第二回放送-起源覚醒- ◆qp1M9UH9gw


【1】


 第一回定時放送から六時間が経過した。
 予告通り、定時放送を始めさせてもらう。

 真木氏は多忙につき、放送に手が付けられない状況だ。
 故に今回は私――言峰綺礼が放送役を務めさせてもらおう。

 まず、この時点で死亡した参加者を発表する。
 前以て言っておくが、この内容に嘘偽りはない。
 全てが真実である事を、肝に銘じておくといい。


 以上十四名が死亡した。
 残り人数は三十三人、およそ半分の参加者が死亡したという事になる。
 この調子で参加者が減れば、ゲームの完遂までそう時間はかからない筈だ。
 真木氏に代わり、諸君らの更なる奮闘に期待させてもらおう。

 次に、禁止エリアを発表する。

【B-2】
【G-6】
【C-7】
【】

 真木氏が先の定時放送で述べた通り、指定されたエリアに踏み込んだ者は首輪を爆破される。
 現在の禁止エリアの状況を把握し、それに応じた戦術を練るのをお勧めしよう。

 次に、各陣営のコアメダル所持数を発表する。

 赤陣営が11枚。
 黄陣営が15枚。
 緑陣営が18枚。
 青陣営が8枚。
 そして、12枚を無所属が保有している。

 白陣営はリーダー喪失に伴い、陣営自体が消滅する事となった。
 承知しているだろうが、生還できるのは一つの陣営のみとなっている。
 現在無所属の参加者は一刻も早く他陣営に取り入る様、善処するように。

 最後に、追加ルールの発表を行う。
 各所にセルメダル用のATMがあるのは知っているだろうが、そこに一つ新機能が加わった。
 それは、諸君らが所持するセルメダルをアイテム等に交換する販売機能だ。
 武器,弾丸は勿論、メダルさえあれば重要な情報の入手も可能となっている。
 ただし、セルメダルは諸君らの力の源でもある。よく考えて利用するといい。

 以上で、定時放送を終了させてもらう。
 次回も六時間後の放送を予定している。
 諸君らの健闘に期待する。


【2】


 パチ、パチ、パチ、と。
 言峰の後ろから、渇いた拍手の音が響いてきた。
 つい先程まで使用していた放送器具に背を向けると、視界には言峰に勝るとも劣らない長身の男の姿が見えた。

「随分とつまらない放送だったね、どうして原稿通りに話さないんだい?」
「定時放送はあくまで情報提供の一環だ。過度に参加者を煽り立てる場ではない」

 あくまで冷静に、淡々と言峰はそう述べる。
 放送を担当しろと真木に指示された際、彼は専用の原稿を受け取っている。
 そこに書かれていたのは、参加者をあざけ嗤い、そして闘争に駆り立てる悪劣な演説だった。
 言峰がその文章通りに放送を行わなかったのは、その内容に不快感を覚えたからに他ならない。
 定時放送には私情を交えず、あくまで事務的に行うべきだというのが、彼の持論である。

「違うね綺礼、放送だからこそ、彼等を扇動するしなければいけないのさ」
「……仮にそうだとしても、あの様な悪意に満ちた文章など誰が――――」

 そこにきて、言峰はようやく気付く。
 あの悪意の羅列を紡げる男が、丁度自分の目の前にいる事に。
 彼こそが、この緑の王こそが、此度の放送の仕掛け人と見て違いない。

「アレを書いたのはお前か、緑の王」
「頑張ってみたんだが、気に入ってくれないようだね」

 肯定の言葉を示した後、彼は楽しげに笑う。
 その様はまるで、子の成長を見守る父親さながらであった。
 彼の父親でも血族でもない言峰は、その様子を前に目を細めた。

「君に放送に出ろと命じたのも私さ、良い退屈しのぎになると思ってね」

 言峰が緑の王に抱く印象は、最悪と言っても過言ではない。
 殺し合いなどという悪趣味極まりない催しを企画したという時点で、
 主催陣営は邪悪以外の何物でもないのだが、この男はその中でもよりわけ悪質だった。
 何しろ、たった一目見ただけで悪人だと本能的に理解させられる程に、"彼"の悪意は強大なのだから。

「……何故、私なのだ」
「それはどういう意味だい?」
「何故私を放送役に選んだ。それだけではない。私がこの殺し合いに関わる必要性はあったのか?」

 ずっと胸に燻っていた疑問が、思わず口から衝いて出た。
 此度のバトルロワイアル――の皮を被った聖杯戦争において、言峰は監督役の立場に置かれている。
 何らかの形で不正が行われた場合を考慮し、それぞれの王を監視するという役目を担っているのだ。
 だが言峰としては、その立場の必要性に疑問を禁じ得ない。
 何しろ、この聖杯戦争には既にインキュベーターという監視役が存在するのである。
 常時複数人の監視を行える彼等がいて、言峰の様な一個人がどうして必要となるのか。

 疑問はそれだけに留まらない。
 監督役という立場が必須だとしても、何故真木達は言峰綺礼をその位置に立てたのだろうか。
 もし聖杯戦争に詳しい存在を必要としたのなら、父である言峰璃正の方が適任だっだ筈だ。

「なるほど、君も疑問だったようだね」

 待ってましたと言わんばかりに、緑の王は笑う。
 そう問うのが当然かの様な態度を前に、言峰の頬に一筋の汗が伝う。
 この男の姿を視界に映していると、時折異様な威圧感に襲われるのだ。
 まるで人間以外の存在を、かといって死徒の様な化物とも違う何かを相手にしている様な感覚。

「知っているのか?」
「当然だとも。何しろ君を呼んだのは私なんだからね」

 答えを聞いた途端、言峰の眼が見開かれた。
 あまりにも分かりやすい愕然を顔に浮かべた後、

「なっ……何故だ!?何が楽しくてそんな真似を!?」
「私が君の本質を知っているからさ。君の奥底にしっかりと根付いた本質をね」

 見透かされた様な目線が、言峰を総身を射抜く。
 背中に冷や汗が流れ、心臓が早鐘を打ち出した。
 自身の奥底に潜む本能が、警鐘を鳴らし始めている。
 この男に関わってはいけないと。関われば最後、言峰綺礼という存在を根本から変えかねないと。

「痴れた事をッ!会って間もないお前に私の何が理解できる!?」
「そう怒るのが証拠さ。図星を突かれて動揺しているじゃないか、君は」

 無意識の内に檄を飛ばした事実に、言峰はようやく気付く。
 彼は隙間もないのに後ずさり、踵を放送器具にぶつけてしまう。
 そして、衝突音を合図にしたと言わんばかりに、緑の王は話を続ける。

「自分の中に潜む悪性を否定し、それ以外の愉しみを手にする為に命を賭してきた。
 だが諦めた方がいい。君が人間の娯楽如きで愉悦を掴むなんて、それこそ不可能なのだからね」
「ならば、どうしろと……ッ!?」
「簡単じゃないか。君の悪性を受け入れればいい」

 自分が禁じていた行為を、緑の王は容易く言ってのけた。
 その通りである。他でもない言峰が、それが近道である事を一番理解している。
 言峰綺礼という男は、幸福な結末よりも不幸な結末を望む男であるという事を。
 美しい物を美しいと思えず、醜悪な破滅に美を見出す存在である事を。
 自分の負の一面を取り込めば、今までこんな苦労などしなかったに違いない。
 だが、それを理解していたからこそ、彼はその悪性と戦ってきたのだ。

「馬鹿な!それこそ罰せられるべき悪徳だッ!唾棄すべき邪悪ではないか!」
「そうだとも、君は邪悪だ。私と同じ悪意の怪物なんだよ」
「同じだと!?どこにそんな証拠が――」
「なら逆に聞こうじゃないか。どうして君はこのゲームに参加したんだい?」

 投げられたその問いに対して、すぐに答えが出せなかった。
 聖杯戦争の監視役として参加した事に、特に深い理由などない。
 単に必要とされたから応えただけであって、それ以上の目的などありはしない筈なのだ

「我々の誘いを断る道もあった。だが君はあえてこの聖杯戦争に協力した。
 君は無意識の内に願ったのさ。この殺し合いを存分に愉しみたい、と」

 そうだろうと、と言わんばかりの言い分。
 それに反論をする事が、言峰には出来なかった。
 確かに、強制的に拉致された参加者側と違い、主催側は無理やり集められた訳では無い。
 その気になれば、殺し合いに関わるのを止める道もあった筈なのだ。
 緑の王は所詮屁理屈に過ぎない。聴くに値しない戯言である。
 だが、その聴くに値しない戯言に、言峰の脳は混乱させられている。

「綺礼、君は人間とは違う。人間の数倍の悪意を持って生まれた新種なんだ。
 君は私の盟に加わる資格がある。いや、最早運命と言ってもいい」

 扉のすぐ近くにいた緑の王が、放送器具の背にする言峰に近づいてくる。
 後ずさりしようとする言峰だったが、何故か身体は微動だにしない。
 半ば金縛りにあったも同然の状態のまま、彼は緑の王と相対した。

 黒い服装に黒い長髪、そして小さな髑髏が幾つも括りつけられたネックレス。
 彼の格好は、神父である言峰にある一つのイメージを浮かび上がらせる。
 地獄から現れ、無数の人間を堕落させてきた神々の宿敵――悪魔の姿を。

「私の仲間になりなさい、綺礼。そうすればきっと、君は全ての苦しみから解放される」

 そう言って緑の王が差し伸べた手を、言峰はまじまじと見つめる。
 この手を掴むという事は、それまで唾棄していた己の本質を認めるという事だ。
 神に仕える者として、それ以前に一人の人間として、そんな真似は決して許されない。
 しかし、そう理性で判断し、誘惑を拒絶しようとしても。
 言峰の手はさながら夢遊病患者の様に動き出し、目前の手を握ろうとしていた。

 この男には、他者の悪性を引き摺りだし、隷属させる才能がある。
 あの手を取れば、言峰の苦悩は残らず霧消するだろう。
 だが、それで良い訳がない。それを認めていい筈が無い。
 そう必死に目の前の悪意を拒んでも、言峰の身体はまるで言う事を聞かない。
 そのまま何かに縋る様に、彼の手は緑の王の元に――――。

「綺礼を誘惑するのはマズいんじゃないかな?」

 差し込まれた声は、緑の王の背中越しに発せられたものであった。
 それで我を取り戻した綺礼は、半ば反射的に伸ばした手を引っ込める。
 その直後、緑の王の肩にその身を乗せたのは、見慣れた獣の姿であった。

「彼は今回の聖杯戦争の監督官だ。君の手中に収まると均等が保てなくなる」
「誘惑……何の事かな?私はちょっとからかっただけさ」

 悪ふざけをした子供の様な、屈託のない笑顔。
 しかし、その身から放たれるのは、人間を超越した莫大な悪意。

「余計な時間を使わせてしまったね、綺礼」

 自分の持ち場につきなさいと言い残し、緑の王は踵を返す。
 彼の肩に乗ったインキュベーターも彼の肩から飛び降り、そのまま出口に向かう。

「ああ、それと。君が中立な監督役を続けるつもりなら、海東純一には警戒しておきなさい。
 私にとってはどうでもいい羽虫同然だが、君にとっては重大な反逆者だからね」

 そう言い残し、緑の王はインキュベーターと共に部屋を後にした。
 一人残った言峰は、王に隷属しようとした自身の手を、焦燥交じりに見つめている。
 彼をその様な状態にさせているのは、他でもない自分が催した感情への困惑だった。

「……そんな、馬鹿な」

 認め難い、しかしその身で体感した事実である。
 それ故に、言峰は自身に疑念を向けずにはいられない。

 あの瞬間、"彼"の手を握ろうとしたあの時。
 これまでにない程、自らの魂が高揚していた事に。


【3】


 自室のモニターを眺めながら、緑の王は一人考える。
 言峰綺礼にどう接すれば、自らの囲いに取り込めるのかを。

 彼はもう既に、言峰綺礼の願いの顛末を知っている。
 あの男が他者の絶望を啜る外道になり果てる事は、最早確定事項だ。
 幾つもの邂逅を重ねた後、彼は新たな種族に進化するのである。

 だが、彼と会話を交わした言峰は、その"幾つもの邂逅"を経験していない。
 己が本質に未だ苦悩を続け、愉悦の何たるかを理解していない哀れな求道者だ。
 幾つもの監視の中で彼を導いてやるのには、少々骨が折れる。

(しばらくは愉しめそうだがね)

 言峰が本質を受け入れるまでに、誰が絶望し誰が死ぬのか。
 今は欲望の大聖杯の行方より、そちらの方に興味があった。
 緑の王からすれば、欲望の大聖杯など所詮おまけに過ぎないのだ。
 聖杯戦争という蠱毒の中で、絶望の中で死に絶える人間を鑑賞するのが、彼の一番の楽しみなのだから。

(そういえば、インキュベーターが面白い事を言っていたね)

 ふと、インキュベーターの言葉を思い返す。
 「言峰が中立で無くなると、聖杯戦争の均衡が保てなくなる」という彼の発言。
 何を馬鹿げた事をと、緑の王は心中でほくそ笑んだ。
 この聖杯戦争は端から平等ではないというのに、今更何を言っているのか。

 コアメダルの量に差が出ているのが、不平等の根拠だ。
 本来何の効力もない筈の800年前のタトバ――即ち10枚目のコアが強大な力を有し、
 アクシデントの都合とはいえ、スーパータトバのメダルまでもが会場に散乱している。
 これらの共通点は、どちらも赤、黄、緑のメダルの三種しか存在しないという所だ。
 逆に言えば、白陣営と青陣営には10枚目のコアもスーパー系のコアも与えられていないという事でもある。

 参加者の人選から見ても、10枚目のコアを持たない二陣営には不遇な点が目立つ。
 青陣営には愚かにも他陣営の為に行動する参加者が複数おり、白陣営に至っては復讐鬼とその標的が同じ括りに入っているのだ。
 協力が必須の状況でこの有様では、二陣営が早期に脱落するのは無理も無い話である。

 欲望の大聖杯の大元となった冬木の聖杯は、セイバー,アーチャー,ランサーの三騎士が優位に立てるシステムだった。
 最初に聖杯を呼んだ御三家を勝たせる為の処置であり、他のクラスはそれらの当て馬と言ってもいい。
 言ってしまえば、赤、黄、緑の三陣営がその三騎士に相当し、残りの二つはその他のどうでもいい陣営も同然なのだ。

 コアの枚数や参加者から透けて見える、特定陣営へのえこ贔屓。
 この事実から生まれてくるのは、欲望の大聖杯が冬木の聖杯を模倣している可能性だ。
 もしやあの聖杯は、"元にした"などという次元ではなく、冬木の聖杯の特徴をそのままコピーしているのではないのか。
 そうだとすれば、格陣営の不平等な境遇にも納得ができてしまう。

 そして、欲望の大聖杯が冬木の聖杯をトレースしていたのであれば。
 もしかしたら、あの聖杯の中に潜む"絶対悪"も再現しているのではなかろうか。
 もしそれが産声を上げたのなら、世界に齎されるのは間違いなく――。

 知らずの内に口角が吊り上がり、頬も緩む。
 後に起こり得る全ての悲劇に思いを馳せ、心を躍らせる。
 悪逆を生き甲斐とする男に、嘆きと絶望の舞台ほど高揚するものはない。

「楽しい。こんなに楽しいのは久しぶりだ」

 彼は――"絶対悪"シックスは、クツクツと嗤い出す。
 今頃、海東純一はどんな手段を使って王に成り代わろうか思案しているのだろう。
 無い知恵を必死に振り絞って、背後にいるであろう協力者と水面下で活動しているに違いない。
 自分が裏切りを働いている事など、真木にすらお見通しだというのに。

「せいぜい足掻きなさい。そうすればきっと、綺礼の次くらいには長生きできるかもしれない」

 "人間"を生きて返す気など無いのだがね、と。
 唯一の新種は、再びモニターに意識を集中させるのであった。


【0】


 何故、緑の王はシックスとなったのか。
 何故、青の王は篠ノ之束となったのか。
 邪悪の名に相応しい悪である両者を、聖杯は何故選んだのか。

 確証はない。所詮は可能性の物語。
 だが、当てが外れる確立もゼロではない。
 聖杯の奥底に、誰もが知らぬ魔が潜むという事実に。

 駒も、王も、まだ誰も気付いていない。
 彼等のすぐ傍で、巨大な悪意が芽吹きだしている事に。
 その芽が花を咲かせた時、絶望だけが世界を食い潰すのだ。

 盤面に残された駒の数は33。
 舞台から零れ落ちる砕けた駒、それを受け止めるのは何者か。
 万物を救済する黄金の窯か。あるいは、万物を破壊する漆黒の窯か。
 積み上がる欲望の果てに、王はその瞳に何を写す――――。





          ――――またどこかで、メダル《欲望》の散らばる音がする――――




【シックス@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】緑・裏リーダー
【状態】健康、左手の甲に令呪(緑)保有
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】不明
【道具】不明
【思考・状況】
基本:この殺し合いを愉しむ。
 1:海東純一とその協力者が足掻く様を見届ける。
 2:"新しき血族"の素質を持つであろう言峰に期待。
 3:可能であれば欲望の大聖杯を入手しておく。
【備考】
※欲望の大聖杯が冬木の聖杯の特徴をトレースしているのではないかと推測しています。

【言峰綺礼@Fate/zero】
【所属】不明
【状態】健康、シックスへの不快感、高揚?
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】不明
【道具】不明
【思考・状況】
基本:"欲望の大聖杯"を巡る聖杯戦争の円滑な進行。
 1:与えられた任務をこなす。
 2:自分の本質を認める訳にはいかない。
【備考】
※第四次聖杯戦争開幕前からの参戦。
※自身が本来の時間軸で悪性を受け入れる事を知りません。

※主催陣営にシックス@魔人探偵脳噛ネウロの存在が確認されました。また、シックスは緑陣営の裏リーダーです。
※主催陣営に言峰綺礼@Fate/zeroの存在が確認されました。主催側の監視を主な任務としています。
※ATMに売店機能が実装されました。今後はATMにてセルメダルをアイテムや情報に交換できます。


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最終更新:2015年02月11日 11:16