ヴァラルヴァル(Valaluval)
台湾の先住民パイワン族の伝説に登場する龍もしくは蛇。中国語表記は瓦拉魯瓦魯。
昔、ツルル家のカラムディスという者が狩りに出かけたが、転んだ拍子に持っていた槍を手から放してまった。そして槍は縦に滑って行き、そのままディノアランという淵の中に落ちてしまった。カラムディスが淵に潜って行くと、中にはヴァラルヴァルという龍がいた。カラムディスが「私の槍は何処に在るか」と言うと、龍は「私が其処に竹筒(水汲み用の)と並べて置いたから取れ」と言った。カラムディスが槍を取ると、彼等は相談して龍は「我々友達になろう、酒を造って共に飲もう」と言った。そこでカラムディスは一旦帰って袖無の着物を着たり、褲を穿いたり、鷹の羽を挿した頭飾りをしたり支度して、水の底へ出かけていった。そして2人で酒を飲んだ。しばらくするとカラムディスは酔ったので外へ出て、帰りがけに龍に「此次には私の処へ来い」と言った。その後、龍はツルル家に来て酒を飲んだ。そしてその龍は酔って帰って行ったが、途中で転んだという。他人が見ると蛇に見えるが、しかしカラムディスが見ると人であったと言い伝えられている。
ヴァラルヴァルの子として蛇を産んだ
サヴァリという女性もいた。
昔、ルヴォチ家の上の方に位置していたとある家には、パスス家の
サヴァリとその母が住んでいた。ある時、
サヴァリは母に向かって「私は水汲場へ行く、併し母よ、私の行李を開けるな」と言いつけたが、
サヴァリの母は気になって行李の蓋を開けてしまった。すると、行李の中から無数の蛇の子が出てきて、あちらこちらへ這い回っていった。そして、
サヴァリは水汲場から家に帰る道中で蛇の子に出会ったので、母が蓋を開けたのだろうと思い、家に帰って行李を見ると
サヴァリの予想通りに蛇の子はいなくなっていた。なので、癪に障った
サヴァリは「汝は何故私の子をあんなにしたか。私は出て行く」と言い、身支度をして笠を被ると内獅頭へと行ってしまった。母は「行くな、行くな」と言って後を追いかけたが、海に着いた
サヴァリは海中へ潜っていき、そして
サヴァリの笠は回転しながら見えなくなった。実は
サヴァリはヴァラルヴァルの子を孕んで海からやってきていたため、元のヴァラルヴァルの住む海へと帰っていったのだ。それから、この地をチサヴァリ(サヴァリの処)と呼ぶようになった。
参考文献
台北帝国大学言語学研究室『原語による台湾高砂族伝説集』190, 204頁
台湾総督府蕃族調査会『番族慣習調査報告書. 5巻之1』210頁
最終更新:2024年05月31日 17:09