フェーリ・ボナゾバは、アルトリア王国の王立魔導技術院に所属する技術者である。役職は第四研究室室長を務め、階級は上級技官に分類される。彼女の専門分野は魔導工学であり、特に魔力を物理的な動力へと変換する「魔力変換炉」の研究開発において中心的な役割を担っている。彼女が設計した「ボナゾバ式小型変換炉」は、それまでの変換炉とは構造的に大きく異なり、王国の魔導技術の水準を大きく前進させた実績を持つ。物語の中では、主人公たちが直面する技術的な課題に対し、新たな発明品や理論的な助言を提供することで支援する立場にある。彼女自身が直接戦闘に参加したり、政治的な駆け引きの表舞台に立ったりすることは少ない。しかし、彼女の生み出す技術が、間接的に戦局や社会のあり方に影響を与える重要な存在として描かれている。
彼女の出身は、アルトリア王国南部にある鉱山都市「グリンデル」である。父親は鉱山で稼働する旧式の蒸気機関の管理を行う技師であり、母親は地元の学校で教員を務めていた。フェーリは幼少期から機械に触れることを好み、父親の仕事場から持ち帰った廃棄部品を分解し、組み直して遊ぶことが多かった。当時のグリンデルは、鉱石採掘に不可欠な魔力資源の枯渇という問題に直面していた。旧式の蒸気機関に依存したエネルギー供給は非効率であり、街の産業は停滞しつつあった。フェーリは、この問題をエネルギー資源の枯渇ではなく、エネルギーの「変換効率」の問題であると捉え、より少ない魔力で大きな動力を得る方法に関心を抱くようになった。十代半ばの頃、彼女は独自のエネルギー変換効率に関する計算モデルを構築し、その論文を王立魔導技術院の院長(当時)であったアウグスト・ハイゼンに送付した。その内容と思考の独創性を高く評価され、彼女は通常の手続きを経ずに王都の技術院付属アカデミーへの編入を許可されることとなった。アカデミーを卒業した後、王立魔導技術院に正式に入所した。最初の配属先は、既存の大型変換炉の保守管理を行う第一研究室であった。彼女は日々の業務をこなしながら、独自に小型変換炉の基礎研究を継続した。入所から五年後、魔力粒子を安定的に循環させる「魔力触媒循環システム」の基礎理論を発表した。この功績が認められ、彼女は若くして自身の研究室である第四研究室を設立することを許可され、室長に就任した。これが、彼女が現在の地位に至るまでの経緯である。
物語の序盤において、フェーリ・ボナゾバは名前のみが登場する。主人公アッシュ・ランバートが所属する特務部隊に試験的に配備された「魔導バイク」が、第四研究室の技術協力を受けて開発されたものであることが示唆される。彼女自身が物語に直接登場するのは、第2章で主人公たちが任務の報告のために王都を訪れた際である。当時、アルトリア王国軍は、敵対するガルニア帝国が投入した新型魔導兵器「スレイプニル」の対応に苦慮していた。スレイプニルは、従来の兵器とは比較にならない機動力と魔力出力を両立させており、王国の防衛網を脅かしていた。フェーリは王国軍からの依頼を受け、回収されたスレイプニルの残骸の分析を担当する。彼女は、スレイプニルがアルトリア王国ではまだ実用化の目処が立っていない「高純度魔力結晶」を動力源としていることを見抜いた。同時に、高純度魔力結晶を安定して制御する技術は理論上、非常に困難であるはずだとし、帝国の技術に何か不自然な点があると指摘した。第3章に入ると、主人公たちは帝国側の技術的優位を覆すための「切り札」を求め、フェーリの研究室を訪れることになる。フェーリは、帝国の高純度魔力結晶に対抗するのではなく、別の方法を模索すべきだと主張する。彼女は、大気中や地中に存在する低純度の自然魔力を効率よく収集し、高効率で動力に変換する新型変換炉「ボナゾバ式小型変換炉」の試作機を提示した。この試作機は、特定の条件下でしか安定稼働しないという欠点を抱えていた。しかし、主人公たちが任務の過程で特殊な触媒となる鉱石を発見し、それを持ち帰ったことで研究は進展し、変換炉は完成に至った。第4章の、物語中盤における大規模な戦闘において、完成したボナゾバ式小型変換炉を搭載した新型飛空艇「シルフィード」が初めて実戦に投入される。シルフィードは、帝国の主力艦隊が展開する空域において、その機動力と長時間稼働可能な継戦能力を活かし、王国の劣勢を覆すきっかけを作った。この作戦中、フェーリは王都の司令管制室からシルフィードの魔力変換炉の稼働状況を監視し、技術的な助言を送ることで作戦の成功を支えた。物語の終盤、第5章では、帝国が制御に失敗し暴走を始めた古代の「自動防衛兵器(ゴーレム)」が王都に進撃する事態が発生する。フェーリは、このゴーレムを停止させるための手段を探るため、主人公たちに同行してゴーレムの制御中枢を目指す。彼女自身に戦闘能力はないものの、ゴーレムの内部構造を分析する中で、その制御システムが自身の開発した変換炉の理論と近い構造を持つことに気づく。最終的に、彼女はゴーレムの制御システムに対して魔導的な干渉を試み、その機能を内部から停止させることに成功し、王都の壊滅を防いだ。
作中では、彼女の周囲にいくつかの主要な人物が登場する。主人公であるアッシュ・ランバートは、王国軍特務部隊の隊長である。当初、アッシュは研究室にこもりがちなフェーリに対し「現場の状況を理解していない技術者」という印象を抱いていた。しかし、彼女の技術に対する純粋な探求心と、彼女の技術がもたらす具体的な結果を目の当たりにするうちに、アッシュはフェーリに信頼を寄せるようになる。フェーリもまた、アッシュが持つ現場での即応力や直感的な判断力を、自身にはないものとして評価している。アウグスト・ハイゼンは、王立魔導技術院の前院長であり、フェーリの才能を最初に見出した人物である。彼はフェーリを王都に招いた恩師であり、現在は公の場から引退している。しかし、フェーリは研究に行き詰まった際や重要な判断を迫られた際には、彼の元を訪れて助言を求めるなど、深い尊敬の念を抱き続けている。リヒャルト・シュタイナーは、王国軍の参謀本部に所属する将校である。彼はフェーリの技術力を高く評価しており、その技術を軍事目的に全面的に転用することを積極的に推進する立場を取っている。そのため、技術の運用方針を巡って、フェーリとはしばしば意見が対立する。フェーリはリヒャルトの現実主義的な思考を理解しつつも、自身の技術が兵器としてのみ消費されることに対しては、強い警戒心を示している。ゼクス・ヴァレンシュタインは、敵対するガルニア帝国の魔導技術者である。彼は、フェーリとは異なる技術的アプローチ、すなわち高純度魔力結晶を強引に制御する方法で技術を発展させようとした人物である。作中で二人が直接対面する場面は少ないが、スレイプニルとシルフィードという二つの兵器を通して、彼らの技術者としての思想の違いが対比的に描かれている。
フェーリの人物像は、典型的な研究者気質として描かれている。自身の興味がある分野、特に魔導工学に関する事柄に対しては強い探求心を示し、一度研究に没頭すると寝食を忘れるほど集中する。その一方で、服装や身だしなみといった自身の研究以外の事柄には無頓着な面があり、作中では常に研究室の白衣を着用している姿が描かれる。食事も栄養補助食品で手早く済ませることが多い。他者との世間話や社交的なコミュニケーションは得意ではないが、自身の専門分野の話題になると饒舌になる一面も持つ。彼女の行動の根底にあるのは、純粋な「知的好奇心」と「技術による問題の解決」である。彼女は、エネルギー問題が人々の生活に直結することを、出身地であるグリンデルでの経験から深く理解している。そのため、彼女にとって技術とは、人々の生活を豊かにし、直面する困難な状況を打開するための「手段」であるべきだと考えている。自身の技術が軍事的な目的にのみ利用され、破壊や支配の道具として使われることを強く嫌う傾向がある。作中、リヒャルト参謀から新型変換炉の兵器への全面的な転用を打診された際、彼女は「技術はナイフと同じです。パンを切ることもできれば、人を傷つけることもできる。ですが、最初から人を傷つけるためだけのナイフを作るべきではありません」と反論する場面がある。この思想は、彼女が開発する技術の設計にも反映されており、常に「制御可能であること」と「暴走しないこと」を前提として設計されている。
フェーリ・ボナゾバという人物の存在は、この物語における「技術」の役割を象徴している。彼女が開発した「ボナゾバ式小型変換炉」は、アルトリア王国とガルニア帝国の間の技術的な均衡を大きく変化させる要因となった。帝国が保有する高コストかつ高リスクな「高純度魔力結晶」の技術に対し、王国は低コストで安定した「低純度魔力の高効率利用」という技術で対抗するという、物語中盤の対立軸を生み出した。また、主人公のアッシュにとっては、彼女との交流を通じて、武力や腕力だけでは解決できない問題が存在すること、そして「知恵」や「技術」の重要性を認識するきっかけとなった。物語の終盤においては、彼女が持つ「技術は制御されるべきである」という思想そのものが、暴走した古代兵器を停止させるための鍵となった。このように、彼女は力による解決とは異なる、技術的な側面からの解決策を物語に提示する役割を果たしている。