイデンティティの危機にさらされ続けてる悪の組織。よく活動できてんな」


「お前に心配される筋合いはない、仕事をさっさと済ませるぞ。
 では今日一発目の危険ブツについてだ。前回予告した通り今日の一発目は『滝野 智』だ」

 と、ドクロ仮面が後ろのモニターを軽く叩く。
 それに合わせたように映し出されたのは、カメラ目線でものすごく朗らかな笑顔を向けながらピースを向ける、髪を肩口でそろえた高校生くらいの活発そうな少女。
 もはや隠す気もない様子で机に広げてあった原稿を堂々と拾い、銀八はそれを読み上げる。

「えー……『滝野 智。某高校の学生。女』この辺はまぁ見りゃわかるわな」
「『役職:選抜委員。性質:トラブルを文字通り作る程度の能力。特殊能力:ナシ。性格は自分の欲求に忠実、かつノリと勢いが行動原理』。
 ……どう見ても厄介な類の人間だな。なぜこんな人間を選抜委員に採用したんだ」
「人手不足なんじゃね?
 無能ってわけでもねーんだろ、こういう奴は暴走して周りに迷惑もかけるが大抵妙に憎めないとこがあったりするもんだ。
 つか、この上無能だったらこんなとこで紹介する前に問題起こしてやめてるだろーよ」
「身に覚えでもありそうな口ぶりだな」
「割とな。むしろある程度自分で馬鹿やれる奴の方が人生楽しく生きてけるもんだ。
 馬鹿やって息抜きすること知らない不器用な奴がたまにうっかりプッチーンといくんだよ。ぷっちんって言ってもプリンじゃねーからな。あープリン食いてー」
「ちょっといい話したかと思ったら三秒と保てないのはどうなんだ現役教師」
「別にいいだろが、人様の生き様に文句つけんなや」
「今『生き様』と書いて『スタイル』と読んだろ。ちょっと厨二っただろう今」
「いいんですぅー。男の頭の中にはどっかに中二の夏が残ってるもんなんですぅー。
 その前にお前、頭のてっぺんからつま先まで中二並のラスボス形態の奴が人を中二呼ばわりしてんじゃねーよ」
「首をねじ切られたいのか」

 そんな物騒な発言をさらりと聞き流しながら、銀八は注意書きを読みに戻る。

「その滝野の注意書きだ、よーく聞いとけー。
 『単体危険度:D』まぁ、多少支給品で武装してるとはいえおっそろしい力があるわけじゃねぇからこれは納得だな。
 『組織危険度:C』一応選抜にいるから、選抜そのものを敵にまわすと色んな意味で怖ぇってことだ。あいつらぁ白血球みたいにわらわらいるからな」
「選抜委員は組織として一番敵に回したくないところの1つだからな。組織力なら執行部などよりよほど恐ろしい。まさに『数は力なり』だ。
 もっとも、滝野 智が私事に選抜委員の人員を動かせるかというと難しいだろうからこのランクなわけだが」
「で、一番注意すんのはココ。『状況危険度:A』。
 さっきも言ったように、無軌道暴走しがちな小娘だから事件に首突っ込んでガソリン注ぐか自分で火ぃつけるかのどっちかしかやらねぇわけだ。
 何を起こすかわからねぇから、刺激的な人生が送りたい奴以外はできるだけ近づかないことー」
「もしもすでに巻き込まれている場合は、トラブルを解決できる人間を巻き込むか、選抜委員の相方である朱野 ユリを探すことを勧める。
 どうも波長とかそういうものが合うらしくてな、あの二人が一緒にいると、どんなことも解決する方向に動くきらいがある」
「要は巻き込まれたら生きろっつーこった。頑張れー、若人ー」

 投げやりにそう言いながら、紫煙を吐き出して手にしていた原稿を興味なさげに手放すと、新しいそれに手を伸ばす。


「はいじゃあ次の危険ブツいくぞー。
 次は『不知火 明乃。磯野第三中学二年。女。総番』。今度の嬢ちゃんは随分物騒だなオイ。
 番長ってなぁ今の時代も残ってんのかと思ってたが、こんだけ学校そろってりゃそりゃ残ってる学校もあって当たり前かと先生思うことにしました。アレ、作文?」
「自分の発言に疑問を持つ前に、お前はまず自分の存在に疑問を持て」
「え、なに。俺の存在全否定?」
「それで不知火 明乃だが。……『役職:悩まし番長』ってなんだこれは。ふざけてるのか原稿書き」
「『性質:生真面目すぎて苦労する程度の能力』って書いてあるから、細かいことが気になって仕方ないスケ番ってことだろ。
 『特殊能力:人間離れした剣術の腕。性格は生真面目かつ苦労性かつ頑固者』。あー、こりゃ上手に仕事できないタイプだ。息抜き下手な感じの」
「年がら年中息抜き人生な奴には言われたくない台詞だろうな」
「いーんだよいざという時はキラめくから。国語教師ナメんなよコノヤロー」
「いや、国語教師にキラめかれても……。
 話を元に戻すが、注意書きに移ろう。
 『単体危険度:C』。戦闘力はかなり高い部類に入るものの、本人が何の理由もなく襲いかかったりしないところがC止まりの理由としては大きいな。
 『組織危険度:E』。こちらに来てからはどこの組織にも俗してはいないから、組織だった行動はない。
 しかし剣道や剣術に長けるため、剣術家や武道家との横のつながりがあるため、ネットワークが広い。組織といえば新白連に所属が確認されている。
 本人があまり見世物にされるのを好まないため、おおっぴらな舞台には中々上がらないようだがな」
「つーかね、うっかり格闘家だの剣術家だのの類を少なくない数敵にまわすかも知れない奴が組織危険度E判とかおかしいからね」
「仕方ないだろう。交友関係を一々調べていたら番組が作れん」
「オーイ原稿作ってる奴ー。子どものくせにそういう時だけ大人の事情使ってんじゃねーぞー」
「……カメラに向けて言っても、カメラの向こうには視聴者しかいないぞ」
「大人の事情とかなー、そういうのは下も大人になってから―――」
「だ・か・ら、これ何時台の番組だと思ってんだこの歩く隠語辞典教師がァァァァっ!」

 ドクロ仮面のアッパーカットがクリーンヒット! おおっと、銀八くんふっとんだー!

「てめ、人がちょっと視聴者に配慮してオブラートに包んでやったっつーのになにこの仕打ち!
 なんならピー音とモザイクの嵐が飛び交う番組に改変してやろーか!?」
「隠せてないんだよ! これっぽっちも隠しきれてないんだよ! オブラート今の台詞のどこにあったッスか!?」

 口調変わってるぞドクロ仮面。
 そして醜い争いの始まる画面。
 ストッパーがいないため、グッダグダのまま時間が過ぎていく。やがてEDまで流れはじめる。
 しかしそんなことにはまったく気づかない画面内の二人。

「夏も水槽冬も水槽、お前そんなに水槽が好きですか!? だったらうちの高校の金魚ばちにたたっこんでやろうかァ!?」
「上っ等ッスこのポップコーンヘアー! お前こそポップコーンよろしく鉄板の上で熱してやるッスよォォォォ!!」

 そしてそのまま放送時間が終了し、番組タイトルとまた見てね!といった感じのテロップが流れ、画面はホワイトアウト。
 その上にカラフルな文字が浮かび上がる。
 『放送予定だった本日三つ目の危険ブツ、牙の塔のコミクロン君の講座は、残念ながら時間の都合上放映できなくなってしまいました。次回もお楽しみに!』




 ***

 そんな収拾つかない状態の一部始終を眺めていたノーチェは、淹れたお茶をすすりながらひとつため息。
 『命を守る! -明日を生きるための危険ブツ講座-』は、パーソナリティ二人のグダグダにもほどがあるトークとギャップまみれの会話、そしてカオスでできている。
 カオスの中身も様々で血みどろバトル編があったり、泣ける話があったり、貧乏に立ち向かう話があったり、えんえんグダってるだけの話があったりとまさにフリーダム。
 そこらへんが何故かお茶の間にウケているという、お茶の間にある劇物番組的な微妙なポジションを持っているのであった。

 と、ぼーっとお茶をすすっているとノーチェの後ろから声がかかる。

「おや、お茶の時間でござったか。拙者もご相伴にあずかっていいでござるかな?」
「楓。いらっしゃいでありますよー、ちょうどヒマだったのであります~」

 長瀬を笑顔で迎えて後ろ手で器用にリモコンで電源を落とし、それまでの記憶を一切リセットして綺麗さっぱり忘れるノーチェ。
 ヒマをつぶすなら、やっぱり生の人間との会話の方が彼女にとってはよほど楽しいのであった。


 fin

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