“冤罪の”ドッゲル

変身能力を得意とする魔族の男。故人。

直接的な戦闘力は低いが、幻惑と変身魔法を組み合わせて様々な人物に成りすます事を得意とする。
そして対象となった人物の姿で悪事を働き、これまでに数多くの高名な冒険者や権力者が失墜させられていったと言う。



ある日、とある街の旅人や商人が並ぶ正門前で悲鳴が上がった。
その場に居る誰もが悲鳴の発せられたであろう方向に目を向ける。
すると其処には、勇者候補の一人として有名になりつつあるプレヤーが魔物の群れを率いて人々を襲う姿があったのだ。

プレヤーは邪悪な哄笑を上げつつ、人々にこう告げた。
『下等な人間は勇者たる自分によって支配されるのが相応しい』…と。

直後、プレヤーの繰り出す魔物達から逃げ惑う人々。
だがそんな人々の奔流をかき分けるように、一人の黒いフード付きローブを纏った小柄な人物が無言でプレヤーへと歩み寄ってゆく。

それはローブを纏っていても分かる、華奢な体躯の少女であった。
しかしプレヤーは変わらず見下した笑みを浮かべ、手頃な獲物が現われたと魔物をけし掛けるが―――。

次の瞬間、少女から激流の如くな魔力が溢れ出したのである。

明らかに常人の域を超えた魔力量。
小柄な見た目からは考えられない程の威圧感に竦む魔物とプレヤーに向けて、少女はフードの下から恐ろしい程の冷たい眼差しを向ける。
刹那、少女が付きだした手の平から黒弾が放たれ、まるで殴りつけるかの如くプレヤーを吹き飛ばしたのだ。

何が起きたのか、プレヤーには知覚すら出来なかった。
彼の身体は崖から蹴落とされたゴミの如く転がりながら数十メータル先の岩に激突してようやく止まり、直後に矢継ぎ早に放たれた二本の黒槍によって両腕を貫かれる。

こうして岩に磔状態となったプレヤー。
同時、彼が身に纏っていた『幻覚の魔法』が解けはじめた。
そこに居たのは勇者候補のプレヤーでは無く、苦痛に叫ぶ魔族『ドッゲル』であったのだ。

『化ける相手を間違えましたね』

静かな怒りを込めて呟きながら、先ほどまで自分が操っていたはずの魔物を従えて歩み寄る少女。

『この世で最も穢してはいけない人を侮辱した報いです』

短い一言の直後、殺到した魔物達によってその身を貪り食われドッゲルは絶命した。
そして少女は一部始終を遠巻きに見ていた民衆の視線に気付くと、そそくさと魔物を引き連れてその場を立ち去っていったと言う。


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最終更新:2024年03月03日 00:50