冷たい地面へと倒れてしまった。その隣へ碇槍が突き刺さる。
一連の動作中に槍が頬を掠めたせいで、そこからは薄い血が流れた。
「あんたのことが気にいらねえ…」
碇槍の持ち主、そして自分の敵である鬼は顔を歪めながら言った。
その顔は怒りというより、哀れみの色を映している。
当然それに気付かないほど鈍くはない己は、一層の憎しみを込めて睨み上げた。
「んな怖い顔もできるなら、自分が本当にしたいことくらいも、はっきり言え!」
睨みなど一切怖くないといった風に(実際そうなのだろう)、自分の言いたいことばかり言ってくる。
更にきつく睨んでやろうと思ったが、深手を負い力の入らぬ体では限度があった。
ならばせめてと目を逸らせば、相手は碇槍に手をかけたまま目の前に座り込んできた。
「逃げずに言ってみろよ」
近い。これでは逃げ出すこともできない。いや、逃げる気などないのだが。
傍に来たことで無意識にそちらへ視線を流してしまう。
鬼の隻眼と視線が絡み合う。
ふ、と口から息が漏れた。
「……我は…」
何故だろうか。憎い鬼が近くにいるというのに、何故、言葉を発してしまうのか。
鬼の隻眼が柔らかく細められる。次の言葉を急かすように。
言えば負けると頭では分かっているのに、この口は閉じてくれない。
「我のしたいことは…それは……」
唇が震える。
今まで抑えてきたものを言ってしまおうとしている。何と恐ろしいことか。
しかし今更止められない。心の何処かで全て吐き出したいと強く願っているからだ。
「あんたの、本当にしたいことは…?」
この鬼に流されてしまっている。悔しいが、認めざるを得なかった。
あれほど荒れていた心は既に静まっている。
それを感じながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「sage…だ」
最終更新:2006年10月22日 02:20