Oの決意/忘れない約束 ◆SXmcM2fBg6

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        ○ ○ ○


「姐さんを、信じてますから」

 その言葉を最後に、小野寺ユウスケは静かに目を閉じた。
 目の前で、織斑千冬が凶刃を振り上げていたにも拘らず。
 それは決して、自分は殺されないと確信していた訳でも、諦めて死を受け入れた訳でもない。

 ただ、信じたのだ。
 根拠もなにもなく、想いのままに。
 今にも自分を殺そうとする、織斑千冬を信じた。

 “相手が何をしようとも、その上で信じ続けられるのなら――――”

 ユウスケがそうする事が出来たのは、フィリップのその言葉があったからだ。
 ただ信じるのではなく、信じようとする。その決意を知ったからこそ、千冬を信じる事が出来た。

 そうして――――

 いつまでも訪れぬ死に、ゆっくりと瞼を開ける。
 ユウスケに死を齎すはずの凶刃は、彼の身体を切り裂く寸前で止まっている。
 それは、彼が剣を防いだ訳でも、誰かからの妨害があった訳でもない。
 ただ千冬の意志によってのみ、押し止められていた。

「………………千冬さん」

 少し躊躇い、彼女の名を呼び掛けた。
 応えはない。千冬は、剣を押し止めたままの状態で俯いている。
 その胸中に、いかなる感情を懐いているかなど、ユウスケには知る由もない。

 だからユウスケは、千冬の言葉をただ待った。
 そうして、彼には永遠の様にも感じられた、実際には十秒にも満たない時間を経た時、

「………一夏は――弟は私にとって、掛け替えのない、ただ一人の家族だった」

 そう、震える声で口にした。


 その日々は、今でも鮮明に思い出すことが出来る。

 幼い頃、一夏と共に両親に捨てられた。
 その時に誓った。一夏のことは、自分の力のみで守って見せると。
 その想いだけを胸に、ずっと二人で生きてきた。ずっと、一人で守ってきた。

 けれど、子供だけで生き抜けるほど、世間は優しくなんかない。
 守ってくれる親のいない生活は、ただ生きていく事さえ辛く、苦しかった。
 それでも、立った一人の家族を守るために、必死に生き抜いてきた。
 何度挫けそうに、諦めそうになっても、その度に立ち上がった。
 私にとって一夏は、それほどに大切な存在だった。

 だから一夏がISについて知る事を、徹底的に禁じた。
 私とISの開発者である篠ノ之束は、小学校以来の旧友だ。
 ISの技術を欲しがる連中が彼の存在を知ったら、間違いなく利用されるだろう。
 その可能性を少しでも減らすために、そもそもISに近付けない事にしたのだ。

 だが、それでも甘い考えだったらしい。
 第二回モンド・グロッソの開催中、一夏が誘拐された。
 それを知った私は、迷うことなく大会を投げ出して一夏を助け出した。
 その代価は、情報を提供したドイツ軍に、一年間教官として着任する事だった。
 一夏のいない日々は寂しかったが、鍛えがいのある部下と、一夏との思い出を糧にすごして来れた。

 着任期間が過ぎた後も、一夏の待つ家にはあまり帰らなかった。
 心のどこかに、守れなかったという、後ろめたさがあったのだろう。
 それでも家に帰り、一夏と共にいた穏やかな時間は、何よりの至福だった。

 そうしてどのような思惑があったのか。
 そもそも誰かの思惑自体があったのか。
 とにかく、一夏がIS学園に通う事となった。
 それも、よりにもよって世界で唯一の男のIS操縦者として。

 その事に最初は苦々しい思いをしたが、すぐに思い直した。
 IS学園には、いかなる国家や組織であろうと、学園の関係者に対して一切の干渉が許されないという国際規約がある。
 この学園に在籍している限りは、私の教師としての権限が許される限り、直接守る事が出来るからだ。
 それにその範囲を超えたとしても、いざという時は全てを振り切って守るつもりでもいた。
 だから教師として許される範囲で、可能な限り一夏を鍛え、助言を与えてきた。
 代わりに私的な時間は短くなったが、傍にいられることは嬉しかった。

 だから一刻も早く、一夏と合流したかった。
 一目でもいいから無事な姿を見て、安心したかった。
 全てが元通りとまではいかなくても、あの日常に帰りたかった。
 それなのに――――


「私は一夏を守ると誓った。
 例え何が相手でも、この身を盾にしてでも、守り切って見せると。
 その為なら、悪魔になっても構わなかった。一夏に嫌われても、それでも良かった」

 千冬が、ゆっくりと顔を上げる。
 その表情は、今にも溢れそうな涙を堪え、歪んでいた。
 その姿には、ユウスケが見た凛とした覇気はなく、まるで独り泣き崩れる少女のようだった。

「けれど、お前は一夏に似ていた。一夏の様に、誰かを守るために、勝てぬと解っている相手に立ち向かっていった」

 千冬が殺し合いに乗り、剣を執ったのは、全て一夏が理由だった。
 だからこそ、少しでも一夏の面影を重ねていたユウスケを、千冬は無視する事が出来なかった。

 彼女自身もそうなる事は予測できていた。
 故に感情を凍らせ、言葉を封じ、誰かを殺す事によって覚悟を決めようとした。
 それが崩されたのは、黒い騎士が現れたからだった。
 弟の愛機が見知らぬ他人に扱われるのを見て、頭に血が上らないはずがなかった。

 それでもうダメだった。
 必死に凍らせた感情が溶けたまま、弟の面影を残すユウスケと相対する事になった。
 千冬がユウスケとの会話に応じたのはそのためだ。
 もし感情を凍らしたまま相対していれば、千冬は即座に逃げ出して、他の誰かを殺すことで覚悟を決めただろう。

「お前になら、良かった。お前になら殺されてもいいと、そう思った。
 それなのにお前は、戦うことを拒絶した………ッ」

 それが、千冬がユウスケにコアメダルを渡した理由。
 せめて対等であればと、ユウスケを一方的に殺すことを嫌ったのだ。
 対等でさえあれば、あるいは戦いを理由にユウスケを殺せたかもしれなかった。

 けれどそうはならなかった。
 ユウスケは戦いを拒絶し、千冬は無抵抗な彼を殺さなければならなかった。
 そしてそれを成す事が、千冬には出来なかった。

「私に一夏(お前)を、殺せるはずがないだろう――――ッッ!!!!」

 千冬は剣を取り落とし、両膝を突いて力無く崩れ落ちた。
 彼女の手が血に汚れる事はなく、誰かが死ぬ事もなく、ただ傷跡だけを残して。
 織斑千冬の懐いた、たった一人の家族を蘇らせるという願いが、当たり前の様に潰えただけだった。

 ――――それがこの、戦いにすらならなかった戦いの結末だった。

 千冬は涙を零さず、声も漏らさずに泣き崩れている。
 そんな彼女に掛ける言葉を、ユウスケは見つけられなかった。

「――――――――」
 同じように、大切な人を亡くしたからこそ解る。
 今の彼女に対して安易な慰めをしても、より傷つける結果にしかならない。
 ましてや「気持ちはわかる」などとは、決して口にしてはならない言葉だ。

 それでも、放っておくことは出来なかった。
 彼女が悲しむ姿を、見ていたくはなかった。
 勝手な願望だとわかっていても、彼女に笑って欲しかった。

「千冬さん………俺は――――」
 だから必死に探しだして、ようやく紡いだ言葉は、

「あ~あ。つまんない」

 くだらない三文劇を見た感想の様な言葉に遮られた。
 思わず声の聞こえた方へと振り返れば、そこには赤いグリードの姿があった。


        ○ ○ ○


 それは、避け得ぬはずの結末を前に、叫び声を上げるしかなかった、直後のことだった。

「ッ――――!」
 千冬の剣が止まると同時に、令呪の呪縛によって強制的にバーサーカーの動きも止まった。
 それを見たアストレアは全速力でバーサーカーへと体当たりし、二人から引き離して押さえ込む。
 令呪で縛られていたバーサーカーにそれに対抗する術はなく、あっけなく地面へと突っ伏すこととなった。

「良かった……!」
「おっしゃあ! 心配したぜユウスケ!」

 Wもその一連の出来事に、喝采の声を上げる。
 さすがにあの瞬間はダメだったのかと諦めも過ぎった。
 しかし千冬の剣が押し止められたのを見て、やはりユウスケに任せて良かったと思った。
 これで全てが解決したわけではないが、それでも喜ばずに入られなかった。

 だがその結末に、不服を漏らすものが一人だけいた。

「あ~あ。つまんない」

 その声に振り返れば、先程までWと戦っていたアンクが、子供のように地面を蹴っていた。
 彼は期待ハズレとでも言いたげな様子で、その言葉通りにつまらなそうにしている。

「おい。そりゃどういう意味だ」
「どうって、そのままの意味だけど?
 せっかく先回りをしてセルメダルを使ってまで嗾けたのに、結局誰も殺せずに終わるんだもん」
「先回りして、嗾ける……?」

 それは一体どういう意味なのか、という疑問が、思わず口を衝いて出る。
 その様子にアンクは、いたずらが成功した子供のように笑った。
 アンクはそのまま一本のガイアメモリを取り出した。

「わからない? いいよ、教えてあげる」
《――DUMMY――》

 そのガイアウィスパーと共に、アンクの体が一瞬ドーパントになり、すぐに別の人物へと成り代わる。
 その幼さを残す身体、腰まで届く銀髪、左眼を隠す眼帯は、紛れもなくラウラ・ボーデヴィッヒの物だった。
 その姿を見て、千冬は驚愕に目を見開いた。

「ボーデ……ヴィッヒ? ――まさか!」
「ええ、その通りです教官。病院にいたのは私です。
 ですが、あなたには失望しましたよ。バーサーカーを相手にしたのであればまだしも、無抵抗の人間一人殺せないとは。
 これではアルファーに期待するしかありませんね」
「アルファーって……あんた、イカロス先輩に何をしたんですか!?」
「何をなどと、決まっているじゃないか、アストレア」
「ッッ――――――! お前……!」

 アンクがラウラ・ボーデヴィッヒから、今度は桜井智樹へと姿を変えながらそう告げる。
 その言葉に、アストレアはバーサーカーを抑えるのも忘れて激昂し立ち上がった。
 だか少しでも情報を得るために、フィリップがアストレアを遮って疑問を投げかける。

「二つほど質問がある。
 一つ目は、君たちは何故こんな殺し合いを始めた? 真木清人は何を企んでいる?」
「さぁね。僕たちはただ、協力して欲しいって言われただけだからね。ドクターが何を考えているかなんて知らないよ」
「そうか。では二つ目だ。
 君は何故わざわざダミーの事を僕たちに教えたんだ? 隠しておいた方が間違いなく有利だというのに」
「ああ、それはね、この状況じゃあ君たちに出し惜しみして逃げ切ることは難しいし、何より」
 アンクはそこで言葉を切ると、アストレアと千冬を見下すように眺める。

 そう。今この状況において、アンクは絶対の窮地にいる。
 ほぼ無傷のエンジェロイドに仮面ライダー。場合によってはバーサーカーも敵となる。
 単純な戦闘能力では、アンクには覆し得ない戦力差だ。出し惜しみをする余裕などあるはずがない。

 アイリスフィールに“偽装”してのバーサーカーの引き入れの失敗。
 そしてラウラに“偽装”しての千冬の復讐鬼化も失敗。
 この上出し惜しみする余裕もないとなれば、

「つまらないじゃないか。それくらいのドッキリがないと」

 せめてこれくらいの喜劇がないと割に合わない。
 そう、本物の桜井智樹には有り得ない、歪んだ笑い顔を浮かべてそう言った。

 実際その思惑通りに、千冬は悲しみに沈んでいたはずの感情を混乱させ、アストレアは怒りを露にしている。
 この状況が終われば、千冬はともかく、アストレアはイカロスを捜し求めるだろう。
 そしてアストレアとイカロスが遭遇した時、仲間同士で殺しあうことになるのだ。

 アンクがダミーによる“偽装”を明かしたのは、そういう思惑もあってのことだった。
 問題は、この絶体絶命の状況をどう乗り切るかだ。
 たとえ思惑通りに進行しても、自分が倒されてしまっては意味がないのだから。
 故にアンクは、もう一つの思惑も同時に進行させていた。
 そしてその思惑通りに、事は進み始めていた。

「ふざけるなこのやろ――――ッッ!!」
「■■■■■■■■――――ッ!」

 怒りを抑えきれなくなり、アストレアがアンクへと飛び上がる。
 それに呼応するようにバーサーカーも咆哮を上げ、挟み討つようにアンクへと襲い掛かる。

「その人は、お前なんかがマネしていい人じゃない……!」

 アンクが“偽装”した桜井智樹の浮かべた笑い顔。
 それはアストレアにとって、思い出を踏み躙られたに等しかった。
 ましてや相手は、その顔でイカロスまで利用したのだ。許せるはずもない。

「その人の顔で……その人の声で喋るな……!
 お前なんか、真っ二つにしてやる!!」

 全速力で飛翔し、ほとんど一瞬でアンクへと迫る。
 桜井智樹に“偽装”したアンクに、振り上げたクリュサオルを防ぐ力はない。
 仮にこの一撃を避けたとしても、すぐにバーサーカーの追撃が入る。

「お前なんか――――ッッ!!」

 極光の剣が振り下ろされる。
 まともに受ければ、一撃で死に至りかねない一撃。
 だというのに、アンクは笑い顔を崩さず、再びガイアメモリを取り出し、

《――ZONE――》
「へ? ――――アウッ!?」

 次の瞬間には、アストレアの眼前からアンクは消え、代わりにバーサーカーが一瞬で接近していた。
 全速力を出していたアストレアには、咄嗟に回避することも出来ずに、バーサーカーと激突することとなった。
 その直後、今度はどこからか現れた鎖によって、バーサーカー諸共に拘束された。

「いったい、なにがおきたの……?」

 何が起こったのか、まったく理解できなかった。
 しかも鎖に拘束され、動くことも出来ない。
 せめて消えたアンクだけでも探そうと、唯一自由な首を巡らせる。
 するとそこには、ピラミッドのような形状から、赤いグリードへと戻ったアンクの姿があった。

「ふう、上手くいった。君がバカで助かったよ」

 そう言ってアンクは、自らの策の成功を喜んだ。
 その手には、Wの持つものと同じ形をしたガイアメモリ、『T2ゾーン』が握られていた。
 それを見たフィリップは、驚きに声を上げる。

「まさか、ガイアメモリを二本持っていたなんて! それもT2を……!」
「だれも一本しか持ってないなんて言ってないでしょ?」

 まずダミーで桜井智樹に“偽装”し、アストレアを挑発する。
 次に挑発に乗って突っ込んできたアストレアを、ゾーンによる転移でバーサーカーのところへ跳ばす。
 最後に、神をも拘束する対神宝具“天の鎖”によって、アストレアとバーサーカーを纏めて封じる。
 それがアンクの考えた策であり、ダミーの存在を明かした、もう一つの理由だった。

 彼が最初にバーサーカーから逃げていた時に“天の鎖”を使わなかったのは、制限からか、一度に拘束できる人数は基本的に一人だけだからだ。
 あの状況下では、バーサーカーを拘束したところで、すぐにアストレアに開放されるだけだった。
 しかし、ある一定の条件化でならば、二人以上拘束できるのだ。すなわち、複数の対象が密着している状態だ。
 つまりは、拘束対象と定めた一人に巻き込む形でのみ、複数人数を拘束できるのだ。

「こんな鎖なんて―――!」

 しかし“天の鎖”は本来神を律する為のものだ。その真価は、神性をもつ存在を拘束した時にこそ発揮される。
 だがそうでない場合、“天の鎖”はただの頑丈な鎖でしかない。
 故にアストレアは鎖を引きちぎろうと力を籠めるが、

「それに、拘束が一つだけとも言ってない」
《――SPIDER――》
「なッ…………!?」

 アンクが取り出した支給品が、ワイヤーを放ちアストレアを更に拘束する。
 支給品の名はスパイダーショック。Wが用いる、ギジメモリを使ったメモリガジェットだ。
 そのドーパントさえも拘束するワイヤーは、“天の鎖”と相まってアストレアの動きを完全に封じた。

「これで戦えるのは、もう君たちだけだね」
「ッ――――――!」

 最大戦力の二人が戦闘不能となった今、まともに戦えるのはWだけとなった。
 千冬は戦意を喪失し、ユウスケはセルメダルの残量がない。
 そしてアンクにとって、Wは敵にはなりえなかった。
 その理由が、これだ。

《――DUMMY――》

 ダミーのガイアウィスパーと共に、アンクの姿が変わる。
 現れたのは、黒いレザージャケットに、青いエクステの入った髪の青年。
 かつて風都に絶望を齎した悪魔。生ける死者の傭兵。

「大道……克己ッ!」
「マジかよ……ッ!」

 彼らはダミーの能力を知るが故に、アンクの狙いを理解したのだ。
 青年はそれを嘲笑うかのように右手に握られたガイアメモリを、腰のロストドライバーへと挿入する。

「変身」
《――ETERNAL――》

 そうして表れる、白い装甲に黒いマントを纏った、悪の仮面ライダーエターナル。
 その姿を見た二人は、己が敗北を予感する。
 しかし、だからと言って諦める訳にはいかない。

「まずい! 翔太郎!」
「わかってるって!」

 Wはエターナルが動くよりも早く、トリガーマグナムの引き金を引く。
 だが妨害のために放った光弾はエターナルローブによって防がれ、エターナルへと届くことはなかった。
 アンクは見せ付けるようにメモリをエターナルエッジへと挿入し、

「さぁ、地獄を楽しみな」
《――ETERNAL・MAXIMUM DRIVE――》

 発動されるエターナルのマキシマムドライブ。
 エターナルのマキシマムドライブには、T2以前のガイアメモリを停止させる力がある。
 そして今のWに、その力に抗う術はなかった。

「がぁッ――――!」
「ぐぅッ…………!」

 Wの持つガイアメモリがその機能を失い、強制的に変身が解除される。
 それにより翔太郎は地面に倒れ、フィリップの意識は彼の肉体に送還される。

「くそぉ……!」
「このままでは……!」
 アストレアとバーサーカーは拘束され、身動きが取れない。
 千冬は戦意を喪失し、ユウスケにはセルメダルが残っていない。
 Wが戦えなくなった今、アンクと戦えるものは誰もいなくなってしまった。

 その絶望的な状況を前に、翔太郎とフィリップが悔しさのあまりに声を上げる。
 ただの人間に、真正面から仮面ライダーに勝つことはほとんど不可能だ。
 ましてや相手がエターナルともなれば、凌ぐことさえ難しい。

「これで終わりだ。
 お前たちには、俺が勝ち残るための糧になってもらう」
 エターナルへと変身したアンクは、翔太郎たちの下へと近づく。
 先程とは一転して、今度は翔太郎たちが絶体絶命となる。
 それでも諦めまいと、翔太郎は立ち上がろうとする。

 だがそれよりも早く、エターナルと相対する人影があった。

「……どういうつもりだ?」
「お前……!」

 エターナルは思わず歩みを止め、目の前の青年を睨む。
 そこには小野寺ユウスケが、その背にいる者全てを守るように立ちはだかっていた。


        ○ ○ ○


 バーサーカーと一纏めに拘束されたアストレアは、拘束を引き千切ろうと力を籠める。
 だが鎖とワイヤーによる二重の拘束は、さすがのアストレアでも破れず、彼女の息を切らすだけに終わった。

「う……動けない………」

 あるいはバーサーカーならば引きちぎる事が出来たかもしれない。だがそこでバーサーカーに掛けられた令呪が枷となっていた。
 バーサーカーが鎖を引きちぎろうとすれば、どうしてもアストレアへの拘束が強くなる。
 それが“害意のない者への攻撃”と判断され、バーサーカーは動くことが出来ずにいたのだ。
 結果、彼女たちは今なお拘束されたまま、何も出来ないまま事の成り行きを見守る事しかできなかった。


 ユウスケがその覚悟を決めたのは、そんな彼女たちを見たからでもあった。
 戦える者のいない状況。決して勝てないだろう強敵。――――守りたいと願う人。
 投げ捨てたコアメダルを探そうにも、Wが敗れた今、探している余裕はない。
 そんな状況を前にして、ユウスケは迷うことなく立ち上がった。
 それが、彼の仮面ライダーとしての覚悟だったからだ。

「小野寺……?」

 そんなユウスケに、千冬が声をかける。
 今の千冬は、懐いた願いが破れたことと、彼女の教え子に扮したアンクによって完全に戦意を失っている。
 彼女の助けがあれば心強いが、それは望めないだろう。
 それに何より、彼女を危険に晒したくなかった。

 そうしてユウスケは一人、エターナルへと立ち塞がった。
 そのあまりに無謀な行動に、アンクは思わず眉を顰め、翔太郎とフィリップが声を荒げる。

「それは何の冗談だ? 小野寺ユウスケ」
「無茶は止めるんだ! 生身で勝てる相手じゃない!」
「コイツは俺とフィリップでなんとかするから、お前は千冬さんを連れて逃げろ!」

 二人の制止の声に、ユウスケは思わず笑った。
 しかし、変身出来ないのは彼らとて同じはずだ。彼らにだって勝てる道理はない。
 それなのに、自分達が何とかすると言っているのだから矛盾している。
 けどそれなら、自分が囮になってもいい筈だ。

「逃げないよ。翔太郎たちの方こそ、千冬さんを連れて逃げてくれ」
「馬鹿言うな! そんな事できる訳ねぇだろ!」
「俺だってそうだよ。翔太郎たちを放って逃げることなんて出来ない」
「な――――!」

 翔太郎が言葉を途切れさせると同時に、より前へと歩いてエターナルと相対する。
 変身出来ない今、自身に勝機が無い事は当然彼も理解している。
 それでも立ち向かうのは、守りたい人がいるからだ。
 だからユウスケは、一切の躊躇いを見せずにエターナルと挑んだ。

「だからお前は……ここで倒す」
「出来ると思っているのか? 変身出来ないお前に」
「出来るかどうかじゃない。やらなくちゃいけないんだ!」

 ユウスケは叫ぶと同時に勢い良く踏み出し、エターナルへと生身の拳を振り被る。
 対するエターナルは、当然の様に拳を受け止め、ユウスケに膝を打ち込む。

「グフッ………、っく―――おッ!」
 腹部に受けた一撃にあっさりと蹴り飛ばされ、強い吐き気を覚えながらも立ち上がる。
 それを見たエターナルは、ユウスケの覚悟を悟って軽く鼻を鳴らす。

「どうやら、本気らしいな。だったら遊んでやるよ」
「ッア――――!」

 一息に迫ってきたエターナルへと、ユウスケは苦し紛れのカウンターを繰り出す。
 そんな一撃がエターナルに通用するはずもなく、反撃の拳は容易く掻い潜られ、その胸部にショルダータックルを受けた。

「、ァ…………ッ」

 その衝撃に、一瞬呼吸が止まった。
 そのまま再び弾き飛ばされ、地面に落ちた衝撃で息を吹き返す。
 咳き込みながらも、呼吸を整えて立ち上がる。

「ハア――――!」
「そら。もう一度だ!」

 エターナルへと再び拳を振り抜くが、あっさりと受け流され転ばされる。
 即座に立ち上がり蹴りを入れるが、受け止められ、そのまま脚を掴まれ投げ飛ばされる。
 地面に打ち付けられる痛みを噛み殺し、繰り返し立ち上がってエターナルへと殴りかかる。

「オオ………ッ!」
「無駄だ! その程度じゃ、暇つぶしにも――ッ!?」
「俺を忘れるなっつうの!」

 ユウスケの一撃に対応しようとしたエターナルを、翔太郎が横合いから蹴り飛ばす。
 大したダメージにはならないが、それでもエターナルはバランスを崩す。
 そこを咄嗟のコンビネーションで、二人で合わせて蹴り飛ばす。

「翔太郎!?」
「ったく、お前も意外に頑固だな。しゃーねぇから、二人で時間を稼ぐぞ。
 フィリップはあいつらを頼む!」
「わかった。けど翔太郎も油断しないようにね。相手はあのエターナルだ」
「油断する余裕なんてねぇっての」

 翔太郎の指示を受け、フィリップはアストレア達の所へと走る。
 二人でエターナルを押し止めている間に、彼女達を解放するつもりなのだ。
 たとえWに変身できずとも、アストレア達さえ開放できれば勝機はあるはずだ。
 だがエターナルに“偽装”するアンクは、慌てることなくユウスケたちと向き合った。

「無駄なことを。今のお前たちでは決して俺には勝てない。永遠にな」
「そんなこと、やってみなくちゃわかんねぇだろ! 行くぞユウスケ!」
「はい!」

 アストレアとバーサーカーの相手となれば、エターナルとて苦戦は必至だろう。
 だというのにアンクは余裕を崩さない。その自信は、一体どこから来るのか。
 だが他に勝機はないと、翔太郎とユウスケはエターナルへと挑んでいった。


 そうして――――

 翔太郎とユウスケは、数分と持たずに地面に倒れ付していた。
 彼らがいまだに生きている理由は、エターナルが相手を弄るように戦ったからだ。
 そんな“無駄”な事をするのは、やはり本物の大道克己とは違うからだろう。
 それでも生じる力の差を前に、翔太郎は悔しげ聞こえを漏らす。

「くそぉ……! フィリップ、まだかなのか………!」
「このままでは翔太郎たちが……!」
「こんの、解けろぉ……ッ!」

 スパイダーショックは巧みに逃げ、フィリップの手から逃れて捕まえられず、下手をすれば彼の方が捕まりそうになる。
 かといってアストレアがどれだけ力を入れようとも、二重の拘束はビクともしない。
 それがアンクの自信の理由。拘束は決して解けないという確信だった。

「ははは! 無駄な足掻きはよせ。最初に言った通り、お前たちは俺の糧となるんだ」

 そんな彼等を嘲笑しながら、アンクの“偽装”するエターナルが死刑宣告を告げる。
 それに抗う力が、翔太郎たちにはすでになかった。
 だが。

「ユウスケ……」
「諦めの悪いやつだ。そんなにも早く死にたいのか?」

 小野寺ユウスケが、再びエターナルの前に立ち塞がる。
 彼の体はまだ、ウェザーから受けたダメージは癒えていない。
 いかにエターナルが遊んでいたとはいえ、蓄積されたダメージは翔太郎以上だろう。
 だというのに、満身創痍のその身体の、一体どこから立ち上がる力が湧き出てくるのか。

「もう逃げろ小野寺! 今のお前に敵う相手ではない!」

 その様子を見かねた千冬が、ついに制止の声を叫ぶ。
 彼女はユウスケが倒される姿を、見たくなどなかった。
 だがユウスケは頭を振ってそれを拒否した。

「逃げません。千冬さんや翔太郎たちを置いて逃げるなんて、出来ません」
「どうして……」
「千冬さんは、立ち向かったじゃないですか。
 俺がウェザーにやられた時、勝てないことは解り切っていたのに」

 一歩、エターナルへと踏み出す。
 あの時に見た光景を、今度は自分自身で再現するように。

「だから俺、あの時に立ち上がれたんです。
 あの時の千冬さんの背中を見たから、ウェザーに立ち向かえたんです」

 もし彼女が立ち向かわなかったら、今頃俺は立ち上がれず、ウェザーに殺されていただろう。
 そうならずにウェザーを撃退することが出来たのは、全て千冬のお陰だった。

「俺が一夏さんに似ているとしたら、きっとそのせいですよ。
 一夏さんはずっと、そんな千冬さんの背中を見て育ったんです。
 だから千冬さんの背中を見て立ち上がった俺が、一夏さんに似たのは当然です」

 千冬の弟だという一夏のことを、ユウスケはまったく知らない。
 それでも、イメージすることは出来る。彼が何を見て育ち、どんな思いを懐いて生きてきたかを想像できる。
 けれど。

「けど俺は、決して一夏さんにはなれません。
 千冬さんが姐さんに、八代警視になれないように」
「ッ………………!」

 言って、エターナルへと挑みかかる。
 振りかぶった拳は当然のように避わされ、お返しとばかりに殴り飛ばされる。
 とっさに腕で受けたところで、防ぎきれるような一撃ではない。

「ッ……、それでも、千冬さんのお陰なんです!
 千冬さんのお陰で、姐さんとの約束を思い出せたんです……!」

 それでも立ち上がる。立ち上がって、勝てない敵へと立ち向かう。
 だって、約束があったから。貫くと誓った、決意があったから。

「それに俺、クウガだから。だから、戦います」

 だから、何度打ちのめされても立ち上がる。
 生きている限り、意地でも相手に食らい付く。
 守るべき人がいる限り、諦めるわけにはいかない。

 その胸にあるのは、怒り。
 人の心を利用し、踏みにじる外道に対する激情。
 そして強く懐いた、誓い。
 今は亡き人と交わし、守り抜くと誓った約束。
 その手に握るのは、意志。
 みんなの笑顔のために掲げた、誰かを守る拳。

「こんな奴らの為に、これ以上誰かの涙は見たくない! みんなに笑顔でいて欲しいんです!」

 いつの間に見つけ出したのか、ユウスケの手には、彼が投げ捨てたコアメダルが握られていた。
 それは偶然か、あるいは必然か。いずれにせよ、ユウスケは今、戦う力を手に入れたのだ。
 そしてそれに呼応するように、ユウスケの腹部に、赤い光を宿すアークルが現れる。

「だから見てて下さい! 俺の……変身!!」

 そうしてユウスケは、炎の如き赤に包まれ、仮面ライダークウガへと変身した。

「ユウスケ、お前……!」
「あの仮面ライダーは、確か……!」
 その姿に翔太郎は瞠目し、フィリップはある事を思い出した。

「いち……か………?」
 そして千冬はその背中に、もういない、自身の弟の姿を幻視した。

「ウオォリャア……ッ!」
 クウガが拳を振り上げ、エターナルへと打ち抜く。
 エターナルはその拳を受け流し、胴体を殴り飛ばす。
 その一撃に弾き飛ばされるが、すぐに立ち上がって拳を構える。

 変身前と比べ、ダメージは格段に少ない。
 加えてコアメダルを使用した瞬間から、鞘による治癒も行われている。
 ……戦える。勝てるかまではわからないが、エターナルと戦うことが出来る。

「ふん。遊びは終わりだ!」
 エターナルが始めてエターナルエッジを構える。それは即ち、彼の本気の表れに他ならない。
 アンクは感じ取ったのだ。ユウスケが変身した瞬間から、戦いの流れが変わり始めていることに。
 故に、少しでも早く、仮面ライダークウガを倒す必要があると判断したのだ。

「オリャアッ!」
 クウガが飛び上がり、その拳を打ち下ろす。
 エターナルはその一撃を半身になって避け、出来た隙にエターナルエッジを薙ぎ払う。
「フン……!」
 そこから追撃に、払った勢いを利用して回し蹴りを叩き込む。
 クウガは防ぐことも出来ずに、一期は強く蹴り飛ばされる。

「ガァ……ッ、く――オ……ッ!」
 それでも立ち上がる。
 多少のダメージは、聖剣の鞘の力ですぐに回復していく。
 その分メダル――その代用分を消費して変身時間が減るのは困るが、それでも簡単に倒されることはない。

「小野寺、お前……」
 すぐ近くで、千冬さんの声が聞こえた。
 どうやら彼女の傍に蹴り飛ばされたらしい。
 なら丁度いいと、あの時言い損ねた言葉を口にした。

「千冬さん……俺にも、大事な人がいました。
 俺はその人に褒めて貰いたくて、笑顔になって欲しくてクウガになりました。
 その人が言ってくれたんです。笑顔のために戦えば、俺はもっと強くなれるって」

 その言葉が、立ち上がる力をくれる。
 その約束が、立ち向かう勇気をくれる。
 その願いが、俺をもっと強くしてくれる。

「だから笑ってください、千冬さん。
 俺に、千冬さんの笑顔を見せてください。
 それまでは俺が、千冬さんを守ってみせます……!」

「あ…………」
 その言葉に何を思ったのか、千冬が茫然と声を漏らす。
 それを背中に聞きながら、地面に取り落とされたままの剣を取る。
 エターナルの攻撃は強烈だ。このままではすぐに代用分がなくなってしまう。
 ならば必要なのは鎧。あらゆる攻撃を寄せ付けぬ鉄壁の守り。
 故に。

「―――超変身!」
 アダマムの光が、赤から紫へと変わる。
 それに伴いクウガの赤い身体が、銀色をした鋼の鎧を纏う。
 更にその手に握った剣が、紫の刀身に金の装飾を持つ大剣へと変形する。

 クウガの持つ四つの形態の一つ、タイタンフォーム。
 守りを主体としたこの形態は、俊敏性の代わりに高い防御力を誇る。
 この形態であれば、エターナルの攻撃にも耐えることが出来るだろう。

「ハッ、それで何が変わる!」
 一歩ずつ着実に近づいてくるクウガに、エターナルが飛び上がって拳を振り下ろす。
 その一撃を敢えて防がず、受け止める。が、その威力に数歩分後ずさる。
 しかし狙い通り殴り飛ばされる事はなく、ダメージも減少している。
 大地を踏み締め、再度一歩、前へと踏み込む。

「チィッ―――!」
「ヅ………ッ!」
 今度はエターナルエッジで切り払われる。
 その斬撃は流石に防ぎきれず、鋼の鎧に切り傷が残る。
 だが、クウガの装甲は肉体の延長。鞘の力によって、即座に修復される。
 タイタンソードを両手に構え、更に一歩近づく。

「これならどうだ!」
 エターナルエッジによる、捻じ切る様な突きが放たれる。
 流石にそれを受ける訳にはいかず、タイタンソードで受け止める。
 だがそこで終わらず、相手の一撃を受け流し、捌いてバランスを崩させる。
 そしてようやく出来た隙へと、タイタンソードを薙ぎ払う。

「ハア――――ッ!」
「グオ………ッ!?」
 一撃。エターナルへと、ようやく一撃を返す。
 この機を逃す訳にはいかないと、一息に踏み込み、タイタンソードを振り抜く。
 だがエターナルはその一撃をエターナルローブで捌き、追撃の一閃をエターナルエッジで受け止め、鍔迫り合う。

 ここでタイタンフォームの弱点が露呈する。
 俊敏さに劣るタイタンフォームでは、エターナルの速度に追いつけない。
 一度でも距離を取られれば、この機は二度と訪れないだろう。

 つまり、鍔迫り合いが解けた瞬間に一撃を叩き込まなければ、敗北が確定するのだ。

「オオオオオオ―――ッ!」
「グ、ヌウウウ………ッ!」

 僅かでも攻めの利を得ようと、迫り合う腕に力を籠める。
 単純な腕力ならば、クウガ・タイタンフォームとエターナルの腕力は互角だ。
 ならば勝敗を決めるのは、意志の強さに他ならない。
 そして今のユウスケの意志の強さに、戯れに戦っていたアンクが及ぶべくもなく。

「オオォオリャアァ――――ッッ!!」
「づおっ………ッ!?」
 クウガはエターナルを押し切り、力尽くでその体勢を突き崩す。
 その絶対の隙に、渾身の力を籠めてタイタンソードを薙ぎ払う。しかし――――

「なめる、なあ――――ッ!!」

 エターナルは崩れた体制のまま、無理矢理に体を回転させる。
 それにより舞い上がったエターナルローブがタイタンソードに絡みつき、強制的に剣筋をズラす。
 そうやって一撃を凌いだエターナルは、そのまま回転に勢いを乗せ、クウガに空跳び回し蹴りを叩き込む。
 その衝撃に、溜まらずクウガはたたらを踏んで後ずさる。

「グッ……! しまった……!」
 不完全な体勢で放たれたその一撃に、大した威力は乗っていない。
 だが、それによってエターナルとの距離が開いてしまった。
 速度のない今のクウガに、エターナルに追い縋る事は出来ない。
 鍔迫り合いの勝敗を分けたのは、力ではなく技。
 アンクが“偽装”した大道克己の戦闘技術によって、辛くも勝利を勝ち取ったのだ。

 ――――だがそれは、この戦いの勝利を意味するものでは、決してない。

「ベルトを狙え! 小野寺ユウスケ!」

 その声が響いたのは、クウガが追い縋ろうと駆け出し、それをさせまいとエターナルが後退しようとした、まさにその時だった。
 ユウスケはその誰のものかも判らぬ指示に即座に従い、タイタンソードを腰溜めに構えて突進する。

《――SKULL・MAXIMUM DRIVE――》

 それに合わせる様に響くガイアウィスパー。
 直後に放たれた光弾はエターナルを正確に打ち抜き、その行動を阻害する。
 その最後の好機を確かに捉え、タイタンソードの切っ先がエターナルのロストドライバーへと突き刺さる。

「グアァ………ッ!!」

 その一撃でエターナルは弾き飛ばされ、メダルを零しながら地面を転げまわる。
 同時にドライバーを破壊されたエターナルの変身も、強制的に解除される。
 そして生身となったアンクが、大道克己の“偽装”を解きながら立ち上がろうとするが。

「動くな。そこまでだグリード」
「ッ…………!」

 その背中に、銃口が突き付けられる。
 いつの間にそこにいたのか、アンクには全く気付く事が出来なかった。
 アンクの背後には、仮面ライダースカルがスカルマグナムを構えて佇んでいた。


 その姿を見た翔太郎とフィリップは、思わず目を見開く。
 スカルは彼等にとって、強い因縁のある仮面ライダーだからだ。

「スカル!? まさか、鳴海壮吉!?」
「いや、おやっさんじゃねぇ。あのスカルは帽子をしてねぇ」
「確かに。では一体誰が……」

 アンクにマグナムを突き付けるスカルには、鳴海壮吉のトレードマークであるソフト帽がなかった。
 では誰かという疑問が浮かび上がるが、その答えはすぐに与えられた。

「その声、切嗣でしょ!? 来るの遅いよ!」
「コメンゴメン、アストレア。ちょっと到着が遅れてね」

 スカルの正体を察したアストレアの声に、スカルは頭部のみを変身解除して正体を明かす。
 そして彼女の予測通り、その正体は衛宮切嗣だった。
 拘束されたまま怒るアストレアに、切嗣は恐縮したように謝る。
 その間もアンクに突き付けたスカルマグナムの銃口は、微塵も揺らいでいない。

「それに、正面切っての戦いは僕の流儀じゃなくてね。
 だから遅れた分、必勝の機を狙わせてもらったよ」

 切嗣が到着したのは、アンクがエターナルへと変身した、まさにその瞬間だった。
 彼等の窮地を見てとった切嗣は、エターナルの能力を把握するために隠れ潜んだのだ。
 そこにはエターナルが彼等を弄る様から、すぐに殺される事はないだろうと判断したのもある。
 そしてこの上ない絶好のタイミングでアンク強襲し、その背中に銃口を突き付ける事に成功したのだ。

「さぁ、知っている事を全部吐いてもらおうか。さもなくば」
 お前を殺すと、言外に告げる。
 切嗣のその言葉に、一切の嘘はない。
 彼はアンクが少しでも躊躇えば、その引き金を引くだろう。
 だが全てを吐いた所で、切嗣は引き金を引くだろうことも、アンクは予想していた。
 故に――――

「殺されるのは嫌だね」
「く………ッ!」
 アンクの背中から、前触れもなく極彩色の翼が現れる。
 その翼は背後にいた切嗣へと強襲し、一瞬の隙を作りだす。

《――ZONE――》

 その隙にゾーン・ドーパントへと変身し、その能力で自身を限界まで転移させて離脱する。
 あるいは、切嗣がもう少し早く到着していれば、ゾーンの“転移”も含めた対処が出来ただろう。
 だがアンクがゾーンメモリを持つことを知らなかった切嗣は、アンクを見失い逃してしまった。

 代わりにアストレア達の元へと向き直れば、彼女達は拘束から脱していた。
 “天の鎖”が所有者がいなくなったことで力を失い、ただの鎖と同じになったのだ。
 そしてワイヤーだけで拘束できる程アストレアの力は弱くなく、スパイダーショックもほどなく捕まった。
 つまり、この戦いは決着のつかないままに終わったのだ。

「………逃したか」

 アンクを完全に見失った事を理解した切嗣は、そう呟いてスカルへの変身を解除する。
 そうして今度は、ユウスケ達の方へと向き直った。
 上手く、彼らの協力を得られる事を願いながら。


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最終更新:2012年10月21日 15:16