迷いと決意と抱いた祈り(後編) ◆SXmcM2fBg6
○ ○ ○
アクセル達とオーズの戦いは、ほとんど前回の焼き直しだった。
もとより攻撃が制限され、今のオーズに有効な攻撃を乱用できないのだから、それも当然だろう。
彼らの戦いは、如何にして必殺の一撃を叩き込み、情勢を傾けるかにかかっていた。
「セアッ!」
「ハァッ!」
アクセルとディケイドが入れ替わり立ち代りに、嵐のような攻撃をオーズへと繰り出す。
オーズは飛行能力を有する。再び空へと飛ばれたら、それこそ前回の焼き直しだ。
まともな対空攻撃手段がない今、それだけは避けなければならない。
空を飛べるということは、それだけで圧倒的な有利なのだ。
……だが、例え怒涛の連携攻撃であっても、オーズの動きを止めるには至らない。
全身を刻む攻撃にセルメダルを散らばらせながら、アクセル達へと反撃しそれ以上のセルメダルを奪い取る。
そこに高熱の火球が放たれるが、テイルディバイダーを形成して火球を迎撃し、さらにファイヤーエンブレムへと叩き付ける。
ファイヤーエンブレムはその一撃を受けて弾き飛ばされ、セルメダルをこぼし痛みに呻きながらも即座にオーズから距離をとる。
「クッ……、このままでは埒が開かん」
「ケホッ……。早く打開策を見つけないと、こっちが持たないわよ」
「……………………」
戦いの間隙に乱れた息を整えながら、オーズを止める術を模索する。
あれほどの力を持つ形態であれば、セルメダルの消費量は大きいだろう。
それを削りきるのが最善手ではあるが、このままではこちらのセルメダルが先に尽きてしまう。
戦いの天秤は、着実にオーズの側へと傾いていく。
状況を覆すには、オーズに渾身の“必殺の一撃”を叩き込むしかない。
それを可能とするだけの隙を、どうにか作り出さなければ――――
「オォォオオオォオ――――ッッ!!!」
そう思案するアクセル達に、オーズは咆哮を上げて突撃する。
その咆に陰りはなく、今なお暴虐の意思を示していた。
三人の連携攻撃は小賢しいが、苦戦する程ではない。
ダメージは蓄積されていくが、戦闘行動に支障はない。
セルメダルの消費は激しいが、彼等を屠るには問題ない。
それらの思考を暴走する力が飲み込み、猛り狂う闘争本能に任せて力を振るう。
だがその行動は決して知性のない暴挙ではなく、洗礼された野性による狩りだ。
空へ飛ばずわざわざ地上で戦っているのは、獲物を弱らせ確実に仕留めるため。
空からの攻撃手段が急襲か必殺の砲撃しかない以上、今空に上がる意味はない。
大地を踏み砕く勢いで駆け抜け、アクセル達へと接近する。
今のオーズにとって、彼らの攻撃は脅威にすらなりえない。
ファイヤーエンブレムの放つ炎は冷気を以って相殺した。
アクセルのエンジンブレードの切っ先から放たれたエネルギー弾は打ち落とした。
ディケイドのライドブッカーによる銃撃にいたっては防ぐ必要すらない。
故に彼らにオーズの突撃を止めることは敵わず、その距離が半分まで達した時、
「降りそそげ、天上の矢!」
その声とともに、雨のように降り注ぐ光の矢。
完全な意識外からの攻撃に、オーズは思わず足を止めた。
「竜さん。私も手伝います!」
アクセル達を庇う様に、まどかがオーズと相対する。
それを見たオーズは、様子を伺うように動きを止める。
「何を馬鹿なことを……!」
「竜さん達だけじゃ、オーズさんを止められてないじゃないですか!」
「だが―――!」
「そうね。今は少しでも戦力が必要だわ。
アナタみたいな女の子の力を借りなきゃいけないのは悔しいけど」
「クッ……、仕方ない。だが無茶だけはするな!」
「はい!」
自身の情けなさに苛立ちながらも、アクセルは渋々了承する。
助力が認められたことを喜びながら、まどかは大きな声で返事をした。
そんな彼女達を現実に引き戻すように、ディケイドが冷めた声で戦いを促す。
「協力するのはいいが、無駄話をしている時間はないぞ。セルメダルがもったいない」
戦いが始まってから、すでにそれなりの時間が経っている。
NEXTであるファイヤーエンブレムはともかく、時間経過とともにシグマ算で増加するアクセル達のメダル消費量は、そろそろ無視出来ないものとなってくる。
それはオーズとて同じ事だが、このままではオーズのメダルが尽きる前に、逆にこちらが削り切らされかねない。
「はい、わかってます。早くオーズさんを止めてあげましょう」
ディケイドの言葉にまどかは頷き、改めてオーズを見据える。
彼女の言葉は本当にわかっているのかと聞きたくなるものだったが、戦力になるのなら文句はないので押し黙る。
「……まあいい。さっさとあいつを倒すぞ」
まどかが加わったことで戦力を推し量っているのか、オーズは動く気配を見せない。
これを好機と、アクセルとディケイドは一気に接近する。
「ヴオオォオオ――――ッ!!」
それに反応して、オーズは声を上げて突撃を再開する。
たとえ戦力が測れなくとも、攻めてくるのなら迎え撃つ、ということだろう。
即座に彼らは、僅かに停滞していた攻防を再開させた。
接近戦での二対一の戦いは、それだけで見れば何度か繰り返された攻防だ。
ここにファイヤーエンブレムが加わったところで、オーズの攻め手を一手削るだけにすぎない。
だがここに
鹿目まどかが加わることで、状勢は拮抗を見せ始めた。
「ハアッ!」
「セアッ!」
「オアアッ……!」
アクセルとディケイドが、オーズとお互いの武器をぶつけ合う。
たがオーズの一撃に圧され、堪え切れずに体制を崩してしまう。
そこに力任せの一撃を叩き込もうと、オーズはメダガブリューを振り上げる。
「させない!!」
その瞬間、まどかが数条の光の矢を放ち、オーズの体を射抜く。
だが放たれた矢はその堅牢な外骨格に弾かれ、オーズの攻撃を一瞬阻害することしか出来ない。
それで止まるオーズではないが、その僅かな隙に二人はオーズの間合いから離れ、再度オーズへと挑んでいった。
まどかの放つ光の矢は、ディケイドの銃撃と同じく碌なダメージはない。
しかし魔力をしっかりと篭めることで、衝撃を通すことは可能だった。
つまりオーズの攻撃を、一瞬ながら阻害することが可能となったのだ。
「――――、――――ッ!」
オーズはその本能で、情勢が変わり始めたことを感じ取った。
アクセルとディケイドはまどかの援護によりオーズの一撃を逃れ、少しずつ攻撃を叩き込んでいく。
徐々に当たらなくなる自らの攻撃。入れ替わりに当たり始めた敵の攻撃。
それを前に、オーズは早急に敵を一人減らすことを決意した。
「オアァアアア――――ッ!!」
狙うはファイヤーエンブレム。
彼の炎に相殺されている冷気のブレスを、支障なく使えるようにするためだ。
同じ中距離攻撃のワインドスティンガーは、体の正面にしか攻撃できない性質上、旋回力がない。
撃ち出すときの瞬発力には優れるが、初動作から攻撃が読まれ、回避されやすいのだ。
比べて冷気のブレスは、首を動かすだけで相手を狙える。
瞬間的な威力では劣るが、一対多という状況で、どちらが有用かは言うまでもない。
加えて凍結効果により拘束できれば、強烈な一撃を叩き込むことも難しくはない。
「アアアァァア――――ッ!」
「え、ちょ、ちょっといきなり………!?」
唐突にアクセル達を無視して突進してきたオーズに、ファイヤーエンブレムは驚き戸惑う。
アクセル達の攻撃は容赦なくオーズの体を打ち据えるが、止まる気配はまったくない。
「それなら強烈なのをくれてやる……!」
《――ENGINE・MAXIMUM DRIVE――》
それを好機と、アクセルはエンジンブレードからA字型のエネルギー刃を射出する。
放たれたエーススラッシャーは、ファイヤーエンブレムへと迫るオーズの背中に直撃した。
「ッ、――――――………ッッ!!!」
さすがのオーズもこれには堪らず声を上げ、弾き飛ばされ、セルメダルを撒き散らして倒れ伏す。
「……やったか」
確認の意味を籠めてそう呟く。
完全に無防備な背後からのマキシマムドライブ。普通であれば、この直撃を受けて平気なヤツはいない。
だが―――オーズはゆっくりと、だがふらつく事なく体を起こす。
だがしかし、アクセルに諦めの色はなかった。
マキシマムを受けてまだ立ち上がれることは驚きだが、それはウェザーとて同じ事。
いや、やつはツインマキシマムを受けてなお平然としていたのだ。この程度で諦めるようでは、復讐など敵わない。
「丈夫なヤツだ。あれを受けてまだ立ち上がれるとは」
「ならば、倒れるまで叩き込むだけだ……!」
ディケイドの呆れ声にそう返し、バイクフォームに変形してオーズへと加速する。
オーズが完全に立ち上がる前に、もう一度マキシマムを叩き込むのだ。
「これで、どうだ……!」
《――ACCEL・MAXIMUM DRIVE――》
オーズに接近すると同時に変形を解除し、高熱を纏って後ろ跳び回し蹴りを叩き込む。
これで終わらせる。そんな意思を籠めた渾身のアクセルグランツァーは―――しかし。
「ヴオォォオオァア――――ッッ!!!」
咆哮と共に振り抜かれたメダガブリューによって、その力が乗り切る前に迎撃された。
振り上げられたメダガブリューは、アクセルの高熱を纏う右脚と激突し、より高く跳ね上げる。
それにより渾身のアクセルグランツァーは、オーズの頭上を掠め通り過ぎていった。
「なっ――――――!」
「オァア―――ッ!!」
翻り、振り下ろされるメダガブリュー。
アクセルはとっさにエンジンブレードで防御をするが、必殺技に失敗し、崩れた体制では受けきれない。
ガイン、という激しい音共に、エンジンブレードが弾き飛ばされ、宙を飛ぶ。
これでアクセルは無手。続く一撃を防御する術はない。
「クッ……!」
せめて少しでもダメージを減らそうと、アクセルは完全に崩れた体制のまま後方に飛び退く。
だがオーズにアクセルを逃す気はなく、メダガブリューを振り下ろした結果の体の捻れさえも利用し、テイルディバイダーをアクセルへと叩き込んだ。
「ガッ………!」
オーズの一撃をまともに受けたアクセルは宙を飛ぶ。
彼の弾き飛ばされた先にはビルの壁面があり、激突すれば追加ダメージは免れない。
「竜さん!」
咄嗟にそれを防ごうと、まどかがアクセルの体を受け止める。
それによりまどかとアクセルは、どうにか壁に激突する前に止まる事ができた。
だがそのことに、誰よりもまどか自信が驚いていた。
アクセルの総重量は九十キロを超える。
普通であれば、十四歳の少女に支えられるような重さではない。
ましてや加速がついたアクセルの重さは、いかに魔法少女と言えど受け止めるのは困難だ。
やはり何かが原因で、まどかが直接関わった重力(おもさ)が軽くなっているらしい。
だがその原因を確かめている余裕はない。今はオーズを止めるほうが先決だと思い直す。
「大丈夫ですか? 竜さん」
「……すまない、鹿目。俺は大丈夫だ。それより早くヤツを―――グ!?」
まどかに支えられながらも、再びオーズへと向かって足を踏み出した瞬間、アクセルは足首に奔った痛みに蹲る。
アクセルグランツァーをオーズに迎撃された時、同時に足首にもダメージを受けていたのだ。
「クソッ、これでは……!」
痛みは耐えられない程ではない。無理をすれば、まだ戦うことは可能だろう。
だがあのオーズを相手に、立ち回りの要である足首を痛めた状態で戦うのは、無茶を通り越して無謀だ。
たとえ戦いに向かったところで無様に倒され、セルを奪われるだけ。最悪、足手まといにしかならない。
「一体、どうすればっ………」
眼前では、まだディケイドとファイヤーエンブレムがオーズと戦っている。
だが今のアクセルには、それを傍観することしか出来ない。
その事実に、アクセルは悔しげな声を漏らす。
「竜さん………」
そんなアクセルを見て、まどかはどうにかできないかと思った。
何も出来ない悔しさは、彼女にも覚えがあるものだ。
そこでふと、ある物を思い出した。
「そうだ! 竜さん。これ、使えますか?」
まどかはデイバックからその“ある物”を取り出し、アクセルに手渡す。
それはまどかに支給された用途不明の支給品の内の一つだ。
だがアクセルなら使い方を知っているかもしれないと思ったのだ。
「これは―――!」
アクセルは受け取った支給品とそのメモを見て、これなら何とかなるかもしれないと確信した。
即座に立ち上がり、ドライバーからアクセルメモリを抜き取る。
その支給品を使用することでどうなるかは、彼には判断が付かない。
だが、それにより現状を打開できるのなら、どうなろうと構わないと。
そう覚悟し、アクセルはその支給品にアクセルメモリを差し込んだ。
《――ACCEL・UPGRADE――》
直後。アクセルメモリのイニシャルとDOWNLOAD COMPLETEの文字が浮かび上がり、ガイアウィスパーが響く。
――ガイアメモリ強化アダプター。
それが、G4チップと呼ばれる物と共に、まどかに支給された道具だった。
当初、まどかはガイアメモリを知らず、メモがあってもそれの用途を把握できなかった。
ガイアメモリと聞いてイメージしたのはパソコンなどに使われるメモリばかりで、何をどう強化するのか思い当たらなかったのだ。
だがアクセルがガイアメモリを使用したことにより、そのUSBメモリと似た形状からようやくイメージが繋がったのだ。
アクセルはドライバーに再度アクセルメモリを装填してスロットルを一気に回し、
《――BOOSTER――》
直後、アクセルは赤い装甲を弾け飛ばし、新たな装甲と共に強化変身を果たす。
黄色く輝くその装甲にはバイクフォームになるための車輪がなく、代わりに幾つものブースターが設置されている。
それがアクセルブースターと呼ばれる、“空中戦を可能とする”アクセルの強化形態だった。
「さぁ……振り切るぜ!」
その言葉と共に背面のブースターを起動させ、アクセルは一気に加速する。
向かう先は戦場。オーズ達の向こう側に突き立つエンジンブレードだ。
「どけぇええ―――ッ!!」
「なッ………!?」
「――――――!」
ディケイドとオーズはアクセルの声に振り返るが、高速で突撃してくるアクセルに反応しきれない。
結果としてアクセルは、どうにか軌道を修正してオーズだけを弾き飛ばし、難なくエンジンブレードを回収した。
「お前、その姿は……」
「やるじゃないアンタ」
ディケイドが驚きの、ファイヤーエンブレムが賞賛の声をかけるが、アクセルは黙ったまま、真っ直ぐにオーズを睨んでいる。
対するオーズも、姿の変わったアクセルを唸り声と共に睨みつけている。
これで条件は五分。
戦いの天秤は、ついにアクセル達の方へと傾いた。
「、――――」
「させるか!」
それを覆すためだろう。オーズがついに空へと飛翔する。
アクセルも対抗して全身のブースターを起動し、空へと飛び上がった。
そうして戦場は空中へと移り、戦いはついに佳境へと突入したのだった――――
○ ○ ○
――――その戦いを、物陰から眺める人影が一つあった。
その人物の名は
メズール。
まどかを戦場へと誘った彼女は、まどかから少し送れてこの戦場へとやってきていたのだ。
だが今の彼女に、戦場に出るという選択肢はない。
照井竜と鹿目まどかの二人にそれぞれ別の名前を名乗っている以上、人間態で合流することは愚策だ。
かといって怪人態で出て行くことは、あの場の人間を全て敵に回すことと同意だ。人間態で合流する以上にありえない。
だというのにメズールがこの場を離れないのは、漁夫の利を狙っているわけではない。
そうしようという考えもない訳ではないが、今のメズールにはそれ以上の目的があった。
「仮面ライダー……ディケイド」
確かめるように、小さくその名を口にする。
メズールは微かに、だが確かに感じ取っていたのだ。
ディケイドの持つ、水棲系コアメダルの存在を。
それがある以上、メズールの狙いはディケイドただ一人に絞られる。
問題は、あのディケイドからどうやってコアメダルを奪い返すか、だ。
これは遠くから見ていて気づいた事だが、共に戦うアクセルと比べ、ディケイドは明らかに攻撃を受ける頻度が少ないのだ。
加えて攻撃を受けても、可能な限りダメージが少なくなるように立ち回っている。
これはつまり、ディケイドはオーズを倒した後のことを考え、余力を残しているという証明だ。
これでは漁夫の利を狙おうにも、ディケイドとの戦いが確実に待っている。
セルメダルにしても、まだ連戦をこなせる程度には残っているだろう。
なぜならもしセルが残らないような戦いをしたのであれば、アクセルかオーズ、そのどちらかはすでに倒れているはずだからだ。
彼を前にして仮面ライダーが生きているということは、彼がまだ本気を出していない、ということに他ならない。
事前情報で知り得たディケイドの戦闘能力は、それほどまでに仮借ない。
たとえ今のオーズであっても、勝つことは難しいだろう。
“ならやっぱり、動くのは戦いが終わった時。彼が油断した瞬間ね”
ディケイドが本気を出した時、戦いは終わる。
そうして彼が油断した瞬間に、コアメダルを奪い取るのだ。
問題は、そう都合よくコアメダルを落としてくれるかどうかだ。
強烈なダメージを与えれば確率が上がるとはいえ、コアメダルを落とすかは結局の所運だ。
セルメダルばかりを落として、コアメダルを落とさない可能性もある。
そうなってしまえば、最悪自分の方が倒されかねない。
「だから――期待してるわよ、オーズ」
可能な限り、ディケイドのセルメダルを減らしてちょいうだい、と。
メズールはそう呟きながら、オーズが色の変わったアクセルと共に、空へと飛び上がる光景を眺めていた。
○ ○ ○
ブースターによる強引な飛行の難しさに手間取りながら、アクセルはオーズを追跡する。
だがエクスターナルフィンで飛行するオーズと違い、アクセルの飛行はどうにもぎこちなかった。
全身に設けられたブースターの制御は、全てアクセルの意思によって行われている。
しかし空中戦闘の経験がないアクセルは、なかなか自身が飛行するイメージを掴み取れなかったのだ。
だが、そんなことは関係なしに戦いは進行する。
オーズは充分な高度を得ると同時に、アクセルへと取って返し、メダガブリューを振りぬく。
その一撃に、まだ飛行に慣れないアクセルは反応しきれず、エンジンブレードで受け止め、あっけなく弾き飛ばされた。
「く、お……!」
同時にブースターも停止し、アクセルの体は落下を始める。
ブースターの制御がアクセルの意思で行われる以上、意識が向かなくなれば停止するのは当然だ。
アクセルは慌ててブースターに意識を向け、姿勢制御に集中する。
「オォオオ―――ッ!」
そんな隙をオーズが見逃すはずもなく、当然のようにアクセルへと襲い掛かる。
内心で舌打ちをしながらエンジンブレードを構え、ジェットによるエネルギー弾を乱射する。
だがオーズはあっさりと旋回して回避し、アクセルへと急接近する。
「ク……、ッ―――!」
即座にエンジンブレードでの防御を試みるも、間に合わない。
オーズは一瞬でアクセルの背後へと回りこみ、メダガブリューを振り上げる。
「ッ……………!!」
直後、オーズの背中が爆発し、その動きを一瞬止める。
その隙に背中のブースターを全開にし、オーズを吹き飛ばすと同時に距離を取る。
そしてオーズへと向き直ると同時に、爆発の原因を確かめる。
「どうした? アクセルよ。貴様の正義はその程度か?」
「ルナティック!?」
ルナティックはオーズの向こう側で、両の手から蒼い炎を噴射して滞空している。
その飛行は噴射口が両の手の平二箇所のみにも拘らず、今のアクセルとは段違いの安定を見せている。
「俺に質問を、するな!」
アクセルはブースターを全開にし、一気にオーズへと加速する。
それを見咎めたオーズも対抗するようにアクセルへと迫る。
お互いに相手へと飛翔する二人は、当然の如く一瞬で接近し、
「――――――!?」
オーズから驚愕の声が零れる。
自身と同様急接近していたはずのアクセルを、一瞬で見失ってしまったのだ。
《――JET――》
直後。側面からエネルギー弾に撃ち抜かれた。
見れば、いつの間にか距離をとっていたアクセルが、エンジンブレードの切っ先をオーズへと向けている。
「よし……!」
その確かな手応えに、アクセルは感得の声を上げる。
お互いに接近したあの瞬間、アクセルは側面のブースターを全開にし、急激な軌道変更を為したのだ。
「ほう。やるじゃないか」
それを見たルナティックが、感心したように呟く。
アクセルの行なった軌道変更は、ルナティックのそれに類似していた。
つまりアクセルは、ルナティックの飛行技術を参考にすることで、ブースター制御のきっかけを掴んだのだ。
“だが、この調子ではセルメダルが持たないな”
アクセルのセルメダルの残量はすでに半分を切っていた。
強化変身を果たした時点で、支給されていたコアメダルを使用しる。
だがジェットによる攻撃を繰り返せば、強化変身による消費量増加も相まってすぐに使い切ってしまうだろう。
“となれば、やはり接近戦しかないか”
前方のオーズを見据える。
あのオーズを相手に接近戦を挑む。それも、慣れない空中戦で。
その意味を、理解できないはずがない。
「………行くぞ」
その上で迷いを振り切り、ブースターを全開にして加速する。
それが勝利への道筋だというのなら、是非もなし。
アクセルはエンジンブレードを構え、オーズへと突撃した。
「終結の時だ」
同時にルナティックも加速して攻撃を開始する。
アクセルの軌道に合わせて大きく旋回し、オーズへと炎の矢を放つ。
当然放たれた矢は迎撃され、オーズに届くことはない。だが。
「ハア―――ッ!」
その迎撃の隙を突いて、アクセルが加速の付いた一撃を叩き込む。
「――――――ッ!」
オーズはダメージに仰け反り、地上へとセルメダルを零す。
それをルナティックが回り込んで回収しながら、再び炎の矢を放つ。
アクセルの一撃に若干ふらついていたオーズは、対処できずに蒼い爆炎に包まれた。
「ヴオォオオオ――――ッッ!!!」
だが、次の瞬間には咆哮と共に蒼い炎は吹き飛ばされ、いまだ健在なオーズの姿が現れる。
そしてルナティックへと向け、長大になったテイルディバイターを振り回した。
当然まともに食らうルナティックではなく、瞬間的に加速して回避する。
オーズはその間にアクセルへと急接近し、メダガブリューを叩きつける。
「オオォオ―――ッ!」
「グ、ゥウ………ッ!」
オーズの一撃をアクセルはどうにかエンジンブレードで防御するも、その威力に大きく弾き飛ばされる。
そこに止めを刺さんと、オーズはアクセルへと追撃をかける。
だがその瞬間、天へと奔る光の矢が、オーズの行動を妨害する。
見れば、地上にいるまどかが桃色に輝く弓矢を構え、オーズへと狙いを付けていた。
“すまない。感謝する”
内心で礼を告げ、改めてオーズへと視線を向ける。
オーズは今、まどかとルナティックの二人に放たれる矢に翻弄され、動きを止めている。
チャンスは今しかない。オーズが再び動き出す前に、今度こそ必殺の一撃を叩き込む――!
全身のブースターを全開にし、最大加速でオーズへと接近する。
同時にまどかとルナティックの攻撃も止まる。
それにより、アクセルの行動に気が付いたオーズも、今度こそアクセルを叩き潰さんと咆哮を上げる。
「オオオオオオ――――ッッ!!!」
「これで……終わりだァッ!」
《――ENGINE・MAXIMUM DRIVE――》
一瞬でゼロになる距離。
アクセルはオーズへエンジンブレードを、
対するオーズはメダガブリューを、
お互いが渾身の力と必殺の意志を籠めて、己が武器を振りぬき、
《――FINAL ATTACK RIDE・De De De DECADE――》
――――直前。
マゼンタカラーの極光に、諸共に飲み込まれた。
最終更新:2012年10月21日 15:20