スラッグ事変

今より数十年前、オートデザイス王国で発生した事変。
外海より侵入した深緑色の巨大ナメクジ『デグラデーター』の群れに対する大規模戦闘。

ノースエンド近郊の海中から突如現れ上陸した巨大ナメクジ群は周辺の魔物や動物を喰らい尽くしつつ、無数の卵を産み落としてその数を増やしながら王都方面へと南下を開始。
ノースエンドの防衛隊や冒険者総出による迎撃は行われたものの大群相手には焼け石に水で、甚大な被害を出しつつ炎の壁や凍結による遅滞戦術を行うのがやっとであったようだ。

一報を受けた王国議会は外海生物侵入と言うこの事態に対して軍の他、最精鋭の魔法兵団の派遣を決定。
普段からは考えられないような素早い協議の末に殲滅計画が練られ、作戦の第一段階として遅滞戦闘中のノースエンドの残存部隊や冒険者に島中央の平原まで群れを誘導するよう伝えられたのである。

数日に及ぶ誘引作戦は少なくない被害を出しつつもなんとか成功。
釣り出されたナメクジの群れは平原中央付近に仕掛けられた捕縛結界によって一網打尽に。
待ち構えていた魔法兵団が限界まで高威力な爆撃魔法を与えつつ、結界要員は障壁の一部に抜け穴を形成。
逃げられない中に突然現れた抜け道にナメクジ群は殺到し、更なる罠へとはまる事になる。

ナメクジ達が逃げ込んだ先に仕掛けられていたのは、国が保有する高等級魔石の約半分を投入し形成された死地。
爆撃魔法によって幾らか減った群れは逃げ込んだ先で新たな結界に閉じこめられ、それと同時に地面が広範囲に陥没。
それは直径にして千メータル、深さが百メータル近くに及ぶ、大地の上位精霊によって作られた巨大な落とし穴であった。

そしてその穴の底で待ち構えていたのは、一体の炎の下位精霊と大量に敷き詰められ積み上げられた魔石の山。
全てのナメクジが地の底に落ちてきたのを確認した炎の下位精霊が、その力を発現する。

生じたのはナメクジ相手には火傷一つ負わせられない、あまりにも小さな火花。
もしもナメクジ達に人間的な意識があったとしたら、あざけ笑うような感情が芽生えたであろう。

だが次の瞬間。その小さな火花を吸い込んだ魔石の一つが一気に燃え上がった。
穴の底に敷き詰められていた魔石は、その全てが高純度の炎のマナが封じ込められたもの。
魔石から燃え上がったマナの炎は隣の魔石を燃え上がらせ、次の魔石へ、そしてさらに次の魔石へと連鎖的に。

瞬く間に穴の底は想像を絶する炎の地獄と化してナメクジ達を飲み込んだ。
多少の炎や凍結すら弾くナメクジの表皮であっても、まるでアルディナの火口の如くな岩をも溶かす炎熱の渦に耐えられる訳も無く…。

こうしてオートデザイスは保有していた魔石の大量喪失という代償を払いながら、後年スラッグ事変と名付けられた戦いは終結を迎えたのである。



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最終更新:2025年09月17日 19:00