とある商会主の手記

私がリスリー氏と初めて出会ったのは十歳の頃、父が経営していた雑貨屋で店番をしていた時である。
彼はこの町の近く、ドレッド山脈にあると言う古代宗教の遺跡を調べていると言っており、食糧や道具類をよく買っていってくれるお得意様となっていた。

そんなある日、博士は遺跡荒らしのゴロツキ集団に追われて店に飛び込んできた時があった。
博士に「何か武器をくれ!」と言われた私はとっさに直前の客から安く買い取ったばかりの年代物な鞭を投げ渡したのだ。
鞭を受け取った博士はソレを巧みに扱い、直後に店に乗り込んできたゴロツキどもを一瞬で無力化させた。
そしてその鞭を気に入ったのか、博士はかなりのいい値段で鞭を買って行ってくれたのである。

あれから数十年。
私は父から受け継いだ雑貨屋を小さいながら商会にまで発展させ、そろそろ同じ道を進んでくれた息子に継がそうと考えていた。
そして店番をしていた頃の気持ちを思い出す為に久方ぶりに店頭に立ち、客を待っていたその時に私は再び博士と再会する。

博士はあの時と姿が全く変わっていなかった。(多少の日焼けなどはあるが)
聞くと祖先のどこかでエルフドワーフの血が入っているらしく、なんだか長命との事らしい。
ちなみに今の年齢を聞くと、すでに百を超えているとの事。
世の中には不思議が溢れている。
そして商人とは冒険者の次に不思議と出会いやすい職業だと再認識した日であった。

追記
ちなみにあの日、博士が買ってくれた鞭だがいまだに愛用していてくれているようだ。
その鞭はドラゴンの素材が使われていると分かったので博士はその分の追加料金を払おうとしてくれたのだが、私はそれを断った。
鞭は自身を使いこなす人物と出会っただけであり、私はその仲介をしたに過ぎないのだから。


関連



最終更新:2025年07月25日 11:15