繁栄と有限の対価

何かを得る為には何かを犠牲にする、あるいは対価として何かを支払わなければならない。
これはどの世界においても共通の真理である。
だが、その対価として支払うものが生命維持の根源でもある「食糧」であったなら…。

私の友が『自分は異世界人である』と打ち明けたのは今から数ヶ月前の事だ。
彼が出自を打ち明けるに至った理由は、ここ数年におけるロンデ王国の急速な産業化にある種の危機感を感じたのがきっかけだという。

彼の居た世界は科学技術の発達した世界であったらしいが、その技術を動力の方面で支えていたのは穀物であったとの事。
手法そのものは決して突飛なものではなく、穀物を発酵させて酒(但し飲用に適さない醸造酒)を作り、それから更に蒸留を繰り返して濃度を上げ燃料に用いるというものであった。

手段そのものは成程と思わせるが、彼が言うには『世界中の機械を休みなく駆動させる為には人間の消費する量よりも遥かに多くの穀物を必要とした。人々が必要とする分まで機械の糧に回さなければならない程に』だったそうだ。

そんな事をせずとも『石炭を動力源にすればいいのでは、現に今のロンデは石炭の力で動いていると言っていい』と、ある意味当然の事を口に出してみた。
すると『我々の世界でも石炭や石油を動力としていた。だがこれらは星をひたすら過熱させ、何より埋蔵量にも限りがあった。故に自然の営みを応用し、かつ後始末も自然に任せる事の出来る清廉な燃料を創り上げた』との事である。

しかしその代償は決して小さいものではなかったようだ。
穀物の多くが動力に回される事により、地域によっては食糧の奪い合いで戦争が起きる事も珍しくなくなった。それどころか穀物を動力にしようと発案し先導したカンパニィ(商人ギルドに相当する組織らしい)が戦争を主導するようになっていったとも彼は語った。

「何事も進むのには勇気がいるが、立ち止まるには更に強い勇気が必要になる。時には立ち止まる勇気も必要だ。人間の手で出来るものは人間の手でやるのが一番いい筈なのだ」

それが、彼の持論の一つである。
生活を豊かにする科学技術で人々を困窮させるのは本末転倒だ。
ロンデが間違った道を進まない事を祈りたい。


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最終更新:2024年08月23日 09:15