塩野七生「ローマ人の物語4 ユリウス・カエサル ルビコン以前」(1995)

評価

★★★☆

ひとこと

カエサルの一生に沿って、共和政ローマの末期、内乱期の状況に迫る一冊。
上巻の大半は前作と被っている点に注意。(1年毎に書いているため、ダブりはある程度仕方ないのだが)
なお、ガリア戦記に関連してガリア側の目から描いた作品に佐藤賢一「カエサルを撃て」もあります。クセのある作品なので決して万人向きではありませんが・・・。

分類


目次

第一章 幼年期 Infantia (紀元前一〇〇年~前九四年)
  • どこで生まれ育ったのか
  • 環境
第二章 少年期 Pueritia(紀元前九三年~前八四年)
  • 家庭教師
  • 体育
  • 実地教育(一)
  • 実地教育(二)
  • 結婚
  • 成人式
第三章 青年前期 Adulescentia(紀元前八三年~前七〇年)
  • 独裁者スッラ
  • 逃避行
  • 帰国
  • 弁護士開業
  • 国外脱出
  • 海賊
  • 留学
  • 帰国
  • ポンペイウスとクラッスス
第四章 青年後期 jUVENTUS (紀元前六九年~前六一年)
  • スタート・ライン
  • 宣告
  • ポンペイウスの台頭
  • 按察官就任
  • 三十七歳にして起ちはじめる
  • 最高神祇官
  • 反「元老院派」第一歩
  • 「カティリーナの陰謀」
  • 「偉大なるポンペイウス」
  • スキャンダル
  • カエサルと女
  • カエサルとお金
第五章 壮年前期 Virilitas (紀元前六〇年~前四九年一月)
  • 四十にして起つ
  • 「三頭政治」
  • 執政官就任
  • 「農地法」
  • ガリア属州総督
  • 手足の確保
  • 「ガリア戦記」
  • ガリア戦役一年目
    • ゲルマン問題
    • その間、ローマでは
  • ガリア戦役二年目
    • セーヌの北東
    • その間、ローマでは
    • 「ルッカ会談」
  • ガリア戦役三年目
    • 大西洋
  • ガリア戦役四年目
    • ライン渡河
    • ドーヴァー海峡
    • 首都改造の第一歩
  • ガリア戦役五年目
    • 第二次ブリタニア遠征
    • 十五個大隊壊滅
    • ガリアでの初の越冬
    • その間、ローマでは
  • ガリア戦役六年目
    • ライン再渡河
    • ガリアとゲルマンの比較論
    • クラッスス
    • パルティア遠征
    • 首都の混迷
  • ガリア戦役七年目
    • ヴェルチンジェトリックス
    • ガリア総決起
    • カエサル、撤退
    • アレシア攻防戦
    • 「ガリア戦記」刊行
  • ガリア戦役八年目
    • 戦後処理(一)
    • 戦後処理(二)
  • ルビコン以前
    • 「カエサルの長い手」
    • 護民官アントニウス
    • 「元老院最終勧告」
    • ルビコンを前にして
    • 二人の男のドラマ
    • 「賽は投げられた!」


時期

BC100(カエサル誕生)~BC51(ガリア戦役)

主要登場人物

  • マリウス
  • スッラ
  • キンナ
  • アウレリウス・コッタ
  • ポンペイウス
  • クラッスス
  • カエサル
  • ルキウス・セルギウス・カティリーナ
  • 小カトー
  • キケロ
  • ラビエヌス
  • スレナス
  • カシウス
  • サビヌス
  • 息子クラッスス
  • オクタヴィウス
  • クロディウス
  • ミロ
  • アリオヴィストゥス
  • ヴェルチンジェトリックス
  • マルクス・アントニウス
  • ファビウス
  • デキムス・ブルータス
  • 弟キケロ
  • バルブス
  • ガイウス・スクリボニウス・クリオ
  • ヒルティウス
  • メテルス・スキピオ
  • マルケルス


気になる表現

男にとって最初に自負心をもたせてくれるのは、母親が彼にそそぐ愛情である。
幼時に母の愛情に恵まれて育てば、人は自然に、自身に裏打ちされたバランス感覚も会得する。
そして、過去に捕らわれず未来に眼を向ける積極性も、知らず知らずのうちに身につけてくる。(上p40)

ルキウス・コルネリウス・スッラという男の最大の特質は、良かれ悪しかれはっきりしていることであった。言動の明快な人間に、人々は魅力を感ずる。はっきりする、ということが、責任をとることの証明であるのを感じとるからだ。敵にまわさなければ、痛快でさえある。(上p72)

どんなに悪い事例とされていることでも、それがはじめられたそもそもの動機は、
善意によるものであった。だが、権力が、未熟で公正心に欠く人の手中に帰した
場合には、良き動機も悪い結果につながるようになる。(上p181,カエサルの言葉)


野心とは、何かをやりとげたいと思う意志であり、虚栄とは、人々から良く思われたいという願房である。(中p19)

考案者が死ねばその人の考案したことまで忘れ去られてしまうのは、
オリエント(東方)の欠陥である。オチデント(西方)では、人は死んでも
その人の成したことは生き続ける場合が多いのだが。(下p69)


メモ

  • ローマ人の教養学科(8,9歳~16歳。一人の教師から学ぶ。これに午後は「体育」が加わる)
    • ラテン語
    • ギリシャ語
    • 修辞学(言語を効果的に使うことで適切に表現する技能)
    • 弁証学(論理的に表現する能力を会得)
    • 数学
    • 幾何学
    • 歴史
    • 地理

  • ローマでの選挙運動
    1. サルタトーレス;家庭訪問。
    2. アセクタトーレス;有権者たちが仕事で通うフォロ・ロマーノや市場などに同伴し、道すがら勧誘
    3. レドゥクトーレス;上の復路の勧誘
    4. ノーメンクラトーレス;影響力を持つ人を狙い撃ち、説得、勧誘

  • 三頭政治:現代のサミット(国連総会との違い。拒否権を持たない)


  • ガリアにローマ化の可能性大とカエサルが見なした点
    1. 私有財産尊重の伝統があったこと(ゲルマンは土地の私有化を認めず)
    2. 人格神であり容易にローマの神々と融合できたこと(ゲルマンは月や火をあがめる)
    3. 生活の快適さを追求する性向があったこと(ゲルマンは生活の快適さを求めず、征服者と被征服者を厳然と差別した)

  • カエサルによるガリアのローマ化
    • 部族の指導者階級の子弟のホームステイ(人質)
    • 祭司階級を温存(ガリア人の宗教と一般教育をガリア人に任せる)
    • 通商を奨励、鉱山開発の促進(間接税を低く設定)
    • 直接税(十分の一税)の固定化

  • スッラとカエサルの共通点
    1. ローマの名門貴族に属しながら、傍系(家門)の出身
    2. 経済的には恵まれなかったが、当代きっての知性の持ち主で教養人
    3. 背が高く痩せ型、品位ある立ち居振る舞い
    4. 活動の全盛期は40代に入ってから
    5. 私財を蓄えることに無関心
    6. 目的をはっきりさせる性質で、部下の兵士からは慕われ、敬意を払われていた
    7. 元老院にはもはや統治能力がないと見透した(機構改革を目指したスッラと、革新的なカエサル)
    8. 従来の考え方に捕らわれることなく行動はすこぶる大胆(迷わないスッラと、迷うカエサル)

  • カエサルのキャリア(前半)
    • 27歳:神祇官、大隊長
    • 30歳:会計監査官、遠スペイン赴任。帰国後元老院議員になる
    • 35歳:按察官
    • 37歳:最高神祇官
      • 最高神祇官の利点
        1. 宗教面での最高責任者
        2. 同僚をもたない一人きりの公職
        3. 他の公職との兼任が可能
        4. ローマの官職では例外的に、終身職
        5. ローマの官職で唯一、公邸が与えられている
    • 38歳:法務官
    • 39歳:属州総督として遠スペイン赴任。
    • 40歳:三頭政治を結成
    • 41歳:執政官就任
      • 執政官交代勤務のル-ル復活
      • 元老院日報開始
      • ポンペイウスの東方諸国再編成案の実施
      • ユリウス判例法(国家公務員法)施行
      • ユリウス農地法、属州税徴収請負業者法を修正
      • プトレマイオス12世を復位させる
      • 娘ユリアをポンペイウスの後妻に。自身は元老院議員ピソの娘カルプルニアを後妻に迎える
      • 「ヴァティニウス法」可決。ガリアの属州総督になる。
    • 42歳:ガリア戦役1年目
      • ライン河をローマの基本防衛線に明示
    • 43歳:ガリア戦役2年目
    • 44歳:ガリア戦役3年目
      • 三頭による「ルッカ会談」
    • 45歳:ガリア戦役4年目
    • 46歳:ガリア戦役5年目
    • 47歳:ガリア戦役6年目
      • クラッススのパルティア遠征失敗
      • (カエサル派)のクロディウスが(元老院派)ミロに殺害
    • 48歳:ガリア戦役7年目
      • ガリア総決起
      • 元老院派、「行政官法」「ポンペイウス属州総督法」「ポンペイウスのスペイン属州総督任期延長」などで反カエサル体制強化
    • 49歳:ガリア戦役8年目
      • ガリアのローマ化に着手
    • 50歳:北伊属州に戻る


参考文献

  • ジェローム・カルコピーノ「カエサル伝」

本書を引用している文献

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最終更新:2011年08月27日 16:53