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ろくでなしの2-Fの日常会話

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ろくでなしの2-Fの日常会話(真剣で私に恋しなさい!!)


 学園世界の一角にある小さな喫茶店。
 その端っこのテーブル席に、同じ制服を着た男子4人が、互いに顔をつき合わせていた。

「お前たち、全員そろっているようだな」

 そのうちの一人、長身痩躯で眼鏡の少年が、くい、と眼鏡を直しながら口を開いた。
 制服の下からのぞくアニメキャラのTシャツが、その道の人間であることを物語っている。
 彼の名は大串スグル。川神学園の2-F所属の普通の男子生徒である。

「何の用だよ。俺様はナンパで忙しいんだよ」

 体格のいい男子、島津岳人が、開口一番、不満を漏らした。

「まったくだぜ、俺も学園世界中の女子の写真撮らないといけないんだから、手短に頼むぜ」

 小柄なサル顔の生徒、福本育郎、通称ヨンパチも、その後に続いた。

「ぶっちゃけ、僕らを集めたのに何の意味があるの?」

 細身のインドア風の生徒、師岡卓也が疑問を口にする。
 その問いかけに、待っていたとばかりにスグルは言う。

「率直に聞こう。お前たち、この世界をどう思っている?」
「最高じゃねえか!」

 迷いなく、指を立てながら、ヨンパチが即答した。

「美人がいっぱいで、俺のフィルムが間に合わなくなりそうだぜ!」
「ヨンパチと同意見だな。かわいい女の子のいるユートピア、たまんねえよ」

 それに続くように、岳人が、鼻の下をだらしなく伸ばしながらそう答える。

「まあ、色々不満や不安もあるけど、住めば都って言うしね」
「そうか……」

 だが、卓也たちの回答に、スグルは明らかに不満な顔を隠そうとしなかった。

「何だよお前、この世界が気に食わないのかよ?」
「そうだぜ! ここにゃ、お前の憧れのエルフっ娘や魔法少女が現実のものになってるじゃねえか」
「ああ、そうだな…… その通りだ」

 だんだんとスグルの顔が怪しい表情になってくる。

「最初は俺も驚いたさ。そして、まるで俺の思い描いていたゲームの世界にやってきたんだと狂喜乱舞したものさ!」

 スグルの独白は、だんだんと熱を帯びてくる。

「俺の時代が来た…… そう思った時期が俺にもあったさ…… だが!!」

 だん、とスグルは力任せにこぶしでテーブルを叩いた。
 一瞬、ほかの客が何事かといっせいにスグルたちを見る。

「ふたを開けてみればどうだ!? 俺の思い描いたエルフっ娘も! 魔法少女も! 結局は俺が軽蔑する三次元の女どもと何も変わらんではないか!!」
「す、スグル、落ち着きなよ。みんな見てるから」
「お前たちに分かるか!? 俺の絶望が!? 夢に描いていた世界がガラガラと崩れていくこの絶望感が!?」

 スグルの語りはとまるどころか、ますます大声とを張り上げて、白熱する。
 周囲の視線が痛い。

「そして!! 何よりこの世界では俺の拠り所となる新作のゲームが手に入らない!!」
「あー…… 確かにそれは痛いかなあ……」

 その部分だけは共感するところがあるのか、卓也だけはこくこくと頷いた。

「ここは俺にとって、ユートピアなどではない! 最悪のディストピアだ!!」
「……ま、まあ、言いたいことは大体分かった」
「……で? 結局お前は何がしたいんだよ?」
「ふっ、この世界が地獄だというならば、やろうとすることはひとつしかないだろう?」

 スグルは、不敵な笑みを浮かべて、ずれた眼鏡を直した。

「俺は一人でも…… この世界からら脱出してみせる!!」
「「「ええええええええええええええっ!!?」」」

 今度は三人の絶叫が木霊した。

「いやいやいや、いくらなんでも無理でしょそれ!?」
「本業のウィザードでもお手上げの状況なんだぜ? 俺たちに何ができるってんだよ!?」
「落ち着けスグル! お前、ちょっと疲れてきてるんだ!」
「お前の理解が得られないことは、十分に分かった。だが! それでもこの計画を一人でも実行してみせる!」
「………………」
「今日はお前たちに、俺の決意表明を聞いてもらいに来てもらったんだ」

 誇らしげにスグルは言うが、三人の考えはひとつにまとまっていた。
 だめだこいつ、早く何とかしないと。
 共通する思いを胸に、三人は肩を寄せ合ってぼそぼそと相談しだした。

(おい、どうするよ?)と岳人。
(どうするって言っても、どうすればいいのかな?)と、卓也。
(てゆーか、この勢いだと魔王とか言うやつとでも契約しちまいそうだぞ?)と、ヨンパチ。
(それはやばいだろ。そうなったらウィザードが黙っちゃいねえ)
(うーん…… 何とか、スグルの考えを思いとどめる何かがあればいいんだろうけど)
(何かって何だよ?)
(それは…… ゲーム?)
(それがないからあんなふうに情緒不安定気味になってきてるんだろ!)
(だよねー。うーん…… あ)
(どうしたモロ!? 何か閃いたのか!?)
(うん。ゲームって、別に僕らの世界のゲームでなくてもいいよね?)
(とゆーと?)
「柊先輩に連絡を取ってみよう」


 卓也から連絡をもらった柊が到着したのは、それか30分後のことだった。

「よう、久しぶりじゃねえか、先輩。こないだの魍魎の宴以来だな」
「……おう」
「あれ? どうしたの先輩。顔色悪いよ?」
「どうしたもこうしたもねえよ……」

 柊が憔悴しきった顔を浮かべながら、先日落札した写真が、くれはたちにばれたことを説明した。

「おかげでくれはには秘密を学園世界中にばらされそうになるわ、灯や命には殺されかけるわ、純真なエリスまでが虫を見るような目で俺を見るようになるわ、散々だったぜ……」
「うわぁ……」
「それは…… ご愁傷さんとしか言いようがねえな」
「……で、俺を呼び出したのはどんな了見だ?」
「あ、それなんだけどね……」

 卓也はこれまでの経緯を説明をする。
 それを真剣に聞き終えると、柊は腕を組んでうなった。

「ゲーム、ねえ……」
「柊先輩、ゲームとか持ってない?」
「あいにく俺はゲームどころの騒ぎじゃねえからな。ろくなゲームも持ってねえ」
「そっか……」
「……まあ、俺じゃなくても、ほかのやつらに聞いて、何とか伝をあたってみることにするわ」
「ホント?」
「ああ、ちょっとその大串ってやつ、ほっとけそうにないからな」

 柊はそう言うが、その言動には、

(まあ、そんなやつが侵魔に取り付かれやすいからな。しっかりケアしねえと大変だからな)

 と言う思惑があったのは内緒だ。


「おい、大串とか言ったな」

 いまだテーブルの端でぶつぶつと小声でつぶやいているスグルに、柊が話しかける。

「まあ、新作のゲームとかは手に入んないがな、その、なんだ。俺たちの世界のゲームでよければ、いつでも借りに来い」
「…………!?」

 その言葉に、ようやくスグルは、柊の顔をまともに見た。

「異世界のゲーム…… だと……」
「ああ、さすがにお前をこの世界から脱出ってのは無理だが、そのくらいなら遠慮なく手を貸すぜ」
「そうか…… そうか!! フフ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 打って変わり、今度は高笑いを浮かべるスグル。

「異世界のゲームか! 勝てる! これで勝てるぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「な、なんだあ、こいつは……」
「まあ、扱いづらいところはあるけど、悪いやつじゃないから」

 引き気味の柊に、卓也がさりげなくフォローする。

「柊蓮司!! いや、同士と呼ばせてもらおう!!」

 がし、と柊の手を掴み、ぶんぶんと振り回すスグル。

「俺に希望を与えてくれたお前に、俺は敬意を表する!! ありがとう、同士よ!!」
「お、おう……」

 戸惑い気味の柊を他所に、スグルは、何度も柊に感謝した。
 だが、柊は知らない。
 彼が主に遊ぶゲームがいったい何なのかを……



 数日後。
 スグルとともにギャルゲーを借りていく柊の姿が目撃され、「ああ、ついに柊蓮司ばそっちに走ったんだ」と生暖かい目で見られるようになり、くれはたちに、ますます白い目で見られるようになるのだが、まあ、いつものことである。

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