東ギールシクリヒト大陸北部のとある廃墟で回収された手記。
誰が書いたかも定かではない。おそらく兵士だった人間と思われる。
このような手記は各地で発見されており、これはその一つ。
【内容】
数十年前のこの日、我らの
故郷が奪われた。
人ならざる者共がこの地を我らから奪ったのだ。
奴らは古の時代にここを国としていた者の後継者を名乗り、
獣の如き力を持つ半人の
傭兵と蛮族共を引き連れて我らを殺戮した。
奴らがこの地を支配下に置くと、残された人々は故郷を追われる事となった。
我々と共にこの故郷に住んでいた、人ならざる血を引く者共を除いて。
奴らだけは、この地に留まることを許されたのだ。
大変な数の人々が散り散りになった。
当時私は子供だったが、母からは故郷の美しい街のことを聞かされた。
その街に浮かぶ月は、なおさら美しかったことも。
しかしその時の私は幼すぎてそれを覚えていなかった。
だが数十年の時を経て、私はその美しいという故郷の目前に迫ることになったのだ。
人々の団結を信じる教えを聞いた我々に、故郷を取り戻す想いが高まった。
そして各地に散らばった人々が集まった。
故郷を取り戻すために、
戦いを起こしたのだ。
多くの人と同じように、私もその戦争に参加した。
故郷の出身ではない者もその中に含まれていた。
だが人に対する愛と団結のために参加した彼らの遺志はこの国の民の心に永く刻まれるだろう。
戦いは壮絶を極めるものだった。
戦場では敵味方が常に入り乱れ、互いの死傷者も数知れないものとなった。
先の見えない戦いに明け暮れる日々だった。
やがて、故郷の街へと進軍する時が来た。
そこでの戦いは一層激しいものだった。
この戦いを私は一生忘れない。
生涯この戦いの悪夢を見るだろう。
その戦いで古くからの私の友も、血に塗れながら死んでいった。
わずかにその後、敵が逃れて行くのが見えた。
故郷の街から敵が、逃れていったのだ。
私はふと、空を見上げた。
雲一つない夜だった。
そこに浮かぶ三日月がとても美しかったことを覚えている
まるで、荒んだ私の心を慰めるかのように。
それから間もなく、戦争は終結した。
・・・やがてこの時代の生き証人も消えるだろう。
しかし、私は確かにそこに居た。
この目で見た。
あの月を・・・。
関連
最終更新:2025年07月25日 11:43